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情報の非対称性④(企業の理想的な採用活動②)

前回、採用活動において、自己選択メカニズム(情報を持つ側に、自ら情報を開示するような行動をとるように仕向ける仕組み)を設けることの有効性について取り上げました。

今回は、それに沿っていくつか例をご紹介したいと思います。

 

■応募にあたってのハードルを高くする

 

『道端の経営学』(マイク・マッツェオ、ポール・オイヤー、スコット・シェーファー著/ヴィレッジブックス)から、2つ例を取り上げます。

 

地方でボーリング場を運営するある中小企業は、欲しい人材を、選考にかかわる手間ヒマを削減して採用するために、履歴書を郵送やメールではなく、会社に持参してもらうことにしました。熱意のない人材はそれくらいの手間でも面倒がって応募しないし、逆に熱意のある人材なら手間を惜しまないだろうというわけです。

 

吹流し製造業のある中小企業では、外部の協力スタッフの採用に当たり、「報酬は歩合制であること」「厳しいトレーニングを事前に2週間受けてもらうこと」の2つの条件を化課しました。こちらもやる気のない人材をスクリーニングする仕掛けです。

 

外部の協力スタッフの募集にあたり、有料のトレーニングを課す場合がありますが、これは自己選択メカニズムを利用した募集活動といえます。

 

 

■相応しくない人材には自らお引取りを願う

 

アメリカのネット通販会社ザッポスでは、「顧客に謙虚であれ」を理念に掲げています。新入社員には4週間の研修プログラムが設けられており、徹底的に理念の浸透が図られます。

 

ザッポスでは、理念に合わない従業員を排除するために、研修機関中にすべての新入社員に対して、「今すぐ退職すれば2000ドルを支払う」という申し出を行います。2000ドルといえばたいした金額ですが、目先の利益を追うような人間は自社に相応しくないというわけです。また、相応しくない人材に高い人件費を支払い続けるのは自社にとっても割高だという判断です。これも相応しくない人材が自ら退職を名乗り出るような自己選択メカニズムといえます。

 

 

■応募者に自己選択を促すステップ

 

「道端の経営学」では、応募者に自己選択を促すステップには、次の3つがあるといいます。

 

  自社が欲しい応募者のタイプを明確にする

  応募して欲しくないタイプには魅力がなく、応募して欲しいタイプだけが魅力を感じるような職務設計をする

  求人広告か面接などのできるだけ早い段階で、仕事内容を正確に伝え、好ましくないタイプに自己選択を促す

 

 

【参考】

『道端の経営学』マイク・マッツェオ、ポール・オイヤー、スコット・シェーファー著 ヴィレッジブックス

『顧客サービス戦略』フランセス・フレイ、アン・モリス著 日経BP

 

情報の非対称性③(企業の理想的な採用活動)

前回、情報の非対称性が存在する場合の対応として、自己選択メカニズム((情報を持つ側に、自ら情報を開示するような行動をとるように仕向ける仕組み)を取り上げました。

情報の非対称性の例としては、労働市場があります。今回は、労働市場における自己選択メカニズムについて取り上げます。

 

 

■採用過程は自己選択メカニズム

 

雇う側(企業)と求職者(労働者)側には、大きな情報の非対称性が存在します。労働者は自らの意思や熱意、能力について知っているわけですが、企業側はそれらを知りません。企業側はどうすれば自社にふさわしい能力や熱意を持った人間を採用することができるでしょうか。

 

一般的に行われる採用活動では、まずエントリーシートを提出させ、数回の面接を経て採用に至ります。これは採用側が複数の目で応募者の能力や入社意欲を探るということ以外に、応募者が採用過程を通過するための手間ヒマを惜しまないか試すねらいがあります。

 

入社意欲が高い人なら、採用に至るまでの段階が多くても、それを乗り越えようとするでしょうし、逆に入社意欲が低い人はそれだけの手間暇はかけようとせず、勝手に途中で脱落するはずです。

 

 

■熱意と能力がある人だけに応募してもらう

 

つまり、企業の採用過程は、労働市場における自己選択メカニズムとして機能しているわけです。

 

現在、完全失業率は2.4%(6月)と歴史的にみても低水準で、小売や飲食など一部の業種では人手不足感がでています。よく「経験がなくても歓迎」「明るい職場です」「明るい方希望」などといった募集広告を見ますし、採用活動自体が面倒なのか採用過程が簡便なケースも多いように思えます。採用過程における自己選択メカニズムを考えると、適切な内容とは言えないのではないでしょうか?

 

場合によっては応募者が増えるかもしれませんが、結局はすぐやめてしまい、またコストをかけて募集活動を繰り返すという悪循環に陥るハメになるだけです。

 

そうであれば、むしろ採用に至るハードルを高くして、自動的に求職者を振るいにかける(入社意欲が低い人は応募しない)工夫をしたほうがよいのではないでしょうか?たとえば、「当社は○○といった人材を採用する」といったことを明確にしたり、応募にあたって小論文を提出させたりといったことです。

 

企業の人事部門では、例年の応募数をベースに、「今年は応募数何%アップ」といったように、応募数を目標値化する傾向がありますが、はっきりいってナンセンスだと思います。能力も熱意もない応募を集めても意味はないでしょう。

 

仮に1人だけ採用したいなら、究極の理想は、「入社意欲が高くこちらの要件を満たす応募が1人だけの状態」です。人事部門の目的は「必要な人材を確保すること」という点を意識したいところです。

情報の非対称性②

前回、情報の非対称性(取引を行う際、商品等に関して当事者がもっている情報に当事者間で格差があること)を取り上げました。情報の非対称性が存在すると、レモン問題(質が悪いものばかり出回る)の結果、市場取引が行われなくなる可能性があります。

レモン問題の解消策として、代表的なものにシグナリングと、自己選択メカニズムがあります。

 

 

■シグナリング

 

情報の非対称性があるから問題が生じるのであれば、情報の非対称性をなくすことが解決の第一歩です。たとえば買い手側に商品の品質に関する情報が乏しいのであれば、売り手側から情報を公開するということです。

 

中古車でいえば、中古車ディーラー側が消費者の不信感を払拭するために、売り物の中古車の情報を細かく開示する、品質保証をつける、返品制度を設けるといったことです。

 

情報の非対称性があるかぎり、ビジネスとして成立しなくなるのですから、それを解消しようというわけです。

 

情報を持っている主体が、持っていない主体に対して、自ら情報を伝えようとすることをシグナリングといいます。

 

 

■自己選択メカニズム

 

自己選択メカニズム(スクリーニング)とは、情報を持つ側に、自ら情報を開示するような行動をとるように仕向ける仕組みのことです。

 

保険料を例にします。保険会社が2つの保険商品を用意します。1つは、「保険料は安いが医療費の一部は被保険者(保険加入者)の自己負担とする保険商品」、もう1つは、「保険料は高いがすべて保険でカバーするという保険商品」です。

 

この場合、健康な人は前者を、病気がちな人は後者を選ぶ可能性が高いです。言い換えれば加入者がどちらの保険を選ぶかでその人の健康について情報を引き出すことができるのです。

 

 

■市場メカニズムにどう乗せるかがポイント

 

市場メカニズムが上手く機能しないことを、市場の失敗といいます。情報の非対称性は、市場の失敗の典型的なケースです。

 

市場メカニズムを機能させるためには、取引当事者が取引する財(モノ・サービス)について、十分な情報を持っていることが前提です。シグナリングも自己選択メカニズムにせよ、市場を上手く機能させるための仕組みといえます。

情報の非対称性①

■情報の非対称性

 

自分と他人ではもっている情報の量が異なります。取引を行う際、商品等に関して当事者がもっている情報に当事者間で格差があることを、情報の非対称性といいます。典型例としては、中古車売買において、売り手(ディーラー)は買い手よりも、当然、売り物である中古車の状態について熟知しています。

 

情報の非対称性が存在すると、市場取引がうまく機能しなくなります。中古車ディーラーには、状態の悪い中古車を偽って高く売りつけようとするインセンティブがあります。しかしながら、消費者側も「もしかしたら自分は騙されるのではないか」という疑心暗鬼が生じますから、誰も中古車を買おうとしなくなります。中古車について悪いイメージが付くと、実は状態がよい中古車であっても、消費者側に疑心暗鬼があるので、誰も中古車を買おうとしなくなります。

 

つまり、情報の非対称性が存在すると、市場取引がなくなるおそれがあるのです。中古車ディーラー側は、どうせ状態がよい中古車でも、消費者は高い値段で買ってくれなくなるので、騙されても消費者側に痛手が少なく買ってくれる可能性がある状態が悪い中古車しか販売しなくなります。情報の非対称性が存在すると、質が悪いものしか出回らなくなることをレモン問題といいます。

 

 

■保険業界のレモン問題

 

中古車以外にレモン問題の典型例として挙げられるのは、保険業界です。保険会社はどの人が健康な人かは分かりません。よって、平均的な人を基準にして保険料を算定します。その平均的な保険料は、健康な人から見ると割高であり、健康でない人から見ると割安となります。

 

したがって、健康な人は契約しない一方、健康でない人は喜んで契約しようとします。この結果、健康でない人ばかりが保険に入るということが起こりえます。

外国人労働者受け入れは増やすべきか?②

■労働力不足は設備投資を促す

 

日本人労働者の不足は、何も産業界にとって悪いことだけではありません。日本人労働者の賃金を上げればそれだけ日本全体で消費が増え、企業の名国売上・利益が増加する(デフレから脱却する)からです。

 

また人手不足は、企業の積極的な設備投資を促します。日本の人手不足は高度経済成長時代から言われており、旧西ドイツが移民政策をとったのに対し、日本は省力化投資をとってより高い経済成長を成し遂げました。

 

また、80年代の円高、人手不足でも、世界でいち早くFA化に取り組み、生産性を向上させてきたのです。

 

 

■日本の生産性が低いのは?

 

デフレ下においてはこれが逆回転します。

 

日本生産性本部によると、2000年に1位だった日本の製造業の名目労働生産性は14(2015)でしたが,これは雇用が維持される一方,長引く景気低迷で製造業の開発投資や設備投資の意欲を減退させた面が大きいでしょう。

 

サービス業では,1位のアメリカの半分以下で,特に卸・小売業は30%程度に過ぎないともいわれています。日米の商文化上の違いもあるでしょうが,これも長引くデフレが大きな原因だと考えられます。いくらでも安い賃金で労働力を確保できたので,省力化          投資を進めるインセンティブが働かなかったからだと思われます(そのツケが人手不足感のある現在に回っています)。

 

安易な外国人労働者の受け入れ拡大は、日本人労働者の賃金の伸びを抑え、設備投資が進まず、生産性が低迷したままになりかねないということを意識する必要があります。

 

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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