fc2ブログ

公共投資の意思決定―川辺川ダム中止は正しかったのか?①

少し前になりますが、7月,九州の記録的な豪雨により球磨川が氾濫し,甚大な被害が生じました。これを受け,旧民主党政権下で事業中止が決定した川辺川ダムについて,「ダムがあれば河川の氾濫を防げていたのではないか」といった議論が出ました。

財政再建という掛け声のもと,何かと公共投資は槍玉に挙がっている。これに旧民主党時代の「コンクリートから人へ」というスローガンが加わり,脱ダムに拍車がかかりました。はたして,公共投資は悪なのでしょうか?

 

■基本はコストベネフィット分析

 

投資の意思決定の基本は「投資額(コスト)を上回るだけの収益があがれば投資する」という実にシンプルなものです。公共投資では,これを「コストベネフィット分析」(B/C分析)といいます

 

コストは初期投資額やその後の費用であり,ベネフィットはそこから得られる便益です。公共投資の便益には,収入やその公共投資によって節約できた費用,抑えられた損失の額が該当します。

 

たとえば,高速道路であれば,「一般道と比べてどれくらい移動時間が短縮され,その結果,どれくらい利益が増えるのか」(≒短縮時間×時間当たり付加価値額×移動人数)で積算可能です。

 

B/Cの割合が1を上回る投資案であれば,すべて採択されるのが合理的な意思決定です。そこに財源論は存在しません。借金して資金調達してもそれを上回るリターンがあり,回収できるからです。

 

 

■より精度が高いNPV法で考える

 

より精度が高い意思決定をするには,さらに現在価値を考慮します。正味現在価値法(NPVNet Present Value)について簡単に説明します。

 

まず,現在価値とは,将来に発生する値を現時点での値に割り引いて換算したものです。たとえば,金利が年5%の場合,現時点での100万円は,貯金しておけば1年後に105万円となります。言い換えると,1年後の105万円の現在価値は100万円になります〔105万円÷(1+割引率)〕。割引率には資金の調達金利を用います。

 

正味現在価値法の基本は,次のとおりです。

正味現在価値

①各期のキャッシュインフロー(現金ベースの儲け)を求める。

②①の現在価値(現時点での価値)を求める。

③「②-投資額」で正味の現在価値を求め,値がプラスであれば投資するし,マイナスであれば投資しないという意思決定をする。

 

【参考】

・国土交通省『公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針(共通編)』

・高橋洋一著『日本の大問題が面白いほど解ける本―シンプル・ロジカルに考える』光文社新書

人は話し合いでも最初の意見を変えない(隠されたプロフィール)

ステイサーとタイタスは、4人からなる大学生の集団を作って、学生自治組織の会長を選出するために話し合いをする状況設定のもとで実験を行いました。少し単純化して説明します。被験者である学生たちには、会長にふさわしい長所が、Xには8つ、Yには4つあると伝えられています。80名程度の学生たちはそれぞれ4名のグループに分かれます。

 

<条件1>

被験者の学生たちには、X8つの長所を持ち、Yには4つの長所を持つことが知らされる。投票結果は、X67%、Y17%でした。Xが長所の数で最も多いのですから当然といえます。

 

<条件2>

Xの持つ8つの長所については2個ずつ4人のメンバーに分散して与えたのに対して(各メンバーはそれぞれ異なるXの長所を2つしかしらない)、Yの持つ4つの長所は4個すべてを4人全員に与えた。メンバーはXの長所は2つしか知らされていないのでYへの投票が61%で、Xへの投票は25%でした。

 隠されたプロフィール

<条件3>

条件2のもとで、グループ内で話し合って投票するように指示しました。話し合いにより、各メンバーは、X氏が本当は8つの長所があることを知るので、投票率は条件1と同様にX氏のほうが高くなると考えるのが妥当です。しかしながら、結果はY氏が75%、X氏が20%と少ないままでした。

 

ステイサーたちは、話し合って情報を交換しても、最初に与えられた情報に基づいた選択をする者が多かったことを指摘し、Xの持つ多くの長所は隠されてしまったのも同然であると考え、こうした現象を「隠されたプロフィール」と名づけました。

 

なぜそのようなことになるのでしょうか?人は、もともと持っていた知識や情報は重視しがちで、直前に入ってきた新たな情報については軽視してしまう傾向が強くあるのです。先の実験の条件3では、最初に知らされた「Xの長所は2つ、Yの長所は4つ」という情報が重視されてしまい、話し合いで交換された情報の方は軽視されてしまったと考えられます。

 

【参考】

『産業・組織心理学 改訂版』山口裕幸、髙橋潔。芳賀繁、竹村和久著 有斐閣

 

私たちはどうやって1つの選択肢を選ぶのか?⑧

■低関与品の購買は陳列のあり方に影響を受ける

 

消費者の決定方略は、属性数や選択肢数だけではなく、意思決定者がどの程度、その購買決定に心理的に関与しているかということからも影響を受けます。

 

消費者は、こだわりの製品だと関与が高くなって、補償型の決定方略を採用しやすいが、こだわりの低い関与の低い製品だと非補償型の決定方略を採用しやすいのです。したがって、住宅や自動車のような高関与製品の場合は、消費者はいろいろな情報をすべて検討して購買意思決定をしやすいですが、清涼飲料水などのように低関与製品の場合は、あまり情報を検討することなく、店頭の陳列のあり方などに影響されて購買意思決定をしてしまいやすいのです。

 

 

BGMや店の雰囲気で気分をよくさせると、消費者はあまり考えずに購買意思決定する

 

また、決定方略は意思決定者の感情によっても影響を受けることがわかっています。たとえば、アイセンとミーンズの研究によれば、ポジティブな感情(よい気分)が決定方略に及ぼす効果について検討しています。彼女らは、知覚運動課題に成功したという偽のフィードバックを受けた実験参加者が、フィードバックを受けていない実験参加者に比べて、自動車の選択に要する時間が短く、決定に際して情報をあまり探索しないことを明らかにしています。

 

さらに、彼女らは、ポジティブな感情の実験参加者が、そうではない実験参加者と比べて、注目する属性によって選択肢を逐次的除去していくようなEBA型決定方略による意思決定をする傾向があることを明らかにしましたEBA型決定方略は、最適な決定を必ずしも導かないが認知的負荷が低い方略であるので、ポジティブな感情がこのような性質の方略の使用を促進させると考えられました。

 

消費者をBGMや店の雰囲気で気分をよくさせると、消費者は非補償型の決定方略を用いやすいことになり、十分な商品の検討をせずに、購買意思決定をしやすくなるのです。

 

【参考】

『産業・組織心理学 改訂版』山口裕幸、髙橋潔。芳賀繁、竹村和久著 有斐閣

 

私たちはどうやって1つの選択肢を選ぶのか?⑦

これまでの消費者の意思決定過程の研究の結果、選択肢の数が少ない場合は、補償型の決定方略(ある属性の評価値が低くても他の属性の評価値が高ければ、補われて総合的な評価がなされる)が採用され、選択肢数が多くなると非補償型の決定方略(属性間の補償関係がないような決定方略)が採用されやすいことが報告されています。また選択肢数が多いと属性をベースにした決定方略が採用されやすいことも明らかになっています。

 

なぜ決定方略が選択肢数や属性数の変化に伴ってこのように変わるかというと、選択肢数や属性数が多い条件では、多くの情報を処理しなければならないために情報処理の負荷が過大になり、それによる認知的緊張を回避するために、情報処理の負荷の低い単純な決定方略が採用されると考えられます。

 

また情報処理負荷が過大になると、決定方略が単純化されるだけでなく、意思決定状況からの回避が生じやすくなります。意思決定をしないでその状況から回避することも一種の情報処理の単純化であると考えることもできます。

 

あるスーパーマーケットでの消費者行動観察と店頭面接調査では、情報処理負荷が過大になって迷った消費者は、コンフリクトを回避するために、売り場から逃れやすいと報告しています。

 

【参考】

『産業・組織心理学 改訂版』山口裕幸、髙橋潔。芳賀繁、竹村和久著 有斐閣

私たちはどうやって1つの選択肢を選ぶのか?⑥

このように種々の決定方略が見出されていますが、決定方略を補償型と非補償型というように2つに分類して考察することがあります。

 

補償型の決定方略とは、ある属性の評価値が低くても他の属性の評価値が高ければ、補われて総合的な評価がなされる決定方略であり、加算型、加算差型がこれに含まれます。補償型では、すべての選択肢の情報が検討されます。

 

非補償型の決定方略とは、そのような属性間の補償関係がないような決定方略であり、連結型、分離型、辞書編纂型、EBA型、感情依拠型がこれに含まれます。

 

非補償型の決定方略のもとでは、選択肢や属性を検討する順序によって決定結果が異なることがあるので、一貫しない意思決定の原因となります。

 

たとえば連結型で消費者がテレビの銘柄の意思決定を行う状況を考えてみます。連結型では、最初に必要条件をクリアした選択肢が採用されるので、どのような順序で銘柄を検討するかが非常に重要です。もし別の店にその消費者が最も気に入るテレビの銘柄が置いてあったとしても、最初に訪れた店に必要条件を満たすものがあれば、その銘柄が購入されます。したがって、その消費者が最も気に入る銘柄を購入するかどうかは、店頭の商品配置や店舗の位置などの状況要因に左右されやすくなるのです。

 

また、実際の意思決定場面では、決定方略は両者が決定段階に応じて混同されることが多いです。あるいは、消費者は、認知的緊張を低減するために、まずEBA型のような選択肢の拒絶を行っていく方略で選択肢を少数に絞った後に、加算型のような補償型の方略が用いられることが多いです。このように、決定方略自体が意思決定過程の進行に応じて変異することもあります。

 

【参考】

『産業・組織心理学 改訂版』山口裕幸、髙橋潔。芳賀繁、竹村和久著 有斐閣

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR