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日本銀行のインフレ政策は誤りか? (テレビ等の経済報道に対する批判も踏まえて)②

前回、「生鮮食品を除く食料品の価格は1.9%上昇しているのなら、日銀は物価上昇という目標をやめたほうがいいのではないか」という意見に対して、「インフレよりもデフレのほうがもっと問題だ」という観点から批評しました。今回は、違う観点から検討したいと思います。

まず、先の発言は、「食料品の価格が上昇していて、庶民の実感としては、物価はすでにかなり上がっているので、生活が苦しい。」という立場でしょう。テレビなどで多いのは、この後、主婦の方のコメントが続くというパターンです。

東京都の生鮮食品の価格動向を見ると(平成27年8月中旬速報)、15品目のうち、前月に比べ10品目が値上がりし、4品目が値下がりしました。また、前年同月(平成26年8月)の価格と比べると、「じゃがいも」の34.0%をはじめとして全ての品目が値上がりしています。よって、庶民感覚として、「物価が急激に上昇している」と感じることは、無理もありません。

しかしながら、お気づきのとおり、急激に上がっていると感じるのは生鮮食品であり、生鮮食品を除く食料品の価格の上昇率は1.9%で、急激に上がっているとまでは言えません(注1)。要は大きく価格が上がったモノの印象ですべての価格を評価しているのではないかという印象もあります。

さらに、生鮮食品は、天候等による豊作・不作などによって価格が決まることが一般的であり、そもそも経済政策でコントロールできないわけですから、値上がりの責任を日銀の政策に求めること自体に無理があります。前月比で「ほうれんそう」は24.8%値上がりしているのに対し、「ねぎ」は22.3%値下がりしています。

また、こちらのほうがより大事なことですが、物価とは、「ある家庭が1年間生活していく上で必要な、さまざまな財・サービスの値段を合計したもの≒すべての価格の加重平均値」であり、食料品の価格はその構成要素の1つにすぎません。食料品の価格と物価を同一にすること自体が誤りなのです。

経済学では、エンゲルの法則と呼ばれるものがあります。エンゲルの法則とは、「世帯所得が高くなればなるほど,総消費支出に占める食費の支出割合が低下する」という経験法則のことです。食費の支出割合をエンゲル係数と言い、こちらのほうが有名でしょう。

ちなみに、日本の場合、最も貧しい2割の家計のエンゲル係数は約25%であり、最も豊かな2割のエンゲル係数は約20%と、所得階層ごとのエンゲル係数には大きな差がなく、エンゲルの法則は当てはまらないことが知られています(注2)。

つまり生鮮食品を含んでも食料品の割合は、全支出の2割を占めるに過ぎないということです。個別の価格と物価を分けて考えるのが、経済学の常識なのです。

注1:
他の番組でも、紹介するグラフでは、生鮮食品を除く食料品の価格の上昇率(1.9%)を示しながら、庶民のコメントは生鮮食品の価格の上昇についてのものといったようなすり替えを行っているケースすらあります。
注2:
よって、軽減税率を導入しても、その恩恵は高所得者層により大きく、低所得者優遇とは言えないという議論もあります。

【参考】
「東京くらしWEB『生活関連商品等の価格動向』」https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/chousa/kakaku/
「幻冬舎plus 『第1回 「軽減税率」のこと、ちゃんと知っていますか?』飯田泰之」
http://www.gentosha.jp/articles/-/4418


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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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