交渉と公平感②
今回は、どうすれば公平感のある分配が可能になるのかについて考えてみます。
■お金の分配案から得られる教訓
このお金の分配案から得られる教訓は、交渉に当たっては相手の経済的価値(1円でももらったほうが得だ)だけでなく過程についての利益(メンツを保ちたい、自己主張したい、尊重されたい、公平に扱ってほしいといった利益)や関係についての利益(相手と良好な関係を構築したいという利益)も考慮する必要があるということでしょう。
また公平性や協調性を保ったほうが経済的価値も高くなることが多いということです(ただし常にではなく、特に1回だけの交渉でその後に相互にかかわりをもたない場合は自分の利益を最大化するために裏切り行為を行ったほうが特になる場合もあります)。
一方、B(分配案を提示される側)の立場で言うと、泣き寝入りしないで自身が望む利益(全体の半分とします)を得るためには、場合によっては初めから「半分もらえないのなら拒絶する(Aも何ももらえないようにしてやる!)」という意思表示(コミットメント)をするといったことも求められます。脅しをかけることで交渉のパワー関係(流れ)を変えるわけです。
■どうやって公平性を担保するか
またこのお金の分配案は、金額の多寡しか基準がなく「半々が公平だ」とすぐにわかる単純なケースですが、ビジネス交渉の多くは、経済的利益だけでも価格、納期、品質、支払条件など多くの利益が存在します。よって、自分にとっては公平であっても相手がそう感じるとは限らず、なかなか公平な分配が何かを想定することが難しいです。
このような複雑な利害がからむ場合の1つの解決策として、ケーキカットのルールというものがあります。これはケーキをカットする(分配を決める)人と選ぶ人を分けるというものです。たとえば姉妹でショートケーキを2等分する際に、大きさ以外にもイチゴが乗っているかどうかなどで揉めるかもしれませんが、ケーキカットのルールを適用すれば公平性を担保できるということです。
相手にとっても自分が決定に参加したという感覚が得られますから、経済的な利益だけでなく、過程についての利益についても公平性が期待できます。
やや利益が複雑なビジネス交渉の場面で言うと、相手に対し、「こちらが受け入れ可能で、相手にとっては同程度の価値がありそうな複数の案」を提示し、その中から相手に最もよいもの選ばせるという形での応用も考えられます。
この時点で合意できなくても、選ばれた案を土台にいくつかのバリエーションを提示して選んでもらうという行為を繰り返すことで、双方が得をする合意案をまとめ上げていくわけです。
その際には「交渉のための準備④(創造的選択肢を考える:前編)」で触れたように、「自分側の負担が少なくて相手側には大きな利益をもたらす条件」と「相手側の負担が少なくて自分側には大きな利益をもたらす条件」を組み合わせることがポイントになります。
【参考】
『ハーバード流交渉術』ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー著 三笠書房