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シャープの買収交渉を考える

シャープの買収交渉の経緯

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と産業革新機構との競争の末、2月25日、シャープの取締役会は全会一致でかなり有利な条件(①事業売却せず②経営陣残留③40歳以下の雇用維持④4890億円規模の出資)の鴻海の支援を仰ぐことを決議しました。

同日、シャープの3500億円の偶発債務(現時点では債務ではないが、将来債務となる可能性がある債務)問題が表面化し、鴻海側から待ったがかかり、交渉が難航しています。

ここ数日の報道では、鴻海は出資額を1000億円(報道によっては2000億円)程度減額する方向で調整に入っているとのことです。ちなみに2000億円の減額になると、鴻海の出資額は産業革新機構の提示した3000億円を下回ることになります。

シャープは3月末に、主力行などが設定した5100億円の融資枠の借換期限を迎えるため、交渉がまとまらなければ資金繰りがかなり厳しくなります。


■消滅したシャープのBATNA

ここまでの経緯を前回取り上げたBATNA(交渉が決裂した時の対処策として最も良い案)で考えてみます。2月25日までの鴻海との交渉に当たってのシャープのBATNAは、産業革新機構の提示条件でした。

しかし決議後のシャープは、このBATNAが無くなり不利な立場になったとも言えます。これでボールは、条件を選べる立場にあったシャープから鴻海に移った形になり、資金ショートの危険が高まるシャープとしては、もはや存続は鴻海次第という状況になったと解釈することができます。


■すべては鴻海側のシナリオどおり?

鴻海側によれば、シャープから偶発債務の存在が示されたのが先月の24日で、それが妥結に待ったをかけたと報道されています。しかしながら、買収交渉で偶発債務の精査は常識であり、それまで鴻海側(FAはJ.P.モルガン)が知らなかったということは考えにくい、現に産業革新機構側は存在を知っていたとの指摘があります。

そうなると3月中には交渉契約をまとめなければ資金がショートするシャープに対して、いまさら偶発債務の問題を持ち出してプレッシャーをかけることで買収条件を下げようとしているのではないかという見方もできます。最初から鴻海はそれを狙っていたのではないかとの指摘もあります。

この時点での鴻海のZOPA(Zone Of Possible Agreement:交渉可能価格帯)は「産業革新機構の提示内容(3000億円の出資額)より少しでも上」と「2月25日時点で提示した条件(4890億円の出資額など)」になり、その間のどこか(できるだけ産業革新機構に近い)まで条件を引き下げる(出資額の大幅減額、現経営陣の追放、事業売却など)でしょう。


■シャープが取りうる手段はあるのか?

時間が限られている中でシャープが取りうる手段はもうほとんどないかもしれません。他の買収先を探すことはもはや困難でしょう。

「シャープは『条件が悪ければ倒産をしても構わない』という意思を鴻海に表明する(コミットメント)しかない」と少し前にあるテレビ番組でコメンテーターが興味深いことを言っていました。シャープにはシャープのBATNA(最低条件)があるはずですから、コミットメントを盾にBATNAを上回る条件を引き出すしかないでしょう。

シャープが倒産すると、困るのは(シャープ以外には)鴻海とおそらく主力銀行でしょう。鴻海は当初はかなり大盤振る舞いの条件を提示したのですから、シャープが倒産して破談になるよりは、ある程度、譲歩した案を提示するかもしれません。

一方、主力銀行としても、シャープが倒産して貸していたお金がすべてパーになるより、どこかに買収してもらって存続してもらったほうがまだマシと考え、シャープの債務免除(あるいは追加資金融資)という形で支援することもなくはないのかもしれません。


■シャープの買収交渉から得られる教訓

分析には静学的分析と動学的分析があります。静学的分析とはある時点での分析であるのに対し、動学的分析とは「ある行動の結果、次にはどうなるか」といったように先々の影響を見越した分析です。

交渉は相手との相互作用のプロセスですから、動学的な分析が必要になります。シャープの買収交渉の経緯を見ると、このことを痛感させられます。



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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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