組織の意思決定の姿(意思決定のゴミ箱モデル)②
■組織の意思決定はまるでゴミ箱のよう
組織の意思決定には多くの人々が参加しますから、意思決定のプロセスは混沌としたものとなります。このことを表したものに「ゴミ箱モデル」というものがあります。モデルと言っても理想像を示したものではなく、あくまで組織の意思決定の傾向(こうなりがちだ)を示すものです。
「意思決定のゴミ箱モデル」によれば、意思決定には①意思決定の問題②解決策③参加者④選択の機会の4つの要素が含まれ、意思決定は決して整然と秩序だって行われているわけではありません。
意思決定の4つの要素が、それぞれバラバラに存在・漂流し、決定の機会が訪れたときに、漂っていた問題と解決策と参加者が偶然つながり、意思決定がなされることになります。
■ゴミ箱のように意思決定がなされると?
組織の意思決定の場では、意思決定の問題、選択基準、選択肢がそれぞれバラバラに存在するため、正しい意思決定の機会に、正しい問題と解決策が正しい人によって選択されるのであれば、正しい意思決定が可能になりますが、場合によっては間違った機会に間違った問題と解決策が適切でない人によって選択されてしまうことになります。
さて、組織にはこのような意思決定の傾向があるとすると、どのような問題が起きるのでしょうか。おおよそ次の3つが考えられます。
①問題が存在しないのに解決策が提示されてしまう
ある個人が以前よりITベンダーから勧められていたパッケージ・ソフトを導入したいというアイデアがあり、問題とは関係なくそのアイデアをアピールしたり、そのアイデアを結びつけ正当化することのできる問題を探したりするといったケースです。
②選択が行われても問題が解決しない
そもそも問題とは別に解決策が存在するため、一応はそれらが結びついて意思決定がなされるものの、本来の問題が解決するとは限りません。また知らぬ間に議題が変わっていて、何かしら意思決定がされ会議は終わりますが、もともとの問題は解決されないままといったケースです。
③問題が解決されないまま残る
問題が認識されることによって意思決定がスタートするわけではないので、意思決定すべき問題があったとしても選択の機会がなければ、問題はいつまでも残り続けてしまうといったケースです。
さらに組織の意思決定は、個人の場合と比べてフリーライド(ただ乗り)しやすい(個々のメンバーの責任が曖昧)という面があり、これが重なって新国立競技場の聖火台問題が起きた(③の例)と考えられます。
■ゴミ箱モデルから得られる教訓
では、上記の①から③までの問題を回避するためには、どのようなことが考えられるでしょうか。結局は意思決定の理想形(意思決定の完全合理モデル)に近い状態にすることです。特に意思決定を、問題に始まり解決に終わるという連続的な流れにするということを意識することが求められます。具体的には次のとおりです。
・問題の解決につながる有益な行為に専念し、性急な解決策に気を取られない。
・常に重要な問題だけ見るように心がけ、それと関係のない解決策は除外する。
・問題解決に必要なことを理解するまでは特定の解決策について話したり決断を下したりしない。
・メンバーに問題解決に必要な課題を残らず出してもらい、それから個々の課題を取り上げる。
・メンバーが提案した解決策が「問題にどう関係するのか」「なぜ解決につながる
のか」確認する。
※なお組織の意思決定上の問題点については、集団浅慮の問題もあります。これについては本ブログの「赤信号、みんなで渡れば怖くない!?①」「同②」「ベスト&ブライテスト」「集団浅慮に至る道」を参照してみて下さい。
【参考】
『キャリアで語る経営組織』稲葉祐之、井上達彦、鈴木竜太、山下勝著 有斐閣
『組織の経営学』リチャード・L. ダフト著 ダイヤモンド社
『ビジネス・シンク』D・マーカム、S・スミス、M・カルサー著 日本経済新聞社