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勝者の呪い②

前回の「勝者の呪い①」では、企業買収を例に、どのように適正な買収金額を探り出すかについて考えました。今回は「勝者の呪いがなぜ起きるのか」、そして「勝者の呪いを防ぐためにはどうすればよいか」を考えてみましょう。


■企業買収の呪い

企業買収の8割は失敗と言われます。マイケル・ポーター(HBS教授)の調査によると、アメリカの著名大企業33社の1950~86年における企業買収のうち、買収合併した企業を維持し続けたケースよりも、売却あるいは合併解消したケースの方が多かったことが分かり、「株主価値を創造したというより、株主から預かった資金を無駄に使ったと言ったほうがよい」と結論づけています。

本ブログの「交渉の前のひと呼吸」で、勝者の呪い(競売において、落札額が商品の評価額以上に吊り上がってしまい、結果的に落札者が損をすること=高すぎる買い物をしてしまうこと)について取り上げました。企業買収が失敗する大きな理由の1つに「勝者の呪い」が挙げられます。


■よく価値が分からないと呪いにかかる

高い価格を付けすぎてしまうのは、交渉(あるいはオークション)の過程で我を忘れてしまうこともありますが、そもそも買い手が商品(企業)の正しい価値が把握できないことに要因があります。言い換えれば、買い手が正しい価値がわからないと、交渉過程で我を忘れることにもなりかねないということです。

また相手があなたの評価を受け入れるということは、あなたの評価が相手よりも高い(評価が高すぎる)ということを意味する点に根本的なジレンマがあります。

経済学では、これを情報の非対称性の問題として扱います。情報の非対称性とは、「片方は取引する財についてよく知っているが、もう片方はよく知らない」という取引当事者間での情報の偏在について表す用語です。


■勝者の呪いを防ぐためには

情報の非対称性が存在する場合、相手に何らかのかたちで情報を開示させるように働きかけることが求められます。ただし、前回のケースでは、被買収企業のS社が自らの企業価値をオープンにしてくれることは期待できません。

よって、相手の出方を想定したり、「交渉が成立したらどうなるか」を考えてみたりすることで、価値の範囲を狭めていく(特定する)ことになります。相手側に価値に関する情報を開示させるのと同じ効果をねらうわけです。「交渉が成立したらどうなるか」を考えるのは、交渉の過程でヒートアップしてしまうのを防ぐためにも大事です。

また、相手が喜んでこちらの条件を受け入れるようであれば、場合によっては、「自分の評価が高すぎるのではないか」疑ってみることも必要かもしれません。


■価値があると思っているのは自分だけ!?

勝者の呪いは、オークションの場で多く生じますが、そもそも最高入札額はそれ以外の誰もそれだけの価値を見出していない入札額です(だから最高額なわけです)。

もちろん自分にとっての価値と他人が考える価値が一致するとは限りませんが、よほど個人的なこだわりがある商品でもなければ、自分の考える価値より少し下の金額で入札するべきでしょう(そうでないと得しない)。1万円の入札に1万円で応札する人はいません。勝者の呪いを避けるためには、この点を意識するとよいでしょう。


【参考】
『戦略的思考をどう実践するか エール大学式ゲーム理論の活用法』A・ディキシット、B・ネイルバフ著 阪急コミュニケーションズ
『合理的なのに愚かな戦略』ルディー和子著 日本実業出版社
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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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