様々なデフレの原因説を検証する②
■生産性が低いからデフレになる?
前回の「生産性が向上してモノが安くなったからデフレになる?」と逆の考え方です。労働者の生産性が低い(付加価値を生んでいない)ので所得が低く、その結果、消費が増加しないのが原因だとするものです。白川日銀前総裁もこの立場でした。
しかしながら生産性が低いということは国全体の総供給が上がらないので、モノ余り(超過供給)にはならないはずです。国全体でモノが余りがちなら物価は下がるでしょうが、そうでないなら物価は下がりません。
むしろ供給不足(需要超過)でインフレになるはずです。
■日本は高齢化社会だからデフレになる?
労働力人口が減少し、総需要が減少していることがデフレの原因だとするものです。ベストセラーとなった「デフレの正体」「里山資本主義」の著者である藻谷浩介氏が主張し、少子高齢化の進展とタイミングがあったことから今でも根強い支持があります。
確かに消費の絶対額が低い高齢者の割合が増えれば1国全体で総需要が減少します。しかしながら、労働力人口の減少はむしろ総供給減少の要因となり、総需要と総供給の減少が相殺されればデフレにはなりません。
というより総供給への寄与が低い高齢者であっても一定の消費は行うので、結局は労働力人口の減少による総供給の減少が上回り、むしろインフレの要因と考える方が妥当です。
また日本より高齢化率が高い国、同等の国でもデフレになっていません。確かに日本は先進国では高齢化率が高いですが、デフレが始まった1990年代末ではそれほど高い水準ではなかったことから、高齢化原因説には無理があります。
■実質賃金が上がらないからデフレになる?
労働者の実質賃金が上がらないから消費に廻らずデフレになるというものです。旧民主党政権がこの考えを採っていました。
ただし実質賃金を上げたとしても企業側はコスト増になりますので、その分、他の経費や投資を減らすことになり、物価は上がる可能性があります。
より重要なのは既に雇用されている人々の賃金を上げれば、企業は人件費負担を考えて新規採用を控えたり、非正規雇用を増やしたりするということです。実際に民主党政権下で最低賃金を引き上げた結果、失業率は拡大しました。その結果、国全体では労働所得は伸びず、かえってデフレ要因になります。
また実質賃金が上がらないからデフレになるのではなく、デフレだから実質賃金が上がらないと考えたほうが妥当でしょう。
■おかしなデフレ原因説はなぜ生まれるのか?
おかしなデフレ原因説はクリティカル・シンキングの良い材料になります。もともと因果関係が成立するためには、次の3つを満たす必要があります。
<因果関係成立の条件>
① 共変の原則
もしXがYの原因であるならば、XとYは共に変化しなければならない。
② 時間的順序関係
もしXがYの原因であるならば、XがYより時間的に先に起こっていなければならない。
③ 他の原因の排除
XがYの原因と考えられ、さらにX以外にYの原因を合理的に説明できるものが何もない場合にのみ、XがYの原因と認められる。
おかしなデフレ原因説は、「どうしても貨幣現象(金融政策のせい)だと認めたくない」ということ以外に、「たまたま同時期に起きた2つの事象を無理に因果関係でつないでしまう」「個別の事象を全体の事象と取り違えてしまう」「原因と結果の関係を取り違えている」ことで起きています。言い換えれば上記の①から③を満たしていないと言えます。
【参考】
『日本を救ったリフレ派経済学』原田泰著 日本経済新聞出版社
『デフレと超円高』岩田規久男著 講談社
『世界が日本経済をうらやむ日』浜田宏一、安達誠司著 幻冬舎