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マズローの偉大なる仮説(欲求段階説)②

前回に続き、マズローの欲求段階説について見ていきましょう。今回は欲求段階説の限界や批判について取り上げます。欲求段階説は、自己実現という欲求概念を持ち出すことにより、人間が仕事を通じて自己の能力を発揮していくことをそもそも望んでいるというものでした。
欲求段階説

■本当に人は自己実現を図るものなのか?

先述のとおり、欲求段階説では人間は1段ずつ順に欲求の階段を登っていきます。しかしながら、誰もがみなそのように行動するとは限らないのではないでしょうか。

確かに自己実現を満たすことに熱心な人はいますが、それよりも家庭を大事にするとか友人との付き合いを大事にする(所属・愛情欲求)人もいるでしょう。「お金が一番」という人もいないわけではありません。要は優先する欲求は人それぞれです。

特に日本の場合、欧米と比べて、職場での人間関係が重視され、同僚や上司に認められたという所属・愛情欲求や尊厳欲求が強いということが指摘されています。


■ひとは誰しも欲求の階段を登るものなのか?

また、上位欲求を満たすことを諦めて、下位の欲求をもっと満たそうとすることはありえます。たとえばある年齢になって出世よりも家庭を大事にするといったことは十分あるでしょう。つまり優先する欲求は状況次第で変わり、ある欲求を満たしてしまえば、もはやその欲求に関心がなくなるなどということは言えないのです。

さらに、自己実現を満たすことに熱心な人が必ずしも安全要求や所属・愛情欲求を既に満たしているとは限りません。芸術家や役者になるという夢のために現在は貧乏な暮らしをしている独身者もいるでしょう。欲求の階段を飛び越えることはありえます。

欲求段階説では自己実現欲求には限りがなく、かえって「もっと成長したい」と強まるとしています。確かにそのような人もいるとは思いますが、どこかで区切りをつけることのほうが多いようにも感じます。

欲求段階説がここまで広まっていることの理由は、自己実現というものにロマンを感じるからだと思いますが、職場を見渡してみても自己実現欲求が強い人はあまりいないように思えます。

仮にみな自己実現欲求に駆られているとしても、実際に企業側がそれぞれの社員にその場を提供することはほとんど不可能でしょう。少し素朴すぎる感があります。


■欲求段階説はただの仮説にすぎない

実は欲求段階説は理論ではなく、仮説にすぎません。モチベーションはほとんど心理学の領域ですが(マズローも心理学者)、心理学の理論の確立には統計的な検証が欠かせません(経営学も基本的に同じ)。

一般的にはヒアリング調査を行って、少なくとも数千レベルのサンプルを集め、統計的な解析を行って結果を検証するのです。

具体的にはモチベーションが高い人たちの共通点を探ったり、モチベーションが高い人たちとそうでない人たちの違いに着目したりするのです。

可能であれば実験による調査も行います。たとえばあるグループには自主性を与え、あるグループには与えないで、どちらがよりモチベーションが高いかといった実験を行います。自主性を与えられたグループの方がモチベーションが高いことが統計的に有意に証明されれば、はじめて自主性がモチベーション要因として認められることになります。

しかしながら欲求段階説ではモデルが複雑なこともあって実証実験をほとんど行っておらず、他の学者が調査したところ裏付けられる証拠が得られなかったのです。

マズロー自身もこのような他の研究者からの批判に応えて「私が仮説と考えている理論を熱狂的な人々が疑いもなく受け入れていることに不安を感じる。私と同様に、仮説ということをもう少し意識してもらいたい。」と述べています。


■理論は1つの考え方に過ぎない

これまでにも実に多くのモチベーション理論が唱えられてきましたが、ほとんどが「調査サンプル数が少なすぎて実証に耐えない」「調査したら別の結果が出た」「根拠が曖昧」「部分的にしか当てはまらない」等々の理由で退けられており、いまだ決定的な理論は打ち立てられていないという状況です。それだけ人間は複雑な存在なのだということかもしれません。

「人間は自己実現を図るものだ」という考え方は確かに魅力的ですが、杓子定規に捉えるとかえって害悪をもたらしかねません。その限界や発展可能性についても踏まえることで初めて実用に足るということではないでしょうか。


【参考】
『ワーク・モティベーション』ゲイリー・レイサム著 NTT出版
『モチベーション入門』田尾雅夫著 日本経済新聞社
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社
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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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