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統一通貨ユーロがもたらしたもの①

ご承知のようにイギリスのEU(ヨーロッパ連合)からの離脱の賛否を問う国民投票が今月の23日に行われます。離脱派が残留派を10%程度上回る調査結果が出ており、それを受けて世界の金融市場も混乱が続いています。
揺らぐヨーロッパ経済について統一通貨ユーロを軸に振り返ってみましょう。


■イギリス、EU離脱の経済的影響

ヨーロッパ経済については、関税同盟(域内での貿易に関税がかからない)であるEUと統一通貨ユーロの2つを考える必要があります。イギリスはEUには加盟していますが、ユーロは導入していないという立場です。

イギリスがEUを離脱するとEU加盟国との貿易で関税がかからないという恩恵が受けられなくなり、そのメリットを見越した外資のイギリス国内への投資も減少する恐れがあります。その結果、GDPが最大で6%減少するという見方もあります。


■財政不安定国の黄昏

ヨーロッパ経済というとドイツ1強で、特にギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリア(総称してGIPSI)は財政問題が深刻というイメージでしょう。

統一通貨であるユーロが導入された1999年以降のヨーロッパ経済の流れを見てみます。通常、財政が不安定な国(GIPSI)の金利は高くなります。デフォルト(債務不履行)や通貨切り下げのリスクがあるため、投資家はその分の金利の上乗せ(リスクプレミアム)を要求するからです。

しかしながら財政安定国・不安定国を問わず統一通貨であるユーロが導入されたことで、リスクが全体に薄まってしまった結果、財政不安定国の債券であっても安定国と近いくらいに信用度が上がってしまい、金利が低下しました。GIPSIへ投資が流入し、住宅バブルが起き、景気が加熱した結果、労働者の賃金が上昇しました。2000年代前半でドイツでは9%の上昇に対し南欧では約35%の上昇が見られ、南欧諸国の輸出競争力は大きく低下することになったのです。

住宅バブルも2008年のリーマンショックをきっかけにはじけてしまい、後に残ったのは巨額の債務でした。景気悪化で失業率が上昇して失業手当が急速に増加する一方、税収が減少し深刻な財政問題が発生、それに応じて金利が暴騰するという悪循環が廻り始めたのです。

南欧諸国の財政問題の原因はもともとの放漫財政体質にあるとよく言われますが、これはあまり正しくはありません。財政危機が深刻化した2008年以前で見ると、ユーロ導入以降、GIPSI全体の負債・GDP比率は、90%弱から75%程度と改善しているからです。


■統一通貨ユーロはもともとドイツが得をするようにできている

通常、輸出が増加するとやがて自国通貨は上昇します。ドイツとその旧通貨であるマルクを例にします。外国がマルク建てのドイツ製品を輸入(ドイツから見れば輸出)するためにはマルクが必要になります。つまりマルクの需要が増加するので、マルク高になります(需要があるものは必ず価格が上がります)。またドイツ企業が他国通貨で輸出しても同様になります。他国通貨で得た代金を自国での投資や費用の支払いに廻すためにマルクに変える必要があり、マルクの需要が増加するからです。

自国通貨の上昇は輸出競争力の低下をもたらしますが、ドイツの場合、統一通貨ユーロのおかげで通貨上昇によるショックをほとんど受けないことになります。EU域内では関税なしで、さらに統一通貨で為替変動の影響がないですからユーロ域内の輸出が増加します。2014年度で見るとドイツの輸出先の36%はユーロ圏ですからこれはかなり大きなメリットになります。

またユーロは域外通貨に対して割安になります。経済力のある国とそうではない国の事情から統一通貨ユーロの為替レートが決まるので、経済力のあるドイツにとってはユーロは割安(経済力のない国々にとっては割高)の為替レートになり、ユーロ圏外への輸出は増加することになります(経済力のない国々にとっては輸出が減少)。その結果、ドイツはGDPの約40%を輸出が占めるという輸出大国となりました(ちなみに日本のGDPの輸出に占める割合は約15%)。

よく識者の中から「ドイツは構造改革を行ったから経済成長できた。日本も見習うべきだ」という意見が出ます。しかしながら、このような統一通貨ユーロの恩恵、そして旧東ドイツ圏の安価な労働力や移民、南欧や東欧からの出稼ぎ労働者といった低賃金労働力の利用といった要因が大きいように思えます。

以上を考えると、通貨ユーロという制度はもともとドイツが得をするようにできていたということが言えると思います。
(つづく)

【参考】
『さっさと不況を終わらせろ』ポール・クルーグマン著  早川書房

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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