褒め方の法則(承認欲求①)
「人から認められたい」という欲求のことを、承認欲求と言います。コツコツと地道な取り組みを続けていたところ、上司から「よく頑張っているね」と声をかけられれば、誰でも嬉しいものです。
「叱るより褒めて育てよ」とはよく言われますが、単に褒めれば部下のモチベーションが上がるかというと実はそういうわけではありません。
■褒めることの弊害
まず「人から認められたい」という欲求が強すぎると、常に周囲の反応を見ながら行動してしまう、認められないようなことをしなくなる、自分のことを過度にアピールするといった外部依存が高い人格を形成してしまいます。
また職場はともかく、取引先や客が褒めてくれるなどということは、あまり多くはありません。また、教育上、どうしても叱責が必要なことはありますが、承認欲求が強すぎていちいち心が折れていたら仕事にならないでしょう。
上司のほうも、褒めるために部下の行動をすべて監視するなどということは不可能です。
「褒める」だけでなく、嫌なことや困難なことに立ち向かうだけの精神力をどう鍛えるかにも焦点をあてるべきでしょう。
■褒めると逆効果になりかねないケース
褒めることには以上のような部下の育成へのマイナス面がありますが、そうは言っても褒められることは嬉しいことでモチベーションは上がるのではないかと考えるかもしれません。しかしながら褒めることがかえってモチベーションを下げることもあるのです。
(1) 易しい課題ができたときに褒める
誰でもできるような易しい課題ができたときに褒められても、「自分のことをよほど低く見ているのでは?」「とにかく褒めればよいと思っているのでは?」と疑ってしまいます。
(2) 明確な根拠なしに褒める
賞賛が妥当なものであれば嬉しいものですが、妥当と感じられなければ、「何か裏があるのでは?」「単におだてているのでは?」と感じてしまうでしょう。
(3) 過度に一般化した褒め方をする
褒めるときは、褒めるべき望ましい成果や行動を具体的に指摘して褒めるのが鉄則です。あまりに一般化した褒め方では根拠が伝わらずウソっぽい感じになります。
パズルなどの課題を終えた後で、「あなたは本当にすばらしい」と漠然と人物全体を褒められた子供と、「本当に一生懸命にパズルに取り組んでいたね」と具体的に行動や姿勢を褒められた子供では、その後課題に失敗したとき、後者の子供はモチベーションを高く維持できたのに対し、前者の子供はモチベーションを低下させることが心理学実験で分かっています。
(4) 操作的な褒め方をする
褒めることで自分の思うように動かそうとしているのではと感じるとモチベーションは低下します。
素晴らしい成績だと褒めて具体的な成績の位置づけを知らせるフィードバック的な褒め方された人のモチベーションは高まるのに対し、素晴らしい成績だから研究のデータとして使わせて欲しいというような何らかの意図を感じさせる褒め方をされた人のモチベーションは低下するということが欧米の心理学実験から分かっています。
ただし関係性を重視する日本人の場合、「こんなに成果を出してくれると、本当にありがたい」「頑張ってくれて我が社も大助かりだ」という、ある意味で操作的な褒め方でもモチベーションは上がります。
欧米人と日本人の気質の違いもありますが、感謝が伝わる褒め方であればモチベーションは上がるし、隠れた意図を感じれば上がらないといったことではないでしょうか。
要は褒めることがよいかではなく、褒め方の問題だということです。
【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社