fc2ブログ

限られたケースから学ぶためには(事例研究)

前回の「私見の域を超えるために(統計学的研究と事例研究)」で見たように、私たち一般社会人にとっては、限られた事象(ケース)を観察することで有効な仮説を得ることが求められます。
では限られた事象の中から有効な仮説を得るためには、どのような着眼が求められるのでしょうか。統計学的研究と事例研究との比較から考えてみたいと思います。


■統計的調査では際立ったものは除外する

統計の用語として「外れ値」というものがあります。外れ値とは、その名のとおり、統計では「ありえない」他と大きく外れた値のことです。

統計的調査で全体の平均的な傾向を探りたい場合、外れ値があると全体の傾向を大きく乱すことになります。たとえばある社会人向けの英語教室30人のクラスで受講者の年収を調査したいとします。仮にその中の1人がたまたま年収が2億円あったとします(外れ値)。この場合、クラスの平均年収を大きく引き上げてしまうので、全体の状況をつかみにくくなるといったことがあります。

また本ブログの「消費税引き上げに関する動向①」で見たように、日本経済の全体のトレンドを見たい場合に、リーマンショックや東日本大震災などのような滅多に起きない特殊ケース(外れ値)を考慮すると、正しいトレンドを見誤る可能性もあります。

このようなことから、原則として統計的調査の場合、外れ値(逸脱した値)は外して考えることになります。


■逸脱した事例は無視して良いか?

しかしながら考え方によっては逸脱事例は大いに注目すべき対象ということにもなります。たとえば際立って業績が良い企業や、長年に渡り高業績を出し続けている企業は、いわば外れ値(逸脱事例)ですが、これを研究して高い業績をあげられる企業の特徴を抽出することには大きな意義があります。

またこれまでにない技術やサービスで既存のビジネスモデルを突き崩すような事業展開を行っている企業は、それだけで逸脱した事例ですが、これを排除してしまっては将来の予測につながる研究は一切不可能になってしまいます。



■事例の4つのパターン

では限られた事例の中から有効な仮説を得るためには、どのような着眼が求められるのでしょうか。事例研究にあたっては事例を次の4つにタイプ分けすることができます。これまで触れた外れ値(逸脱した事例)に当たるのが先端事例と逸脱事例です。
事例のタイプ
先端事例とは、将来の動きを先取りするような事例です。小売業界を研究するのであれば、少し前であればECやビックデータを活用した小売業態を調査するといったことです。これを詳しく調査することで自身の今後の対応に活かすというのが目的になります。もっとも先端事例は、それが先端である限りにおいては逸脱した事例ですが、もちろん追随が激しくなれば逸脱さは失われます。

逸脱事例とは、大多数とは異なる(特殊な)事例です。なぜ逸脱したのかということに向き合うことで、これまでの常識を疑うことができたり、今まで気がつかなかった要因を浮き彫りにできたりします。逸脱事例は先端事例とは異なり、逸脱した状態であり続けます。

代表事例と原型事例は文字どおりの意味ですが、これらを観察することで関心のある現象への理解が深まることになります。


■私たちが事例から学ぶ際には何に着目すればよいか?

さて私たち一般の社会人が事例研究の方法を応用するとしたらどのようなことが考えられるでしょうか。どの事例を参考にするかは私たちの目的によって異なります。

何か新しい事業やサービスを検討しているとします。この場合、既にあるケースを参考にするでしょうが、ハイリスク・ハイリターンを狙うのであれば先端事例と逸脱事例を調査することになります。この場合、同じ業界の事例を調査してもただの追随ですからあまり大きな成果を得ることは難しいでしょうが、他の業界の事例を研究し上手く応用できればかなり高い成功が見込めます。

一方、とりあえずローリスク・ローリターンを狙うのであれば、代表事例と原型事例を研究することになります。また既存企業において効率化や社内事情を優先するあまり創業時の理念から離れてしまったり、顧客サービスが疎かになってしまったりといった場合も、代表事例と原型事例から学ぶことは大きいかもしれません。


【参考】
『ブラックスワンの経営学』井上達彦著 日経BP社

スポンサーサイト



プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR