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イギリスのEU離脱はなぜ起きたのか(集団意思決定のメカニズム)

ご存知のとおり、6月23日に行われた英国の国民投票の結果、イギリスのEU離脱派が勝利しました。今年に入ってからの世論調査の推移を見ると、離脱派は47%から55%強の間で推移、残留派は44%から53%で推移、2月から4月にかけては概ね残留派が優勢であったものの、5月に入り一進一退を繰り返し、最終的には離脱派が51.9%、残留派が48.1%という結果になりました。

「軽い気持ちで投票しただけで、まさか離脱派が勝つとは思わなかった」と、再投票を求める署名が300万人集まったり、Regret(後悔)とExit(離脱)を掛け合わせた「Regrexit」なる造語が生まれたりといった報道もあり、改めて直接投票の怖さを感じさせる出来事ではあります。

今回は英国の国民投票について、集団の意思決定という観点から検証したいと思います。


■集団の意思決定が有効であるためには

集団の意思決定は必ずしも有効であるとは限らず、集団が有効に機能するためには、次の条件を満たす必要があります。本ブログの「集団の智恵を引き出すための前提条件①~③」で触れた内容ですが、もう一度確認しておきます。

(1)意見の多様性
集団のメンバーが専門性や独自の私的情報を多少なりとも持っているということです。
逆に集団内の意見が同質的であれば、創造性に限界があり、失敗するリスクは高くなります。

(2)独立性
集団のメンバーは他者の考えに左右されないということです。
各メンバーが独立性を保つことで、あるメンバーが犯した間違いが他に及ばなくなります。また独立した個人は、みんなが既に知っている古い情報とは違う、新しい情報をもたらす可能性があります。

(3)分散性
集団のメンバーは身近な情報に特化し、それを利用できるということです。
集団のメンバーが身近な情報に特化し、それを利用できると、各メンバーの独立性と専門性が高まります。

(4)集約性
個々人の判断を集計して集団として1つの判断に集約するメカニズムが存在するということです。
分散性が高まると、個人の貴重な情報が全体に行き渡らないという事態も起こりかねません。またバラバラのままであったら意思決定も何もないでしょう。集約できなければ分散性自体、何も意味はもたらしません。そのためには集約性が同時に求められます。


■国民投票ではもともと有効な結論を期待できない

さて、以上の条件に英国のEU離脱国民投票が当てはまるのか検討してみます。

(1)意見の多様性について
一部の有識者を除けば、イギリス国民1人1人が専門性や独自の私的情報を持っていたとは考えにくいでしょう。「EUって何?」というネット検索が投票後に急増したという報道がありましたが、それはともかく一般人がEUの経済的メリット・デメリットについて正確に理解できていたかどうかは怪しいでしょう。

(2)独立性について
大衆行動は、情報カスケードと呼ばれる現象が生じます。これは、最初の人の行動を見て、次の人がマネして行動するということです。たとえばフランスでイスラム系の人がテロを起こしたり、離脱派の政治家が何かセンセーショナルな発言をすると、態度を決めかねていた人たちが離脱派に一気に流れたりします。国民1人1人の独立性があったとは考えにくいでしょう。

(3)分散性について
当然ながら、離脱派・残留派ともに、それぞれの主張にあった根拠しか提示しません。たとえば離脱派の「離脱すれば、EUに拠出している週3億5000万ポンドを、無料医療サービス(NHS)に回せる」などの口あたりの良い公約が典型例です(後に誤りであったと撤回)。そもそも一般人が身近な情報に特化し、それを利用できる環境にはないでしょう。

(4)集約性について
国民1人1人が様々な情報を多角的に集め、総合的に判断するなどといったことが可能だとは思えません。通常、人間は自分の主張に合った情報を集める傾向があり(確証バイアス)、その結果、ますます自分の主張が正しいと考えるようになります。

また英国全体でみても、そもそも国論を2分する決定をし、さらに集団としてエスカレートする状況なわけですから、集約メカニズムを期待できるものではありません。

このような事象は、バブルなど投機的な行動でも見られます。本ブログの「上海株式バブルはなぜ起こったのか?②」も参照してみてください。


【参考】
「凡才の集団は孤高の天才に勝る」キース・ソーヤー著 ダイヤモンド社
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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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