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どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)①

マーケティングの基本はターゲット・マーケティングと言われます。ターゲット・マーケティングとは、市場の多様なニーズに対応するために、市場全体を細かく区分し、その中の1つないしいくつかにターゲットを絞り、自社の製品をその標的市場の特有のニーズに適合するように位置づけていく行為のことです。

■ターゲット・マーケティングの3つのプロセス

ターゲット・マーケティングは、次の3つのプロセスから成り立ちます。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの頭文字をとってSTPモデルと言われることもあります。

(1)市場細分化(セグメンテーション)
環境分析の結果を踏まえて、不特定多数の人々を、同じニーズを持つ固まり(セグメント)に分ける。

(2)市場ターゲティング(標的市場の選定)
市場を構成する様々なセグメントの中から、自社が事業を展開するのに最も相応しいセグメントを選び出す。

(3)市場ポジショニング
競合製品に対して、自社製品をどのように差別化するかを決定する。いわば顧客の頭の中に自社製品を特別の価値を有するものとして位置づけられるようにするための活動である。

ターゲット・マーケティングの最終目的は市場ポジショニングです。ターゲット設定をすれば満足してしまいがちですが、顧客に選ばれなければ意味がありません。いかに顧客の中に自社商品を位置づけるかがマストになります。


■世界で2番目に○○なのは?

ポジショニングの重要性を認識するために、次の質問について考えてください。

<質問>
① 世界で2番目に高い山は?
② 世界で2番目に長い川は?
③ 世界で2番目に広い国は?
④ 世界で2番目に小さな国は?
⑤ ビルボードのシングルチャートで2番目にNO.1ヒットが多いアーティストは?
⑥ 日本で2番目に高い山は?
⑦ 日本で2番目に長い川は?
⑧ 日本で2番目に面積が小さい県は?
⑨ 日本の第二代総理大臣は?

すべて解答できる方はなかなかいないのではないでしょうか。二番手は印象に残りにくいものです。同様に買い手にとって一番のものとして認識されなければ、自社商品を選択してもらうことは難しいでしょう。ターゲット・マーケティングでは、いかに自社商品を顧客の中で一番に位置づけるかがポイントになります。(つづく)

<解答>
① 1エベレスト 2K2
② 1ナイル川 2アマゾン川
③ 1ロシア 2カナダ
④ 1バチカン 2モナコ
⑤ 1ビートルズ 2エルビス・プレスリーとマライヤ・キャリー
⑥ 1富士山 2北岳
⑦ 1信濃川 2利根川
⑧ 1香川県 2大阪府
⑨ 1伊藤博文 2黒田清隆

【参考】
『マーケティング原理 第9版』フィリップ・コトラー・ゲイリー・アームストロング著 ダイヤモンド社
『小さな会社を強くする ブランドづくりの教科書』岩崎邦彦著 日本経済新聞社

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居てくれると有難いライバル(良い競争業者②)

前回見たように、自社の地位を高めたり保全してくれたりするような企業を良い競争業者といいます。特に成熟産業において既に確固たる地位を自社が築いている場合には、良い競争業者の存在は有難いものです。ここでは良い競争業者が存在することの意義や良い競争業者の条件について、マイケル・ポーター(HBS教授)の考えを整理してみます。


■良い競争業者が存在することの意義

良い競争業者が存在することの意義について、マイケル・ポーターはおおよそ次のことを挙げています。

(1)自社の競争優位を高める
①需要変動の吸収

需要変動の変化に応じて設備を増強させていては過剰設備化する。よって変動部分は下位企業に任せてしまうことで、安定操業を図ることができる。

②比較対象を設けることで差別化する
比較対象がなければ差別化はできないし買い手は購入に躊躇する。自社商品をライバルと比較させることで際立たせる。

③魅力のないセグメントを押し付ける
収益性が見込めないセグメントをライバルや下位企業に押し付ける。ただし当初、魅力がないと思われたセグメントに参入した企業がそこで力を付け、魅力あるセグメントへの突破口とする場合や、初めは魅力がないと思われたセグメントがやがて大きなセグメントになる場合があるので注意する(例:1970年代に米国の小型車市場に参入した日本メーカーのケース)。

④高コスト業者の存在に甘えることができる
他社が高コスト(高価格)であると、それを基準に自社も高い価格を設定することができる。

⑤業界の地位を高めることができる
複数の企業で業界団体を組織してロビー活動を行えば、行政への交渉力が増す。

⑥独占禁止法違反による会社分割の恐れがなくなる
一定以上の市場シェアを握ると独禁法違反で会社分割される恐れがある。よってある程度のシェアを他社に取らせる必要がある。

⑦切磋琢磨により結果的に競争力が増す
たとえばかつて日本企業は長年国内で激しい競争を業界内で繰り広げた結果、技術力やコスト競争力を高め、その後の海外市場への進出において外国企業に対して優位性を発揮したと言われている。
※本ブログの「アメリカと日本の戦略パターンの違い(対話としての競争)」も参照してみてください。

(2)業界全体の発展に寄与する
①技術の進展が速まり業界の魅力が増す
画期的な新製品の市場を立ち上げる際に、複数の企業が競って開発を進めればそれだけ技術の進展が速まる。

②サーポーティング・インダストリーが形成される
業界全体の規模が大きくなれば、業界に原材料や部品、ソフトウェアや各種サービスを提供するサーポーティング・インダストリー(供給業者)の育成が促され、それが業界のさらなる発展につながるという好循環が生まれる。

③業界への注目度が高まり需要が喚起される
業界内の各社がさかんに広告などマーケティング活動を行うことで、業界への注目度が高まり、需要が喚起される。

(3)新規参入を阻止する
複数の企業で業界全体を棲み分けていれば、新規参入の隙がなくなる。また業界にとって好ましくない企業の新規参入に対し、共同で対抗することができる。そもそも既存企業間で激しい競争が行われていれば、それが新規参入を躊躇させる(参入障壁の形成)。


■良い競争業者と悪い競争業者

順番が前後しましたが、そもそも良い競争業者とはどういう業者なのでしょうか。ポーターは、良い競争業者の条件として、現実的な目標を掲げ、ルールをわきまえており、自らの弱みを知っていることなどを挙げています。つまりお行儀が良くて分をわきまえている業者です。

一方、悪い競争業者とは、その逆、大胆でこれまでの業界慣習にとらわれない業者であり、業界の攪乱者です。異業界からの参入者や外国企業が典型例でしょう。

前回のコカ・コーラとペプシの話に戻ると、ペプシにとっては入手したコカ・コーラのレシピをばらしてどこの馬の骨とも分からない新規業者に参入されるより、激しい競争を繰り広げながらもツーカーの中であるコカ・コーラとの競争の継続を選んだと言えます。

【参考】
「競争優位の戦略」M.E.ポーター著 ダイヤモンド社

ライバル企業の隠し味を知ったらどうする?(良い競争業者①)

コカ・コーラのレシピは門外不出のトップ・シークレットであり、社内でもほとんど知っている人はいないと言われます。それをライバル会社のペプシが知ることができたとしたら、どうなるでしょうか。

■もしペプシがコカ・コーラのレシピを入手したら?

2006年、コカ・コーラの社員数人が、コカ・コーラのレシピを持ち出し、ペプシに売りつけようとしました。さて、あなたがペプシの幹部だったとしたら、どうするでしょうか?すぐに浮かぶのは次の2つです。

①レシピを公表し、コカ・コーラの優位性を喪失させて打撃を与える。
②公表はせず、同等のものを自分たちでも製造し、コカ・コーラのシェアを奪う。

企業の戦略を考える上では、「ある行動の結果、次にはどうなるか」といったように先々の影響を見越した分析(動態的分析)が必要になります。確かにレシピを入手して上記の2つのいずれかを採ればコカ・コーラに打撃を与えることができます。しかしそれは、ある時点での分析(静態的分析)にすぎません。

実際にペプシはどちらも取らず、違法にレシピが持ち出されたことを当局に通報し、おとり捜査に協力したのです。


■ライバルは叩き潰せばよいわけではない

では、ペプシはなぜ当局に通報したのでしょうか。そこには道義的な理由だけでなく、経済的な理由が存在したはずです。

もしレシピを公表したら、誰でもコカ・コーラと同じものを作れるようになります。その結果、コカ・コーラの価格が下がり、よほどのファンでなければペプシ・コーラの愛飲者もコカ・コーラに流れるはずです。その結果、ペプシ・コーラも値下げに踏み切らざるを得なくなるかもしれません。

また公表はせず、同等のものを自分たちでも製造したらどうなるでしょうか。この場合も同じ結果が予想されます。コカ・コーラとペプシが作った擬似コカ・コーラは完全な代替財となり、価格競争に陥ることになります。ペプシとしては期待した利益を得られるわけではありません。

結局のところ何も経済的な利益が得られず、違法行為を通報すれば自分のイメージアップにもなるし、もしかしたらコカ・コーラに恩を着させることもできるかもしれないとペプシ陣営は判断したのかもしれません。

このように単にライバル企業を叩き潰してしまうと、かえって自分たちにとばっちりが来ることがあります。逆に自社の地位を高めたり保全してくれるような企業を良い競争業者といいます。

【参考】
「ヤバすぎる経済学」スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー著 東洋経済新報社

良い劣等感と悪い劣等感

劣等感は他人との比較で生まれます。劣等感というとネガティブな感情であり、避けるべきものというイメージがあります。しかしながらその一方で、現状に満足していても進歩は生まれないということも事実です。


■自分より優れた人との比較がモチベーションを生む

本ブログの「挑戦意欲を引き出すもの(達成動機説②)」で触れたように、他人との競争よりも自身の成長に焦点をあてたほうが望ましいのですが、そうはいっても自分の成長を測るためには他人との比較がないと難しいことが多いでしょうし、また他人のことは気にするなといってもなかなか難しいものがあります。

他人との比較には2つあり、自分より実力が上の人と比べるのが上方比較、下の人と比べるのが下方比較です。

モチベーションの高い人は、上方比較を用いて「あの人に比べてまだまだ自分は力不足だ」「あの人に負けないようにもっと力をつけなければ」と自分を奮い立たせるため、能力開発が進みます。

一方、モチベーションの低い人は、下方比較を用いて「あの人よりマシ」と自分を安心させるため、なかなか能力が開発されません。



■劣等感を自分の成長につなげるには?

このように他人と比較し劣等感を感じることはモチベーションにとって必ずしも悪いことではありません。しかしながらその一方で、劣等感というと屈折した感情がつきまとい成長につながらないのではないかと思うかもしれません。それはそのとおりで、劣等感にも成長につながる場合とつながらない場合があります。

自分が劣っていることに対して感情的に反応するクセがある人は、自己嫌悪を感じ落ち込んでしまうため、モチベーションが低下してしまいます。そして、それを避けるために下方比較して自分を慰めてしまうのです。

一方、自分が劣っていることに対して認知的に反応するクセがある人は、どこがどう劣っているのか、どうすれば力をつけることができるのかと冷静に頭で考えるため、自己嫌悪を感じてもそれを向上心に結びつけることができます。



■「仕返し」ではなく「見返し」

劣等感というネガティブな感情をモチベーションにつなげるには、感情的なコントロールが必要になります。そこで求められるのは「仕返しの心理」ではなく「見返しの心理」です。

「仕返し」とは、妨害や誹謗中傷などして自分より上の人の足を引っ張るような行為のことです。この場合、人間関係にばかり気を取られ、仕事での成果や能力開発が疎かになります。

一方、「見返し」とは、他人が自分を認めないわけにはいかないほどの実力をつけてみせるといった意気込みです。この場合、仕事の成果や能力開発に集中できるので、高いモチベーションを持って仕事に向かうことができます。


【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

ポジティブは良いことか?②

前回「ポジティブは良いことか?①」では、セグリマンのポジティブ心理学をもとに「悪いことがあったときに、それを一時的とみなし、限定的にとらえ、自分を責めない」という楽観的な姿勢によって物事に粘り強くあたることができるとしました。

■楽観的ならそれでいいのか?

悲観的よりも楽観的なほうが良いのは、感覚的にも理解しやすいでしょう。しかしながら、楽観的ならそれでよいのかというと疑問を感じる方もいるでしょう。

セグリマンは、失敗したときに自分のせいにするより、外的な要因のせいにする人は、自尊心を失うことがなく、物事に粘り強くあたることができるとしていますが、何でもかんでも自分のせいではなく、他人のせいにするほうがモチベーションが上がってよいという主張には疑問があります。

本ブログの「褒め方の法則(承認欲求②)」で触れたように、結果の原因を自らの努力という可変的なものに求めることで、困難な事態に対しても楽しみながら根気よく取り組むことができるからです。外的な要因という自らのコントロールが及ばないもののせいにしていては改善意欲は高まりません。


■ネガティブで不安が強いのに成果を出している人もいる

また、やたら自信満々だったり脳天気だったりして、人の注意を聞かず、同じようなミスばかり繰り返してしまうようなタイプの人もいるでしょう。ミスにめげないという点ではポジティブなわけですが、常にポジティブな人が上手くいくとは限りません。その一方で、ネガティブで不安が強いのに成果を出している人もいます。

ノレムとキャンターは、過去のパフォーマンスに対する認知と将来のパフォーマンスに対する期待の2軸から、方略的楽観主義者(過去:楽観的、将来:楽観的)、非現実的楽観主義者(過去:悲観的、将来:楽観的)、防衛的悲観主義者(過去:楽観的、将来:悲観的)、一般的悲観主義者(過去:悲観的、将来:非観的)の4つに分類し、この中で防衛的悲観主義者が結果的には最も上手くいくと指摘しています。

防衛的悲観主義者とは、過去のパフォーマンスに対してポジティブな認知を持つが、将来のパフォーマンスに対してはネガティブな期待を持つタイプです。
仕事を任せると上手くこなすし、本人にも自覚があるのですが、いざ新しいことを任せられると上手くいくかどうか非常に不安になるタイプです。

これから起こることに対しては徹底的にネガティブに考え、「最悪な事態」をあらゆる角度から悲観的に想像しては不安になるわけですが、その不安を解消すべく用意周到に準備し、全力で仕事をすることで上手く乗り切るというわけです。


■根拠のない楽観主義は余計なお節介

ノレムとキャンターは、次のような実験も行っています。

集まってもらった防衛的悲観主義者と楽観主義者に対して、知能テストに似た問題をやってもらった。始める前にテストの出来を予想してもらい、さらに半分の人に対しては「あなたの実力なら、きっと上手くやれるはず」と声をかけ、テストを行ったところ、次の結果が得られた。

・声をかけられなかった防衛的悲観主義者は楽観主義者よりも自分の出来を低く予想した。
・声をかけられた防衛的悲観主義者は楽観主義者と同様に自分の出来を高く予想した。
・テストの結果は、声をかけられた防衛的悲観主義者は、声をかけられなかった防衛的悲観主義者よりも成績が悪かった。



この実験から言えることは、防衛的悲観主義者に対しては、悲観的なままのほうがよく、変に楽観的になるとかえってパフォーマンスが落ちるということです。不安を解消すべく用意周到に準備し、全力で仕事をすることで上手く乗り切るというタイプですから、変に不安を解消してあげると余計なお節介になりかねません。

防衛的悲観主義者は不安を解消すべく用意周到に準備するわけですから、準備の不安を解消してあげることが有効です。どんな準備をすれば上手くいくかに焦点をあててアドバイスするという姿勢が望まれます。

【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

ポジティブは良いことか?①

ポジティブな人はネガティブな人と比べて、勉強や仕事の成績が良く、うつや感染症などの病気にかかりにくい、寿命も長いと言われています。今回はポジティブな人が本当によいパフォーマンスをあげるのか検証したいと思います。


■楽観主義が成功の秘訣?

ポジティブ心理学を提唱するセリグマンは、成功と失敗を分ける要因として、能力や努力のほかに、楽観主義・悲観主義に注目しています。

彼が大手の生命保険会社の外交員を対象に楽観度テストで調査したところ、楽観度で下位4分の1に入る人は、上位4分の1に入る人に比べ、3倍も離職する確率が高く、上位4分の1に入る人は、下位4分の1に入る人より50%多く保険契約を成立させていることが分かりました。


■楽観主義者と悲観主義者の違い

セリグマンは楽観主義者ほど物事に粘り強く取り組むと考え、楽観主義者と悲観主義者の違いについて、次の3つを挙げています。

(1)永続性
悲観主義者は、自分に起こった不幸は永続的であり、悪いことは続くものであり、いつまでも自分の人生に影響を与えるだろうと考える傾向があります。たとえば悪い出来事があると、「私はもう立ち直れない」「ダイエットなんて上手くいかない」「上司は嫌な奴だ」というように、悪いことを「いつも」とか「決して」といった言葉で捉え、悪いことがいつまでも続くと考えます。

一方、楽観主義者は、「私は今疲れている」「ダイエットは外食すると上手くいかない」「上司は今は虫の居所が悪いようだ」といったように、「いま」「ときどき」「最近」という言葉で捉え、悪いことは一過性のものだと見なす傾向があります。当然、不幸は一時的なものと捉えたほうが物事に粘り強くあたることができます。

(2) 普遍性
悲観主義者は、悪い出来事があったとき、「上司はみんな不公平だ」「本なんか役に立たない」といったように、嫌なことを普遍化する傾向があります。

一方、楽観主義者は、「あの上司は不公平だ」「この本は役に立たない」といったように、嫌なことを普遍化せず、特定のものに限定する傾向があります。当然、ある分野での不幸をすべてのことに適用するより、特別な事象として捉えるほうが物事に粘り強くあたることができます。

(3)個人度
悲観主義者は、悪い出来事があったとき、「私には才能がない」「私はどうも不安定なところがある」というように、自分のせいにして自分を責める傾向があります。

一方、楽観主義者は、「私はついていない」「私が不安定なのは育った環境のせいだ」というように、運や境遇など自分以外の要因のせいにする傾向があり、自分を責めません。

失敗したときに自分のせいにするより、外的な要因のせいにする人は、自尊心を失うことがなく、物事に粘り強くあたることができるとされます。

以上、まとめると次のようになります。

楽観主義者は、悪いことがあったときに、それを一時的とみなし、限定的にとらえ、自分を責めない。

悲観主義者は、悪いことがあったときに、それを永続的とみなし、普遍化する傾向があり、自分を責める。

モチベーション管理の観点からは、永続性・普遍性・個人度という物事の認知の仕方をなるべく楽観主義的に捉えられるように変えていくことで、逆境に負けないモチベーションを養わせることができるとされます。

(つづく)

【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

一番大事なのは自分の意思で行っているかどうか(自己決定理論)②

前回、自己決定性の高さに応じて、モチベーション状態を無気力状態から内発的動機づけ状態までの6つに分類しました。

心理学者の榎本博明氏による各状態のチェックリストを載せておきます。なお統合的動機づけは、ほとんど内発的動機づけと重なるのでまとめ、5つのモチべーション状態についてのチェック項目を挙げています(出典:『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社)。

タイプ別動機づけチェックリスト(自己決定)

■自己決定理論をモチベーション管理に活かす

個人の志向や仕事への熟達度などに応じて、どの動機づけ段階にいるかは様々です。また誰でもどれか1つの動機づけのみによって働いているということではなく、複数の動機づけによって働いていることが多いでしょう。

よって部下のモチベーションを一括りにするのではなく、まずは部下それぞれがどのモチベーション状態にいるか把握した上で、それぞれの状況にあったモチベーションの喚起を行うべきです。

内発的動機づけ理論では、「有能さの欲求」「関係性への欲求」「自律性への欲求」を重視しますが(最も重要視されるのが「自律性への欲求」)、これらの欲求に働きかけることで部下のモチベーションを内発的動機づけ状態にシフトさせていくことができます。


たとえば新入社員に基本的な業務ができるようになっていることを伝えてあげることで、本人の有能感が刺激され、無気力状態を脱し、「周囲に認められたいから頑張っている」、さらには「自分の成長につながるから頑張っている」「もっとできるようになりたいから頑張っている」というような状態にシフトさせていくことができます。

上司が「よく頑張っているな」と日常的に声をかけてあげることで、関係性への欲求も刺激され、「怒られるからやっている」という状態から、「周囲に認められたいから頑張っている」といった状態にシフトし、さらには「もっと仕事を上手くやるために頑張っている」という状態にまで高めることも可能かもしれません。さらに習熟度に応じて裁量を与えることで、こうしたモチベーション状態の移行を後押しすることにもなります。

【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

一番大事なのは自分の意思で行っているかどうか(自己決定理論)①

このブログでは、内発的動機づけ理論について取り上げました。少しおさらいすると、次のようなことでした。

<外発的動機づけ>
外的報酬によりモチベーションを高める。
給料・賞与、昇進、賞賛・表彰など。

<内発的動機づけ>
内的報酬によりモチベーションを高める。
熟達感、成長感、充実感、達成感、責任感、使命感、好奇心など。

このうち内発的動機づけはモチベーション要因として強く、外発的動機づけはアメとムチ、すなわち「やらされ感」が強いので内発的動機づけを損ない、積極的な意欲を引き出せないとされます。

やりがいや成長に重きを置く内発的動機づけ理論は私たちのポジティブな価値観に訴えやすく、多くのビジネス書でも内発的動機づけの重要性を主張しています。


■最初から内発的に動機づけられていることは少ない?

しかしながら、単純に「外発的動機づけ=モチベーションに寄与しない」「内発的動機づけ=モチベーションに寄与する」というのは少し単純かもしれません。

ここで勉強と仕事を考えてみます。「良い大学に入りたいから一生懸命勉強する」「みんなに認めてもらいたいから仕事を頑張る」というのは、外発的に動機づけられた状態です。手段や賞賛のために動機づけられているからです。

一方、勉強や仕事が楽しくやりがいがあるから頑張っているのなら、内発的に動機づけられていると言えます。

しかしながら、ここで注意したいのは、「やっているうちに楽しくなる(やりがいを感じるようになる)」ということもあるということです。というより、ほとんどの場合は外発的なこと(必要性や賞賛、目的のための手段)がきっかけで始めたのが、没頭しているうちに好きになったということではないでしょうか。

最初から勉強が好きな子供や、最初から現在の仕事が好きな社会人は、ほとんどいないでしょう。


■内発・外発を善悪に分けるのは単純すぎる

以上を踏まえると、単に「内発的動機づけ=○」「外発的動機づけ=×」という図式は成り立たなくなります。そこで重要なモチベーションの基準となるのが、自分の意思で行っているという自己決定の感覚です。本ブログでも「自由であるための抵抗(承認欲求③)」で取り上げましたが、内発的動機づけ理論のデシも自己決定の感覚を最も重視しています。

先ほどの例で言うと、仕事でも勉強でも、そのものの楽しさではなく、何か他の目的(出世する、社内で一目置かれる、良い大学に入るなど)のためであっても、アメやムチで無理やりやらされているのではなく、自分の意思で行っているんだと思えれば、モチベーションは高まるでしょう。


■自己決定理論

自己決定の感覚を扱ったものに、デシやライアンの自己決定理論というものがあります。自己決定理論では、手段としての行動を促す外発的動機づけの中にも自己決定性が高いものがあることを認め、内発的動機づけと外発的動機づけの二分法をとるのをやめています。

そして以下のようにまったくやる気のない状態(非動機づけ=無気力)と内発的動機づけの両極の間に、自己決定の度合いに応じて何段階かに分けて外発的動機づけを位置づけています。

自己決定理論

無気力:
まったくやる気がない、動機づけが欠如している状態。


外的統制:
報酬や罰によって他人や組織から強制されて(仕方なしに)働くような状態。


取り入れ的動機づけ:
人から認められたい、恥をかきたくない、成績をあげたいから頑張るといった状態で、多少自己決定的な部分があるが、いまだ外発的な動機づけ
である。ただしそれによって知識やスキルがつき、そのことが有能感や成長感を刺激し、内発的動機づけに近づくこともある。

同一化的動機づけ:
将来役に立つと思って学ぶ、自分の夢の実現のために頑張る、経験を積むことが成長につながるはずだから辛抱するといった場合のように、自分のためになるといった思いで学んだり働いたりするときの動機づけ。自分の成長のためなど何らかの目的のための手段として頑張っているが、それが習慣化することで、目的意識も薄れていき、ごく自然に勉強を頑張っている、当然のように仕事に没頭するというように、内発的動機づけによる行動に進化することが期待される。

統合的動機づけ:
自己決定の度合いが非常に強く、何かのためという意識はなく自分にとって意味のあることだからということで無理なく自然に学んだり働いたりするときの動機づけ
を指す。内発的動機づけとほぼ重なる状態。

内発的動機づけ:
完全に自己決定的で、学ぶことが楽しい、知識が増えるのが嬉しい、できないことができることが楽しい、もっと上手くなりたい、働くことが楽しいなどといった思いで学んだり働いたりするときの動機づけ
を指す。
(つづく)

【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

テロリストに見る組織の病理(承認欲求④)

テレビなどでのテロの解説をみると、貧困などの社会構造説や精神的病理説が多く、あまり社会心理学的な観点からの論評は見られないように思います。別に貧困でなくても、精神的な疾患がなくてもテロを起こす人はいます。ついでにいくつかの社会心理学の考え方を取り上げてみます。


■誤った正義、過度な自信、内向き志向がテロを生む

ゾメルンらは社会運動(反社会運動)に身を投じる者の特徴として、不正義の知覚、自己効力感、社会的アイデンティティの3つを挙げています。

「現在の政治体制は不公正だ」「多くの人が虐げられている」といったことが不正義の知覚です。これは自らの理想と現実とのギャップによって生じます。

自己効力感は「自分が世界を変えることができる」という思いのことです。達成志向や支配欲が強く、他との衝突を厭わない人にこの傾向が強いです。

社会的アイデンティティは集団と自分を同一視している程度のことです。自分の所属集団である内集団が外集団より不利な状況にあれば、不満が高まります。

不正義の知覚、自己効力感は、前回触れた高学歴や富裕層出身の若者と重なります。また社会的アイデンティティについては、国家権力との対立が社会運動集団の行動を先鋭化させることと整合的でしょう。


■自由であることの不安がテロを生む

フロムは、人々は一般に曖昧な状況や不確実な状況におかれた場合、不安になり、その不安から逃れて、安心感を得ようとして権威のある人物に盲目的に追従してしまうという考えを主張しました。自由とは、先が見通せない将来に対し、自己責任を要請することです。そこから逃れるために自己決定を放棄し、カリスマ的なリーダー(宗教的主導者や政治的独裁者を含む)に盲従してしまうのです。

必ずテロリスト集団にカリスマ的なリーダーが存在することは偶然ではありません。


■テロリストであり続けることに意味がある

ディツラーは、テロリストはプロセスの中に生きていることを指摘しています。彼はテロリストにとって目標達成よりもテロリストになって集団と一体化していくプロセスと、それを成員が相互に確認することのほうが大切であると述べています。目標が達成されると、集団内での存在意義を失わないために、より過激な目標が達成され、ますまずエスカレートしていくのです。テロリストには意味のある目標などなく、意味のあるのは自分がテロリストであり続けるプロセスなのです。


■テロリストの行動は会社組織にも当てはまる

以上のようにテロリストは過度に自己効力感が高く承認欲求が強いということがわかります。自分より弱い無防備な人々を狙うのは自己効力感の表れでしょう。

相模原19人殺害事件の容疑者が大森衆院議長に送りつけた文章や自供内容をみても、自信過剰である反面、身勝手な承認欲求が目に付くという相反する二面性が皮肉なところです。

さてテロリストというと縁遠い話に思えます。しかし、「外部からのプレッシャーが過度な内向き志向を生み、自分たちの能力への過信と相まってハイリスクな行動に駆り立てる」「曖昧な状況や不確実な状況におかれた場合、不安にかられ、社内の権力者に盲従する」「それが有効であるかはともかく、組織内での存在感を確保するための方策に邁進する」といったことは一般の組織でも見られる現象ではないでしょうか。

【参考】
『グループ・ダイナミックス』釘原直樹著 有斐閣

自由であるための抵抗(承認欲求③)

人から認められたいという承認欲求を満たすためには、同じく指示を出すにも、「こうしてくれ」「こんな風にやってほしい」などと一方的に命じるのではなく、「こうして欲しいのだが、どう思う?」「こんな風にするとよいと思うが、どうだろう?」などといったように相談口調で伝えたほうが相手はモチベーションを持って指示に従うことができます。このことは経験的にも分かるかと思います。

これは私たちが自律欲求を持つからです。一方的な指示は「させられ感」を感じモチベーションが低下するのに対し、相談口調であれば、信頼されている、尊重されていると感じ、承認欲求を満たすことができます。


■自由回復のための抵抗

以上の内容は、心理的リアクタンスという心理学の概念で説明することができます。心理的リアクタンスとは、人が自分の自由を外部から脅かされた時に生じる、自由を回復しようとする動機的状態のことです。

せっかくやる気になったのに、そのそばから「ちゃんとやれよ」「そろそろやらないとまずいじゃないか」と言われたら、やる気がなくなるでしょう。学生の頃、せっかく勉強する気になったのに、親から「勉強しなさい」と言われてやる気がなくなった経験がある方も多いと思います。

人から指示されると、逆のことをやりたくなるといったこともあります。たとえば「医者になれ」と親から言われ続けたことに反発して他の職業を選ぶといったケースです。このように説得者の意図した方向とは逆の方向に被説得者の意見や態度が変わることを、心理的ブーメラン効果と言います。

リアクタンス(抵抗)の大きさは、①その自由が確信されているほど、②その自由が重要であるほど、③自由への影響が大きいほど、大きくなるとされています。
管理者が、プライドの高い部下のモチベーション管理を考える際に考慮するとよいでしょう。


■自由であるがゆえに…

さて話が大きく変わりますが、心理的リアクタンスについてふと思ったことがあります。それはテロとの関係です。

テロリストについての報道をみると、以外に高学歴の若者や富裕層出身の若者が多いことはご存知かと思います。7月1日に日本人7人が犠牲になったバングラデシュ・ダッカの襲撃テロの実行犯もそうでした。歴史的にもオウム事件、連合赤軍や中核派などの過激な学生運動は高学歴の若者が中心となって起こされました。

彼らはいわば特権階級ゆえに自由を確信し、自由を重要視しているはずです。さらにまだ社会生活に溶け込んでおらず、将来に対する不安が自らの自由への脅威と感じており、それへの反発から(結果的にはそれが自滅への道であるにもかかわらず)過激な行動に転じるといった側面があるのではないでしょうか。


【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社
『問題解決をはかる ハーバード流交渉戦略』御手洗昭治、秋沢伸哉著 東洋経済新報社

「1人あたりの生産性を上げる」は正しいか?(需給ギャップ)③

■原因と結果が逆なのでは?

1人あたりの生産性を上げるという議論を聞くと、どうも原因と結果の関係が逆ではないかと思えることがあります。

1人あたりの生産性を上げると(原因)、GDPが増加する(結果)と考えがちです。しかしながらデフレギャップが生じている状態では、実際のGDPは総需要で決まるのですから、総需要が増えてGDPが増加すると(原因)、それを労働人口で割った1人あたりの生産性が上がる(結果)というほうが正しいように思えます。

また、安定化政策により景気が上向けば人手不足感が強まり、その結果、必然的に企業は生産性を高めるような施策を取らざるを得なくなります。マクロ的には掛け声よりも必然的に生産性を上げる環境整備(経済成長)のほうが有効と思われます。

経済財政白書等で日本の低成長あるいは1人あたりGDPの低さの要因を成長会計分析という手法を使って、技術・知識、労働力、資本装備率(労働者1人あたりの機械・設備の充実度合い)などの観点から検討していますが、個人的な意見を言えば、あまり意味がないように思えます。

成長すればそれだけ研究開発に回る資金ができ、機械・設備が充実し、失業者も減少するわけです。まさに「成長はすべての矛盾を覆い隠す(チャーチル)」わけです。


■ただし需要増加につながる供給サイドの改革は有効

ここまで「1人あたりの生産性が上がる=1人あたりの生産量が増える」と捉え、その弊害について述べてきましたが、需要の創出につながるような生産性の向上であれば、GDPの押し上げに寄与します。

具体的には規制緩和や民営化はそれを契機にサービスの質の改善や新産業を育て、新たな需要増加につながる可能性はあります。また労働者の時間あたりの生産性が高まり、それだけ労働時間が減ることで消費増加につながる可能性もあります。

単に供給力を上げるのではなく、需要増加につながるようなサプライサイドの改革が望まれるということです。漠然と「1人あたりの生産性を上げると景気が良くなる」と捉えてしまうと、間違った政策的な結論になりかねません。感覚的にとらえるのではなく、具体化・客観化する姿勢が望まれます。


■28兆円規模の経済対策の効果は?

今月2日、政府は臨時閣議で、「未来への投資」の加速を目的として、リニア中央新幹線の全線開業の前倒しなどを盛り込んだ、事業規模が28兆円余りとなる新たな経済対策を決定しました。政府はこれにより、GDPを実質で1.3%程度押し上げることが見込まれるとしています。

今回の予算案をGDPギャップの観点から検討してみます。まず28兆円の事業規模がすべてGDPギャップの解消(GDPの押し上げ効果)に当てられるわけではありません。

通常、GDPの押し上げ効果に直接寄与する予算部分を「真水」といい、具体的には、予算執行側(諸官庁)あるいは企業・国民から見て資金の返済義務のない公共投資や給付金などが該当します。一方、予算執行側(諸官庁)あるいは企業・国民から見て資金の返済義務のあるもの、たとえば低利融資や債務保証などは「真水」には当たりません。

この観点から今回の補正予算の一般会計と特別会計の「真水」部分を概算すると8~9兆円規模となり、現在の日本のGDPギャップの縮小には貢献すると考えられます。


■日銀は絶好のタイミングを逃した?

その一方で7月末の日銀金融政策決定会合では、現在の年間80兆円規模の量的金融緩和規模が維持されることが決まりました。財政政策と金融政策のポリシーミックスが経済成長には不可欠であり、金融緩和の効果はタイムラグが生じることを考えると、日本銀行は絶好のタイミングを逸した形になります。

今回の金融政策決定会合後の総裁定例記者会見を見ると、次回(9月)の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」導入以降の政策効果について総括的な検証を行うこととしたとあります。2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するためには、今後、何が必要か、という観点から検証を行っていきたいとあり、今後の追加緩和策に期待したいところです。

【参考】
日本銀行/金融政策決定会合の運営/総裁定例記者会見

「1人あたりの生産性を上げる」は正しいか?(需給ギャップ)②

1回間を置きましたが、前々回の『「1人あたりの生産性を上げる」は正しいか?(需給ギャップ)①』では、デフレギャップ(需要不足)が生じている場合は実際のGDPは総需要によって決まること、現在の日本はデフレギャップが生じていることを取り上げました。
需給ギャップ
■デフレギャップ下で生産性を上げると?

現在のようなデフレギャップの状態で1人あたりの生産性を上げるとどうなるでしょうか。1人あたりの生産性を上げるということは、潜在総供給を上げることです。総需要が足りないのに潜在総供給を上げてもデフレギャップが拡大するだけになります。言うなれば需要が見込めないのに設備投資を行って生産能力を高めるようなものです。

この点については、3月に国際金融経済分析会合で来日したスティグリッツ教授が「適切な需要なしには、サプライサイド(供給サイド)の改革は、失業を増加させるだけで、経済成長には寄与しない。」と指摘しています。需要がない中で1人あたりの生産性を上げれば、それだけ人手が余るからです。


■今必要なのは安定化政策

本ブログの「アベノミクス再確認」でも触れましたが、経済政策には次の3つがあります。

成長政策:
GDPの長期的な成長を目標とする。「GDP=国内総生産」であるので、生産の量(や質)を高める政策と言える。具体的には自由化と規制緩和がこれに該当する。

安定化政策:
短期的な景気の安定化(好況・不況の緩和)を図る政策。財政政策(公共投資や増税・減税、給付金支給など)と金融政策(中央銀行による貨幣量のコントロールなど)がこれに当たる。

再分配政策:
格差是正を図る政策。累進課税による高所得者から低所得者への所得再分配などがこれに当たる。

成長政策は潜在総供給を上げる政策です。構造改革は成長政策に該当します。安定化政策は潜在総供給と総需要のミスマッチ(超過供給・超過需要)を解消させるための政策です。

現在の日本のようにデフレギャップ(需要不足)が生じている場合には、まずはその解消、つまり安定化政策が求められます。確かにデフレギャップ解消後には潜在総供給はGDPの上限にはなり、その点では潜在総供給を上げることは否定されるものではありませんが、現在においては優先度が下がるということです。
(つづく)

【参考】
首相官邸ホームページ/国際金融経済分析会合/第1回 国際金融経済分析会合 議事次第・配付資料

中小企業診断士第1次試験に臨まれる方へ

さて今度の土曜・日曜に中小企業診断士試験の第一次試験が行われます。私は某受験指導校(ほとんどバレてる気が…)の中小企業診断士講座で講師を担当しておりますが、基本的にこのブログでは教室でお話するような試験対策的な内容は扱いません。

とはいうものの私の受講生の方でこのブログをお読み頂いている方もいらっしゃいますので、今回は特別に受講生の方へのエールをお許し頂ければと思います。

受験指導という立場から講義中にはあまり申し上げませんでしたが、素直に言いますと、「1年間続けただけでも凄い」といつも感じておりました。お一人お一人に、ひと方ならぬご苦労があったと思います。

ただ受験なさる皆様にとっては、「勉強してタメになった」だけでは終われないはずです。私としても必ず結果を出して頂きたいと強く思っております。

そこで講義でもお話したことですが、最後に「当日気をつけていただきたいこと」を確認させて頂きたいと思います。

・経済・財務はすぐに解き始めないこと。2~3分で全体像を確認し、ハマりかどうか把握した上で、優先的に解く問題とそうでない問題を識別すること。

・万が一、ハマリ科目だった場合は、どうせ得点調整が入りますから、4点ないし8点得すると前向きに考えること。パニックになった人が落ちる。

・企業経営は休憩時間中にテキストを見ても、どうせその内容が出る確率はほとんどないので、次に挙げる取り組み姿勢のイメージにあてること。

・企業経営は不適切な選択肢の作り方を意識すること(比較、用語の置き換え、因果関係、不足)。「知っているか」ではなく「気が付くか」で決まる。



「楽観主義者はドーナツを見、悲観主義者はドーナツの穴を見る。(オスカー・ワイルド)」 

前向きに、ただし冷静に取り組むことで望む結果を出して頂きたいと思います。
合格を祈念しております。


※次回は需給ギャップの続きを見ます。

「1人あたりの生産性を上げる」は正しいか?(需給ギャップ)①

「1人あたりの生産性を上げることが大事だ」と経済学者で主張する方がいます。これについて違和感を持つ方は少ないでしょう。「1人あたり生産性を上げる」というのも曖昧ですが、おそらく「1人あたりの生産量を増やす」というイメージが強いのではないでしょうか。
一見するとよさそうなことであっても、きちんと具体化していないと誤った政策が導入されかねません。
ここでは、「1人あたり生産性を上げる=1人あたりの生産量を増やす」とどうなるのかについて、GDPギャップの観点から確認したいと思います。


■GDPは何で決まるのか?

1人あたりの生産性を上げることに対し、反対する人は誰もいないでしょう。1人あたりの生産性とは、一般的には1人あたりGDP(GDP÷人口)を指すことが多いです。

一方、GDPは国内総生産(1国内で新たに生産された付加価値の合計)のことです。ですから、1人あたりの生産性を上げればGDPは上がると思われます。

しかしながら、実際のGDPは、多くの場合、1国内の総需要によって決まります。なぜなら需要がある以上に生産しても売れ残りになるだけなので、企業は総需要以上に生産しようとはしないからです。つまり総需要に合わせて総供給が決まり、それが実際のGDPになるわけです。


■インフレギャップとデフレギャップ
需給ギャップ
上図は総需要(曲線)と潜在総供給(右上がりの直線)を表したものです。潜在総供給は、一般的に1国内の労働や生産設備をフル稼働させた場合に実現する総供給の上限と定義されます。作業の機械化・自動化や慣れなどによって毎年0.2~0.5%ずつは上昇します。

厳密には潜在総供給は完全雇用に対応するGDP水準ではなく、現実のGDPの上限ではありません。あくまで過去のGDP水準から傾向的な水準として算出されるものです。よって、実際のGDPが潜在総供給を超えることもあり、潜在総供給がGDPの上限というわけではありません。ただし、そのような厳密性はともかく、潜在総供給を総供給の上限として扱うことが多いので、本ブログでもそれに倣うことにします。

一方、総需要は、国内の消費・投資・輸出などによって決まり、浮き沈みがあります。

図の中央より右側のように「総需要>潜在総供給」の場合、潜在総供給以上の総供給は実現できませんから、実際のGDPは潜在総供給によって決まります。この場合、物価上昇の圧力がかかり、総需要と潜在総供給の差をインフレギャップ(供給不足に相当)と言います。

図の左側のように「潜在総供給>総需要」の場合、先述のように実際のGDPは総需要によって決まります。この場合、物価下落の圧力がかかり、潜在総供給と総需要の差をデフレギャップ(需要不足に相当)と言います。



■現在の日本の需給ギャップは?

内閣府ではGDPギャップを公表しています。GDPギャップとは、「(実際のGDP-潜在GDP)÷潜在GDP」のことで、潜在GDPは上述の潜在総供給にあたります。

2000年以降のGDPギャップの推移を見ると、2006年末から2008年初頭にかけてはプラス(インフレギャップ)ですが、それ以外の期間はほぼマイナス(デフレギャップ)です。特に最悪だったのが、リーマンショック後の2008年末で約マイナス8%に達しました。

2012年度以降のGDPギャップの4半期ごとの推移は次のとおりです。

GDPギャップ

第2次安倍政権が本格的に始動した2013年度以降、縮小傾向にあったGDPギャップは2014年4月(第2四半期)の消費税8%導入以降、拡大してしまっています。現在は10兆円程度のデフレギャップ(需要不足)と言われています。
(つづく)

【参考】
ダイヤモンド・オンライン/高橋洋一の俗論を撃つ!/賃金が上昇するのはGDPギャップ解消の半年後http://diamond.jp/articles/-/67856


褒め方の法則(承認欲求②)

前回、モチベーションに影響を与えるのは、褒めるかどうかではなく、褒め方だと述べました。今回も引き続き、褒め方が個人にどのような影響を与えるのか見ていきましょう。

■褒め方によってモチベーションへの影響が異なる

褒め方の影響については、ミュラーとドゥウェックによる次のような実験があります。

子供たちに簡単な知能テストのようなパズル解きのような問題をやらせた。終了後にすべての子供たちに、みんな優秀な成績で80%以上正解だったと伝えた。その後、子供たちを3つのグループに分け、それぞれ褒め方を次のように変えた。

第1グループ:「こんなに成績が良いのはまさに頭の良い証拠だ。」
第2グループ:何も言われなかった
第3グループ:「こんなに成績が良かったのは一生懸命がんばったからだ。」

そして次にやってもらうパズルを2種類(簡単に解けそうなパズルと難しそうなパズル)を用意し、どちらがよいかを子供たちに尋ねた。子供たちが選んだ結果は、次のとおりである。

頭の良さを褒められたグループ:67%が簡単なパズルを選んだ。
何も言われなかったグループ:45%が簡単なパズルを選んだ。
頑張りを褒められたグループ:簡単なパズルを選んだのは8%にすぎず、ほとんどが難しいほうのパズルを選んだ。


この実験から言えるのは、褒め方によってモチベーションへの影響が異なるということです。「頭の良さ」を褒められると、その期待を裏切りたくないという思いが強まり、確実にできそうな優しい課題を選ぶようになります。一方、「頑張り」を褒められると、もっと頑張ろうという思いが刺激され、難しい課題にチャレンジしようとします。


■褒め方がストレス耐性を決める

この実験にはまだ続きがあります。

<2回目のテスト>
次に1回目よりも難しいテストを全員にやらせた。誰もが自分の成績は前よりも良くないと感じるほど難しいもので、子供たちには全員が50%以下しかできなかったと伝えられた。

「パズルは楽しかったか」「家に持ち帰ってやってみる気はあるか」と尋ねたところ、「頭の良さ」を褒められたグループは、他の2つのグループと比べ、パズルを楽しく感じることができず、また家に持ち帰ってまでやろうという意欲は低かった。さらに、うまくできなかった原因を尋ねると、「頭の良さ」を褒められたグループの子供は、「頭が悪いから」と、成績の悪さの原因を自分の能力不足のせいにする傾向が見られた。

一方、他の2つのグループの子供たちは、「頑張りが足りなかったから」と、成績の悪さの原因を自分の努力不足に求める傾向があった。


<3回目のテスト>
最後に1回目と同じくらい簡単なテストを全員にやらせた。1回目の後に「頭の良さ」を褒められたグループの成績は20%近く低下したのに対し、「頑張り」を褒められたグループの成績は25%程度上昇した(「何も言われなかった」グループはほぼ変わらない成績)。


以上の結果からも先の結論が裏付けられます。さらに才能や頭の良さを褒められると、上手くいかなかった結果の原因を努力といった可変的なものではなく、資質といった固定的なものに求めがちになり、困難な事態への耐性が損なわれるということがわかります。一方、頑張りを褒められれば、結果の原因を努力に求めるようになり、困難な事態に対しても楽しみながら根気よく取り組むことができます。


■承認欲求に囚われすぎない

ここまでは部下を育てるためにはどのように接すればようかという観点から述べてきましたが、最後に1人1人はどのように振る舞うべきかについて触れておきます。

前回述べたように、「人から認められたい」という承認欲求が強すぎると、常に周囲の反応を見ながら行動してしまう、褒められないとモチベーションが下がってしまうといったことにもなりかねません。

よって、あまり他人の評価に頼りすぎないことが求められます。具体的には「自分なりの評価軸を設けて成長を実感する」ということです。

自己評価軸には、他人と比べる相対比較と、自分の過去の実績と比べる個人内比較がありますが、大事なのは個人内比較です。「どれだけ成績が上がったか」「どれくらい顧客に感謝されたか」「どれだけ時間を節約できたか」など自分の過去の実績と比べ成長を確かめることで、上司の評価に一喜一憂することなくモチベーションを維持できるようになるでしょう。


【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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