表の承認と裏の承認(承認欲求)
承認のしかたには表の承認と裏の承認があります。表の承認の例としては、会社(上司)による昇進制度や昇給制度があります。裏の承認には、表彰制度や同僚などによる評価・評判、顧客などの取引先からの日頃の評価・感謝、社外での研究会での評価、マスコミなどで取り上げられることでの一般人からの評判などがあります。
表の承認については、そもそも昇進や昇給の機会が限られていること、さらにともすればエゴ型やる気(自尊心に基づいたとしたやる気)を促しかねないという問題があります。
本ブログの「挑戦意欲を引き出すもの(達成動機説②)」で触れたように、達成動機には、競争的達成動機(他者を凌ぎ、他者に勝つことで評価されることを目指す)と自己充足的達成動機(他者や社会の評価にはとらわれず、自分なりの達成基準への到達を目指す)があります。
アメリカなどでの研究では、「達成動機の強い人=競争心が強い人」という傾向がありますが、日本の場合、個人差はあれど、協調性や社会性に重きを置く傾向があり、必ずしも競争心を煽ることが意欲の向上につながるわけではありません。
表の承認に囚われると、自己充足的達成動機よりも競争的達成動機を促してしまうことになり、本人自身の成長に目を向けさせることができなくなる可能性があります。
■裏の承認を促すためには
裏の承認を促すためには、個人を表に出す文化づくりが求められます。そのためには「個人の業績と一緒に名前を表に出す」「仕事のプロセスを公開する」「ほめ合う文化をつくる」という3つの方法があります。
まず「個人の業績と一緒に名前を表に出す」ですが、日本酒のラベルに杜氏の名前と顔写真を記載する、工作機械に組立者のネームプレートを貼る、洋服にデザイナーの名前を冠する、署名入りの記事にするといったことがあります。
「仕事のプロセスを公開する」とは、働く者にとってのハレの場を提供するということです。熟練技能を要する場面を公開することで、張り合いを感じてもらうのです。職人の技をテレビ番組やインターネット、店頭などで公開しているケースは多く見られます。
「ほめ合う文化をつくる」の典型的な例は、社内での表彰です。また各自に感謝カードを渡しておき、他の社員が自分に協力してくれたり優れたパフォーマンスを示してくれたりした折に、それを渡すといった取り組みが見られます。
■とにかく個人の名前を出せばよいわけではない
ホテルやレストランでは名札をつけて仕事をすることが一般的となっています。またコールセンターなどでもやりとりの最後に個人名を名乗ることが通常です。しかしながら、こうした取り組みの多くは逆にモチベーションを下げる傾向があります。
個人の名前を表に出しているのに、どうしてそのようなことになるのでしょうか。それは名指しでのクレームが多くなったからです。まずサービスやスタッフ職の場合、褒められる機会よりも批判される機会のほうが、そもそも圧倒的に多いということがあります。
さらに多くの場合、マニュアルどおりに業務を速やかに遂行することが求められ、自分の裁量はほとんど認められていません。マニュアルどおりに業務を遂行したら、個人名で怒られたというわけで、これではモチベーションが下がるのは当たり前です。個人名を出すことが単なる監視の手段になっているのです。
個人の名前を出してそれが評価されるためには、まずは自己の裁量を拡大する(任せる)ことが必要条件です。
【参考】
『承認欲求』太田肇著 東洋経済新報社
『最強のモチベーション術』太田肇著 日本実業出版社
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社
『「やる気」アップの法則』太田肇著 日本経済新聞出版社