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表の承認と裏の承認(承認欲求)

■表の承認と裏の承認

承認のしかたには表の承認と裏の承認があります。表の承認の例としては、会社(上司)による昇進制度や昇給制度があります。裏の承認には、表彰制度や同僚などによる評価・評判、顧客などの取引先からの日頃の評価・感謝、社外での研究会での評価、マスコミなどで取り上げられることでの一般人からの評判などがあります。

表の承認については、そもそも昇進や昇給の機会が限られていること、さらにともすればエゴ型やる気(自尊心に基づいたとしたやる気)を促しかねないという問題があります。

本ブログの「挑戦意欲を引き出すもの(達成動機説②)」で触れたように、達成動機には、競争的達成動機(他者を凌ぎ、他者に勝つことで評価されることを目指す)と自己充足的達成動機(他者や社会の評価にはとらわれず、自分なりの達成基準への到達を目指す)があります。

アメリカなどでの研究では、「達成動機の強い人=競争心が強い人」という傾向がありますが、日本の場合、個人差はあれど、協調性や社会性に重きを置く傾向があり、必ずしも競争心を煽ることが意欲の向上につながるわけではありません。

表の承認に囚われると、自己充足的達成動機よりも競争的達成動機を促してしまうことになり、本人自身の成長に目を向けさせることができなくなる可能性があります。


■裏の承認を促すためには

裏の承認を促すためには、個人を表に出す文化づくりが求められます。そのためには「個人の業績と一緒に名前を表に出す」「仕事のプロセスを公開する」「ほめ合う文化をつくる」という3つの方法があります。

まず「個人の業績と一緒に名前を表に出す」ですが、日本酒のラベルに杜氏の名前と顔写真を記載する、工作機械に組立者のネームプレートを貼る、洋服にデザイナーの名前を冠する、署名入りの記事にするといったことがあります。

「仕事のプロセスを公開する」とは、働く者にとってのハレの場を提供するということです。熟練技能を要する場面を公開することで、張り合いを感じてもらうのです。職人の技をテレビ番組やインターネット、店頭などで公開しているケースは多く見られます。

「ほめ合う文化をつくる」の典型的な例は、社内での表彰です。また各自に感謝カードを渡しておき、他の社員が自分に協力してくれたり優れたパフォーマンスを示してくれたりした折に、それを渡すといった取り組みが見られます。


■とにかく個人の名前を出せばよいわけではない

ホテルやレストランでは名札をつけて仕事をすることが一般的となっています。またコールセンターなどでもやりとりの最後に個人名を名乗ることが通常です。しかしながら、こうした取り組みの多くは逆にモチベーションを下げる傾向があります。

個人の名前を表に出しているのに、どうしてそのようなことになるのでしょうか。それは名指しでのクレームが多くなったからです。まずサービスやスタッフ職の場合、褒められる機会よりも批判される機会のほうが、そもそも圧倒的に多いということがあります。

さらに多くの場合、マニュアルどおりに業務を速やかに遂行することが求められ、自分の裁量はほとんど認められていません。マニュアルどおりに業務を遂行したら、個人名で怒られたというわけで、これではモチベーションが下がるのは当たり前です。個人名を出すことが単なる監視の手段になっているのです。

個人の名前を出してそれが評価されるためには、まずは自己の裁量を拡大する(任せる)ことが必要条件です。



【参考】
『承認欲求』太田肇著 東洋経済新報社
『最強のモチベーション術』太田肇著 日本実業出版社
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社
『「やる気」アップの法則』太田肇著 日本経済新聞出版社
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モチベーションの概要②

前回、質の高いモチベーション(エンゲージメント)とは、「個人が自らの成長のために挑戦意欲を持って粘り強く課題に当たっている状態」であり、従業員に高い満足を感じてもらうには質の高いモチベーションをどう実現するかがカギになるということを触れました。


■3つのやる気

私たちのいうやる気(モチベーション)には、少なくとも次の3種類があります。

(1)タスク(課題)型やる気
特定の対象や内容に対し、興味または意義づけ、価値づけを伴うやる気。

(2)エゴ型やる気
自尊心に基づいたとしたやる気。

(3)賞罰型やる気
賞を得る、あるいは罰を避けるために行動する典型的な外発的動機づけ。

タスク型やる気は質の高いモチベーションに直結しやすいのに対し、エゴ型やる気と賞罰型やる気は、確かに行動を開始する契機となり、やる気の量を高める働きはあるものの、必ずしも質の高いモチベーションを促すとは限らず、場合によってはそれを阻害することにもなります。

タスク型やる気が質の高いモチベーションにつながるのは、「こんな自分を目指したい」「達成したい」という成長意欲や挑戦意欲を刺激するからです。一方、エゴ型やる気と賞罰型やる気は、失敗しないようにという意識が強まり消極的な姿勢が取られやすくなります。


■質の高いモチベーションを引き出すためには

質の高いモチベーションとは内発的に動機づけられたものであり、それを引き出すためには次の3つの欲求を満たす必要があります。

①有能さの欲求:自分の能力を発揮したい、自分が優秀だと感じたい
②自律性への欲求:自分で行動を選択したい、自分に任せて欲しい
③関係性への欲求:人々と良い関係を築きたい

そして、これら3つの背後にあるのが承認欲求(自分のことを認めて欲しい)です。

自分が優秀だと感じるためには、周りの評価が裏付けになるはずです。また、「任せて欲しい」とは「認めて欲しい」とニアイコールですし、逆に言えば認められなければ任されることはないでしょう。周りの人と良い関係を築くためには、まず自分が認められることが前提となります。

よって、質の高いモチベーションを引き出すためには、有能さ・自律性・関係性の欲求を満たす必要があるが、そのためには承認欲求に働きかける必要があるということになります。


【参考】
『モティベーションをまなぶ12の理論』鹿毛雅治編 金剛出版
『行動を起こし、持続する力』外山美樹著 新曜社
『承認欲求』太田肇著 東洋経済新報社

モチベーションの概要①

このブログでもモチベーションについていくつか取り上げてきましたが、少しここで整理しておきたいと思います。


■モチベーションに影響を与える要因①(欲求・感情・認知・環境)

モチベーションに影響を与える主要な要因としては、次の4つがあります。

①欲求
「おなかが空いたから何か食べたい」「お金が必要だから働く」といったニーズに基づくものです。「○○が足りないからその不足を埋めようとする(そのための行動を起こす、あるいは行動の意欲が引き出される)」ということで充足欲求と呼ばれることがあります。

生理的・安全の必要性を満たすこと以外に「自己実現したい」「成長したい」「認めて欲しい」といった欲求もあります。

②感情
喜怒哀楽、もっと単純に言えば「快・不快」の感情はモチベーションに影響を与えます。
人間は、快を感じる対象に接近する一方、不快を感じる事象を回避しようとする意思・意欲があります。

③認知(価値・期待)
本人の意識や信念、価値観、期待(主観的な確率)はモチベーションに影響を与えます。
たとえば達成意欲が高い人もいればそうでない人もいて、困難な目標に対する意欲は異なるでしょう。また、与えられた課題に対する実現可能性(主観的な確率)は人によって異なり、それがモチベーションに影響を与えます。

④職場環境
①から③までが個人的な要因であるのに対し、これらに影響を与えるのが環境です。

たとえば上司の指示・支援のしかたや同僚との関係によってモチベーションは変わってくるでしょう。また人的な環境以外にも、評価制度や報酬制度、組織文化などの社会・文化的環境、職場の快適さなどの物理的環境によってもモチベーションは影響されます。


■モチベーションに影響を与える要因②(外発的動機づけ要因と内発的動機づけ)

モチベーションに影響を与える要因としては、以前にも取り上げた外発的動機づけ要因と内発的動機づけ要因があります。

●外発的動機づけ
外的報酬によりモチベーションを高める。
給料・賞与、昇進、賞賛・表彰など。

●内発的動機づけ
内的報酬によりモチベーションを高める。
熟達感、成長感、充実感、達成感、責任感、使命感、好奇心など。


先の4つとの関係で言えば、認知は内発的動機づけと環境は外発的動機づけと関係が強く、欲求と感情は両方の動機づけに関わっていると言えます。


■理想的なモチベーション状態

理想的なモチベーションとは、社員1人1人が、ポジティブな感情を感じつつ気持ちを集中させ、注意を課題に向け、持続的に努力するような「熱中」した心理状態をいい、心理学ではエンゲージメントと言ったりします。要は、個人が自らの成長のために挑戦意欲を持って粘り強く課題に当たる意欲です。

人の心理状態を下記のように不満・不満なし(普通)・満足の3段階に分けた場合、従業員には高い満足を感じて欲しいわけですが、そのためには質の高いモチベーションをどう実現するかがカギになります。

満足・不満
(つづく)

【参考】
『モティベーションをまなぶ12の理論』鹿毛雅治編 金剛出版


日本はあといくら借金できるのか?(国のバランスシート)②

前回、日本のバランスシートから、負債から資産を引いた純債務は約333兆円となり、債務超過であることを確認しました。政府のBS①(単独)
■連結ベースで見た日本の財政

純債務の約333兆円は日本政府の純債務です。企業の財務分析では、親会社だけでなくグループ会社を含めた連結で財務状況を判断するのが一般的です。

日本の場合、政府が親会社で特殊法人が子会社、子会社で一番大きなものが日本銀行です。経済学では政府と中央銀行を一体とみなす(統合政府)のが普通です。
2015年度末の日銀のバランスシートを見ると資産が405兆円で、そのうち国債が349兆円あります。一方、負債は402兆円で、そのうち発行銀行券と当座預金(両者は広い意味で銀行券なのでまとめます)が約350兆円あります。

この時点で連結ベースの日本の財政を見ると、資産が1250兆円、負債が1350兆円で、純債務が100兆円になります。これは対GDP比で見ると約20%に留まり、アメリカの65%、イギリスの60%と比べても、かなり低いことが分かります。


■政府の「毎年収入がもらえる権利」

さらに政府は企業と決定的に違う点があります。それは毎年黙っていても必ず税収という形で収入があるということです。これを徴税権といい、いわば政府だけが持っている収入の権利(資産)です。仮に最低ライン近くで見積もったとしても、毎年30兆円の税収が永遠に約束されています(2015年度は56兆円)。

導出過程は省きますが、ファイナンス理論で学ぶ配当割引モデル(毎年の配当金÷割引率)を使うと、この徴税権の現在の資産価値を求めることができます。金利を4%とすると、「30兆円÷4%=750兆円」という値が求められます。


■日本国のバランスシート

日本の財政状態を日銀などを含めた連結ベースで考え、さらに徴税権を政府資産に加えると、バランスシートは次のようになります。
政府のBS②(連結)
■本当に銀行券は日銀の負債なのか?

銀行券(紙幣)350兆円は名目上、負債にカウントされますが、本当に負債と言えるものでしょうか。当たり前ですが私たちは紙幣を持っていても日本銀行から何も金利がもらえません。また中央銀行としてもある期限が来たら返済(償還)する義務はありません。よって銀行券はほとんど負債としての意味を持たないと言えます。

銀行券を差し引くと、政府全体の資産は2000兆円、負債は1350兆円、差額の650兆円が資産超過になります。仮に金利を5%と高く見積もって徴税権を600兆円(30兆円÷5%)としても、資産超過額は500兆円になります。


資産を考慮して理論的に考えると、資産と負債がバランスする限りにおいては財政的には問題がないですから、資産超過額分まで国債発行が可能となります。つまりあと500兆円程度の借金が可能な状態であり、日本の財政は健全であると言えます。

【参考】
『日本はこの先どうなるのか』高橋洋一著 幻冬舎
CafeSta(2016.8.31)/日本経済に対する見方について/ゲスト:高橋洋一

日本はあといくら借金できるのか?(国のバランスシート)①

■本当に現在の日本は財政危機なのか?

日本の財政危機が叫ばれるようになってからはや20年近くが経ちますが、いっこうに国債は暴落しません。

通常、財政破綻の危機が迫っている国の国債金利は高騰します。ハイリスク・ハイリターンの原則で、通常の金利にリスクプレミアム(危険負担料)がオンされるからです。

しかしながらマイナス金利政策の影響もあって、国債発行の大多数を占める10年以内の国債金利はマイナスとなっています。

経済学の知識があまりなかった時から不思議だったのが、テレビのニュースでキャスターが「日本の財政は待ったなしです」と言いながら、すぐ後の為替情報で「今日も安全資産である円が買われ、円高が進んでいます」などという報道がしょっちゅうあるということです。まったくの素人でも「財政危機の可能性が高い国の通貨がなぜ安全資産なのか」不思議に思うはずです。

本当に日本は財政危機なのでしょうか?バランスシートの考え方で検証したいと思います。


■バランスシートのきほん

企業の財務状況を表すものにバランスシート(貸借対照表)というものがあります。
企業のbS
ざっくり言うと、バランスシートとは企業のある時点(決算日)において、どこから(何から)資金を調達し、その資金をどのようなものに使ったか(どのような形になったか)を表すものです。

バランスシートの右側が資金の調達源泉を表し、借入による資金の調達額(負債)と自己資金や利益の蓄積による資金の調達額(純資産)とに分かれます。

一方、バランスシートの左側は資金の使途を表し、調達した資金が何らかの資産に形を変えていることを表します。

通常は、資金の調達の額と資金の使途の額は一致することから、バランスシートというわけです。負債の額が資金の使途の額を上回ると、「資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態」、つまり債務超過になります。


■国のバランスシート

以上を踏まえ、日本のバランスシートを見てみます。2014年度末時点で国の資産は、約680兆円、このうち換金性の高いものは、現預金28兆円、有価証券139兆円、貸付金138兆円、出資金70兆円の約375兆円にのぼります。貸付金と出資金は特殊法人(いわば天下り先)に対するものです。

ちなみに金融資産対GDP比は約70%に相当し、アメリカ約20%、イギリス・ドイツの約35%に比べても突出して高く、日本政府はダントツに金融資産を持っていることがわかります。

一方、借金は負債から公的年金預り金など除くと約1013兆円になります。
政府のBS①(単独)
負債から資産を引いた純債務は約333兆円となります。こうして見ると、よくある「GDPの2倍の1000兆円もの借金を抱えている」という単純な話とかなり違いがあることがわかります。

もっとも負債が資産を上回りますから、債務超過で財政危機ではないかという指摘があると思います。次回はこの点について考えてみましょう。


【参考】
『日本はこの先どうなるのか』高橋洋一著 幻冬舎
『財務省の逆襲』高橋洋一著 東洋経済新報社






認めて欲しい(承認欲求)

「社員に最も知られてはいけないことは何ですか?」と問われたら、何が浮かびますか?それはおそらく「誰がどれくらいもらっているのか」ということです。私たちはなんだかんだいっても、他人と比べて評価をし、それがモチベーションに影響を与えるからです。


■年棒が高騰する理由

1976年、アメリカの平均的なCEOの給与は、平均的な社員の36倍でした。しかし格差は拡大の一途をたどり、1993年には131倍にも達しました。

証券規制当局は、このような格差拡大に歯止めをかけようと、経営幹部の報酬や役得を開示するように義務付けました。経営幹部の報酬が開示されれば、企業の報酬委員会も法外な報酬を出しにくくなるだろうということです。

しかしながらこれはまったくの逆効果で、幹部の報酬はうなぎのぼりに上昇し、今ではCEOの給与は平均的な社員の約360倍にも達しています。


なぜこのようなことになったのでしょうか。人間は他人と比較して評価を決めます。さらに自分の能力を過剰に評価する傾向があります(プライドの高いCEOならなおさらでしょう)。よって「あのCEOがあれくらいもらっているなら、自分はもっともらえるはずだ」と「もっともっと」と高い報酬を要求しだしたのです。

プロ野球の選手で初めて1億円プレイヤーになったのは、1987年度の落合博満氏で、当時、非常に話題になった記憶があります。一方、2016年度の契約で年棒1億円以上の選手は68人いるそうです。選手の年棒が急激に上昇したのは、以前より選手の年棒の公開が進み、みんな他の選手の年棒と比べるようになった結果と言えます。


■成果主義が上手くいかないわけ

報酬には純粋な経済的利益という面のほかに、自分に対する評価という面があることを忘れてはいけません。

日本で成果主義を導入すると、大抵は上手くいかないのもこのあたりに原因があると思います。評価が賃金と結びつくと、賃金を見て「ああ自分の値打ちはこれくらいなのだな」と思うわけです。


そもそもきちんと業績が評価できるのかという問題が大きいですが、仮に適切に評価できたとしても、自己評価と他人評価では差が生じます。その結果、「結構、貢献したのにこれだけ?」というように社員に不満が生じます。

さらに同僚がどれくらいもらっているかは大体想像がついてきますから、「あいつがこれくらいなら、自分はもっともらえるはずだ」というように増額欲求が刺激されます。しかしながら給与全体の原資には限りがあり、さらに自己評価と他人評価は異なるのが一般的ですから、自分の増額欲求は満たされず、それがモチベーションの低下や離職へとつながるのです。


これだったらもともと年功主義で評価と賃金との関係が曖昧である方が、まだマシだったということになりかねません。


■管理者は部下に何をするべきか

「君のことは評価しているが、残念だけど社内事情でこれだけしかあげられない。どうか我慢して欲しい。」と言われたら納得するというケースは多いように感じます。このように「自分のことを認めて欲しい」という欲求のことを、モチベーション理論では承認欲求といいます。

他社でも十分通用する実力がある人があまり給与水準が高くない企業にとどまっているのも、転職が面倒だからというより、社内で承認欲求が満たされているからだということも考えられます。

逆に管理者側とすれば、こうした社員の承認欲求を日頃から満たすことが重要だと考えられます。もともと公正でかつ納得性の高い賃金などどだい無理な話で、かつ社員側も「賃金=自分への評価」と捉えてしまうことがややこしさの原因ですから、評価と賃金は分けて考え、それを社員にもある程度納得してもらうほうがよいのです(無論、程度の問題はあります)。

「よくやっている」「この間の仕事はよかったね」などと声をかけて承認欲求を満たしてあげるほうが、社員が望むように賃金を上げるより遥かに安上がりでかつ現実的です。


【参考】
『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー著 早川書房
『承認欲求』太田肇著 東洋経済新報社

比べてなんぼ(相対評価)②

■望むように買い手に選ばせるためには?

前回、「比較対象が変わると評価も変わる」「比べやすいものだけを比べて、比べにくいものは無視する」という私たちの傾向について見ました。これをマーケティングに応用するとどうなるでしょうか。

あるビールメーカーには特価ビールであるAブランドと高級ビールであるBブランドの2種類があります。
マーケターであるあなたは、高級ビールであるBブランドの拡販を考えています。さてあなたならどうしますか?
※競合メーカーについては考慮しなくてよいです。


AブランドとBブランドのポジションを図示すると、次のようになります。
相対評価1
消費者にとっては特価ビールも高級ビールもそれぞれ魅力があり、優劣つけがたく選択しにくいです。よって比較しやすいようにおとりを設ける、つまりBブランドと価格は同じで少し品質が落ちるものを用意します。
相対評価2
消費者は「比べやすいものだけを比べて、比べにくいものは無視する」傾向がありますから、Aブランドは対象から外れBブランドとB´ブランド(おとり)を比べて明らかに優位なBブランドを選択することになります。

同様の手口は不動産紹介で見られます。不動産屋の営業マンはどうしても今日中に成約をまとめたいが、お客の方はルームA(条件がよくて賃料高い)とルームB(条件も賃料もそこそこ)で迷ってしまって決めかねているとします。そこで不動産屋の営業マンは、こう切り出します。「近くにもう1つオススメの部屋がありますが、ご案内しましょうか?」

営業マンはそう言って手持ちの物件の中からルームB´(条件はそこそこで賃料は高い)をピックアップしてお客をそこに案内します。お客はルームBとおとりのルームB´を比較して、すぐにルームBに決めるはずです。


■おとり戦術を新商品の販売に利用する

ウィリアムズ・ソノマ社が初めて家庭用ブレッドベーカリーを売り出したとき、ほとんどの消費者は無関心でした(家庭用パン焼き器なんてほんとにいる?)。
ソノマ社から相談されたあなたは、どのような販売拡大策を提案しますか?



これは実際にあった話です。相談されたマーケティング調査会社は、「最初のパン焼き機より大型で、値段は1.5倍するモデルを新たに発売すること」を提案したのです。

もっとも新モデルはおとり役で、比較対象を得た消費者は従来モデルを買うようになったのです(まあパン焼き機のことはよくわからないけど、もし買うとしたら、小さくて安いほうかな)。


■賢い引き立て役の選び方

選ばせるためには比較軸を1つに絞ることが求められます。先のビールの例であれば、特価ビール(低品質)と高級ビール(高品質)とで、価格と品質の2つの軸があるので選びにくかったわけで、対策としては品質に評価軸を絞り、おとりビール(高価格で低品質)を用意したわけです。

さて男性諸氏であれば、「女友達に合コンのセッティングを頼むと自分より見た目が劣る友達を連れてくる」傾向に賛同される方が多いと思います(女性の友人に確かめると必ず否定されますが)。

真偽はともかく、自分が選ばれる確率を高くするためには引き立て役を設けたほうが合理的です。ただし重要なのは「誰を引き立て役にするか」です。

あなたがルックスに自信があるのなら、会話のセンスが良いお友達を選んではいけません。「会話のセンスは同等でルックスは自分以下」あるいは「ルックスは同等で会話のセンスは悪い」を選ぶことをオススメします。

逆に会話のセンスが同じくらいの友人から合コンに誘われたら、もしかしたらあなたは「おとり」なのかもしれません??

【参考】
『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー著 早川書房





比べてなんぼ(相対評価)①

さて8回に渡り市場ポジショニングについて見てきましたが、ポジショニング(位置づけ)は他があってこその話です。他のものがなければ座標軸が定まらないからです。画期的な新商品の多くが失敗する理由に、あまりに突飛すぎて良さが理解できないということがあります。良さとは、結局のところ、他と比べた場合の良さです。というより特徴(メリット・デメリットを含む)そのものが他との比較によってでしか成り立たないものでしょう。

■人はどう選択するか?

次のケースを考えてみてください。

あなたのもとにアメリカの某有名経済雑誌社からマーケティング雑誌の購読案内が来ました。与えられた選択肢の中から1つ選んでください。

Q1:
 選択肢A   ウェブ版だけの購読(59ドル)
 選択肢B   印刷版だけの購読(125ドル)
 選択肢C   印刷版とウェブ版だけの購読(125ドル)



MITの大学院生100人に質問したところ、次のような結果になりました。
Q1:
選択肢A 16人
選択肢B 0人
選択肢C 84人

選択肢BはCと比べて明らかに損というわけです。そこで訊いてもしかたのない選択肢Bを除いて質問したとします。

Q2:
 選択肢A   ウェブ版だけの購読(59ドル)
 選択肢B   印刷版とウェブ版だけの購読(125ドル)



同じ対象に調査した結果は次のとおりです。
Q2:
選択肢A 68人
選択肢B 32人

どこが変か分かるでしょうか。Q1の選択肢B、つまり「印刷版だけの購読(125ドル)」は明らかに無意味な選択肢で、もともと購買の対象にはならないわけですから、それを省いたところで結果は変わらないはずです。つまりQ2でも「ウェブ版だけの購読(59ドル)」を選ぶ人が16人、「印刷版とウェブ版だけの購読(125ドル)」を選ぶ人が84人になるはずですが、そうはならないのです。


■比較対象が変わると評価も変わる

この実験結果から言えることは、私たち消費者は合理的な判断をしているわけではなく、比較対象が変わると評価も変わるということです。「あいつにはかなわないが、あいつよりはマシ」といったように、比較対象が変われば優劣も変わるということですね。

Q1では「印刷版だけの購読(125ドル)」と「印刷版とウェブ版だけの購読(125ドル)」の比較に焦点があたり、明らかによい後者が選ばれたわけです。一方、Q2では、「ウェブ版だけの購読(59ドル)」と「印刷版とウェブ版だけの購読(125ドル)」の比較になり、優劣の評価が難しくなった結果、評価が分かれることになったのです。


■比べやすいものだけ比べる

では、もう1つ質問に答えてください。

あなたは長期の休暇がとれたので、海外旅行に行くつもりです。予算内に収まる候補としては次の3つがあります。与えられた選択肢の中から1つ選んでください。

選択肢A   パリでの1週間
選択肢B   ローマでの1週間
選択肢C   ローマでの1週間(ただし朝食抜き)



パリとローマの個人的な嗜好を抜きにすれば、おそらく選択肢Bの「ローマでの1週間」が選ばれるはずです。パリかローマかを選ぶのは難しいですが、朝食抜きかどうかは判断しやすいからです。

このように私たちは比べて選ぶし、さらに比べやすいものだけを比べて、比べにくいものは無視する傾向があります。


【参考】
『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー著 早川書房

どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)⑧

リポジショニングについて問題を考えてみましょう。

あなたはメーカーX社のマーケターです。X社の製品は環境性には十分な配慮をしており、それが売りなのですが、あまり販売が伸びていません。
A軸に業界で最も重視されている「リーズナブルさ」を、B軸にその次に重視されている「信頼性」を設定した知覚マップを作成したところ、次のようなものになりました。
さて今後の自社ブランドのポジショニングの方向性としてはどのようなものが考えられますか?
りポジション1


競合の少なさという点では、左上あるいは右下の象限へのシフトが考えられます。しかしながら既に他のブランドが存在しており、そこから売上を奪うことは困難でしょう。さらにもともと需要が少ないので1つしかブランドがないのかもしれません。

そこで考えられるのが、自社が得意な軸に変えることでもっと有利なポジションを占めるということです。

X社の製品は環境性に優れているのですから、それを軸に知覚マップを描き直したら次のようになったとします。
リポジション2
X社としては環境性という新たな基準を消費者にアピールすることで有利なポジション取りが可能になります。現在のポジションにとどまるか、あるいは右上の象限へのシフトが考えられます。

もっとも自社が有利な軸(基準)であればよいわけではなく、その軸が本当に消費者の価値観にあったものなのか、十分に訴求できるものなのかはマーケティング・リサーチなどで確認する必要があります。

たとえば、それまで晴れのシーン(非日常)での使われ方が多く、高価であった花束を、キッチンやダイニングなどで日常的に気軽に飾るというという価値観(軸)を持ち込むことで成功した青山フラワーマーケットのポジション取りも似たようなケースと言えます。

また、ユニークなポジショニングを行うためには、軸に経済的な価値(高価格・低価格)や実用的な価値(機能・品質)だけではなく感情的な価値(情緒的な感覚や気分)を選ぶことが有効です。

高価格・高機能(本格派)で勝負する海外のスポーツカーに対し、低価格で気軽なスポーツ感覚の楽しさを訴求するマツダ・ロードスターのポジショニングが典型例です。

【参考】
『ブランディング 7つの原則』岩下充志編著 日本経済新聞社
『戦略パワー・プロフェッショナル』齋藤嘉則著 ファーストプレス

どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)⑦

ポジショニングについて中小企業診断士試験第二次試験(平成14年度)の問題(改題)を取り上げてみましょう。

・X社は高級婦人服(ブランド名は「ANY」)を製造、販売しています。
・X社の製品は品質の高さと落ち着いたデザインが特徴で、製造は国内の自社工場にて徹底した品質管理のもとで行われていました。「ANY」の支持層は30~40代のミセス層です。
・X社社長は、さらなる成長を図るべく、20代の働く女性をターゲットに新ブランドを立ち上げることにしました。
・既に成功したブランド名にちなんで新ブランド名は「ANYZM」とし、ややカジュアルなライン主体の商品展開することにしました。つまりエントリーブランドとして「ANYZM」を位置づけ、「ANYZM」の顧客が将来「ANY」に乗り換えてくれることを期待したのです。
・価格は手頃感を出すために「ANY」の半分程度に抑えることにし(東アジアで製造)、若者向けファッション雑誌への広告などターゲットを明確にしたプロモーションを展開することにしました。また「ANY」は老舗の百貨店や都内一等地に絞って出店をしていましたが、「ANYZM」は若い女性が集まる駅ビルをはじめ、広範囲に出店することにしました。

「ANYZM」の立ち上がりは上々でしたが、顧客の3分の1は30~40歳代でした。一方、「ANY」のほうは「ANYZM」売り出し以来、売上が目に見えて減少してきています。
なぜ 「ANY」の売上は減少してしまったのでしょうか?



端的に言えば、顧客に「ANY」と「ANYZM」の明確な違いが認識されなかったからです。

まず「ANY」は高級で気品のあるデザインに価値を置くサイコグラフィック基準を重視しています。サイコグラフィック基準とは、消費者の心理的な側面に応じて市場を細分化する際の基準のことです。

一方、「ANYZM」は20代の働く女性をターゲットとしたデモグラフィック基準を重視しています。デモグラフィック基準とは、年齢や職業、性別、所得階層など、人口動態による市場細分化基準です。

つまり両者で異なるターゲット選択基準を採用しているので、両者のターゲット層が重複する可能性があります。たとえば20代の女性で気品のあるデザインを好む人は「ANY」ではなく、「ANYZM」を選択するでしょうし、これまで「ANY」を購入していた30代女性もデザインが気に入ればより安価な「ANYZM」を選ぶでしょう。

両ブランドで名が似通っており、あまりデザイン面での違いが消費者に認知されなかったので「ANY」の一部の顧客がより安価な「ANYZM」にシフトしてしまったと考えられます。

さらに「ANY」のブランドイメージが似た名前で安価な「ANYZM」の登場により毀損され、高級感で「ANY」を選択していた顧客が離反したとも考えられます。
ANY.png
■優れたポジショニングの条件

最後に優れたポジショニングの4条件を示しておきます。

①他者との明らかな相違点を示す
先述のとおり。
②相対的な優位性を受け手に認識される
そのためには軸の独立性と重要性を十分にチェックする必要があります。
③将来にわたって優位性を持続できる
不確実性の高い状況下で、いかに優位性を維持できるかを考えるということです。
④全体のバランスと組み合せを考える
市場全体、あるいは自社ブランド群全体の中での当該ブランドの役割や意義を考えるということです。

【参考】
『戦略パワー・プロフェッショナル』齋藤嘉則著 ファーストプレス



どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)⑥

■知覚マップの作成

ポジショニング分析では、消費者が意識する製品の知覚上の位置づけを表す知覚マップを作成し、当該製品の知覚上の位置づけを分析・評価します。

<知覚マップの目的>
①新製品開発における市場機会の発見のため
②時間の経過に伴うポジショニングの変化を把握したり、予測したりするため
③新製品開発における市場機会の発見のため


たとえばスポーティー性と経済性の2軸から知覚マップを作成し、自社・他社を含め展開中の各ブランド(車種)の位置づけをマッピングしたら、下図のようになったとします。
知覚マップ

この場合、もし新ブランドを展開しようと思ったら、競合が多い右上のポジションは取らず、競合が少ない左上のポジションを取ると思います。


■既存ブランドのリポジショニング

また知覚マップは既存ブランドのリポジショニング(ポジショニングの修正)にも使うことができます。たとえば右上のBブランドをより競合が少ない左上にシフトさせるといったことです。

かつてのヒット商品が時代の変化とともに勢いを失い、ポジショニングの修正に迫られることがあります。ロングセラー化にとともにユーザー年齢が高まり、若い人が購入しなくなるといったケースです。たとえばリーバイスのジーンズ、花王エッセンシャルといったものです。

また発売したはいいが、売上がイマイチでポジショニングを修正する場合があります。たとえばファブリーズは、そもそも「布の臭いを取りたいと考える人たち」を対象とした、衣料用消臭スプレーでした。この市場は2~3億円規模で、そもそもそれほど大きな売上は望めませんでした。しかしながら「部屋の臭いを気にする人たち」を対象とした、室内消臭・芳香剤とリポジショニングした結果、100~200億円の市場が見込まれるようになりました。

同様のケースとしては、乳幼児用から成人女性まで対象を拡大したジョンソン・ベビーオイル、対象を様々な症状から「シミ・ソバカスを体の内側から治す」にフォーカスしたハイチオールCなどがあります。

【参考】
『売れる仕掛けはこうしてつくる』栗木契、清水信年、余田拓郎編 日本経済新聞社


どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)⑤

「最も重要な決定とは、何をするかではなく、何をしないかを決めることだ。」
スティーブ・ジョブズ

■商品コンセプトのABC

ポジショニングにあたっては、商品コンセプト、すなわち顧客へのメッセージを明確化することが不可欠です。商品コンセプトには、次の3つが含まれている必要があります。

Audience:ターゲット消費者
Benefit:消費者便益
Compelling Reason Why:説得力のある「信じる理由」


■ミシュランタイヤのケース

あなたはミシュランタイヤのマーケターです。あなたの前には2つのコンセプト案があります。さてどちらを選びますか?

ミシュランタイヤの戦略コンセプト(その1)
ターゲット消費者:幼い子供を持つ両親
消費者便益:「ミシュラン」は愛する人の命を守るために最も安全なタイヤである。
信じる理由:2層構造の「ミシュラン」タイヤはどんな気候条件でも道路をしっかりととらえるため、事故が起きにくい。


ミシュランタイヤの戦略コンセプト(その2)
ターゲット消費者:18歳から45歳の大人
消費者便益:「ミシュラン」タイヤはどのような運転状況でも最高のパフォーマンス(性能)を提供する。
信じる理由:2層構造の「ミシュラン」タイヤはどんな気候条件でも道路をしっかりととらえるため、事故が起きにくい。


おそらくほとんどの方は(その1)を選ばれたと思います。消費者の中にポジショニングする(印象づける)ということは、フォーカスするということを意味し、何かを捨て去ることになります。「あれもこれも」「誰も彼も」では印象づけることはできないからです。


■引くことで価値が生まれる

機能を加えたり揃えたりするのではなく、引く(フォーカスする)ことで価値が生まれることがあります。たとえばヘアカットだけに特化したQBハウスや宿泊(快眠)に特化したスーパーホテルが典型例です。「○○専門店」というパターンです。

フォーカスというとリスクが高いように思われますが、先述のように対象を広げてしまっては印象に残らず、かえって購入されなくなる恐れがあります。むしろ努力の対象を絞ることでこだわりが生まれ、それが進化を生むと考えたほうがよいでしょう。

少なくともポジショニングについては次のことが成り立つと言えます。

「-(マイナス) = +(プラス)」
引き算することで新たな価値が生まれる。

「-(マイナス) > +(プラス)」
引き算は足し算に勝る。

「2 > 1」
二兎追う者は一兎も得ず。

「1 > 2」
1つのことを極めれば、逆に世界は広がる。



【参考】
『マーケティングゲーム』エリック・シュルツ著 東洋経済新報社
『引き算する勇気』岩崎邦彦著 日本経済新聞出版社


どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)④


前回、顧客価値を、顧客にとっての価値観の次元によって、基本的価値、機能的価値、情緒的価値、自己表現価値に分類しました。基本的価値、機能的価値は主に研究開発の領域であり、情緒的価値、自己表現価値を把握するためにはマーケティング・リサーチが必要になります。


■キリンの発泡酒「極生」のポジショニング

手元にキリンの発泡酒「極生」のセグメンテーションとポジショニングの例がありましたので参考までに記載しておきます(といっても商品としてはもうなくなってしまいましたが)。

<前提となる消費者調査>
発泡酒をよく飲む発泡酒主飲層の約8割が「価格で割り切って買っている」「ブランドに思い入れはないが何となく買っている」と答えており、「思い入れのある銘柄として買っている」と答えたのは全体の約2割で、ビールの主飲層の約6割と比べて明らかに低い結果となっている。
発泡酒の新商品に期待している消費者は9割を超えている(キリンの消費者調査より)。さらに発泡酒に求める味わいについても調査したところ、発泡酒には「飲みやすさ」を求める人が8割を超え、最も高いという結果を得た。

<キリン極生のセグメンテーション>
発泡酒に“味”と“価格(発泡酒セグメント内でのさらなる低価格)”を求めるセグメント。さらに環境問題への意識もあるセグメント。
このニーズを持つセグメントは発泡酒の大多数を占めると思われた。

<キリン極生のポジショニング>
“極めて飲みやすい発泡酒”
お客様が発泡酒に期待する「飲みやすさ」に応えるため、素材や製法をいちから見直しました。「極生」、それは、のどの渇きを癒すのに最適な、すっきりした味覚を表現した商品です。(キリンのHPでのメッセージから)


上の例では、消費者調査によってターゲットを選択し、それに合わせたポジショニングを行うという体裁を取っています。まったく商品のコンセプトが浮かばない場合には、このようなプロセスを辿ることが一般的です。

しかしながらまずターゲット層に関する仮説を立て、それを裏付けるために消費者調査を行い、それから有効なポジショニングを行うということが一般的でしょう。

どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)③

ポジショニングで一番に位置づけるといっても、それは顧客にとって価値のある位置づけでなければ意味がありません。今回は、顧客にとっての価値について考えてみます。

■顧客にとっての価値とは

顧客にとっての価値として考えられることには、おおよそ次の9つがあります。

① 効能:それはどのくらい効果的か。
② スピード:どのくらい速く効くか。
③ 信頼性:やりたいことをするために、それを当てにできるか。
④ 使いやすさ:どのくらいの労力が必要か。
⑤ 柔軟性:どれだけ多くのことをするか。
⑥ ステータス:自分への評価に、どのような影響を及ぼすか。
⑦ 美的な魅力:どのくらい魅力的か、美的に喜びを与えるか。
⑧ 感情:それによって、どんな感情がわいてくるか。
⑨ 犠牲:これを手に入れるために、どれだけ諦めなくてはいけないか。



■顧客価値のピラミッド


顧客価値は顧客にとっての価値観の次元によって、次の4つの階層に分けることができます。基本的価値が最も低次元の価値で自己表現価値が最も高次元の価値になります。
顧客価値プラミッド
(1)基本的価値:
商品に対する最低限のスペックを表す。その商品であればあって当たり前のもので差別化の対象にはならない。

<例:石鹸>
「汚れを落とす」

(2)機能的価値:
基本スペックを踏まえたうえで他社との差別化を図れる機能面での価値。

<例:石鹸>
「他社の商品より汚れが落ちる」「より泡立ちが良い」

(3)情緒的価値:
商品を実際に使ってみて感じる感覚的な価値。

<例:石鹸>
色や香り、触ったときの感覚、使用後のさっぱり感

(4)自己表現価値:
最上位の価値で、「自分はこうだと表現してくれる」「こういうような商品を使う階層に所属している」という意味づけをしてくれる価値を示す。

<例:石鹸>
自然素材の石鹸を使うことがエコロジーに敏感だとか、ナチュラルなものを好む優しい人間だということを表現してくれる。

基本的価値や機能的価値は物的属性に関するもので、合理的・客観的なものです。訴求しやすいものの価値が理解されにくい面があります。たとえば世界一軽い石鹸といってもなかなか消費者にはその有り難さが伝わらないでしょう。また、一度は物的属性によって差別化できてもすぐに他社に模倣されたり、追い抜かれてしまったりといった具合に優位性を維持することが難しいという面があります。

一方、情緒的価値や自己表現価値は心理的属性に関するもので、非合理的・主観的なものです。価値は伝えやすいものの根拠は理解されにくい面があります。しかし一度価値が受け入れられれば自社商品のイメージが形成され、優位性が持続する可能性が高くなります。


よって心理的な価値をどのように具体的な機能や物理的属性に結びつけるかがポイントになります。

【参考】
『Personal MBA』ジョシュ カウフマン著 英治出版
『買い物客はそのキーワードで手を伸ばす』学習院マネジメント・スクール著 ダイヤモンド社
『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門』早稲田大学ビジネススクール著 日経BP社

どのように自社商品を位置づけるか(市場ポジショニング)②

■発想次第では一番になれる

前回、「ターゲット・マーケティングでは、いかに自社商品を顧客の中で一番に位置づけるかがポイントになる」ということを述べました。一番に位置づけるというと、かなり困難だと思われるかもしれません。確かにそのとおりなのですが、発想の仕方によっては十分可能です。

たとえば頭痛薬について考えてみます。「頭痛に一番よく効く」ということは、客観的な根拠を示すことは困難ですし、そもそも開発も難しいでしょう。しかしながら「最も効き目が早い」「最も眠くならない」「最も副作用がない」であれば可能かもしれませんし、それらの観点から「男性専用」「女性専用」といった切り口も生まれるかもしれません。

缶コーヒーの「ワンダ・モーニングショット」も、仮に「最も美味い」というコンセプトであったら、何も客観的な根拠がなく、他の多くの商品の中に埋没してしまったと思います。


■ポジショニングのポイント

ポジショニングにあたっては、次のように「自社商品の強み」「顧客評価」「他社との相対評価」の観点から検討します。
ポジショニング1
■ポジショニングの7つの方法

上記のポイントに基づき、具体的に一番となるポジショニングについて見ていきましょう。大きくはナンバーワン戦略、オンリーワン戦略、土俵を変える戦略の3つがあり、さらに7つに細分化できます。

①ほかの製品よりも優れた特徴やイメージを訴求する(ナンバーワン戦略)
②ほかの製品とは異なる特徴やイメージを訴求する(オンリーワン戦略)
③土俵を変える


<代表例>
ナンバーワン・オンリーワン戦略
1 製品属性に基づくポジショニング

ソニーハンディカム「HDR-HC3」:ハイビジョンビデオカメラで「世界最小・最軽量」
2 機能的便益に基づくポジショニング
(以前の)花王エッセンシャル:「ダメージケア」
3 心理的便益に基づくポジショニング
サントリーオールフリー:ご褒美、開放感の提供
4 提供価値に基づくポジショニング
日産セレナ:「家族の絆を深める車」「モノより思い出」「家族の絆をシフトする」

土俵を変える戦略
5 用途や目的に基づくポジショニング

アサヒ飲料ワンダモーニングショット:朝専用の缶コーヒー
6 製品カテゴリーに基づくポジショニング
日清カップヌードル:「インスタントスープ」としてのポジショニング
7 市場地位に基づくポジショニング
レンタカーのエイビス:我々は2番手です。だからもっと努力します。


【参考】
『ブランディング 7つの原則』岩下充志編著 日本経済新聞社
『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門』早稲田大学ビジネススクール著 日経BP社

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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