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正しい目標設定②

「具体的で多少困難な目標を設定する」ほうが業績が向上することが多くの研究成果によって明らかになるにつれ、実際に企業が部門や個人に課すノルマも過重なものになっています。昨年度の東芝不正会計問題で話題となった「チャレンジ」も記憶に新しいところです。


■「できそうだ」と思わせる目標の設定

高い目標(ノルマ)は、達成動機が強い人ならよいかもしれませんが、そうではない人にとってはかえって「どうせ達成できない」という無力感を生み出しかねません。そこで求められるのが、「やればできそうだ」という自己効力感を高めるような目標設定です。

具体的には「大きな目標を細分化し、段階ごとに下位目標を設定する」ということです。目標を階層構造に細分化し、段階的な目標を設定して1段1段階段を登るようなイメージです。できそうな気がする近い目標なら自己効力感をもてるため、モチベーションが高まります。

たとえば1年後の資格試験の合格を目標にした場合、1ヶ月ごと(あるいは1週間ごと)の目標を設定し、その達成を積み重ねていくといったことです。あるいは営業マンが来年は週あたり5件の成約ができるようになりたいが、今年はまだその実力がないので3件を目標にするといったことです。


■結果より行動を目標にする

また結果というのは本人がコントロールできない外部的な要因に大きく左右されるので、結果より本人の行動を目標にする方が達成しやすく、自己効力感を高めやすいです。


たとえば成約件数を目標にするより、相手の意向に左右されない種まき(新規の訪問件数など)10件というように、成約に至る必要条件となる行動を目標にするといったことです。

これはコンピテンシー評価という考え方に応用されています。コンピテンシーとは傑出した業績をあげている人物の行動特性ということです。

まず会社内で傑出した業績をあげている人物をピックアップして、彼らに共通する行動は何かを抽出します。そして抽出された行動(例:1週間の訪問件数40件など)を評価軸として設定し、それをクリアすれば評価するという制度です。

結果が相手(顧客事情)や運(担当領域)に左右される営業部門や、個人の成果評価が難しいスタッフ部門の評価では検討に値する考え方だと思います。


【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社
『思考する営業』杉田浩章著 ダイヤモンド社

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正しい目標設定①

多くの会社で目標管理制度が導入されています。目標を設定したほうが仕事に対する意欲が高まり、成果も高めやすいということには異論がないかと思います。しかしながら目標の設定のしかたによってはモチベーションを十分に引き出せないこともあります。

■「ベストを尽くせ」は正しいか?

心理学者のレイサムは、木材の伐採をする作業員を2つのグループに分け、片方のグループには伐採すべき木の本数について具体的で困難な目標を与え、もう片方のグループには最善を尽くしてできるだけ沢山の木を伐採するように伝えました。

結果は「具体的で困難な目標」を与えられたチームのほうが、「最善を尽くすように」と言われたチームより成績が良かったのです。

理由は「最善を尽くせ」と言われただけでは、評価も場当たり的になりやすく、その結果、「これくらいでいいだろう」という受容可能な業績レベルが人によって大きく異なるからだと指摘されています。
どのくらい頑張ればよいのかが曖昧だと、ついつい自分に甘くなりがちだというわけです。

また「最善を尽くせ」というような具体性のない目標の場合は、評価者である上司と実行者である部下が想定する「最善の水準」にズレがあることも問題になります。部下としては「こんなに頑張ったのに評価してくれない」と不満に思う一方で、上司の側でも「なんでこれしかやらないのか」と不満を抱くといった事態になりかねません。

一方、目標がはっきりつかめると、どの程度努力すればよいか、どんな方法を取ればよいかを具体的に考えやすいし、それによって覚悟ができやすいということがあります。

「具体的で多少困難な目標を設定する」ほうが業績が向上することが多くの研究成果によって明らかになっています。


■天井効果

さて企業であれば、大抵は部門や個人の目標は具体的で多少困難であるはずです。期末になると目標のクリアに四苦八苦するというのが見慣れた光景でしょう。

一方、期中に早々と目標をクリアしてしまうとどうなるでしょうか。目標を達成するとそれ以上に頑張らなくなることを天井効果といいます。

天井効果には、2つの要因が指摘されています。1つは、これ以上頑張って今期あまりに高い実績を残すと、次期にもっと高い目標を課せられて苦しむことになると予想するため、ほどほどにしておこうという心理が働くということがあります。

毎年、実績に10%上乗せしてノルマを設定するというやり方だとこのようなことが起きます。こうした事態を放置しておくと、モチベーションが高く実力もある人が十分に力を発揮し成長していくチャンスを奪うことになると同時に、組織としても大きな損失になります。

2つめは、ノルマを達成したかしないかだけで評価がなされ、目標を上回った部分に対する評価がないと、目標以上の成果を出しても意味がないと判断され、目標達成が見えてきたら、もう頑張る気力が沸かなくなるということがあります。

営業部門では、今季の目標をクリアしそうになるとできるだけ追加の受注は来期に回すよう調整を命じられるということは一般的に見られる事象です。

天井効果を防ぐためには、次期については今期の実績を考慮するにしても納得性の高い現実的な目標を設定する、目標超過分についても適正に評価することが求められます。


【参考】
『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

中国は成長できるのか?③

■国際金融のトリレンマから見た中国

中国経済の実情は、本ブログの「統一通貨ユーロがもたらしたもの②」でも取り上げた「国際金融のトリレンマ」でも説明できます。

国際金融のトリレンマとは、次の3つのすべてを満たすことはできない(2つは満たせるが1つは犠牲になる)というものです。

①自由な資本移動(資本取引)
②物価の安定(金融政策の独自性)
③為替の固定

トリレンマ
中国は「物価の安定(金融政策の独自性)」「為替の固定」を取って「自由な資本移動(資本取引)」を犠牲にしています。資本取引を自由化してしまうと、資本取引の必要性の観点から為替レートが決まってしまうため、為替レートを安定化できなくなります。

しかしながら「物価の安定(金融政策の独自性)」と「為替の固定」の両立にも困難が伴います。たとえば、国内経済の成長のために金融緩和を行ったら、通常は自国通貨が安くなり(相対的に量が多い通貨は減価する)、それを回避するために自国通貨買い(他国通貨売り)介入を行う必要があります。

つまり国内経済対策的には金融緩和(自国通貨の増加)を行いたいが、同時に為替レートを固定化したいなら逆に自国通貨を吸収することが必要になり(不胎化介入)、金融緩和効果が十分に得られなくなるのです。


■中所得国はやがて固定相場制を捨てるしかなくなる

中国ではその景気の先行きの不透明性から、海外からの資金流入が減少しています。これは人民元安を意味します。

一方、人民元安を回避するために人民元買いドル売り介入を行う必要があります。しかしながらその介入の原資となるのが外貨準備(中国のドル資金)であり、それには限界があるのですから、やがて持ちこたえることができなくなります。

中国の外貨準備高は2015年度末で約3.3兆円ですが、2015年度の6月から12月の半年で4000億ドル超の減少ですから(約15%減少)、仮にこのペースが続くと約4年で中国の外貨準備は枯渇することになります。

中国の経済成長のためには、他の先進国と同様、変動相場制へ移行し、資本取引の自由化と金融政策の独自性を採用すればよいのですが、それはすなわち共産主義(一党独裁体制)の崩壊を意味し、それが取れないところに問題があるのです。


【参考】
『中国経済はどこまで崩壊するのか』安達誠司著 PHP研究所
『もうダマされないための経済学講義』若田部昌澄著 光文社

中国は成長できるのか?②

■中所得国の罠を突破するには

過去の先進国の例を見ると、中所得国の罠(1人当たりGDP1万ドルの壁)を突破するには、資本・投資の自由化が条件になります。各国で自由に資本を融通できることは、対外取引を拡大するうえでの条件になるからです。

確かに日本の高度経済成長は、高い国内貯蓄が金融機関を通じて成長分野への投資に回ったことが大きな要因ではありますが、他の先進国の例を見ると、外国からの資本導入が大きな成長要因となっています。

また、日本は東京オリンピックに合わせるかたちで1964年にOECDに加盟することによって「資本取引の自由化に関する規約」に加入し、資本・投資の自由化に徐々に踏み出し、その後の貿易の拡大や経済発展に大きく寄与しました。

しかしながら中国は一党独裁の共産主義体制です。経済を体制側でコントロールするためには、(それを嚆矢に経済の民主化につながりかねない)外資の参入には制限をかける必要があり、資本の自由化を進めることができないという事情があります。

事実、中国企業との合弁にあたっては中国側の出資比率が51%以上という高い制限がかけられています。


■早すぎる脱工業化

前回見たように、中国の第2次産業就業者比率はようやく30%に達した段階であり、現先進国が1人当たりGDP1万ドルを超えたときの35%以上を下回る水準です。

十分な工業社会化が実現した後に脱工業化が始まるという正常な経済成長プロセスから考えると、中国はもう少し工業化を進める必要があります。

しかしながらその一方で短期的には国有企業の過剰投資・過剰生産があり、さらに政治的な問題から国有企業の構造改革を進められないこと、資本取引規制が外国からの投資のハードルになっていることから、工業化を進めにくいというのが実態でしょう。

さらに言えば、成長の第3段階の「③技術力の向上」にも大きく影を落とすことになります。1人あたり人件費が高騰し、高付加価値化を図りたいが、資本の自由化が制限され海外からの投資が進まないことで、海外からの高い技術の導入が不十分になります。また企業の約半分が国有企業であり、政治体制とベッタリな関係で、ガバナンスが効かず、自由競争の原理が働かないからです。

結局は中国の共産主義体制そのものが経済成長のネックになるわけです。


【参考】
『中国経済はどこまで崩壊するのか』安達誠司著 PHP研究所
『ゼロから学ぶ経済政策』飯田泰之著 角川書店
『戦後経済史は嘘ばかり』髙橋洋一著 PHP研究所

中国は成長できるのか?①


中国経済については「生産過剰」「資産価値バブル」「地方自治体の過剰債務」という3つの爆弾を抱えていると言われていますが、今回はこれら短期的な問題とは別に中長期的な問題について取り上げたいと思います。


■経済成長のプロセス

経済成長のプロセスは簡略化すると次のようになります。

①低生産性部門から高生産性部門への労働力の移動
たとえば農業などの伝統的部門から都市の工業部門への労働力の移動です。日本でも高度経済成長前期には集団就職などの形でこのような労働力移動が見られました。

②設備投資の増強
労働力の高生産性部門への移動を通じて国民所得が徐々に増加し、国内の需要が拡大すると、成長機会を捉えるべく設備投資や研究開発投資が活発化します。また国内の労働力の拡大はやがて頭打ちになりますから(1人あたり人件費も高騰)、設備導入による生産性工場が求められるようになります。

③技術力の向上
設備導入が高度に進んだ頃には右肩上がりの経済成長は終わり、経済が成熟化した段階に移行します。もはや大量生産した安価な製品では売れず、企業は高付加価値な製品を供給しなければ生き残ることが難しくなります。また一通り製品は普及した段階ですから、経済のサービス化が進みます。


■中所得国の罠

中所得国の罠とは、経済発展の段階で、中所得(1人当たりGDPが1万ドル程度)になると経済が停滞してしまい、先進国の仲間入りができなくなるという状況を指します。

「1人当たりGDP1万ドルの壁」を、日本は60年代、香港、シンガポールは70年代、韓国は80年代にそれぞれ突破し、その後も安定した成長を続けています。

一方、アジアではタイやマレーシア、中南米ではアルゼンチン、チリ、ブラジルなどが一時は成長し1人当たりGDPが1万ドルを超えて成長しそうな勢いであったのが、大きく減速しています。

中所得国の罠は、新興国が低賃金の労働力を活用して経済成長を遂げたものの、人件費の上昇と先進国との技術力との差に阻まれ、競争力を失っていくことによります。


■中所得国の罠にはまりつつある中国

いかんせん正確なGDPも人口も分からないので中国の正確な1人当たりGDPが算出できないのですが、一応公表されている約8000ドルとしますと、今後、中国な中所得国の罠に陥る可能性がでてきます。

先の経済成長のプロセスで言うと、「①低生産性部門から高生産性部門への労働力の移動」がほぼ終わり、「②設備投資の増強」の途中段階と見られます。
確かに国営企業などの過剰投資が指摘されていますが、中国全体から見ると、第2次産業就業者比率はようやく30%に達した段階であり、完全に第2次産業への移行が完了したとは言えない状態です。

ちなみに中所得国の罠を突破した際の現先進国の第2次産業就業者比率は、35%程度です。

今後、中国が経済成長するには、国内の第2次産業化を十分な水準に高めた上で、技術力の向上を図ることが求められます。


【参考】
『日本がわかる経済学』飯田泰之著 NHK出版
『中国GDPの大嘘』高橋洋一著 講談社

中国は経済成長しているのか?②

■輸入が大幅減でGDPが成長することはない

先進国における輸入の伸び率を横軸に、GDPの伸び率を縦軸に取って、傾向線を引くと、右上がりの直線になります。すなわち輸入の伸び率が高くなるほど、GDPの伸び率も高くなるのです。

これは経済学では国内経済が拡大していると、国内生産だけでは追いつかず、海外からの輸入に頼るからであると説明されます。あるいは国内の生産活動が活発化すると、原材料などの海外からの輸入が増加するからです。

また各種の経済統計はごまかしができても、貿易統計はごまかしようがありません。なぜなら相手国の対中国輸出入統計を足し合わせれば中国の輸出入統計を算出することができるからです。

2015年度の中国の輸入額は14.1%の減少です。輸入が10%以上のマイナスにもかかわらず経済成長したケースはなく、逆に輸入の減少率から推計される経済成長率はマイナス3%になります。

なお中国の輸入減の原因は数量的なものではなく資源価格の下落によるものなので心配はないとの指摘もあります。しかしながら仮に輸入減の原因が資源価格の低下によるものだとし、国内総生産(GDP)の伸びがプラス6.9%(2015年度)だとしたら、中国国内は猛烈なデフレになっていなければならず、どのみち経済状態はかなり悪いことになります(あるいは辻褄が合わない)。


■マジック並みに安定的な経済成長率

そもそも実質GDPの成長率が3四半期連続で6.7%で変わらないなどということがあり得るのかという問題もあります。

この10年のGDPの中国の成長率を先進国と比べると極めて安定的であることが目に付きます。GDP成長率で変化率が少ない国をランキングすると、(経済成長がほとんどない)最貧国か共産主義国(ラオス、ベトナム、中国)が上位に名を連ねます。

中国のような多額の国際取引を行っている国が、海外経済の影響を受けずに安定的に経済成長を実現しているとは考えにくいものがあります。


■体制が崩壊しない限り事実は分からない

中国の国家統計は旧ソ連をモデルに作られています。ソ連は1928年から1985年までで公式にはGDPが90倍、平均成長率は8.3%としていましたが、体制崩壊後に実はそれぞれ僅か6.5倍、3.3%に過ぎなかったことが判明しました。ソ連のGDPは公式発表されたものの半分に過ぎなかったのです。

同じ共産主義国の中国の場合も体制が崩壊しない限り実際の経済規模や成長率が判明することはないのかもしれません。



【参考】
『中国GDPの大嘘』高橋洋一著 講談社

中国は経済成長しているのか?①

中国国家統計局が19日発表した2016年7~9月期の実質GDP成長率は6.7%で今年1~3月期から3四半期連続で横ばいとなりました。

中国のGDPについては、その真偽が取り沙汰されており、成長率は「6%後半からマイナス3%の間のいずれか」という極めてアバウトな数値でしか捉えられないというのが実情と言えます。中国のGDPは、実は公表値の3分の1程度に過ぎないとの指摘もあります。


■早すぎるGDP発表

GDP統計は、各種統計の加工・2次統計であるので、算出には一定の時間が必要になりますが、中国の早さは飛び抜けていることが指摘されています。

4半期別のGDPの中国の発表時期は約1ヶ月半後で、米国や英国に比べて2週間、日本、ユーロやドイツに比べると1カ月も早いです。国土が広い中国の国家統計技術が格段に高いとは考え難く、最初から発表される値が決まっているのではないかという疑念が生じています。

さらに速報値が修正されずそのまま確報値となっていることが、この疑念に拍車を掛けています
(日本の場合は1次速報・2次速報・確報の流れ)。


■李克強指数

中国の首相である李克強が2007年9月の第一回ダボス会議の席上で、「中国の経済統計、指標は、まったく信用できない。私が(遼寧省のデータで)信用してチェックしているのは、電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資額の三つだけ。他の中国の経済統計、とりわけGDPなどは、ただの『参考用数値』に過ぎない」とオフレコで漏らしたとされます。

この3つの指標は李克強指数と言われ、これを用いて中国のGDPを推計する識者も多いです。

しかしながら、この発言は李克強が(重工業中心の))遼寧省のトップのときに発せられたものであり、李克強指数を中国経済全体に適用することはできないという指摘もあります。また、最近は李克強指数自体がGDPに合わせて改竄されているとの向きもあります。


■食い違う統計

地方政府のGDPを合算すれば、中国全体のGDPを求めることができるはずです。しかしながら、2015年度で見ると全国のGDPが67.7兆人民元であるのに対し、地方GDPの合計は72.5兆人民元もあり、4.8兆人民元も上回ってしまいます。このような乖離は以前から見られ、その差は拡大傾向にあります。

このような乖離は国家統計局も認めており、全国GDPと矛盾が生じる地方政府のGDPの集計などやめたほうがよいという意見も中国国内にあるようです。

また2015年度のGDP成長率を産業別で見ると、農林畜産業が約3.6%、工業が約6.0%の成長になっています。

一方で別に発表されている主要27工業製品の生産量を見ると、2015年度上半期に6%以上の成長を達成したのは4製品のみで、13の製品についてはマイナスを記録し、工業製品の生産量の伸びは平均で1%程度となっています。

産業別の成長率の6%と、工業製品別の生産量の伸びに大きな乖離があるのです。


【参考】
『中国GDPの大嘘』高橋洋一著 講談社

日本の税率は金持ち優遇か?

前回、再分配後の所得でのジニ係数で見た場合、2000年代に入り日本の所得格差は拡大傾向とは言えず、所得累進課税、相続税、社会保障給付などの再分配政策はそれなりに機能していることを指摘しました。

消費税など何かと欧米並みにしろという意見が多いようですが、日本の再分配制度は国際的に見てどのような水準なのでしょうか。

■所得税の最高税率

所得税に関しては、高額所得者ほど税率が高い累進課税が適用されています。1990年代以降の英米独仏の累進課税の最高税率の推移を見てみます。

アメリカ
30%から40%の間で推移

イギリス
40%であったのが2010年代に入り50%に引き上げ

ドイツ
50%であったのが2000年代に入り40%台で推移

フランス
60%程度であったのが2000年代に入り50%前後で推移

日本の場合、1986年まで70%台であったのが、1987年から60%に引き下げられました。1989年に50%、1999年に37%となり、それ以降は上昇に転じ、2007年に40%、2015年に45%となっています。

所得税の最高税率は、おおむね先進国並みということができます。


■相続税の最高税率

相続税についても累進課税が適用されています。1990年代以降の英米独仏の累進課税の最高税率の推移を見てみます。

アメリカ
55%程度であったのが、2000年代に入り段階的に引き下げられ、2010年代から40%を下回る水準

イギリス
1970年代の75%から段階的に引き下げられ、40%で推移

ドイツ
35%から1990年代中盤に30%に引き下げ

フランス
40%であったのが2010年代に入り45%に引き上げ

日本の場合、戦後のシャウプ勧告により1950年に90%となったが、1952年には70%になり、長らくその水準程度で維持されました。2003年には50%まで引き下げられましたが、2015年には55%に引き上げられています。

相続税の最高税率で見ると、日本は欧米と比較して高い水準であるということが分かります。


【参考】
『21世紀の資本』トマ・ピケティ著 みすず書房
『図解 ピケティ入門』高橋洋一著 あさ出版

日本の格差は拡大しているのか?(ジニ係数)

2000年代に入り、日本でも所得格差が拡大しているという指摘がマスコミや識者の間でよくされています。トマ・ピケティの著書「21世紀の資本」が1昨年度にベストセラーとなったこともこのような風潮によるものでしょう。


■ジニ係数とは?

所得格差については、ジニ係数という指標で判断することが一般的です。ジニ係数の算定にあたっては、下のような横軸に世帯数の累積比を、縦軸に所得額の累積比をとったローレンツ曲線というものを使います。
ジニ係数

まず45度線ですが、これは下位から合計10%の世帯で国全体の所得の10%を占め、下位から合計50%の世帯で国全体の所得の50%を占めるといった関係を示しています。

世帯数合計に比例して所得合計が増加しますので、完全に所得が平等であることを示しています。しかしながら実際にはこのような完全に平等な所得分配はありえません。

次にローレンツ曲線ですが、これは実際の1国の所得の世帯分配を表しています。たとえば下位から合計10%の世帯で国全体の所得の1%しか占めず、下位から合計50%の世帯で国全体の所得の10%しか占めないといったような関係を示しています。逆に横軸を右側から見ると、上位10%の世帯が国の所得の40%を占めるということを表しています。つまり実際の所得分配の不平等さを示しているものです。

ジニ係数は図の「A÷(A+B)」で算出されます。ローレンツ曲線が下側にせり出しているほど(図のAが大きいほど)不平等度が高いと言えますので、ジニ係数が大きいほど不平等度が高いと言えます。


■日本のジニ係数の推移

日本の所得格差については、「2000年代初頭の小泉政権下での、いわゆる竹中路線(新自由主義)の結果である」というのが通り相場ですが、実際にはどうなのでしょうか。

ジニ係数は2種類あり、課税前・社会保障給付前の「当初所得」、課税後・社会保障給付後の「再分配所得」について産出されています。

日本のジニ

当初所得のジニ係数は拡大傾向にあります。よく言われる日本の所得格差拡大はこれに当たります。高齢化が進むほど、(それまでの所得が累積的に加算されるので)所得格差は進みます。

一方、再配分後の所得のジニ係数は横ばい(若干低下)です。当初所得ジニ係数と再配分所得ジニ係数の差の当初所得ジニ係数に対する比率は、所得格差是正効果と捉えることができ、これを再分配改善率とすれば、改善傾向にあります。

自由主義経済では所得格差はつきものです。より大事なのは当初所得格差ではなく再分配後の格差でしょう。再分配後の所得で見た場合、2000年代に入り日本の所得格差は拡大傾向とは言えず、所得累進課税、相続税、社会保障給付などの再分配政策はそれなりに機能していると言えます。


【参考】
ダイヤモンド・オンライン/高橋洋一の俗論を撃つ!(153回)/民進党は経済政策を見ても前途多難だ



「モレなく、ダブりない」ためのフレームワーク(MECE)

前回のフェルミ推定では、全体をいくつかの因数に分解することについて触れました。これはロジカルシンキングでは、MECE(ミッシーまたはミーシー)という名前で広く紹介されています。MECEとは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(モレなく、ダブりなく)の略のことです。


■ピラミッド・ストラクチャー

ロジカルシンキングでは、次のようなピラミッド・ストラクチャーによる論理構成を採用します。
ピラミッド原理
結論(第1層)に対しその直接的根拠を第2層で示し、さらに第2層の根拠を第3層で示します。その際の根拠の切り口は「モレなくダブリなく」示すことが求められます。下位層から上位層に向けては「So What?(だから)」、上位層から下位層に向けては「Why So?(なぜなら)」で論理が展開されます。


■「モレなくダブリなく」のためには

直感で切り口を設定してしまうと「モレ」あるいは「ダブリ」が生じてしまいます。たとえば30代以下の女性ターゲット層を「10代・20代・30代・主婦・学生」と分けてしまうといったパターンです。10代から30代の主婦や学生は存在しますから、ダブリの例ということになります。

これは職業と年齢という2つの切り口を用いてしまったことに原因があります。MECEに沿って全体を分ける場合には、全体をきちんと定義してモレがないこと、違う切り口を混ぜないことがルールです。


■MECEのための切り口

有難いことにモレなくダブリない切り口には、いくつかの雛形があります。

①対立概念型
例)賛成・反対、質・量

②数直線型
例)高中低、短期・中期・長期、○○以上/以下

③プロセス型(順序型)
例)バリューチェーン、サプライチェーン、マネジメントサイクル(計画・実行・統制)、生産工程(設計・調達・作業)、AIDMA(注意・興味・関心・欲求・行動)、起承転結

④単純分類型(並列型)
例)都道府県(地域)、産業分類、生物学分類、年齢別、固定費・変動費

⑤異視点型
例)3C、SWOT、PEST、QCD、マーケティング・ミックス(4P)、心技体

⑥変数型
例)利益を売上とコストに分解する、売上高を「数量×価格」に分解する、ROEを「売上高利益率×総資本回転率×財務レバレッジ」に分解する。

頭の中に入れておくと、プレゼンテーションの場では便利でしょう。

【参考】
『地頭力を鍛える』細谷功著 東洋経済新報社
『改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング』グロービス経営大学院著 ダイヤモンド社
『ロジカルシンキング』照屋華子・岡田恵子著 東洋経済新報社
『入門 考える技術・書く技術』山崎康司著 ダイヤモンド社

「分析をしてから結論を出す」は正しいか?(仮説思考)⑤

■日本に電信柱は何本あるか?

就職面接で「日本全国の電信柱は何本あるか?」と問われたら、どのように考え回答しますか?ただし制限時間は3分、電卓やPCは使用不可(紙と筆記具のみ)、一切の情報参照は不可という条件です。

似たような質問として、「シカゴにピアノの調律師は何人いるか?」「都内に信号機は何基あるか」などがあります。

外資系企業やコンサルティングファームなどの就職面接でよく問われるといわれていますが、重要なのは「知っているかどうか」ではなく「どのように考えたか(ロジック)」です。


■因数分解して考える

短時間で回答しなければならず、かなり大胆な仮定を置く必要があります。ここでは「単位面積あたりの本数を市街地と郊外に分けて総本数を算出する」という切り口を考えてみます。

市街地と郊外では単位面積あたりの電柱の本数は違います。市街地と郊外の単位面積あたりの電柱の本数に該当面積を掛ければ全国の電柱の総本数を求めることができます。

仮に市街地を「50メートル四方に1本」、郊外を「200メートル四方に1本」とすると1平方キロメートルあたり、市街地は400本、郊外は25本となります。

次に市街地と郊外の総面積を求めます。おそらく1対4くらいだろうと推定します。日本の面積約38万平方キロメートルのうち、海など電信柱がない部分を除いた部分がまあ30万平方キロメートルくらいかなと推定し、市街地が6万平方キロメートル、郊外が24万平方キロメートルと見積ります。

あとはそれぞれの1平方キロメートルあたりの電柱の本数」に「該当面積」を掛ければ、市街地の電柱の本数が約2400万本、郊外の電柱の本数が約600万本、合計で約3,000万本と求められます(実際は約3,300万本)。


■フェルミ推定とは

このように何らかの推定ロジックで短時間に概数を求める方法をフェルミ推定といいます。原子力の父と言われるノーべル物理賞学者のエンリコ・フェルミが講義でよく学生にこのような課題を与えたことが由来です。

フェルミ推定の基本的なプロセスは次のとおりです。

①アプローチ設定(仮説の設定)
例:面積当たりの電柱本数を日本国土に展開する。

②モデル分解(因数分解)
全体を市街地と郊外に分類し、「面積当たり本数×面積」に分解する。

③計算実行(モデル化)
例:日本の面積を算出し、面積当たりの本数をエリア別にモデル化で算出する。

④現実性検証
例:電柱と統計データとを比較する。

このように見ると、フェルミ推定は、「どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢」「前提条件を設定して先に進む力」「時間を決めてとにかく結論を出す力」の仮説思考そのものということが分かります。


【参考】
『地頭力を鍛える』細谷功著 東洋経済新報社

「分析をしてから結論を出す」は正しいか?(仮説思考)④

前回、経営戦略の分析型アプローチについて取り上げ、事前に詳細に分析して戦略を策定することの弊害について述べました。それは「環境変化を前提とすれば(過去の)分析など役に立たない」「精緻な分析をして策定した戦略や計画ほど変えたがらなくなる」というものでした。


■プロセス型アプローチによる戦略策定プロセス

正確に外部環境を予測することなどできないし、環境変化に応じて臨機応変に戦略を修正しなければいけないとしたら、最初からあまり精緻に戦略を作り込まないほうがよいことになります。プロセス型アプローチとは、まさにこのようなアプローチを指します。

プロセス型アプローチでは、まず大まかな戦略アウトラインが経営トップから示されます。戦略アウトラインは、経営者個人の洞察や観察の結果生まれます(周囲からのアドバイスがヒントになることもあります)。

次に戦略アウトラインが現場部門に降ろされ、その枠組みで試行錯誤を行いながら実行することが求められます。その結果、得られた成果が戦略アウトラインにフィードバックされ、戦略アウトラインが修正・精査されていきます。

つまり戦略アウトラインをコミュニケーションのベースとしながら、組織全体で修正を図っていくというプロセスです。当初想定されていなかった事態が起きても、それを排除せず、事業活動から得られた成果として、戦略アウトラインとして取り込んでいくのです。このことを指して創発戦略(偶然の機会や結果を積極的に取り込んでいく戦略)という場合もあります。

プロセス型アプローチは、いわば「走りながら考える」という戦略プロセスであり、「思いつき」「朝令暮改」のようなイメージを持つかもしれません。しかしながらこれらが単なる行き当たりばったりなのに対し、プロセス型アプローチでは最初の仮説を重視します。どうせ先は分からないのだから、それならば最初の分析はそこそこに仮説(戦略アウトライン)だけ立てて、それを実地で試して必要に応じて修正するほうが効率的ですし、有効でもあります。


■プロセス型アプローチを身近に活かす

さて、あなたが上司から何か企画書を2週間後に出すように言われたら、どのように対応するでしょうか。

マズイやり方は、2週間フルに使って分析と立案を行うということでしょう。2週間後に企画書を出したら、上司にはねられたなんてことも想定できます。さらに既に作り込んでいますから、修正することに大きな抵抗を覚えるはずです。

賢いやり方は、5日から1週間経ったら上司に企画初案(仮説)を出して反応を見るということです。そこで上司から修正の意見があっても、まだ期限がありますから、修正する余裕があります(まだ作り込んでいないので修正する気にもなります)。結果的に上司の期待に近い企画書ができる可能性が高くなります。

このように仮説思考の考え方は、ビジネス環境において効率良く活動する上で大きな力になります。


【参考】
『戦略計画 創造的破壊の時代』H・ミンツバーグ著 産能大学出版部
『競争戦略論』青島矢一・加藤俊彦著 東洋経済新報社

「分析をしてから結論を出す」は正しいか?(仮説思考)③

経営戦略というと、最初に精緻な分析を行った上で戦略を立案するというイメージがあると思います。これはこれで正しい面もあるのですが、行き過ぎると有効な戦略を立案できないどころか、それを実行するとかえって組織に害悪をもたらすことにもなります。

■分析型アプローチとプロセス型アプローチ

経営戦略のプロセスには、大きく分析型アプローチ(あるいはデザイン学派)とプロセス型アプローチ(あるいはラーニング学派)の2つの考え方があります。

分析型アプローチとは、端的に言えば「最初に精緻な戦略を立てる」という考え方です。一方、プロセス型アプローチとは、「最初は戦略のアウトラインだけ決めておき、実行の過程で得られた結果をアウトラインに反映させ、修正を図る」という考え方です。


■分析型アプローチによる戦略策定プロセス

分析型アプローチを採用した場合、少なくとも半年から1年以上の時間をかけて徹底的に外部環境や内部資源を分析した上で戦略やその実行のための計画が策定されます。欧米の場合、MBAホルダーを集めた経営企画部門がそれを担いますが、場合によっては多額の費用をかけてコンサルティング・ファームの支援を仰ぐ場合もあります。

戦略・計画の策定と実行は二分化され、現場部門は本社部門が作成した計画の実行を求められるのみです。

このような分析型アプローチによる戦略手法は欧米において1970年代後半から80年代にかけて採用され、戦略策定のプロセスが精緻化・ルール化されていきました。しかしながら、こうしたアプローチを採用しても業績が低迷するケースが相次ぐことになったのです。


■最初に精緻な分析を行うことの弊害

なぜ分析型アプローチでは上手くいかなかったのでしょうか。その理由は、黙々と実行だけを迫られる現場部門のモラールが低下する(その結果、計画が実行に移されない)こともありますが、「最初に徹底的に分析する」ことに依存します。

・外部環境の分析の際に、客観的なデータ(たとえば販売データや市場規模など) が重視されるが、それはこれまで起きたことの分析である。よって分析から導出される戦略は過去の延長にすぎず、環境が変化した場合には役に立たない。

・そもそも分析で将来を予測すること自体が無理である。

・新たな動きはデータとしては少なく、統計上の外れ値(例外)として排除されて
しまう。

・他社に打ち勝つためには独創的な戦略が求められるが、どの企業も同じようなデータに基づいて戦略を策定しているので独創性が期待できない。

・新機軸を打ち出すためには(曖昧さのある)定性データによる気づきや現場の洞察・観察が必要だが、(曖昧さのない)定量データでは発想のための情報としては限界があり、創造性が生まれにくい。そもそも定量データが入手できるまでに時間がかかりすぎ入手した後では手遅れになることも多い。

・後に無効であることが明らかとなった戦略でも、多額の費用や時間をかけて策定した以上はそれを修正したり棄却することに大きな心理的な抵抗を感じる。戦略や計画が精緻であるほどこの傾向は強くなる。

・一度精緻な戦略や計画を策定してしまうと、それで安心してしまい、「それを忠実に実行する」ことだけに関心が集まり、修正しようという意欲がなくなる。

・現場部門は細かくスケジュール化された計画の実行に追われ、新しいことを試したり、試行錯誤する余裕がなくなる。そもそも現場部門には独創性は期待されておらず、全体との整合性のみが求められている。


(戦略策定)プログラムは一定の環境であれば有効だが、環境が変われば役に立たないのです。


【参考】
『戦略計画 創造的破壊の時代』H・ミンツバーグ著 産能大学出版部
『戦略サファリ』ヘンリー ミンツバーグら著 東洋経済新報社

「分析をしてから結論を出す」は正しいか?(仮説思考)②

■限られた時間内で効率的に結論を出すには

「限られた時間内で効率的に質の高い結論を出す」ために求められるのが、仮説思考です。

仮説思考とは、①今ある情報だけで最も可能性の高い結論(仮説)を想定し、②常にそれを最終目的地として強く意識して、③情報の精度を上げながら検証を繰り返して仮説を修正しつつ最終結論に至る思考パターンのことです。

最初に仮説を立てる際には、ある程度の分析は行いますが、分析に徒らに時間を取らないということです。また単なる「思いつき」と異なるのは、仮説を立てた後に、それが適切か検証し、適切でなかったら再度仮説を立てて検証するというサイクルを繰り返すという点です。

「時間内に何か結論を出す」ということが絶対条件であるので、細かい分析をしてから結論を出している時間はありません。仮説を立て、それに沿って分析をしたほうが効率的です。また、どうせ時間をかけて分析して結論を出しても、ビジネス環境のように不確実性が高い場合においては、それが正しいかどうかはやってみなければ分からないというのが実情です。そうであるならば仮説に基づいてまず行ってみて、適当でなければまた新しい仮説を試してみるというサイクルを繰り返していったほうが精度は高まるでしょう。


■逆算して考える

仮説思考の本質は、「逆算して考える」ことにあります。すなわち「スタートから」「始めから」「現在地から」「現在から」「できることから」「手段から」「自分から」ではなく、「ゴールから」「終わりから」「目的地から」「将来から」「やるべきことから」「目的から」「相手から」考えるということです。


■仮説思考を適切に行うためのポイント

仮説思考を適切に行うためのポイントは、次の3つです。

①どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢
完全な情報を集めてから検討するのでは、いつまで経っても検討に入れません。また、そもそも完全な情報を入手できるはずもなく、どちらにせよいずれかの段階で思い切らざるを得ません。仮説を構築できるだけの情報が揃ったら、先に進むべきです。

②前提条件を設定して先に進む力
ビジネス環境においては、先のことを完全に予見することは困難です。「様子を見て決める」という姿勢に徹してしまうと、それだけ仮説の設定や結論の抽出までに時間がかかってしまうことになります。情報収集と同様、「きっとこうだろう」とある程度は前提を置いて進むべきです。
なお、その際には自分が置いた前提を明らかにするとともに、余裕があれば違う前提(状況)が生じた場合の仮説を立てておくことも望まれます(そこまで時間的な余裕がないことが多いですが、配慮はしておくべきでしょう)。

③時間を決めてとにかく結論を出す力
ビジネス環境においては必ず納期が設定されます。「この納期でどこまでできるか」という姿勢が求められます。ここでは完璧志向は弊害になります。そもそも完璧などありえないと割り切って時間制約でできることを目指すほうが良い結果を生みます。


【参考】
『地頭力を鍛える』細谷功著 東洋経済新報社
『仮説思考』内田和成著 東洋経済新報社


「分析をしてから結論を出す」は正しいか?(仮説思考)①

従業員200名の中小洋菓子メーカーのX社のマーケティング部では、新商品についての社長プレゼンが予定されている。X社の業績はこのところ低迷しており、起死回生のヒット商品が望まれているところである。マーケティング部長のA氏は、若手のB君にプランを出すように求めることにした。

3週間後、A部長はB君に中間報告を求めた。

A部長:B君、そろそろ新商品の方向性だけでも聞かせてくれないか。
B君:すいません、部長。まだ情報が十分に集まっていなくて、分析すら十分に
  行えていないんです。
A部長:足りない情報って何なの?
B君:営業部にお願いして取引先のスーパーやコンビニにアンケート調査を依頼
  したのですが、まだXスーパーからの返答が来なくて…。
  しかたがないので自分でXスーパーの支店に立ち寄って観察してみたの
  ですが、それで時間を取られてしまって・・・。
A部長:そういえば、2週間前にも営業部にアンケート調査を依頼していたけど、
   あれはどうしたの?それと先週はずっとインターネットの記事を沢山、
   プリントアウトしていたみたいだけど。
B君:ああ、お菓子と一緒に何が買われているかのショッピングバスケット分析
  のことですね。あまり今回の案件には関係がなさそうなので、再度、別の
  内容の調査を依頼したんです。それと、インターネットに限らず、洋菓子関
  係の新聞や雑誌の記事はもちろん、ファッション誌やライフスタイル提案誌
  の記事など、とりあえず片っ端から集めてみたのですが、どうも使えそうな
  ものがなくて…。
A部長:そんなことを言っていて大丈夫か?社長プレゼンはあと1週間後だぞ。
B君:すいません、部長。あと2、3日で情報が揃いますから、5日後にプランを出
  します。もう少し時間をいただけないでしょうか?

A部長は頭を抱えるばかりであった。



「限られた時間内でそれなりの質の結論を出す」ことが求められるという場面は、一般的なビジネス環境でよく見られます。上司や取引先に何らかの提案をしなければいけないということは、ほとんどの方が経験したことがあるはずです。このような場合、あまり時間がなく、かつ判断材料が少ないことが多いでしょう。

ここでありがちなエラーとしては、「自分が知っていること」「取っ付きやすいこと」から入って全体に広げていくというズームアウト的な視点です。枝葉の部分をやたら細かく分析し、それを全体に拡げようとするということです。しかしながら、分析の段階のどこかでつまずいてしまい、期限内に結論を出せなかったり、雑な結論を出してしまったりといったことが起こりえます。

これと似たようなケースとして、分析のための材料をやたらと集めてしまうというものがあります。インターネットや書籍などで大量に情報を仕入れたり、何度もアンケート調査を行ったりといったケースです。この場合、集められた情報の多くが、結局はほとんど使われないといったことが多いでしょう。また何か集められない情報があると、そこで全体が頓挫してしまうといったことも考えられます。
(つづく)


【参考】
『地頭力を鍛える』細谷功著 東洋経済新報社

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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