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トランプ政権への現実的な対応は?①


最新の内閣支持率を見ると、各社とも55%から60%強と支持率が上昇しています。対外的にはアメリカのトランプ政権の誕生と日本パッシング、慰安婦問題をめぐる韓国大使の一時帰国など、対外的には不安・懸念材料が広がっていますが、内閣支持率の上昇には、このような対外要因があるとの見方もあります。
一般的に対外リスクに国民の目を向けさせると国内の支持率が上がるというケースが多く見られます。もちろん安倍政権が対外リスクを煽っているわけではないし、対応を誤れば支持率急落ですが、これまでのところ概ね内閣の外交政策が支持されているということなのでしょう。


■アメリカの失業率は低下しない?

ご承知のとおり、トランプ大統領はアメリカ人の雇用の拡大を公約に掲げ、移民受け入れに対しては否定的な立場です。

しかしながら、経済問題にご関心がある方ならば、「アメリカの失業率は4.6%で既に構造的失業率(失業率の下限)に近づいており、これ以上、雇用を拡大させることは政策的に困難ではないか?」という疑問に行き着くはずです。

フィリップスカーブより失業率は金融緩和と相関があり、金融緩和(利下げ)すれば失業率は低下(雇用は増加)します(「金融緩和と失業率との関係(フィリップス・カーブ)①」を参照ください)。

構造的失業率に近づいたからこそ、FRB(アメリカ連邦準備制度)は昨年末に利上げに踏み切ったはずです。よって公共投資を行っても失業率の低下には限界があり、むしろ移民を受け入れなければ公共投資が実行できないおそれがあります。


■トランプ大統領は貧困層に関心があるわけではない?

私見ですが、トランプ大統領はそれほどアメリカのプアホワイトの所得拡大に熱心ではないと思います。これは閣僚にソロモン・ブラザーズ出身者が多いことから言われますが、経済政策を見ても所得再分配政策がなく、むしろ企業や富裕層への減税政策が多いことからも判断されます。

よく「トランプ大統領はまったくの素人で知識がない」という指摘がありますが、そもそも1代であれだけの不動産事業を築いたのですから、頭が悪いとは思えません。経済ブレーンもいますし、もはや失業率低下の余地が限られていることも知っていると考えたほうがよいでしょう。
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貿易赤字は悪いのか(GDPの見方)②

■日本は貿易立国ではない

貿易黒字や貿易赤字がここまで大きくクローズアップされる背景には、日本が貿易立国であるというイメージが強いからだと思われます。前回見たように需要面から見たGDPは次のように示されます。

需要面から見たGDP=国内消費+投資+政府支出+輸出-輸入

総務省統計局HPによれば、主要国のGDPに占める輸出および輸入の割合は次のとおりです(2014年度の輸出依存度・輸入依存度)。

ドイツ
輸出依存度39.9 輸入依存度32.7
イギリス
輸出依存度18.8 輸入依存度25.5
フランス
輸出依存度20.7 輸入依存度24.4
イタリア
輸出依存度25.0 輸入依存度23.0
カナダ
輸出依存度25.1 輸入依存度25.3
ロシア
輸出依存度25.0 輸入依存度18.0
日本
輸出依存度14.6 輸入依存度17.0
アメリカ
輸出依存度9.4 輸入依存度13.9
中国
輸出依存度23.3 輸入依存度20.6
韓国
輸出依存度42.9 輸入依存度39.5

日本はOECD7カ国のうち、アメリカについで2番目に輸出依存度が低いのです。輸出がGDPに占める割合だけ見れば、なんと貿易立国のイメージがほとんどないイギリスやフランス、イタリアなどよりも低いのです。

このように日本は内需国なのですから、貿易収支に一喜一憂するより、全体の6割を占める国内消費や景気の先行きを占う国内投資を上げることに関心を払うべきです。民間の消費や投資が落ち込んでいるのであれば代わりに政府が支出を増やすしかないのですが、2014年度以降は消費増税をあり、財政は緊縮傾向であり、これではなかなか景気は浮揚しないでしょう。


■為替リスクが迫る韓国

本ブログでもたびたび取り上げているように、日本企業の業績に対する為替の影響は大きいものがありますが、貿易依存度が極めて高いドイツや韓国に比べればまだましと言えます。

ドイツの場合は、ユーロという単一通貨により、為替リスクは極めて軽微と言えます(詳しくは「統一通貨ユーロがもたらしたもの①」をご参照ください)。しかしながら、ユーロは経済的な実力でかなりの差がある国々に無理やり単一通貨を課したものですから、もともと制度上無理があり、今後は離脱国が出はじめて、崩壊するかもしれません(私はいずれ崩壊するのではないかと見ています)。

韓国の場合は深刻かもしれません、政権が完全に機能不全に陥り国の国際的な信認が低下する中で、投機筋による通貨アタックの可能性があります。日韓スワップ協定に向けた話し合いが慰安婦問題でストップしてしまっているので、韓国当局がウォン急落を支えるためのドルがなく、それを見越してウォンの投げ売りが行われる可能性があり、韓国発のアジア通貨危機の再燃を指摘する声もあります。

韓国は輸出依存度42.9%、輸入依存度39.5%で、まさに輸入してきたものを加工して輸出する国です。ウォン安は輸出には追い風かもしれませんが、輸入には逆風です。

また急激な通貨安は国内で急激なインフレをもたらす可能性があります。
ウォン安によりウォンベースの輸入価格は上昇しますから、それが製品価格に転嫁される可能性があるからです。またウォンの投げ売りで、韓国内の財に対する通貨の割合が上昇しますので、相対的に希少性が増した財の価格(物価)は上昇するからです。

いずれにせよ韓国経済にとっては大ピンチです。日本国民としては慰安婦問題などでの韓国の対応は承服しがたいものがありますが、下手に韓国発の通貨危機のとばっちりをくらうよりは、(日本にとっては大した負担ではない)日韓スワップ協定を結んでしまったほうがよいかもしれません。

貿易赤字は悪いのか(GDPの見方)①

連日、就任後のトランプ大統領関連のニュースが続いています。私も就任演説を聞いていましたが、言っていることは大統領選のときのまんまで、実際に大統領になればトランプ氏もまともになるだろうという楽観的な予想を吹き飛ばしてしまいました。選挙で約束したことは、当然守るということなのでしょう。
ツイッターでの対日貿易赤字(日本にとっては黒字)批判や日本企業叩きが話題となっていますが、そもそも貿易赤字は問題なのでしょうか。GDPの観点から考えてみたいと思います。


■GDPは需要と供給の大小関係で決まる

GDP(国内総生産)の定義は、「1国内で1年間に生産された付加価値の合計」ですが、これは供給サイドの見方です。生産されるのは需要があるからだと考えると、GDPは需要サイドからも見ることができます。

ちなみにGDPは潜在総供給(1国の生産要素をフル稼働した場合に実現する総供給)と総需要のどちらか小さい方で決まります。

「潜在総供給>実際の総需要(デフレギャップ)」なら(生産しても需要がないので)実際の総供給は総需要の水準となり、GDPは需要サイドで決まります。

「実際の総需要>潜在総供給(インフレギャップ)」なら(生産が需要に追いつかないので)生産水準は潜在総供給(=実際の総供給)の水準となり、GDPは供給サイドで決まります。

日本の場合は、「潜在総供給>実際の総需要(デフレギャップ)」なので、GDPは需要サイドで決まります。


■貿易赤字でも経済成長する

やや脱線しましたが、需要サイドから見たGDPは、単純には次のような式で表現されます。

需要面から見たGDP=国内消費+投資+政府支出+輸出-輸入

「国内消費+投資+政府支出」は国内寄与分で、「輸出-輸入」は海外寄与分です。
この式を見ると、確かに輸出が増加して輸入が減少すればGDPは増加することになります。ですから貿易黒字(輸出-輸入)の額がいちいちニュースで取り沙汰されるわけです。貿易赤字になると、もはや亡国の危機かのように報道されます。

しかしながら経済学では、貿易赤字でも「so what?(だから何?)」というのが常識です。そもそも世界的に見れば、貿易黒字の国があれば赤字の国もあるわけで、カナダやオーストラリアのようにほとんど常に貿易赤字ですが、経済成長している国もあります。

というよりそもそもアメリカも30年以上貿易赤字ですが、貿易黒字(2011年から15年は赤字)であった日本よりも遥かに経済成長しています。ですから「貿易赤字で何が問題?」ということになるのです。


■輸入増加は景気が良い証拠

なぜ貿易赤字でもGDPは成長するのでしょうか。実は輸入は国内消費と同じ動きをするからです。輸入も国内消費も消費であることには変わりなく、海外で生産されたものの消費なら輸入、国内で生産されたものの消費なら国内消費になります。

景気が良く所得が上昇すれば、国内消費が増えると同時に輸入も増えます。
みなさんも給与が上がれば国内品も買うでしょうが海外のブランド品も買うでしょう。ですから輸入が増えていることは景気がよいことを示しているにすぎないことになります。

また輸入には海外の資源の購入も含みますが、海外の資源の購入が増えているということはそれだけ国内の生産活動が活発化しているということなので、こちらも景気が良い証拠ということになります(単なる資源価格の上昇は除く)。

「輸出-輸入」の海外寄与分を見ると、輸出が伸びず輸入が減れば、貿易黒字が拡大し、GDPは増加することになります。しかしこれは景気が良くないというシグナルです。公表されている日本の2016年度7―9月期の四半期GDPはこれを示しています。実質で0.3%、名目で0.1%のGDP成長ですが、実態的にはゼロかマイナスの経済成長と言えます。


■雇用を増やすには国内需要を増やすしかない

アメリカの話に戻すと、景気が良ければどのみち輸入は増えるのですから、輸入(日本にとっては輸出)を叩いてみても仕方がないことになります。トランプ大統領が雇用を増やすというのであれば、国内需要を上げて生産活動を活発化することしかできることはありません。

なぜ計画は実行されないのか②(計画の条件)

前回、計画が実行されない理由として、計画段階で5W1Hが明確にされていないからだということを指摘しました。これは計画段階で実行に移すための落とし込みが足りないと言い換えることができます。


■計画の条件

計画策定にあたっては、論理性、納得性、実現性が求められます。具体的には、次のとおりです。

・あるべき姿と現状との差がきちんと分析されていること。
・問題解決のための課題が具体的な数値や行動として示されていること。
・5WIHが示されていること。
・実行段階に応じて目標の達成度を測る指標が明確であること。
・計画を実行に移す際の留意点、リスクが想定されていること。


上記についてメンバーが理解し納得し、かつ必要な経営資源が確保されれば計画は機能するでしょう。


■目標設定はSMARTに!

計画段階では目標を設定しますが、目標設定にあたってのポイントとしては、SMARTというものがあります。

S(specific):具体的に
M(measurable):測定可能に
A(agreed upon):合意されている
R(realistic):現実的に(結果志向で)
T(timely):期限が明確

さらに1つ加えると、個々のメンバーの責任が明確であることも求められます。

ビジネス活動は原因と結果の関係が不明確であることは事実ですが、目標はもちろん効果測定がまったくないと、まず尻つぼみになります。効果が測定できないと、当然ながらメンバーに責任を問えなくなりますから、責任を問われないメンバーの関心も目先の現業に傾きがちになるでしょう。


【参考】
『世界一わかりやすいプロジェクト・マネジメント【第3版】』G.キャンベル、サニー ベーカー著 総合法令出版
『仕事が早くなる! CからはじめるPDCA』日本能率協会マネジメントセンター編 JMAM
『チームの目標を達成する!PDCA』東秀樹著 新星出版社


なぜ計画は実行されないのか①(計画の条件)

ミーティングの場で、誰かが何かアイデアを出し、他のメンバーもそれに同意したとします。そして、そのアイデアはプロジェクトとしてスタートします。

果たしてそのプロジェクトは実行に移されるのでしょうか?おそらくほとんどの場合、実行には移されないでしょう。あるいは多少は計画の具体化が進むものの、すぐにどこかで頓挫してしまったり、目先の業務が優先されたりして、そのうちに霧散することが多いのではないでしょうか。


■計画はスケジューリングではない

プロジェクトが実行に移されない理由の多くは、計画のマズさにあります。計画と言うと、まずはスケジューリング(いつまでにやるか)が浮かびますが、これは計画の一部に過ぎません。

計画という言葉を辞書で調べると、「物事を行うために、その方法・手順などを筋道を立てて企てること。また、その企ての内容。プラン。」とあります。つまり、方法や手順を明らかにすることであり、スケジューリングは方法や手順を実行する際の日程的な目標や、進捗管理のための手段に過ぎません。

実行に移されない計画では、スケジューリングだけが意識され、その前に決めておくべきことがなおざりになっているように感じます。


■計画で決めておくべきこと

計画の基本は、5W1H、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」を明らかにすることです。これに、誰に(Whom)、いくらで(How much)を加えた6W2Hというものもあります。

<6W2H>
だれが(Who):担当者は誰なのか?
いつ(When):いつからいつまでのタスクなのか?
どこで(Where):地域・場所・部門はどこか?
なにを(What):対象は何か?何を扱うのか?
誰に(Whom):顧客や折衝する先は誰なのか?
どのように(How):どのような手法を使うのか?

いくらで(How much):どの程度の費用(お金)をかけるのか?
なぜ(Why):どのような意義や目的があるのか?

このうち誰に(Whom)を除き、どれくらい(How much)を加えた5W3Hというものもあるようです。

最低限、5W1Hを明らかにしておかないと、計画はワークしません。対象や期限が曖昧だったり、意図が不明確だったりして、計画が尻つぼみになるケースは、多くの方が経験済かと思います。


【参考】
『この1冊ですべてわかる マネジメントの基本』手塚貞治編著 日本実業出版社


私たちは物価上昇を意識するのか?②

前回、デフレがマズイ理由を、フィッシャー方程式(実質利子率=名目利子率-予想インフレ率)から触れました。先日、ラジオ番組で、評論家の宮崎哲弥氏もこの観点からデフレのマズさを説明していました。資金を借りようとする人や既に借りている人にとっては、デフレ(あるいはデフレ予想)は、金利負担の上昇を意味し、資金需要を圧縮させ、設備投資や住宅投資意欲を減退させるというわけです。

フィッシャー方程式は、デフレの説明としては簡便で使い勝手がよいのですが、なかなか庶民感覚には伝わらないように感じます。素朴に「私たちは物価の上昇率を意識するのか?」という疑問にぶつかるからです。


■私たちは実質ではなく名目の世界に生きている?

名目とは額面上の値であり、実質とは名目から物価上昇率や予想インフレ率(期待物価上昇率)を控除したものです。

私たちが給与明細や契約金額で目にするのは、名目の額です。物価上昇率を新聞やニュースで目にすることはあっても、名目の額から物価上昇分を差し引いた実質の値を意識することはほとんどないでしょう。

名目と実質を同一視してしまう現象のことを、経済学では貨幣錯覚といいます。経済学では実質ベースで考えることが基本ですが、さりとて人々の名目と実質を同じに扱うという傾向を無視することはできません。


■実は私たちはインフレ率を予想している

確かに私たちは名目の世界に生きているのですが、さりとて期待物価上昇率をまったく意識しないわけではありません。実は知らず知らず意識しているのです。

物価が上がれば企業の名目上の売上や利益が増えます。そして、よほど渋い会社でなければ従業員1人1人の名目上の所得も増加します。「うちの売上や利益はどれくらい上がるだろう?」「今度のボーナスはどれくらい上がるかな?」というのは、まさに期待物価上昇率を意識したことです。

もちろん景気がよくなって物価が上昇しても、その恩恵は企業によって異なります。物価が上昇しても業界の構造的問題や経営の失敗によって、従業員の給与が上がらないケースは出てきます。

しかしながら、全国の企業の「どれくらい売上や利益が上がるだろう」、従業員の「どれくらい自分の所得が上がるだろう」ということを全体で集計し平均化すれば、それはおおよそ期待物価上昇率に相当することになります。

フィッシャー方程式に当てはめると、期待物価上昇率がマイナスということは、国民全体が、今後、自らの所得が減る率を平均した値を示していますので、いくら金利が低くてもそれでも負担が重く、お金を借りにくい状況ということを意味します。

逆に期待物価上昇率がプラスであれば、企業や人々が今後、自社の売上・利益や、自分の所得が上昇するだろうと思っていることを意味します。よって、実際の上がる前から消費や投資が活発化することになります。


■経済の説明を簡単に!

おそらくデフレが悪い最も簡単な説明は、次のようなものでしょう。今後、物の値段が下がることが予想されるのであれば、人々は今は消費や投資をせず、もっと値段が下がるまで待つだろうというものです。

これは経済学では、「マイナスの期待物価上昇率を人々が期待すると、実質貨幣価値が上昇するため、消費や投資の機会費用が高くなり、経済活動が萎縮する」と表現されます。

経済学に不案内であると、まったく意味不明な文章ですが、意味は同じです。経済活動は人間の活動ですから、本来はもっと分かりやすいはずです。私たち自身が素朴にイメージに合うよう考えることが必要ですが、専門家にはもっと普通の人に分かりやすい説明をして欲しいものですね。


私たちは物価上昇を意識するのか?①

■遠のくインフレ目標

総務省統計局から発表されている2016年11月分の消費者物価指数(CPI)を見ると、前年同月比で総合0.5%、生鮮食品を除く総合(コアCPI)-0.4%、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)0.1%となっています。
2013年度に日銀が定めたコアCPI2%の達成期限が、当初の2年を目処から、度々先送りされ、昨年10月に黒田総裁自身が自らの任期中での達成が難しいとの見通しを経済誌のインタビューの中で示しました。

2%のインフレ目標が実現していないことを批判する一方で、その手段である金融緩和には批判的な論調が野党やマスコミ、知識人(と言われている人)の一部から出ているのは、どうにも論理的な整合性がないように思えます。

またデフレだと沢山モノが買えてよいという誤った認識が未だに定着している感があり、先日、朝日新聞で掲載された経済論評もその立場です。


■デフレがマズイよくある理由

デフレはマズイ理由として、良く取り上げられるものとして、フィッシャー方程式があります。本ブログでも以前取り上げましたが、再掲しておきます。

実質利子率=名目利子率-予想インフレ率

名目とは額面上の値(つまり我々が負担で目にする値)であり、予想インフレ率(期待物価上昇率)は「人々が今後、どれくらい物価が上昇すると考えているか」を示すものです。予想インフレ率は、物価連動型国債の金利などで計測されます。

フィッシャー方程式によれば、デフレ(予想インフレ率がマイナス)だと、名目利子率が低水準で推移しても、実質利子率が上昇することになります。

たとえば、名目利子率が0%でも、予想インフレ率がマイナス1%になれば、実質利子率は1%上昇することになります。

よって資金を借りようとする人や既に借りている人にとっては、デフレ(あるいはデフレ予想)は、金利負担の上昇を意味し、資金需要を圧縮させ、設備投資や住宅投資意欲を減退させるということになります。だからデフレは悪いというわけです。


■GDPや賃金にも物価上昇率が反映される

ちなみに名目から期待インフレ率あるいはインフレ率を差し引くと実質的な値が出るという考え方は、名目と実質の左右を入れ替えて、利子率以外の次のものにも応用されます。

名目GDP成長率=実質GDP成長率+インフレ率
名目賃金上昇率=実質賃金上昇率+インフレ率

(つづく)



能力が低い人は集団になると頑張る?(ケーラー効果)

社会的補償が、集団内で能力が高い人が低い人をカバーするものであったのに対し、逆に能力が低い人が集団作業になると頑張ってパフォーマンスが上がる場合もあります。

■能力が低い人は集団になると頑張る?

能力が低い人が集団作業になると頑張ってパフォーマンスが上がる現象を、ケーラー効果といいます。

ケーラー効果は、結合的課題(メンバーの能力の下限に集団の成果が依存するもの。リレー形式のものが典型例)で現れやすいです。これは自分のパフォーマンスが評価されるからです。逆に頑張らなくても評価できない場合には、ケーラー効果は生じにくくなります。


集団作業で1人1人の貢献が評価できる場合、周りの人が優秀だと自分も頑張らないとやばいという気持ちになるということですね。

水泳のリレー競技を見ると、チーム内の上位の選手は記録が伸びないのに対し、下位の選手は記録が伸びることが確認されています。

またケーラー効果は、弱者と強者の能力がほどほどの場合に現れやすいことが確認されています。あまりに実力差があると、自分が頑張っても仕方がないと思ってしまうのでしょう。


■ケーラー効果が生じる理由

ケーラー効果が生じる理由としては2つ考えられます。

1つめは、上方比較によるものです。上方比較とは、自分のパフォーマンスが周りより劣る場合に、周りに近づくように努力するというものです。

2つめは、社会的不可欠性認知です。これは、自分の低能力のために集団全体のパフォーマンスを下げてしまい、集団に迷惑をかけるので、それを避けるために努力するというものです。

上方比較と社会的不可欠性認知は同時に働きますが、どちらかと言えば後者のほうの影響が強いことも分かっています。


■女性のほうがケーラー効果が生じやすい

女性のほうがケーラー効果が現れやすく、男性のほうが社会手抜きが現れやすいと言われています。

この理由としては、男女の指向性の違いから説明されています。女性は相互依存的、集団指向的であるのに対して、男性は独立的で個人指向的、自己主張が強く、対象を道具として見る傾向があり、社会的地位にこだわり、他者を支配する指向性があることがわかっています。

このことから、ケーラー効果は、男性の場合は上方比較によって単純に自分のパフォーマンスを上げたいから生じ、女性の場合は周りに迷惑をかけたくないとい社会的不可欠性認知によって生じることが推察されます。上方比較より社会的不可欠性認知のほうが強く働くので、女性のほうがケーラー効果が生じやすくなります。

社会的手抜きを防ぐためにケーラー効果を促すためには、どのようなことが考えられるでしょうか。男性・女性を一緒くたにするのもステレオタイプ的ですが、人によって説得の仕方を変えることは有効でしょう。

たとえば相手の指向に応じ、「君の頑張りに全体がかかっている」という社会的不可欠性を訴求する言い方や、「ここで頑張れば得られるものが必ずある」という上方比較を促す言い方を使い分けるということです。相手の指向を無視した言い方では効果がないでしょう。



【参考】
『人はなぜ集団になると怠けるのか』釘原直樹著 中央公論新社


パートナーがダメだと頑張る?(社会的補償)②

前回、能力が劣っている他者と組んで作業を行う状況で、しかも作業成果がグループ全体で共有される(連帯責任)場合には、他者の不足分を補うべく個人のパフォーマンスが上昇することが生じる場合がある(社会的補償)ことについて取り上げました。

■社会的補償が生じるとき

第1に社会的補償は、課題の重要性が高く、かつ同僚の能力が低いときにのみ現れる傾向があります。これについては、前回触れたとおりです。課題が重要でなければ、他者のカバーをする気にはなれません。

第2に、一緒に仕事をしている同僚や相方から当分逃れられない場合、社会的補償が現れる可能性があります。集団から短時間で離れられる場合には、相手の分まで仕事をする気にはなれないでしょう。

第3に、社会的補償は仕事を始めた初期に現れやすい可能性があります。相方が首尾一貫として手抜きを続ければ、こちらも呆れ果て、バカバカしくてフォローする気にはなれないでしょう。ただし、2つめで触れたように、相手との関係が長期に渡る場合はこの限りではありません。

第4に、社会的補償が発生する集団は、集団サイズが比較的小さいことが挙げられます。集団サイズが大きいと、あえて自分がフォローする気にはなれなくなり、社会的手抜き(集団になると手を抜く)と似たような心情になるでしょう。


■社会的手抜きは必要悪?

人はあるときには社会的手抜きを行い、あるときは社会的補償を行って、労力のバランスを取っているのかもしれません。すべてのことに努力を傾注することは難しいからです。「この人、何か手を抜いているな」と思ったら、「きっと他のことに忙しいのだろう」と思うと、気がおさまるかもしれません。

また自分より劣っている人をカバーすることで、自分自身の自尊心を維持しているという面も否定できず、考え方によっては社会的手抜きはモチベーション維持に貢献しているとも言えます。


【参考】
『人はなぜ集団になると怠けるのか』釘原直樹著 中央公論新社


パートナーがダメだと頑張る?(社会的補償)①

当ブログの「集団になると人は手抜きする(社会的手抜き)①」で触れたように、自分が集団の中に埋没して自分のパフォーマンスが評価されない場合には、社会的手抜き(集団になると人は怠け、単独で作業を行うよりも1人あたりの努力の量が低下する現象)が生じます。


■ダメな同僚と組むとがんばる

しかしながら、このような状況でも、なお個人のパフォーマンスが上昇する場合がありえます。能力が劣っている他者と組んで作業を行う状況で、しかも作業成果がグループ全体で共有される(連帯責任)場合には、他者の不足分を補うべく個人のパフォーマンスが上昇することが生じる場合があります。これを社会的補償といいます。


■重要な課題の場合は手を抜いてられない

2人の被験者が共同作業をし、相手が自分より能力が高いと思った場合と低いと思った場合、作業内容が被験者にとって重要だと思う場合と重要ではないと思う場合で実験をした結果、次のことがわかりました。

作業内容の重要性が高い場合には、他者の能力が劣っているときに個人のパフォーマンスが上がる社会的補償が生じ、逆に、作業内容の重要性が低い場合には、他者の能力が低いときにパフォーマンスが低下する社会的手抜きが生じたのです。

社会的手抜きや社会的補償は、思い込みでも生じます。男性は数的処理能力が優れていて言語能力は劣り、女性は言語能力に優れていて数的処理は苦手という印象が強く広まっています。

ある実験で、性別にかかわらず2人を組ませて数学の問題を共同で解かせたところ、相方が女性の場合は正解率が79%、男性の場合は55%となりました。一方、言語問題の場合は、相方が女性の場合は正解率が62%、男性の場合は71%となりました。

つまり数学問題では、女性と組んだ男性は女性をカバーしようと努力するが、相手が男性の場合は手抜きをし、言語問題では逆に、女性と組んだ男性は手抜きをし、相手が男性の場合は相手をカバーしようと努力したのです。


■オフィスでも見られる社会的補償

同僚が手を抜くと自分も手を抜くかというと必ずしもそうではないことは、オフィスでも言えるようです。あるアメリカの大企業で働く168名を対象に調査したところ、仕事の内容や目標が重要である場合、同僚の意欲や能力が低いほど、その分を補うべく努力する傾向が見られたのです。

管理者としては、作業内容の重要性が高い場合には、社会的手抜きは生じにくいのですから、心配はないでしょう。問題は、作業内容の重要性が低い場合には、意欲や能力が低い者に全体が引きずられてしまうということです。これについては、個人の成果を見える化する、(本当は作業の重要性が高いなら)作業の意義を理解させるといったことが求められます。


【参考】
『人はなぜ集団になると怠けるのか』釘原直樹著 中央公論新社

誰かがいるとパフォーマンスが上がる場合(社会的促進)②

前回、作業や課題を遂行している時に、そばに他者がいることで、その作業や課題の成績が高まる現象を社会的促進といい、逆に成績が低下することを社会的抑制ということを取り上げました。
一般に、簡単な、十分学習し、身に付いた課題の場合は、社会的促進が強く働き、難しい課題や学習が不十分な課題では、社会的抑制が強く働きます。
では、社会的促進や社会的抑制は、どのようなメカニズムで生じるのでしょうか。


■他人がいると慣れた行動をとりやすい

人間は、他者の存在により自動的に覚醒水準の上昇(脳幹賦活系、自律神経系、内分泌系の活動水準の上昇による心拍、血圧、知覚の鋭敏さ、反応速度などの上昇)がおきます。

その場合、単純な課題や十分学習された課題に対して、通常見られる反応(優勢反応)が出現しやすくなります。優勢反応がその状況に合致した反応であれば社会的促進となりパフォーマンスが上昇します。

しかし、その状況で要求される反応が、いまだよく学習されていない反応(非優勢反応)であれば、社会的抑制によるパフォーマンスの低下がおきます。

たとえば人間は相手の指が差している方向に視線を向ける傾向(優勢反応)があります。「あっち向いてホイ」では、「相手の指が差している方向に視線を向ける」が「相手が指さした方向と違い方向を見る」(非優勢反応)を上回るために、相手の指差す方向を見てしまうのです。もし「相手が指さした方向と違い方向を見る」ことを強く意識して優勢反応化すれば、相手の指差す方向を見ないようにできます。


■他人への注意が上手くいく場合と上手くいかない場合

他人の存在により覚醒水準が上がると注意が拡散します。社会的促進も社会的抑制も他人がいることでの注意の拡散によって生じます。それが努力の源泉となって社会的促進が生じ、空回りすると社会的抑制が生じます。

また他人から良く見られたいという欲求が人間にはあり、これが上手くはたらけば社会的促進が生じ、上手くはたらかないと社会的抑制が生じることになります。他人が自分を評価しない(評価できない)場合は、社会的促進も社会的抑制もはたらかないことになります。


易しい課題であれば、注意の拡散による認知の低下を作業者が何とかカバーしようとして、さらに他人から良く見られたいとして、過度に努力することで社会的促進が生じます。他人がいると気になるが、それを気にしないように努めて作業に集中する、何とかよいところを見せようと努力するということです。

難しい課題であれば、注意の拡散により、課題に十分な認知が行き渡らないためにパフォーマンスが低下し、社会的抑制が生じます。他人がいると落ち着いて考えられないといった経験は誰でもあるでしょう。

【参考】
『人はなぜ集団になると怠けるのか』釘原直樹著 中央公論新社

誰かがいるとパフォーマンスが上がる場合(社会的促進)①

昨年末にこのブログで社会的手抜きについて取り上げました。これは、集団になると人は怠け、単独で作業を行うよりも1人あたりの努力の量が低下する現象のことを指し、一般的に見られる現象です。
しかしながら、「1人でやるより集団でやったほうが1人あたりのパフォーマンスが上がることもあるのでは?」という疑問はあると思います。たとえば他人に見られることを意識して頑張るといったことが考えられます。

■社会的促進

作業や課題を遂行している時に、そばに他者がいることで、その作業や課題の成績が高まる現象を、社会的促進といいます。

これには、同じ作業や課題を行っている他者が別にいることによるものと、単に他者が傍らで見ているだけでも生じるものがあります。

前者は、同じ作業をやっている人が存在することで、自分もつられて作業に熱中してしまうということをイメージすればよいと思います。自分も他者も同じ内容の作業をしているが、互いの交流はなく、かつ個人の業績が明らかになる場合(共行動状況)の場合に社会的促進が生じることがわかっています。徒競走や水泳競技などが典型例です。

後者は、誰かに観察されると、いつもより頑張ってしまうということで、観察者がいると工員がいつもより高いパフォーマンスを上げてしまうといったホーソン効果が指摘されています。個人スポーツなどで観衆がいるとモチベーションが上がるといったこともこれに該当します。


■社会的促進は課題の質による

では、社会的促進はどのような場合に生じるのでしょうか。一般に、簡単な、十分学習し、身に付いた課題(たとえば、自転車のペダルを漕ぐ、1ケタの足し算をする)の場合は、集団で行う方が1人で行うよりも、1人あたりのパフォーマンスが良くなります。

一方、難しい課題や学習が不十分な課題(高等数学の問題を解く、慣れていない人がスマホでメールを書く)では、間違いが多くなったり、作業の質が低下したりすることがわかっています。集団になるとパフォーマンスが低下することを、社会的抑制といいます。


社会的促進は、私たちの生活の中に広範囲で見られる現象です。たとえば、誰かが何かを食べだすと自分もつられて食べだすといった具合です。誰かと一緒に食事をしたほうが、1人で食事をするよりも、食べる時間も食べる量も多くなることがわかっています。ダイエットをしたければ、1人で食事をするほうがよいでしょう。


【参考】
『人はなぜ集団になると怠けるのか』釘原直樹著 中央公論新社

報酬と創造性、そして承認欲求(青色LED訴訟)

高い報酬と創造性というと、たとえば青色発光ダイオードを発明・開発した中村修二氏(現カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)と、勤務先であった日亜化学工業との訴訟を想起する方もおられるかもしれません。

これは、中村修二氏が職務発明した窒化物半導体結晶膜の成長方法に関する特許についての支払いが争われたものです。2005年1月に、全関連特許などの対価などとして、日亜化学工業側が約8億4000万円を中村氏に支払うことで和解が成立しました。今回は、この訴訟について私見を交えながら取り上げたいと思います。

勤務先である日亜化学工業への高い貢献に対して、低すぎる報酬に頭にきた中村氏が高い金銭的報酬を求めて訴訟を起こしたという見方が一般的かもれません。テレビの評論家の意見も、中村氏の行動に対して「当然だ。また日本の研究開発力を高めるためにも高額な報酬を与えるべきだ」という肯定的な立場と、「職務発明なのだから不当な要求だ」という否定的な立場に分かれますが、いずれにせよ「カネと研究意欲」の関係から論じられることが多かった記憶があります。

中村氏は創業者社長が多額の研究開発費を躊躇なく出してくれたことには大変感謝していると述べており、また海外の企業や大学からの誘いにも当初は技術漏洩の可能性から固辞していたといいます。一方で、僅かな報奨金しか得ていないことを海外の研究者から「スレイブ・ナカムラ」と言われていたといいます。

特許権の帰属と、帰属が認められない場合の対価の額ばかりに焦点が集まりましたが、今から思えば、ことの本質はそこではなく、日亜化学工業側が中村氏の承認欲求を満たそうとしなかった点が大きかったように思えます。

多大な貢献をした中村氏に日亜化学工業側が十分に感謝し報いなかったことから、中村氏は離職を決意し、さらにその後、日亜化学工業が営業秘密漏洩の疑いで中村氏を提訴したことから、憤慨し、逆に日亜化学工業に対し特許権譲渡および特許の対価の増額を求めて提訴したと考えることもできます。

日亜化学工業側が中村氏の承認欲求を満たすような振る舞いをしていれば、互いにダメージを受けることもなかったかもしれません。

いずれにせよ、中村氏は高額の報酬を目的に研究開発を行っていたわけではないことは留意する必要があるでしょう。

お金をあげると失敗する!?②

前回は、高額の交換付きの報酬は、発想が問われる課題や、新しいことを次々と応用する必要があるクリエイティビティな課題にはまったく向かないこと、その理由は、広い視野で考えれば、見慣れたものに新たな用途を見つけられたかもしれないのに、報酬によって解決を焦り、発想の焦点が絞られたせいで自由度がなくなってしまうからであることを取り上げました。

高額の交換付きの報酬が、創造性を損なうことについては、他にもヤーキーズ・ダットソンの法則によっても説明できます。


■ヤーキーズ・ダットソンの法則

ヤーキーズ・ダットソンの法則というのは、一般に覚醒水準、すなわち意識がはっきりしている度合いが高まると課題の成績は高まるが、あまりに覚醒水準が高まりすぎると逆に課題の成績が低下してしまうというものです。


ヤーキーズ

すべての課題にはそれを行うのに最適な覚醒水準がありますが、課題が困難になるほど、その覚醒水準が低くなるとも言われています。また覚醒水準は報酬によって高まります。

発想の転換が要求される困難な課題においては、報酬が与えられることによって不必要に覚醒水準が高まってしまうと、そうではないときに比べて課題の成績が悪くなってしまうというわけです。

人はあまりに過剰に動機づけられて覚醒水準が高くなると(報酬に気を取られたり、プレッシャーがかかったりして)、成績が逆に低下してしまうということは、イメージがつきやすいかもしれません。


■高額のボーナスでアイデアを募るのは逆効果では?

さて、高額のボーナスを懸賞にして、新規事業案や新商品開発案を社内で募るということがたまに見受けられますが、これまでの議論から逆効果となる恐れが高いと考えざるを得ません。

確かに何も新規提案を考えない社員に対して、無理やりアイデアを出させるには、高額の報酬で釣るのは効果があります。しかしながら、新規事業案や新商品開発案は、そもそもかなり高度な創造力が求められます。報酬で無理やり出させたアイデアなど、所詮は画期的でないどころか、ほとんど効果がないような代物になるのがオチではないでしょうか。

むしろ優れたアイデアを出した人に対し正当に評価することで名誉欲を満たしてあげるとか、事後的に感謝の形として報酬を与えるといったほうが効果があると思います。

つまり、本ブログでも取り上げた承認欲求(自分を認めて欲しいという欲求)に働きかけたほうが効果があるように思われます。

【参考】
『行動を起こし、持続する力』外山美樹著 新曜社
『不合理だからすべてがうまくいく』ダン・アリエリー著 早川書房

お金をあげると失敗する!?①

新年、明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

本ブログでもお金とモチベーションとの関係は何度が取り上げました。これまでの心理学の研究成果によれば、金銭的報酬は内発的な動機づけを低下させる可能性が高いということが裏付けられています。

※ただし金銭的報酬は必ずしも内発的な動機づけを低下させるわけではないことにも留意すべきです。詳しくは本ブログの「ボーナスが威力を持つ場合とは?」を参照してみてください。

今回は、高額の金銭的報酬を与えると創造性が失われることについて取り上げます。


■高額の報酬を与えると成績が悪くなる!?

行動経済学者のダン・アリエリーらは、インドで次のような実験を行いました。

彼らは実験参加者に、いくつかのゲームをしてほしいと頼んだ。それは、パズルだったり、何桁かの数字を記憶してもらうものだったり、テニスボールを的に向かって投げてもらうものだったり、アナグラム(ランダムに置かれた文字を意味のある言葉に並び替えるゲーム。たとえば「tiontivamo」を「motivation」と置き換える)だったりした。これには、注意力、記憶力、集中力、そして創造力など、様々な能力が必要とされる。

この実験では、参加者を、あるレベルの成績を達成した場合に与えることを約束した報酬の額によって3つのグループに分けた。具体的にはインドの1日分の賃金に相当する報酬グループ(4ルピー)、2週間分の賃金に相当する報酬グループ(40ルピー)、5ヶ月分の賃金に相当する報酬グループ(400ルピー)である。すべての参加者には、あるレベルの成績を達成した場合の報酬額として、3つのうちいずれかが前もって提示された交換条件付きの報酬である。



それでは、実際の成績は、提示された報酬によって変わったのでしょうか?私たちが考えるように、高い報酬を提示された方が、結果は良かったのでしょうか?結果は、最も少額の報酬グループが最も成績が良く、最も高額の報酬グループの成績が最も悪かったのです。


■高額な報酬は視野を狭くする

ドゥンカーの実験など他の心理学の実験でも、高額な報酬がかえって思考の明晰化や創造力を損なうことを示しています。

報酬には、もともと注意や発想の焦点を狭めるという性質があります。既存の問題を解決するような単純作業の場合には、この性質は役に立ちます。前方を見据え、全速力で走るには有効でしょう。

ただし、交換付きの報酬は、発想が問われる課題や、新しいことを次々と応用する必要があるクリエイティビティな課題にはまったく向かないのです。
広い視野で考えれば、見慣れたものに新たな用途を見つけられたかもしれないのに、報酬によって解決を焦り、発想の焦点が絞られたせいで自由度がなくなってしまったのです。

【参考】
『行動を起こし、持続する力』外山美樹著 新曜社
『不合理だからすべてがうまくいく』ダン・アリエリー著 早川書房


プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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