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ユーザーイノベーション⑤(ユーザーをイノベーション活動に参加させるために必要なこと)

ここまでリードユーザーと呼ばれる専門性が高い人たちを巻き込むことが企業のイノベーション活動にとって重要だということを示してきました。今回は、どうすればユーザーを自社のイノベーション活動に参加させられるかについて考えたいと思います。


■ユーザーイノベーションを支援する

1つめは、ユーザーイノベーションを支援するというものです。

つまり、自社の製品の改良に役立つように、オープン・インターフェースを文書化すること、イノベーションに役立つような開発者用ツールキットを作成すること、および共通の関心を持つユーザー同士が簡単に情報を共有できて、しかも一緒にイノベーションを生み出すことができるウェブサイトを立ち上げることです。

これについてはフリーウェアのリナックスが典型例でしょう。ファブリックなどのインテリア用品、アパレルであれば、メーカー側でデザインツールを用意してあげることは有効です。玩具メーカーのレコ社も製品デザイン用のソフトを公開しています。


■ユーザーの希望は何か?

2つめは、ユーザーがイノベーションによって共同作業を行う企業に利益をもたらす見返りに何を期待しているのかを知ることです。

たとえばユーザーは、自分たちのユーザーコミュニティへの支援や、部品の無償提供、あるいは社内の開発者と特別に連絡が取り合えることを希望するかもしれません。ユーザーイノベーターとの間で、長期にわたり良好な関係を維持するには、双方の利益になるウィンウィンの状況を作る必要があります。


■ユーザーに花を持たせる

3つめは、ユーザーイノベーションの商品化を決定した場合、イノベーターに花を持たせることです。たとえば企業の製品が、あるユーザーのイノベーションによるプロトタイプをもとにしている場合、それを公表するのです。

2つめとも関係しますが、ユーザーは必ずしもイノベーションの対価として金銭的な見返りを求めているわけではありません。本ブログの承認欲求でも触れましたが、むしろ「自分の能力を認めてもらいたい」という承認欲求のほうが強い場合がと思われます。

であれば、「○○氏考案」といったようにユーザーを前面に出してあげることは、ユーザーイノベーターの満足度を高め、他のユーザーのイノベーションの意欲も高まるのではないでしょうか。


【参考】
『ユーザーイノベーション』小川進著 東洋経済新報社

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ユーザーイノベーション④(リードユーザーの見つけかた:その2)

前回は、市場の不透明性・不確実性が高い状況下では、できるだけ多くのアイデアを募り、その評価も消費者に委ねてしまおうという発想が有効であることを触れました。


■クラウドソーシング

インターネットの普及により、不特定多数の群衆(crowd)を製品開発に組み込むことが活発化しています。不特定多数の消費者に対し、欲しいと望む製品案やそれに対する評価をインターネットを通じて募集し、消費者からの反応をもとに製品化を検討する仕組みをクラウドソーシングといいます。

アパレル企業の中には、不特定多数の消費者から商品デザイン案を募集し、それに対する消費者からの評価や事前予約をもとに、生産・販売を行っているケースがあります。消費者からの評価が発売前に分かるのですから、これ以上の需要予測はないでしょう。

また、世界最大のレシピサイトを運営するクックパッドでは、消費者から募集したレシピ案のコンテストを実施しています。人気のレシピを使った料理をしたいという消費者が増加すれば、そのレシピで使用された商品の売上が伸びるという循環を作り出しています。ちなみにクックパッドは、食品メーカーや飲料メーカーからサイトの利用料を徴収するというビジネスモデルを採用しています。

無印商品を展開する良品企画も同様で、従来の商品開発と比べて、クラウドソーシングによる商品開発のほうが、競合品に対する新規性、初年度の売上実績などの点で優れているといった報告もあります。


■コミュニティを作る

せっかく個人が良いアイデアを持っていても、それを公開してくれなければメーカー側はアイデアに気が付くことができません。

ユーザーイノベーターには、何らかの同好のコミュニティに属するコミュニティ・イノベーターと、何も属さない個人イノベーターがいます。

コミュニティ・イノベーターは、個人イノベーターよりもイノベーション情報を公開する傾向があります。
この背景には、「自分のアイデアを認めてもらうことで何らかの金銭的報酬が手に入るかもしれない」ということもありますが、他人を意識することで「自分を認めてもらいたい」という社会的動機や「製品をより良いものにしたい」という自己実現的動機があると考えられます。

以上から、企業がクラウドソーシングを行うには、自社の扱う製品についての専門性が高いコミュニティにアクセスするか、企業自らコミュニティを組織するかを選択する必要があります。よく自社ユーザーを「○○倶楽部」といった会員組織にする行為が見られますが、これもクラウドソーシングの一種と考えることができます。


【参考】
『ユーザーイノベーション』小川進著 東洋経済新報社

ユーザーイノベーション③(リードユーザーの見つけかた:その1)

■リードユーザーをどうやって見つけるのか

リードユーザーの特徴を再確認しておきましょう。リードユーザーの特徴は、①多数の一般ユーザーがやがて抱くことになる新しいニーズに直面している、②その新しいニーズを満たすイノベーションを実現することで大きな便益の獲得を期待できる、の2点があります。

メーカーのイノベーションにとって、リードユーザーのアイデアを取り込むことは、非常に有効です。しかしながら、リードユーザーはユーザー全体のほんの数%しかいませんから、見つけることが非常に難しいです。

今回は、そのリードユーザーをどうやって見つけるのかについて考えてみたいと思います。


■スクリーニング

リードユーザーを見つけるための最も原始的な方法は、スクリーニングというものです。これは、リードユーザーが含まれていると思われるリストを入手あるいは作成し、それに基づいてリードユーザーを片っ端から探していくというものです。

スクリーニングはとても労力がかかるし、またあくまでメーカー目線での評価になるという不確実性があります。つまり、メーカー側で「このイノベーションは素晴らしい」と思っても、それが実際に需要を伴うものかは分からないということです。メーカー目線でのイノベーションの評価が必ずしも有効かどうかはわからないのです。


■ピラミディング

持っている専門的な知識に応じて人を階層化すると、プラミッドの形になります。つまりあまり詳しくない人は多いが、詳しくなるにつれ人数が限られてくるということです。

ある製品に強い関心を持っている人は、自分よりも詳しい人を知っているはずです。たとえば私はレコード収集を趣味にしていますが、自分より詳しい人を紹介することができます。

ある製品に強い関心を持っている人に、より優れたエキスパートを教えてもらい、さらに紹介された人に同じようにより優れたエキスパートを紹介してもらうという紹介の連鎖によって最高レベルの人に辿り着こうというのがピラミッディングです。

ピラミッディングは、スクリーニングより労力はかかりませんが、イノベーションの評価がメーカーサイドにあることは変わりません。


■結局、メーカーは需要を見極められない

スクリーニングにせよ、ピラミッディングにせよ、ごく限られたユーザーを対象に調査し、その有効性をメーカー側で行います。しかしながら、メーカー側が「これは需要がある!」と踏んでも、それどおり行かないのが現実です。メーカーからすれば、おもちゃのように思えるアイデアが、実際には大ヒットするという現象は珍しいものではありません。

そうであるならば、できるだけ多くのアイデアを募り、その評価も消費者に委ねてしまおうという発想が生まれます。これがクラウドソーシングです。
(つづく)


【参考】
『ユーザーイノベーション』小川進著 東洋経済新報社

ユーザーイノベーション②(ユーザーイノベーションの傾向)

ユーザーのほとんどは素人ですが、メーカーなどの開発者をハッとさせるようなアイデアを持ちイノベーションを行うユーザーも僅かながら存在します。彼らはリードユーザーといわれます。


■リードユーザーはどれくらいいるのか?

ある調査によれば、日本の場合、ユーザーの1.7%が製品創造を、2.5%が製品改良を、0.5%が両方を経験しており、全体では3.7%が製品イノベーションを行っていました。

アメリカの場合、ユーザーの2.9%が製品創造を、2.8%が製品改良を、0.5%が両方を経験しており、全体では5.2%が製品イノベーションを行っていました。

日本でのユーザーイノベーションの例をいくつかご紹介しましょう。

・静電気を使ってほこり取りをするクリーナーに付着したほこりを簡単に取り除き、何度も使用できるように、塩ビ管の内部に突起 状のものをランダムに設置したものを電気掃除機に接続した。
・電子レンジを使ってご飯を炊く半加圧炊飯具を作った。
・単一乾電池6個を使う子供用乗用車を充電池が使えるようにした。
・手足が不自由な母親のために、車椅子に乗ったままで着脱可能なコートを作った。
・手が不自由なので、片手で脱着可能な洋服を作った。

手先が器用な人が日曜大工で何か変わった家具を作ってしまうというのもユーザーイノベーションです。

製品の創造・改良ではありませんが、業務用のマスキングテープを日用雑貨として使うといった新たな用途の開発もユーザーイノベーションとみなすことができます。

また、一流のアスリートのアドバイスによって製品を改良したり、新たな製品を開発するといったことは、スポーツ界ではよく見られますが、これもアスリートという高度なユーザーによるイノベーションの類型と見ることもできます。


■ユーザーはメーカーの代わりにイノベーションをしている?

ユーザーイノベーションはどの分野で見られるのでしょうか。日本の場合だと、住居関連が突出して多く(約46%)、次いで乗り物関連(約10%)、工芸・工作道具(約8%)、スポーツ・趣味(約7%)となっています。

また、ユーザーイノベーターの全体の傾向を見ると、全体の半分以上は、いわゆる一発屋で、年に1回以下しかイノベーションを行っていませんが、20%強のユーザーは、ドクター中松よろしく、毎年3回以上の製品イノベーションを行う多産型のイノベーターであると言われます。
ただし多産型のイノベーターは必ずしも同じ製品分野のイノベーションを繰り返すわけではなく、製品分野を超えてイノベーションを行うケースが多いようです。

さらにユーザーイノベーターの投資額を見ると、メーカーの研究開発投資額の約13%に相当します(アメリカでは33%、イギリスは144%)。

つまりユーザーイノベーターは、メーカーの研究開発投資を肩代わりしているとも言え、メーカーのイノベーション活動にとって、ユーザーイノベーターたちのアイデアや成果をうまく取り込むことが重要であると言えます。


【参考】
『ユーザーイノベーション』小川進著 東洋経済新報社

ユーザーイノベーション①(顧客の声は聞くべきか?)

■顧客の声は聞くべきか?

唐突ですが顧客の声は聞くべきでしょうか?答えは「場合によりけり」です。

「顧客のニーズに耳を傾けろ」とはよく言われますが、本ブログの「ビジネスモデル⑥(顧客価値を考えるヒント1:使用シーンを考える)」でも触れたように、寄せられる声のほとんどは、「安くして欲しい」「早くして欲しい」「機能をつけて欲しい」など、ごくごく当たり前の声です。

こうした声に耳を傾けること自体は悪い声ではありませんが、売り手側としてはやれるものなら既にやっているはずです。そして同業他社にもこのような声は当然ながら届いているでしょう。

顧客が既に認識しているニーズに対応することは、これまでにないようなユニークな商品の開発やイノベーションにはつながりにくいのです。もっとも問題点の解消(改善レベル)であれば顧客の声は有効ですから、もちろん顧客の声を聞かなくて良いわけではありません。


■潜在ニーズを掘り起こす

イノベーションを起こすには、顧客がまだ気がついていないニーズ(潜在的なニーズ)を掘り起こし、それを解消するという価値提案が重要だとされます。

そのためには、これまでのイノベーション論では、製品開発者が自ら製品の使用場面を観察したり、実際に使ってみて問題点を掘り起こすといったことが行われます。
こうした行為は参与観察と呼ばれ、P&Gなどのケースが有名です。

あるいはグループインタビュー形式でモニターの意見を聴くフォーカスグループインタビューや、製品に対するイメージや要望を深層部分まで掘り起こすデプスインタビューなどが行われたりします。

シチューのデプスインタビューでは、たとえば「シチューに対してどのようなイメージがあるか」「どのようなシチュエーションを思い浮かぶか」「自分がシチューだったら、どんな言葉を発するか」などといったことを聞き、それを商品コンセプトに反映させるわけです。


■ユーザー発のイノベーション

しかしながらその一方で、メーカーなどの開発者をハッとさせるようなアイデアを持ちイノベーションを行うユーザーも僅かながら存在します。彼らはリードユーザーといわれます。

リードユーザーの特徴は、①多数の一般ユーザーがやがて抱くことになる新しいニーズに直面している、②その新しいニーズを満たすイノベーションを実現することで大きな便益の獲得を期待できる、の2点があります。


リードユーザーの存在は、ハイテクの世界で指摘されるケースが多いです。たとえばソフトウェアをユーザー自ら改良するといったケースです。オープンソースのLinuxなんかは典型的なケースでしょう。

リードユーザーは一般の消費財でも見られます。たとえば、怪我で足が不自由になったエンジニアがバッテリー付きの歩行用ズボンを開発したり、オフロード用に自転車を改良したものがやがてマウンテンバイクになったり、レゴの愛好家たちがレゴの新商品を開発したりといったケースがあります。

このようにユーザーがイノベーションに取り組むことを、ユーザーイノベーションといいます。

【参考】
『ユーザーイノベーション』小川進著 東洋経済新報社
『買い物客はそのキーワードで手を伸ばす』学習院マネジメント・スクール著 ダイヤモンド社


待機児童問題を経済学で考えると?

保育園の待機児童問題は、首都圏など限られた地域での問題ですが、今回はこの問題を経済学的に考えてみたいと思います。保育園の待機児童問題は、経済学的には最も簡単な部類の問題かもしれません


■保育園問題を経済モデルで表すと?

認可保育園の保育料は、住民税の所得割額から算定されますが、基本的に公定価格であり、市場の需要と供給から決まるわけではありません。入園希望者が多いにもかかわらず供給が追いつかないということで、実際の保育料は、市場の需給で決まる均衡保育料よりも安く設定されていることになります。

これを簡単な需要と供給の図で表すと、次のようなものになります。

待機児童①

■まずは保育園の市場化を進める

供給サイドを見ると、認可保育園は国が定めた認可基準(施設の広さ、保育士等の職員数、給食設備、防災管理、衛生管理など)をクリアして都道府県知事に認可されます。一方、無認可は届出制ですが、認可保育園の保育料がアンカーとなり、保育料は抑え気味にならざるを得ません。

供給不足であることは明らかなので、まずは供給量を上げる必要があります。そのためには公定価格を撤廃する、認可基準を緩和するなど、自由市場化を進めるしかありません。保育料が上がれば新規参入が増加しますし、保育園の収益が上がれば相対的に低い保育士の賃金も上がるはずです。

また需要サイドを見ても、結果的に利用できる人たちが増加します。


■低所得者には補助金で問題は解決

保育料の上昇は、おそらく「金持ちしか利用できないじゃないか」という反発を招くと思いますが、それは一部の保育サービス利用者への給付金支給で解決できます。供給サイド全体の余剰(生産者余剰:これまでよりも高く売れる分の合計)が増加しますから、そこから税金という形で徴収することができるからです。

また、現在、保育士試験の合格率は約20%と難関ですが(他に短大や専門校による養成校コースあり)、これを緩和すれば保育士不足も緩和されます。その結果、保育園の参入を後押しし、供給曲線が左側にシフトすることで、保育料の上昇をある程度抑えることが出来るでしょう。

待機児童②

ビジネスモデル⑱(「ビジネスモデルの9セル」まとめ)

さて17回に渡りビジネスモデルについて考えてきました。これまで扱ってきたのは、「中小企業のためのビジネスモデル」と題したセミナー原稿をまとめたものです。
よって、これ以外のものもありますし、特に大企業の場合は別のロジックも存在します。扱っていないものについては、また機会を改めて取り上げることとして、今回はこれまでのまとめをしておきたいと思います。
創業(あるいは創業支援)、新規事業や新製品・新サービスの立ち上げ(あるいはその支援)の際には、きっと参考になると思います。

ビジネスモデルまとめ

【参考】
『そのビジネスから「儲け」を生み出す 9つの質問』川上昌直著 日経BP社
『ビジネスモデルのグランドデザイン』川上昌直著 中央経済社

ビジネスモデル⑰(プロセスの設計)

ビジネスモデルの設計は、顧客価値・利益・プロセスの順に設計します。ここまで顧客価値と利益の設計について見てきましたが、この2つが設計されれば、プロセスの設計は自ずと決まってきます。


■プロセス設計のポイント

プロセス設計は次の順で行われます。

①どんな手順で儲けるか?
②その手順のために使える自社の強み(資源)は何か?
③その手順のために誰と組むべきか?


「①どんな手順で儲けるか?」については、多くの場合、利益設計の段階でクリアにされているはずです。


■ネットワークの構築方法

自社ですべての業務をカバーすることは困難であり、またそうすべきでもありません。自社は自分の強みやコアとなる部分に特化し、ほかは外部の組織とアライアンス(提携)を組むというのが原則です。

よってプロセス設計の基本は、どうやってネットワークを形成するかが最大のポイントになります。

ネットワークの構築方法には、次のようなことがあります。

①アライアンス(提携)
・それぞれの競争優位をともに高めるために、連携してリスクと売上を分かち合う。
・共通の目的を達成するために、場合によっては競争相手となる企業との連携も視野に入れる。
・自社と似通った市場を相手にしているが、自社とは異なる製品サービスを提供している異業種の企業との連携も有効である。

②統合
自社と同じ市場か補完的市場にいる企業を買収する。

③オープンイノベーション
専門知識を利用、強化、拡大するために、自社や他社の知的財産やプロセス、ノウハウを利用できるようにする。

④プラットフォーム
売り手と買い手を結びつけるビジネスの場を提供する。「ビジネスモデル⑮(利益設計6:無料モデル)」で取り上げた「ボランティア型(ボランティアの力を利用して第三者補助型のパターンを作るというもの)」に対応します。






ビジネスモデル⑯(利益設計7:利益設計するための8つのロジック)

「誰から儲ける」「何で儲ける」「どう儲ける(いつ儲ける)」の組み合わせで8つのパターンの利益設計が可能になります。自社のビジネスモデルを考える上で、どれが可能か考えてみるのも有効だと思います。

Aパターン(売り切り)
誰から:全員 何で:全商品 いつ:直ちに

例)
従来型のビジネスモデル。競争力がないともはや困難。

Bパターン(生涯価値)
誰から:全員 何で:全商品 いつ:時間をかけて

例)
インターネットのプロバイダ料金、教室授業料、フィットネスジムの利用料金など

Cパターン(マージンミックス)
誰から:全員 何で:儲ける商品と儲けない商品 いつ:直ちに

例)
牛丼、カラオケボックス、100均ショップ

Dパターン(インストール型)
誰から:全員 何で:儲ける商品と儲けない商品 いつ:時間をかけて

例)
ファミコン、カミソリ、コピー、プリンター

Eパターン(顧客ミックス/マルチコンポーネント)
誰から:儲ける相手と儲けない相手 何で:全商品 いつ:直ちに

例)
家族連れレジャー(子供は安く大人は高く)、カップル料金(女性は安く男性は高く)


Fパターン(フリーミアム)
誰から:儲ける相手と儲けない相手 何で:全商品 いつ:時間をかけて

例)
スマホのゲーム、Dropbox

Gパターン(第三者課金)
誰から:儲ける相手と儲けない相手 何で:儲ける商品と儲けない商品 いつ:直ちに

例)
テレビやラジオ、雑誌の広告モデル、Youtubeなどインターネットサイト

Hパターン(プラットフォーム構築/ビッグデータ)
誰から:儲ける相手と儲けない相手 何で:儲ける商品と儲けない商品 いつ:時間をかけて

例)
TSUTAYA(CCC)のマーケット情報サービスやアマゾンのITサービス


【参考】
『そのビジネスから「儲け」を生み出す 9つの質問』川上昌直著 日経BP社


ビジネスモデル⑮(利益設計6:無料モデル)

「誰から・何で儲ける?」を考える際には、無料(フリー)が絡むビジネスモデルのパターンを参考にすることができます。
以前、「フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略」(クリス・アンダーソン著 NHK出版)がベストセラーになったことから注目されました。
フリーモデルには、4つのパターンがあります。

①直接的内部補助型
ある部分を無料にして別の部分で儲けるというものです。

例)
・無料の宣伝ティッシュで来店につなげる。
・配送料を無料にして売上増で儲ける(アマゾン)。

②第三者補助型(広告モデル)
取引当事者である2者が無料で交換することで市場を創り出し、後から加わる第三者が費用を負担するというものです。

例)
コンテンツやサービスを無料にして広告で儲ける(民放、Google、フリーペーパー)

③一部利用者負担型(フリーミアム)
一部の優良顧客が大部分の無料顧客を支えるというものです。

例)
・閲覧側は無料にして作成側のソフトで儲ける(AdobePDF)。
・買い手側は無料にして売り手側への手数料で儲ける(クレジットカード、ペイパル)。
・ゲーム自体は無料にしてアイテム課金で儲ける(グリー、LINE)。
・基本サービスは無料にして一部の有料会員で儲ける(Dropbox、クックパッド)。

④ボランティア型
ボランティアの力を利用して第三者補助型のパターンを作るというものです。

例)
ボランティアによる評価や記事を無料で公開し、価値を高めてトラフィック広告や送客手数料で儲ける(YouTube、価格.com)


【参考】
『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』クリス・アンダーソン著 NHK出版)
『ビジネスモデル全史』三谷宏治著 ディスカヴァー・トゥエンティワン
『ビジネスモデルのグランドデザイン』川上昌直著 中央経済社



ビジネスモデル⑭(利益設計5:「いつ儲ける?」のヒント)

■「すぐに儲けない」という考え方

売り手側としては、すぐに売上や利益を立てたいと考えるのが本音です。しかし、あえて「儲けるタイミングをずらす(時間をかけて儲ける)」ことで、結果的には大きな利益を得ることができる場合があります。

これは「一度にたくさん儲ける」のではなく、「分散して長く儲ける」「当面は損をして末永く儲ける」という考え方です。



■時間軸をずらした儲け方の例

時間軸をずらした儲け方の例としては、次のようなものが考えられます。

●コンテンツではなく後で広告で儲ける

いわゆる広告モデルと言われるものです。メディア全般では、コンテンツではなく、広告収入で収益を上げるというのが通常です。YouTubeなどネット上でも情報発信型のものでは、広告モデルを採用しています。情報提供型のサービスを考えている場合には、まず検討したいビジネスモデルです。


●本体ではなく後で消耗品で儲ける

前回のジレット・モデルです。プリンターやコピーは、本体ではなく消耗品であるトナーなどで儲けていることは有名です。他にバリスタマシンは本体ではなく商品のコーヒーカートリッジで、携帯電話通信業は携帯電話本体よりも通話料で儲けています。スポーツ用品小売業では、ゴルフクラブやスキー板などの大物商品ではなく、そのメンテナンスで儲ける場合もあります。


●本体ではなく後で追加アプリで儲ける

これも一種のジレット・モデルと言えます。グリーやLINEなどをイメージできるかと思います。

飲食店で看板商品(ハンバーガーショップのハンバーガーや、牛丼屋の牛丼)ではなく、サイドメニュー(ドリンクやポテト、サラダ、ドリンク)で儲けています。エステサロンで脱毛サービスを極端に安価にし、追加の美容サービスで儲けるのもこのパターンです。


●顧客との関係性を築いて長期的に儲ける

小売・サービスなどで全般的に見られるものです。会員カードで顧客をランク付けし、優良顧客には手厚いサービスや特典を提供することで末永くご愛顧いただこうというものです。もっとも古典的であり商売の基本ともいうべきものです。


●顧客を囲い込み長期的に儲ける

ソフトウェアなど商品によって使い勝手が異なり、かつその習得にコストがかかる場合は、スイッチングコスト(他の商品に切り替えるコスト)が高いですから、一度顧客を抱え込んでしまえば安定的な収益が期待できます。タバコなどの嗜好品も同様です。

売り手としては一度、ユーザーに試してもらってその良さを分からせることが最優先となります。


●顧客の成長に合わせてランクアップさせる

上のパターンをより長期的に捉えたものです。たとえば学習塾で中学受験指導から高校・大学受験指導への誘導、エントリーカーからプレミアムカーへの誘導(いつかはクラウン)、ソフトウェアやスポーツ用品の初心者用から上級者用へのランクアップなどです。

とにかく自社の商品やサービスを利用し始めてもらうことが重要なので、エントリーモデルは安く設定する(場合によっては無料)ことが一般的です。


●顧客データを蓄積し、それを有料で提供して儲ける

TSUTAYAはTポイントカードで収集した市場データを分析し、他の企業へ情報提供することで対価を得ています。単なるレンタルではなく情報サービス業へ踏み出していると言えます。アマゾンも事業で培った流通・販売ノウハウを他社に販売していますが、もはやネット販売業というより流通システムベンダーとして捉えたほうがよいかもしれません。

相当な規模の情報化投資と顧客基盤が必要になりますので、かなりハードルが高いビジネスモデルではあります。


儲けるタイミングをずらすということは、前回の「儲ける商品と儲けない商品をつくる」とセットで考えるべきでしょう。

【参考】
『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』川上昌直著
『そのビジネスから「儲け」を生み出す 9つの質問』川上昌直著 日経BP社
『ビジネスモデルの教科書』今枝昌宏著 東洋経済新報社

ビジネスモデル⑬(利益設計4:「何で儲ける?」のヒント)

しばらくご無沙汰してしまいましたが、ビジネスモデルの話を再開します。
利益設計のポイントは、「誰から儲ける?」「何で儲ける?」「どうやって儲ける?」の3点ですが、今回は「何で儲ける?」について考えてみます。


■「すべての商品で儲ける」は正しいか?

売り手は、ともすると「すべての商品・サービスで儲ける」ことを考えがちです。また、「儲かる商品は取り扱いを増やし、儲からない商品は取り扱いをやめる(縮小する)」ということは、ビジネス理論でもよく言われることです。

ですが、これは必ずしも適当ではありません。あえて「儲ける商品」と「儲けない商品」を分け、「儲けない商品」で「儲ける商品」に誘導するということも有効だからです。

たとえば、次のような例があります。

商品ミックス(儲ける商品と儲けない商品)

「儲ける商品」と「儲けない商品」を分けるというビジネスモデルは、通称「ジレット・モデル」と言われます。剃刀メーカーのジレットが、剃刀本体を安くして消耗品である替刃で儲けるという販売スタイルを取り入れたことが嚆矢だからです。


■ジレット・モデルが有効な場合

ジレット・モデルは、本体と消耗品(あるいはオプション)という組み合わせで使用される場合や、エントリーモデルから上位モデルへのステップアップが可能な場合に有効です。

本体と消耗品(あるいはオプション)という組み合わせの場合を考えてみます。売り手としては、まずはハード本体を買ってもらわなければ、ユーザーとのお付き合いは始まりません。ジレット・モデルは、まずは敷居を下げてユーザーとのお付き合いを始めて囲い込み、その後のお付き合いでゆっくり回収していくというモデルです。

もちろんいくら安くても本体が魅力的でないと客は寄ってきません。よって、あえて魅力的な商品・サービスを思い切った価格に下げ、呼び込みの材料とするのです。

よく売れ残った商品(=魅力のない商品)を特典として無料にするケースがありますが、どうせ魅力がないのですから、呼び込み効果はあまり期待できないでしょう。そうであるなら、呼び込み用ではなく、上得意客に粗品として渡すほうがはるかに喜ばれ、有効なはずです。

ただ商品やサービスをラインナップして、どうやってそれぞれを売るのかではなく、利益設計を考えてメリハリをつけ、全体での利益を最大化することを考えてみることが大事です。


【参考】
『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』川上昌直著
『ビジネスモデル全史』三谷宏治著 ディスカヴァー・トゥエンティワン




ビジネスモデル⑫(利益設計3:利益設計のポイント)

■利益設計の考える際のポイント

利益設計の考える際のポイントとしては、次のようなことが挙げられます。

●すべての顧客から儲けようとしない。

●欲しい利益の水準がどれくらいかを認識し、合算でそれを実現するようにする。

●儲けない顧客を設定する。

●すべての商品・サービスから儲けようとしない。

●儲けない商品・サービスを設定してみる。

●すべての取引で直ちに儲けようとしない。

●時間差で儲けることも考えてみる。

利益設計のポイント

私たちは、すべての商品・サービスで、すべての顧客から、直ちに利益を得ようとしますが、顧客、商品。サービス、時間の3つの観点で、敢えてメリハリ(損して得をする)をつけることが、ユニークなビジネスモデルを考える上では基本になります。

【参考】
『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』川上昌直著

ビジネスモデル⑪(利益設計2:儲け方のバリエーション)

儲け方のバリエーションには、様々なものがあります。確かにビジネスモデルには創造性が求められますが、それはまったくのオリジナルを意味するわけではありません。他業界で見られる儲け方のパターンを自社に取り入れることは極めて有効ですし、実際のビジネスモデルの多くは他からの転用と見ることができます(もちろん同業者の儲け方のパターンを単にパクっても、よほど上手く運用しない限り効果は限定的です)。


■収益をあげる方法

普通、収益をあげる方法というと、商品やサービスを売って代金を回収するという「販売」をイメージするかもしれません。しかしながら収益を上げる方法には次のようなものがあります。

①直接販売
製品やサービスの提供と支払いが同時に起きる。

②販売後サービス
メンテナンスなどのアフターサービスで儲ける。

③間接的コンテンツモデル
コンテンツの提供をしたウェブサイトや雑誌などで広告収益を得る。

④製品ファイナンス
顧客への金融サービスなど、補助サービスで儲ける。

⑤知財のロイヤルティ
知的財産による他社の権利利用の対価で儲ける(ライセンスビジネス)。


■課金(チャージ)の方法

一方、課金の方法(どのように顧客に代金を請求するのか)には、次のようなバリエーションがあります。

①商品対価
商品の販売と引き換えに代金を回収する。最も一般的な課金方法。
※ボリュームディスカウントやセット販売、オークション、差別価格(顧客セグメントごとに価格を変えたり、時期や在庫状況に応じて価格を変えたりする方法)などのバリエーションがある。

②定額制
使用量にかかわらず、固定料金を徴収する方法。

③従量制
利用した量に応じて課金する方法。

④利鞘
原価に利益率によるマージンを加える方法。

⑤紹介料
紹介で手数料を得る課金方法。

⑥広告料
他社の広告による課金方法。



■「収益をあげる方法」と「課金の方法」を組み合わせを考える

ビジネスモデルの利益設計を検討する際には、「収益をあげる方法」と「課金(チャージ)の方法」を組み合わせて儲け方を考えます。2つの組み合わせのバリエーションとしては、次の13とおりが示されています。

儲け方のバリエーション

多くの場合、「直接販売」と「商品対価」という選択を考えがちですが、それ以外の組み合わせを考えてみることがポイントになります。


【参考】
『ビジネスモデルのグランドデザイン』川上昌直著 中央経済社
『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』川上昌直著 

ビジネスモデル⑩(利益設計1:利益への影響要因)

ビジネスモデル構築の手順は、「(1)顧客価値を定義する」「(2)利益の取り方を設計する」「(3)プロセスを設計する」の順に検討します。これまでは「(1)顧客価値を定義する」について見てきましたが、今回からは「(2)利益の取り方を設計する」について見ていくことにします。


■利益を上げるためには?

利益は「売上-費用」で求められます。売上は「価格×数量」です。費用は「固定費+変動費」であり、変動費は「1個あたりの変動費×数量」です。よって、利益は次のように表されます。

利益=売上-費用
  =売上-(変動費+固定費)
  =(価格-1個あたり変動費)×数量+固定費

よって、利益の変動要因には、価格・変動費・数量・固定費の4つがあることが分かります。では、この4つのうち、どれが最も利益に与えるインパクトが大きいのでしょうか。

少し古いデータですが、東証一部上場企業のデータをもとにマッキンゼーが行った調査があります。下記はそれぞれ1%改善することで営業利益が何%改善するかを示したものです。

・価格 ⇒ 1%アップで営業利益23.2%アップ
・変動費 ⇒ 1%削減で営業利益16.3%アップ
・数量 ⇒ 1%アップで営業利益6.9%アップ
・固定費 ⇒  1%削減で営業利益5.9%アップ

(出典:マッキンゼー・プライシング2005)


■できるだけ高い価格を設定する

多くの場合、利益率を改善するにあたり最初に着手するのが費用低減でしょう。しかしながら利益率を改善するにはコスト削減では限界があることが分かります。利益率の改善を図るためにまず行うべきは、価格を上げられるか検討することです。

売り手側は少しでも値上げすると客離れが起きるのではないかと過度に恐れがちですが、案外そうでもありません。顧客はそもそもそれほど厳密には価格比較を行っていませんし、他社に乗り換えることをめんどくさがるものです(スイッチングコストが高い)。

多少顧客が流出しても価格アップによる増収分のほうが大きく、結果、売上や利益が増加することのほうが多いでしょう。

ビジネスモデルとの関係で言えば、まずは安売りはせず、顧客価値提案で価格を上げることを考えるべきです。

もっとも前回のブルーオーシャン戦略で触れたように、現在の商品やサービスで不必要な部分を取り除くことでフルスペックの場合よりも低価格を実現するという戦略は有効です。それでも絞った部分ではなるべく高く売るほうがよいのです。

また他社よりも圧倒的に安くできるオペレーション体制を構築できれば、低価格販売は非常に有効です。しかしながら、この場合、大量生産・大量販売が前提になりますので、リスクは極めて高く、少なくとも中小企業には採用できない戦略になります。


【参考】
『これから伸びる人の必修科目「ビジネスモデル」のきほん』川上昌直著 翔泳社


プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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