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経済学者たちはなぜ対立するのか?①

■同じ経済学者でも意見が割れる理由

「アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる(高橋洋一著 講談社)」
「リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済(岩田規久男著 PHP研究所)」

「アベノミクスとアホノミクス──浜矩子特別講義(浜矩子著 中経出版)」
「リフレはヤバい(小幡績著 ディスカヴァー・トゥエンティワン)」

これらの書籍はまだアベノミクスが始まったばかりの2013年に出版されたものです。上の2つがアベノミクスに肯定的な立場で、下の2つは否定的な立場です。同じ経済学者で、なぜこのような意見の違いが起きるのでしょうか?おおよそ次の理由が考えられます。

・自然科学分野(物理学・科学・天文学など)と比べて社会科学分野(経済学、政治学、経営学など)は歴史が浅く、未解決の部分が多い。よって、様々な推測が成り立ちうる。
・社会科学の場合、どうしても個人の価値観が入ってしまい、それに沿ったデータの解釈をしてしまったり、自らの考え方や信念を裏付ける情報ばかり集めてしまったりする(これを確証バイアスといいます)。個人の価値観は異なるので、意見が対立する。
・具体的には短期の視点と長期の視点のどちらを重視するかで結論が異なる。


マクロ経済政策には次の3つがあります。

成長政策
GDPの長期的な成長を目標とします。「GDP=国内総生産」であるので、生産の量を高める政策と言えます。具体的には規制緩和や生産性の向上、イノベーション政策がこれに該当します。

安定化政策
短期的な景気の安定化(好況・不況の緩和)を図る政策。財政政策(公共投資や増税・減税、給付金支給など)と金融政策(中央銀行による貨幣量のコントロールなど)がこれに当たります。

再分配政策
格差是正を図る政策。累進課税による高所得者から低所得者への所得再分配などがこれに当たります。

このうち、どれを重視するか(あるいは単純に「好みか」)によって、政策観が大いに変わってくるのです。経済学者や評論家の意見を聞く場合には、このことを意識する必要があります。


■経済学の偉人の教え

マクロ経済学の基礎を作り上げた偉人、ジョン・メイナード・ケインズは「良くも悪くも危険になるのは思想である」と述べています。人間である以上、価値観や思想を持つこと自体は決して悪いことではありませんが、事実を正しく認識し、対応を考える際には、個人の主観を排除し、新しい知見を進んで受け入れる度量を持つ必要があります。

ケインズの師であり、新古典派の巨人アルフレッド・マーシャルは、経済学者の心得として「cool head,but warm heart(冷静な頭脳と温かい心)」を訴えました。知性を磨いて社会に貢献しなくてはならないというわけです。

ケインズやマーシャルの言葉は、経済学者のみならず私たちにとっても戒めの言葉になります。

【参考】
「マンキュー経済学 II マクロ編(第3版)」N.グレゴリー マンキュー著 東洋経済新報社
「経済古典は役に立つ」竹中平蔵著 光文社
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経済成長はどうすれば実現するのか?⑤(高齢化社会でGDPは減少するか?)

■国の豊かさより1人1人の豊かさ

「高齢化社会で労働力人口の減少が確実視され、日本のGDPは減少する」との指摘が、多くの識者によってなされています。このような主張は妥当なのでしょうか?GDPの規模は、次の式で示されます。

GDPの規模=人口×1人当たりGDP

この数式から、人口が減少すれば、GDPの規模は減少することになります。ただし、もし人口によってGDPの規模が決まるのであれば、人口が多い国ほどGDPの規模は大きいはずです。しかしながら、日本より人口が多い9カ国のうち、日本よりGDPが多い国はアメリカと中国の2カ国だけです。


さらにGDPの規模は労働人口だけでなく、1人当たりGDPによっても決まります。そもそも国の豊かさを図るためには、GDPの規模ではなく、1人当たりのGDP(1人当たりの豊かさ)に着目したほうが妥当です。仮に人口が多く国全体のGDPが大きくても、1人1人が貧しければ良い状態ではありません。先進国の場合、人口増加が期待できない以上、「どうやって1人当たりのGDPを上げるか」に着目したほうがよいでしょう。


■人口減少対策より生産性を上げることが大事

次に、GDP成長率について、考えてみます。

GDP成長率=労働人口の増加率+労働者1人当たりGDP(生産性)の伸び率

では、GDP成長率に対する人口要因のインパクトはどれくらいなのでしょうか。日本の高度経済成長期の1955年から1970年まででGDPは年平均で9.6%成長しましたが、そのうち人口要因は1.1%に過ぎませんでした。つまり「人口が増えたからGDPが増えた分」は、全体の10%強にすぎず、大部分は国民1人1人の生産性の向上によってもたらされたのです。

人口増加の伸びが弱まり、労働人口が減少するにつれ、GDP成長率に占める人口のプラス要因は減少し、高齢化社会が急速に進展した2010年から2030年では、逆にマイナス0.5%と試算されています。安定成長期の労働人口の生産性の伸び率を1.5%とすると、せっかく生産性を上げてもその3分の1が労働人口減少によって失われてしまうことになります。

以上からいえることは、「確かに労働人口の減少はGDPにマイナスに作用するが、そもそもGDPの成長要因の多くは1人当たりの生産性であるので、1人当たりの生産性をどのように上げるかが課題である」ということです。

安定成長期の労働人口の生産性の伸び率を1.5%としましたが、これは何もしなくても達成できる水準です。人手不足感を契機に、創意工夫や無駄の排除、AIなどの高度技術の活用によって、2%以上の生産性向上を図ることは十分に可能です。

実際、人口の増加率が低い国でも1人当たりのGDPの伸び率が高い国は多くあります。1人当たりのGDPのランキングを見ると、1位ルクセンブルク、2位スイス、3位ノルウェーとなっています。これは、人口が伸びない国は、労働力不足に対応するために、より多くの投資を行い、また家族は少ない子供により多くの教育投資をし、1人当たりの物的・人的な資本を高めるからだと言われています。


【参考】
「日本経済論の罪と罰」小峰隆夫著 日本経済新聞社
「日本はなぜ貧しい人が多いのか」原田泰著 新潮社

経済成長はどうすれば実現するのか?④(成熟社会における成長政策)

■成熟社会における成長政策

日本のような先進国では、もはや人口ボーナスや単純な機械設備化では、国全体の生産能力を上げることはできません。成熟社会で求められるのは、規制緩和や高度技術による生産性の向上、イノベーション政策です。

規制緩和の中心は民営化です。かつての国鉄や電電公社など公営企業の民営化以外にも、今日では図書館運営の民間企業への委託、空港業務の民間への委託など、様々な民営化が行われています。このような利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式を、コンセッション方式といいます。

最近の大学認可の問題で明らかになったように、規制緩和には、既得権益者からの抵抗が大きく、また公共性の維持という観点からも課題が多くありますが、新規参入によるサービスの効率化や高度化を図るためには是非とも進めなければなりません。


■設備投資減税は意味があるか?

また成長政策(一国の生産能力を上げる政策)としてよく取り上げられるのが、設備投資減税です。これは設備投資を行った企業に対し法人税の減免措置を与えることで、生産性向上のための設備投資を促そうというものです。この背景には、日本がは諸外国と比べ法人税率が高く、それが収益や競争力の足かせとなっているということがあります。

しかしながら、法人税を減税しても設備投資につながる保証はありません。なぜなら景気の先行きに希望が見えない限り、いくら税制上の優遇が与えられても企業はリスクのある設備投資には踏み切れないからです。法人税減税よりも、金融政策や財政政策を十分に行って先行きに期待が持てる環境を整備することが必要です。

経済成長はどうすれば実現するのか?③(中所得国の罠)

■中所得国の罠

世界の国々を高所得国・中所得国・低所得国に分けた場合、低所得国と中所得国の境は1人当たりGDPが5000ドルであり、1人当たりGDPが1万ドル以上となることが高所得国への道であると言われています。

しかしながら低所得国から中所得国に成長したものの、1人当たりGDPが8000ドル周辺で行き詰まり、その後、長期停滞に陥った国が多くあります。これを「中所得国の罠」といいます。たとえばブラジル、アルゼンチン、メキシコ、マレーシア、タイ、ロシア、といった国々がいわゆる「年収1万ドルの壁」にぶつかっています。

「中所得国の罠」に陥るのは、技術力では先進国に劣り、労働力の安さでは低所得国に負けるというジレンマに陥るからで、ここから抜け出すためには、外資を導入し、知識水準を高め、イノベーションを行っていくしかありません。


■中国は成長できるのか?

現在の中国の1人当たりGDPは約8000ドル程度と言われていますから、中所得国です。しかしながら、すでに「中所得国の罠」に陥り始めているという指摘があります。その理由ついて、前々回の経済成長の3ステップを使って考えてみます。

現在の中国は、農村部からの余剰労働力を都市部が吸収し終え「ルイスの転換点」を迎えています。しかしながら、次の設備投資による工業化が十分に行われる前に、サービス経済化を急ぎ、消費社会が一気に形成しすぎたきらいがあります。

先進国では35%以上に達している第2次産業(製造業、建設業など)の比率が30%程度と低く、前々回で取り上げた成長の第2段階(設備投資により労働者1人当たりの生産設備の充実)から第3段階(知識や技術・技能による生産性の向上)への移行が上手くいっていない可能性があります。また、二次産業の基盤が未成熟なことも影響して、先進国と比べ独自の技術開発力が弱く、大きなマイナス要因となっています。

2000年代の初め、BRICSブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれ、成長が期待された国々のうち、インド以外は経済停滞に陥っているという事実も経済成長の難しさを物語っています。


【参考】
「なぜ日本だけがこの理不尽な世界で勝者になれるのか」高橋洋一著 KADOKAWA
「中国経済はどこまで崩壊するのか」安達誠司著 PHP

経済成長はどうすれば実現するのか?②(経済成長のための必要条件)

前回見たように、経済成長は「低生産性部門から高生産性部門への労働者の移動」「設備投資」「知識や技術・技能の向上」という3つのステップを経ますが、ここで大きな問題が浮かびます。それは「経済成長のステップがわかっているのに、なぜまったく経済成長ができない国が存在するのか?」ということです。


■経済成長の4条件

経済成長については、これまで様々な議論がなされてきましたが、現在、主流となっている制度派の考え方を紹介しましょう。制度派は、「人間の持っているインセンティブを、上手く繁栄の道につなげるような制度を設計することが重要だ」という考え方をとります。

制度派の1人であるウィリアム・バーンスタインによれば、経済成長の要因として、①私的財産権、②科学的合理主義、③近代的資本主義、④迅速で効率的な通信・輸送手段の4つを挙げています。

自分が努力して勝ち得た富が守られるという保障がなければ、努力する意欲は生まれませんから、私的財産権の保障は経済成長の大前提となります。これは自分が発明したり考案したりした場合の知的所有権の保護も含まれます。治安が極度に悪かったり、独裁的な国家では、自分が稼いだものが奪われるリスクが高く、個人が勤労に励むインセンティブが働きにくいのです。

科学的合理主義については、説明するまでもないでしょう。世界が経済成長を始めたのは、産業革命以降のわずか250年間に過ぎず、それまではまったく経済成長をしていませんでした。その背景には様々な理由がありますが、宗教の力が強く、その教えに反するような科学的な考え方が受け入れられず、産業が発達しなかったことも大きく作用しています。地動説を唱えたガリレオ・ガリレイが宗教裁判にかけられたことは、あまりに有名です。

近代的資本主義とは、ざっくりいえば、「市場経済的なシステム」を重視するということです。

迅速で効率的な通信・輸送手段は、社会インフラを整えて、自由な市場取引を支援するということで、これは政府によって行われます。


■経済成長には、教育が必要

バーンスタインの主張では触れられていませんが、5つめの要因として、高い就学率・識字率が挙げられます。教育がなければ、新しい知識は生まれないどころか、仕事に慣れることすらできないでしょう。「知識に投資することは、常に最大の利益をもたらす(ベンジャミン・フランクリン)」、教育が優れた労働者を生み出すのです。

経済成長のための5つの要因は経済成長のための必要条件(成長のためには必要だが、それを満たしても必ずしも経済成長しない)です。これを満たした上で、成長の3ステップを上手く渡っていく必要があります。いわゆる失敗国家と呼ばれる最貧国は、5つの必要条件の多くを満たしていないと考えられます。

「資源国の呪い」という言葉があります。これはアフリカ諸国など資源が豊富な国は、資源に依存して他の産業が育たず、資源開発を巡って内戦や政治腐敗が起こり、経済が成長しないというものです。このような形で国民が貧困状態に陥ると、さらなり治安悪化や争いが起き、投資が進まず、さらに貧困が悪化するという悪循環に陥ります。これを貧困の罠といいます。


【参考】
「もうダマされないための経済学講義」若田部昌澄著 光文社

経済成長はどうすれば実現するのか?①(経済成長のためのステップ)

世界を見渡すと、経済成長できた国とできない国の格差が拡がっています。
2000年代の初め、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれ、成長が期待された国々のうち、インド以外は経済停滞に陥っているという事実も経済成長の難しさを物語っています。いかにして経済成長は実現できるのでしょうか?
今回の内容は、以前も取り上げたことがあるのですが、次回以降の内容にも関係するので、補足しつつ再掲します。

経済成長はいかの段階を踏むことで達成されます。


■成長の第1段階

経済成長の第1段階は、低生産性部門から高生産性部門への労働者の移動によって実現します。

たとえばかつての日本の場合、地方の農地は狭く、労働力過剰で生産性が低かったわけですが、それが工業化により都市の工場などの高生産性部門へ労働力がシフトすることによって、より多くの付加価値が生まれるようになりました。

さらにこの時期は人口が増加する時期と重なり、豊富な労働力を安価に利用することが可能です(人口ボーナス)。日本では、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」で描かれた地方からの集団就職の時代で、終戦から1960年代後半までと考えられます。


■成長の第2段階

やがて地方の低生産性部門から高生産性部門への労働者の移動が完了すると、次の段階に移ります。もはや労働人口の増加による恩恵は受けられず、賃金は上昇しますので、企業にはそれ以上の生産性の向上が求められます。この第1段階から第2段階への転換点を「ルイスの転換点」といいます。よって、次の段階では、設備投資により労働者1人当たりの生産設備の充実を図ることになります。

ちなみに日本の高度経済成長の場合、企業の設備投資はもっぱら銀行からの融資によって行われましたが、その背景には高い日本人の貯蓄率がありました。国民の貯蓄が潤沢にない場合には、外国からの資本を導入するというやり方もあります。

生産性の上昇により賃金が増加し、それが消費に廻る、また企業は収益を拡大させることでさらなる設備投資を行うといったことで総需要が増加し、その結果、総供給(GDP)が拡大するという好循環を作るのがカギになります。


■成長の第3段階

やがて設備投資が一段落すると、今度は知識や技術・技能による生産性の向上が求められるようになります。つまり人間の知恵によるイノベーションが経済成長の重要なカギになるということです。

この段階では高度経済成長が終わり、安定成長にシフトしていきます。より付加価値の高い製品を作る必要があり、そのためには高い知識が求められます。さらに脱工業化、すなわちサービス経済化が進みます。サービス業の多くは人手を介して行われます。よって、仕事に対する知識や技能が生産性向上を大きく左右することになります。


信頼の科学③

信頼についてブログで取り上げていたら、ちょうど良いことに(?)富士フィルム傘下の富士ゼロックスでも粉飾会計が発覚しました。以前は、日本の企業の不祥事といえば、現場の暴走によるものが多かったのですが、昨今の不祥事は経営陣が事実上、指示を出している点が特徴的です。一度、失った信頼を取り戻すことは容易ではありませんが、取り戻すためにはどのようなことが必要なのでしょうか?


■再発防止策は信じられるか?

前回の「信頼の科学③」で触れたように、問題が発生したとき、メッセージを送ろうとする相手の価値を理解する姿勢は常に重要です。また、自分たちの提案する対策が、なすべきこととして衆目の一致するところであるような場合には、その対策を実行する能力があると見なされるかが信頼を左右します。

企業の粉飾会計の場合、誰が見ても問題なのは明らかであり、「内部監査の仕組みを強化する」とか「意識改革を行う」とかいった対策が発表されるわけですが、基地いているほうからすれば白々しさ満載で、「本当に実効性があるのか」疑問視してしまいます。


■もっと厳しい罰則規定を

企業の不祥事への防止策としてまず浮かぶのが外部からの罰則強化です。東芝問題などを見ても、粉飾を不適切会計として見たり、上場停止になかなかしなかったりといったように、少々手ぬるい印象があります。

アメリカでは、エンロン事件やワールドコム事件など1990年代末から2000年代初頭にかけて発生した粉飾会計問題を受けて、2002年に投資家に対する企業経営者の責任と義務・罰則を定めたサーベンス・オクスリー法が成立しました。同第404条では、CEOとCFOに対してSEC(米国証券取引委員)へ提出する書類に「虚偽や記載漏れがないこと」「内部統制の有効性評価の開示」などを保証する証明書と署名を添付することを求めています。虚偽があった場合には個人的な責任が問われることになり、罰則として罰金もしくは5~20年の禁固刑という厳しい刑事罰が設けられています。

また株式上場の即時停止などの罰則規定を徹底すれば、不祥事に際し株主代表訴訟のリスクが高まり、また平時の株主によるガバナンスも効きやすくなるでしょう。

このような企業に対する規制や罰則の強化は、監視と制裁のメカニズムであり、俗に「人質供出」と呼ばれます。


■自ら罰則規定を設けるしか信頼は回復しない

さて、このような外部からの監視と制裁のメカニズムは粉飾の防止策とはなり得ても、社会からの信頼性の回復にはつながりません。それは受身の姿勢だからです。江戸時代に幕府は外様大名に人質を無理やり供出させて謀反を防止しましたが、信頼はしていなかったはずです。

そこで信頼の回復に求められるのが、要求されたから人質を出すのではなく、自主的に人質を出すこと(自発的に監視と制裁のメカニズムを導入すること)です。たとえば、不適切会計があったら経営陣は報酬を返上するとか、辞職する(無職になる)とかいった厳しい罰則を定款に明記したり宣言したりするといったことです。

これはゲーム理論で言われるコミットメント戦略です。コミットメントとは、「自分が将来にとる行動を表明し、それを確実に実行することを約束すること」です。

いわば背水の陣を敷くことで信頼を勝ち得るということです。東芝の例を見てもわかるように、委員会等設置会社にしても社外取締役を招聘しても、はっきりいって効果はあまり期待できないでしょう。失った信頼を回復するには、自らを厳しく罰する制度を自分で作るしかないのではないでしょうか。


【参考】
『信頼学の教室』中谷内一也著 講談社

信頼の科学②

受動喫煙対策を強化する健康増進法の改正が、今国会では見送られることになりました。いずれにせよ、私のような愛煙家にとってはせちがらい世の中です。前回、
信頼について取り上げましたが、今回は、政策に関する信頼性について考えてみます。

■政策の信頼性は何で決まるか

受動喫煙やたばこ増税は、単に愛煙家かどうかといった嗜好の観点以外にも、個人の権利の捉え方や喫煙の影響の科学的根拠などを巡り、なかなか賛否がまとまりません。一方、未成年者の喫煙防止については、おおよそ支持する意見が大勢かと思われます。

このようなたばこ政策を例に、政府の政策の信頼性について調査したものがあります。これによれば、政府の信頼性について、最もよく説明する要素は価値観の共有認知でした。つまり政府が自分と同じような価値観や考えで政策決定しているかどうかが最も信頼を高めるということです。自分と同じなら信頼するし、そうでないなら信頼しないということです。また問題について関心が強い人ほど、信頼にあたり価値観の共有を求める傾向があります。

次に影響力を持つ要素としては、賛否が分かれるたばこ増税では公正さの認知でした。賛成・反対の両者の意見を聞き、客観的に結論を下すというプロセスが政策立案の過程に組み込まれていれば政府を信頼し、そうでなければ信頼しないというわけです。

一方、ほとんどの人が賛成する未成年者の喫煙防止については、能力認知のほうが、信頼性への影響力が強いことがわかりました。政府にその実行力あれば信頼し、そうでなければ信頼しないということです。


■問題の種類によって取るべき対応が異なる。

このような信頼性に関する人々の傾向は、政府のみならず、企業や個人の問題への対処にも応用することができます。

問題が発生したとき、メッセージを送ろうとする相手の価値を理解する姿勢は常に重要です。また、自分たちの提案する対策が、なすべきこととして衆目の一致するところであるような場合には、その対策を実行する能力があると見なされるかが信頼を左右します。

一方、対策への賛否が分かれている場合には、公正な姿勢であると見なされるかどうかが重要となります。

問題の種類によって取るべき対応が異なるわけです。


【参考】
『信頼学の教室』中谷内一也著 講談社

信頼の科学①

■得るのは難く、失うは易し

他者から信頼を得るには、信頼に足る根拠をたくさん積み重ねていくことが必要で、それには長い時間がかかります。ところが、信頼を失うにはたった1度のまずい出来事があれば十分で、信頼はごく短時間で失われてしまいます。

このように、信頼を築くための時間や1つひとつの根拠の重みと、信頼が崩壊するまでの時間や出来事の大きさが、非対称的な関係にあることを信頼の非対称性といいます。では信頼の非対称性はなぜ生じるのでしょうか?


■信頼の非対称性はなぜ生じるのか?

1つめの理由は、ネガティビティ・バイアスの存在です。これは、悪い出来事は、良い出来事よりもインパクトが強いというものです。

たとえば普段の会話でも、良かったことよりも、悪かったことのほうが人に言いたくなるのでしゃないでしょうか。良い口コミは悪いクチコミよりも3倍広く(速く)伝わるといわれています。

ネガティビティ・バイアスの存在により、これまで培った相手に対する良い印象が、たった1つの悪い印象によってひっくり返ってしますのです。

2つめは、確証バイアスです。これは、自分の考えや印象に沿った情報ばかり意識的・無意識的に集めてしまうというものです。

これにより、一度相手に対し悪い印象を持つと、それを補強するような情報ばかりが集められたり、印象に残ったりするため、悪印象が強化されることになります。

3つめは、悪い印象の一般化と良い印象の限定化です。私たちは、悪いことは一般化し、良いことは限定的に見る傾向があります。

たとえば、一部の国からの輸入食品の安全性に問題があると、他の国からの輸入食品に対しても不安を感じてしまうといったケースです。この場合、安全性が損なわれた一部の国からの輸入を禁止するなど適切な対応が取られても、それは限定的な
事象と捉えられ、輸入食品全般に対する信頼は回復しません。

2月からの森友学園、加計学園に関する一連の騒動は、信頼の非対称性と関連付けて考えることができるのではないでしょうか。両者はまったく性格を異にするものですが、少なくとも野党やマスコミのスタンスには政権打倒という1つのスタンスがあるという点では同じように感じられます。

両者とも官邸ではなく官僚サイド(財務省と文科省)の問題と考えるのが妥当だと思いますが、安部総理とその支持者・友人との癒着という印象がネガティビティ・バイアスを生み、それを否定するような情報は報道されず(確証バイアス)、「たぶん森友でもやっただろうから加計もありうる」という悪い印象の一般化で話をしているような感じがしてなりません。


【参考】
『信頼学の教室』中谷内一也著 講談社

詐欺にひっかかりやすい人③

前々回に取り上げた心理テストの解説の続きです。

④誠実な人ほど危ない
第5問 どんなときにも、人に嫌われないように振舞う。
第8問 意見が合わないときは、相手に譲ることが多い。
第11問 かなりのお人好しだと言われる。
第17問 自分がどう思われているのか、いつも気になる。
第20問 知らない人の前でも見栄をはってしまう。
第22問 店の人に褒められるとその気になって買ってしまうことが多い。
3~6点⇒要注意!  10点以上⇒危険!!
これらの項目は、エチケットやマナーをどれくらい意識しているか、人間関係をどれくらい優先して行動しているかをチェックするものです。
これらの項目に当てはまる人ほど、心優しく、誠実な態度で人と接していると言えます。ところが、残念なことに、騙される危険性もそのぶん高いのです。

⑤権威に対して弱い
第4問 肩書きのすごい人にはかなわないと思う。
第10問 有名人やブランド物に弱い。
第16問 自信たっぷりに話されると影響される。
2~3点⇒要注意!  5点以上⇒危険!!
これらは、騙そうとする人によくある特徴をとらえています。たとえば専門家や権威者を語るのは、詐欺の代表みたいなものです。つまり、これらの項目に当てはまる人は、話の内容以前に、相手を信用してしまい、騙される傾向が強いと言えます。

⑥集団に影響されやすい
第6問 周囲の人や知人など、みんなの一致した意見にはいつも合わせる。
第12問 大勢の中では、問い直したり意見を言ったりするのは苦手。
第18問 何でも気軽に相談できる知人は少ない。
第21問 宴会で一気飲みをコールされると断れないだろう。
2~4点⇒要注意!  7点以上⇒危険!!
これらの項目は、あなたが集団の影響力にどれくらい弱いかを示唆しています。当てはまる人は、それだけ集団の中で騙しに遭いやすいと思われます。

以上、全部で25項目ありました。「総合危険度」で言うと、合計で、
15点まで ⇒ ひとまず安心   
25点まで ⇒ 注意が必要!
36点以上 ⇒ とても危険!


ちなみにこの心理テストは作成途中段階で科学的な裏付けがあるものではないそうですので、あくまで参考と捉えてください。
この心理テストを取り上げたのは、ただ悪徳商法や詐欺に騙されないためではありません。悪徳商法や詐欺に限らず、あるいは相手に悪意があるないにかかわらず、騙されるケースは多くあります。マスコミや学者、その他専門家と言われる人であっても、それが必ずしも正しいとは限りません。情報リテラシー、あるいはクリティカルシンキングを養う意味でも今回の心理テストを参考にしてみるとよいと思います。


【参考】
『だましの手口』西田公昭著 PHP研究所

詐欺にひっかかりやすい人②

前回挙げた心理テストは、みなさんがだまされやすいかどうか、その危険度をチェクするためのものです。すべての問題に0点でない方は、どこかに危険が潜んでいます。『だましの手口(西田公昭著 PHP研究所)』の解説を載せておきます。

①まさかの備えが足りない
第1問 私は詐欺に狙われるようなタイプではない。
第7問 詐欺被害にあった人は、正直言うと、少し馬鹿なのかと思う。
第13問 家族や仲の良い友人にも話せないことがいくつかある。
第25問 詐欺に遭った人は、とても運が悪いと思う。
2~4点⇒要注意!  7点以上⇒危険!!
これらの項目は、まさか、自分が被害に遭うなんてありえないと思う心理傾向を測っています。つまり、不意をつかれる可能性があるのではないかと案じられるのです。
もし、これらの項目にチェックが多ければ、あなたは不意打ちに対して無防備ということですので用心したほうがよいでしょう。

②ストレス攻撃への抵抗力が弱い
第3問 苦情を言われるとすぐにへこんでしまう。
第9問 人の愚痴を長時間聞くのは耐えられない。
第15問 甘い気分に浸ると、なしくずしになりやすい。
第23問 待ち合わせの時間に遅れてくる人を待つのは苦手だ。
2~4点⇒要注意!  7点以上⇒危険!!
これらの項目は、だましに利用されやすい心の状態を探るものです。不安や恐怖のような否定的な感情にさらされた状態や、ストレスフルな出来事に見舞われた状態などは、詐欺やマインド・コントロールのだましにはつきものです。
あなたがもし、これらの項目に当てはまるなら、動揺しやすかったり、そうした不安定な状態に弱く、常に快適な状態を求めるといった傾向が強いことを示しています。

③非科学的な考えをしがち
第2問 運勢や性格の占いを信じるほうだ。
第14問 自分で見たり経験したりしたことこそが真実である。
第19問 甘い話には気をつけてはいるが、一応話だけは聞いておく。
第24問 知人が「効いた」「良かった」ものは、すぐやってみようと思う。
2~4点⇒要注意!  7点以上⇒危険!!
これらの項目は、非科学的な思考スタイルを持っているかどうかを調べるものです。
得点に高い人は、神秘的な事象や自分や他者の経験を、根拠が薄くともやすやすと簡単に信じてしまう傾向にあると思われます。つまり、実証性に乏しくても、生々しい体験に引きずられてしまうのです。

(つづく)

【参考】
『だましの手口』西田公昭著 PHP研究所

詐欺にひっかかりやすい人①

今日、ネット社会の進展もあって様々な詐欺や悪徳商法の手法が駆使されています。振り込め詐欺、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、還付金詐欺、証拠金取引詐欺、催眠商法、アポイントメント商法、デート商法、キャッチセールス、点検商法、マルチ商法、霊感商法・・・挙げだしたらキリがありません。
被害に関する報道を聞くと、「なんでこんな馬鹿なことに引っかかるのだろう」と思ってしましますが、実際にはかなり手が込んでいて、詐欺かどうか見極めるのはかなり困難なようです。
また「自分は騙されない」という人ほど騙されやすいとも言われます。『だましの手口(西田公昭著 PHP研究所)』という本に、「詐欺や悪徳商法にだまされないための心理テスト」というものが載っていました。各設問に対して「当てはまらない」と思ったら0点を、「多少、当てはまる」と思ったら1点を、「当てはまる」と思ったら2点を書き込んでください。

<詐欺や悪徳商法にだまされないための心理テスト>

第1問 私は詐欺に狙われるようなタイプではない。(  点)
第2問 運勢や性格の占いを信じるほうだ。(  点)
第3問 苦情を言われるとすぐにへこんでしまう。(  点)
第4問 肩書きのすごい人にはかなわないと思う。(  点)
第5問 どんなときにも、人に嫌われないように振舞う。(  点)
第6問 周囲の人や知人など、みんなの一致した意見にはいつも合わせる。(  点)
第7問 詐欺被害にあった人は、正直言うと、少し馬鹿なのかと思う。(  点)
第8問 意見が合わないときは、相手に譲ることが多い。(  点)
第9問 人の愚痴を長時間聞くのは耐えられない。(  点)
第10問 有名人やブランド物に弱い。(  点)
第11問 かなりのお人好しだと言われる。(  点)
第12問 大勢の中では、問い直したり意見を言ったりするのは苦手。(  点)
第13問 家族や仲の良い友人にも話せないことがいくつかある。(  点)
第14問 自分で見たり経験したりしたことこそが真実である。(  点)
第15問 甘い気分に浸ると、なしくずしになりやすい。(  点)
第16問 自信たっぷりに話されると影響される。(  点)
第17問 自分がどう思われているのか、いつも気になる。(  点)
第18問 何でも気軽に相談できる知人は少ない。(  点)
第19問 甘い話には気をつけてはいるが、一応話だけは聞いておく。(  点)
第20問 知らない人の前でも見栄をはってしまう。(  点)
第21問 宴会で一気飲みをコールされると断れないだろう。(  点)
第22問 店の人に褒められるとその気になって買ってしまうことが多い。
(  点)
第23問 待ち合わせの時間に遅れてくる人を待つのは苦手だ。(  点)
第24問 知人が「効いた」「良かった」ものは、すぐやってみようと思う。(  点)
第25問 詐欺に遭った人は、とても運が悪いと思う。(  点)

合計:   点



(つづく)

【参考】
『だましの手口』西田公昭著 PHP研究所

現場の改善能力(見える化)⑦

「見える化」の取り組みは、それぞれの職場や部門内の問題解決に限定されるものではありません。より重要なのは、複数の部門にまたがる問題を顕在化させ、部門横断的・機能横断的な取り組みを加速化させることです。そのためには「見える化」⇒「伝わる化」⇒「つなぐ化」⇒「粘る化」の連鎖が求められます。

改善の企業風土

「見える化」のねらいは、情報共有による認識の共有にあります。以前に触れたように、単に情報をオープンにしても、相手に伝わらなければ「見える化」ではありません。情報の送り手が一方的に「伝える」ではなく、受け手に「伝わる」ように工夫し、努力することを「伝わる化」といいます。

企業ではどうしても組織の壁ができてしまい、業務や情報が分断され、一体となった運営が難しくなります。業務上の様々な非効率や品質の劣化は、本来なら「一本の鎖」としてつながっていなくてはならない業務プロセスや、情報のフローが断絶していることが大きな要因です。

そうした事態に陥らないために、部門や業務の間をつなぐのが「つなぐ化」です。仕事の流れ、情報の流れを部門横断的によどみなく流れるよう整流化させ、常に全体最適を意識しや仕事のやり方、判断や意思決定を行うことが大切です。

部門横断的な「見える化」が行われることによって、単に情報がつながるだけでなく、人と人がつながるようになります。組織の壁を超えた人間同士の連結力を高めることが、「つなぐ化」の目的なのです。

「見える化」を起点とした「伝わる化」「つなぐ化」は、組織全体での問題解決能力を高め、現場力を進化させます。

しかし、「見える化」は一朝一夕に効果があがるわけではありません。10年単位で継続的行っていくべきものです。顧客対応なり生産性向上なり勢いで取り組み始めてもすぐに尻つぼみしてしまうケースが後をたちませんが、そうではなく、「始めたからには10年は続けて本物を目指す」というのが、「粘る化」です。

「粘る化」によって、「見える化」の取り組みに魂が注入され、本物の競争力へと高まります。「見える化」は現場の知恵を最大限に活かし、自律的な問題解決を愚直に続けるという企業風土を手に入れる突破口になるのです。



【参考】
『現場力の教科書』遠藤功著 光文社


現場の改善能力(見える化)⑥

本ブログの「マネジメントサイクル①」でPDCAサイクルについて取り上げました。
PDCAサイクルには「見える化」を軸とした問題解決のPDCAというものがあります。実際に現場で問題解決に取り組む際には、この問題解決のPDCAが効果的です。
問題解決のPDCA
問題解決の出発点はPROBLEM-FINDING(問題発見)です。現場の担当者は、常に問題解決を行うという心構えを持って、仕事に取り組まなければなりません。

次に発見した問題のDISPLAY(問題の「見える化」)によってチーム内で問題が共有されます。

そして現場の知恵によって問題をCLEAR(問題の解決)し、最後はACKNOWLEDGE(問題解決の確認)が必要です。


この「問題解決のPDCA」こそが改善のサイクルであり、それぞれの現場、職場で自主的に取り組むべきものです。

一般的なPDCA(計画達成のPDCA)が、PLAN(計画)を軸にサイクルが廻るのに対し、問題解決のPDCAは、PROBLEM(問題)が中心にあります。問題は現場力を高め、競争力を高めるための梃子になります。「問題は自分たちを強くしてくれる」という意識を持ち、問題を肯定的に捉えることが重要です。

【参考】
『現場力の教科書』遠藤功著 光文社


プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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