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エスカレートする交渉(勝者の呪い)②

さっそくですが、次のケースを考えてみてください。

<ケース>
A社とB社は、ある業界を代表する企業である。同じ業界で2番手グループに位置するC社は、単独では10億ドルの企業価値があるが、最近、経営陣は価格がよければ身売りも検討することを発表した。A社かB社がC社を買収すれば、いずれも業界で支配的な地位を築ける。
A社、B社ともC社の買収の可能性を分析し、それぞれ自社が買収した場合のC社の価値は12億ドルであると結論づけた。つまり、A社もB社も、12億ドルを下回る価格でC社が買収できれば利益を得られるが、12億ドルを上回る場合は純損失が発生し、株価の下落に見舞われることになる。
だが、A社がC社を買収すれば、B社は圧倒的に不利になり、5億ドルを失う。同様に、B社がC社を買収すれば、A社も5億ドルを失う。A社かB社のどちらかがC社に買収提案をすれば、提案しなかったほうも、その事実を知ることになる。
あなたがA社のCEOなら、何をするべきでしょうか?



アメリカの企業幹部を対象にした研修でこのケースを考えてもらうと、「A社はC社に11億ドルで買収提案すべきだ」という答えが多いそうです。11億ドルであれば、A社には1億ドルの純利益が、C社にも1億ドルの純利益がもたらされ、この買収額は妥当だと思われます。
しかしながら、この場合、B社はどう考えるでしょうか?B社は対案を出さなければ5億ドルを損してしまうので、買収額を釣り上げて12億ドルを提示するでしょう。そうなると、A社は同じ理由で買収額を13億ドルに釣り上げます。かくしてA社もB社も5億ドルを失うよりは再提案をしたほうがマシだと考え、買収額は17億ドルに達するまで吊り上り、そこで買収合戦に終止符が打たれます。
すなわち買収合戦に買っても負けても5億ドル損をするという「勝者の呪い」に陥るというわけです。「エスカレートする交渉(勝者の呪い)」と同じ構造なのです。


【参考】
「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社


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追加投資の意思決定(埋没費用)

前回は、勝者の呪い(勝者ですら損をする)ケースを考えました。このような事態を避けるためには、どういうゲームなのか展開を予測し、ゲームの参加を考える必要があります。当然ですが、勝っても損をすることが予測できるなら、最初から参加しないことがベストです。
しかしながら、最初に気がつかず参加してしまった場合は、どうすればよいでしょうか。次のケースを考えてみてください。

<ケース>
ある新製品の開発にこれまで10億円投入した。しかしながら予定が遅れ、完成するには追加で2億円の費用がかかる。一方、需要予測を見直したところ、売上は5億円しか見込めないことが判明した。この新製品プロジェクトを続けると7億円の赤字である。
経営者から開発を中止すべきか相談を受けたあなたは、どのようなアドバイスをしますか?



結論から言えば、この新製品開発を進めるべきです。中止すればこれまでの10億円の損が生じますが、進めれば7億円の損で収まるからです。

これまでかかった10億円は既に支払い済みで回収不能な費用です。これをサンクコスト(埋没費用)と言います。意思決定ではサンクコストは無視する必要があります。このプロジェクトではこれから生じる売上5億円(限界的な便益)と費用2億円(限界的な費用)だけ考えればよく、差し引きで3億円の利益があるので、開発を継続することになります。

逆に前回のケースのように既に損をしており、今後も損を取り返せないのなら、それまでの損は無視して早めに損切りする必要があります。ギャンブルにはまって損を拡大してしまうのは、つい今までの損(埋没費用)を取り返そうと考えてしまうからです。

追加投資にあたっては、これまでのことは考えず、純粋にこれから得られる便益と費用にだけ焦点を当てて考える必要があります。

エスカレートする交渉(勝者の呪い)

次のケースを考えてみてください。

あなたは交渉術のセミナーに参加しています。講師の大学教授はポケットから100ドル札を取り出してこう告げます。

「これから、この100ドル札のオークションをします。参加するかどうかは自由で、見ているだけでも構いません。5ドルから始めて、5ドル刻みでコールしてもらい、入札者がいなくなるまで続けます。最高価格で落札した人は、その価格を支払ってもらい、100ドル札を渡します。このオークションには、ふつうと違う点が1つだけあります。入札価格が2番目に高かった人にも、その額を支払ってもらうのです。当然ながら100ドル札はもらえません。たとえばAさんが15ドル、Bさんが20ドルで入札し、そこでオークションが終われば、Bさんは「100ドル-20ドル」で80ドル得します。2番目のAさんは15ドル払ってもらいます。」

あなたなら、このオークションに参加しますか?



これは交渉術や意思決定理論の権威であるマックス・ベイザーマン教授が教室でよく試す実験です。大抵は入札額が60~80ドルにつり上がると、上位2人を除いて脱落します。上位2人の心情を考えてみてください。それぞれ既に80ドルをビットしており、ここで負ければ80ドル丸々損しますから、それなら利幅が少なくなっても負けるよりましと考えてさらに高い額でビットします。そうこうしているうちにビット額は100ドルを超えます。100ドルのために100ドル以上(たとえば110ドル)出すのは馬鹿げているのですが、これまでの経緯からそうせざるを得ません。負ければ110ドルの損ですが、勝てば10ドルの損に抑えられるからです。

かくしてオークションは破壊的な結末に終わり、勝者ですら損をすることになります。これを「勝者の呪い」と言います。

結論から言えば、このオークションには最初から参加すべきではありません。勝者の呪いは、親権争い、労働争議、企業買収の入札、相見積もり競争、価格競争など様々な場面で見られます。

交渉に当たっては、勝者の呪いに陥っていないか冷静に見つめ直す余裕がほしいところです。



【参考】
「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社


価値創造のための交渉の準備

交渉にあたっては、できるだけ価値を大きくすることが望まれます。そのためには価格以外の目標をできるだけ多く設定することが求められます。

 

■見返りの意味を明確にする

 

交渉にあたっては、予め目標を設定すべきであることはこれまで述べたとおりです。目標は1つだけではありません。売買金額以外にも次のようなことが考えられます。

 

・納期

・支払条件

・品質

・契約期間

・再交渉権規定

・仲裁条項

・独占契約

・サービスサポートのレベル

・保証

・将来の取引

 

 

■価値創造の準備戦略

 

前回まで述べてきたように、交渉の準備の際には、予めZOPA(交渉可能範囲)や留保価値(最低条件)、BATNA(交渉不成立の場合の選択肢)を準備しておくことが必要です。今回は、それ以外で必要なことを挙げておきます。

 

  自分の複数の利害を把握する

先に述べたように、交渉の目標は価格以外にもあります。できるだけ目標を多く持っておいたほうが、実り高い結果になることは言うまでもないでしょう。また、交渉では譲歩が付き物ですから、交渉の柔軟性を確保するためにも目標は多いに越したことはありません。例えば、「価格では譲歩するが、支払条件や契約期間では譲歩してもらう」といった駆け引きが可能になります。

 

  採点システムを作る

複数の交渉目標を優先順位に応じて加点して、トータルの目標水準を設定します。たとえば持ち点を100点として、相対的な重要度に応じて目標ごとに点数を割り振ったりします。

 

  包括的な留保価値を計算する

②の上で、交渉全体の最低条件を設定します。たとえば価格目標は大きく目標を下回っても、他の目標が十分満足がいく水準であれば交渉をまとめたほうがよいでしょう。交渉全体の留保価値を計算しておくことで条件の交換が可能となり、柔軟な交渉が可能となります。

 

  相手の複数の利害を把握する

相手の複数の目標を把握できれば、こちらからも条件提示がしやすくなり、実りある成果が得られます。たとえばこちらにとっては重要だが相手にとっては重要ではない部分で大きく譲ってもらい、こちらにとっては重要ではないが相手にとっては重要な部分は譲るというような交換が可能になります。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

 

相手のBATNAを考える

次のケースを考えてみてください。

1912年のアメリカ大統領選のことです。セオドア・ルーズベルト候補の演説文にルーズベルトの写真を添えたビラ300万枚が刷り上がったところで、選挙対策責任者は大失態に気がつきました。写真の使用許可を取っていなかったのです。さらに悪いことに著作権法では、写真家が1枚につき最大1ドルの使用料を請求できる権利があるとされていました。1912年当時の300万ドルは現在の価値に直すと6000万ドルに相当しますので、とても選挙を戦いながら負担できる額ではありません。ビラを刷り直すことも考えましたが、これも巨額のコストがかかります。あなたが選挙対策責任者ならこの難局をどう乗り切りますか?


選挙対策責任者が実際に取った行動を見てみましょう。彼は問題を慎重に分析した後、次のような電報を写真家に送ったのです。「写真付きの遊説用ビラを300万部配布する計画がある。写真家にとってまたとない宣伝の機会だと思われる。貴殿の写真を使用した場合、いくらなら払う用意があるのか、至急連絡されたし」

 

写真家は間髪を入れず次のように回答してきました。「ありがたい機会ですが、250ドルまでしか払えません」

 

このケースは、相手のBATNAを考えて交渉することの意義を考えるものです。選挙対策責任者のBATNAは「写真家に6000万ドル支払うこと」です。しかしながら彼はそれを隠し、逆に6000万ドルもらえるはずの写真家に対し、写真の掲載料を求めたのです。

 

何も知らない写真家は、自分のBATNAを「写真が使われずに宣伝機会を逸し、何万ドルものビジネスチャンスを失うこと」と考えるだろうから、こちらの申し出を受けるだろうと考えたわけです。逆に言えば、写真家は選挙対策責任者のBATNAを正確に把握していたら莫大な写真使用料を手にできたでしょう。

 

選挙対策人の行動はあまり褒められたものではありませんが、相手のBATNAを突いた見事な交渉だと言えます。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

 

 

交渉の際の譲歩

「アンカリング③」で触れたように、取引当事者間ではZOPA(交渉可能価格帯)は異なり、お互いの一致を見るまで譲歩を繰り返すことになります。今回は、交渉の際の譲歩で気をつけたい点にについて取り上げます。

 

 

■相手のBATNAと留保価値に焦点を絞る

 

交渉は自分の利益を最大化する場ですが、そのためには自分の状況よりも相手の状況に注目する必要があります。具体的には、相手のBATNA(交渉が決裂した時の対処策として最も良い案」と留保価値(交渉者が考える最低限の目標)です。

 

相手のBATNAが貧弱であれば留保価値は低くなりますので、こちらが有利になります。よって、相手の譲歩を引き出しやすくなります。ただし相手もそれが気づかれないように振舞うので、事前の準備段階ややりとりの中から探る必要があります。

 

 

■一方的な譲歩を避ける

 

「アンカリング③」でも触れましたが、譲歩する際には必ず見返りも要求するのが基本です。対等な関係であれば、こちらが譲歩すれば相手も譲歩しますが、力関係で相手が上だと一方的にこちらが譲歩することになりかねません。また相手は、こちらの譲歩を譲歩として認識していない(大したことではない)と考えていると、譲歩する気にはなりません。

 

よって、相手から何かを引き出したいのなら、なるべくこちら側の譲歩が大きな犠牲を伴うことであることを知らしめることも場合によっては必要でしょう。

 

 

■見返りの意味を明確にする

 

譲歩することによって相手から何かを引き出したいのなら、こちらが何を望むのかはっきりさせる必要があります。こちらの譲歩と比べて不釣合いなほど小さな譲歩を引き出してもあまり意味がないからです。

 

これは条件付きの譲歩と言えます。たとえば「金額を○○円下げて欲しいとのことですが、これはコストと手間を考えると当方としても大きな犠牲です。代わりにそちらも△△面で××だけ譲っていただければ、譲歩できると思います。」といった言い方です。

 

ただし条件付き譲歩は、ヘタをすると相手との関係を壊しかねないので、あまり多用しないほうがよいでしょう。

 

 

■譲歩幅の縮小に目を向ける

 

交渉では双方が譲歩を繰り返しますが、自らの留保価値に近づくにつれ譲歩幅は小さくなります。相手の譲歩幅の変化に注目して相手の留保価値を見極める必要があります。ただし、相手がまだまだ譲歩できるにもかかわらず、わざと譲歩幅を小さくして、こちらにプレッシャーをかける場合もあります。例えば「うーん、あと1000円の値引きですか。困ったなあ、もうギリギリなんですよ。せいぜい100円くらいですね。」といった具合です。相手の留保価値を見極める際には、このようなブラフにも警戒することが望ましいです。

 

 

■沈黙に応じない

 

人は沈黙が苦手です。特に自分が最初に提示した条件、相手が検討しているときに、相手がなかなか口を開かないと、だんだん不安になります。そのうち自分と交渉を始め、相手が何も言っていないのに、勝手に自分の条件を引っ込めたり、譲歩したりしたくなるかもしれません。

 

逆に言えば、ベテランの交渉者はまさにこうなるように沈黙を利用しているのです。相手の提示した条件に注文を付けるのでもなく、ただ黙っていることで、相手が譲歩することを狙っているのです。

 

有能な交渉者は、沈黙の効用だけでなく、沈黙に動じないことの必要性を認識しています。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

 

アンカリング⑤

今回はこちらからオファーする際の注意点をおさらいしておきます。

 

 

ZOPA全体を交渉対象とする

 

交渉に当たっては、予め最高目標と最低目標を考えておきます。最高目標と最低目標の間をZOPA(交渉価格可能帯)と言います。交渉する際には、どうしても1つの目標だけを考え、それに固執しがちです。たまに、自分の提案が受け入れられず、機嫌を損ねて席を立ってしまう人がいますが、それではみすみす手に入れられる利益を放棄しているようなものです。

交渉の幅をもたせることで、交渉の柔軟性が確保され、何らかの利益を確保できる可能性が高まります。

 

自分のZOPA全体を交渉対象とするためには、最初のこちらからのオファーは、それよりも外れたもの、相手が承諾するはずがないものであることが求められます。たとえばあなたがある仕事の報酬として、最低でも10万円、できれば15万円もらいたいなら、17万円くらいのオファーをするということです。つまり、これまで見てきたアンカリングをするということです。

 

真面目な人にとってはアンカリングは気が引ける行為だと思います。しかしながら、どうせ譲歩するのですから、最初は少々強気でもよいだろうと考えてみてはいかがでしょうか。言い換えれば譲歩をするためのアンカリングなりZOPAということになります。

 

 

■高めだが、現実的な目標を設定する

 

 

模擬の交渉の結果では、より高い目標を設定する人のほうが、控えめな目標を設定する人よりも、より望ましい結果を手に入れる傾向があるようです。

 

これは、第1に、高い目標を設定する人は、それを達成するために、最初に強気の額(アンカー)を提示するからです。意欲が最初の提示価格に影響を与え、さらに最終価格に影響を与えるのです。第2に、強気の目標を掲げる人は、双方が最初の提案を行った後に、強気で駆け引きするからです。意欲の高さは強気の目標を達成するのに役立つ行動をとる動機になるのです。

 

 

■自分の提示額の正当性を示す

 

もちろん、その際には、相手が不快なほど法外な要求をしてはなりません。自分の提示額の正当な理由(根拠)を示す必要があります。先の報酬の例で言えば、相場の時間当たりの報酬額と仕事にかかる時間を提示するといったことです。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

 

 

アンカリング④

前回は、こちらから取引条件を提案する(アンカリングする)場合を見ましたが、今回は相手が法外なアンカーを打ってきたらどう対応するかを考えてみましょう。

アンカーの影響は絶大で、どのような交渉のプロでも大なり小なりアンカーの影響を受けると言われています。相手のアンカーの影響を和らげるためには、次のような手段が考えられます。

 

 

■アンカーを無視する

 

相手が最初に強気の提案をしてきた場合、無視するのが一番です。ただし聞こえない振りをするのではありません。次のように応じるのです。「あなたからの提示額から判断しますと、この取引に対する私どもの見方とはかなりの隔たりがあるようです。今後の話し合いで、この隔たりを埋めていきましょう」こうした言い方で、自分が主導権を確保できる話題に転換させるのです。

 

 

■情報と影響力を分離する

 

相手の提案は、相手の考え方や要望を伝えるだけでなく、こちらの作戦を狂わせる影響力を持っています。そこで、提案の具体的項目と、こちらの認識に影響を与えようとする相手の狙いを切り離す必要があります。

 

単に相手の提案を無視するのではなく、相手の提案から読み取れる重要な内容には注意する必要がありますが、相手がこちらに影響を及ぼそうとしている事実は忘れてはいけません。

 

 

■相手のアンカーをじっくり検討するのを避ける

 

相手が強気のアンカーを設定した場合、根拠を示すように求め、法外な要求であることを分からせるべきだと考えている交渉者は少なくありません。しかしながら、これは危険な行為です。それは、交渉においては、アンカーが議論されるほど、その影響力が強まるからです。「どうやってその数字を出したのですが?」などと質問して、相手に根拠を示すように求めたり、相手方の提案について突っ込んだ議論をしたりしていると、相手のアンカーの影響力が強まり、交渉がそれに囚われることになります。交渉相手はほぼ常に、提案に少なくとも一理あるように思わせる方法を見つけるものです。よって、相手のアンカーをじっくり検討するのは避けるべきです。

 

一方で、相手からの新たな情報を入手するチャンスを逃したくはありません。よって。相手の提案が法外であった場合、こちらからいくつか質問して、新たに入手できる実質的な情報があるかどうか確かめてみましょう。そうした情報がなければ、自分自身の見方を示したり、交渉を自分の言葉で提示し直したりするなどして、アンカーから関心を逸らしましょう。

 

 

■対案(カウンター・アンカー)を示す

 

相手のアンカーを無視したり退けたりできない場合、こちらから大胆な対案を示すことで相手のアンカーの影響力を打ち消すべきです。

 

ただし、双方が法外な提案をすると、交渉が行き詰まるおそれがあります。このリスクを緩和するためには、まず大胆な対案で相手方のアンカーを打ち消し、その上で、互いに溝を埋める努力をしようと提案することです。さらに大胆な対案の根拠を説明するなど、自分の考え方を示すことによって、条件緩和に向けた最初の一歩を踏み出すべきです。これにより、相手のアンカーの影響力を抑えつつ、強硬な主張の応酬から落としどころを探る段階へと移行できます。

 

たとえば、相手の強気のアンカーに対して、次のように応じるといいでしょう。

「御社が提示された価格は予想外で、それをもとにすると、かなりの議論が必要なようです。当社としては、適正価格をXに近いと見ています(Xがカウンター・アンカー)。当社の計算方法についてはご説明しますが、交渉を成立させるためには、双方の努力が必要だと思われます。」

 

 

■相手の面目を保つために時間的猶予を与える

 

相手の強気の提案が、単なるブラフである可能性があります。法外な提案なら交渉の余地がないことを伝え、再考を促す必要はありますが、相手も一度提案してしまった以上はなかなか引っ込みがつかなかったりします。

 

このような場合には、相手に時間的な猶予を与え、強気の提案を撤回する手助けをしてあげる必要があります。たとえば、「私どもとしては価格の計算根拠を○○のように考えています。このような観点からもう一度ゆっくりお考え頂くわけにはいきませんでしょうか?」などと提案するのです。

 

交渉相手も交渉成立を望んでいるのなら、「打開策が見つかった」「数字を計算し直した」「利害関係者を苦労して説得した」とか何とか言って、交渉の場に戻ってくるでしょう。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

アンカリング③

ZOPA

 

価格交渉にあたっては、あらかじめ自分の最高目標と最低目標を設定しておく必要があります。この交渉可能価格帯のことを、ZOPAZone Of Possible Agreement)と言います。

最高目標を目標点、最低限の目標のことを抵抗点とか前回出てきた留保価値とか言ったりします。

 

 

■まず相手のZOPAを知る

 

あなたは知人から中古車を買おうと思っています。あなたはその車には、150万円の価値があると思っていますが、できれば安く買いたいところです。あなたなら最初のオファーをいくらにしますか?

 

ZOPAは売り手と買い手で異なりますが、相手のZOPAを探り当てることがよりよい結果につながります。前回見たように、相手のZOPAがわからない場合は、こちらからオファーせず、まずは相手の情報を収集することに徹するのが無難です。

 

仮に相手のZOPAが次のように推測できたとします。

ZOPA.png


買い手と売り手のZOPAが重なったところ(135万円から140万円)で交渉が成立します。当然ですが、両者のZOPAが重ならなければ交渉は成立しません。

 

相手のZOPAが推測できたら、あなたからオファーすることは有効です。この場合は、これまで見てきたようにアンカリングを行います。あなたとしては、最高目標である135万円で買いたいわけですから、それよりも低い額を提示します。一方、売り手側も最高目標である140万円で売りたいわけですから、それよりも高い価格でオファーしてくるでしょう。

 

お互い最初のオファーを出しあったら、後は妥結に向けて譲歩を繰り返すことになります。譲歩の基本は「もったいをつけて小刻みに譲歩する」かつ「譲歩したら必ず交換に相手の譲歩を引き出す」ことが鉄則です。

 

また当然ですが、自分の最低目標は絶対知られてはいけません。相手が強気になり足元を見られて高い買い物をすることになります。逆に相手の最低目標を知ることが出来れば有利に交渉することができます。

アンカリング②

■自分から最初に条件提示すべきか?

 

前回、アンカリング(最初にある一定の数値などを提示されると、それを基準に検討してしまうという認知バイアスのこと)を取り上げました。100万円のものを90万円で買いたい場合は、最初に買い手が80万円という価格提示をすれば、売り手にとって80万円が基準(アンカー)になり、買い手が有利に交渉できます。要は「高めのボールを投げる」ということです。

 

アンカーの影響は絶大で、どのような交渉のプロでも大なり小なりアンカーの影響を受けると言われています。よって交渉にあたっては最初の条件提示は自分からしたほうが優位に事が運べると考えるかもしれません。

 

しかしながら条件提示をどうちらが先に行うかは状況次第です。

 

 

■相手の情報があれば先に仕掛け、なければ様子を見る

 

たとえばあなたがフリーランスで仕事をしていて、ある仕事のオファーを受けたとします。報酬の話になり、あなたが1恐る恐る10万円を提示したところ、相手は笑顔で即座に承諾したとします。あなたはどう感じるでしょうか?もしかしたら「しまった!もっと高く吹っかけるべきだった・・・」と思うかもしれません。

 

自分が最初に条件提示すべきかどうかは、どれだけ情報を持っているかにかかっています。

 

このケースでは相手は最大限15万円出してもよかったかもしれません。あなたは相手が出しても良い最大の額を知らずに自らオファーをしてしまったので、報酬を取り損ねてしまったのです。もし相手の最大額が15万円だと知っていたら(推測できていたら)、おそらく18万円くらいでオファーを出し、もしかしたら16万円で交渉が成立していたかもしれません。

 

交渉者が考える最低限の目標のことを留保価値(価格)と言います。このケースでは、相手の留保価値は16万円です。留保価値について、十分な情報を持っていると思えるのであれば、最初に妥当な(十分に大胆な)条件を提示し、自分に有利となるアンカーを設定しようとすることは理にかなっています。

 

一方、相手の留保価値について十分な情報を持っていないのであれば、もっと情報が手に入るまで最初の提案をしないほうが賢明です。この場合、相手に最初の条件提示をさせたほうがよいかもしれません。交渉のアンカーを設定する機会を逃してしまうかもしれませんが、弱気すぎるアンカー(先のケースの10万円)を設定するリスクを回避できます。

 

また情報が不足している場合、こちらから強気すぎるアンカーを設定し、法外な要求をして相手を不快にし、取引そのものをご破産にしてしまいかねないことにも注意する必要があります。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

 

アンカリング①

営業活動をしていると、価格など最初の条件提示をどうするかという問題が生じます。つい安く(控えめに)提示してしまい後悔することもありますし、逆に強気に出すぎて成約に至らなかったこともあります。

また自分から先にオファーしたほうがよいか相手から先にオファーさせたほうがよいかは結構気を遣うところです。

 

 

■アンカリングとは?

 

交渉は出だしが肝心です。最初に優位にたった方がその後の交渉の流れをコントロールすることが多いからです。その際に気をつけなければならないのが、アンカリングというものです。

 

アンカリングとは、最初にある一定の数値などを提示されると、それを基準に検討してしまうという認知バイアスのことです。

 

次のようなケースを考えてみてください。中古車を買おうとしているあなたが100万円の値段が付いている車を気に入ったとします。できればあと10万円値切りたいと考えているあなたとしては、販売員にいくらでオファーするでしょうか?おそらく「90万円でどうか」というより「80万円でどうか」といったほうが90万円で折り合う可能性が高いでしょう。

 

アンカーとは「船の錨(いかり)」の意味で、この場合だと80万円がアンカーとなります。販売員としては80万円が基準となり、それにどれくらい近づけられるかで判断してしまうことになります。もっとも最初の価格である100万円もあなたの判断に影響を与えているわけですからアンカーと言えます。

 

 

■アンカリングの例

 

アンカリングの例はいろいろあります。たとえばあなたが少し奮発して10万円のスーツを買ったとします。そうするとスタッフから必ずシャツやネクタイもどうかと薦められるはずです。シャツもネクタイも1万5千円であなたにとっては少々高く普段なら買わないのですが、10万円に比べれば大した額ではないと思え、薦められるままに買ってしまうということはあるでしょう。この場合、10万円がアンカーになります。

 

またあなたは中古マンションの購入を検討しているとします。予算は3000万円であることを告げ、とりあえず販売業者にいくつかの物件を案内してもらうことにしました。

販売業者はまずあなたに「ボロくて3000万円の物件」を案内します。「この物件は少々年数が経っており交通の便が悪いですが、日当たりもよくお買い得ですよ」当然あなたは買う気になれず、他の物件を見せてくれるように頼むはずです。

次に案内された物件は、あなたの考えていた最低条件をクリアしていますが、値段は3500万円します。「この物件はすでに何人かの方がご購入を検討されています。お客様の予算を少々オーバーしますが、お気に召されたらお早めにご連絡ください」あなたは最初の物件と比べると大層魅力的に思え、契約書にサインすることにしました。

2つめの物件は、あなたの考えていた最低条件をクリアしているにすぎず、予算もオーバーしているのですから、本来は購入対象外であったはずです。しかし最初の「ボロくて3000万円の物件」がアンカー(引き立て役)となり、実際には魅力的に思えてしまったというわけです。

 

マンションの購入のように高額の買い物の場合はここまで単純ではないと言われるかもしれません。ただ何件見たところで実際の比較対象は2つくらいしかなく、「もう片方が○○ならこっちはどうか」という判断しかしていなかったりするのではないでしょうか。

 

アンカリングは「人は比較して決める」という心理を利用した心理テクニックです。何か買い物をする際には、いくつかの候補を比べて何を買うか判断します。これ自体は間違えではないのですが、もしかしたらアンカリングの罠に陥ってしまうかもしれません。よって、購入に傾きかけている商品について、他の商品との比較とは別に、単体で果たして自分の価値基準をクリアしているかどうかという判断基準も持ち合わせたいところです。

権力の源泉

組織内でも力を持っている部門とそうでない部門があります。商社では営業部門が強く、メーカーでは開発部門や生産部門が強いというイメージがありますが、同じ企業でも社長の出身部門によって変わることが多いというところでしょうか。今回は部門のパワーをもたらす源泉について考えてみたいと思います。

 

部門のパワーを扱ったものに、「部門間パワーの戦略的コンティンジェンシー・モデル」というものがあります。これによれば、部門にパワーをもたらす要因として、次の5つがあります。

 

  環境の不確実性

組織全体が直面する環境の不確実性のことです。

  不確実性対処の有効性

環境の不確実性に対し、それをある部門が有効に対処できるかの能力のことです。

  代替可能性

その部門の代わりとなる部門が存在するかどうかということです。

  仕事の中心性

ある部門が組織全体のパフォーマンスにどの程度影響があるかということです。

 

このモデルから示唆される部門のパワーの源泉は次のとおりです。

・部門が不確実性に有効に対処できるほど、その組織内でのパワーは強くなる。

・部門の活動の他部門による代替可能性が低いほど、その組織内でのパワーは強くなる。

・部門の仕事中心性が高いほど、その組織内でのパワーは強くなる。

・部門の成果インパクトが高いほど、その組織内でのパワーは強くなる。

 

つまり「有能で」「換えがきかなくて」「無くてはならない存在で」「全体へのインパクトが高い」部門は権力があるということです。

 

このことは個人の権力についても言えると思います。

 

 

【参考】

「経営管理」野中郁次郎著 日本経済新聞社

リーダーシップの源泉

■リーダーシップとは影響力である

 

リーダーシップとは、「組織や集団の目的・目標を実現するために、人々に影響を及ぼすこと」です。つまりリーダーシップとは影響力のことです。よって、その源泉は権限(公式に与えられる影響力)と権力(非公式の影響力)です。

 

 

■リーダーシップの源泉

 

リーダーシップの源泉には、5つの社会的勢力というものがあります。

 

①報酬勢力

他が求めている報酬を与える能力をベースにした勢力である。報酬には金銭的なもの以外に昇進や昇格、賞賛などが含まれる。

 

②強制勢力

もし従わなければ罰を受けるのではないかという、影響の受け手がもつ予想から生じる勢力である。主な罰としては、叱責や減給、解雇、左遷などがある。

 

③正当勢力(合法勢力)

影響の受け手が、影響の送り手(リーダー)は影響力を行使する正当な権利を有し、自分が従う義務があると感じる場合に成立する勢力である。

 

④準拠勢力

影響の受け手が送り手に個人的魅力を感じていたり、一体感を抱いていたりする場合に成立する勢力である。尊敬やあこがれを感じる相手のいうことには、率先して従うといった場合がこれに該当する。

⑤専門勢力

影響の受け手が、送り手のほうが自分より技術や知識や能力などにおいて優れていると感じているときに成立する勢力である。

 

報酬、強制、正当の各勢力は、通常組織から公式に与えられるものであり、準拠、専門の各勢力は個人が自分の努力や資質で獲得するものです。

 

さらに次の2つを加えて7つの社会的勢力という場合もあります。

 

⑥情報勢力

特定の人しか知らない情報を持っていたり、それを巧みに発信したりする人から受ける勢力である。

 

⑦コネクション勢力

組織内外(特に外部)との関係性やネットワークづくりに秀でていると感じているときに成立する勢力である。

 

 

■最も大事なのは準拠勢力

 

リーダーシップの7つの社会的勢力とは、影響力の源泉です。ただし7つをすべて個人が満たすことは困難です。組織内で責任のあるポジションにつけば、報酬、強制、正当の各勢力は自動的に与えられますからいいとして、情報力やコネクション力は必ずしもリーダー自身が満たさなくても職場のメンバーが満たしていればよいように思えます。

 

そうなると準拠勢力が上司のリーダーシップの主たる源泉ということが言えるのではないでしょうか。

権限と権力

権限だけでは責任を果たせない

 

影響力(人に何かをさせたり、させなかったりする力)には、権限と権力(パワー)があります。権限とは公式に与えられるもので、たとえば部長には部長の権限が、課長には課長の権限が企業内で公式に認められており、その権限の範囲で影響力を行使することができます。

 

組織論のテキストには、「権限責任一致の原則」というものがあります。これは「与えられた権限に等しいだけの責任を与えなければならない」というものです。たとえば営業部長には営業部長の権限が与えられ、営業部門の責任を果たすことが求められるというわけです。通常の組織では、このように部門長には部門長としての権限が与えられます。

 

しかしながら、営業部長が営業部長としての権限しか与えられないとなると、おそらく営業部門の責任は果たせなくなります。営業部長が部門責任を果たすためには、たとえば人事部門に必要な人材の確保を依頼したり、マーケティング部門に広告や販促をお願いしたり、生産部門に製品を作ってもらったりしてもらう必要があります。また、そうしたことを実現するために社長など経営陣に働きかけることも求められます。

 

ところが営業部長には営業部門の権限しか渡されておらず、他部門を営業部門の意向に従わせたり経営陣を動かしたりする力はないことになります。権限だけでは責任を果たせないのです。

 

 

■優秀な上司は権力者

 

それでは営業部長はどうすれば自らの責任を果たすことができるのでしょうか?それはもう1つの影響力である権力(パワー)も発揮することです。権力というと何かおどろおどろしい響きがありますが、組織論で言うところの権力とは「相手に影響力を行使するための非公式の力」です。

 

みなさんにとって「優秀な上司の定義」とは何でしょうか?様々な意見があると思いますが、私にとっては「権力を持っている人(上層部や他部門に影響を与えることができる人)」です。担当レベルではほとんど何も力がない中で、自らの職責を果たさなくてはなりません。他部門や上層部に掛け合ってくれる上司は非常に頼もしいものがあります。逆にこのような影響力がない上司の部下はとても仕事がやりにくいはずです。

 

 

■権限はなくても権力がある人

 

逆に権限はなくても権力がある人もいます。たとえばお局様と言われる人たちです。彼女らは職場に古くから在籍していますから、入れ替わりが激しい総合職に比べて職場の経緯に詳しく、部門長としても頼りにしがちです。言い換えればお局様は部門長に影響力を行使できる立場にあります。中小企業だと社長でも頭が上がらないベテラン女性社員という方がよくいるはずです。

 

このようなケースは、お局様と言われる女性たちに限りません。私が新卒で法人営業として入社した会社で実際にあったケースですが、某大手電機メーカーの客先の購買部門のベテラン主任(男性)がその上司の購買部長よりも業者選定で絶大な決定権があり、私の勤務先の取締役がわざわざその主任に年始の挨拶に行くといったことがありました。もしかしたら釣りバカ日誌のハマちゃんも本人は意識してないでしょうが権力者と言えるかもしれません。

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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