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衆院解散と消費税のゆくえ

■北朝鮮に追い込まれ解散?

 

25日、安倍首相は衆院解散を表明した。相変わらずマスコミの論調は「大義なき解散」といった政権批判が多く、「モリカケ隠し解散」だの「政権維持解散」といった声もあります。

 

支持率が回復基調とは言え、十分に上がっていない状況で解散に踏み切ったのは、北朝鮮対応であることは素人にもすぐに分かる話だと思います。衆議院議員の任期満了は2018年の12月ですが、来年になると半島情勢がどうなるか分からず選挙どころではない、今年11月にトランプ大統領の日中韓訪問が予定されており、それまでは戦争のリスクが低いので今のうちに選挙をやるという判断でしょう(もちろん民進党の混乱や小池新党の体制が整う前に解散したほうが有利という判断もあったとは思いますが)。

 

まさか「来年は戦争になるから」とは言えないでしょうから、25日の首相会見の中では消費税の使途変更の是非を問うことが大義とされましたが、安倍首相も北朝鮮問題についてかなり言及しており、それが解散に踏み切った理由であることがうかがわれます。

 

 

■消費税を大義にできない事情

 

2週間ほど前に解散の話が出始め、それに続いて消費税の使途変更が争点になるとの報道を聞いて、私のようなリフレ的な考え(緩やかなインフレーションを目指す)を持つ人は「これで2019年の10%への消費増税が決まりか」とがっかりしたと思います。

 

二度の延期からも分かるとおり、安倍首相は消費税引き上げには消極的ですが、与党内は増税派のほうが圧倒的に多く、安全保障問題を優先して、今回は争点にできなかったというのが妥当な見方でしょう。

 

しかしながら、消費増税による5兆円の税収の使途を、現在の「社会保障の充実:1兆円、国債の返済;4兆円」から「社会保障の充実:1兆円、幼児教育の無償化や高等教育の負担軽減:2兆円、国債の返済;2兆円」とし、2020年のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化目標を撤廃したことは、安倍首相が財政再建を最優先しない、景気回復を優先するという意思の表れと見ることができます。

 

 

■消費増税は決まったわけではない?

 

さて報道されているとおり、民進党の希望の党への合流が決まり、俄然政局の不透明感が増してきました。これまでは与党も野党第一党の民進党も消費増税派で消費税凍結は言い出しにくい雰囲気でした。そもそも消費増税を決めたのは野田政権下の民・自・公の三党合意です。

 

しかしながら、現時点での野党の主張を見ると、希望の党、日本維新の会、自由党、共産党は消費税延期・凍結で、仮に野党サイドの増税派の中核が崩壊すると、改めて消費税引き上げが争点になる可能性が高いです。タイミング的にはぎりぎりなので少し考えにくいかもしれませんが、20197月の参議院選挙で消費増税の是非が問われるかもしれません。

 

繰り返し述べているように、そもそも安倍首相は増税に乗り気ではないと思われますから、野党からの消費税延期・凍結の要求が高まると、これ幸いとそれに乗る可能性は充分あると思います。

 

 

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オリンピックの経済学②

オリンピックの華と言えば、金メダルでしょう。実は金メダルの獲得数とGDPとの間には深い関係があり、GDPの総額が大きいほど金メダルの獲得数が多くなることが分かっています(相関係数は0.73)。GDPの総額が増えるほど、スポーツ強化費用が増加するということは分かりやすいと思います。

 

さらにGDP以外にも、開催国かどうか、旧共産圏かどうかでも金メダルの獲得数が変わり、開催国、旧共産圏の国であるほど、金メダルは増え、相関係数は0.84となります。もう少し具体的に言うと、金メダル1個に必要なGDPは1000億ドル(8兆円)、開催国だと金メダルは12個増え、旧共産圏は3個増となります。

 

開催国については地の利という面が大きいのは想像できます。旧共産圏というのは、政治体制というよりは、スポーツ振興費用に巨額の投資を行うからと考えたほうがよいかもしれません。その点ではGDPの総額と同じ効果と考えることができます。

 

ただし残念ながら日本はこれまでGDPに見合った金メダルを獲得できていません。先の金メダルの条件を当てはめると、18(プラスマイナス3)程度は獲得できそうですが、北京では9個ロンドンでは7個、リオデジャネイロでは12個でした。

 

GDPに占めるスポーツ振興予算が小さいなどの理由が考えられますが、無理なく振興予算を増やすには、GDPの絶対額を上げることが必要なのは言うまでもありません。

 

 

【参考】

『儲かる五輪』高橋洋一著 KADOKAWA

 

オリンピックの経済学①

■オリンピックで経済成長するか?

 

2024年のオリンピックがパリ 2028年はロスに正式決定しました。オリンピックのような大イベントを開催すると経済成長するという意見がありますが、実際にはどうなのでしょうか。

 

確かに1964年の東京、1988年のソウル、2008年の北京での開催後、主催国は経済成長しています。しかしながら、ソウル五輪以降の夏季6大会で、開催年より翌年のほうが経済成長したケースは、アトランタ(アメリカ)大会だけというデータもあります。

 

一方、1992年のバルセロナ(スペイン)、2004年のアテネ(ギリシャ)、2016年のリオデジャネイロ(ブラジル)を見ると、開催後に主催国のGDP成長率は鈍化、ギリシャやブラジルは深刻な経済不況に陥りました。

 

オリンピックと経済成長の関係を考える場合、先進国と非先進国とで分ける必要があります。オリンピックはもはや財務基盤のある先進国でしか開催するのが難しい状況です。先進国の場合はオリンピック開催は経済成長の要因となりえますが、非先進国の場合は財政負担が重く、効果がない可能性が高いということです。

 

ただしギリシャやブラジルを例に「オリンピックは経済不況をもたらす」というのは、早計でしょう。経済成長には様々な要因があり、オリンピックの経済効果はたかがしれているからです。両国はもともと経済基盤が脆弱であり、たまたまそのタイミングでオリンピックが開催されたにすぎません。

 

 

■オリンピックの経済効果は規制緩和

 

オリンピックを開催すれば海外から観光客が増え、経済成長するように思えますが、それは一時的なものであり、1国の経済成長に与える影響はかなり限定的です。それよりも交通網などのインフラの整備、オリンピック開催を契機に為替規制の緩和や資本取引・貿易の自由化が進むことによる経済効果のほうが長期的には大きいのです。

 

たとえば1964年の東京大会の場合、インフラ面では東海道新幹線の開業、首都高速道路・名神高速道路の整備が進みました。また、それ以上に大きかったのが、貿易の自由化(1960年から63年にかけて貿易自由化率は40%から92%に上昇)と資本取引の自由化(1964年にOECD加盟)です。既に日本は先進国の末端に入っており、技術力も着いていましたから、こうした貿易の自由化は、その後の経済成長を後押しすることになりました。また民間警備事業もオリンピックでの警備受託が注目され、その後の発展につながる契機となっています。

 

つまり、オリンピックの直接的な効果よりも、オリンピックを契機に規制を緩和して先進国として相応しい開かれた環境を整備することのほうがインパクトが大きいのです。

 

2020年の東京オリンピックに備え、現在、民泊解禁が話題になっています。その他にもタクシーや公共交通機関の規制緩和、Wi-Fi環境の充実などが求められています。日本にはまだまだ非合理な規制が沢山ありますが、オリンピック開催を契機に規制緩和が進めば開催後の経済成長につながる可能性はあるでしょう。

 

 

【参考】

『儲かる五輪』高橋洋一著 KADOKAWA

 

真のグローバル企業

経済のグローバル化が叫ばれて久しいものがあります。私たちの身の回りを見ても多くの海外ブランドを目にします。こうしたブランドを見ると、世界中で活躍している企業が増えているようにも思えます。また先進国では経済成長に限界がある一方で、新興国市場の発展に伴い、企業はグローバル経営を目指すべきだという指摘があります。

 

 

■真のグローバル企業は何社あるか?

 

グローバル企業と言うと、「世界で通用する強みがあり、それを活かして世界中で満遍なく商売ができている企業」ということになろうかと思います。

 

アメリカのインディアナ大学のアラン・ラグマン教授は、2001年のフォーチュン500の企業で売上データの内訳が分かる企業365社を対象とし、「世界中から満遍なく売上をあげている企業はどれくらいあるか」を調査しました。世界の主要市場を①北米市場②欧州市場③アジア太平洋市場とし、企業の売上構成を見たところ、次のような結果になりました。

 

・ホーム市場への強い依存

ホーム市場とは、その企業の本社がある市場です。たとえば日本に本社がある企業はアジア太平洋市場がホーム市場になります。365社のうちホーム市場以外からの売上が過半を占めている企業は45社に過ぎないことが分かりました。

 

・真のグローバル企業は9社だけ

45社のうち、ホーム外の2地域の両方からそれぞれ2割以上の売上シェアを実現できている企業は9社しか存在しませんでした。

 

つまり真のグローバル企業は全体の3%しかなかったのです。ちなみのその9社とは、IBM、インテル、ノキア、フィリップス、コカ・コーラ、フレクストロニクス、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン、ソニー、キヤノンでした。

 

 

■グローバルな日本企業は?

 

最近の日本企業のグローバル度を調査したものに、早稲田大学の入山准教授のものがあります。この調査によれば、2015年のフォーチュン500に選ばれた日本企業は54社で、このうち日本を含むアジアからの売上データが取れた43社を分析したところ、36社が、アジア太平洋市場(ホーム市場)からの売上が半分を超えました。そして、3地域から満遍なく売上を上げている企業は、キヤノンとマツダの2社だけという結果になりました。日本企業で調子が良いというと自動車メーカーが思い浮かびますが、欧州では苦戦しています(トヨタ10%、ホンダ5%、日産15%)

 

経済のグローバル化が進んでいるとはいえ、世界レベルで通用する企業はまだほとんどないことが分かります。

 

 

【参考】

「ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学」入山章栄著 日本BP

 

謝罪の法則

9月7日、民進党の山尾志桜里議員が週刊誌報道で不倫問題を指摘され、離党を表明しました。私は政治家は政策で判断すべきという立場で下半身スキャンダルにはほとんど関心がありませんが(もっとも山尾氏の政策も評価していません)、幹事長内定直後の行動や一方的な謝罪会見(男女関係は無し)には呆れるしかありません。

 

 

■効果的な謝罪に必要な要素

 

精神医学のラザール教授によれば、効果的な謝罪には、4つの要素が必要だとされます。

 

  自分がその行為を行ったと認める

  起きたことを説明する

  自責の念を示す

  可能な限りダメージ回復に努める

 

単に謝るだけでは不十分で、きちんと背景を説明する必要があるということです。山尾氏の場合は、少なくとの①から③までは不十分と言わざるを得ません。

 

 

■早く謝れば良いというわけでもない

 

過ちが発覚したら速やかに謝るのが基本とされますが、シンシア・マクファーソン・フランツとコートニー・ベニヒセンの論文によれば、必ずしもそうではなく、タイミングが重要であるとされています。

 

謝罪までの時間が空くほど、被害者側は「こちらも言いたいことを言えた。相手にも分からせた。」という満足感が高まるからです。時間をおけば被害者側も言いすぎたかもと興奮が収まるということもあるかもしれません。もっとも遅ければ良いかというとそうではなく、「早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない」ということです。早過ぎると効果的な謝罪に必要な4要素が欠けてしまうということもあるかもしれません。

 

謝罪をする必要が生じたら、まず考えるべきことは、謝罪した相手がどう反応するかを考えるということです。相手が感情を吐露し意見が言えて、こちら側の謝罪に耳を傾ける用意ができるだけの時間をとったほうが慌てて謝るよりも、その後の関係の修復が図りやすいかもしれないということは意識してよいでしょう。

 

そう考えると山尾氏は慌てて不十分な謝罪をしたばっかりに、かえってマイナスになった典型例と考えられます。

 

 

 

【参考】

『すべては「先送り」でうまくいく』フランク・パートノイ著 ダイヤモンド社

 

日本が財政破綻する確率は?③

■財政破綻確率を見るための最も適切な指標

 

財政破綻確率を見るための最も適切な指標は、日本国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のプレミアム(保険料率)です。保険は発生確率に応じて保険料が決まりますが、国債のCDSのプレミアムは、国債がデフォルト(債務不履行)に陥った場合に元本を保証してもらうための保険料になります。保険料率は発生確率によって決まりますので、CDSプレミアムは市場関係者が想定している財政破綻リスクを表します。

 

たとえば5年間の国債のCDSのプレミアムが100ベーシスポイント(1ベーシスポイント=0.01%)ならば、市場は今後5年間で財政破綻する確率が1%であることを示しています。

 

 

■日本が5年以内に財政破綻する確率は1%もない

 

では、日本のCDSプレミアムの推移を見てみましょう。

2012年5月量的金融緩和前 約100ベーシスポイント(財政破綻確率1%)

2013年4月量的融緩和開始 約90ベーシスポイント(財政破綻確率0.9%)

2014年4月消費増税 約60ベーシスポイント(財政破綻確率0.6%)

2014年10月追加金融緩和 約80ベーシスポイント(財政破綻確率0.8%)

2014年12月消費税引上げ延期 約58ベーシスポイント(財政破綻確率0.58%)

 

現在は、45ベーシスポイント前後で推移しています。アメリカ国債(20ベーシスポイント)と比べると見劣りしますが、それでも市場は向こう5年間の日本の財政破綻リスクをわずか0.45%しかみていないのです。日本は財政破綻寸前と言っている人はこの点についてどう説明するのでしょうか?まさか0%でないのだから危険性はあるとでも言うのでしょうか?

 

 

■消費増税は財政破綻リスクを高める?

 

日本のCDSプレミアムの推移を見ると、面白いことが分かります。量的金融緩和以降、CDSプレミアムは低下しましたが、2014年4月以降の消費増税による景気悪化により上昇、201412月の消費増税延期決定により低下しています。これはマーケットは、「財政再建のために消費増税が必要」というロジックで動いておらず、「消費増税はかえって日本の財政破綻リスクを高める」「金融緩和は財政破綻リスクを低める」と考えているとも取れます。

 

 

【参考】

「アベノミクスは進化する」原田泰、片岡剛士、吉松崇編 中央経済社

日本が財政破綻する確率は?②

■リスクプレミアムとは?

 

ファイナンス論では、「個別債券の金利=リスクフリーレート+リスクプレミアム」と教えられます。リスクフリーレートとは、最もリスクのない(安全な)債券の金利で、通常は国債の金利です。リスクプレミアムとは危険負担料と訳され、個別の債券独自のリスクを反映したものです。

 

たとえばある企業の社債の金利は、国債の金利に、その企業の財務リスク(経営破綻して社債が暴落する可能性)などのリスク要因から決まるリスクプレミアムが加算されて決まります。投資家から見れば「リスクがあるからその分リターンの上乗せが欲しい」、企業から見れば「リスクがあるからその分リターンを上乗せしないと投資家が自社の債券を買ってくれず資金調達できない」と考えてもらえればよいです。

 

 

■日本国債のリスクプレミアム

 

国債の場合、名目金利の理論値と実際値の乖離からリスクプレミアムを算定する分析が内閣府などで行われています。この場合も将来のリスクに対して投資家が要求する金利の上乗せ分であることには変わりがありません。財政問題が深刻化すれば国債のリスクプレミアムは上昇します。

 

日本国債のリスクプレミアムの推移を見ると、1990年代前半に0%から1%の間で推移していたのが、1997年くらいからマイナスに転じ、以後、一貫してマイナス領域で推移しています。リーマンショック後に0%近くまで上昇しましたが、2013年4月の量的金融緩和以降は下降に転じ、マイナス2%くらいでの推移になっています。

 

現在の日本国債のリスクプレミアムの水準を他のG7諸国と比べてみると、アメリカ・イギリス、カナダ、ドイツ、フランスと同程度です。ちなみにリスクプレミアムが20年以上マイナス圏なのは日本くらいなものです。

 

このことからも投資家は日本の財政問題をせいぜいG7の標準並みにしか捉えていないことがうかがえます。

 

 

【参考】

「アベノミクスは進化する」原田泰、片岡剛士、吉松崇編 中央経済社

日本が財政破綻する確率は?①

ポスト安倍と呼ばれる石破・岸田・麻生各氏、自民党の期待の星とされる小泉進次郎氏、民進党の前原代表は、すべて消費増税派であり、金融緩和に消極的な人も多いです。主だった財政・金融拡張派は安倍首相と菅官房長官くらいなものでしょう。つまり安倍政権以降誰が首相になっても緊縮に転じ、私は1年くらいのタイムスパンを置いて景気が暗転する可能性が高いと考えています。なにせ景気対策はやらず逆に増税をするのですから。

このブログでも海外の著名な経済学者、たとえばクリストファー・シムズ、ポール・クルーグマン、ジョセフ・スティグリッツといったノーベル賞受賞者やベン・バーナンキ前FRB議長などは、来日するたびに日本の財政問題は大したことがなく、消費増税ではなく、財政出動すべきだと主張していることを紹介してきました。

今回は、「マーケットは日本の財政問題をどう考えているのか」見ていきましょう。

 

 

■財政問題が深刻化すれば金利は上がるはず

 

財政問題は、国債の金利の暴騰という形で現れます。債券の発行側から見れば、金利は資金調達のコストです。日本の財政問題が深刻化すれば国債の金利が下がっていき、逆なら上がって行きます。

 

たとえば仮に満期まで持っていれば1000円で買い戻してくれる国債があったとし、その価格が現在800円だったとします。この場合、国債の金利(収益率)は、「(1000円-800円)÷800円」で25%です。ここで財政問題が深刻化すると元本の返済の可能性が低くなりますから、その国債の人気は低下するので国債の需要が減り、仮に価格が700円になったとしたら国債の金利は「(1000円-700円)÷700円」で約43%に高騰します。

 

 

■下がりっぱなしの国債の金利

 

では、日本国債の金利の推移を見てみます。代表的な国債である10年もの国債の金利は次のとおりです(単位%)。

 

1989年12月29日(日経平均最高値を記録)5.616

1997年4月1日(消費税5%引き上げ)2.456

2005年8月8日(郵政解散)1.402

2008年1028日(リーマンショックにより日経平均が26年振りの最安値)1.525

2011311日(東日本大震災)1.247

2013年1月30日(量的金融緩和前)0.787

2014年10月30日(追加金融緩和直前)0.475

2016年1月28日(マイナス金利導入直前)0.224

2016年37日(マイナス金利導入後)-0.052

2017年8月31日0.008

 

短期的に上昇することもありますが、トレンド的には下がりっぱなしです。ちなみにマイナス金利導入でマイナスになった金利がプラスに転じたのは20161115日以降で、日銀が同年9月の金融政策決定会合で導入を決定したいわゆるイールドカーブ・コントロール(10年物国債の金利がおおむねゼロ%程度で推移するように誘導する)の結果です。

 

バブル崩壊以降、民間の資金需要がなく、金融機関の資金が国債に向かい国債需要が高まったことが大きな理由ですが、それでも財政危機で紙切れとなるかもしれない国債に投資するはずはないのではないでしょうか。要はマスコミなどが騒いでいるほどマーケット関係者は日本が財政危機であるとは考えていないと言えます。

同族経営のパフォーマンス②

■同族会社のトレードオフ

 

同族会社というと、資質に劣る者でも経営者に選ばれてしまうのではないか?という疑問があります。「同族にこだわらず優秀な社内の人材に経営を任せたほうがよい」というのが一般的な意見であろうと思います。

 

もっとも中小企業の場合は、経営者やその一族が個人資産を担保に会社の負債を背負っていることが多いです。よって、一族外の人間に経営を任せ、負債だけを一族が負うということは、現実的には難しいでしょう。一族外の人間にとって、社長就任と同時に、負債も引き継ぐことはかなり抵抗感があるからです。

 

個人的な感想を言えば、社長候補である二世には、早くから本人に経営者になることの自覚があるせいか、優秀な方が多いような気がします。ただし、そうでない方もいるのは事実でしょう。

 

このように同族会社には、「エージェンシー問題を防ぎ、ブレのない経営をもたらす」というプラス面と、「無能なものをトップに据えてしまいかねない」というマイナス面というトレードオフがあります。これを言い換えれば、トレードオフを解消できれば、同族会社は最強ということになります。

 

 

■「婿養子」という解決策

 

では、このトレードオフを解消する方法はあるのでしょうか。それは日本独特の制度である「婿養子」です。通常、海外では養子といえば子供が対象なのですが、日本では、なんと98%が大人の養子なのです。

 

婿養子が経営者である企業は、純粋な創業家一族出身者が経営者の企業よりも、ROA(総資産利益率)が0.56%高く、創業家でも婿養子でもない人物が経営する企業よりも、ROAが0.9%、成長率が0.5%高くなるという分析結果があります。

 

なぜそうなるのでしょうか?婿養子は長い時間をかけて外部・内部から選抜された優秀な人物であることが多いからです。さらに創業家に婿入し、創業家と一体となりますから、株主(創業家)と同じ視線でブレない経営ができます。つまり同族会社のいいとこ取りが可能になります。

 

ちなみに婿養子経営者の例としては、アシックスの尾山基氏、松井証券の松井道夫氏、スズキ自動車の鈴木修氏などがいます。

 

 

■婿養子の育てかた

 

前回の「同族経営のパフォーマンス①」でも見たように、同族会社にはメリットもありますから、一概に否定されるものではありません。もちろん、婿養子であれば必ず上手くいくものでもありません。

 

婿養子に限ったことではありませんが、後継者として厳しく鍛えることは必要でしょう。また、創業家の理念と一体化させることも求められます。アメリカなどで新たに外部から雇われたプロ経営者が、それまでの事業方針や経営理念を無視した改革を強引に行った結果、強みが失われたといったケースが多くあります。改革は必要ですが、それは理念というブレないものの上に成り立っていることを忘れてはいけません。

 

 

【参考】

「ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学」入山章栄著 日本BP

 

 

同族経営のパフォーマンス①

■同族会社はパフォーマンスがよい!?

 

日本の場合、上場会社の約3割が同族経営で、非上場の中小企業も含めると、同族会社の全体に占める割合は95%となっています。また雇用者数で見ると、6割から7割の雇用者が同族企業に勤務しています。

 

同族企業というと日本独特のもののように思えますが、アメリカのS&P500にリストされている企業の3分の1が同族企業で、雇用者の割合も日本と同程度です。

 

同族企業というと、「社長は無能でガバナンスがいまいちで経営が暴走しがち」というのが通り相場かもしれません。経営者は出資者である株主の代わりに経営をする存在であり、株主によるガバナンス(経営監視)が行われますが、同族会社の場合は出資者と経営者がかなり重なりますから、ガバナンスが効きにくいことはあります。

 

しかしながら、研究成果の多くが「同族企業の業績は、非同族企業よりも優れている」ことを示しています。

 

 

■同族会社のほうが暴走しない!?

 

まず、創業家が大株主であることです。先に触れたように、経営者は株主の代わりに経営を行っています。ただし株主の利害と経営者の利害は必ずしも一致せず、雇われ経営者が自分の私腹を肥やしたり、経営面で暴走したりといったことがあります。これを経済学ではエージェンシー問題と言います。これは、依頼する側(プリンシパル)の期待を、依頼され代理を引き受ける側(エージェント)が裏切る可能性が常に存在することを言います。

 

同族企業でない場合、株主は分散していますから、1人1人の株主の影響力は弱く、経営者への牽制機能は働きにくいです。アメリカでストックオプションを付与されたプロ経営者の暴走については、みなさんもよくご存知かと思います。

 

しかしながら、同族会社の場合、創業家という大株主がいますから、経営者の暴走を抑えることができます。経営者も一族の1人である以上は、他の一族の人の意見を無視しにくいでしょう。

 

 

■同族会社はブレにくい!?

 

同族会社では、創業家出身の経営者は、企業と一族を一体とみなすことが多くあります。このような場合、目先の利益ではなく、企業(一族)の長期的な繁栄を目指すので、結果としてブレないビジョンや戦略をとりやすいという主張があります。老舗企業の場合、代々伝わる家訓のようなものがあり、それに則って経営を行うということが見られますが、同族会社でもそのような傾向があるのでしょう。

 

さらに創業家の人脈や名声、その企業だけに重要な経営ノウハウなど、創業家でないと持ち得ない経営資産も貢献するかもしれません。

 

 

【参考】

「ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学」入山章栄著 日本BP

 

 

脅しや最後通牒に対抗するには②

前回の続きです。相手の担当者が「これ以上は話し合っても無駄です。私たちの条件は○○です。あとはそちらが受け入れるかどうかです。」などといったように、脅しや最後通牒を突きつけてきた場合、どうしたらよいでしょうか。

 

■相手のさらなる脅しを制する

 

相手の担当者が「価格を○○まで下げてもらえなければ取引は打ち切る」などといった最後通牒をしてきた場合、注意したいのは、相手の担当者はあくまで相手の組織の交渉代理人であるということです。

 

たとえば相手組織はこちらの品質面は評価しており取引を継続したいのに、価格は下げさせたいので、脅しをかけている可能性があります。また、上司から価格を下げさせろと強く言われているから、担当者は脅しをかけているにすぎない場合もあります。

 

この場合、前回の「弱い立場での交渉」で触れたように、「相手の弱点を利用して、自分の弱点を克服する」ことが求められます。「あなたのご要望は分かりました。残念ながらこのままでは最終的な契約にはかなり時間がかかると考えられます。あなたもそのようにお考えでしたら、上司の方も同席して頂いてはどうでしょうか」などと提案するのもよいでしょう。

 

相手の担当者は自分のメンツがなくなることを恐れて脅しを引っ込めるかもしれません。また交渉がまとまらないというリスクを相手に知らしめることもできます。仮に上司が同席したとしても、相手組織としては取引継続を望んでいるのであれば、脅しの部分を撤回することがありえます。相手の担当者としては、一度、脅しをかけてしまった以上は、撤回しにくいでしょうから、他の誰かのほうが撤回しやすいでしょう。いずれにせよ、こちらとしては条件が悪くなることはありません。

 

 

■相手の脅しが無理筋であることを分からせる

 

 

相手の脅しがあまりに無理筋であれば、それを分からせる必要があります。相手が実情を分からずに無理な要求を言っているにすぎない場合があるからです。たとえば価格交渉であれば他社との同様の取引での価格水準を示すといったことです。

 

また「制約条件から考えると、その脅しを実行することは困難である」「利害から考えて、その脅しを実行に移すことは難しい」ことを分からせるというやり方もあります。たとえば「納期は1ヶ月後ということでしたが、このままでは契約に至らず、納期を約束することができかねます」「これまで何度もお話し合いをして、多くの点で合意することができました。この段階で話が頓挫することは、双方にとっても望ましくないことはご理解できると思います。合意できる方法を一緒に考えましょう。」といったことを伝えるのです。

 

相手としても要求を引っ込めるためには、それなりの根拠が必要です。もちろん根拠の提示の際には、相手のメンツを潰さない言い方が求められます。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

 

 

脅しや最後通牒に対抗するには①

交渉を重ねているうちに、相手の担当者が「これ以上は話し合っても無駄です。私たちの条件は○○です。あとはそちらが受け入れるかどうかです。」などといったように、脅しや最後通牒を突きつけてくる場合があります。このような脅しや最後通牒に対抗するには、どうしたらよいでしょうか。

 

 

■脅しを無視する

 

相手の脅しに反応することは得策ではありません。相手の最後通牒は、苛立ちや無知、あるいは対面を保つために行っている可能性があるからです。最後通牒の是非に注意を向けさせてしまうと、相手としてもそれを撤回することが難しくなります。

 

それよりも今後数日から数週間の間に相手に撤回できる余地を残すほうが賢明です。こちらが無視しても、相手はもう一度同じことを言ってくるだけで、状況がもっと悪くなるわけではありません。

 

相手の最後通牒をかわす回答には次のようなことが考えられます。

「これまで議論をしてきた点で、御社がこれ以上譲歩するのは難しいのは明白なようです。まず、他の点を話し合い、すべての条件が出揃った後で、もう一度この点に戻ってくることを提案したいと思います。」

「この契約をまとめるために必要な議論はしつくしたとお考えなのは、よくわかります。ただ、我々もまったく同じように感じています。だとすれば合意は近いのではないでしょうか。引き続き話し合いましょう。」

「ご不満なのはよくわかります。契約をまとめなければならないのに、合意に至っていないのですから。御社の考え方を、分かりやすくご提示頂けますか。どうして合意に至っていないとお考えですか。」

 

 

■強硬なメッセージではなく柔軟なメッセージに注目する

 

また相手は強硬なメッセージのほかにより柔軟なメッセージを同時に発信する場合があります。たとえば「価格はこれ以上は譲れない」というメッセージのほかに、「取引条件を良くしてくれれば取引を継続することを検討する」というメッセージを発するといったことです。この場合は強硬なメッセージは無視し、より柔軟なメッセージにのみ焦点を当てるべきです。

(つづく)

弱い立場での交渉

相手と力関係が対等であったり、こちらが力関係で有利な場合の交渉はまだ楽ですが、力関係で相手よりもこちらが劣る場合にはどうすればよいでしょうか。事態を思うように打開することは難しいですが、次のようなことを試してみる価値はあります。

 

 

■自分が弱い立場にあることを明かさない

 

交渉はある種のパワーゲームですから、これは基本です。自分のBATNA(交渉が決裂した時の対処策として最も良い案)が貧弱であることを相手に知られてはいけません。たとえば「私には時間がありません」「何でもおっしゃってください」などと言うと、切羽詰まった感が満載で、こちらのBATNAが貧弱であることがバレバレです。

 

よって、同じメッセージでも言い方に気をつける必要があります。たとえば「私どもは迅速に処理されることを望んでいます」「多少の都合をつけることができます」などと多少余裕がある言い方をするといったことです。

 

 

■相手の弱点を利用して、自分の弱点を克服する

 

相手が圧倒的に力関係で上のように思えても、案外、弱点があることがあります。たとえば大手の取引先に営業マンであるあなたが呼ばれ、相手から「オタクは他社よりも価格が高い。あと10%値下げしないと取引しない」と迫られたとします。この場合、相手の要求を飲むかどうかを考える前に、相手の弱点を考えてみる必要があります。

 

あなたをわざわざ呼んだのだから、相手としてもおそらく取引の継続を望んでいるはずです。でなければ、何も連絡をせずに取引を打ち切ればよいだけだからです。もしかしたらあなたの会社の製品が他社よりも優れていることを認めているのかもしれないし、業者を切り替えることが煩わしいのかもしれません。それが相手の弱点になります。

 

もちろん、一方的に断るのもリスクが高いですが、相手の要求に屈する前に、交渉する余地がないかどうか検討したほうが賢明でしょう。

 

 

■独自の価値提案をする

 

価格交渉を迫られた場合のセオリーは、価格以外のこちらのメリットを強調することです。品質、納期、付加的なサービス、支払条件など様々なことが考えられます。もっともメリットは相手が実際に感じるメリットであり、こちらが考えるメリットではありませんから、こちらの出方は慎重にならざるを得ません。もしかしたら、本当に価格しか興味がなければ、ひとり相撲になってしまいます。

 

相手が感じるメリットがわからない場合には、品質は劣るが安い案と、品質は良いが高い案の2つを示して様子を見るといったこともありです。相手が後者を選び、さらに値引きを要求してくることは考えられますが、少なくともこちらの品質を評価していることがわかった分、そうでない場合よりも交渉の余地が生まれます。

 

 

■返報性の原則に沿う

 

相手の示している低条件を飲むのもイヤだが、かといって取引を打ち切るのは避けたい場合には、取引することを明確にした上で、何らかの根拠を示し、相手の譲歩を促すという方法を取るしかありません。

 

行動経済学者のロバート・B・チャルディーニによれば、人間には返報性の原則(相手から先に何かをされると、お返ししたくなる)があると言います。相手にとっても、こちらに一方的に要求を飲ませることには、心理的な抵抗があるはずです。よって、こちらの希望に対して譲歩する可能性は十分にあります。たとえば価格面では折れるが、支払条件を良くしてもらうといったことです。

 

 

■交渉妥結にこだわらない

 

当たり前ですが、もっとも重要なのは、その取引が自分にとって本当に必要なのか考えてみることです。必ずしも交渉をまとめる必要がないという姿勢が、交渉力を生みます。気が進まないのなら、後で後悔するよりも、強気で迫ったほうがよい結果を生むように思えます。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

 

エスカレートする交渉(勝者の呪い)③

前回の「エスカレートする交渉(勝者の呪い)②」では、企業買収を例に「勝者の呪い(勝者ですら損をする)」を取り上げました。

このような不毛な競争を回避するにはどうすればよいでしょうか。ゲーム理論で言うところのコミットメント戦略を取り上げたいと思います。

 

 

■コミットメントで不毛な戦いを回避する

 

コミットメントとは、「自分が将来にとる行動を表明し、それを確実に実行することを約束すること」です。

 

前回のケースは、1990年代半ばのアメリカの航空会社の買収合戦を例にしたものです。USエアの身売りに対し、アメリカン航空とユナイテッド航空が興味を示し買収合戦が始まりかけました。

 

このゲームでは勝者がいないことを見抜いたアメリカン航空のCEOは、「当社がUSエアに買収提案をすることはない。ただしユナイテッドが買収提案すれば、競争上の地位を確保するために必要な措置を講じる」と発表しました。つまりユナイテッド航空に「現状を変えるな。さもないと互いに多額の資金を失うことになる。」とメッセージを送ったのです。ユナイテッド航空はこれを受けて買収提案をせず、不毛な買収合戦が回避されました。アメリカン航空が「ユナイテッド航空が買収に乗り出せば、うちも必ず徹底的に闘う」と表明したことは、コミットメント戦略と言えます。

 

コミットメント戦略には大きなリスクがあります。ただし不毛な戦いになりそうなら、競争相手にもそれを分からせる必要があり、そのためには非常に有効です。

 

コミットメントで不毛な戦いを回避したケースをもう1つ取り上げましょう。1980年代、アメリカのビッグ3(フォード、GM、クライスラー)の3社で新車販売のリベート合戦が始まり、各社の収益を圧迫していました。そこでリベート合戦に終止符を打つために、GMのCEOリー・アイアコッカは「他社が新たなリベートプログラムを導入したら、必ず当社はそれを上回るものを導入する」と発表したのです。他社はそのメッセージを適切に読み取り、リベート合戦は終わりました。

 

 

■最低価格保証

 

このブログでも以前に取り上げましたが、最低価格保証もコミットメント戦略の一種です。

最低価格保証とは、「他店より1円でも高ければ当店は必ず安くします」というものです。家電量販店などでよく見られます。一見すると際限のない価格競争になると思いがちですが、実際には価格競争を抑制する効果があります。

 

ライバル店が値下げすれば必ず自店も値下げすることになり、ライバル店は値下げする意味がなくなります。互いに最低価格保証を採用することで、相互に値下げへの牽制ということになり、価格競争が抑制されます。

 

 

【参考】

「交渉の達人」ディーパック・マルホトラ、マックス・H・ベイザーマン著 日本経済新聞社

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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