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返報性の原理③

■返報性の原理を悪用する

 

返報性の原理(私たちは他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情を抱くこと)の裏にあるのは、譲り合いの精神です。譲り合うことは社会生活を円滑化するための必要条件です。

 

しかしながら、この返報性の原理を悪用することも可能です。自ら率先して譲ることで、効果的に相手から「イエス」を引き出すことができます。私が誰かに何かをしてもらいたい場合に、十中八、九断られそうな途方もないことを頼み、それが断られたら、それよりも多少些細なことを頼むということです。もちろん、後者の頼みごとが、私が本来頼みたいことです。相手は私の最初の頼みごとから譲歩したと思い込み、後からの頼みごとを受け入れる可能性が高くなります。

 

チャルディーニは学生たちに次のような実験をしました。

<パターン1>

非行少年たちを動物園に連れて行く際の引率を頼む。

<パターン2>

最低2年間、週2時間の非行少年のカウンセリングを頼んだあとに、動物園への引率を頼む。

 

パターン1では17%の承諾率でした。パターン2では、カウンセリングは100%断られましたが、引率の承諾率は50%に跳ね上がりました。

 

このような交渉のテクニックを、ドア・イン・ザ・フェイスといいます。最初に相手がまず承諾しないであろうと思う厳しい条件を意図的に提示し、いったん相手に拒否させます。その上で、最初の条件よりも少し譲歩してみせた条件を提示して、相手に合意を求めていくのです。

 

この戦術は、相手が頼みごとを断る際に感じる罪悪感を利用したものですが、さらに予想外の条件を出して相手の心理を揺さぶり、冷静な判断力を奪うことも目的としています。

 

ただし、最初の要求があまりに法外だとこのテクニックは効きません。誠実な取引をする気がないと相手が判断するからです。

 

 

■相手の術中にはまらないためには

 

恩返ししたい、譲り合いたいという気持ちは非常に大きなものです。相手が二段階の要求をしてきたら、ドア・イン・ザ・フェイスを疑うべきでしょう。相手が露骨なら、不誠実なことですから、こちらも誠実に対応する必要はありません。

 

ただし、相手が意図的にテクニックを使っているとは限らず、悪気がなく、結果的にドア・イン・ザ・フェイスを使っている場合もあります。この場合、最初の要求内容は完全に無視し、後の提案内容のみに検討を絞るべきです。それでもその場で断りにくいなら、その場で返事をせず、改めて返事をするようにしましょう。冷静さを確保することが交渉の基本です。

 

【参考】

「影響力の武器 実践編」N.J.ゴールドスタイン、S.J.マーティン、R.B.チャルディーニ著 誠信書房

「交渉学入門」一色正彦、田村次朗、隅田浩司著 日本経済新聞出版社

 

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返報性の原理②

■宿泊客にタオルの再利用を促すには

 

あなたはホテルの総支配人で、宿泊客にタオルの再利用を促したいとします。これは、毎日新しいタオルに交換しないで、同じタオルを乾かして使ってもらうことで、資源の保護や洗剤による環境汚染の削減につなげるという環境保護プログラムの一環です。

ホテルとしてはタオル再利用のお願いが書かれたカードをバスルームに置くことにしました。

 

パターン1

環境保護の重要性を訴える一般的なメッセージを記す。

 

パターン2

宿泊客がタオルを再利用してくれたら、ホテルはそれに応じて一定金額を環境保護団体に寄付するむねを記す。

 

パターン3

まずホテルが無条件で先に寄付を行なったことを告げ、そのあとで宿泊客にタオル再利用への協力をお願いすると記す。

 

実験ではパターン1と2ではほとんど差がなく、パターン3はそれ以外よりも45%高い効果がありました。パターン2はインセンティブ方式であり、「○○してくれたら□□してあげる」、つまり、単なる商取引にすぎません。よって宿泊客側からすればホテル側と取引する理由は何もないのです。

 

一方、パターン3は、返報性の原理(人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならない)に沿ったものと言えます。「当ホテルはお客様に代わって、すでに寄付をしておきました」と告げた上で、「今度は宿泊客であるあなたがこの行為に報いてください」というわけです。

 

 

■協力を求めるならまず与える

 

要するに、同僚や顧客、知り合いなど誰かに協力を促すためには、まずこちら側が無条件で手助けを申し出たほうがよいということです。相手の承諾を得やすいだけでなく、インセンティブに基づいた脆弱な関係よりも、確固とした信頼と相互理解に基づく協力関係を築くことができます。この関係はインセンティブによるものよりも長持ちします。インセンティブによる関係は、与えるものがなくなれば解消されてしまうからです。

 

 

【参考】

「影響力の武器 実践編」N.J.ゴールドスタイン、S.J.マーティン、R.B.チャルディーニ著 誠信書房

 

返報性の原理①

■頼みごとをするには?

 

次のようなコーネル大学の実験があります。美術鑑賞の実験と評してAさん(実は実験担当者)とBさん(被験者)が室内で何点かの絵画の評価を行っています。

 

パターン1:

短い休み時間にAさんは自分の分のコーラと頼まれてもいないのにもう1本のコーラを買って戻り、Bさんにあげました。

 

パターン2:

Aさんは自分の分しか買ってきませんでした。

 

作業後にAさんはおもむろに「新車が当たるクジ(1枚25セント)を何枚か買ってくれないか」とBさんに頼み込みます。「何枚でもいいんだ。多い方がいいけど・・・」

 

2つのパターンを繰り返し行ってみたところ、パターン1のほうが2よりも2倍のくじを買ってくれたそうです。

 

 

■返報性の原理とは

 

私たちは他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情を抱きます。こうした心理を返報性の原理といいます。

 

返報性の原理は、ある種の負い目によって生じます。相手に報いる大きな動機として好意がありますが、ものをもらったからといって相手に好意を持つわけではありません。コーネル大学の実験でも、コーラをもらった人は実験担当者に好意をもったからではなく、「恩を返さなければ」という思いからチケットを買ったことが分かっています。

 

返報性の原理を使った販売行為はそこらじゅうにあります。営業活動での手土産や接待は、返報性の原理を利用して、後により大きな見返りを期待する行為だと言えますし、試食や試着をしてしまうと商品を買わざるをえなくなるといったことも返報性の原理を使った販売手段だと言えます。

 

 

【参考】

「影響力の武器[第二版]」ロバート・B・チャルディーニ著 誠信書房

経済学の書籍を出すことになりました!

今回は宣伝をお許し下さい。

この度、同友館様から書籍を出版させて頂くことになりました。

 

タイトルは「中小企業診断士のための経済学入門」です。11月末から12月頭に販売予定です。

 

「中小企業診断士のための」とありますが、ビジネスパーソンの方全般を対象に、ずばり「これ1冊で経済通になれる」という内容に仕上げたつもりです。この本1冊で本当に経済通になれます!

 

基本的には経済学の入門書なのですが、使えない理論は一切省き、使えるものに絞ったこと、できる限り説明を単純にしたこと、アベノミクスなど時事ネタを多く取り入れたことが特徴です。経済学がいまいち面白くないのは、身近な感じがしないからでしょう。読者の方に経済のイメージを持っていただくために、思い切って時事ネタを多く入れました。

 

ただし時事ネタの恐ろしいところは、環境が変わると題材としてまったく使えなくなってしまうところです。原稿を投入したのが8月末で、当時は年内の解散総選挙はまったく予想していませんでした。加えて選挙序盤の希望旋風で、「あわや政権交代か?(原稿のかなりの部分がボツになる)」と正直肝を冷やしました。

 

自民大勝でよかった(笑)。

 

手軽な分量で、経済学の知識がほとんどない方でも、ある程度ある方でも興味を持って読んでいただける内容になっておりますので、どうぞ宜しくお願い致します!

 

ホテリング・ゲーム②

■やがて隙間をねらって極右・極左が台頭する

 

前回は各政党の政策がやがては中道化することを、ホテリング・ゲームを使って説明しました。

ホテリング③ ただしすべての党が中道化すると、やがてその隙間を狙って新しい党が生まれることになります。

 

たとえば極右政党のC党が現れたとします。右翼側の有権者のうち、中道のAB両党よりC党の政策に近い考え方を持つ25人は確実にC党を支持することになります。よって、ある程度の生存基盤を確保できることができます。

ホテリング図4 やがてC党は、AB両党と同じように支持層を拡大するために、多少中央寄りにポジションを変更するでしょう。

 

このように見ると、政党の政策の変更や新党の立ち上げは、一種の陣取り合戦という形で見ることができます。社会的背景もありますが、ヨーロッパの極右政党の躍進はホテリング・ゲームと考えたほうがわかりやすいかもしれません。

 

もちろん左派側の隙間を狙った新党の立ち上げも考えられます。枝野氏率いる立件民主党は左側の隙間を埋めるものと考えることができます。

 

 

■小売業の真空地帯理論

 

このような陣取り合戦は政党だけでなく、小売業態の動向を考える際にも応用することができます。小売業の真空地帯理論というものがあります。

 

消費者からの評価が最も高いのは、価格・サービスともにそこそこの水準の業態だと考えられます。そこで高価格・高サービスの小売業では、低価格・低サービスへの移行を志向し、逆に、低価格・低サービスの小売業では、高価格・高サービスへの移行を志向することになります。

 

かくして真ん中の部分では競争が激化する一方で、高・低が両極端の部分で真空地帯が生まれ、その部分で革新的な業態が生まれる可能性が高くなります。

 

ホテリング・ゲーム①

■やがて各党で政策の違いはなくなる

 

1010日以降の各社の世論調査の結果を見ると、自民が最低でも260議席以上、公明が30程度、希望が60程度、維新が10~15程度となっており、改憲勢力が3分の2を超えることが確実視されています。個人的には改憲には賛成ですが、数年前ならこのような状態は想像できなかったでしょう。これらの各政党で経済政策などで微妙に違いはありますが、一般の有権者からすればあまりはっきりしたものには映らないのではないでしょうか。

 

政党間の政策の違いはやがては無くなるということが、従来よりホテリング・ゲームと呼ばれるゲーム理論のモデルで主張されてきました。

 

 

■ホテリング・ゲームの特徴

 

今回はペイオフマトリックスは使いません。政党がA(左翼)・B(右翼)の2つ、有権者が100人いると考えてください。

ホテリング図1 図1の状態では、A党は左半分の有権者(50人)、B党は右半分の有権者(50人)を獲得できます。

 

ただし、このような状態では各党は自分の支持者を増やそうとスタンスを変える可能性があります。仮にB党が次のように真ん中にスタンスを変えたとしましょう。

ホテリング図2 B党はポジションの右側全体と、左から二番目の左翼グループの半分を獲得でき、全体の8分の5を制することになります。このような状態になるのをA党がみすみす見逃すわけはなく、A党もスタンスを真ん中に持っていきます。かくして2政党とも中道になるというわけです。つまり両政党とも中道がナッシュ均衡になります。

 

こうして考えてみると、二大政党制の国では、各党で政策がまったく違うということはなく、その結果、政権交代しても政策の継続性がある程度担保されているということが確認できます。

 

 

■駅前出店はテリトリー争いの結果

 

ホテリング・ゲームは立地ゲームとも呼ばれ、テリトリー争いの説明で用いられます。テレビ局がどこも同じような番組を作るのも同じ論理です。

 

「なぜ駅前に飲食店が集まるのか」についても、このモデルで説明されることがあります。駅を中心に住宅が広がっているため、駅前は図の中央に位置します。お互いが自分のテリトリーを増やすことを考えた結果、自ずと駅前に出店が集中するというわけです。

 

【参考】

『ゲーム理論の思考法』川西諭著 中経出版


マッチング・ペニーズ

■マッチング・ペニーズの構造

 

ペニーは、イギリスの硬貨です。コイン・トスで、相手は裏か表か予想し、相手が正解すれば勝ちで外れれば負け(逆にトスを投げる出題側はその逆)というゲームです。このゲームのペイオフマトリックスは次のようになります。


マッチングペニー 

この場合、ナッシュ均衡(ゲームに参加する各プレイヤーが、互いに対して最適な戦略を取り合っているという状況)は、存在しません。

 

ジャンケン、ピッチャーとバッターの駆け引き、サッカーPK戦のキッカーとゴールキーパーの駆け引きも同様です。このようにぐるぐると行動が変わりどこにも落ち着かないのがマッチング・ペニーズ・ゲームの特徴です。

 

 

■どうどう巡りを避けるには

 

マッチング・ペニーズの例として、警官と泥棒の関係を考えてみます。

 

・警官がパトロールを行い泥棒は空き巣に入る

警官は泥棒を捕まえられるので警官の利益は1、泥棒の利益はマイナス1

 

・警官がパトロールを行い泥棒は空き巣に入らない

警官は無駄足なので警官の利益はマイナス1、泥棒の利益はゼロ

 

・警官がパトロールをせず泥棒は空き巣に入る

警官は泥棒を捕まえられないので警官の利益はマイナス1、泥棒の利益は1

 

・警官がパトロールせず泥棒は空き巣に入らない

空き巣事件は起こらないので双方とも利益はゼロ


マッチングペニー② 

この場合もナッシュ均衡はなく、いたちごっごが続きます。場合によっては、空振りが続けば警官がパトロールしなくなるかもしれません。

 

このような事態を避けるためには、ペイオフマトリックスを書き換える必要があります。たとえば「泥棒を捕まえる」ことに対してではなくパトロールする行為そのものに利益を与えるということです。

 

利益の分配を書き換えるというのは、マッチング・ペニーズに限ったことではありません。自分が有利な状態となるような相手の行動を促すために、ペイオフマトリックスそのものを変えてみるという努力が求められます。

 

 

【参考】

『ゲーム理論の思考法』川西諭著 中経出版

 

 


チキンゲーム②

前回見たように、チキンゲームとは「自分は譲歩したくはないがお互いが意地を張り続けると最悪な結果となる」というゲームです。


チキンゲーム② 

では、チキンゲームの場合に自分の望む利益を獲得するにはどうすればよいでしょうか?

 

1つの考え方は、コミットメント戦略です。このブログでも何度か取り上げていますが、コミットメントとは、「自分が将来にとる行動を表明し、それを確実に実行することを約束すること」です。つまり「自分は絶対に譲歩しない」という強行な姿勢を示すということです。

 

1962年のキューバ危機ではまさにそのような駆け引きが行われました。キューバに核ミサイル基地の建設が明らかになったことからアメリカがカリブ海で海上封鎖を実施し、アメリカとソ連とが対立して核戦争の緊張が高まりました。その際、アメリカのケネディ政権の強硬な姿勢がソ連のキューバからの核ミサイル撤収という譲歩を促したといいます(上の図では左下の状態になったということですが、実はアメリカ側もトルコから戦術核を撤収することに同意したので左上の状態とも言えます)。

 

米朝関係でもまさにそのような駆け引きが行われています。金正恩亡命を含め北朝鮮側が譲歩しなければ、12月開戦の可能性は否定できないかもしれません。

チキンゲーム①

■チキンゲームの構造

 

チキンゲームはご存知の方が多いでしょう。別々の車に乗った2人のプレイヤーが互いの車に向かって一直線に走行するゲームで、激突を避けるために先にハンドルを切ったプレイヤーはチキン(臆病者)と称され、屈辱を味わう結果になるというものです。

 

これをペイオフマトリックスで表すと次のようになります。


チキンゲーム 

ナッシュ均衡(ゲームに参加する各プレイヤーが、互いに対して最適な戦略を取り合っているという状況)は、(自分:譲歩、相手:譲歩せず)(自分:譲歩せず、相手;譲歩)の2つあります。

 

「自分は譲歩したくはないがお互いが意地を張り続けると最悪な結果となる」というところにこのゲームのジレンマがあります。もちろん互いに譲歩してそれなりの利益を得るというところに落ち着けば、それはそれで問題ありません。

 

 

■北朝鮮問題

 

チキンゲームというと、核の開発競争や瀬戸際外交が思い浮かびます。現在の北朝鮮の核開発では、米朝ともに譲歩するという可能性は低いでしょう。この状態をペイオフマトリックスで表すと次のようになります。


チキンゲーム② 

このようなケースでは、多くの場合、片方が譲歩することで事態の収拾が図られます。しかしながら、現在は米朝ともに譲歩せず、右下の結果になる可能性はあります。11月に米中ロ日で戦後の北朝鮮統治のあり方についての最終合意が確認されたあと、12月にも戦端が開かれるという予測が強まっています。

 

 

【参考】

『ゲーム理論の思考法』川西諭著 中経出版




コーディネーション・ゲーム②

■コーディネーションの失敗

 

前回は、コーディネーション・ゲームについて取り上げました。コーディネーション・ゲームとは、特別な理由はないが相手(みんな)が同じ選択をすることによって、お互いの利益が守られるようなゲームのことです。前回のペイオフマトリックスを製品規格の置き換えてみます。


コーディネーションの失敗 

コーディネーション・ゲームでは、ナッシュ均衡(ゲームに参加する各プレイヤーが、互いに対して最適な戦略を取り合っているという状況)は2つあり、そのどちらに落ち着くかは状況次第です。

 

上の例で言うと、仮に(ユーザーX:規格B、ユーザーY:規格B)に落ち着いたとしたら、規格Bがデファクト・スタンダード(事実上の業界標準)になってしまいます。それでは(ユーザーX:規格A、ユーザーY:規格A)の組み合わせ(規格Aがデファクトスタンダード)よりも利益が少なくなってしまいます。

 

このように複数のナッシュ均衡の中から、人々にとって望ましくない均衡に陥ってしまうことを、コーディネーションの失敗といいます。

 

必ずしも使い勝手が良くない製品規格がデファクト・スタンダード(事実上の業界標準)になってしまうことはしばしばあります。たとえば古くはキーボードの配列のQWERTY方式があります。現在のキーボードの配列は、タイプライター時代にアームの衝突を防ぐことを目的に採用され、タイピングには適した配列ではありませんでした。しかしながら、人々がそれに慣れてしまったために、その後アームの衝突を心配する必要がなくなったにもかかわらず、パソコ時代にもそれが標準化されてしまいました。また、家庭用VTRVHS企画も、対抗馬のベータと比べ、性能は必ずしも良くなかったと言われています。

 

 

■コーディネーションの失敗を抜け出すことは極めて困難

 

コーディネーション・ゲームには、①みんなが同じ行動をしてしまう(したくなる)、②安定してしまうと変えるのが難しいという特性がありますから、望ましくない均衡に一度陥るとそこから抜け出すことは極めて困難になります。

 

それまでの観点が180度変わるようなパラダイムシフトや、既存のペイオフマトリックスの利益パターンが変わり、望ましくないナッシュ均衡の組み合わせが圧倒的に不利になるような事態が生じたりしなければ、コーディネーションの失敗を克服することができないのです。

 

 

【参考】

『ゲーム理論の思考法』川西諭著 中経出版

コーディネーション・ゲーム①

■コーディネーション・ゲームの構造

 

あるカップルがいて、今度の休日にどこにデートに行くか検討しているとします。男性はスポーツ観戦に、女性はショッピングに行きたいとします。仮にこの場合のペイオフマトリックスが次のように示されるとしましょう。


コーディネーション 

この場合、ナッシュ均衡(ゲームに参加する各プレイヤーが、互いに対して最適な戦略を取り合っているという状況)は、(男性:スポーツ観戦、女性:スポーツ観戦)と(男性;ショッピング、女性:ショッピング)の2つです。つまり、男性も女性も相手と一緒でなければ利益が大きく損なわれ、仮に自分が希望するプランでなくても相手に合わせたほうがよいということです。

 

このように、特別な理由はないが相手(みんな)が同じ選択をすることによって、お互いの利益が守られるようなゲームを、コーディネーション・ゲーム(「男女の争い」ゲーム)といったりします。

 

 

■デファクトスタンダード競争

 

コーディネーション・ゲームの例としては、デファクトスタンダード競争があります。

 

デファクトスタンダードとは、市場の競争の結果として決まった事実上の業界標準規格のことです。古くは家庭用VTRVHS対ベータ(勝者はVHS)、パソコンのOSWINDOWS対マッキントッシュ(勝者はWINDOWS)、比較的最近の例としてはDVD規格のブルーレイ対HD-DVDなどがあります。

 

同じ技術規格の製品間であればやりとりができますが、異なる技術規格の製品間ではやりとりができないことが普通です。たとえばブルーレイとHD-DVDでは一部のプレーヤーを除けば両方を再生することはできませんから、貸し借りといったやりとりができません。

そうなると、どちらか一方の規格を選択することが合理的となります。

 

 

【参考】

『ゲーム理論の思考法』川西諭著 中経出版

囚人のジレンマ③

■囚人のジレンマゲームの例

 

前回、前々回と囚人のジレンマ(非協調な行動の結果、協調した場合よりも利益が下がってしまうこと)を見てきました。

 

囚人のジレンマの性質には、次の3つがあります。

  自分にとって相手が何をしてきても非協力的に行動したほうが利得が高い。

  自分が非協力的に行動すると相手の利得が下がる

  お互いが私的利益を追求することで、協力した場合と比べてそれぞれの利得が下がってしまう。

 

囚人のジレンマゲームは、至るところで見ることができます。

 

・業界内での価格競争の激化

自社だけ値下げすれば販売量が増加して儲かるが、他社も同様の行動をすることで業界全体で価格競争となり、結果的には誰も儲からない。

 

・戦略的提携の失敗

2社間で互いのノウハウを持ち寄り新製品を共同開発すれば2社とも大きな利益を得られるにもかかわらず、互いに相手の技術開発にただ乗りしようとし、結果的には提携が上手くいかない。

 

・生産量カルテルの崩壊

業界企業が値崩れを防ぐために業界全体の生産量を制限し各企業の生産量の割り当てをしていたが、抜けがけして増産する企業が現れて、カルテル(協定)が崩壊する。OPECなどの国際的な協定のケースも同じ。

 

・漁獲量の乱獲

個々の漁師が利益拡大に走ると水産資源が失われ最後には資源が枯渇してしまう。

 

・軍拡競争

各国が自国の力を誇示しようとすると、際限のない軍拡競争に陥り、結果的にはすべての国が疲弊してしまう。

 

 

■囚人のジレンマの克服法

 

前回、前々回のペイオフマトリックスを価格競争に置き換えて、囚人のジレンマの克服法を考えてみます。


囚人のジレンマ2 

両社が望ましい利益をあげられるようにするためには、まず上の表のようなペイオフマトリックスを作成し互いに協調(価格維持)をしたほうがよいことを認識する必要があります。もちろん互いにどれだけ利益をあげることができるか正確に把握することはできませんが、おおよその利益を見積もることはできるでしょう。

 

ただし両社とも値下げしたほうが得する以上、どうしても裏切りのインセンティブはあります。そこで裏切らせない工夫が必要になります。そのためにはコミットメント(自分が将来にとる行動を表明し、それを確実に実行することを約束すること)が考えられます。

 

たとえばA社としては、B社が抜け駆けして値下げしないよう、「値下げには値下げで応じる」という表明をするのです。そうすればB社の利益は10から6に下がってしまいますから、B社としても値下げを思いとどまるでしょう。

 

企業同士がカルテルを結ぶことは自由競争を損なうので法律で禁止されていますから、現実的な対応策としてはコミットメントが有効だと考えられます。

 

 

【参考】

『入門 ゲーム理論と情報の経済学』神戸伸輔著 日本評論社

囚人のジレンマ②

前回のペイオフマトリックスで誤りがありましたのでお詫びして訂正させて頂きます(前回分も更新済)。改めて再掲します。

囚人のジレンマ 

このケースでは、相手がどう出てこようとA社もB社も「非協調」が合理的となり、両社とも「非協調」を選択することになり、これがナッシュ均衡(ゲームに参加する各プレイヤーが、互いに対して最適な戦略を取り合っているという状況)となります。両社が互いに最適な戦略を取り合っているため、これ以上戦略を変更する誘因はありません。

 

※すいませんがナッシュ均衡の求め方は改めて前回分(囚人のジレンマ①)をご覧下さい。

 

 

■囚人のジレンマゲーム

 

このケースでは、両社ともに「非協調」を選択し、共に6の利益を得ますが、マリトックスを見ると面白いことに気がつきます。両社が協調的な態度を取れば、ともに10の利益を得られるのですが、各社が自分の最適な選択肢をとると、6の利益に甘んじてしまうのです。

 

このように非協調な行動の結果、協調した場合よりも利益が下がってしまうことを囚人のジレンマといいます。

 

共同犯罪の容疑で2人の囚人がいたとします。互いにしめしあわせて黙秘すれば(協調行動)刑期が短くてすむのにかかわらず、取調官から「お前が自白すればお前だけは刑期を問わないことにしよう」という司法取引を持ちかけられると、片方の仲間を裏切って自白しようとするかもしれません。その結果、ともに自白したとすると、2人とも長い刑期を課されてしまいます。これがこのゲームの由来です。

 

囚人のジレンマゲームの面白いところは、自らの利益の最大化を図るという合理的な判断が、結果的には低い利益になってしまうということです。

 

囚人のジレンマ①

最近の北朝鮮を巡る米・中・ロの動き、そして小池百合子氏の行動を見ていると、深謀遠慮な駆け引き行動が目につきます。このような駆け引きを考える学問をゲーム理論と言います。ゲーム理論は政治行動のみならず、営業活動や社内の交渉にも応用することができます。自分の望む利益を得るためには、まずは「この取引はどういうゲームなのか」把握する必要があります。

 

 

■ゲーム理論とは?

 

ゲーム理論とは、複数の意思決定者の間に相互依存関係を分析する理論です。たとえば自分の行動が相手の利害に影響を及ぼし、逆に相手の行動も自分に影響を及ぼすということはよくあることです。

 

このような状況では、お互いに相手の出方を予想したり、自分がある行動をとったら相手がどう反応するかを読んだりするといった駆け引きが行われます。よって、ゲーム理論は、駆け引きを考えるための理論と言い換えることもできます。

 

 

■ゲームのパターン

 

取引(ゲーム)にあたっては、お互いに相手の行動を知らない場合が少なくありません。このような状況下でのゲーム(取引)の代表的なパターンには、次の3つがあります。

 

●同時手番ゲーム(同時進行ゲーム)

各プレイヤーが同時(あるいは時間的経過を考慮せず)判断し行動する。

 

●展開型ゲーム(交互進行ゲーム)

各プレイヤーの意思決定のタイミングが順番に訪れる。たとえばプレイヤーAが打った手を受けてプレイヤーBが手を打つといったゲームです。

 

●繰り返しゲーム

ゲーム(取引)が1回で終わるのではなく、繰り返される。取引が永遠に続くということはありませんが、取引がある程度の期間、継続することを前提とするものです。

 

 

■ナッシュ均衡

 

まずゲーム理論の基本中の基本である同時手番ゲームについて、何回かに分けて見ていきましょう。ゲーム理論では、次のようなペイオフ・マトリックス(利得表)というものを使います。

 

仮にライバル関係にあるA社・B社の2社があったとします。それぞれ相手と「協調する」「強調しない」の2つの選択肢(戦略)があり、自社と相手の選択によって、利益が変わります。表の数値はそれぞれの場合の利益です。たとえば「A社:協調、B社:協調」なら、A社の利益は10でB社の利益は105です。「A社:非協調、B社:協調」なら、A社の利益は12でB社の利益は4です。


 囚人のジレンマ 

戦略は相手の行動が分からない状態で決めなくてはなりません。では、この場合、互いにどのような選択をする形で落ち着くでしょうか。それぞれの立場から考えてみます。

 

<A社の戦略について>

 A社は、B社の出かたを窺いつつ戦略を決める。

B社が「協調」を選択すると想定すると、A社は「協調」で10、「非協調」で12の利得を得る。よって、「非協調」に決める。

B社が「非協調」を選択すると想定すると、A社は「協調」で4、「非協調」で6の利得を得る。よって、「非協調」に決める。

以上から、A社はB社が協調・非協調どちらでこようと「非協調」が合理的な判断となります。

 

B社の戦略について>

 B社は、A社の出かたを窺いつつ戦略を決める。

A社が「協調」を選択すると想定すると、B社は「協調」で10、「非協調」で12の利得

を得る。よって、「非協調」に決める。

A社が「非協調」を選択すると想定すると、B社は「協調」で4、「非協調」で6の利得を得る。よって、「非協調」に決める。

以上から、B社はA社が協調・非協調どちらでこようと「非協調」が合理的な判断となります。


つまり相手がどう出てこようとA社もB社も「非協調」が合理的となり、両社とも「非協調」を選択することになります。

 

このようにゲームに参加する各プレイヤーが、互いに対して最適な戦略を取り合っているという状況をナッシュ均衡といいます。ナッシュ均衡では、各プレイヤーが互いに最適な戦略を取り合っているため、これ以上戦略を変更する誘因を持たず安定的な状況であるということになります。なぜならナッシュ均衡状態の戦略の組み合わせを変えると必ず各プレイヤーは損をすることになるからです。

 

(つづく)

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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