人手不足倒産が急増中?
■人手不足倒産が急増中?
人手不足倒産についての報道が見られます。東京商工リサーチが9日発表した10月の全国企業倒産件数は、前年同月比7%増の733件となり、人手不足関連の倒産が77%増の39件で調査を開始した2013年以降では過去最多件数だったとのことです。
確かにコンビニや飲食店では外国人アルバイトの方が目立つようになり、アルバイトの時給も上がっていますから、これだけ見ると、人手不足が企業に与える影響が深刻化しているという印象を持つかもしれません。
■何のニュースバリューがあるの?
しかしながら実際に人手不足倒産の内訳を見ると、代表者や幹部役員の死亡、病気入院、引退などによる「後継者難」型が29件(前年同月17件)、中核社員の独立、転職などの退職から事業継続に支障が生じた「従業員退職」型が5件(同1件)、人手確保が困難で事業継続に支障が生じた「求人難」型が4件(同3件)、賃金等の人件費のコストアップから収益が悪化した「人件費高騰」型が1件(同1件)となっています。
社員が確保できないといった一般的な意味での人手不足は、たったの4件に過ぎないのです!企業倒産件数全体(733件)のうちのわずか0.5%です。
ちなみに2017年上半期の全倒産件数に占める「求人難」型の比率は、0.37%ですから、
増加傾向と言えなくなはないでしょうが、はっきり言えば誤差の範囲でしょう。些細な違いをことさら取り上げて騒ぐ報道姿勢にはまったく理解できません。変化が大きいことを大騒ぎするが、よくよく全体から見れば極めて些細な部分に過ぎないといったことはマスメディアの報道では本当によくありますから、注意したいものです。
■1人日銀に反旗を翻す片岡氏
8月に日銀の審議委員に就任した片岡剛士氏は、「労働力にはスラック(余剰感)がある」とし、追加金融緩和の立場から、9月・10月の金融政策決定会合で1人、現行の金融政策維持に反対票を投じました。黒田総裁体制になって金融緩和を始めて「金融緩和に反対」という立場の審議委員はいましたが(大抵金融機関出身者)、「不十分だからもっとやれ」という反対は片岡氏だけです。
2017年9月時点で完全失業率は2.8%です。失業はどんなに好景気でも一定数あります。自己都合退社や企業倒産はいつでも存在するからです。これ以上、下げられない失業率を構造失業率といいます。構造失業率まで失業率が下がると、本格的に人手不足になり、賃金がいっきに上昇することになります。
構造失業率の算定は難しいのですが、おおよそ2.5%弱程度と見られます。つまり現在は人手不足感は多少あるもの、まだ失業率の底には至っていないのです。本当に人で不足なら人材確保の面から正社員の賃金ももっと上がっていないとおかしいからです。片岡氏はこのことを主張しているのです。
黒田体制以前の日銀の金融政策や、日銀職員や出身者の方の話を聞いていると、「日銀はデフレが好き」と言わざるを得ません。そのような中で片岡氏のような主張は抵抗が大きいでしょうが、これまで出演番組や著作をチェックしてきた身で言うと、是非頑張って頂きたいと思います。
【参考】
東京商工リサーチHP