■日日の株価をみても経済トレンドは分からない
前日の米国市場での株価暴落を受け、日経平均株価は午後の取引で一時1600円超も下落しました。ここまで下がると「このまま株価は下落する」「日本経済は下降に向かう」といった指摘が必ず出てくるのですが、確かにしばらく株価が低迷する可能性はありますが、日日の株価の動きに一喜一憂していても経済のトレンドはわかりません。
たとえば2016年11月のアメリカ大統領選でトランプ氏が当選した直後には日経平均株価は前日比で900円以上値下がりしましたが(2円の円高)、翌日には急反発しました。2016年6月にイギリスのEU離脱が決定した時も1300円以上値下がりしましたが、20日ほどで元の水準に回復しています。
日々の株価や為替の変動はマーケット関係者の思惑だけで動く部分が大きいので、経済状態の予測に当たっては半年から1年くらいの中長期的なトレンドで見ることが必要です。
■経済トレンドを見るには、金融政策のスタンスに着目する
今回の株価下落よりも気になるのは、日米の中央銀行の金融政策スタンスです。日本は内需国とは言え、為替の影響は大きく、10%程度の円安で名目GDPが0.5%程度上昇するとの指摘があります。そしてその為替に大きく影響を与えるのが金融政策です。
一般的に為替は内外金利差と通貨量の2つから決まると言われています。たとえばアメリカの債券の利子率(収益率、株の配当利回りや国債・社債の利子率)が日本の債券の利子率よりも高ければ、アメリカの債券が買われ、円安ドル高になります。
なぜならアメリカの債券のほうが儲かり、かつアメリカの債券はドル建てなので、ドルが買われ円が売られるからです。買われるものは必ず価格が上がり売られるものは必ず価格が下がるので、円安ドル高になります。
一方、相対的に量が多い国の通貨は安くなり、相対的に量が少ない国の通貨は高くなるという傾向もあります。これはマネタリー・アプローチと呼ばれる考え方で、大物投資家のジュージ・ソロス氏が採用していることから、ソロス・チャートと呼ばれることもあります。
たとえばある時点で円とドルの通貨量が1対1であるとします。ここで日本銀行が量的金融緩和を行って円の量が増加し、円とドルの量の比率が2対1になったとします。ここでも「相対的に量が多いものは価値が下がり、少ないものは価値が上がる」の掟が働き、円安ドル高になるのです。逆にアメリカのFRBがドルの量を増やすと、円高ドル安になります。
以上、2つの為替レートの考え方について見てきましたが、実際には両者が絡み合って為替レートが決まります。短期的には内外金利差、中長期的には通貨量に沿って決まるという傾向があります。
第1次安倍内閣時の2007年5月には120円台をつけた円ドルレートは、リーマンショックをはさみ、民主党政権下の2012年1月には一時78円台までに急速に円高が進みました。その理由の多くをマネタリーベース・アプローチで説明することが可能です。
先進各国がのきなみ通貨量を増やしたのにもかかわらず、日本はほとんど増やさなかったので、各国通貨に対し円高が進んだというわけです。たとえばリーマンショック後の4年間で、アメリカは約4.1倍、イギリスは約3.1倍、ユーロ圏は約1.9倍に増やしたのに対し、日本は1.5倍に過ぎません(しかもかなり緩慢なペース)。
逆にアベノミクスで2013年4月より日本銀行が量的金融緩和を行ったあとは円安に転じ、緩やかな経済回復が実現したことはご存知のとおりです。
したがって今年の経済トレンドを見る際には、日米の金融政策のスタンスにまず着目することになるでしょう。
(つづく)