雑誌連載記事のご案内
「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断5月号」が発売されました。
今回のテーマは、「日本企業は特許の出願数を増やすべきか?――もはや技術の囲い込みではグローバル市場で戦えない」です
タイトルどおり、特許の数を増やしても収益性があがるわけではないという点を取り上げ、求められる知財戦略について寄稿させていただきました。
機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。
本当にそうなの?を理論で考えるブログ
「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断5月号」が発売されました。
今回のテーマは、「日本企業は特許の出願数を増やすべきか?――もはや技術の囲い込みではグローバル市場で戦えない」です
タイトルどおり、特許の数を増やしても収益性があがるわけではないという点を取り上げ、求められる知財戦略について寄稿させていただきました。
機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。
交渉術のケースワークの3問目の解答です。
■ニブリング
ニブリング(おねだり戦術)とは、「いったん合意した直後を意図的に狙って相手に追加条件を提示し、その条件を相手に飲ませてしまうもの」です。
「もう合意しているのだから、できるだけ合意を維持したい」「相手の機嫌を損ねたくない」という交渉相手の心理を利用したテクニックです。Cさんはネット証券会社から大口の受注をもらい客先の不興を買いたくないという思いが先行し、それに付け込まれてしましました。
この交渉テクニックの厄介なところは、相手が必ずしも最初から意図をもってやっているわけではないということです。相手のニブリングに気がついたら「追加の事項はどれくらいあるのか」確認し、すべてをセットで再交渉する必要があります。
また、話をご破産にしたくないというこちらの心理が相手のおねだりを受け入れてしまう下地なわけですが、相手も自分と同様にいまさら話をご破産にしたくないはずだということに気が付くことも大事です。一度話がまとまった後におねだりを断っても、それでご破算になることは極めて希でしょう。
■フット・イン・ザ・ドア
フット・イン・ザ・ドアとは、「最初に相手が取るに足らないと思えるような要求を意識的に提示し、小さなイエスを引き出す。その上で、徐々に大きな要求にエスカレートさせる」というものです。
「アンケートに答えることを了承すると、その後の商品の売り込みを断れなくなる」「試着を薦められ、それを受けると買わざるを得なくなる」といったことが典型です。
受け手からすると、最初の要求が小さいので思わず受け入れてしまい、その後、徐々に、そして次から次に、大きい要求を受けても、最初にイエスと言ってしまっているので、途中から断りにくくなるというものです。
今回のケースは、フット・イン・ザ・ドアには該当しませんが、Cさんは一度、財務担当役員への新しいBIS規制の影響についての説明を受け入れてしまいましたので、その後の追加オーダーも断りにくくなってしまいましたので、心理的には共通する部分があります。
対策としては、相手の交渉テクニックであることに気が付くことが大事です。それと、1つ1つのオーダーを切り離して個別に扱うということも必要でしょう。
Cさんは会計コンサルティング会社に勤務しているコンサルタントです。この度、成長著しいあるネット証券会社から1億円のコンサルティング契約を受注することができました。
Cさん:この度の契約がまとまりまして、大変有難うございました。
客先担当者:こちらこそ。これからよい関係が築ければと思っていますよ。
Cさん:御社のような優良企業とお付き合いができて大変光栄に思っております。
客先担当者:そういって頂けるとはうれしいですね。ところで、あなたか、他の方でもよいのですが、来週、一度、来てもらって、うちの財務担当役員に新しいBIS規制の影響について話してもらえませんか?
Cさん:お安い御用です。さっそく社内の専門の者を手配させて頂きますよ。
客先担当者:それはよかった。うちの役員にも顔を売っておいたほうがおたくもよいでしょう。
Cさん:そうですね(笑)。それではさっそく社に戻りまして・・・。
客先担当者:あー、それとね。情報システム部の社員が、うちの会計システムの水準について簡単に意見をうかがいたいといっていました。誰か空いている方に、近日中にうちのデータセンターに寄ってもらえるように頼んでもらえますか?
Cさん:うーん、やってみますが・・・。
Cさんのどこがいけなかったのでしょうか?できるだけ沢山挙げてください。
(解答は次回)
少々ベタな設定でしたが、いかがでしょうか。
■グッドコップ・バッドコップ
Y課長とZ課長が仕掛けたのは、古典的な交渉テクニックであるグッドコップ・バッドコップです。内容は次のとおりです。
・まず悪玉役が相手の提案を批判することで不安に陥れ、「自分のほうが悪いのでは」と思わせる。
・次に善玉役が相手に同情しつつ助け舟を出すようにして譲歩案を出す。
・相手が渡りに船とばかりにその譲歩案を受け入れることを真剣に検討するように追い込む。
■アンカリング
アンカリングとは、最初にある一定の数値などを提示されると、それを基準に検討してしまうという認知バイアスのことです。
アンカーの影響は絶大で、どのような交渉のプロでも大なり小なりアンカーの影響を受けます。最初にオファーすることで、アンカーを打つことができ、交渉を有利に進められます。Y課長の提示した「このままでは取引停止」はアンカーとして機能しています。
■ドア・イン・ザ・フェイス
ドア・イン・ザ・フェイスとは、「最初に相手がまず承諾しないであろうと思う厳しい条件を意図的に提示し、いったん相手に拒否させ、その上で、最初の条件よりも少し譲歩してみせた条件を提示して、相手に合意を求めていく」というものです。
■返報性の原理
返報性の原理とは、「他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情を抱くこと」です。ドア・イン・ザ・フェイスは返報性の原理を利用した交渉テクニックといえます。
何か譲歩してもらったら、今度はこちらが譲歩しなければならないように感じるといったことが典型例で、BさんはZ課長の譲歩(実際にはただの要求ですが)に対し応えなければならないという心理に追い込まれてしまいました。
■対策は早くテクニックだと気がつくこと
どれも交渉テクニックであることをなるべく早く気が付くことが大事です。対策としては、後から提示された譲歩案が本来の相手の要求であり、先に提示されたものは見せ玉であるので無視することです。
また相手が2人で数的に不利なことが事前にわかっていれば、上司に同席してもらうなど不利な状況を解消しておくのも有効です。
どうしても追い込まれそうなら、必殺の一撃「社に戻って検討する」を使いましょう。
部品メーカーの営業マンのBさんは、急に取引先である大手メーカーX社の調達部門から呼び出されました。応接室に通されると、面識のあるY課長のほかに、Z課長も同席しています。
Y課長:どうしてくれるんだ、B君!おたくのせいで工場からこっぴどく怒られてしまったじゃないか!
Bさん:も、申し訳ございません。ですが、いつもどおり納品されたかと・・・。
Y課長:いつもどおりだと!よくもそんなことを言えたものだな。納品されたもののなかから不良品がみつかったんだよ!おかげで生産がストップしてしまって、生産部門から私の管理がどうなっているんだと散々嫌味を言われたよ!悪いが、今後、おたくとの取引は見合わせてもらうよ。
Bさん:本当に申し訳ございませんでした。以後、気をつけますのでなんとか取引は継続してください。
Y課長:だめだ。すでに他社の担当者には声をかけた。
Z課長:まあまあ、Y課長、そう怒りなさんな。B君も以後は気をつけるといっているのだから・・・。生産がストップしたといってもすぐに再開できたわけだし。だけどB君、Y課長も社内でメンツが潰されたということはわかってくれているよね。
Bさん:はい重々承知しております。
Z課長:どうだろうね、ここは誠意を見せてもらって、値段でがんばってくれれば今回のことは水に長そうじゃないか。
Bさん:具体的にはどれくらいでお考えでしょうか?
Z課長:まあ、200万円くらいだったら・・・。
Bさん:200万ですか!そこまでの値引きは上司の承認が得られません。もう少し何とかなりませんか?
Y課長:まあ、君の立場もあるだろうしね・・・。であれば100万くらいならどうかね?
Bさん:分かりました。上司を説得してみます。
Bさんのどこがいけなかったのでしょうか?できるだけ沢山挙げてください。
(解答は次回)
Aさんの問題はいろいろありそうですが、ここでは交渉スキルとして2つに絞りたいと思います。
■BATNA
BATNAとは、「Best Altenative To a Negotiated
Agreement」の略で、「交渉が決裂した時の対処策として最も良い案」のことです。例えば、転職希望者にのってのBATNAは、現在勤務している会社の労働条件になります。
交渉に当たっては、自分のBATNAが貧弱であることを絶対に相手に知られてはいけません。逆に自分のBATNAが強力な場合は、それを提示して好条件を引き出すためのテコとして利用することができます。
Aさんは自分がどこも内定をもらっていないということを正直に言ってしまいました。好条件を引き出すためには、無理にウソをつくまでは必要ありませんが、「何社か面接している」くらいは言っておきたいところです。
■ノー・ディール・オプション
交渉にあたっては、「交渉は必ずまとめなければいけない」という思い込みを捨てる必要があります。これをノー・ディール・オプションと言います。
まとめようという意識が高いと、自分のBATNAを下回る条件でも合意しようとしてしまうからです。意に反する合意はしないという決意のほうが結果的にはよい結果を生むでしょう。
AさんはBATNAが貧弱なこともあって、自分の条件を下げてしまっているともいえます(そもそも条件を考えていなかったともいえますが)。
不運にもリストラにあったAさんは、現在、再就職活動でX社の人事担当者との面接に臨んでいます。
面接官:それでは早速ですが、いくつか質問をさせて頂きます。
Aさん:よろしくお願いします。でも、すべての質問に十分お答えできるかどうか…。まあ、がんばってみます。
面接官:さて大学を卒業なさってから、4回仕事を変わっていますね。そして、仕事はすべて異なった業界・職種ですね。これはなぜでしょうか?
また、あなたの専門分野は結局何なのでしょうか?
Aさん:そうですねえ、いろいろ仕事をしてみたかったということでしょうか。まあ、実際にしたわけですが。特に専門と呼べるものは・・・。まあ、いろいろ経験にはなりましたけどねえ・・・。
面接官:そうですか、ところで他社さんの面接も受けられているのでしょうか?
Aさん:実は、何社か面接させて頂いていますが、内定に至っているところはまだ・・・。
面接官:そうですか。それでは当社ではどのような仕事をしてみたいですか?
Aさん:そうですねえ・・・、自分では人と接するのが好きですので営業の仕事を希望しています。
面接官:営業ですか・・・。以前のお仕事よりかなり残業や休日出勤が増え、大変ですよ。仮に営業部門以外の部門に配属されたらどうしますか?
Aさん:はあ、やはり採用して頂いたからには頑張ろうと思います。
面接官:分かりました。本日は御足労頂き、ありがとうございました。追ってご連絡させて頂きます。
Aさん:こちらこそ有難うございました。よろしくお願いします。
これまで見てきたプラットフォームビジネスの締めくくりとして、プラットフォームの阻害要因についても取り上げます。
早期にプラットフォームを築きあげ、その結果、1人勝ちになるケースもあれば、そうならないケースもあります。たとえば任天堂は家庭用ゲーム機のプラットフォームにおいて、ファミコンで1人勝ちしましたが、プレイステーションに破られました。その後、WiiとDSによって再度シェアの逆転が起き、最近ではスマホゲームにゲーム機全体がかなり市場を奪われました。食べログやじゃらんは後発ですが急成長しました。
プラットフォームの阻害要因としては、次のことが挙げられます。
■マルチホーミング
マルチホーミングとは、ユーザーが複数のプラットフォームを並行して使用することです。複数のプラットフォームを使う利便性が手間やコストを上回るのなら、特定のプラットフォームの1人勝ちにはなりません。
たとえばFacebook、Instagram、twitter、Lineといったように複数のSNSを使うといったケースが挙げられます。
■スイッチングコスト
スイッチングコストとは他への切り替え費用のことで、金銭的コスト(追加の費用が生じる)、手間コスト(切り替える際の手間、切り替えたものの操作を覚える手間)、心理コスト(新しいものへの不安やリスク意識)があります。
スイッチングコストは、自社から他社に顧客が流出することが困難になるという点では1人勝ち要因になりますが、同時に他社から自社に顧客が移転する際の手間にもなれば1人勝ち要因にはなりません。
たとえば以前は通信キャリアを変えると電話番号も変わってしまうことになっていましたが(スイッチングコスト)、このことがNTTドコモの1人勝ちにはなりませんでした。他の通信キャリアのユーザーはドコモに移動することができなかったからです。
■市場の成長
市場の成長は、新しいユーザーの流入をもたらします。新しいユーザーは、必ずしも既存の1人勝ちプレイヤーに反応せず、後発企業のプロモーションに乗りやすいところがあります。
たとえばLINEは、まず10代のユーザーに普及しましたが、彼らはFacebookから移動したわけではありません。彼らにとって最初に利用するSNSがLINEだったのであり、その使いやすさなどに素直に反応して利用するようになったのです。
また機能面ではFacebookのほうが豊富でしたが、彼らにとってLINEの機能でしたいことができるから十分(Good Enough)であったことも、付け入る隙として機能しました。
■デバイスなどの転換の経済
「PCからスマホへ」「オンプレミアムからクラウドへ」など、プラットフォームの下位レイヤーとなるデバイスなどが転換すると、既存のプラットフォームの基盤が足元から崩れ、1人勝ち状態にはなりません。
PCの豊富な機能を前提に普及したFacebookに対し、スマホという新しく生まれた媒体に特化して使いやすさと楽しさを提供したLINEは新しいユーザーを獲得しました。先に挙げた家庭用ゲームがスマホゲームに追いやられているケースも同様です。
このように新しい媒体が登場すると、それまでのビジネスゲームの構造が一気に変わり、先行したプラットフォームの優位性を揺るがすことになります。
■政府の規制
政府の規制によって、1人勝ちメカニズムが抑制されることがあります。たとえば、政府による行政指導や独占禁止法の適用です。マイクロソフトは何度も会社分割の危機にさらされました。
【参考】
『プラットフォームの教科書』根来龍之著 日経BP社
■新たな独占の形
GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)というプラットフォームビジネスの雄の売上高はこの10年で7倍に拡大したといいます。IoT社会の進展で勢いが止まらず、新たな独占の形を生み出したともいわれます。
従来型の独占は、利用者の便益を損ないます。しかし、データ型プラットフォームの独占は、大量のデータを持つほど利便性が高いサービスを提供でき、便利なサービスを提供できる企業がさらにデータを集め、独占が進みます。いわゆるWTA(Winner Takes All:1人勝ち状態)が生まれるのです。
ここではもう少し1人勝ち状態をもたらす要因について具体化してみます。
■先発優位
先発者は顧客基盤を最初に獲得できることから、「技術やノウハウ獲得に先行できる」「ブランドを確立しやすい」「顧客からのフィードバックを先取りできる」などのメリットが得られます。そのため、先発企業であることは1人勝ちへと至る可能性を高めます。
さらに先発優位であってスイッチングコスト(他への切り替え費用)が高い場合には、その優位性はさらに高められます。
■規模の経済
先行した企業に規模の経済が働くと、さらに成長が加速されやすくなります。一般に規模が拡大すると単位当たりのコストが低下します。たとえば製造業であれば、生産量が増加すれば、単位当たりの固定費(例:設備代)が低下するので平均費用が低下します。
しかしながら、一般の製造業では、平均費用の低下はどこかの生産水準で止まります。その理由は、設備の生産能力に限界があること、管理コストが増大すること、大ロットで購入していた原材料の仕入れ値が下げ止まることなどがあります。
一方、ソフトウェアやネットビジネスの場合では、コストはほとんど開発費ですから、生産量が増加するにつれ、ひたすら平均費用は低下し続けることになります。このような場合、上限なく規模拡大を追求する内的要因となり、さらに1人勝ちが進む要因となります。
■ネットワーク効果
前にも触れましたが、ネットワーク効果とは、「利用者の拡大によって利用者の便益が拡大すること」です。ソフトウェアやネットビジネスでは、ネットワーク効果が働きますので、早い段階で利用者を獲得できると、半自動的に追加の利用者を獲得することができます。つまり1人勝ちが促進されます。
さらに自分と補完関係にある独立したニッチ市場が数多く存在すると、サイド間ネットワーク効果が生じやすくなります。サイド間ネットワーク効果とは、プラットフォーム上の異なる種類のプレイヤー間で働くネットワーク効果です。片方のグループの利用者が増加すると、もう片方の利用者グループにとって製品やサービスの価値が向上(あるいは下落)する現象のことです。たとえばゲーム本体とゲームソフトの関係です。
■マルチホーミング
マルチホーミングとは、ユーザーが複数のプラットフォームを並行して使用することです。たとえば複数のSNSやショッピングサイトを並行して使うケースはよくあります。
マルチホーミングのメリットは、複数のプラットフォームを柔軟に使い分けることでユーザーにとっての便益が高まることです。逆にデメリットは、それだけ手間や時間がかかることです。
マルチホーミングのデメリットがメリットを上回る場合、ユーザーは1つのプラットフォームを選択することになり、1人勝ちが進みやすくなるのです。
【参考】
『プラットフォームの教科書』根来龍之著 日経BP社
■好循環をつくることが必要条件
プラットフォームビジネスを成長させるためには、いかに好循環を作るかが鍵となります。魅力的なユーザーが沢山いないと、補完プレイヤーはやる気になってくれないですし、補完プレイヤーがやる気になってくれないとプラットフォームの規模や機能、価値は向上しません。プラットフォームの規模、機能、価値が向上しないと、ユーザーは集まりません。
プラットフォームのエコシステム(事業生態系)を発展させていくためには、プラットフォームのVIEW(展望、世界観)を提示することが必要です。「将来に関する市場の見方および予測」「自社エコシステム構築に関する方針」「自社エコシステムの社会貢献」などを提示することによって、補完プレイヤーをできるだけ多く引き付けるのです。
■プラットフォーム設計のための4つのレバー
クスマノとガワーは、プラットフォーム・リーダーシップを「広範な産業レベルにおける特別な基盤技術の周辺で、補完的なイノベーションを起こすように他企業を動かす能力」と定義し、そのための意思決定テーマを4つに分類しました。
<プラットフォーム・リーダーシップの4つのレバー>
1. 企業の範囲
何を社内で行い、何を外部の企業にさせるべきか。補完製品を内製する能力を持つのか。どの程度外部にその供給を奨励するのか。
2.製品化技術:モジュール化とオープン化の程度
システムとしてのアーキテクチャ(モジュール化の度合い)、インターフェース(プラットフォーム・インターフェースの開放度合い)、知的財産(プラットフォームとそのインターフェースに関する情報の外部企業への開放程度)に関する意思決定。
3.外部補完業者との関係
補完業者との関係はどの程度協調的であり、あるいは競争的であるべきか。どのようにして合意は形成されるのか。利害対立(将来的なものを含め)は、どのように処理されるのか。
4.内部組織
上記の3つのレバーをサポートするために、どのように内部を組織化するか。外的および内的な利害対立をより効果的にマネジメントするための内部の組織構造。
以上の他に、収益モデルの決定も重要な意味を持ちます。補完プレイヤーがエコシステムに参加するときに、課金を行うべきか、どの程度課金するかは、エコシステムの大きさや性質に影響します。
アップルはiphoneのアプリ開発キットを低額だが有料で提供しています。アイテム課金を含めて、アプリへの課金はすべてiTunesをつうじて行うことを義務付けており、7%の手数料を徴収しています(2017年4月時点)。
【参考】
『プラットフォームの教科書』根来龍之著 日経BP社
プラットフォームビジネスでは、自社の事業領域だけではなく、「他社にオープンにする範囲」を決めることが重要になります。つまり、どのレイヤーについて、どの程度まで他社(者)の補完製品を受け入れるかという意思決定をする必要があります。これについては、本ブログでも「オープン%クローズ戦略」で取り上げましたので、そちらも参照いただければと思いますが、今回はアマゾンの電子書籍を取り上げます。
■アマゾンの電子書籍事業
アマゾンの電子書籍事業は、コンテンツストアのキンドルストア、ハードのキンドル、ソフトのキンドルリーダーを提供していますが。完全にクローズドな構造にはしていません。iPadやスマホやパソコンにキンドルリーダーをインストールすれば、キンドルストアの本が読めます。つまりハードはオープンにしています。
アマゾンは自分でハードを出しているのに、iPadやスマホなどハードの競合相手にキンドルアプリを無料で提供しています。よって、キンドルを買わないで、iPadやスマホでキンドルストアを利用している人が沢山います。一方で、キンドルというハードは、キンドルストアで買ったものしか読めないようにしています。
なぜこのようにしているかというと、アマゾンはキンドルストアの利用者を増やして、コンテンツ販売で儲けようとしているからで、ハードで儲ける気はないのです。
■どこをオープンにして、どこに参入するか
「どこをオープンにして、どこに参入するか」それを考えるのがレイヤー戦略の重要なポイントです。アマゾンのように部分的にオープンにするという戦略でユーザーの選択肢を広げることで普及を早めることが可能になります。
しかしながらその一方で、オープン化により「庇を貸して母屋を取られる」、収益源を補完プレイヤーに奪われるというリスクもあります。プリンターメーカーが、カートリッジをオープンにすれば、カートリッジ専用メーカーだけが儲かるという事態に陥るでしょう。どういうレイヤー戦略を取るかは、プラットフォームビジネスにおける重要課題なのです。
【参考】
今回はプラットフォームビジネスの特徴であるエコシステムについて、従来型のビジネスシステムであるバリューチェーンと、プラットフォームの違いから見ていきます。
■ビジネスエコシステムとは?
エコシステムとは自然界の生態系という意味です。ビジネスエコシステム(事業生態系)とは、「複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み」と定義されます。
1990年代前半くらいから、シリコンバレーのスタートアップ企業が、他の企業との連携を図って事業を立ち上げ、成功を収めていく状況を説明するのにビジネスエコシステムという言葉が用いられるようになりました。
自社にとってエコシステムの選択は、自社の活動領域(ビジネスシステム)を決める問題です。事業の参加者としては、自社、補完企業(密なパートナーシップを結んでいるパートナー企業)、補完企業(自社と共存関係にはあるがパートナーシップを結んでいるわけではない)に分けられます。
■バリューチェーン型とプラットフォーム型
ビジネスシステムの選択としては、大きく①バリューチェーン型(従来型)②プラットフォーム型の2つを検討することになります。
バリューチェーンとは、マイケル・ポーターが提唱したもので、高付加価値や低コストといった全体最適を図るための、購買物流、オペレーション(製造)、出荷物流、マーケティング・販売、サービスなどの業務活動の連結をいいます。
従来の考え方では、自社が付加価値の源泉を設計し、基本は自社で完結させるが、自社で不足する部分は外部業者に頼ることでバリューチェーンを最適化するというのが主流でした。外部業者の位置づけは、あくまで自社の協力業者(下請け)であり、バリューチェーンは自社と信頼のおける(自社がコントロールできる)限られた外部業者で完結させるという閉じられたものでした(クローズド・システム)。
一方、プラットフォームの考え方は、他社に補完製品を作ってもらうために、外部プレイヤーの参加を積極的に促し、かつやる気にさせるというものです(もちろん補完製品の品質管理は必要ですが)。オープンシステムということができます。
■エコシステムの選択はビジネスモデルによる
ビジネスシステムをバリューチェーン型にするかプラットフォーム型にするかは、自社のビジネスモデルによります。自社で事業環境をコントロールできる、あるいはコントロールしたいならバリューチェーンでよいし、自社単独では事業の立ち上がや優位性を確保できなければプラットフォーム型になります。
たとえばコピーメーカーはハード本体を安くして消耗品やメンテナンスで儲けようとしますが、この場合はハード本体・消耗品・メンテナンスをすべて自社内のバリューチェーンで完結させるほうが合理的です。
またネット上の情報サイトのように自社単独では魅力的なコンテンツを提供できない場合は、プラットフォーム型を採用し、幅広くプレイヤーを募る方がよいでしょう。
【参考】
『プラットフォームの教科書』根来龍之著 日経BP社
おかげさまで拙著「中小企業診断士のための経済学入門」同友館の重版(増刷)が決まりました。改めてご購読頂きましたみなさま、ご紹介くださったみなさまには厚く御礼申し上げます。ありがとうございました!
著者として重版は大きな目標でしたし、2年くらいで実現すればよいかなあくらいに考えておりましたが予想を上回る速さで感謝申し上げます。
ついでにhontoで私の思いを代弁してくださったレビューアーの方がいらしたので、掲載させてください(笑)。
「中小企業診断士向けの経済学の本であるが、別に資格に関係なく面白く読める本である。
経済学といえば無味乾燥な面白くない理論や、自然科学とは違うしっくりこない理屈を勉強しても、結局、実際の現象は理論のとおりにならないということで、やってて意味があるのかと思ってしまうのだが、嗜みとして知っておくことは、他の仕事にも応用ができることや、普段生活をしていてニュースを見たり、ネットを見たりするときにエセ経済学者のフェイクを見破ったりできることがよくわかった。
また、最近の本なので、今の社会情勢や出来事を例に上げながら説明してくれるので、理解もしやすかった。」(原文ママ)
今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。m(_ _)m
前回、ネットワーク効果(利用者が増えるほど製品やサービスの価値が上がることを意味する経済原理)が生じる場合、ユーザー数がある規模(クリティカルマス)を超えると、需要が爆発的に成長することを取り上げました。よって、自社のプラットフォームの地位を確立するためには、早期にユーザー数を拡大する必要があります。一度、数的優位な状況さえ作ってしまえば、あとは勝手にユーザーが増えていきます。
今回は、どうやってユーザー数を上げるかについて考察したいと思います。
■集客を担うサイドと利益を上げるサイドに分ける
以前、ビジネスモデルを取り上げたときにも触れましたが、意図的に儲けがでないくらいに安価な料金設定のものと、儲けるものとを用意してメリハリをつけるという考え方があります。たとえば飲食店であればメインメニューでは儲けずサイドメニューで儲けるといった具合です。
プラットフォームにまず利用者を引き付けるためには、この考え方が有効です。プラットフォームの階層のうち、収益を上げるレイヤーをマネーサイド、無料あるいはコスト割れで商品やサービスを提供されるレイヤーをサブシディサイドといいます。サブシディサイドで集客を図りネットワーク効果を働かせてからあとでマネーサイドで稼ぐというわけです。
たとえばネット上の広告モデルでは、視聴者には無料で情報が提供され(サブシディサイド)、広告クライアントから広告料を徴収します(マネーサイド)。ゲーム機の場合はゲーム本体は安価に消費者に提供され(サブシディサイド)、ゲームソフト会社からロイヤルティを徴収する(マネーサイド)ことが多いです。アドビの場合は、閲覧ソフトは無料(サブシディサイド)で作成ソフトは有料にする(マネーサイド)という戦略でPDFファイルにおけるデファクトスタンダードを確立しました。
■バンドワゴン効果
ユーザー数がある一定数に達すると、ネットワーク効果の他にバンドワゴン効果も期待できます。バンドワゴンとは、もともと祭りの見かける山車のことです。山車が進むにつれ人々が集まってくることにかけて、流行に乗るとか勝ち馬に乗るといった状況をさします。
■SNSの活用法
早期に一定数のユーザーを確保するためには、SNSの粥用が浮かびます。SNSのつながりには、現実世界の友人や知人といったリアルなつながりを反映したリアルグラフと、SNSの中だけでしかつながりのないバーチャルグラフの2つがあります。フェイスブックやLINEはリアルグラフ、ツイッターはバーチャルグラフといわれています。
一般的には影響力が強いのはリアルグラフといわれています。実際に知っている人からの情報のほうが信頼性が高いからです。
一方、バーチャルグラフは拡散力に優れているといわれています。弱いつながりのほうが、ある人のつながりがほかのある人のつながりと重なったりして、つながりの範囲が広いからです。
【参考】
『プラットフォームの教科書』根来龍之著 日経BP社