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連続強化と部分強化

厚生労働省によると、ギャンブル依存症が疑われる状態になったことのある人は3.6%(約320万人)と推計されます。統合型リゾート(IR)実施法案の審議が予定される中で、ギャンブル依存性に関する問題が指摘されていますが、そもそもなぜ依存症という問題が起きるのか、モチベーション理論を使って考えてみたいと思います。

 

 

■モチベーションの強化説

 

モチベーションの強化説とは、単純にいえば、「人の行動は、それと結びついた報酬によって強化される」というもので、要は「アメとムチの理論」です。

 

たとえば子供が親にとって望ましい行動(片づけや勉強、お使いなど)をとり、その後に親が子供に報酬を与えれば、子供はその望ましい行動をとり続ける可能性が高いでしょう。これを正の強化といいます。

 

逆に子供が望ましくない行動をとった場合には、罰を与えることで、その望ましくない行動をとらせないことも可能です。

 

 

■連続強化と部分強化

 

「アメとムチ」というと感じが悪いですが、おおよそ企業でのマネジメントも強化説に沿って行われているでしょう。では、望ましい行動をとらせるには、どのような報酬の与え方がよいでしょうか?

 

これは、連続強化と部分強化の問題です。連続強化とは、望ましい行動をとったらその都度、報酬を与えるというものです。この場合、報酬を与えなかったら、下手をすると、望ましい行動をとらなくなる恐れがあり、あまりお勧めできません。また、上司が部下の行動を四六時中見張っているわけにはいきませんから、現実的でもないでしょう。いつもアメで釣るわけにはいかないということです。

 

一方、部分強化とは、望ましい行動をとった後に、何回かに1回だけ(ランダムに)報酬を与えるというものです。部下にとっては、望ましい行動をとっても報酬を与えられない場合がありますが、だからといってやめてしまえば報酬を得られる機会を無くすので、望ましい行動をとり続けることになります。また、予期せぬ報酬は、報酬の魅力度を高めます。

良い行動を習慣づけるためには、部分強化のほうが望ましいとされます。

 

 

■ギャンブルの報酬の与え方が依存症を生む

 

話をギャンブル依存症に戻します。賭けるたびに報酬がもらえるわけではないので、ギャンブルは部分強化によるものです。よって、これまで述べたように、ギャンブルに対するモチベーションを高めてしまい、依存性となりやすいのです。

 

【参考】

『あなたの部下は、なぜ「やる気」のあるふりをするのか』釘原直樹著 ポプラ社

『モチベーション入門 』田尾雅夫著 日本経済新聞出版社

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雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断6月号」が発売されました。


6月号 


今回のテーマは、「本当に日本人は仕事の効率が悪くなったのか?――1人当たり生産性を上げるために最も必要なこと」です

 

1人あたり生産性を上げるためには、規制緩和や設備投資,法人税減税といった供給サイド(潜在総供給力)を改革すべきだという論調が多く見られますが、今回はそれが正しいのかについて検討します。あわせて現在の働き方改革の議論についても取り上げました。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。


努力の正当性

前2回で加入儀式が過酷であるほど、組織へのコミットメントを強めることについて触れました。この背景にあるのは、人は苦労して手に入れたものであるほど有難がるという性質です。

 

■努力の正当化

 

前々回、恥ずかしい思いをして討論に参加したグループと、そうでないグループでは、前者のほうが参加に対する満足度が高いという実験結果を取り上げました。これには、「苦労して手に入れたものを否定することは、その人にとって自己否定につながるからだ」ということの他に、もう1つ理由があります。

 

それは、人は努力して何かを成し遂げると、努力しないで同じ結果になった場合よりも、その対象に対する魅力が高まるという性質があるということです。

 

同じ高価な腕時計でも、お金持ちの方と貧乏人では、有難さが違うでしょう。購入に至るまでの努力が異なるからです。難関校の在校生や卒業生、官僚や大手企業の社員の方が、自分の組織に誇りをもつ理由も同様です。厳しい試験や選抜を経て所属を許されたわけですから、有り難さはひとしおです。さらにその中での競争に打ち勝った幹部ともなれば、なおさらエリート意識は高くなろうというものです。

 

 

■はじめに高いハードルを課す

 

さて、この努力の正当化をうまく利用できないものでしょうか?

 

企業の新人教育担当であれば、入社時研修にある程度、厳しいタスクを課したほうが会社への満足度が高まるかもしれません。現に厳しい入社時研修を課す企業がありますが、途中で脱落さえしなければ、参加者の意欲は高いように感じます。

 

またプロジェクトリーダーを任された場合も、メンバーの意欲を高めるために、最初の段階である程度高いハードルを設定するとよいでしょう。

 

 

【参考】

『あなたの部下は、なぜ「やる気」のあるふりをするのか』釘原直樹著 ポプラ社

 

 

 

加入儀式の効果②(カルト集団はなぜ自分たちの誤りを認めないのか?

前回、加入儀式は組織へのコミットメントを強めることについて触れました。その結果、所属する組織がどんなに非合理であろうと、ますます組織への関与を高めることになります。カルト集団の思想は、傍から見てどんなに滑稽であっても、所属メンバーはそれを頑として認めません。今回は、そんな例を取り上げてみます。

 

 

■加入儀式の効果

 

社会学者のフェスティンガーは、地元紙の奇妙な見出しを見つけました。

「シカゴに告ぐ、惑星クラリオンからの予言―大洪水から避難せよ」。

 

記事の内容は、霊能者を名乗る主婦マリオン・キーチが、ある惑星の「神のような存在」から、次のようなメッセージを受け取ったというものでした。「1954年12月21日の夜明け前、大洪水が発生して世界が週末を迎える」

 

キーチはすでにこの予言を友人たちに伝えており、その中の何人かは家族の反対を押し切って仕事を辞め、家を出て、キーチと暮らしていました。新聞記事が出た頃には、キーチは彼らの教祖的な存在になっていました。信者たちはみな、「世界が終わる直前、真夜中に天から宇宙船が現れ、キーチの小さな家の庭にやってきて、信じる者だけを救ってくれる」と信じ込んでいたのです。

 

フェスティンガーは2人の同僚とこのカルト集団に紛れ込むことに成功しました。キーチの祈りも虚しく、もちろん、その時が来ても大洪水も宇宙船もやって来ません。では信者たちは教祖に幻滅してカルト集団から離れていったでしょうか?答えは否です。

 

いつまでたって宇宙船がやってこないことに、最初は動揺していた信者たちですが、キーチの「みなさん、喜んでください!私とみなさんの祈りが通じました。大洪水は回避されました!」の一言で、事実の解釈を変えてしまったのです。実際、信者たちは、これまで以上に布教に熱心になったといいます。

 

 

■人は認知的不協和を解消しようとする

 

なぜ信者たちは事実をありのまま受け止めなかったのでしょうか?彼らは職を捨て、私財をなげうってこのカルト集団に参加していました。このことが一種の加入儀式として作用しました。そこまでして加入したカルト集団の誤りを素直に認めることができるでしょうか?認めることは自分そのものの否定であり、かなりの抵抗感があるはずです。

 

カルト集団に限らず組織の不合理な行動は、フェスティンガーが提唱した認知的不協和の理論から説明できます。これは、心の中に生じた矛盾を解消しようとする心理作用を示すものです。失敗を認めたくないばかりに、自分にとって都合が良い解釈をする、自分にとって有利な情報ばかり集めようとするというものです。

 

マフィアやヤクザなど反社会団体には必ずと言ってよいほど少々オカルトじみた加入儀式があります。体育会系では新入部員の洗礼があります。省庁や大企業の場合は、入省・入社の前の厳しい選考過程があります。さらに所属後も過酷な試練があり、それが組織への忠誠心を一層高め、自分と同一視するようになるのです。

 

加入儀式は組織の結束を高めるためのものなので、あながち不合理ではありません。しかしながら、それがあまりに内向きの志向になると大問題です。外部視点で見た客観性の確保が課題ですが、これは言うは易しでこれからも組織の課題となり続けるでしょう。

 

【参考】

『失敗の科学』マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

加入儀式の効果①

日大アメフト部の悪質な販促問題が連日、メディアを賑わしています。部活というと、まず思い浮かぶのが理不尽な加入儀式です。部活に限らず、会社、宗教団体、政治団体には必ずと言ってよいほど加入儀式があります。中にはそれがあまりに理不尽で非常識なものもありますが、そうであるほど組織メンバーの忠誠心は厚いように思えます。

 

 

■加入儀式の効果

 

心理学者のアロンソンとミルズの実験を紹介します。

 

彼らは学生たちを2つのグループに分け、「性の心理学」に関する特別な討論会への参加を与えると告げた。ただし、討論会に参加するためには、加入儀式を受けなければならない。

 

1つめのグループに課された儀式は、官能小説のセックスシーンを読み上げるという、学生にとって非常に恥ずかしいものであった。もう一方のグループの儀式は、辞書に載っている程度の性的な単語を読み上げるだけという軽めのものであった。その後、学生たちは討論会に参加し、そこでは事前に行われた討論の録音テープが流された。

 

この録音テープには仕掛けがあり、意図的に退屈な内容にしてあった。鳥の第2次性徴(オスに特徴的な羽や色)についてのダラダラした討論で、発言者は議題に関する下調べをしておらず、話し始めても途中で終わることが続いた。あまりのつまらなさで、普通なら参加したことを後悔するレベルだ。

 

テープが終わると、学生たちは討論の感想を聞かれた。まずさほど恥かしくない加入儀式を受けたグループは、「つまらなかった」「無責任だ」「発言者は準備くらいしろ」などと否定的な意見が相次いだ。

 

一方、非常に恥ずかしい儀式を受けたグループは、討論は刺激的で興味深いと評価した。発言者全体についても知的で感じがよいという印象を持ち、無責任なメンバーにも「予習をしてこなかったことを認めるとは正直だ」という肯定的な評価をした。

 

 

■加入が難しいほどコミットメントが高まる

両者の違いは加入儀式の過酷さです。過酷な(非常に恥ずかしい思いをした)グループは、それまでして参加した討論会がバカみたいにつまらなくてもそれを認めるわけにはいかなくなります。討論会への参加は意味がなかったと認めることは、「自分が愚かだった」と認めることになるからです。

 

このように加入儀式は人のあることへのコミットメントを強めることになります。クラブの入部、宗教的儀式、入社の儀式には、メンバーの組織へのコミットメントを高めるという狙いがあります。そしてそれが過酷で理不尽であるほど、効果があるのです。

 

そのことは自体は必ずしも間違ったことではありませんが、実験のように誤りを認めないということになればおおいに問題です。

 

【参考】

『失敗の科学』マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

 

 

交渉術のケースワーク④(解答)

交渉術のケースワーク4問めの解答です。

 

■タイム・プレッシャー戦術

 

タイム・プレッシャー戦術とは、相手との何気ない会話からデッドライン(締切)を探り出し、それを交渉に利用しようとするものです。この戦術を受けた方は、デッドラインが気になって冷静な判断ができず、合意したい気持ちが先行して、安易な譲歩をしてしまう可能性があります。

<例>
・帰りの出発時間が近づいてあなたが時間を気にし始めたところを見計らうように、本格的な条件交渉を始める。

・ほぼ合意したと思っていた条件を、その時点で急に変更する。

 

この戦術への対応策は、決めなければいけないというプレッシャーからいかに逃れるかです。「相手が示してきた条件がもし最初に提示されたら飲むか?」冷静に考えてみましょう。取引しないということ(ノー・ディール・オプション)も大事な選択肢です。

 

また、自分の期限を相手にしられないようにすることが大事です。

 

 

■相手の最後通牒をかわす回答

 

今回のケースでは、相手方は最後に「本日中にお答えいただけない場合には、御社との交渉は打ち切り、他社と進めさせて頂きます。」と最後通牒を出してきました。最後通牒をかわす回答としては、次のようなものがあります。


「これまで議論をしてきた点で、御社がこれ以上譲歩するのは難しいのは明白なようです。まず、他の点を話し合い、すべての条件が出揃った後で、もう一度この点に戻ってくることを提案したいと思います。」

「この契約をまとめるために必要な議論はしつくしたとお考えなのは、よくわかります。ただ、我々もまったく同じように感じています。だとすれば合意は近いのではないでしょうか。引き続き話し合いましょう。」


「ご不満なのはよくわかります。契約をまとめなければならないのに、合意に至っていないのですから。御社の考え方を、分かりやすくご提示頂けますか。どうして合意に至っていないとお考えですか。」

 

 

■相手の無理筋な要求への回答

 

相手が無理筋な要求をしてきた場合のかわし方も用意しておくとよいでしょう。


●相手の脅しがあまりに無理筋であることを分からせる
「他の皆様にも同様のお願いをしております」
「当社の規則でそのようになっております」

●「制約条件から考えると、その脅しを実行することは困難である」「利害から考えて、その脅しを実行に移すことは難しい」ことを分からせる

交渉術のケースワーク④(問題)

交渉術のケースワークの4問目です。

電機メーカーの技術担当役員であるDさんは出張で上海に来ています。中国との合弁会社設立の交渉で、すでに8回出張を重ねており、社長からは早く契約をまとめるよう発破をかけられています。今度こそ話をまとめるつもりで、部下数人と中国企業との会談に臨みました。

客先担当者:東京から何度も足を運んで頂いてありがとうございます。

Dさん:こちらこそ時間を取って頂きありがとうございます。

客先担当者:こちらにはいつまでいらっしゃるのですか?

Dさん:それが時間がなくて本日の夕方の便で帰らなくてはいけません。

客先担当者:それはお忙しいですね。ぜひ今日こそ合意までたどりつきましょう。

Dさん:ええ当社としても望むところです。

(5時間経過)

Dさん:そろそろ最後の詰めに入りましょうか?

客先担当者:さて、これまでお話していなかったのですが、我々から最後に1つ条件があります。御社の持つ半導体の技術ライセンスの使用を許諾して頂きたいのです。

Dさん:・・・そう急に言われましても。

客先担当者:本日中にお答えいただけない場合には、御社との交渉は打ち切り、他社と進めさせて頂きます。

Dさん:・・・仕方ありません。十分に配慮しましょう。



Dさんのどこがいけなかったのでしょうか?
できるだけ沢山挙げてください。
(解答は次回)

自分の企画を認めさせるため工夫⑤(人は何に影響を受けるか)

■社会的証明の原則

 

「人は行動するとき、または何かを決定するとき、他の人の行動を意識しながら決める」というものです。

 

お店でどれを買おうかどうか迷っている時に、店のスタッフから、「これが一番人気ですよ」などと言われれば、その商品を選ぶ可能性が高いでしょう。

 

また、役所等で面倒な手続きをしなければならないと言われて渋っていると、「みなさまにも同様のお願いをしております」と言われたら、従うしかないでしょう。

 

自分の企画案を通したいなら、意思決定権者に、「他社(あるいは一流企業)でも採用しているようですよ」などと言うといいでしょう。

 

 

■好意の原則

 

「人は、魅力的な人物や、自分と共通点がある人の言うことをきいてしまう」というものです。名前が同じ、出身が同じ、趣味が同じなど共通点がある人には好感を抱くはずです。

 

企画案を通したい立場であれば、日頃から意思決定権者と何らかの考え方の共通点(同意点)を見出しておきましょう。

 

 

■権威の原則

 

「専門家のいうことは聞いてしまう」ということです。これは広告でいわゆる専門家のコメントが載っていることをイメージすればわかると思います。

 

自分の企画案と同内容の書籍やメディア記事を探してみましょう。

 

 

■希少性の原則

 

「人は希少なものと認識したものに価値を見出す」ということです。「現品限り」「限定品」だと欲しくなるということですね。

 

企画案を通したい立場であれば、数量的な稀少性は打ち出しにくければ、時間的な稀少性(プレッシャー)を与えることもできます。たとえば、「今が最適なタイミング」「今しかできない」という打ち出し方です。

 

 

【参考】

『影響力の武器[第二版]』ロバート・B・チャルディーニ著 誠信書房

 

 

自分の企画を認めさせるため工夫④(人は何に影響を受けるか)

相手を説得するためには、「人は何に影響を受けるか」について知っておくとよいでしょう。

 

■人に影響を与える5つの要因

 

心理学者のロバート・B・チャルディーニによれば、人に影響を与える要因には次の6つがあります。

 

  返報性の原理

  コミットメントと一貫性の原則

  社会的証明の原則

  好意の原則

  権威の原則

  希少性の原則

 

■返報性の原理

 

返報性の原理とは、「他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情を抱くこと」です。

 

例えば、「贈り物をもらうとどこかでお返ししなければならないと思う」というのが典型例です。また、相手が譲歩すると、こちらも別の部分で譲歩しなければならないと思うというのもこの例です。営業取引で、相手の営業担当者に「納期面では譲歩するから(遅れてもいいから)、価格はあと10%下げてくれ」と要求すると、相手は断りにくいでしょう。

 

企画を通そうとする際には、意思決定権者に何か貸しがないか考えてみるのもよいかもしれません。あるいは企画案の些細な部分は譲歩して本筋の部分を押すということもあるでしょう。

 

 

■コミットメントと一貫性の原則

コミットメントと一貫性の原則とは、「人は自身の行動、発言、態度、信念などに対して一貫したものとしたい(あるいは一貫していると見られたい)という心理が働く」というものです。

 

たとえば、一度、「YES」と言ってしまったら、「YES」を通したいと思ってしまうといったケースです。これを利用(悪用)する立場としては、相手からの最初の「YES」に付け込み、おねだりをします。

 

例)価格のご協力ありがとうございます。ついでに後払いでお願いできますか?

 

企画を通そうとする際には、まずは意思決定権者が合意しやすそうな点を見つけることが重要です。一度、合意点を見つけてしまえば、あとの合意もしやすくなります。そのためには、まずはその企画の大義、言い換えれば経営課題から説明し始めることです。

 

企画の大義は、おおよそ「業務効率化」や「売上拡大」などおおよそ経営課題となっていることで、相手は否定しにくいでしょう。ここで相手の同意をとってしまえば、細部についても合意を得やすくなります。相手は大義で同意してしまっているので、仮に次の実行案で反対してしまうと前言(大義)を否定することになりかねないからです。

 

(つづく)

 

【参考】

『影響力の武器[第二版]』ロバート・B・チャルディーニ著 誠信書房

 

 

 

自分の企画を認めさせるため工夫③(心理的距離)

自分の企画案を認めさせるためには、自分と相手との間に存在する心理的な距離をつめる必要があります。

 

■自分と相手との間に存在する心理的な距離

 

自分と相手との間に存在する心理的な距離には、次の4つがあります。

 

  社会的距離(自分と他者との隔たり)

  時間的距離(現在と将来との隔たり)

  空間的距離(現在地と別の場所との隔たり)

  経験的距離(想像と実体験との隔たり)

 

 

■社会的距離

 

自分と相手とでは考え方、認識、利害が異なります。自分の企画を受け入れてもらうには、この社会的距離を埋める必要があります。そのためには相手の関心事項や利害をあらかじめ把握する、あるいは議論の中で相手に理解を示すことが求められます。

 

 

■時間的距離

自分と相手の時間軸が異なるケースはよくあります。たとえば自分にとっては早急に企画を通す必要があっても、意思決定権者である相手にとってはそれほど差し迫った問題ではなく、「まあ、考えておくから」で終わってしまうなんていうケースです。

 

この場合、自分の時間軸に相手を合わせることが求められます。たとえば、差し迫った問題であるという認識を持たせるような説明をする、企画案を実施するためには期限がある(今が絶好のタイミングである)ことを分からせるといったようなことです。

 

場合によっては、あなたが、スケジュールを設けて期限を明確にするようリードすることも必要かもしれません。

 

また、将来のイメージを思い描かせることも有効です。将来の成果を今の時点で具体的にイメージさせることで、実感を持ってもらうということです。

 

 

■空間的距離

 

自分と相手とが物理的に離れている場合です。人は物理的にも近い人に親近感を持つ傾向がありますから、この距離を縮めておきたいところです。

 

この場合は、相手に直接会いにいく、メールなどでまめに連絡するといったことになります。

 

 

■経験的距離

 

あなたにとっては、経験に基づいた企画案であっても相手にとっては単なる創造の産物でしかないということはよくあります。

 

この場合は、たとえば企画案の契機となった現場を相手にみさせることで、経験を共有することが大事です。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 02 月号「人を巻き込む技術」』ダイヤモンド社

 

 

自分の企画を認めさせるため工夫②

自分の企画を認めさせるための7つのポイントの続きです。

 

■適切なタイミングを捉える

 

適切なタイミングを捉えるためのポイントは、次の2つです。

 

  耳を傾けてもらえる最善のタイミングはいつか。

たとえばトレンドの波に乗ることや、外部の動きを活かすことはできるか。

  意思決定のプロセスの中で、自分のイシューを提示する最高のタイミングはいつか。

 

また、意思決定の最終期限を把握することも大事です。意思決定の期限が迫っているなら具体的な企画を提示する必要があります。逆に期限がずっと先で意思決定権者がまだ検討段階にあるときは、具体的な企画案の提示よりもオープンエンド(自由回答)型の質問が効果的です。

 

 

■他者を巻き込む

 

企画案の売り込みは1人よりも他者を巻き込んで進めたほうがうまくいきます。他者を巻き込むためのポイントは、次の3つです。

 

  自分の人脈の中で企画の売り込みに協力してくれる人は誰か。

どうすればその人を効果的に関与させられるか。

  行く先を阻む存在になりそうな人は誰か。

どうすればその人を説得して支持を得られるか。

  日和見主義の人は誰か。

どうすればその人に自分の企画の重要性をわかってもらえるか。

 

 自分の企画に関する利害関係者を把握するとともに、利害関係者はそれぞれ異なる利害を抱えていたりします。よって、それぞれの利害を把握してそれに対する答えを用意しておく必要があるでしょう。

 

 

■組織の決まりごとを遵守する

 

組織が意思決定の材料として好むデータの種類、彼らが好む報告の受け方、自分が提示する企画と似通った企画に対する彼らの支持・不支持の傾向などを把握することで、有効な提案をすることができます。

 

また、組織では公式のアプローチが有効なのか、非公式のアプローチが有効なのかを把握することも大事です。

 

 

■ソリューションを提示する

 

いよいよ最後に企画案を提示することになります。その際のポイントは実現可能なソリューションを提示しているかどうかにつきます。そしてそのソリューションは、経営課題と結びついている必要があります。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 02 月号「人を巻き込む技術」』ダイヤモンド社

自分の企画を認めさせるため工夫①

■自分の企画を認めさせるための7つのポイント

 

自分の企画をどうやって上司(あるいはさらに上の意思決定権者)に認めさせるかについては、悩ましいところがあります。提案を出せというので企画書を出したら、拒否されたなんていうケースはみなさんもご経験があると思います。

 

ミシガン大学ロススクール・オブ・ビジネスのスーザン J.アシュフォード教授とコーネル大学サミュエル・カーティス・ジョンソン経営大学院のジェームズ・デタート准教授によれば、7つのポイントがあります。

 

  売り込み方を工夫する

  イシュー(論点)の枠組みを決める

  感情をマネジメントする

  適切なタイミングを捉える

  他者を巻き込む

  組織の決まりごとを遵守する

  ソリューションを提示する

 

■売り込み方を工夫する

 

売り込み方の工夫のポイントは、「このイシューに関する相手のスタンスは何か」「相手が最も説得力を感じる、あるいは心を動かされることは何か」を把握することです。

 

自分の企画の提案先は、主に直属の上司かと思います。自社にとってメリットがあることなら企画は通りそうなものですが、実際には必ずしもそうなりません。それは、上司のメリットには、自社の経済的利益以外にも様々なことがあるからです。

 

<3つの利益>

①経済的利益

実質的な利益のことで、価格、納期、品質、支払条件などが該当します。

②過程についての利益

メンツを保ちたい、自己主張したい、尊重されたい、公平に扱ってほしいといった利益のことです。

③関係についての利益

相手と良好な関係を構築したいという利益のことです。

 

上司の関心事ことには何があるのか、優先事項は何かを探る必要があります。

 

 

■イシューの枠組みを決める

イシューの枠組みを決める際のポイントは、次のとおりです。

 

  そのイシューは自社の優先事項とどのように関連するか

  メリットをどのように説明するのが最もよいか

  注目されている他のイシューとどのように関連付けられるか

  組織にとっての機会をどのように強調できるか

 

自分の提案が、自社の優先課題と結びついていなければ、その提案が受け入れられることはないでしょう。たとえば顧客対応が優先課題の企業で、エンジニアがいくら技術提案をしてもらちがあかないといった具合です。

 

また、先に触れたように、上司の関心事項に沿うような提案の組み立て方をしたいところです。たとえば上司が「役員の期待以上の成果を上げて昇進をねらっている」ことに関心があるのなら、自分の提案を実行することで、それが叶うことをアピールすればよいでしょう。

 

 

■感情をマネジメントする

 

感情をマネジメントする際のポイントは、次の2つです。

 

  自分の感情を表現して、マイナスではなく、プラスの反応を引き出すにはどうすればよいか。

  相手の感情的な反応をどのようにマネジメントできるか

 

自分の提案に難色を示されると、どうしても感情的になりがちです。しかしながら、交渉に感情は御法度です。あくまで相手のポジティブな感情を引き出すように努めるべきです。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 02 月号「人を巻き込む技術」』ダイヤモンド社

 

破綻する日銀のコミットメント②

■金融政策のコミットメント効果

 

前回、人々の予想物価上昇率があがるとその半年から1年後に実際の物価が上がるということを取り上げました。「景気は気から」とはよくいいますが、まさに「物価は気から」というわけです。

 

では、人々の物価上昇率はどうすれば上がるのでしょうか?それは金融政策です。中央銀行(日銀)が量的緩和を行ってお金の量を増やせば、今後、必ず物価は上昇するだろうという予想が形成されます。

 

さらに中央銀行が「必ず物価は上昇させる」という強い決意を示せば、それは早期に実現します。逆に中央銀行のスタンスが曖昧であると、市場はそれを見透かし、予想物価上昇率が上昇しないこともありえます。強い決意とアクションがともなえば周りへの影響が大きくなるのは理解できます。

 

これはコミットメント効果といわれます。コミットメントとは、「自分が将来にとる行動を表明し、それを確実に実行することを約束すること」です。

 

日銀は201344日の黒田体制1期目の初回会合で「量的・質的金融緩和」を導入するとともに、物価安定目標の2%(消費者物価の前年比上昇率2%)を「2年」を念頭にできるだけ早期に達成するという強い決意を示しました。そして、前副総裁の岩田規久男氏は、「2年で物価目標を達成できなかった場合、辞職をする」といった旨の発言をして、2年という時期に対する日銀側の強い意志がうかがえました。だから、2013年には予想物価上昇率も実際の物価上昇率も上昇したのです。

 

逆に黒田体制以前の日銀は、口では「デフレを脱却する」と言いながら、達成時期の明示も具体的アクションもともなわず、市場からは完全に見透かされ、デフレ状態が放置されてしまったのです。

 

 

黒田総裁は腰が引けたのか?

 

ここまでくればもうお分かりだと思いますが、今回の日銀の金融政策決定会合で物価上昇率目標の達成時期を削除したことは、目標実現に向けてのスタンスが曖昧になったことを意味するのです。実際の物価は日銀のコミットメント以外の要因でも決まるので、物価は上がるかもしれませんが、少なくともマイナスに作用することは間違えありません。

 

このことは普通に考えても理解できると思います。「いついつまでにやる」と言っていたのが、「そのうちやる」に変わったら、普通はやらないだろうと判断されます。

 

総裁就任時には物価上昇率目標の実現に向けた強い決意を示していた黒田総裁ですが、2016年の中頃からどうも消極的な姿勢が目立ちます。会見でも暗に「追加の金融緩和はしない」ということをほのめかしています。

 

その背景には、国債のタマ不足が指摘されています。量的緩和(お金の量を増やす)ためには、国債を買う必要があります(買いオペ)。民間が持つ国債の購入代金をお金を刷って払うということです。しかしながら、民間の金融機関にも一定量の国債は必要であり、これ以上の国債を買えないというわけです。

 

国債のタマ不足であれば、国債の購入対象を拡大することが考えられます。たとえば現在の買いオペの中心である10年もの国債から長期国債まで対象を広げる、米国債など外債を買うといったことです。しかしながら、こうした購入対象の拡大は前例がなく、日銀内部の抵抗感は大きいのでしょう。

 

また、政府が新たに国債を発行するという手もあります。国債を発行して財政政策を行えば景気はよくなるし、追加の金融緩和もできるので一石二鳥なわけです。しかしながら、財務省出身の黒田総裁は、財政再建派ですので、政府の新規国債の発行には反対でしょう。

 

以上から、日銀の新たな金融政策はなかなか期待できない状況です。黒田総裁は「自分はやることはやったから後は様子見だ(そのくせ消費増税せよと物価上昇にマイナスの発言をしたりしていますが)」というスタンスなのかもしれません。

 

デフレ脱却まであと一歩の現在、良い意味で市場を驚かせる追加策を期待したいところです。

破綻する日銀のコミットメント①

■物価上昇目標の達成時期が削除される

黒田日銀総裁2期目がスタートし、新しい体制での初回の金融政策決定会合が427日に開かれました。現在の金融緩和は維持する一方で、これまで2019年度としていた物価上昇率目標2%の達成時期が削除されました。

 

日銀は201344日の黒田体制1期目の初回会合で「量的・質的金融緩和」を導入するとともに、物価安定目標の2%(消費者物価の前年比上昇率2%)を「2年」を念頭にできるだけ早期に達成するとしていました。

 

2013年度は順調に上昇していた消費者物価指数(コアCPI)も、消費増税の影響により大きく低下し、その間に達成時期は6回も延長されることになりました。

 

ちなみに20183月の消費者物価指数(前年同月比)は、総合:1.1%、生鮮食品を除く総合(コアCPI):0.9%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI):0.5%であり、2%には程遠い状態です。

 

 

■アベノミクスのねらいは何だったか?

 

アベノミクスの経済政策の基本は、緩やかなインフレ状態を目指すリフレーション政策です。

 

リフレーション政策とは、ケインズ型の総需要重視政策に、フィッシャー流の期待(予想)の効果を加えたものと理解されます。

 

後者は、人々が今後物価が上昇する(≒景気が良くなる)と考えれば、そのうち実際の物価も上昇に転じるという考え方です。人々は今後物価が上昇すると予想すれば、高くなる前にモノを買おうとするので、実需が上昇し、実際に物価が上がるというわけです。

 

人々が予想する今後の物価の上昇率を、期待(予想)インフレ率といい、期待インフレ率の上昇の半年から1年後に実際の物価上昇率も上昇することが統計的に確認されています。

 

ちなみに経済学のテキストでは、「実質利子率=名目利子率-期待インフレ率」(フィッシャー方程式)という形で紹介されますが、実際にはブレークイーブン・インフレ率(BEI)で算出され、「10年利付国債複利利回り(名目イールド)-10年物価連動国債複利利回り」で求められます。

 

4月時点でのブレークイーブン・インフレ率は0.594%ですから、実際の物価上昇率が2019年中に2%にまで達する見込みはほとんどないといえます。その意味で今回の金融政策決定会合で達成時期を削除したのは当然だし、金融緩和が維持されるのであれば大勢に影響がないという意見の方も多いと思います。

 

しかしこの達成時期の削除は、経済政策的には大きな意味を持つのです。

(つづく)

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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