fc2ブログ

弱いつながりの強さ②

ローカルブリッジ

 

前回触れたように、私たちの人間関係は「弱いつながり」です。「弱いつながり」では、ブリッジ(2つの点をつなぐ唯一のルート)が存在します。

 

「友人のAさんは、実は別の友人のBさんとも友達だった」とか「最近知り合ったCさんは、奥さんのお父さんの知り合いの息子だった」とかいったように私たちは多くの人と何らかの形でつながっています。下図は、こうした人間関係を擬似的に示したものです。

ローカルブリッジpng まずABの関係だけにフォーカスすると、破線の丸で囲まれたルートはブリッジのように見えます。しかしながら、ズームアウトすると、両者がつながるルートはそれ以外にも存在します(CDEなどを経由して外側を迂回するルート)から、厳密に言えばブリッジは存在しません。

 

一方、ABとで情報を伝達するためには、ABを直接結ぶルートを使ったほうが圧倒的短く、早く効率的です。これはネットワーク全体での情報伝播についてもいえます。上図で言えば、ABとをつなぐルートを活用することで、左右のルートから同時並行で情報を伝えることができるからです。

 

よって、このルートが使われるのが常態化し、やがてブリッジのように機能します。このようにネットワーク全体に情報を伝播させるためにブリッジのように機能するルートを、ローカルブリッジといいます。

 

 

強いつながりのネットワーク」と「弱いつながりのネットワーク」

 

実際の人間関係のネットワークには、弱いつながりも強いつながりもありますが、ここでは単純化して「強いつながりだけのネットワーク」と「弱いつながりだけのネットワーク」の2つを考えてみます。

強いつながり これまで述べてきたように、強いネットワークではブリッジは乏しくなります。上図では3人以上が互いにつながった、いわば「閉じた」三角形が多くある状態で重層的です。

弱いつながり 一方、弱いつながりのネットワークでは、ブリッジによって一辺が欠けたままの三角形がつながり合い、見た目でスカスカしています。

 

次回はこのうち弱いつながりのネットワークのほうが、幅広く・多様な情報が、遠くまでスピーディに伝播することを見ていきます。

 

 

【参考】

「ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 12 月号」ダイヤモンド社

スポンサーサイト



弱いつながりの強さ①

■親しい人からの仕事の紹介は期待できない!?

 

誰かの紹介で仕事を紹介してもらったという経験があるでしょう。ではその仕事は誰から紹介してもらったでしょうか?友人や近しい人から紹介してもらったというケースは、案外少ないのではないでしょうか?

 

グラノベッターは、ボストン郊外で就職先を見つけたばかりの若者54人に、就職の決め手となった情報をどのような人から得たかを質問調査しました。結果は、「頻繁に会う」相手から情報を得たのはわずか9人(17%)で、残りの45人(83%)は、「たまにしか合わない、あるいはほとんど合わない」相手から得ていました。同様の結果が得られた調査は他にもいくつかあります。

 

 

■弱いつながりの強さ

 

「接触回数が多い、一緒にいる時間が長い、情報交換の頻度が多い、心理的に近い、血縁関係にある」などのつながりを「強いつながり」、その逆を「弱いつながり」といいます。

 

就職情報や自分の仕事についてヒントとなる有益な重要など、自分にとって転機となりうるような重要な情報は、「強いつながり」によってではなく、「弱いつながり」によってもたらさせるということを示した理論に、「弱いつながりの強さ」理論があります。

 

SNSをやってる方が多いと思いますが、おそらくつながっている人の大半はちょっとした知り合いであって、そんなに親しいわけではないでしょう。友人・知人関係とは概してそういうものであるはずです。このような人のつながりや、それによって情報がどのように伝わるかを理論化したのが、「弱いつながりの強さ」理論です。

 

 

■ブリッジとは?

 

「弱いつながりの強さ」理論で、まず知っておいていただきたいのが、「ブリッジ」という概念です。ブリッジとは、「2つの点をつなぐ唯一のルート」のことです。

 ブリッジ 上図の左のネットワークは、ABをつなぐためにはCを介在するしかありませんから、ブリッジがあります。右のネットワークは互いを結ぶルートが2本ありますからブリッジは存在しません。

 

 

■強いつながりの形成要因

 

さてここでACCBが互いに弱いつながりであったとすると、左のネットワークの状態が維持されます。

 

一方、ACCBが互いに強いつながりであったとすると、ネットワークはやがて左から右の状態になり、ブリッジは存在しなくなります。理由は、以下の3つです。

 

まず、ACCBが互いに強いつながりで交流頻度が高く、平日の時間の80%を一緒に過ごすとしましょう。そうなると、ACがともにいながらBもいる確率は80%×80%=64%とかなり高くなり、結局ABも強くつながってしまいます。

 

次にCと親友関係にあるAは、同じくCと親友関係にあるBに対して親近感を持ちやすくなります。よって、ABは強くつながるのです。

 

さらに人は自分と似た人とつながりやすい傾向があります。ACが親友であれば、両者は似たことに関心がある可能性が高いでしょう。CBも同様です。よって、ABも同じことに関心がある可能性が高く、結果、両者はつながりやすくなります。

 

 

さて、ここまで強いつながりの形成要因について述べましたが、私たちの知人の大半は弱いつながりです。それは、多くの知人との関係では上記の3つが該当しないからです。それほど親しくないし、共通の関心もないし、いつも一緒に過ごしているわけでもない人たちと多くつながっているからです。

 

よって、先の左の図のように、ブリッジが存在することになります。次回は、私たちの人間関係の状態である「弱いつながり」について考えてみます。

 

【参考】

「ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 12 月号」ダイヤモンド社

 

雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断7月号」が明日発売になります。


2018年7月号 


今回のテーマは、「新たな市場の支配者プラットフォーム・リーダーとは何か?――GAFAに共通するネット社会の経営戦略」です。

 

 GAFA(グーグル,アップル,フェイスブック,アマゾン)の合計売上高は10年で7倍に急伸しており,すべて世界時価総額ランキングのベスト5にランクインしています。GAFAの企業の戦略について、プラットフォーム・リーダーシップの観点から論評しています。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。

 

貿易赤字は悪か?②

貿易赤字を問題にするトランプ大統領は経済学に音痴だといわれますが、実はビジネスマンとして自由貿易の利益はわかっているはずで、その真のねらいは別にあるとも言われています。1つは中間選挙対策ですが、それとは別に中国への牽制ということを指摘する識者もいます。

 

 

■輸入はGDPの要因ではなく結果

 

もし仮にトランプ大統領が経済音痴だったとしても、日本人がそれを笑うことはできません。なぜなら、メディアの報道を見ても、「貿易赤字に転落した」というさも貿易赤字が悪いかのような表現をしているからです。はっきりいって、マスメディアの報道は貿易というものを理解していないと思います。

 

前回示したように、GDP(国内総生産)を需要面からみると、次のようになります。

 

YCIG+(EXIM)・・・①

 

よって、確かに輸入(IM)が増えるとGDPY)は減少します。しかしながら、輸入はGDPの要因というより結果です。GDPが増えれば輸入が増えるのであって、輸入が増えたからGDPが減少したという見方はできません。

 

 

ISバランス論

 

経済学ではISバランス論というものがあります。先の需要面から見たGDPの式を再掲します。

 

YCIG+(EXIM)・・・①

(※GDPY、輸入=IM、輸出=EX、消費=C、投資=I、政府支出=G

 

一方、分配面からみるとGDPは次のように示されます。

 

YCST・・・②

(※S=貯蓄、T=税金)

 

式と②式を等号で結び整理すると、次のようになります。

 

(S-I)-(GT)(EXIM)

 

つまり、(民間部門の貯蓄超過-政府の財政赤字)が経常収支の黒字に等しくなります。逆に経常収支が赤字ということは、投資Iが貯蓄Sよりも大きいか、政府支出Gが租税Tよりも大きい(財政赤字)ことになります。

 

やはり前回の内容と同様、国内と投資が活発であれば貿易赤字になるのです。

 

 

貿易赤字は悪か?①

アメリカと他の先進国および中国との貿易摩擦が加熱している。なんとなくトランプ大統領のいっていることはむちゃくちゃな気がするのはわかるのですが、どこがおかしいか説明するのは意外と難しいかもしれません。

 

 

■輸入が増えるのは国内経済がよい証拠?

 

トランプ大統領が問題視しているのは貿易赤字ですが、経済学的貿易赤字が問題視されることはありません。先進国の多くが貿易赤字ですが、貿易赤字だからといって経済状態が悪いわけではありません。

 

むしろ貿易赤字は経済状態がよい結果と捉えることもできます。貿易赤字とは、輸入が輸出を上回ることです。そして基本的には輸入は国内消費と同じ動きをします。

 

国内の景気がよくて人々の所得が増えれば、消費活動が活発になります。消費活動の多くは国内で生産されたものに回るでしょうが、一部は海外で生産されたものに回るでしょう。これが輸入です。家計に限らず企業で考えても同様です。輸入(海外で生産されたものへの消費)は、国内の生産では追いつかない需要と考えることもできます。

 

 

■輸入を増やせば国内総生産以上にモノを買える

 

GDP(国内総生産)を需要面からみると、次のようになります。

 

YCIG+(EXIM)・・・①

(※GDPY、輸入=IM、輸出=EX、消費=C、投資=I、政府支出=G

 

CIG)は内需でアブソープションと呼ばれます。(EXIM)は貿易黒字に該当します。この式から、国内の総生産(Y)を超えて企業や個人が消費・投資活動(CIG)を行えることがわかります。内需が増えても、輸入(IM)がマイナスの形で作用するので、バランスがとれるからです。

 

言い方を換えれば、国内の消費や投資が活発になれば(国内総生産以上にモノを買いたければ)、輸入(IM)を増やさなければならない(貿易赤字になるしかない)のです。

 

 

【参考】

『経済学的思考のすすめ』岩田規久男著 筑摩書房

 

国債発行は将来世代へのツケ回しなのか?

ご承知のとおり、201910月に消費税率10%への引上げが予定されています。政府は増税後の消費の落ち込みを緩和するために、19年度と20年度の当初予算で景気対策を組む方針であると報道されています。

私は消費増税には断固反対です。個人的には、「わざわざ景気対策を行うくらいなら、最初から増税しなければよいのでは」と思ってしまいます。

 

 

■国の財政と家計を混同する愚かさ

 

よく「国債の発行は将来世代への借金のツケ回しだ」という声があります。テレビのアナウンサーやコメンテイターなどがよく言っていますが、これは最も初歩レベルの誤りです。

 

彼らに共通するのが、国の財政と家計を混同することです。企業はゴーイングコンサーン(将来に渡って事業を継続していくこと)を前提としますが、実際にかなりの確率で倒産・廃業する企業と異なり、国は究極のゴーイングコンサーンといえます。

 

家計であれば借金はどこかのタイミングで返済する必要があるでしょう。もし親の代で返済できなければ、子の代で返済する必要があります。

 

しかしながら国の場合は、永遠に続くので、どこかのダイミングで借金をチャラにする必要はありません。

 

 

■国債の発行は借金の将来世代へのツケ回しであると同時に遺産を残すこと

 

仮に現時点で政府が新たに国債を発行したとします。国債は確かに借金ですので、どこかのタイミングで償還されなければなりません。日本の場合、国債は日本で消化されるので(内国債)、その保有者も日本(の金融機関)ということになります。

 

内国債である限り、国債負担が将来世代に転嫁されても、将来世代は償還される立場ですから、その恩恵を受けることができます。

 

つまり国債の発行は現世代の負債であると同時に、将来世代の資産であるということです。国債の発行は借金の将来世代へのツケ回しであると同時に、遺産を残すことでもあるのです。

 

【参考】

『経済学的思考のすすめ』岩田規久男著 筑摩書房

 

自分の企画を認めさせるための工夫⑨(説得の技法2)

自分の企画をとおすためにプレゼンするとき、何に気をつければよいでしょうか。プレゼンでのポイントを示すものにFABEというものがあります。

 

Feature:本提案の特徴、概要説明

Advantage:優位性

Benefit:顧客便益

Evidence:提案を裏付けるデータ、実績等の裏付け・証拠

 

たとえば、顧客管理システムの導入をプレゼンする際には、次のようになります。

 

Feature (特徴):この顧客管理システムは、今使っているメールソフトと一緒に使える画期的なものである。

 

Advantage (優位性):今まで使われている顧客管理システムより簡易で操作性がよい。他のものより安い。

 

Benefit (顧客便益):担当者の顧客別の進捗状況について管理者が一目瞭然に把握できる。

 

Evidence(証拠):すでにライバル者で導入が進んでいる。上場企業の4割が導入している。

 

Feature (特徴)Advantage (優位性)は自然と盛り込むと思いますが、Benefit (顧客便益)Evidence(証拠)も忘れずにアピールしたいところです。

 

【参考】

『インバスケット的「根回し」仕事術』鳥原隆志著 祥伝社

自分の企画を認めさせるための工夫⑧(説得の技法1)

自分の企画をとおすためには、相手に同意してもらう必要がありますが、今回は同意の取り付け方について取り上げます。

説得には、功利的説得、規律的説得、情緒的説得の3つがあります。状況に応じてこの3つを組み合わせたり、使い分けたりすることになります。

 

■説得の方法

 

功利的説得とは、相手の利益やメリットを強調する説得のしかたです。

 

たとえば、「このシステムを導入することで業務効率が上がり、コストを30%削減できます」「この新サービスを展開することで、3億円の売上が見込めます」といったことです。

経済的効果が妥当であれば、相手は拒否することが難しいでしょう。

 

それ以外にも説得する対象者のメリットを強調する場合もあります。「この事業が成功すれば、部長の社内での評価が上がり、あとあとスムースなのではないでしょうか?」といったことです。

 

 

■説得の方法

 

規律的説得とは相手の規範や道徳観に訴えかける説得のしかたです。

 

たとえば「当社は経営方針として、顧客第一主義を掲げています。今回の私の提案はそれに沿うものだと考えられますが、いかがでしょうか?」「社長は年頭の挨拶で、従業員1人1人が積極的に提案して欲しいとおっしゃっていましたので、私からも提案させていただきます」といったように会社の理念や方針に照らし合わせて自分の提案が妥当であることを訴えます。

 

また会社の方針以外にも、説得する相手の規範に訴える場合もあります。「先日、部長は顧客の声を丁寧に拾うようおっしゃいました。私の提案はその結果です。」といった具合です。

 

人間はみずからの発言に沿った行動をとる傾向がありますから、相手の規範に訴えることは有効です。

 

 

■情緒的説得

 

功利的説得や規範的説得ではどうしても説得できない場合には、最後に情緒的説得を試みます。

 

情緒的説得とは、相手の感情の訴えかける説得のしかたです。

 

たとえば「かなりの時間を費やして企画を練りました。どうしてもこの企画を通したいのです。」「部長だけが頼りです。お願いします!」といった具合です。

 

単なる泣き落しと言ってしまえばそれまでですが、なんだかんだ最後は熱意で決まりますから、恥ずかしがらずに最後に付け加えておきたいところです。

 

 

■3つの技法を使い分ける

 

自分の説得がうまくいっていないなら、功利的・規律的・情緒的のどれか欠けていないか考えてみましょう。

 

また説得する相手によって、功利的・規律的・情緒的のどれを重視するかはことなります。たとえばロジカルな人物であれば、情緒的説得はかえって逆効果でしょう。よって、相手によって、組み合わせたり使い分けたりする必要があります。

 

【参考】

『インバスケット的「根回し」仕事術』鳥原隆志著 祥伝社

 

自分の企画を認めさせるための工夫⑧(根回し3)

■根回しの手順

 

自分の企画案を通そうと思ったら、まずは決定権のあるキーマンにアプローチすることを考えますが、その人が自分よりはるかに地位が高かったり、自分が苦手な人の場合は、キーマンに影響を与えるインフルエンサーに根回しを依頼することになります。

 

通常、企画の採用に当たっては、1人の決定権者が独断で決めることは希でしょう。よって、最初の個別のアプローチが済んだら、次の段階に移行する必要があります。それは、決定にかかわる人全員に企画情報を流すことです。

 

この際に注意しなければならないのは、全員に流すということです。もし漏れが生じると、「そんな話は自分は聞いてない」とあとから強硬に反対する人が出てきてしまうからです。自分の企画に反対することが予想される人物を最初から巻き込む必要はありませんが、ある程度の段階で話をしておかないと決定の場で徹底した反対勢力に回ってしまうリスクは避けたいところです。

 

最後にそれでも反対する人たちを黙らせるための環境を整備します。この段階で反対する人に説得を試みても無駄であることが多いです。なぜなら相手はすでに反対のポジションを取ってしまっているので、いまさら撤回することは難しいからです。よって、反対させずに黙らせることを主眼に置きます。たとえば、「○○さん、賛成頂きありがとうございます」といった共有メールを流すとか、「すでに多くの方に賛同頂きました」といった発言をそれとなくするといったことです。ただし、相手をさらに刺激しかねないので、あくまでさりげなく行うことがポイントになります。

 

 

■全体の2割の同意を取り付ける

 

働きアリの法則というものがあります。これは、「よく働いているアリ2割を間引くと、残りの8割の中の2割がよく働くアリになり、全体としてはまた2:6:2の分担になる」というもので、2:6:2の法則とも呼ばれ、どんな組織でも当てはまる事象のようです。

 

ちなみに、よく働いているアリだけを集めても、一部がサボりはじめ、やはり2:6:2に分かれ、逆にサボっているアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれるそうです。

 

話を戻すと、意思決定にかかわる人で真剣な人は全体のごく一部にすぎず、多くは日和見だったりします。最初から全員を口説き落とすのではなく、まず2割のキーマンの確保を目指すべきです。

 

 

【参考】

『インバスケット的「根回し」仕事術』鳥原隆志著 祥伝社

 

自分の企画を認めさせるための工夫⑦(根回し2)

■根回しの段階では、仮説としてラフ案の提示にとどまったほうがよい

 

自分の企画案を売り込む際には、どこから突っ込まれても反応できるように練りに練り上げたほうがよいと思われるかもしれません。しかしながら、それは最終的なプレゼンの段階です。

根回しの段階では、仮説としてラフ案の提示にとどまったほうがよいです。その理由は、次のとおりです。

 

前回述べたように、根回しする相手はこちらの提案を聞く準備ができていませんから、いきなり詳細プランを持ってこられても戸惑うだけです。根回しの目的は、相手に自分のプランを理解してもらい、味方になってもらうことですので、理解しやすいように情報量は最低限度にとどめるべきです。

 

次に根回しされたほうからすれば、自分の意見を少しでもプランに反映させようとします。よって相手の意見を反映させる余地を残しておくほうがその後の修正が楽になります。

 

また、こちらが予期しなかった思わぬ理由で提案内容が相手に却下される場合があります。たとえば予算があるという前提で業務改善案を提案したら、上司から来年度の予算が削られるという新たな情報を知らされた場合、企画案そのものが否定されてしまいます。雰囲気的に再提案のチャンスはほとんどないでしょうし、労力をかけた案が否定されれば、こちらとしても再提案する意欲を失ってしまいます。

 

いずれにせよ、相手の反応を事前に完全に想定することができない以上、根回し段階ではラフ案にとどめておいたほうが、その後に柔軟な修正ができてよいのです。

 

 

■相手に相談にのってもらうという姿勢が必要

 

これまで述べたように根回しにあたって重要なポイントは、「相手と良好な関係を築き、味方になってもらう」ことですが、そのためにはこちらの案を説明するという姿勢ではなく、相手に相談にのってもらうという姿勢が必要です。最初の段階での力関係では、相手のほうが上であることを忘れてはいけません。

 

相手に説得されたという印象を与えてはいけません。あくまで相手が自分の意思で判断したという印象を持たせるような工夫が必要です。

 

根回し段階で案を提示する際に、複数の案を提示するという手段もあります。肝心の部分は共通性を持たせた松竹梅という3つの案を提示し、相手に選んでもらうということです。相手に自分が主体的に選んだという印象を持たせることができます。

 

また、「ところで君ならどれを選ぶか?」と尋ねられた場合も「そうですね、私ならこの案ですかね」などとあくまで助言者として振舞うことが大事で、結論ありきに強すぎる主張は避けるべきでしょう。

 

 

【参考】

『世界標準のNEMAWASHI(ネマワシ)の技術』新将命著 CCCメディアハウス

 

 

自分の企画を認めさせるための工夫⑥(根回し)

会議やミーティング、あるいは上司に対して論理的なプレゼンテーションを行えば、自分の企画が通るかというと、そんなに甘くはないということはみなさんご承知のとおりです。意思決定者やキーパーソン、利害関係者への根回しが必要です。

 

 

■対象人数が少ないほど関心が高まる

 

自分の企画を上司に認めさせたいとします。上司に時間を作ってもらい、「○○という問題を解決するためにこうしたいのですが、どうでしょうか?」といきなり結論を示すのはお勧めできません。上司にとってはあまりに唐突すぎ、判断のための時間を稼ぐためにもおそらくまずは拒絶してみせる(あるいは否定的な態度をとる)可能性が高いからです。

 

交渉の鉄則として、まずは合意しやすいところから話を始めるということがあります。この場合は、「今の業務ではこういう問題があると思うのですが」「このままでは○○という問題が発生するように思えますが」などといったように問題の提起から始めるのです。

 

問題はたいていは抽象的で誰も否定しようがないものですから、合意は得やすいでしょう。この合意の過程で相手との関係性を深め、今後の支持を取り付けやすい環境を作ります。

 

 

■根回しはフェイストゥフェイスで

 

現在では多くの方が日常のコミュニケーションとしてeメールを使われていると思います。場合によっては、隣の席の人間にもかかわらずeメールでやりとりするといったような事態すらあります。

 

ではeメールを使用する理由はなぜでしょうか?おそらく自分の都合でメッセージを発信できる、相手との煩わしいコミュニケーションを避けられる、記録に残りあとあと面倒が生じた場合の証拠となる、一斉メールで手間が楽といったことでしょう。

 

しかしながら、こうしたことは目回しでは一切御法度です。根回しの目的は、合意形成をつうじて相手との関係を築くことです。自分都合で一方的にメッセージを発するだけでは関係性は築けません。また関係性を築くには1対1のコミュニケーションが不可欠です。さらに相手の言質をとるという姿勢で臨むと、相手から警戒され、合意を引き出すことは困難です。さらにいきなり長文のメールを送りつけられたほうからすれば、迷惑なだけです。

 

またよく言われるように、言語情報だけでは、内容を正しく伝えることは困難です。表情やジェスチャー、そして柔軟なやりとりをつうじてはじめて正しい真意が伝わるのです。相手が遠隔にいないかぎりは、根回しは必ずフェイストゥフェイスで行うべきです。

 

【参考】

『世界標準のNEMAWASHI(ネマワシ)の技術』新将命著 CCCメディアハウス

 

対象人数が多いと関心を失う

■対象人数が少ないほど関心が高まる

 

「1人の死は悲劇だが、100万の死は統計に過ぎない」

 

旧ソ連の独裁者、ヨシフ・スターリンが言ったとか言わなかったとかされる言葉ですが、確かに私たちは対象の人数が多くなると、1人1人への関心は薄れ、単なる集合やデータとしか見なくなる傾向があります。

 

アメリカの心理学者フェザーストーンハウによる実験を紹介します。

 

「ザイールの難民キャンプでは水が不足していて、緊急の資金援助が必要になっている。その援助があれば、ある程度の水が確保され4500人が助かる。そのような事情があるので寄付をしてもらえないか」

 

難民キャンプの規模が1万1000人と被験者に伝えた場合と、25万人と伝えた場合、前者のほうが寄付の意思を示した人の割合が大きかったそうです。助けられる人数が同じであるにもかかわらず、母集団の人数が少ないほうが援助率が高かったのです。

 

同じような実験はいくつかあります。「小児ガンの子供を救うために30万ドルが必要なので寄付してもらえないか」とたずねた実験では、子供の数を8人とした場合よりも、1人とした場合のほうが、寄付に応じる傾向が強かったそうです。

 

 

■できるだけそれぞれの対象を具体化する

 

対象人数が少ないほうが共感を得やすいのは、1人1人を具体的にイメージしやすいからでしょう。テレビのワイドショーを見ていると、特定の事故の被害者に焦点があたり、同情を誘う演出がなされます。たとえば井戸に落ちた小さい子供や、隙間にはまって出られなくなった犬に対し、私たちは全力で助けて欲しいと思ったりします。

 

しかしながら、その一方で、もっと大きな問題である子供の貧困問題やペットの虐待問題に関心を払っている人はあまり多くはないのではないでしょうか?

 

対象人数が多くなると、具体性が薄まり、関心が弱まるという性質は、組織の管理や接客の上で、十分留意したい点です。従業員や顧客を1つの集団としか見ない結果、従業員の本音や顧客の嗜好を読み間違えるリスクがあります。できるだけそれぞれの対象を具体化することが求められます。

 

 

【参考】

『あなたの部下は、なぜ「やる気」のあるふりをするのか』釘原直樹著 ポプラ社

 

匿名の提案制度は効果があるか?

社内で遠慮なく意見や要望を言ってもらうために、匿名の提案制度を設けているケースがあります。たとえば提案箱を設置したり、経営陣に直接コンタクトをとるルートを設けたりするといったものです。なんだか目安箱のようでよさそうに思えますが、実際に効果が上がっているケースは少ないのではないでしょうか?

 

 

匿名の提案制度の問題点

 

匿名の提案制度の問題点は3つあります。1つは、匿名を認めるとむしろ自由に話すことのリスクが強調されてしまうということです。考えてみれば当たり前ですが、その会社は個人が自由に意見を発言しにくいので、名前を伏せてでも提案させる環境が必要になるのです。

 

2つめは、匿名を認めると魔女狩りが始まりかねないということです。匿名のネガティブな意見が出ると、必ず誰が言ったのか犯人探しが始まります。意見を言った本人は、かなり居づらくなるでしょうから、発言を控えるようになります。

 

3つめは、問題提起した本人の身元を伏せたまま、その問題に対処することは難しいということです。問題への対処にあたっては、深刻度や原因を探り調査する必要があります。当然ながらその問題に一番熟知しているのは問題を提起した本人なはずですが、彼が名乗り出ないで第三者だけで問題を対処するには限界があります。

 

 

■本音の意見を引き出すためには?

 

部下の本音の意見を引き出すためには、結局のところ、上司が部下の立場に降り立って「たずねる」しかありません。

 

上司が自らの執務スペースやデスクから離れ、日常的に現場をまわり、現場の社員と会話することを「歩き回るマネジメント」といいます。上司のテリトリーでは部下は遠慮してしまいますから、部下のテリトリーで話し合うことが大事です。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 07 月号 組織の本音』ダイヤモンド社

 

韓国経済に見る左翼的経済政策の効果

日本の左翼政党の経済政策の主張は、「金融緩和反対」「企業より労働者・消費者優遇」です。経済政策の効果を検証するには、「川を上り、海を渡る(過去や海外の事例を検証する)」ことが最もよいでしょう。

今回は、エコノミストの安達誠司氏による韓国経済の分析を使いながら、リベラル経済政策の効果を検証してみたいと思います。安達氏は、トランプ政権後のアメリカ経済の予測、BREXIT後のイギリス経済の予測、今年初頭の2回の株価クラッシュ、日本の物価推移の予測を的確に当て、個人的には最も信頼感のあるエコノミストです。

 

 

■文政権の経済政策

 

ご存知のとおり、韓国の文在寅政権はかなりリベラル寄りの政権で、経済政策を財閥優遇から、労働者に直接恩恵をもたらす政策に舵を切りました。目玉は次の3つです。

 

1)福祉・雇用に財政支出を傾斜配分(2018年度予算15兆ウォンのうち4割程度を配分)

2)公務員数の増加(5年で81万人の雇用増が目標)

3)最低賃金の引き上げ(2020年までに1万ウォンまで引き上げる)

 

韓国の1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比1.0%増加していますが、内容は半導体関連の輸出とそれに伴う設備投資のみに頼った形であり、国内消費は低調なままで、総じてよくない状態です。

 

 

■裏目に出た雇用・福祉政策

 

韓国では、不況期の景気下支えを主に公共投資によって行ってきましたが、文政権ではこれを一気に削減し、雇用・福祉関連支出への配分が大幅に拡大されました。またそれまでは概ね7%程度の増加であった最低賃金を、2018年には前年比+16.4%の大幅に引き上げ、今後も目標である1万ウォンを目指して同程度の引き上げが予想されます。また同時に法人税の22%から25%への引き上げや、週労働時間の短縮の要請も行っています。

 

その結果、どうなったか?韓国の3月の完全失業率は4.0%と上昇し、雇用環境は悪化しています(4%という失業率はリーマンショック後も1回つけただけ)。特に、15歳から29歳までの若年失業率は9.7%にも上っています。人件費の上昇により、企業が採用を抑制し始めたのです。

 

 

■緊縮に向かう韓国の金融政策

 

韓国の中央銀行(Bank of Korea)は、昨年11月に利上げを行い(1.25%→1.50%)、金融政策は緊縮気味です。その結果、韓国の通貨ウォンは、対ドルで5%強も上昇しました。

 

韓国は輸出主導の経済構造です。輸出依存度はGDP比で55%弱であり(日本は15%弱)、通貨高は経済にモロに影響を与えます。

 

緊縮気味の金融政策は、先に述べた雇用・福祉重視政策と相まり、財閥企業の海外移転(国内空洞化)を促しており、雇用環境は、今後、ますます悪化することが予想されます。

 

 

■全体のパイを増やすことは考えない愚かさ

 

文政権と日本の左翼政党・メディアと共通しているのが、理念先行で、実際の経済の波及経路や効果などの検証がほとんどないということです。また、マクロ経済をどうもミクロ的な視点でのみ語り、「労働者の利益を上げるためには企業から奪ってくるしかない」という視野狭窄を起こしています。

 

マクロ経済は、「まず全体のパイ(GDP)を増やしてから、次に分配(企業、労働者、政府)を考える」というのが基本ですが、個々のプレイヤーの分配のみを考えているので、結果的に全体のパイが縮小するという愚を犯しているのです。

 

 

【参考】

現代ビジネス20180531『韓国政府の「誤った経済政策と景気停滞」が日本に教えてくれること』安達誠司

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR