さて、ここまで「弱いつながり」のネットワークのほうが、幅広く・多様な情報が、遠くまでスピーディに伝播することを見てきました。では「強いつながり」にメリットはないのでしょうか。
■安定産業では「強いつながり」が重要
「強いつながり」は、両者の間に信頼関係があるということです。そして信頼関係が様々なメリットを生みます。
たとえば、「知の深化」があります。イノベーションを実現するためには、「弱いつながり」によってもたらされ一度組み合わされ「潜在性がある」と見込まれたアイデアが、収益化のために深堀される必要があります。
本ブログの「弱いつながりの強さ④」で、カーネギーメロン大学のクラッカードとトロント大学のロウリーの、半導体メーカー66社による132のアライアンスの調査を取り上げました。その結論は、「共同開発・技術ライセンスなど、両社のコミットメントが弱くて済むタイプの提携を多く持つ企業ほど、事後的な利益率を高める傾向がある」ということでした。
彼らは同時に鉄鋼業界の企業も同時に調査しており、「鉄鋼産業では、むしろ合弁事業など『強いつながり』のアライアンスが豊かな企業のほうが、事後的な業績が良いことを明らかにしています。
変化が激しく、技術の陳腐化も速い半導体産業では、企業には知の探索が求められており、この場合、足の長い弱いつながりをいかに多く持つかが重要です。一方、鉄鋼産業では相対的に技術進歩のスピードが遅く、したがってより知の深化が求められますから、「強いつながり」が求められるわけです。
■「強いつながり」は実行面で効果を発揮する
「強いつながり」が求められるのは、実行の局面です。新たに生まれたアイデアは実行されてこそイノベーションになります。
マーカス・バエアーの米農産加工品企業のスタッフ216人を対象にした調査では、「社内で生まれた創造的なアイデアが実行されるには、その人が社内で強い人脈を持っている必要がある」という結果を得ています。
一般に創造的なアイデアであるほど、社内で却下されやすい傾向があります。他の人には理解できないからです。よって、意思決定層に上がる前に企画はボツになります。
しかし、もし企画書を上げる立場の人が社内に強い人脈を持っていれば、それは信頼できる仲間が多くいるということであり、その人脈を活用して企画を上げやすくなります。
さらに企画が通った後に実行に移す段階では、社内の広範な協力を取り付ける必要がありますが、ここでも強い人脈が活きてきます。
■「強いつながり」は暗黙知を伝える
知識には暗黙知と形式知があります。端的に言えば、暗黙知とは言語化しにくい情報でコツやノウハウの類です。一方、形式知とは言語化できる情報で、いわばマニュアル化できる情報です。
信頼感に基づいた「強いつながり」では、暗黙知を伝えることができます。ツーカーの間からですから、阿吽の呼吸で様々なことを伝えることができます。
一方、「弱いつながり」では、暗黙知の伝達はほとんど無理で、形式知しか伝えられません。SNSで伝えることができる情報はたかがしれています。文字数に限界がないメールでも同様です。
■「強いつながり」と「弱いつながり」の両方が大事
「強いつながり」と「弱いつながり」のどちらかが大事ということはありません。結局のところ、両方大事なのです。
ただし、組織や個人が置かれている状況によって、「どちらを重視するか・強化するか」は変わってきます。たとえば、日本企業は相対的に「強いつながり」を重視してきましたから、今後は「弱いつながり」を強化すべきでしょう。また、技術変化が激しいハイテク企業や、流行変化が激しいアパレルなども同様です。
【参考】
「ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号」ダイヤモンド社