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顧客価値を考える⑧(ジョブ理論2)

■顧客にとっての価値を考える際の仮説のポイント

 

前回、触れたように、ジョブ理論では、「顧客は自らのジョブを片付けるために商品を雇う」という考え方で、顧客にとっての価値を考えていきます。クリステンセン教授は、顧客にとっての価値を考える際の仮説のポイントとして、次の5つ挙げています。

 

   「片付けけるべき用事」があるか?

   消費が行われていない領域はどこか?

   どのような次善策が編み出されているか?

   避けたいと考えているものは何か?

   顧客が編み出した、既存商品の驚くような使い方はどのようなものか?

 

 

■「片付けけるべき用事」があるか?

 

商品やサービスのイノベーションの多くが失敗するのは、いくら売り手側が新しいものを作り出しても、買い手側に「片付けるべき用事」がないことです。「現状の製品ではこういう不都合がありますが、この製品ならその不都合を解決できます」といったところで、そもそも買い手側が不都合がなければ、その製品は売れません。

 

またテクノロジー優先で商品やサービスを開発した場合も、同様です。新規性のあるテクノロジーを盛り込んだ商品であっても、顧客側にそれを使って解消する不都合がなければ誰も買わないでしょう。

 

 

■消費が行われていない領域はどこか?

 

これまで相手にしていなかったターゲット層に注目するということです。たとえば大学であれば、大学生以外に社会人やシルバー世代にも対象を拡大するということです。

 

 

■どのような次善策が編み出されているか?

 

顧客が1つのジョブについて、いくつかの策を用いてなんとかこなしているというケースがあります。それをワンストップで解消できれば、付加価値の高い商品・サービスになります。

 

アマゾンを例にすると、それまでの「欲しいテーマの本を探す」「本屋に行く」「本屋で本を見つける」「購入して持って帰る」を1つにまとめているといえます。

 

 

■避けたいと考えているものは何か?

 

日々の生活の中には、やらずに済むにこしたことはないジョブがあります(ネガティブな用事)。日用品・消耗品を買いに行く、クリーニング屋に行く、銀行振込にいく、待ち時間をすごすなど、どうせなら省きたいことはいろいろあるでしょう。IOTの進歩で、これまではやるのが当たり前と思われていたネガティブな用事が解消されていますが、まだまだあるはずです。

 

 

■顧客が編み出した、既存商品の驚くような使い方はどのようなものか?

 

ユーザーは、ときに売り手の想定とは異なる用途で商品を使っています

 

・ファブリーズは、はじめ衣料用消臭スプレーとして販売したが、部屋の臭いを気にする人たちが使っていた。

・マスキングテープは、工事用用途であったが、色が多彩で剥がれにくいので、アート目的にも使われている。

・乳幼児用に販売した紙おむつは、意外と高齢者も使っていた。

などなど

 

ユーザーの行動を観察することで、新たな顧客価値の提案に結びつけることができます。

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017 03 月号(顧客は何にお金を払うのか)』ダイヤモンド社

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顧客価値を考える⑦(ジョブ理論1)

■顧客はなぜその商品を買うのか?

 

顧客は商品そのものが欲しいわけではなく、商品から得られる便益がほしいのだということは以前から言われてきました。

 

マーケティングの初期の学者であるセオドア・レビットの名言に、「顧客はドリルではなく、穴を欲している」というものがあります。これは、商品そのものではなく、顧客のニーズに着目する必要性を訴えるものとして、つとに有名です。

 

マーケティングでは、ニーズとは「必要性」であり、ウォンツとは「欲求」」であると定義されます。

 

たとえば、「夕方、お腹がすいたので空腹を満たしたい(ニーズ)。だからコンビニで菓子パンを買う(ウォンツ)。」といった具合です。

 

さて、さらっと読めば何も違和感がない内容ですが、よく考えるときちんとした説明ではないことがわかるでしょうか。空腹を満たしたいのなら、別に菓子パンでなくても弁当でもインスタント食品でもおにぎりでもなんでもよいはずです。他のものではなく、菓子パンを選ぶ何らかの理由があるはずです。

 

ニーズは、顧客にアンケートで聞けばわかりますし、菓子パンの販売実績はPOSデータで把握できます。しかしながら、ニーズとウォンツの間には隔たりがあります。商品を売るためには、マーケターが「なぜ顧客はその商品を買うのか」理解する必要がありますが、顧客へのヒアリングやPOSデータでは、顧客がその商品を買う真の理由がわからないのです。

 

 

■ジョブ理論

 

ハーバード・ビジネススクールのクリステンセン教授は、顧客の便益を考える上でより包括的なコンセプトであるジョブ理論を提唱しています。最大のメッセージは、「顧客は自らのジョブを片付けるために商品を雇う」ということです。

 

・ジョブ(顧客が片付けるべき用事)とは、特定の状況で人あるいは人の集まりが追求する進歩である。

・ジョブは機能面だけでとらえることはできない。社会的および感情的側面も重要であり、むしろこちらのほうが機能面より強く作用する場合もある。

・ジョブは日々の生活の中で発生するので、その文脈を説明する「状況」が定義の中心にくる。イノベーションを生むのに不可欠な要素は、顧客の特性でもプロダクトの属性でも新しいテクノロジーでもトレンドでもなく、「状況」である。

 

顧客のジョブを正しくとらえるためには、顧客へのヒアリングやデータ解析ではなく、エスノグラフィー(顧客の行動観察調査)が必要になります。

 

先ほどの「コンビニで菓子パンを買う」という行為をとってみても、買う前から買ったあとまで行動観察をすると「空腹である」「就業時間中で早く食事を済ませたい」「仕事をしながら食事したい」「近くにコンビニがある」「本当は菓子パンは飽きているので食べたくないが仕方がない」「お金をかけたくない」など様々な背景が観察できるはずで、その中に顧客価値提案の新たなヒントがあるのです。

 

 

【参考】

『ジョブ理論』クレイトン M クリステンセン、タディ ホール、カレン ディロン著 ハーパーコリンズ・ ジャパン

セミナーのご案内(チームマネジメント)

今日はセミナーのご案内をさせて頂ければと思います。

大手製造業を中心に研修事業やビジネスセミナー、ビジネス交流会を手がける一般社団法人企業研究会様主催で、10月2日にセミナー「『チームマネジメント』のポイントと実務」を開かせて頂きます。

 

一般社団法人企業研究会ホームページ

https://www.bri.or.jp/seminar/104847

 

プロジェクトマネジメントやファシリテーションのセミナーは多々ありますが、組織心理面に着目して一味違う内容になっています。また、チームビルディングというと、「民主的に決めよう」とか「みんなで意見を出し合って納得するように決めよう」とか、とかく理想論になりがちで、イマイチ実態に合わなかったりします。本セミナーでは、実践的で現実的なすぐに使えるノウハウに重点をおいてお話します。

管理職の方、管理職候補の方などチームや複数のメンバーを束ねてお仕事なさる機会がある方には是非聞いて頂きたいと思います。

機会がございましたら、宜しくお願い致します。

 

テーマ:

『チームマネジメント』のポイントと実務

 

日時と場所:

20181002(火曜日) 13:3017:00

企業研究会セミナールーム(東京・麹町)

 

プログラム:

<開催にあたって>

   企業価値向上に向けたイノベーション創出や、問題・課題解決の手段として、チームビルディングやプロジェクトマネジメントへの関心が高まっています。しかし、単にメンバーを集めて自主性に委ねれば良いアイデアが生まれ、成果を生むわけではありません。

   本セミナーでは成果が出しにくいチームの特徴を例に挙げながら、主に「良い意思決定ができるための環境整備」「チームの推進力向上」「予測のできない変化への柔軟な対応」等について、すぐに使える知識とスキルを習得していただきます。

   これからプロジェクトを任される若手リーダー、管理職候補の方はもとより、チームビルディングやプロジェクトマネジメントへの関心がある方にもご受講いただければと存じます。

 

<プログラム>

1.成果が出ないプロジェクトの理由と課題

2.プロジェクト・チームを組織する

      (1)チームの人選

      (2)プロジェクトのプランニング(5WIHSMART

3.チームの意思決定

      (1)「決め方」のルールの決定

      (2)意思決定の原則の理解

      (3)メンバーの知恵を引き出すための前提条件

      (4)チームの意思決定の特徴を理解する(集団浅慮、グループシフト)

      (5)ブレインストーミングの問題点と課題

      (6)メンバーの知恵を引き出すための工夫(自由な意見表明のための環境整備)

               ※ケーススタディを通じて学びます。

4.プロジェクトの推進

      (1)仮説検証アプローチ

      (2)メンバーの動機づけ(メンバーの手抜きをどう防ぐか)

      (3)リーダーのコミュニケーション

      (4)プロジェクトの推進力(スモールウィン)

      (5)社内支援の取り付け(価値創造型・価値交換型交渉)

               ※ケーススタディを通じて学びます。

5.プロジェクトの進捗管理

      (1)プロジェクトの進捗が遅れる理由

      (2)マイルストーンの設定

      (3)状況の変化への対処(シナリオプランニング)

      (4)状況の変化への対処(リアルオプション)

               ※ケーススタディを通じて学びます。

 

受講料:

会員:32,400円(本体 30,000円)/一般:35,640円(本体 33,000円)

 

 

サービスの提供過程を整理する(サービス・ブループリント)

■サービスの提供過程を整理する

 

サービスの提供過程のどこかに顧客が不満を感じるポイント、非効率なポイント、不必要なポイントがあります。こうしたポイントを発見するためのツールとして、サービス・ブループリントがあります。

 

サービス・ブループリントとは、フロントステージ(顧客から見える物理的環境)とバックステージ(顧客から見えない物理的環境)におけるサービス行為の構成要素を図式的に表現したサービス全体の設計図のことです。


サービスブループリント 作成にあたっては、顧客、サービス提供者、顧客とサービス提供者との相互作用、サービス提供者間での相互作用、フロントステージにおける物的証拠、バックステージにおけるプロセスを整理します。

 

 

■提供過程を「見える化」し改善につなげる

 

サービス・ブループリントにより、企業は、どのようなサービスを提供すべきか、そのためにどのような生産・提供プロセスを構築すべきかを理解することができます。

 

上図の花屋の例で言えば、生産性を高めるためには、顧客と相談しながら花・リボンを選択し花束を作るのではなく、顧客自らが花を選択するようにする、あらかじめ花束を作っておき、その中から顧客が適当に選択する、カードの付与を省くなどを検討できるかもしれません。

 

一方、顧客満足を高めるためには、リボンのみならず、花かご、ボックスなど多様なラッピング用品のうちから選択できるようにするといったことを検討します。

 

工場の生産工程にあたっては、物の流れ線図といったモノが作られる過程を図で表して改善を検討しますが、サービス・ブループリントはこれと同じ発想です。改善にあたっては可視化(見える化)を行うことが有効です。サービスの流れを見える化することで、スタッフ間で認識を共有し改善につなげていきます。

 

 

【参考】

『現代マーケティング論』武井寿、岡本慶一著 実教出版

サービス業のコスト戦略(顧客にやってもらう)

■セルフサービス

 

サービス業は製造業と異なり、人が提供することが多いので、どうしてもコストが割高になります。そこで考えられるのが、サービス提供の一部を顧客に代行してもらうというものです。

 

典型的なのがセルフサービスです。スーパーマーケットも、もともとは手間がかかるスタッフの応対をやめて、顧客が商品を探し選んでもらうということでコスト削減を行うというねらいがありました。現代では、顧客がネット上で購入手続きや予約をすることが多いですが、これも一種のセルフサービスです。

 

下手にスタッフに応対してもらうと、かえって時間がかかったりしますし、スタッフとの会話が煩わしいということもあるでしょう。セルフサービスによってコスト削減と同時に顧客の不満の解消につながる場合もあります。自社のサービスでセルフサービスの余地がないか検討の価値はあります。

 

 

■サービスの顧客参加

 

さて、顧客にサービス提供の一部を担わせるということには、顧客の満足度を高めるというねらいも期待できる場合があります。

 

たとえばレストランのバイキングで自分が食べたい料理を取ってくることは、注文や配膳を顧客が担っていることになります。オーダーメードのスーツを作る際に、生地やボタンなどを選ぶこともスーツ製作の一翼を顧客が担っていることになるでしょう。ネット上でファブリック製品やスニーカーを好みに合わせカスタマイズするのも同様です。

 

一部のアパレルなどで見られますが、人気商品のコンテストを行ったり、顧客にデザインを持ち込ませたりすることは、商品企画の過程に顧客を参加させていることになります。

 

こうした活動を「サービスの顧客参加」といいます。サービスにかかわることで、サービスのカスタマイズが可能になり、かかわりが増えることで顧客の満足度が高まります。これは、単なるコスト削減で行われるセルフサービスとは趣旨が異なるものです。

 

自社が行っているサービスの提供過程のどこかに、もっと顧客を関与させて満足度を上げることができないか検討するのもよいでしょう。

 

 

【参考】

『現代マーケティング論』武井寿、岡本慶一著 実教出版

顧客価値を考える④(属性マップ2)

前回に引き続き、属性マップを取り上げます。

 

■属性マップの作成

 

属性マップでは、自社のサービス水準と同業他社(あるいは業界水準)のサービスの質を評価して書き込みます。下はIKEAの例です。


属性マップ②IKEA 

仮に自社が業界標準と比べて、顧客が重視するサービス要素について劣っていたらどうすればよいでしょうか(上手の下半分の破線囲み部分)。1つは、劣っている要素を強化するということになります。

 

 

■新たな顧客価値を創造する

 

そしてもう1つは、自社が既に高い水準となっているサービス要素を前面に打ち出して、顧客が重視する要素を変えてしまうということです。

 

従来、家具店に求める顧客の要素は、家具の耐久性、設置の容易さ、販売員の説明、店舗の立地であったと考えられます。こうした要素について劣位にあるIKEAは、新たな顧客価値を提案することにしたと考えられます。すなわち「室内のレイアウトを変化する力」「いつでも好きな時にインテリアを変えられる喜び」「罪悪感やもったいないという意識にとらわれずに、家具を買い替える自由」「楽しい買い物体験」というこれまでの家具店にはない顧客価値を提案したということです。

 

新たな顧客価値を提案する際には、従来重視されていた要素については思い切って目をつぶる必要があります。前回触れたように、並外れたサービスを提供したければ、いくつかの要素で意図的にサービスの質を落とすことが必要です。

 

【参考】

『顧客サービス戦略』フランセス・フレイ、アン・モリス著 日経BP

顧客価値を考える③(属性マップ1)

■属性マップ

 

サービス企業が顧客から支持を得るためには、第1に顧客価値の提案を考える必要があります。その際に利用できるツールが、属性マップです。

 

属性マップは、下記のように縦軸に「主だったサービスの要素」を、標的とする顧客にとって優先度が高い順に並べ、横軸に「提供するサービスの質」(例では5段階評価)をとります。下記は小売業を例にしたものです。


属性マップ① 企業には2つの選択肢があります。まずは「A;中庸パターン」です。すべてのサービス要素をほどほどに満たすというものです。失点はありませんが、これといった特徴がなく、競争が激しい場合には埋没するおそれがあります。2つめは「B:メリハリパターン」です。業界水準よりも優れている要素もあれば、劣っている要素もあります。メリハリがある分、特徴が打ち出せます。

 

※上の図はあくまで例で、小売業のメリハリの理想ではありません。

 

 

■メリハリをつける

 

顧客から選ばれるためには、どこかの要素で並外れたサービスを提供する必要があります。全ての要素で業界水準以上を実現することは困難であるし、全ての要素に秀でるということは逆に目立つものがないという事態に陥りがちであることを考慮すると、「B:メリハリパターン」が求められます。

 

業界企業が「顧客が重視する要素」と考えているものが必ずしも実際に顧客が重視しているとは限りません。また、不満が無い程度の水準で提供しさえすればよい要素、他に秀でた要素があれば我慢しうる要素は必ずあります。

 

並外れたサービスを提供したければ、いくつかの要素で意図的にサービスの質を落とすことが必要です。顧客が最も重んじる要素で質の高いサービスを行うために、顧客が最も軽んじている(犠牲にしてもよい)要素であえて低いサービスを行うのです。

 

 

【参考】

『顧客サービス戦略』フランセス・フレイ、アン・モリス著 日経BP 

 

サービス品質を測定する(SERVQUAL)

SERVQUALモデル

 

サービス品質を測定するために開発された尺度に、SERVQUALモデルがあります。SERVQUALとは、サービスの質(service quality)を合成した造語です。サービスの品質を判断する基準は、次の5つになります。

 

●信頼性:約束されたサービスが確実・迅速に提供されているか?

●反応性:サービスを実施する上で従業員がやる気をもち迅速にサービスを提供しているか?

●確実性:従業員が十分な知識及び礼儀正しさをもち、信頼できるか?

●共感性:顧客個人への関心や配慮が行き届いているか?

●有形性:施設、設備、従業員の服装など目に見えるものが適切か?

 

 

■顧客が満足するとき

 

顧客は、「事前に期待したサービス水準(期待)と実際のサービスのパフォーマンスの知覚」によって、満足感を判断します。「実際の知覚>期待」であれば満足することになり、「実際の知覚<期待」であれば不満になります。

 

よって、顧客に満足してもらうためには、①実際の知覚が高いか②期待がそれほど高くないかの2つがポイントになります。

 

もちろん、事前の期待が高くなければ、サービスの利用にはつながりませんが、期待が高すぎると実際のパフォーマンスがそれに追いつかず、不満となります。

 

「期待していたが実際はそれ以上だった」というのが一般的な顧客満足度だと思いますが、実際のパフォーマンスがそこそこでも、顧客の事前の期待が低ければ、それはそれで満足感につながるのです。要は「期待以上のパフォーマンスだった」と思わせることが必要ということです。

 

たとえば、お腹がすいたので、とりあえず目に付いた食堂に大して期待もせずに入ったら、意外と美味しかったなんてことがあると思います。これも味はそこそこでも、事前の期待が低かったので満足につながったケースです。

 

 

■対比効果

 

対比効果とは、期待と実際のパフォーマンスの食い違いが、実際よりも大きく見えてしまうことです。

 

高い期待をもって入ったレストランで、些細な言葉遣いの悪い対応を受けたとします。本来なら、小さなミスであっても、それがとても重大なことと感じられることはあるでしょう。

 

逆に、先ほどの述べたあまり期待せずに入ったレストランで、ちょっとした細やかな接客やおいしい料理が出されたら、それほど高いパフォーマンス水準でなくても、大きなプラスの不一致を感じるでしょう。

 

つまり期待と実際の知覚の不一致は、実際よりも大きく感じられるということです。よって、この点からも「実際の知覚>期待」を作ることが有効だといえます。

 

 

SERVQUALの活用法

 

サービス事業者は、SERVQUALの5つの基準について、顧客の期待と実際の知覚を継続的に把握することが必要になります。通常は、期待と実際の知覚について、「1:まったくそう思わない/まったく期待していない~7:非常 にそう思う/非常に期待している」の7段階で評価するようです。

 

顧客の期待と実際の知覚に差がない、あるいは実際の知覚のほうが低いなら、実際の知覚を上げるか、期待をそこそこに下げる必要があります。もしかしたら過大広告で実際のパフォーマンス以上に期待させてしまっているのかもしれません。

 

また、SERVQUALモデルは、組織内部の業務監査にも利用することができます。たとえば、ライン部門がスタッフ部門を評価する際に利用できます。スタッフ部門はライン部門にサービスを提供する立場ですが、業績が明確なライン部門と比べあまりスタッフ部門を評価する客観的な指標は少ないように感じます。スタッフ部門とは言え、顧客(ライン部門)の評価は重要ですから、検討に値すると思います。

 

【参考】

『消費者・コミュニケーション戦略』田中洋編、清水聰編 有斐閣

『サービス業のマーケティング―理論と事例』スティーブ バロン、キム ハリス著 同友館

 

情報の非対称性④(企業の理想的な採用活動②)

前回、採用活動において、自己選択メカニズム(情報を持つ側に、自ら情報を開示するような行動をとるように仕向ける仕組み)を設けることの有効性について取り上げました。

今回は、それに沿っていくつか例をご紹介したいと思います。

 

■応募にあたってのハードルを高くする

 

『道端の経営学』(マイク・マッツェオ、ポール・オイヤー、スコット・シェーファー著/ヴィレッジブックス)から、2つ例を取り上げます。

 

地方でボーリング場を運営するある中小企業は、欲しい人材を、選考にかかわる手間ヒマを削減して採用するために、履歴書を郵送やメールではなく、会社に持参してもらうことにしました。熱意のない人材はそれくらいの手間でも面倒がって応募しないし、逆に熱意のある人材なら手間を惜しまないだろうというわけです。

 

吹流し製造業のある中小企業では、外部の協力スタッフの採用に当たり、「報酬は歩合制であること」「厳しいトレーニングを事前に2週間受けてもらうこと」の2つの条件を化課しました。こちらもやる気のない人材をスクリーニングする仕掛けです。

 

外部の協力スタッフの募集にあたり、有料のトレーニングを課す場合がありますが、これは自己選択メカニズムを利用した募集活動といえます。

 

 

■相応しくない人材には自らお引取りを願う

 

アメリカのネット通販会社ザッポスでは、「顧客に謙虚であれ」を理念に掲げています。新入社員には4週間の研修プログラムが設けられており、徹底的に理念の浸透が図られます。

 

ザッポスでは、理念に合わない従業員を排除するために、研修機関中にすべての新入社員に対して、「今すぐ退職すれば2000ドルを支払う」という申し出を行います。2000ドルといえばたいした金額ですが、目先の利益を追うような人間は自社に相応しくないというわけです。また、相応しくない人材に高い人件費を支払い続けるのは自社にとっても割高だという判断です。これも相応しくない人材が自ら退職を名乗り出るような自己選択メカニズムといえます。

 

 

■応募者に自己選択を促すステップ

 

「道端の経営学」では、応募者に自己選択を促すステップには、次の3つがあるといいます。

 

  自社が欲しい応募者のタイプを明確にする

  応募して欲しくないタイプには魅力がなく、応募して欲しいタイプだけが魅力を感じるような職務設計をする

  求人広告か面接などのできるだけ早い段階で、仕事内容を正確に伝え、好ましくないタイプに自己選択を促す

 

 

【参考】

『道端の経営学』マイク・マッツェオ、ポール・オイヤー、スコット・シェーファー著 ヴィレッジブックス

『顧客サービス戦略』フランセス・フレイ、アン・モリス著 日経BP

 

情報の非対称性③(企業の理想的な採用活動)

前回、情報の非対称性が存在する場合の対応として、自己選択メカニズム((情報を持つ側に、自ら情報を開示するような行動をとるように仕向ける仕組み)を取り上げました。

情報の非対称性の例としては、労働市場があります。今回は、労働市場における自己選択メカニズムについて取り上げます。

 

 

■採用過程は自己選択メカニズム

 

雇う側(企業)と求職者(労働者)側には、大きな情報の非対称性が存在します。労働者は自らの意思や熱意、能力について知っているわけですが、企業側はそれらを知りません。企業側はどうすれば自社にふさわしい能力や熱意を持った人間を採用することができるでしょうか。

 

一般的に行われる採用活動では、まずエントリーシートを提出させ、数回の面接を経て採用に至ります。これは採用側が複数の目で応募者の能力や入社意欲を探るということ以外に、応募者が採用過程を通過するための手間ヒマを惜しまないか試すねらいがあります。

 

入社意欲が高い人なら、採用に至るまでの段階が多くても、それを乗り越えようとするでしょうし、逆に入社意欲が低い人はそれだけの手間暇はかけようとせず、勝手に途中で脱落するはずです。

 

 

■熱意と能力がある人だけに応募してもらう

 

つまり、企業の採用過程は、労働市場における自己選択メカニズムとして機能しているわけです。

 

現在、完全失業率は2.4%(6月)と歴史的にみても低水準で、小売や飲食など一部の業種では人手不足感がでています。よく「経験がなくても歓迎」「明るい職場です」「明るい方希望」などといった募集広告を見ますし、採用活動自体が面倒なのか採用過程が簡便なケースも多いように思えます。採用過程における自己選択メカニズムを考えると、適切な内容とは言えないのではないでしょうか?

 

場合によっては応募者が増えるかもしれませんが、結局はすぐやめてしまい、またコストをかけて募集活動を繰り返すという悪循環に陥るハメになるだけです。

 

そうであれば、むしろ採用に至るハードルを高くして、自動的に求職者を振るいにかける(入社意欲が低い人は応募しない)工夫をしたほうがよいのではないでしょうか?たとえば、「当社は○○といった人材を採用する」といったことを明確にしたり、応募にあたって小論文を提出させたりといったことです。

 

企業の人事部門では、例年の応募数をベースに、「今年は応募数何%アップ」といったように、応募数を目標値化する傾向がありますが、はっきりいってナンセンスだと思います。能力も熱意もない応募を集めても意味はないでしょう。

 

仮に1人だけ採用したいなら、究極の理想は、「入社意欲が高くこちらの要件を満たす応募が1人だけの状態」です。人事部門の目的は「必要な人材を確保すること」という点を意識したいところです。

情報の非対称性②

前回、情報の非対称性(取引を行う際、商品等に関して当事者がもっている情報に当事者間で格差があること)を取り上げました。情報の非対称性が存在すると、レモン問題(質が悪いものばかり出回る)の結果、市場取引が行われなくなる可能性があります。

レモン問題の解消策として、代表的なものにシグナリングと、自己選択メカニズムがあります。

 

 

■シグナリング

 

情報の非対称性があるから問題が生じるのであれば、情報の非対称性をなくすことが解決の第一歩です。たとえば買い手側に商品の品質に関する情報が乏しいのであれば、売り手側から情報を公開するということです。

 

中古車でいえば、中古車ディーラー側が消費者の不信感を払拭するために、売り物の中古車の情報を細かく開示する、品質保証をつける、返品制度を設けるといったことです。

 

情報の非対称性があるかぎり、ビジネスとして成立しなくなるのですから、それを解消しようというわけです。

 

情報を持っている主体が、持っていない主体に対して、自ら情報を伝えようとすることをシグナリングといいます。

 

 

■自己選択メカニズム

 

自己選択メカニズム(スクリーニング)とは、情報を持つ側に、自ら情報を開示するような行動をとるように仕向ける仕組みのことです。

 

保険料を例にします。保険会社が2つの保険商品を用意します。1つは、「保険料は安いが医療費の一部は被保険者(保険加入者)の自己負担とする保険商品」、もう1つは、「保険料は高いがすべて保険でカバーするという保険商品」です。

 

この場合、健康な人は前者を、病気がちな人は後者を選ぶ可能性が高いです。言い換えれば加入者がどちらの保険を選ぶかでその人の健康について情報を引き出すことができるのです。

 

 

■市場メカニズムにどう乗せるかがポイント

 

市場メカニズムが上手く機能しないことを、市場の失敗といいます。情報の非対称性は、市場の失敗の典型的なケースです。

 

市場メカニズムを機能させるためには、取引当事者が取引する財(モノ・サービス)について、十分な情報を持っていることが前提です。シグナリングも自己選択メカニズムにせよ、市場を上手く機能させるための仕組みといえます。

情報の非対称性①

■情報の非対称性

 

自分と他人ではもっている情報の量が異なります。取引を行う際、商品等に関して当事者がもっている情報に当事者間で格差があることを、情報の非対称性といいます。典型例としては、中古車売買において、売り手(ディーラー)は買い手よりも、当然、売り物である中古車の状態について熟知しています。

 

情報の非対称性が存在すると、市場取引がうまく機能しなくなります。中古車ディーラーには、状態の悪い中古車を偽って高く売りつけようとするインセンティブがあります。しかしながら、消費者側も「もしかしたら自分は騙されるのではないか」という疑心暗鬼が生じますから、誰も中古車を買おうとしなくなります。中古車について悪いイメージが付くと、実は状態がよい中古車であっても、消費者側に疑心暗鬼があるので、誰も中古車を買おうとしなくなります。

 

つまり、情報の非対称性が存在すると、市場取引がなくなるおそれがあるのです。中古車ディーラー側は、どうせ状態がよい中古車でも、消費者は高い値段で買ってくれなくなるので、騙されても消費者側に痛手が少なく買ってくれる可能性がある状態が悪い中古車しか販売しなくなります。情報の非対称性が存在すると、質が悪いものしか出回らなくなることをレモン問題といいます。

 

 

■保険業界のレモン問題

 

中古車以外にレモン問題の典型例として挙げられるのは、保険業界です。保険会社はどの人が健康な人かは分かりません。よって、平均的な人を基準にして保険料を算定します。その平均的な保険料は、健康な人から見ると割高であり、健康でない人から見ると割安となります。

 

したがって、健康な人は契約しない一方、健康でない人は喜んで契約しようとします。この結果、健康でない人ばかりが保険に入るということが起こりえます。

独立を考えている中小企業診断士向け書籍のご案内

今回は書籍のご紹介です。

「独立する! 中小企業診断士 開業のコツ60」日沖健著 中央経済社


独立_ 


中小企業診断士という国家資格は、「中小企業向けのコンサルタントの唯一の国家資格」ということになっています。しかしながら、別に国家資格を持っていなくても中小企業のコンサルタントはできますし、実際、そちらのほうが多いでしょう。

また診断士であっても、独立している方は2~3割くらいで、さらにその独立組みもやっていることは様々でなかなか実態がわからない資格でもあります。

 

診断士本はこれまでも数多く出版されてきましたが、ありがちなのは、個人の経験や考え方に大きく依ったものが多く(例:診断士●年で○○万円稼ぐ)著者と経歴や性格・嗜好が合う人にはよいですが、そうでない人にはまったく役に立たないことが多いです。

また、その著者と同じ機会に巡り合わせることなど不可能なのだし、そもそも著者とまったく同じキャリアを歩みたいわけでもないでしょう。

 

独立診断士の年収や仕事内容などもおおよそ公開データで把握できますが、データの常として「なぜそうなのか」の説明がないので、あくまで参考程度にしかならなかったりします。

 

たとえば年収がかなり高くても、実際は本業(物販やサービス、不動産取引などの経営)で稼いでいて、診断士としての収入はたいしたことがなかったりする場合もあるし、コンサルタント経験は皆無で講師だけやっている人も中にはいます。

 

そんな中で、この本の著者の姿勢は(自分の経験はベースにしつつも)あくまで実態把握に徹し、その背景を説明してくれています。とるべきアクションについても、その根拠が示されている点がありがたいところです。その意味で類書とは一線を画していると思いますし、独立診断士予備軍の方は読んでおいたほうがよいと思います。

 

ただなかなかバラ色とはいかない現実も書かれているので、怯むようなら独立はやめたほうがいいかもしれません。しかし、自分の周りを見てもほとんどは弾みでやめている(あるいは何らかの事情で会社員ができない)形で独立を選択しており、差はあるがそれなりのベースを確保はしているようです。あとは気合と熱意で、筆者の薦めるアクションを地道に取り組み、飛躍の確率を高めるしかないのでしょう。

2018年度中小企業診断士第1次試験に臨まれる方へ

さて今度の土曜・日曜に中小企業診断士試験の第一次試験が行われます。私はTACの中小企業診断士講座で講師を担当しておりますが、基本的にこのブログでは教室でお話するような試験対策的な内容は扱いません。

とはいうものの私の受講生の方でこのブログをお読み頂いている方もいらっしゃるのかなあということで、今回は特別に受講生の方へのエールをお許し頂ければと思います。
2年前にも同様の内容を掲載しましたが、基本的に私のメッセージは変わりません。


受験指導という立場から講義中にはあまり申し上げませんでしたが、素直に言いますと、「1年間続けただけでも凄い」といつも感じておりました。お一人お一人に、ひと方ならぬご苦労があったと思います。

ただ受験なさる皆様にとっては、「勉強してタメになった」だけでは終われないはずです。私としても必ず結果を出して頂きたいと強く思っております。

そこで講義でもお話したことですが、最後に「当日気をつけていただきたいこと」を確認させて頂きたいと思います。

・経済・財務はすぐに解き始めないこと。2~3分で全体像を確認し、ハマりかどうか把握した上で、優先的に解く問題とそうでない問題を識別すること。

・万が一、ハマリ科目だった場合は、どうせ得点調整が入りますから、4点ないし8点得すると前向きに考えること。パニックになった人が落ちる。

・企業経営は休憩時間中にテキストを見ても、どうせその内容が出る確率はほとんどないので、次に挙げる取り組み姿勢のイメージにあてること。

・企業経営は不適切な選択肢の作り方を意識すること(比較、用語の置き換え、因果関係、不足)。「知っているか」ではなく「気が付くか」で決まる。


「凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。風に流されている時ではない。(ウィンストン・チャーチル)」 

合格を祈念しております。

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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