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雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断9月号」が発売されました。


企業診断10月号


 今回のテーマは、「オウム真理教事件に見る組織の病理――カルト集団は何も特異な存在ではない」です。

 

テロについてのメディア解説をみると,貧困などの社会構造や精神的病理の観点から述べられているケースが多いようです。貧しい者や精神的に病んだ者がテロを起こすというわけです。

 

しかし,戦前・戦後の日本や海外の過激な左翼活動をみてもわかるように,テロリストの主導者層には意外と富裕層や高学歴者が多いことが分かります。別に貧困でなくても,精神的な疾患がなくてもテロを起こす人はいるのです。

 

今回は、カルト集団(テロ組織)に見る組織の病理について,組織心理学・社会心理学の観点から考察してみました。

 

エリート集団であるはずの官僚組織や大企業の近年の不正を見ると,カルト集団と同様の組織的背景を感じてしまいます。程度の差こそあれ、組織とは、何らかのカルト的側面があり、カルト集団の病理を「他山の石」として,組織の自浄作用につなげたいところです。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。

 

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生物学に学ぶ企業生存の6原則③(マネジメント)

複雑適応系を応用した生物学に学ぶ企業生存の6原則の続きです。残りの3つを取り上げます。

 

予測はできないが不確実性は減らせる

 

変化のシグナルを集め、変化のパターンを察知し、ありえそうな結末を想像します。そして、予防措置を講じます。

 

確かに様々な要素が複雑に影響し合って変化は起きますので、それを完全に予測することは不可能です。しかしながら、どのような変化がありうるか、変化の方向性をシグナルで感じることは可能です。

 

そのためには、まず同業他社(特に業界のリーダー企業)の動きを観察し、変化に対してどのような手を打っているかを把握します。

 

次に業界の周縁部を注意深く観察します。業界の変化は多くの場合、その周辺からもたらされるからです。特にそれまでの業界常識だったビジネスモデルとは異なるビジネスモデルで挑んでくる新規参入企業の動きに注目します。

 

 

■フィードバックループと適応メカニズムを構築する

 

変化に目を光らせ、多様性を促進し、実験を行い、イノベーションを増幅し、これらを短期間に繰り返します。

 

自然界では、様々な種が誕生し(多様性の確保)、環境に適応した種が生き残るという淘汰の過程を必ず経ます。そして生き残った種の望ましい特徴が拡大再生産され、種の繁栄をもたらします。

 

企業においても同じで、たとえば小売業においては、顧客ニーズの変化により、様々な業態の中からコンビニ型が優位となり、多くのコンビニチェーンが生まれ、市場を制圧しました。

 

環境変化にもっとも近いのは現場です。よって、企業は、組織の末端にまで目を配り、適切なシグナルを検知する必要があります。現場の声を吸い上げるとか、トップが現場に赴いて観察する、顧客の声を聞くといったことです。そして、感じたシグナルを組織としての行動に反映させるべく変革をおこします。

 

 

■信頼と互恵主義を育てる

 

ビジネス・エコシステム(ビジネス生態系)全体の参加者に利益をもたらすように行動し、確実に互恵主義が生まれるような仕組みを導入します。

 

人間社会に存在する複雑適応系が強い生命力を持つためには、互恵主義と信頼に基づく人々の協力が必要となります。個人が自らの利益だけに沿って行動していていは、系全体が崩壊するからです。

 

有史以来、様々な宗教が互恵主義の重要性を説き、コミュニティが住民間の信頼性を維持することに熱心であったのも、社会(あるいはコミュニティ)全体の生存のためです。そして全体に対し貢献した人物を高く評価することで、個人の貢献意欲を高めています。

 

企業においても同様で、個々の努力と組織全体の利益が結びつくようなシステムを構築する必要があります。

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 06 月号 (心を動かすデジタルマーケティング)』ダイヤモンド社

 

生物学に学ぶ企業生存の6原則②(組織構造)

 前回、複雑適応系を応用した生物学に学ぶ企業生存の6原則を取り上げました。今回は、個別に触れていきたいと思います。

 

■異種混合を維持する

 

インフルエンザのウィルスは、突然変異を起こす比率が高く、それゆえに非常に多くの変種を持ちます。人間はそれらに対し、様々なワクチンを開発しますが、すぐに新たなウィルスが発生するといういたちごっこが繰り返され、撲滅されることがありません。つまり多様性がウィルス存続の条件なのです。

 

企業においては、外部環境の変化が自社のビジネスモデルを時代遅れにしてしまうというリスクがあります。よって、様々な考え方を内部に取り込み、様々なイノベーションや取り組みを行って、自ら多様性を確保することが求められます。

 

 

■モジュール化を続ける

 

モジュール化とは、要素間で相互に影響を与えないように独立させるという役割分担の明確化を意味します。どれか1つの構成要素でショックが生じても、隣接する構成要素への波及が防止され、結果的に系全体の生命力を強化します。

 

組織内のある部分が崩壊したからといって、組織全体がその影響をなるべく受けないようにする仕組みが必要です。

 

このことは、企業間の取引でもいえます。1つの企業の倒産が連鎖倒産を引き起こすことがまま見られます。取引企業相互の関係がタイトであるほど(特定取引の依存度が高いほど)、このようなリスクに弱くなります。

 

よって、企業のリスク抵抗力を高めるためには、異なる種類の事業取引を複数確保することが求められます。

 

 

■冗長性を保持する

 

冗長性を持つ系では、同じ働きをする構成要素が複数存在します。どれか1つが失敗しても、別の構成要素がその機能を実行します。

 

人間は病原体に対する防衛線を複数持っています。それは、物理的な防壁(肌と粘膜)、先天的な免疫系(白血球)、そして後天的な獲得免疫系(抗体)です。健康体ではこの冗長なメカニズムが歩調を合わせて動くため、1つが失敗しても他が感染を防ぎます。

 

多くの企業は冗長性をスリムさと効率性の対極にあるものとみなし、排除しようとします。しかし、これが壊滅的な結果を招くことがあります。

 

たとえば、完成品メーカーがある特定の部品の調達先を1社に絞ったとします。この場合、その調達先の工場が火災などで操業停止に追い込まれると、完成品メーカーはもはや生産ができなくなります。

 

また、ある業務ができる担当者が1人しかいないケースはよく見られます。「○○さんしかその仕事は知らないし、誰もできない」といったケースです。この場合も、その担当者が何らかの理由で突然やめてしまったら、重大な事態になりかねません。そのためには、日頃から担当者任せにしない、情報共有するといった取り組みが必要なのは言うまでもありません。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 06 月号 (心を動かすデジタルマーケティング)』ダイヤモンド社

生物学に学ぶ企業生存の6原則①

■複雑適応系とは?

 

企業経営の研究に、生態学や生物学の知見を使うアプローチがあります。これは、もともとの複雑適応系(複雑系)と呼ばれる研究があり、それを経済や経営など社会科学分野に応用するという流れです。

 

複雑適応系とは、多様な複数の相互接続された要素から成る系(≒集合)のことで、それがどのように影響し合い全体が変化するのかを研究します。たとえば、生物の種や気象、地震は、実に多くの要素が関係しあい、ふとした変化で全体の繁栄や絶滅、異常化したりしますが、そのメカニズムを研究します。

 

種の誕生や繁栄・絶滅は、ほんの些細なきっかけだったりしますが、それをプロセス全体で捉えようというわけです。

 

複雑適応系では、エージェント(個々のプレイヤー)たちが起こした局地的な出来事と相互作用がドミノ倒しのように広がり、系全体を作りかえてしまうこともあります(創発)。

系の構造が新しくなったことで、次に個々のエージェントが影響を受け、これが結果として系全体をさらに変えていきます(フィードバック)。このサイクルを繰り返すことで、予測しがたい進化を続けていくのです。

 

 

■企業の6つの生存原則

 

さて、前置きが長くなりましたが、複雑適応系での生物の生存条件に関する知見を、企業経営に適応すると、次の6つの生存原則を指摘することができます。

 

<組織構造>

  異種混合を維持する

  モジュール化を続ける

  冗長性を保持する

 

<マネジメント>

  予測はできないが不確実性は減らせる

  フィードバックループと適応メカニズムを構築する

  信頼と互恵主義を育てる

 

次回から個別に見ていきたいと思います。

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 06 月号 (心を動かすデジタルマーケティング)』ダイヤモンド社

直感の力

■システム1とシステム2

 

行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーは、「人の脳では、外部からの刺激に対して、大きく2種類の意思決定の過程(システム)が同時に、異なるスピードで起きる」メカニズムを明らかにしました。

 

<システム1>

ある外的な刺激を受けた時に、「早く、とっさに、自動的に、思考に負担をかけずに、無意識に行われる意思決定」のことです。要は直感です。

 

<システム2>

ある外部刺激を受けた場合に、「時間をかけて、段階的に、思考をめぐらせながら、意識的に行う意思決定」のことです。要は論理的思考です。

 

人間は、いちいち時間をかけて意思決定しているわけには行きませんから、直感に頼りがちです。しかしながら、考えずに直感に頼ると、当然、失敗することが多いです。よって、一般的にはシステム2(論理的思考)が望ましいとされます。

 

 

■直感のほうが優れた意思決定ができるケース

 

しかしながら、直感のほうが論理的思考よりも正確な将来予測が出来る場合があります。その条件は、次の3つです。

 

  直感が豊富な経験に裏付けられている場合

玄人の勘であれば、それは優れた意思決定になりえます。ベテランの消防隊長は、危険の兆候を直感で上手く察知し、意思決定します。豊富な経験を持ったキュレーターであれば、すぐに作品の真贋を見分けます。彼らはうまくいった理由を聞かれても、「よくわからないが感じた」と答えます。

逆に素人であれば、論理的思考に頼ることが大事です。

 

  過去に同じ事象が起きた数が少ないこと

論理的に意思決定しようとすると、数多くの類似ケースを集めて確率的に分析することになります。サンブル数が多いほど、それぞれのバラツキが相殺され、おおよそ平均的な結論や確率に収まることになります。これを大数の法則といいます。

たとえば、コイントスを3回したら、すべて表といった極端な結果もわりと出やすいでしょう。しかしながら、100回もやればおおよそ表が出る確率は50%に収まるはずです。

過去に同じ事象が起きた数が少ない場合、集められるサンプル数が少なく、結果にバラつきがあります。よって、あまり標準的な結論を得にくいのです。論理的に考えようとすると、特定のサンプルの結果に引っ張られて偏った判断をしてしまうのです。

 

  環境の不確実性が高いこと

豊富なサンプルがあっても、環境が変化してしまえば、それらは論理的な分析に使えないことになります。よって、この場合は直感に頼ったほうがよいことになります。

 

イノベーションや起業のように、不確実性が高く、前例のないことに取り組む場合には、直感のほうが大事なわけです。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 9 月号 イノベーションのジレンマ』ダイヤモンド社

セミナーのご案内(リーダーシップ)

今日は私の友人のセミナーのご案内をさせて頂ければと思います。

日本生産性本部の人材開発コンサルタントでセミナーや研修の経験豊富な剱地愛(つるぎじ・あい)さんが、神奈川中小企業センターで「リーダーのためのコミュニケーション力向上セミナー」の講師を務めます。

 

●チーム全体の成果や生産性を上げるためには、メンバーの強みを引き出し、纏め上げるスキルが求められます

●「ソーシャル・スタイル診断」を使うことで、リーダーもメンバーも働きやすく、やりがいのある職場づくりが可能になります

 

日時:2018年9月27日(木) 13:00~16:30

場所:神奈川中小企業センター(JR、地下鉄「関内駅」徒歩3分)

対象:リーダー、主任、組合幹部

講師:剱地 愛(日本生産性本部 人材開発コンサルタント)

プログラム:

 1.いま求められるリーダーの役割とは

  ・リーダーとしての基本スタンス

  ・リーダーに求められる役割

  ・リーダーに求められる能力

 2.相手のタイプに応じたコミュニケーションスキルを習得する

  ・あなたはどのタイプ?

  ・ソーシャルスタイルとは

  ・ソーシャルスタイルの4タイプ別の特徴

  ・実践編(演習)

 

 3.メンバーの力を発揮させるリーダーになるために 

   ~明日からできること~

 

私自身、リーダーシップ力が皆無ですし、個人の努力で上げにくい分野ですが、すぐに始められる工夫を紹介してくれるようです。

 剣地さんとは、興味のある分野が似ており、話が合う数少ない友人ですが、人事アセッサーとしても活躍しており、私とは異なるアプローチが聞けるかと思います。


機会がありましたらご受講なさってみてはいかがでしょうか。

 

イノベーションのDNA③(観察力・実験力・人脈力)

■観察力

 

発見力に優れたビジネスリーダーたちは、一般的な現象、とりわけ潜在顧客の行動を詳しく調べることで、非凡なビジネスアイデアを生み出します。他者を観察することにあたり、彼ら彼女らは人類学者や社会学者のように行動します。

 

タタグループ会長のラタン・ナバル・タタは、三輪スクーターに家族4人がしがみついている窮状を見て、世界一安い小型車開発のきっかけとなりました。

 

トヨタ自動車では、三現主義を徹底しているといいます。三現主義とは、現場(場を確認する)、現物(物を確認する)、現実(この目で事実を確認する)という「3つの現」を重視する考え方のことです。自らの目で見ることで改善のヒントを探ることができるというわけです。

 

マーケティング分野では、エスノグラフィー(顧客の行動観察)を取り入れて商品開発やサービス改善のヒントとしています。

 

 

■実験力

 

イノベーションでは、「早くアイデアを試してみる」ことが必須です。実験すれば成功にせよ失敗にせよ早く結果を得ることができ、それをフィードバックしてアイデアの修正や改善が可能になります。

 

エジソンの「私は失敗したことはない。上手くいかないやり方を1万通り見つけただけである」という発言は有名です。

 

しかし、ただ闇雲に実験すればよいというわけではありません。きちんとした仮説を持って実験しなければ、得られるものは少ないでしょう。

 

また実験の失敗を許容する文化や制度も必要です。グーグルでは、よい失敗の条件として、次の2つを挙げています。

 

  失敗した原因が解明でき、次のプロジェクトに役立つ知識が得られる

  早い段階で起き、それほど深刻な過ちではないため、ブランドを損なわない

 

 

■人脈力(ネットワーク力)

 

イノベーターは、多種多様な人脈を通じて、アイデアを見出します。

 

ビジネスリーダーの大半が、求める資源にアクセスするため、自分や自社を売り込むため、あるいはキャリアアップのために、人脈づくりに励む。

 

一方、イノベーティブな起業家は、自分の知識の幅を広げるために、自分とは異なるアイデアや視点の持ち主たちに会いにいきます。

 

 

【参考】

『イノベーションのDNA』クレイトン・クリステンセンほか著 翔泳社

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 9 月号 イノベーションのジレンマ』ダイヤモンド社

 

イノベーションのDNA②(質問力)

■質問力

 

ドラッカーは、挑発的な質問の力について、こう記しています。

 

「適切な答えを見つけ出すことよりも、適切な質問を投げかけることが重要であり、また、難しい」

 

イノベーターは、常識にあらがう質問をします。タタグループ会長のラタン・ナバル・タタは、「当たり前のことを疑え」と言っています。

 

マイケル・デルは、デルコンピュータ(デル)を立ち上げるきっかけとなったのは、「コンピュータの価格が部品を合計した金額の5倍もするのはなぜか」と思ったことだと言います。「PCを分解してみたら、合わせて600ドルの値打ちしかない部品の塊が3000ドルで売られていたのです」先の疑問をよくよく考えているうちに、後にデルモデルと呼ばれる革新的なビジネスモデルを思いつきました。

 

 

■イノベーターが実践するうまい質問

 

●「なぜか」「なぜだめなのか」「もし~だったら」と問う

 

大半のマネージャーは、既存のプロセス、すなわち現状を多少改善する方法に目が行き

がちです。たとえば、「コストをあと10%下げるにはどうすればよいか」「日本で売上を伸ばすには何を追加すればよいか」といった具合です。

 

一方、イノベーティブな起業家は、たいてい前提を覆そうとします。たとえば、「製品のサイズや重量を半分にしたら、その製品の提供価値はどうなるだろうか?」といった具合です。

 

クラウドサービスを提供しているセールスフォースドットコムの創業者マーク・ベニオフは、「いまだに昔ながらの方法でソフトをインストールし、アップグレードするのはなぜだろう?いまならインターネットでできるのに・・・」と考えたそうです。

 

●逆を考える

 

トロント大学のロジャー・マーティンは、イノベーティブに考えられる人たちは、「まったく正反対の2つのアイデアを頭の中に浮かべる能力」の持ち主であると述べています。「パニクに陥ることなく、かといって単純に二者択一に落ち着くこともなく、対立するアイデアの両方を総合して、より素晴らしいものを生み出すことができる」

 

ビジネスのイノベーションは、えてしてトレードオフ(一方が立てば一方が立たずの状況)の解消から生まれます。たとえば「高品質と低コストの両立」「早さと丁寧さの両立」といった具合です。しかしなら、私たちはトレードオフを必然だと考えてしまいます。

 

自分自身や他者に対して、まったく異なる代替案を考えてみるように問いかけることで、独創的な知見が生まれてきます。

 

●制約を受け入れる

 

皮肉なことに、素晴らしい質問は、私たちの思考を強く制約し、形破りな洞察を導き出す触媒として作用します。グーグルでは「創造性は制約を欲する」という原則があるそうです。

 

ビジネスにおいては、「現在の主力製品が法律で禁止されたら、来年はどうやって儲けるか」「既存顧客がすべて離反したらどうするか」といったことを考えるとよいかもしれません。

 

また、私たちは惰性やサンクコストの存在で、現状のやり方を続けていることが多くあります。サンクコスト(埋没費用)とは、すでに投資をしてしまい、後から回収できないコストのことです。設備代などの初期投資額が典型的なサンクコストです。「もったいないから捨てられない」というわけです。

 

疑問を感じたら「もしこの設備に投資していなかったら」「もしこの事業を始めていなかったら」「もしこのプロセスを導入していなかったら」果たして同じことをやるか考えてみるとよいでしょう。

 

 

【参考】

『イノベーションのDNA』クレイトン・クリステンセンほか著 翔泳社

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 9 月号 イノベーションのジレンマ』ダイヤモンド社

イノベーションのDNA①(関連づける力)

クレイトン・クリステンセン(ハーバード・ビジネス・スクール)、 ジェフリー・ダイアー(ブリガム・ヤング大学)、ハル・グレガーセン(マサチューセッツ工科大学)が、イノベーティブな企業を立ち上げた、あるいは新製品を開発した3500人超を調査したところ、「イノベーターDNA」ともいうべき5つの発見力を明らかにしました。

 

 

■関連づける力

 

関連づける力、すなわちそれぞれ異分野から生じた、一見無関係に思える疑問や問題、アイデアをうまく結びつける能力は、イノベーターDNAの核心です。

 

故スティーブ・ジョブスは、「創造性とは結びつけること」と言っています。創造性は無から何かを生み出すことではありません。

 

「創造的な人は、どうやってそれをやったのかと聞かれると、ちょっと後ろめたい気持ちになる。実は何をやったわけでもなく、ただ何かに目を留めただけなのだ…様々な経験を結びつけて新しいものを生み出すことができたのだ」

 

ジョブスの場合、カリグラフィー(西洋書道)への没頭があり、インドでの瞑想があり、細部に分かるこだわりのメルセデス・ベンツへの憧憬があり、そしてゼロックスのパルアルト研究所での新技術との出会いが、マックOSの開発につながったといわれています。

 

エール・オミダイアが、インターネット・オークションのイーベイを立ち上げたのは、次の3つの無関係な事柄を結びつけたことによるそうです。

 

・1990年代半ば、人気のインターネット企業がIPO(株式公開)が続いたことに関心を持ったこと。

・婚約者がペッツのディスペンサー(キャンディの容器)を収集しており、熱心にレア物を集めていたこと。

・このようなアイテムを探す際には、地元で広告を打っても無意味であること。

 

新たな知識の理解・分類・蓄積を頻繁に繰り返している人たちの脳は、自然に、しかも継続的に、関連性をつくりだし、これを蓄積し、また別のものとの関連性を見出しているのです。

 

【参考】

『イノベーションのDNA』クレイトン・クリステンセンほか著 翔泳社

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 9 月号 イノベーションのジレンマ』ダイヤモンド社

 

労働分配率の低下は悪いことなのか?

■低下し続ける労働分配率

 

財務省が9月3日に発表した二〇一七年度の法人企業統計の結果を受けて、「企業が稼いだお金のうち、従業員の給与・ボーナス、福利厚生に充てられた割合を示す『労働分配率』は66・2%と前年度の67・5%から下落」し、企業の利益の伸びとは対照的に、賃上げが進んでいない実態をあらためて浮き彫りにしたとの報道が今月初め新聞各社よりありました。

 

「儲けているのに労働者の賃金に廻さないのはけしからん」という論調が以前目立ちますが、相変わらずの表面は的な論調で、メディアの経済リテラシーのレベルをうかがい知れてしまいます。

 

 

■労働分配率はどう変化するか

 

労働分配率は、リーマン・ショックの起きた08年度に近年のピークの74・7%に達した後、ほぼ一貫して下落しています。これをもって、アベノミクスは労働者の利益に還元していないという批判があります。

 

しかしながら、労働分配率は、不景気には高まり、好景気には低下するものなのです。

 

不景気の場合、企業利益が減少する中で、賃金は維持される傾向があります。これは、労働組合の存在により、企業側は思い切った賃下げや解雇ができないこと、賃金を下げると社員のモチベーションが下がることなどが理由とされます。労働分配率は、単純にいえば「人件費/営業利益」なので、分子が維持され、分母が下がれば上がることになります。

 

一方、好景気の場合、企業の営業利益が増加する一方で、それをすべて労働者に分配することはありえません。先の見通しが好転したことから、将来の成長に向けて設備投資に資金を廻すからです。

 

「内部留保するくらいなら賃金に回せ」というのは、「将来なんてどうでもいいから、今カネよこせ」といっているに近いノリともいえます。

 

■日本の労働分配率の推移

 

日本の労働分配率の推移を見てみましょう。

 

まず、80年代後半のバブル経済期では、労働分配率は低下して、67%近くまで下がり、バブル崩壊後は75%を超えるまで上昇しました。

 

2000年代に入り、小泉・第1次安倍政権下の緩やかな景気回復では、再び再び下降して70%近辺に達し、リーマン・ショック後の景気低迷で75%まで上昇しています。

 

そしてアベノミクス以降は下落し、現時点での67・5%水準になっているわけです。つまり、労働分配率の低さは景気のよいことの証左なのです。

 

 

【参考】

労働分配率の推移(資本金規模別) - 内閣府

斬新なアイデアを妨げるもの②(デザイン固着・目標固着)

前回は、斬新な発想を妨げる3つの認知的バイアスのうち、機能的固着について取り上げました。今回は、残りの2つについて見ていきます。

 

 

■デザイン固着

 

ある製品を渡して新しいデザインやバリエーションを考えるようにいうと、現行のデザイン特性に固執する傾向が見られます。たとえば自動車のデザインをするように言われると、4つのタイヤがついている現在の自動車デザインをベースにするでしょう。これは独創性を妨げる要因であり、デザイン固着といわれます。

 

イノベーティブになるには、誰もが見逃している特性を手に入れる必要があります。そのためには、見逃しがちな製品特性の種類を網羅したチェックリストを作成することが有効です。対象物のあまり目立たない特性を吟味すれば、新しい用途が浮かび上がる可能性があります。

 

たとえばキャンディの袋で検討すべき特性には、次のようなものがあります。

 

デザイン固着 

■目標固着

 

何かをごみ箱に「接着する」方法を考えてほしいと頼まれたら、糊やテープなどの接着剤を使う方法を考えるでしょう。しかし、何かをごみ箱に「つける」ように言われたらどうでしょうか。「接着する」のように具体的な動詞を、より包括的な動詞に変えるだけで、ダブルクリップやクリップ、釘、紐、マジックテープなどにも選択の幅が広がるはずです。

 

つける

⇒接着する、結ぶ、糊付けする、クリップで留める、留め金で固定する、溶接する、マジックテープで留める など

 

目標をどう表現するかによって、思考が狭まりがちになります。この障壁を目標固着といいます。包括的な言葉で表現すれば、バイアス打破の糸口になりえます。

 

手順は次のとおりです。まずある程度、抽象的(包括的)に目標を表現します。目標表現は、「前置詞句(ごみ箱に)+名詞(何かを)+動詞(つける)」の形で表現します。次に各パートで下位語を検討します。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 11 月号 未来をつくる U-40経営者』ダイヤモンド社

 

斬新なアイデアを妨げるもの①(機能的固着)

斬新な解決策やイノベーションを発想することはなかなか難しいことです。これは、普段使っているやり方や目的でしか物事をとらえられないからです。斬新な発想を妨げる3つの認知的バイアスについて取り上げます。

 

 

■タイタニック号の乗客をもっと助けるには?

 

タイタニック号の悲劇は映画にもなりましたし、ご存知かと思います。1912年4月14日の夜に氷山にぶつかり、2時間40分後に沈没しました。乗客乗員2200人のうち、救助されたのはわずか705人でした。どうすればもっと多くの人を救うことができたでしょうか?

 

沈没原因となった氷山を、救助策としても利用できることに気が付けば、もしかしたらより多くの人を救えたかもしれません。ぶつかった氷山は、幅が120メートル以上ありました。氷山まで救命ボートで乗客を運べば平らな場所が見つかったかもしれません。また、船はしばらく航行できたため、氷山に接近して乗客を乗り移せたかもしれません。

 

実際にそんなことが可能だったかは検証できませんが、タイタニック号の悲劇の60年前に同様の救助策が効果を上げたケースがあるそうです。いずれにせよ、タイタニック号の場合、災厄をもたらした氷山を救助手段として使うという発想はなされませんでした。

 

 

■これまで慣れ親しんだ方法でしか対象物を見られなくなる

 

斬新な発想を妨げる認知的バイアスには、機能的固着、デザイン固着、目標固着の3つがあります。今回は機能的固着を取り上げます。

 

機能的固着とは、これまで慣れ親しんだ方法でしか対象物を見られなくなるというものです。

 

製品やサービスは、もともとある用途を果たすために開発されたものです。よって、ユーザー側もその当初の用途以外の用途があることに気がつきません。たとえば、時計は「時刻を知るためのもの」、紙おむつは「乳幼児のためのもの」といった具合です。タイタニック号のケースでは、氷山は「事故の原因」としか見られませんでした。

 

なぜ機能的固着が生じるのでしょうか?日常的によく目にする対象物を見ると、人はそれを使う際に重要性の乏しい特性を自動的に排除します。これは、日常生活で脳を効率的に活用するためですが、斬新な発想の際の制約になります。

 

 

■機能的固着を克服するためには

 

機能的固着を克服する方法の1つに、対象物の説明方法を変えるという手があります。

 

この方法では、まず、ある対象物の各構成要素を順番に取り上げて、「もっと細かく分解できるか」「その説明は特定の使用法を意味するか」という2つの問いを投げかけます。

 

その答えのいずれかが「イエス」であれば、最も包括的な言葉で説明できるまで分解を繰り返し、その結果を簡単なツリー構造に図式化します。

 

氷山を包括的に説明すると、「海面に浮かんでおり、その表面は幅60~120Mに及ぶ」となり、人命救助の場となる可能性が浮かびます。

 

ロウソクの説明を構成要素に分けてもっと細かく分解すると、ロウと芯になります。芯を着火の導管としてだけでなく、紐ということに着目して、取り出して何かを縛る道具として使えるかもしれません。

 

機能的固着は視野狭窄によるものですから、もう少し広く視点をとる、また、逆に細かい要素に分解することで要素の新しい発想が浮かぶことができます。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016 11 月号 未来をつくる U-40経営者』ダイヤモンド社

顧客価値を考える⑨(価値要素ピラミッド)

■価値要素ピラミッド

 

ベイン・アンド・カンパニーが開発した価値要素ピラミッドというものがあります。これは、顧客が商品やサービスに感じる価値を網羅的に示したものです。


価値要素ピラミッド 顧客の欲求は、低次元のものから高次元のものまで順に、大きく「機能」「感情」「人生の変化」「社会への影響」の4つに分かれます。さらに、それぞれ価値要素があり、合計で30の価値があります。

 

<社会への影響>

自己超越

 

<人生の変化>

希望の創出、自己実現、モチベーション、資産継承、帰属・縁

 

<感情>

不安の解消、自分へのご褒美、懐かしさ、デザインや美観、象徴性、健康、癒し、娯楽、魅力、つながりの提供

 

<機能>

時間の節約、簡素化、収益確保、リスク低減、整理・整頓、統合する、つなぐ、労力の軽減、

面倒の回避、コスト削減、品質、バラエティ、感覚訴求、情報提供

 

顧客は、まず低次元の欲求から順に満たしていくと考えられます。

 

 

■顧客が重要視する価値要素は何か?

 

顧客が重要視する価値要素は、業界によって異なります。

 

<アパレル>

品質、バラエティ、面倒の回避、デザインや美観、時間の節約

 

<食品・飲料>

品質、感覚欲求、バラエティ、デザインや美観、癒し

 

<証券>

品質、収益確保、資産継承、バラエティ、手段・機会の提供

 

ベイン・アンド・カンパニーによれば、「複数の価値要素で高評価を得る企業は、顧客のロイヤルティや売上成長率が高い」とのことです。

                         

たとえば、アマゾン・プライムは、当初の「コスト削減」「時間の節約」重視から、映像配信サービスによって「手段・機会の提供」「娯楽」を追加し、高評価を得ています。

 

スマートフォンが高い支持を得ているのは、「労力の軽減」「つなぐ」「統合する」「バラエティ」「娯楽」「手段・機会の提供」「整理・整頓」など、数多くの価値要素を提供できているからです。

 

 

■業界水準は必要条件にすぎない

 

まずは、業界企業で重視される価値要素を見つけ、自社の商品やサービスが標準よりも劣っているのであれば、速やかに改善します。

 

ただし、改善しても業界標準になるだけで、自社が選ばれるわけではありません。顧客が重視する価値要素は複数ありますが、その中でメリハリをつける必要があるでしょう。

 

また、顧客が重視する価値要素は変化する可能性がありますから、業界の常識にとらわれずに、他社と異なる価値要素を提案することも有効です。

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017 03 月号(顧客は何にお金を払うのか)』ダイヤモンド社

雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断9月号」が発売されました。

 

9月号_ 

 

今回のテーマは、「アメリカのCEOの給料が高騰した意外な理由――人間の持つ相対評価という習性」です。

 

5月の末に「米最大の労組,米労働総同盟産別会議(AFLCIO)が公表したデータによると,S&P500種指数に採用されている企業の最高経営責任者(CEO)の昨年の報酬は,前年比で約6%増の平均1394万ドルで,一般労働者の給与との格差が361倍に拡大した」との報道がありました。

 

「報酬が高騰したのは,プロ経営者が台頭し,それが新自由主義的な市場経済によって高く(過分に)評価された結果だ」といったような説明がなされることが多いです。確かにそのようなことはあるでしょう。

 

しかしながら,米国のCEOの報酬が上昇した経緯をみると,もっと人間らしい行動の結果であるという側面が見えてきます。今回は,人間の持つ欲求という面から考察してみました。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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