FC2ブログ

雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断11月号」が発売されました。


11月号_ 


今回のテーマは、「第11回 なぜ企業はハイリスクな不正に手を染めるのか?――行動経済学で考える人間の損失回避行動」です。

 

スルガ銀行による,不動産投資向け融資での資料改ざんなどの不正問題に関し,役員や支店長を始め,多くの行員が関与したことが明らかになりました。

 

上場企業における経営幹部主導の不祥事が,後を絶ちません。近年では,東芝の不適切会計問題がまず思い浮かびますが,データ改ざんも含めるとかなりの数に上ります。

 

上場企業にとって,粉飾会計や不正隠蔽は,場合によっては存続にかかわるほどのハイリスクな行為ですが,それにもかかわらず,「なぜ不正に手を染めるのか」「不正がエスカレートするのか」について,行動経済学の知見から考察してみました。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。

 

スポンサーサイト



優れた営業マンに求められる要素

■良いリーダーの特徴

 

良いリーダーの性格の特徴として、ビックファイブというものがあります。

 

  外交性(社交性)

  調和性(人当たりの良さや気立ての良さ)

  誠実性(責任感の強さや完璧主義)

  感情の安定性(物事への動じなさや慎重さ)

  経験への開放性(想像力や芸術的な感性)

 

この5つの特徴は、リーダーに限らず、基本的にビジネスパーソン全体に必要とされるものですが、職種によってこのうちどの重要性が高いかは異なります。

 

 

■営業マンに求められるもの

 

営業マンを例にしてみます。営業マンというと、社交的でハキハキとし、話が上手いというステレオタイプがありますが、実際はどうなのでしょうか。1998年の調査を示します。数字は営業成績に対する説明力(説明係数)をメタアナリシスで分析した結果です。

 

<営業成績に影響する要因>

●ビックファイブ特性

外交性 0.05

感情の安定性 0.01(負の影響)

調和性 0.01未満

誠実性 0,10

経験への開放性 0.01未満

●下位項目

親和性 0.02

説得力 0.07

達成性 0.17

信頼性 0.03

●その他の要因

総合認知機能 0.01未満

一般認知能力 0.01未満

言語能力 0.08(負の影響)

数的処理能力 0.01未満

厳格な個人主義 

セールス能力テストの成績 0.14

経歴 0,08

年齢 0,01未満

興味テスト 0.25

 

・他の職種ではほとんど成績に影響していなかった興味テストの結果が、営業マンでは最もよく成績を説明している。

・ビックファイブ特性では、誠実性が最も営業成績と関連しており、その下位項目である達成性(目標や手がけた仕事を最後まで達成しようとする意欲)もよく営業成績を説明している。

・当然だがセールス能力テストの成績は、よく営業成績を説明している。

SPIなどで測られる言語能力を含む一般認知能力はほとんど営業成績とは関連がない。

 

 

■成績のために重要な要因と、上司の評価に影響を与える要因は異なる

 

当然ながら、上記の営業成績に与える要因を重視して人材評価を行うべきなのですが、同時に調査した「上司の評価の説明係数」では、大きな乖離が見られました。

 

大きな乖離が見られたのは、達成性(上司の評価0・06/成績に対する影響0.17)、総合認知機能(0.10/0.01未満)、一般認知能力(0.16/0,01未満)、経歴(0,27/0.08)です。

 

つまり上司は「知的な受け答えができる立派なキャリアの持ち主」を実際以上に評価しているのです。

 

営業マンに求められる能力を客観的に把握して、適正な評価につなげたいところです。

 

 

【参考】

『統計学が最強の学問である[ビジネス編]』西内啓著 ダイヤモンド社

優秀な人材を採用するには?

前回、従業員の生産性の格差について触れ、企業側としては、どれだけ優秀な(資質のある)人材を採用できるかが課題となることについて取り上げました。今回は、優秀な人材を採用するための方法について考えたいと思います。

 

 

■グーグルの採用法

 

グーグルでは、基本的には外部の求人採用を使わず、これまでのデータをもとにした科学的な採用を行っているといわれます。

 

・アイビーリーグといった名門大学を平均的な成績で卒業した者よりも、州立大学をトップで卒業した者を採用する。

・従業員に優秀な知人を紹介させる。

・面接にあたって、「回数は何回あれば十分か」「どのような仕事を担当する人間に対して、どのような質問をするべきか」「社員として、人を見る目があるのは誰か」を管理する。

・技術者には必ず入社後担当するであろう仕事の一部をサンプルとしてやってもらい、その質を評価するワークサンプルテストを行う。

・独自に開発した一般認知能力テスト(IQテストのようなもの)の成績を合わせて評価する。

・一度不採用となった応募者のエントリーシートに対してテキストマイニングを行い、場合によっては再び声をかけて採用しなおす。

 

これらは、「より少ない手間で、優秀な人材を採用できる」ために、実際に採用にかかわるデータを分析した結果です。

 

 

■普通の面接では人は評価できない

 

アメリカの心理学者のシュミットとハンターは、過去85年間の人材採用の定量的データを分析した結果、選考方法とその後の生産性や業績との関連性を明らかにしました。

数字は決定係数(説明力)を表し、たとえばワークサンプルテストの説明係数が0,29であるということは、採用後の業績の29%はワークサンプルテストの結果で説明できるということを意味します。

 

<選考方法ごとの業績説明力>

ワークサンプルテスト 0.29

一般認知能力テスト 0,26

構造化面接 0.26

同僚からの評価 0,24

職務知識テスト 0,23

業績記録を用いた経歴評価 0,20

試験採用 0.19

正直さのテスト 0,17

非構造化(一般的な面接) 0,14

アセスメントセンター 0.14

履歴書の評価 0.12

誠実性テスト 0.10

身元照会 0.07

職務経験年数 0.03

重要度で重み付けした経歴評価 0.01

教育年数 0.01

興味テスト 0.01

筆跡鑑定 0,01未満

年齢 0.01未満

 

つまり、「普通の企業で行われる非構造化面接(ただの面接)はあまり本人のその後の業績(言い換えればそのベースとなる資質)を評価できず、それよりも予定されている職務のサンプルをやらせたほうが採用効果が高いこと」「一般知能テストと、きちんと質問内容が設計された構造化面接なら採用後の業績を測るのに有効であること」「同僚からの評価は有効性が高いこと」がわかります。

 

また、表では示されていませんが、ワークサンプルテストと一般認知能力テストを組み合わせると、採用後の業績の40%も説明できるそうです。

 

企業で「採用方法と、その結果、採用した人材のパフォーマンス」を事後的にチェックすることは稀でしょうが、継続的に採用方法を見直す必要があるのではないでしょうか。

 

【参考】

『統計学が最強の学問である[ビジネス編]』西内啓著 ダイヤモンド社

従業員の生産性の格差

■働きアリの法則

 

働きアリを観察すると、次のようなことがわかります。

 

・働きアリのうち、よく働く2割のアリが8割の食料を集めてくる。

・働きアリのうち、本当に働いているのは全体の8割で、残りの2割のアリはサボっている。

・よく働いているアリと、普通に働いている(時々サボっている)アリと、ずっとサボっているアリの割合は、2:6:2になる。

・よく働いているアリだけを集めても、一部がサボりはじめ、やはり2:6:2に分かれる。

・サボっているアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる。

 

これは、働きありの法則とか2:6;2の法則といわれたりしますが、一般の組織でも見られる現象です。

 

 

■従業員の生産性の格差

 

それでは、優秀な社員とそうでない社員とでは、どれくらいの格差があるのでしょうか。アメリカの心理学者のシュミットとハンターが、過去85年間の人材採用の定量的データを分析した結果、次のことが分かりました。

 

・上位16%以上の優秀な従業員は、平均的な従業員と比べて、特に専門性を必要としない仕事でさえも生産性が19%ほど高くなる。

 

・専門性を要求される仕事や管理職になると、生産性が48%も高くなる。

 

このほか、プログラマーに関する調査では、最も優秀なプログラマーは、ダメなプログラマーの10倍、平均的なプログラマーと比べても5倍の生産性があるというものも存在します。

 

ただし、優秀かそうでないかは、分野次第です。ある分野では優秀な人材が他の分野ではそれほど優秀でないということは想像できると思います。

 

いずれにせよ、企業側としては、どれだけ優秀な人材を採用できるかがガキとなります。その際には、どの分野で人材が必要で、どのような能力が求められるか明らかにする必要があります。

 

現在では、職種別採用も見られますが、中途採用分野に偏りがちです。新卒採用段階でももっと積極的に進めるべきではないでしょうか。採用した人材に、本人が希望もせず、適性もない仕事をさせることは、企業側にとって非効率であることはもちろん、労働者側にとっても不幸なことです。

 

【参考】

『統計学が最強の学問である[ビジネス編]』西内啓著 ダイヤモンド社

 

よい習慣はどうやって実践できるか?④

「続ける」ための10か条の続きです。

 

■うかつに始めない

 

うかつに何かを始めるのではなく、始める前は毎回どのようにして行うのか、イメージトレーニングをしたほうがよいです。

 

イメージを持つと現実とのズレから生じるフィードバックによって、次につながる「小さな問い」が生まれやすくなります。

 

仕事にしても新しい習慣にしても、不用意に始める人が多くいます。始める前に毎回、イメージトレーニングするのは面倒ですが、面倒なことを続けた人だけが、とてつもなく高い水準にまで成長できるのです。

 

「とりあえずやってみよう」というのは、少なくとも習慣化には貢献しません。

 

 

■目標行動は毎日変えてよい

 

人は毎日体調が違います。そのため、トップアスリートになるほど、その日の体調に応じて小さな報酬を柔軟に設定し直しています。

 

たとえばスポーツ選手が、毎朝の体調に応じて、不調の日は普通に戻すことを意識し、逆に好調の日も普通に戻すことを意識するといった具合です。

 

なぜなら不調も好調も続かないので、長く続けようと思えば普通の体調の時に想定される小さな報酬を基準にするのが望ましいからです。

 

 

■余白を持つ

 

脳もウォームアップとクールダウンが必要です。そのため1時間勉強に集中しようと思うなら、その前後に余白を持たせることが必要です。

 

たとえば、何か資格の勉強をするときに、2時間予定を開けておき、その中で1時間半勉強できたらよいと考える方がよいでしょう。

 

 

■1人で始めない

 

人は弱いので、たった1人で長く続けるのはとても難しいです。最低2人の仲間と集い3人以上で始めると、たとえ自分ともう1人の仲間がやりたくなくても、最後の1人が支えてくれることになります。

 

また仲間の取り組みを観察することで、自分自身の取り組みを客観視でき、小さな問いや小さな報酬の設定が巧みになっていきます。

 

よくSNSなどで互の勉強時間を公開するとよいということがありますが、相互に進捗状況をチェックしたり、励まし合ったりといったことが可能で、まったく理にかなっているといえます。

 

たとえ相手が自分と同じ習慣化を図ろうとしていなくても、効果があります。たとえば家族や友人に「今日はこれだけやった」という習慣化の進捗状況を報告するというのはよいアイデアではないでしょうか。

 

「他人を巻き込むこと」は習慣化の重要な要件です。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017 02 月号 (続ける力)』ダイヤモンド社

よい習慣はどうやって実践できるか?③

「続ける」ための10か条の続きです。

 

■完璧主義にならない

 

どんな状況でも必ずやらねばならないとストイックになる必要はありません。それに毎日30分やるというような厳格なルールを定めても、気乗りがしなくて進歩がなければ無意味です。

 

「雨が降ったら運動しなくていい」「飲み会あったら勉強しない(程度ありますが)」といったように、ルールを見直すことも重要です。

 

また、完璧になどということはそもそも無理があります。完璧にやるという絶対的な基準を設けると、それが実現しなかった場合に、あっさり諦めるということにもなりかねません。

 

 

■続かないのを自分のせいにしない

 

これに取り組むと決めたのに続けられなかったら、「自分の意志が弱いんだ」と思いがちです。続けられないときは、他の方法を試してみましょう。方法論の浮気は問題ありません。むしろ、始めるときに他の方法がいくつもある状態が望ましいです。

 

できなかったときは、自分の意志のせいにせず、方法論の責任にするとよいです。その意味では、三日坊主と言われても気にしないことです。むしろ三日しか続かないものを10個用意して、1ヶ月かけて何が自分に合っているかを探したほうが、次に続ける上で重要です。

 

スポーツ心理学では、意志の力で短期的には頑張れても、長く続ける力につながらないことが、すでに1950年代に明らかにされています。

 

当時のスポーツ選手は、長い時間、一生懸命頑張って、たくさん競争すれば強くなると単純に考えていたようです。しかし、その方法では怪我人が続出したり、燃え尽きてしまう選手が後を絶たなかったりしたのです。

 

 

■続ける理由を探す

 

始める理由と続ける理由は違います。始める時は「こうなりたい」という大きな目標を起点にしてもよいですが、それだけでは続きません。

 

なぜなら「偽りの希望症候群」という状態が知られていて、たとえば英語を話せるようになりたいという大きな夢を持つと、それだけで脳は気持ちよくなってしまいます。その気持ちよさが満足感を生み、続けることができなくなるのです。

 

よって、始めたことに満足せず、続ける理由を発見することが重要です。多くの場合、続く理由は、「楽しいから」です。ゆえに日々行っていることが楽しいかどうか振り返り、楽しくないのならどうすればよいか工夫していくことが重要です。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 201702 月号 (続ける力)』ダイヤモンド社

 

よい習慣はどうやって実践できるか?②

■「続ける」ための10か条

 

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017 02 月号 (続ける力)』に、「続ける」ための10か条というものが掲載されていました。多少、私の考えも加えながら取り上げたいと思います。

 

  選択肢を減らす

  きちんと寝る

  飽きたらやめる

  完璧主義にならない

  続かないのを意志のせいにしない

  続ける理由を探す

  うかつに始めない

  目標行動は毎日変えてよい

  余白を持つ

  1人で始めない

 

 

■選択肢を減らす

 

何かを新しく始めようと思った時は、何か他のことを減らすという決断が必要です。今すでにしている活動から何も減らさずに、新たに30分の時間を確保しようとするのは難しいでしょう。始めること、続けることを考える前に、何をやめるかを考えることが先になります。

 

たとえば資格の勉強を始めるとしたら、これまでと同様の生活を送ることは困難です。テレビを見ないとか、無駄な仕事を減らすとか、何かを減らす必要があります。

 

 

きちんと寝る

 

何かを続けるために睡眠時間を削るのは避けましょう。トップパフォーマーと言われる人はよく寝ています。拷問で一番きついのは、寝かせないことだと聞いたことがあります、寝不足状態が続けば精神的にも肉体的にも継続は困難です。

 

睡眠を「成長にとってムダなもの」と誤解している人がいますが、睡眠時に人間は成長します。記憶が再統合され、定着するからです。

 

 

■飽きたらやめる

 

脳であれ体であれ、リカバリーの時間は必要です。疲労は「飽きる」「疲れる」「眠くなる」の順でやってきます。疲れたり、眠くなったりしてから休息をとっても回復に時間がかかります。

 

そのため飽きたらやめてリカバリーすることが望ましいです。そして、そもそも何に対して飽きているのかよく振り返り、次につなげることが重要です。

(つづく)

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017 02 月号 (続ける力)』ダイヤモンド社

よい習慣はどうやって実践できるか?①

■習慣のしくみ

 

朝型になる、教養を身に付ける、語学力を習得する、運動をするなど、よい習慣を身につけようとしてもなかなかうまくいきません。今回は「よい習慣を身につけるのはどうすればよいか」を考えたいと思います。

 

そもそも習慣とは、「あるきっかけに対して、ある行動をした結果、報酬が得られる」というループで成り立ちます。ある修道院の教育では、「私たちが祈る理由は1つしかありません。それは、祈りを告げる鐘がなるからです」と教えるそうです。この場合、「鐘」がきっかけ、「祈る」が行動、「癒される」が報酬ということになります。この「きっかけ⇒行動⇒報酬」のループをどうやって作るかが習慣化のカギとなります。

 

 

■習慣化がうまくできない理由

 

しかしながら、「きっかけ⇒行動⇒報酬」のループはなかなかうまくできません。みなさんは、年始に何か新しいことを始めようとするときに、「大きなことをしよう」「大きく自分を変えよう」とするはずです。大きく変わることは大きな報酬を意味するからです。

 

しかしこの一念発起というのが習慣化の妨げになります。なぜかといえば、大きく変わることを、それまでの習慣を司る脳が拒絶するからです。「大きな変化は大きな脅威」ととらえられます。

 

 

■「小さな問い」と「小さな報酬」を繰り返す

 

では、どうすれば「きっかけ⇒行動⇒報酬」のループを作ることが出来るのでしょうか。それは、「小さな問い(きっかけ)⇒小さな行動⇒小さな報酬」のサイクルを繰り返しながら、結果的に大きな報酬に結びつけるというやり方です。そのためには、報酬を小さくする必要があります。

 

たとえば営業マンが「今年こそ営業成績を上げるぞ」と決意したとします。営業成績は営業マンの報酬とします。ここで達成したい営業成績を明確に、かつ小さく設定することが大切です。明確でなければ、達成したかどうかわからず、次につながる「小さな問い(きっかけ)」とならないからです。

 

たとえば、「社内で営業成績トップになる」というのは、大きすぎる例です。「毎日、顧客の訪問件数を1件増やす」という小さな報酬で十分です。その場合、「訪問件数を1件増やすにはどうすればよいか」という「小さな問い」が生まれやすくなります。

 

「小さな問い」ができれば、好奇心に導かれて「行動」に至り、想定した結果が得られることー求めていた「報酬」につながれば、また次の「小さな問い」が生まれます。この「きっかけ⇒行動⇒報酬」のループが回ることで、継続と成長の習慣が生まれます。

 

 

【参考】

『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017 02 月号 (続ける力)』ダイヤモンド社

プラシーボ効果⑥(劣等感の呪縛を解くには)

ステレオタイプの悪影響を明確に否定する

 

ステレオタイプの悪影響は、それによって生じている不安の存在に気がつくだけでも大きく軽減されることが、2009年の実験結果でわかっています。

 

「女性は数学が苦手」というステレオタイプがあります。この実験ではこれは統計学入門の授業をとっていた学生に数学の文章問題を解いてもらうという実験です。まず学生を3つのグループに分けました。

 

・1つめのグループには、事前に「性別によって数学の能力に違いがあるかを調べるための実験」と告げておく。

・2つめのグループには、事前に「あくまで人間の認知能力についての研究の一環であり、数学のテストではない」と告げておく。

・3つめのグループには、「これは数学のテストである」とはっきり告げたあと、「女性は数学が苦手だというステレオタイプがあるが、それはこのテストの出来不出来には一切関係がない」という。

 

結果は、1つめのグループでは、女性の成績が男性に比べて大幅に悪くなりました。これは、「女性は数学が苦手」というステレオタイプの罠に自らハマってしまったといえます。

 

しかし2つめ、3つめのグループでは、男女で大きな成績の違いは見られませんでした。ステレオタイプについて一切意識させなかった場合、そして反対にステレオタイプについて詳しく触れたあとで悪影響を明確に否定した場合には、成績低下を防げたということです。

 

3つめのグループでは、詳しい説明を聞いたことで、女性たちが自分の不安を客観視でき、影響が抑えられたと考えられます。

 

 

■不安と向き合う

 

ちなみに不安を客観視することで不安を克服できるという研究成果もあります。

 

高校生を対象に試験前の10分間時間を与え、その試験にどのような不安を抱えているか文章に書かせると、書かせない場合よりも、点数がよくなったそうです。

 

GRE(大学院進学適性試験)の模試を受験する大学院生を対象に、「緊張感や興奮によって手に汗をかいたり、胃が痛んだりするのは良い兆候。そういうときは良い成績が取れることが多い」と告げると、数学の成績が格段によくなったそうです(言語系の試験ではかわりませんでしたが)。

 

また、黒人の中学生を対象にした実験では、試験を「自分の能力が測られる機会」ではなく、「挑戦すべき課題」と捉えるようにいうと、ステレオタイプの脅威を回避するのに十分効果があることが確認されています。

 

否定的なステレオタイプによって不安が生じたら、それは良い方向に進むためのエネルギーとなると考えるべきなのです。

 

私が担当している中小企業診断士の2次試験が10月21日にありますが、受験生の方にも是非試して頂きたいです。

 

 

【参考】

『「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか』クリス・バーディック著 CCCメディアハウス

プラシーボ効果⑤(劣等感の心理)

プラシーボ効果は、思い込みによるものです。「病は気から」というように、思い込みは必ずしも悪いものではありませんが、劣等感の原因にもなります。今回はステレオタイプ的な思い込みが行動にどう影響するのかを見ていきたいと思います。

 

■人種のステレオタイプの影響

 

「黒人は白人に比べて知性が劣る」というステレオタイプがあります。

 

スタンフォード大学で、黒人と白人の学生を大量に集め、同じ試験を受けさせる実験をしました。試験内容は同じですが、試験の趣旨説明は2つ用意しました。1つは、「知性の高さを測る試験」であると説明し、もう1つは「科学研究の資料にするための試験」であると説明したのです。

 

後者の説明文を読んだ場合、黒人と白人の学生の成績に違いは見られませんでした。しかし、まったく同内容の試験にもかかわらず、「知性の高さを測る試験」だと言われると黒人学生の点数は白人学生に比べて明らからに低くなりました。

 

研究者は、「黒人は白人に比べて知性が劣る」というステレオタイプに影響されたのではないかと考えています。

 

人種のステレオタイプのイメージの影響は、たとえその人が優秀であっても逃れることができません。

 

一般的に「アジア人は数学が得意」というステレオタイプがあります。同じくスタンフォード大の数学の成績が優秀な白人学生に、SAT(大学進学適性試験)の数学を受けさせる際に、事前に「数学では、どの民族もアジア人には敵わない」と告げると、成績が大きく下がりました。

 

 

■情報の与えられ方によってパフォーマンスが変わる

 

もう少し複雑なケースを見てみます。先に挙げたように、「アジア人は数学が得意」というステレオタイプがあり、それとは別に「女性は数学が苦手」というステレオタイプがあります。それでは、アジア系の女性はどちらにより影響を受けるのでしょうか。

 

アジア系のアメリカ人を集めて数学の試験を受けさせた実験があります。1つめのグループには、「家族はアメリカに住み始めて何世代目ですか」と自分の民族的出自を強く意識させる事前アンケートをしました。2つめのグループには、「家庭は男女同居ですか。それとも女性のみですか」という自分の性別を意識させる事前アンケートをしました。3つめのグループには何も事前アンケートはありませんでした。

 

結果は、アジア人であることを意識されたグループが最も成績がよく、女性であることを意識されたグループが最も成績が悪かったのです。

 

つまりプライミング(先行情報の与えられ方)によって、影響されるものが異なるのです。ネガティブなステレオタイプのせいできることができなかったり、ポジティブなステレオタイプによって実力以上のことができたりする可能性もあります。

 

 

【参考】

『「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか』クリス・バーディック著 CCCメディアハウス

プラシーボ効果④(操られる心理)

人はちょっとしたことですぐに操られます。今回はいくつかの実験を取り上げます。

 

■偽ブランドを身につけると不正を働きやすくなる

 

女性を対象に不正行為を働くかの実験を行いました。ブランド品だと実験者に言われたサングラスをかけた被験者と、偽ブランドと言われたサングラスをかけた被験者とでは、後者のほうが不正行為を働く割合が高く、他人への猜疑心が強くなりました。

 

これは偽物に影響を受けて人間性に変化を及ぼした結果といえます。偽物のサングラスをつけた被験者は、「偽物を身につけた人は、誠実さにかけ、嘘をつくことを厭わないはずだ」という自分や他人のイメージに沿って行動したと考えられます。

 

 

■ハンサムなアバターを使うと異性に積極的になる

 

アバターを使った実験では、ハンサムなアバターをあてがわれた人は、実際にも異性に自信のある振る舞いをし、背が高いアバターをあてがわれた人は態度が積極的になり、金持ち設定のアバターをあてがわれた人は、実際の懐事情とは別に積極的になるという結果が得られました。

 

 

■老人をイメージすると歩くのが遅くなる

 

ハーバード大の心理学者であるランガーは、被験者を集め単語の並び替え問題をやってもらいました。あるグループには、「忘れっぽい(forgetful)」「体が不自由な(helpless)」「灰色の(gray)」「頑固な(rigid)」「孤独な(lonely)」「しわのよった(wrinkled)」といった老人と関連が深い単語を見せ、もう片方のグループには老人とは無関連な単語を見せて並び換えをさせました。

 

すべて正解したら帰ってよいと告げ、被験者たちは指示通り研究室を出て廊下を歩きます。廊下には研究者が雇ったサクラの学生ガいて、被験者がエレベーターにたどり着くまでにどれくらいかかるか計測しました。

 

結果は、老人と関連が高い単語を見せられた被験者のほうが、歩くスピードが遅くなったということです。

 

 

【参考】

『「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか』クリス・バーディック著 CCCメディアハウス

プラシーボ効果③(なぜ惑わされてしまうのか)

ここまで、人は「あらかじめよいと思うから、実際によいと思う」ということについて触れてきました。

しかし実際の人間の心理はなかなか複雑で、「あらかじめよいと思っていた分だけ、悪く評価する」ということもあります。

 

■対比効果

 

心理学用語に、対比効果というものがあります。以前にも取り上げましたが再掲します。対比効果とは、期待と実際のパフォーマンスの食い違いが、実際よりも大きく見えてしまうことです。

 

高い期待をもって入ったレストランで、些細な言葉遣いの悪い対応を受けたとします。本来なら、小さなミスであっても、それがとても重大なことと感じられることはあるでしょう。評価の高い映画を見に行ったら、それほどでもなく、逆に酷評したなんてことは誰でも経験があるのではないでしょうか。

 

ワインでも同じことがいえます。もともと低評価のワインにわざと高い値段をつけると、売れ行きが落ちました。プラシーボ効果によれば、高い値段をつければ、人はそれがよいものと思い込み、その結果、よいと判断するはずですが、逆の結果が得られました。

 

人は期待が高いと、その分だけ評価基準が高くなります。そして、それが裏切られた場合には大きな憤りを感じます。ワインの実験は人々に絶対的な基準があったからだといえ、それを下回ったので実際よりもギャップが大きく見え、酷評につながったのです。

 

対比効果はよい評価にもつながります、期待する基準を超えれば、実際以上にそのギャップが大きく感じるので、かなり高い評価をつけることになります。

 

 

■プラシーボの呪縛を逃れるには

 

こう考えると、プラシーボ効果は、自分にはっきりとした基準がないので、ブランド品や高価格のものに過度に高い評価をしてしまうことで生じるということになります。当たり前の話になりますが、価格やブランド名の呪縛を離れ、まずは自分なりの基準を明確化することが求められます。

 

【参考】

『「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか』クリス・バーディック著 CCCメディアハウス

プラシーボ効果②(本当にソムリエは味が分かるのか?)

前回は、プラシーボ効果(偽薬効果)を取り上げ、有名ブランドであるほど、そして値段か高いほど、私たちは効用が高いと判断してしまうということについて触れました。

 

■ソムリエは本当にワインの味の違いが分かるのか?

 

私の知人でも、いわゆるワイン通という方がいらっしゃるので、なかなか言いにくいのですが、「ソムリエは果たしてワインの善し悪しを判断できるのか」という意地悪なことを考えてしまいます。

 

結論から言うと、残念ながら圧倒的にソムリエには不利な実験結果が出ています。いち例として、2001年にフランスのソムリエに行った実験を紹介します。

 

実験では、高くも安くもないボルドーワインを、1本はグラン・クリュという高価なワインのボトルに、もう1本は安価なテーブルワインのボトルに入れました。

 

中身は同じはずなのに、ソムリエたちはグラン・クリュのボトルから注がれたほうのワインを圧倒的に高く評価し、「素晴らしい。バランスが取れていて香りもよい」などと口々に褒めたのに対し、テーブルワインのボトルから注がれたものに対しては、「コクがないし、バランスも悪い。味が平板で飲んでもあまり印象がない」と低い評価ばかり聞かれました。

 

ソムリエの能力を全否定するつもりはありません。プロとされる評論家が酷評した作品が後に名作と評価されるといったことはよくあることですが、少なくとも素人よりはその道に精通しているでしょう。ソムリエの能力もその程度のものと考えておくべきでしょう。

 

 

■「好きだと思うから好き」になる

 

プラシーボ効果は、「効くと思うから実際に効く」という効果です。ここで行動経済学者のダン・アニエリーの学生を対象にした実験を紹介します。

 

・一方のグループに普通のビールを飲ませ、もう片方のグループには食用酢入のビールを飲ませて、どちらが旨いか尋ねた。

・あらかじめどちらかに酢が入っていると伝えた後に、普通のビールと食用酢入のビールを飲ませて、どちらが旨いか尋ねた。・

・普通のビールと食用酢入のビールを飲ませた後に、どちらかに酢が入っていることを伝え、どちらが旨いか尋ねた。

 

まず1つめについて、半分以上が酢入のビールのほうが旨いと答えました。素人にブラインドテイスティングを行うと、まず味の違いが分からないというのはテレビ番組でもお馴染みですから、特に意外な結果でもないでしょう。ある実験では、コカコーラとペプシコーラの違いすらほとんど分からなかったという結果もあります。

 

興味深いのは、2つめと3つめです。酢入のビールときたら、普通は不快感を持つでしょう。ただし酢が入っているという事実は変わりないのですから、合理的に考えればいつ知ろうが評価には影響しないはずです。

 

しかしながら、事前にどちらかのビールに酢が入っていると聞かされた被験者の70%は普通のビールのほうが旨いと答えたのに対し、飲んだ後に聞かされた被験者の半数以上が酢入のビールのほうが旨いと答えたのです。

 

つまり体験後に得た情報は体験の質にあまり影響を与えず、体験前の情報が体験の質に影響を与えるということです。「嫌いだと思うから嫌い」「好きだと思うから好き」になるのです。

 

多くの有名ブランドが多額のマーケティングコストをかけてCMを行う理由がここにあります。まずは広告で消費者に自社ブランドを好きになったもらい、好きだと思わせることで買ってもらい、さらに購入後の使用による満足度を高くさせるのです。

 

【参考】

『「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか』クリス・バーディック著 CCCメディアハウス

 

プラシーボ効果①(偽物でも効果がある)

■偽薬でも本物と同じように効く?

 

プラシーボ効果(偽薬効果)とは、実際にはまったく効用のない薬が、効き目をもたらすというものです。つまり、「薬を飲んだのだから効くんだ」と思い込むことで実際に体調が良くなるという、一種の暗示効果です。

 

数多くの実験で、プラシーボ効果が確認されています。たとえば、モルヒネと偽った生理食塩水を服用したグループと、何も服用しなかったグループとで、痛みに対する我慢大会を行ったところ、なにも効用がないはずの生理食塩水を服用したグループのほうが痛みへの耐久度が高くなりました。

 

また偽物のステロイドを投与されたグループと、そうでないグループとで重量挙げの成績を比べたところ、前者のほうが成績がよかったというものもあります。

 

よくスポーツ選手のドーピング問題が話題になります。禁止薬物は一切服用してはならないわけではなく、大会直前の一定期間の服用が禁止されているに過ぎません。そうであるならば、チームドクターやコーチが、大会よりかなり前には、選手に本物のモルヒネを与え続け、直前になったら偽物を与えたらどうでしょうか?実際には、選手を騙すという倫理上の問題がありますから、実際に実行するのは困難ですが、興味深いところではあります。。

 

 

■ジェネリックよりブランド品のほうが効き目がある?

 

1980年代にイギリスの研究者が行った調査によると、頭痛を抱えた患者が同じようにアスピリンを服用しても、それが有名ブランドの薬だと思って飲んだ場合のほうが、ジェネリック医薬品だと思って飲んだ場合よりも効き目があることが分かりました。

 

また、有名ブランドの薬のラベルを見せると、実際に服用したのがプラシーボであっても効果が高まることもわかっています。

 

 

■価格が高いほど効き目がある?

 

また価格の影響もあります。2006年にMITとスタンフォード大の研究者が次のような実験を行いました。まず、被験者に何度が電気ショックを与えました。その後、「新開発の鎮痛薬」と称してプラシーボを投与してから、再び最初と同じ強さの電気ショックを何度か与えました。

 

一部の被験者には投与したニセの鎮痛薬を1錠当たり2ドル50セントと伝え、残りの被験者には「元は1錠当たり2ドル50セントであったが、今は10セントまで値下がりした」と伝えました。

 

結果は、どちらの被験者にもニセの鎮痛剤を投与したにもかかわらず、2ドル50セントと伝えられた被験者は85%が痛みが和らいだと答えたにもかかわらず、10セントに値下がりしたと伝えられた被験者はその割合が60%にとどまりました。

 

値段か高いほど、私たちは効用が高いと判断してしまうのです。

 

薬局で薬剤師がジェネリック医薬品の説明をするのも、薬代の節約のほかに、患者の回復のために「ジェネリックでも効き目は変わらない」ということを強調するためなのでしょう。

 

【参考】

『「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか』クリス・バーディック著 CCCメディアハウス

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR