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否定的な言い方には説得力がある(説得の技法④)

 ■否定的な言い方には説得力がある

 

賞賛のパターン

「○○の主張は非常によくできていると思う。顧客のニーズ、当社の経営資源、対競合の観点から立論されており説得力が高い。また数値データが複数示されており、客観性が高い点も高評価だ。総じて妥当性が高く、十分に検討に値する。」

 

非難のパターン

「○○の主張はあまりできがよいとはいえない。顧客のニーズ、当社の経営資源、対競合の観点から立案したいところであるが、それが十分に配慮されておらず、説得力が低い。また複数示されている数値データの客観性の確保が不十分である。総じて妥当性が高くなく、検討に値しない。」

 

ハーバード・ビジネス・スクールの実験では、上記のような賞賛のパターンと非難のパターンの両方を見せられると、被験者の43%が賞賛のパターンの書き手を、57%が非難のパターンの書き手を「頭が良さそう」と答えたそうです。

 

また、被験者の42%が賞賛のパターンの書き手を、58%が非難のパターンの書き手を「ビジネスに詳しそうだ」と答えたそうです。

 

つまり内容には関係なく、否定的な言い方には説得力があるのです。

 

 

■思慮深さをアピールしたいからこそ非難する?

 

非難ばかりするということは、そもそも感じが悪く、人間関係にもよい影響を与えません。しかし、その一方で、否定的な言い方には、伝えている内容に信憑性を含ませられるという側面があります。話に知性が感じられ、思慮深く感じられるのです。メディアの報道をみると、とにかく政権批判が目立ちますが、それもメディア側が思慮深いことを印象づけたいのかもしれません。

 

 

■自分の主張にあえて否定的な面を盛り込む

 

否定的な言い方には、伝えている内容に信憑性を含ませられるという側面を、もう少し建設的に利用できないものでしょうか。

 

たとえばプレゼンテーションをするときに、一部に自ら否定的なコメントをすると説得力が増します。たとえば。「私の企画に対し、顧客調査が不十分だと異を唱える方もおられるでしょう。確かにその点は認めざるを得ません。しかし、仮説としては十分に検討に値するのではないでしょうか」といった具合です。自分の意見のデメリットを入れるのも可です。

 

単に一方的に自分の意見の正当性を主張するよりも、はるかに周りの同意を得やすくなるでしょう。

 

 

【参考】

『図解 モチベーション大百科』池田貴将著 サンクチュアリ出版

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衝動買いをおさえるための工夫

■計画がないと衝動で動く

 

ヴァージニア大学のティム・ウィルソンとハーバード大学のダン・ギルバートの実験をご紹介します。

 

スーパーに来たお客に無作為に声をかけ、「空腹ですが?」とたずねた上で、何を買うか予定を教えてもらいます。

 

「はい」と答えた客と「いいえ」と答えた客を観察したところ、「はい」と答えた客のほうが、アイスやポテトチップスなど予定になかった商品を多く買っていました。

 

次に買い物リストを紙に書いてから入店してもらったところ、「はい」と答えた客も「いいえ」と答えた客も、予定外の買い物はほとんどなくなりました。

 

つまり、計画をもたず、記憶を頼りにすると、誘惑に弱くなるのです。

 

「何かいいものがあったら買おう」という気分で店に入ってしまうのが、一番衝動買いの危険が高いということですね。

 

「ダイエットをしたいなら、食べ物が目に入らないようにするとよい」と言われます。同じように衝動買いをしたくなかったら、あらかじめ買うものを決めておき、入店したらそれだけを目指して店内を進むに限ります。

 

しかしながら、インターネットに日々接していると、次から次に商品広告が入るので、つい誘惑に負けてしまうこともあるでしょう。衝動買いをさせるのがネット広告のねらいなので、こちらは別に対処法を考える必要があります。

 

たとえば、そもそもネットを見ないようにするとか、月単位で買うものや買う額を決めて記録しておくとか、買い物をする時間を決めておくといった工夫が必要です。

 

 

To-Doリストの必要性

 

人は状況によって都合よくごまかす傾向があります。計画がないと、情動的に行動しがちです。

 

仕事も同様で、1日の計画がないと、気分で仕事をこなしてしまったり、インターネットの誘惑に負けたり、SNSに没頭してしまったりして、本来やるべき仕事がやれなかったなんていうことになります。

 

To-Doリスト」を書いて、計画的に仕事をこなしていきたいものです。

 

 

【参考】

『図解 モチベーション大百科』池田貴将著 サンクチュアリ出版

他人への影響を伝える(説得の技法③)

■他人にどういう影響を与えるかを強調する

 

ペンシルベニア大学の組織心理学者グラントとホフマンの実験を紹介します。

 

医師や看護師にこまめな手洗いを促すために、病院の洗面所付近に次の貼り紙をします。

 

貼り紙A

手の清潔さは、あなたを病気から守ります。

貼り紙B

手の清潔さは、患者を病気から守ります。

 

結果は、次のとおりです。

貼り紙Aでは手洗いの頻度も石鹸の使用量も変わりませんでした。貼り紙Bでは、手洗いの頻度が10%増え、石鹸の使用量は45%増えました。

 

つまり自分の行動が他人にどういう影響を与えるかという点を強調すると、関心を持ってもらいやすいのです。

 

 

■結果より妥当性に焦点を当てる

 

「君がこうしないと、君にこういったデメリットがある」という説得のしかたを考えてみましょう。この場合、言われた方は結果に注目します。「オレ、毎回手を洗ってないけど、別に健康だし」となってしまい、説得を受け入れにくくなります。

 

一方、「君がこうしてくれないと、他人にこういった損がある」という説得の仕方では、相手は「患者を病気から守るためには自分はどうするのが妥当か」という妥当性に着目します。その結果、「石鹸を使って洗ったほうが感染しにくいだろう」という結論に至りやすくなります。

 

困った人がいたら、その人の欠点を指摘するよりも、他人への影響を指摘することのほうが有効です。

 

 

【参考】

『図解 モチベーション大百科』池田貴将著 サンクチュアリ出版

やる理由よりもやる手順

■理由よりも手順

 

心理学者のトローペとリーベルマンの実験を紹介します。

 

学生たちに次のようなお願いしをします。

「人間の行動に関する調査のため、アンケートの協力をお願いしています。3週間以内にアンケートの回答を送ってくれた方には謝礼を差し上げます。」

 

このお願いをする前に、学生たちを2つのグループに分け、あらかじめ次のことをやってもらいました。

 

Aグループ

「日記を書く」「銀行口座を開く」「旅行する」など10個の行動を見せて、人はなぜこれらの行動をするのか、理由を書いてもらいました。

 

Bグループ

Aチームと同じ10個の行動を見せて、どのようにすればそれができるか、具体的な手順を書いてもらいました。

 

Bグループの学生は、Aグループの学生より、平均10日速くアンケートの回答を送りました。

 

 

■手続きさえ明らかであれば体が動く

 

人間は理由を考える生き物です。しかし、理由を考え出すと、ハマってしまい、だんだん腰が重くなります。よって、「まず何をするか」に意識を向けることが有効です。特にミスをしたときは、「なぜミスをしたか」も大事ですが、それよりも対処が優先されますから、「何をするか」に意識を向けましょう。

 

面倒に思えることでも、手続きさえ明らかであれば、あとは体が勝手に動いてくれます。どうやるかの手順を書き出してみましょう。だいぶ心が落ち着くはずです。

 

 

【参考】

『図解 モチベーション大百科』池田貴将著 サンクチュアリ出版

周りの行動で判断する(多元的無知)

■キティ・ジェノヴィーズ事件

 

1964年、ニューヨークのある深夜、自宅アパート前でキティ・ジェノヴィーズが暴漢に襲われた際、彼女の叫び声で付近の住民38人が事件に気づき目撃していたにもかかわらず、誰一人警察に通報せず助けにも入らなかったという事件が起きました。

 

結局、暴漢がその後二度現場に戻り、彼女を傷害・強姦したにもかかわらずその間誰も助けには来ず、彼女は死亡してしまい、当時のマスコミは都会人の冷淡さとしてこの事件を大々的に報道しました。「住民たちはあまりに他人に無関心であった」と。

 

 

■多くの人が気づいたからこそ、誰も行動を起こさない?

 

心理学者のラタネとダーリーは、キティ・ジェノヴィーズ事件に興味を持ち、「多くの人が気づいたからこそ、誰も行動を起こさなかった」と仮説を立て実験を行いました。

 

実験A

仕掛人の学生が、路上でてんかんの発作に見舞われたふりをします。そこを通りかかった被験者が、仕掛人を助けるかどうかを調査しました。

 

被験者が1人だった場合

⇒仕掛人を助けた人は8割以上。

被験者が5人以上のグループだった場合

⇒仕掛人を助けた人は約3割に留まる。

 

実験B

被験者に部屋で作業をしてもらいます。その部屋に煙を流し込みます。

 

被験者が1人だった場合

⇒通報した人は7割以上

被験者が3人だった場合(そのうち2人はサクラで気がつかないフリをする)

⇒通報した人は約1割に留まる

 

 

■不安さから行動を控えてしまう

 

目の前で突然、緊急事態が発生した場合、私たちは本当に緊急事態が発生しているのか確信がもてません。そこで周りの人間の行動に判断基準を求めます。周りの人が誰も反応しなかったら、緊急事態ではないのだろうと認識します(多元的無知)

 

また確信が持てないので、慌てて行動して失敗することを恐れますから、対応にブレーキをかけることになります。

 

さらに集団になると責任が分散されますから、何も自分がやらなくてもいいだろうという気分になります。

 

キティ・ジェノヴィーズ事件で住民たちが誰も彼女を助けなかったのは、「本当に緊急事態なの?」「慌てて助けに行って恥をかくのはヤダな」「誰かが助けにいくだろう」という心理が混ざり合った結果ともいえます。

 

 

■助けを求めたいなら、緊急性と個人指名が基本

 

人間にはこのように集団になると行動に起こせなくなるという傾向があります。

 

あなたが道で暴漢に襲われたら、まず「緊急事態です。助けて!」と緊急性をアピールしましょう。護身術の教室では、「助けて」ではなく「火事だ」と叫べと教えることがあるそうです。注目してもらうためには具体性があったほうがよいというわけです。

 

そして「誰か助けて」ではなく「そこのグレーのスーツの人、助けて」と具体的に名指しして当事者意識を持たせましょう。

 

仕事でも助けを求めたい場合も同じで、緊急性のアピールと個人指名が基本です。

 

 

【参考】

『図解 モチベーション大百科』池田貴将著 サンクチュアリ出版

『アテンション』ベン・パー著 飛鳥新社

リバース・イノベーション②

前回、リバース・イノベーション(途上国で生まれたイノベーションを先進国に逆流させること)の9つのポイントを取り上げました。これには、企業がイノベーションを推進するための普遍的なテーマが含まれます。

 

 

共食いを恐れない

 

既存のリーダー企業が破壊的な次世代技術の開発に乗り遅れてしまい、その結果、次世代技術が普及すると、衰退してしまうことが見られます。代表的な理論に、イノベーション・ジレンマがあります。

 

その理由の1つとして、カニバリゼーション(共食い)があります。下手に次世代技術が普及すると、既存技術が衰退してしまいドル箱を失いかねないからです。かつてソニーが薄型テレビに出遅れたのは、ブラウン管テレビのトリニトロン技術に圧倒的な強みがあったからだと言われます。

 

カニバリゼーションに対する答えは、至ってシンプルです。「自社がやらなくても、どうせ他社がやる」です。乗り遅れる前に手を出すしかありません。イノベーション・ジレンマを克服するリーダー企業は、既存技術と、破壊的な次世代技術の両利きで開発を行っています。

 

新興国でのイノベーションでも同様です。他社が新興国でイノベーションを起こし、それを先進国で展開するようになってから追随しようと思ってももう遅いのです。

 

また、カニバリゼーションを起こすような製品は、往々にして、それを相殺する効果を伴います。そうした製品が新しい消費を誘発するからです。超低価格によって、高級モデルには決して手を出さなかった人々の需要が掘り起こされます。

 

たとえば、新興国で開発された低価格の小型音波診断装置の新規顧客は、予算がある大型病院ではなく、それまで高額で手が出せなかった小規模な診療所や開業医でした。

 

また、先進国の新規需要の喚起という効果もあります。タタ・モーターズのナノのような超低価格自動車は、先進国のあまり所得が高くない層にも受けるのではないでしょうか。

 

 

カスタマイズ化でごまかさない

 

先進国メーカーは、往々にして先進国での製品から機能を省いた低価格製品を新興国で展開しようとします。つまり既存製品のカスタマイズです。

 

しかしながら、「新興国でイノベーションが生まれる理由①②」で触れたように、新興国の事情は先進国とはまったく異なるものです。よって、ゼロベースでのイノベーションが求められます。

 

 

■独立したチームを設ける

 

先に触れたように、新興国でのイノベーションは、先進国の製品を代替する可能性があります。よって、現在、組織内で幅をきかせている既存技術の部門からの抵抗が予想されます。

 

新興国でのイノベーションを推進するためには、既存部門から完全に独立したチームを編成する必要があります。既存部門内にチームを設けると、潰されてしまいます。

 

しかしながら、ただ単にチームを独立させると、既存部門の疑心暗鬼を招いてしまいます。また、ミッションの成功のためには、チームは必要な支援を既存部門から得るしかありません。

 

よって、経営トップが新興国でのイノベーションに強くコミットし、既存部門がチームを支援することを義務づける必要があります。

 

このような取り組みは、もちろん、破壊的なイノベーションの推進でも求められます。

 

 

【参考】

『リバース・イノベーション』ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著 ダイヤモンド社

『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン著 翔泳社

リバース・イノベーション①

■リバース・イノベーション

 

前回触れたように、むしろ途上国のほうがイノベーションに適しているという面があります。そして、場合によっては、途上国発のイノベーションを先進国に還流させることも可能です。

 

「途上国で生まれたイノベーションを先進国に逆流させること」をリバース・イノベーションといいます。

 

 

■リバース・イノベーションの9つのポイント

 

リバース・イノベーションを行うには、当然ですが、まずは途上国で成功する必要があります。「リバース・イノベーション」の著者である、ビジャイ・ゴビンダラジャンらは、そのための9つの重要ポイントを挙げています。

 

<戦略レベル>

  新興国市場の成長をつかむためには、単なる輸出ではなく、ゼロベースでイノベーションに取り組まなければならない。

  機会を活用して、新興国市場のイノベーションを他の貧困国、富裕国の取り残された市場、そして最終的に富裕国の主流市場へと移転させる。

  いわゆる新興国の巨人を自社のレーダーで補足し続ける。これらの企業は途上国を本拠とし、小さいが急成長を遂げており、いつか既存の多国籍企業を脅かす存在になるというグローバルな野心を持っている。

 

<グローバル組織レベル>

  人材、権限、資金を、成長している場所である途上国に移す。

  リバース・イノベーションのマインドセットを全社的に培う。海外駐在の任務、集中訓練の経験、新興国市場で開催される企業のイベント、創造的な経営陣の登用、はっきりと目に見えるCEOの行動を通じて、新興国市場にスポットライトを当てる。

  途上国ではグローバルとは別の独自の損益計算書を作り、成長性に関する指標を重視した業績評価を別途設ける。

 

<プロジェクト・レベル>

  リバース・イノベーションの機会ごとに最大限のビジネス能力を発揮できるように、ローカル・グロース・チーム(LGT)に権限を移譲する。LGTは創設されたばかりの企業のように振舞わなければならない。

 ・白紙の状態でニーズの評価を行わなければならない。

 ・白紙の状態でソリューションを開発しなければならない。

 ・白紙の状態で組織を設計しなければならない。

  注意深く管理された協力関係を通じて、LGTが自社のグローバルな経営資源の基盤を活用できるようにする。

  迅速かつ経済的に、重要な未知の事柄の解明に注力し、リバース・イノベーションの取り組みを統制のとれた実験として管理する。

 

【参考】

『リバース・イノベーション』ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著 ダイヤモンド社

新興国でイノベーションが生まれる理由②

新興国と先進国との「5つのニーズのギャップ」の続きです。

 

持続可能性

 

「途上国では、地球上で最も深刻な持続可能性に対する様々な脅威に直面している」

 

途上国では深刻な環境汚染が進んでいます。よって、途上国は場合によっては先進国より、次世代の環境ソリューションに熱心に取り組む可能性があります。

 

大気汚染が深刻化している中国のほうが、先進国より電気自動車の普及が進むとの指摘もあります。

 

 

規制のギャップ

 

「途上国では規制が未整備なため、企業が市場をもたらす革新的なソリューションに対して、規制が足を引っ張ることは少ない」

 

先進国では、主に消費者保護の観点から、様々な規制があります。かつては有効に機能していた規制も、形骸化し、単に進化の足かせとなっているものも少なくありません。

 

新興国では規制が少ない分、様々な実験的な取り組みが可能です。

 

 

■好みのギャップ

 

「各国で、はっきりとした味覚や好みの違いがある」

 

食文化をとってみても、「なぜ、こんなものを食べようと思うのだろう」と思うことは多々あります。

 

また、色は、国によって意味合いや印象が異なるそうです。赤はロマンスやセックスと関連づけられるのは多くの文化で共通しますが、インドでは純粋さ、中国では幸運、アフリカの一部では死または活力を象徴します。また、緑は西洋人に自然と平穏さを連想させますが、中国では不義や悪魔祓いを意味するそうです。

 

イノベーションにあたっては、こうした各国の違いを考慮しなければなりません。

 

 

■このままでは日本企業はイノベーション競争に負ける?

 

こうしてみると、グローバル競争における日本企業のイノベーション上の制約や弱点が見えてきます。

 

国内の規制が厳しいため、なかなか実験的な取り組みを行うことができません。たとえば自動運転技術やドローンなどです。こうした分野ではすでに日本企業の立ち遅れが指摘されています。

 

また、既存の技術のインフラが過度に進んでいるので、それを捨て去るようなイノベーションにはどうしても抵抗が生じます。埋没費用(使い続ければ無駄ではないが、使わなくなると無駄になるもの)が生じるからです。

 

埋没費用は無視するのが鉄則としかいいようがありませんが、規制は緩和していかないと日本企業にとって命取りになりかねません。

 

【参考】

『リバース・イノベーション』ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著 ダイヤモンド社

『アテンション』ベン・パー著 飛鳥新社

新興国でイノベーションが生まれる理由①

イノベーションというと先進国発と考えがちです。しかしながら、新興国発のイノベーションも多く生まれており、イノベーションの普及が先進国よりも早いといったケースが見られます。

 

■新興国と先進国とのニーズのギャップ

 

「リバース・イノベーション」の著者である、ビジャイ・ゴビンダラジャンは、新興国と先進国とでは、5つのニーズのギャップがあるといいます。

 

  性能のギャップ

  インフラのギャップ

  持続可能性のギャップ

  規制のギャップ

  好みのギャップ

 

 

性能のギャップ

 

「途上国の顧客は低収入なので、適切な価格なら、性能面を大幅に譲歩しても構わないと思っている。」

 

よく日本製品はハイスペックだが価格が高すぎて新興国市場のニーズにマッチしていないといわれることがあります。よって、現地のニーズを的確にとらえ、15%の価格で50%のソリューションを提供できるように製品やサービスを設計する必要があります。

 

代表例としては、タタ・モーターズのナノ(2000ドル余りの価格の自動車)があります。

 

 

■インフラのギャップ

 

「先進国のインフラは整備されているが、途上国では構築中である」

 

新興国では、先進国がたどったような製品の普及過程が見られないことがあります。たとえばアフリカでは、多くの人が固定電話は持っていないが、スマホは持っているという事象が見られます。

 

また、新興国では、偽造が見られるため紙幣への信頼性が低く、FinTech(金融サービスと情報技術の融合、スマホでの送金など)の普及が早いともいわれています。日本の紙幣は世界でもっとも偽造されにくいと言われ、さらに治安がよく突然現金を奪われるリスクはほとんどないですが、それゆえに現金を持ちたがるという傾向が強いのかもしれません。

 

電気自動車の普及も、もしかしたら新興国のほうが早いかもしれません。先進国では、ガソリンスタンドなどのインフラが十分に整備されているので、ガソリン自動車から電気自動車への転換が遅くなるかもしれません。ガソリン自動車でも満足できてしまうし、ガソリン自動車のインフラを無駄にするようなことはしたがらないからです。ガソリンスタンドや石油会社も抵抗するでしょう。

 

一方、途上国のユーザーは、信頼できるインフラに依存しないソリューションを必要としていますし、インフラが不十分なので最先端のソリューションにすぐに飛びつく用意ができています。

 

【参考】

『リバース・イノベーション』ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著 ダイヤモンド社

 

プロジェクトのバッファマネジメント

前回、プロジェクトのバッファ(余裕)は食いつぶされてしまうことについて触れました。次の図は、タスクABでバッファを食いつぶした結果、タスクCでトラブルが発生すると、当初の30日間の期限が守られなくなることを示しています。


バッファマネジメント 

では、どうすればプロジェクトの期限を守ることが出来るのでしょうか。1つのヒントがバッファマネジメントです。

 

ベストセラーとなった「ザ・ゴール」で有名なエリヤフ・ゴールドラット博士によれば、バッファを食いつぶす理由は「見積もりとバファをいっしょくたにしてしまうから」です。よって、「時間の見積もりとバッファを分けて、バッファはバッファとして別に管理すること」が求められます。

バッファマネジメント2バッファは切り離してまとめて管理することで、「そのうちやるだろう」といった甘い見通しや、「ある限りの時間を使おう」といった時間の浪費を防ぐことができます。

 

【参考】

『プロジェクトを成功させる技術[ハンディ版] 』芝本秀徳著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

プロジェクトが遅れる理由

プロジェクトの期限は大抵は遅れがちです。最初に余裕をもってスケジューリングしたのに、なぜ期限を守れなくなるのでしょうか。

 

■計画錯誤

       

プロジェクトに限ったことではありませんが、人はかかる時間を甘く見積もる傾向があります。時間や予算など計画完遂に必要な資源を常に過小評価し、遂行の容易さを過大評価する傾向のことを、計画錯誤といいます。計画錯誤は、人間が持つ楽観主義によるものです。

 

例えば、論文作成について、学生たちが予想した最短日数の平均は27日で、最長日数は49日でした。しかし、実際にかかった日数は平均56日でした。最短のケースの日数で書き終えた学生はほんの一握りで、最長のケースと予想した日数で書き上げた学生は、半分もいなかったのです。

 

集団になると、個人よりもタスク完了に要する時間を軽く見積もることが、多くの研究で明らかになっています。

 

 

学生症候群

 

納期のある作業を行う際に、余裕時間があればあるほど、実際に作業を開始する時期を遅らせてしまうことを、学生症候群といいます。

 

先ほどの例もそうですが、夏休みの課題について、まだ手をつけなくていいだろうと思っていると、そのうち余裕(バッファ)を食いつぶしてしまうということです。

 

 

パーキンソンの法則

 

パーキンソンの法則とは、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というものです。

 

なぜ、そのようなことになるのでしょうか。たとえば、上司から命じられたあるタスクについて、作業時間を15時間、余裕を5時間と見積もったとします。実際には12時間で終わったとしても、次のタスクが振られてしまうとしたら、どうでしょうか。ブラッシュアップと称して、残った8時間を費やしてしまうことになります。

 

 

■天井効果

 

このことは時間に限ったことではありません。ノルマを達成するとそれ以上に頑張らなくなることを天井効果といいます。営業マンが期のノルマを達成してしまうと、それ以上、頑張らなくなることが典型例です。

 

天井効果には、2つの要因が指摘されています。1つは、これ以上頑張って今期あまりに高い実績を残すと、次期にもっと高い目標を課せられて苦しむことになると予想するため、ほどほどにしておこうという心理が働くということがあります。

 

2つめは、ノルマを達成したかしないかだけで評価がなされ、目標を上回った部分に対する評価がないと、目標以上の成果を出しても意味がないと判断され、目標達成が見えてきたら、もう頑張る気力が沸かなくなるということがあります。

 

 

【参考】

『プロジェクトを成功させる技術[ハンディ版] 』芝本秀徳著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

『モチベーションの新法則』榎本博明著 日本経済新聞出版社

プロジェクトのプランニング(プロジェクトチャーターの作成)

プロジェクトが途中で頓挫してしまう理由の多くは、最初のプランニングが不十分なことにあると私は考えています。

 

このブログでも「プランニングとはSMARTや5WHを決めることである」ということを取り上げましたが、今回はプロジェクトチャーターについて取り上げたいと思います。

 

プロジェクトチャーターとは、プロジェクトメンバー間でプロジェクトの目的や目標を共有化するものです。意外とプロジェクトメンバー間でそれが共有されておらず、一貫した行動がとれないケースは多いです。

 

プロジェクトチャーターには、次のようなことを記載します。

 

・プロジェクト名

・プロジェクトミッション

・プロジェクトの目的とニーズ

・プロジェクトの目標

・チームメンバー

・プロジェクトスポンサー(承認者・支援者)

 

具体例を見てみましょう。

 

<プロジェクト名>

新ソフトウェア展示会出展プロジェクト

 

<プロジェクトミッション>

ソフトウェアExpoTokyo出展

 

<プロジェクトの目的とニーズ>

・新商品の認知度アップ

・販路の拡大

※ここで、目標の共通認識・優先順位を明確にし、合わせて境界条件(目的を達成する上で、やっていいこと、やってはいけないこと)を確認するとよいです。

 

<プロジェクトの成果物・目標>

1来場者数10,000

2販売店新規契約15

3アンケート回収5,000

※後でパフォーマンスが評価できるように、できるだけ定量化しておくことがポイントです。

 

<プロジェクトの期限・予算>

20181220

・予算4,000万円

 

<チームメンバー>

田中、佐々木、山田

※早い段階で役割分担を決め、責任の所在を明らかにします。

 

<プロジェクトリーダー> 

吉本

 

<プロジェクトスポンサー>  

副社長

 

<プロジェクトのステークホルダー>

・販売企画課

・営業部

・生産管理課

・商品設計課

※根回しや支援をお願いする関係部署、場合によっては取引先を列挙しておきます。

 

 

【参考】

『プロジェクトを成功させる技術[ハンディ版] 』芝本秀徳著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

チャレンジャー企業の戦略

リーダー企業にどう挑むか?

 

下位企業がリーダー企業に差別化で挑んでも所詮は真似されて潰されるのがオチです。圧倒的な力を持つ業界のリーダー企業に打ち勝つにはどのような戦略が求められるでしょうか。

 

リーダー企業は、強み(経営資源)があるから、現在の地位があるわけです。よって、その強みを無効化できれば下位企業(チェレンジャー企業)にも大きなチャンスが生まれます。

 

早稲田大学ビジネススクール教授の山田英夫教授は、チャレンジャー企業の戦略を、「リーダー企業が追随したいができない戦略(Cant)」「追随できるが追随したくない戦略(Wont)」「リーダー企業が企業内に蓄積してきた資産(企業資産)を攻撃する戦略」「リーダー企業のユーザー側に蓄積された資産(市場資産)を攻撃する戦略」を軸に、次の4つを示しています。


チャレンジャー戦略 ■企業資産の負債化

 

組み替えの難しい企業資産(ヒト・モノ・カネなど)、および企業グループが保有する資産(系列店、代理店、営業職員など)が価値を持たなくなるような製品・サービスやマネジメントシステムを開発することで、リーダー企業を攻撃する戦略です。

 

たとえば強力な代理店網や大勢の営業職員を抱えた既存保険会社に対するネット型保険の戦略が挙げられます。

 

 

市場資産の負債化

 

リーダー企業の製品・サービスを購入したユーザー側に蓄積され、組み換えの難しい資産(ソフトウエア、交換部品など)が価値を持たなくなるような製品・サービスを開発して、リーダー企業を攻撃する戦略です。

 

たとえば、リーダー企業のユーザーに対して格安の乗り換えプランを進めることがあります。リーダー企業は頬っておけばユーザー数を失いかねませんが、ユーザー数が多いので収益を圧迫する値下げに追随するのは難しくなります。

 

かつてNTTドコモやauと比べてユーザー数が少なかったソフトバンクが、新規契約した顧客に対し「基本料金2880円でソフトバンク同士の通話とメールが無料になる」という戦略(ホワイトプラン)を展開しましたが、これも「市場資産の負債化」の一種といえます。

 

ソフトバンクはユーザー数が少ないので、ユーザー同士の通話を無料にしてもあまり損害はなく、効果的に他社ユーザーを獲得できたのです。

 

 

■論理の自縛化

 

これまでリーダー企業がユーザーに対して発信していた論理と矛盾するような製品・サービスを出すことによって、安易に追随すると大きなイメージダウンを引き起こすのではないかと、リーダー企業内に不協和音を引き起こす戦略です。

 

高価格の高級ブランドに対して、中程度の価格で勝負するケースが挙げられます。リーダー企業は自らの収益を失いかねず、安易に追随できません。

 

 

■事業の共食い化

 

リーダー企業が強みとしてきた製品・サービスと共食い関係にあるような製品・サービスを出すことによって、リーダー企業内に追随すべきか否かの不協和を引き起こす戦略です。

 

たとえば既存技術に圧倒的な強みがあるリーダー企業に対して、次世代技術で攻撃することがあります。リーダー企業は既存技術に圧倒的に強みがあることが通常ですので、容易にそれを捨て去って次世代技術に乗り換えることが難しくなります。

 

かつてソニーはブラウン管テレビに用いられるトリニトロン技術に圧倒的に強みがありましたから、薄型テレビへの移行に遅れたというケースがあります。

 

 

【参考】

『逆転の競争戦略[第3版]』山田英夫著


大きく考え小さくスタートする(リーンスタートアップ)

■大きく考え小さくスタートする

 

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の華麗な成功例がある一方で、数多くのベンチャー企業の倒産があります。ソフトウエア企業の上場率は1%程度で、web関連だとそれ以下だと言われます。

 

8つのベンチャー企業のスタートアップに参加し、そのうち4つを株式公開に導いたスティーブ・ブランクは、スタートアップ企業に求められる4つのステップを提唱しています。

 

  顧客発見(聴いて発見す)

  顧客実証(売って検証)

  顧客開拓(リーチを検証)

  組織構築(本格拡大)

ただし、②でダメならピボットで①に戻る。

 

戦略は軸足を変えながら改善し続け、固まるまではリスクが高い大勝負をしません。

 

 

■実用最小限の製品

 

この考え方を、スティーブ・ブランクの一番弟子的な存在であったエリック・リースがリーンスタートアップとして発展させます。

 

スタートアップ企業は、世の中を変えてやろうという大きな野心を持って起業します。そして、それゆえに商品リリースまでに入念な準備を時間をかけて行いがちです。彼はこれこそが誤りなのだと断じています。

 

それは事前にいくら入念にリサーチしたり分析したりしても、実際にあたるかわからないからです。リースは、トヨタ自動車の「ムダを省く」という思想をスタートアップ企業に持ち込みました。


リーンスタートアップ 

すなわちMVP(実用最小限の製品:minimum viable product)を素早く開発し、それをテストマーケティングして試して検証します。「構築する」「計測する」「学ぶ」のループを高速で回転させるのです。

 

技術志向が高いスタートアップ企業の創業者やエンジニアたちは、「わからないからとにかくやってみよう」とばかり、闇雲にプログラムを書き続けます。しかし、「学ぶ(改善する)」につながらないものは、すべて無駄です。作業は提供価値の向上とアイデアの検証(学び)につながるものだけに絞ることが求められます。

 

 

■リーンスタートアップはビジネス全般に適応できる

 

リーンスタートアップの考え方は、本ブログでも何度か取り上げている仮説検証アプローチにほかなりません。スタートアップ企業のみならず、「どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢」「前提条件を設定して先に進む力」「時間を決めてとにかく結論を出す力」はビジネスに普遍的に求められることです。

 

 

 

【参考】

『リーン・スタートアップ』エリック・リース著 日経BP

『経営戦略全史』三谷宏治著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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