ルール・チェンジャーの戦略⑤(既存企業のルール・チェンジャーへの対抗策2)
既存企業のルール・チェンジャーへの対抗策の続きです。
■秩序破壊型への対抗策
「既存の仕組みを無力化する」秩序破壊型への対抗策としては、自分のビジネスモデルを否定して新しい儲けの仕組みを構築することが考えられます。これまでの儲け方を比定するわけですから、かなり劇薬といえます。
これに果敢に挑んだ例として、ブリヂストンのリトレッド事業があります。これは、使用期限の近づいたタイヤの表面のゴムだけを剥がし、そこへ溝付きのゴムを新たに貼り付けることで、あたかも新品のタイヤのように作り直した再生タイヤを販売するビジネスです。
新品タイヤメーカーのブリヂストンにとっては、確実に新品タイヤの売上減につながります。それでは、なぜこの事業を始めたのでしょうか。それは、ある意味、新興メーカーに対する対抗策としてです。というのも、ブリヂストンが始める前からリトレッド事業を行う企業は存在していました。したがって自社でやらなくても確実に新品タイヤの売上減は簡単に予想できました。さらにリトレッド業者が、中途半端なリトレッドを行うことでタイヤの磨耗が早まったり、バーストが起きたりすることで、オリジナルであるブリヂストンのタイヤそのものの品質が問われてしまうこともあるといいます。
そうであれば、ブリヂストンが自社のしっかりした技術、材料、スタッフを使ってリトレッドを事業として行ったほうが、顧客のコストパフォーマンスが良くなり、自社の販売シェアを維持できると考えたからでしょう。
ネスレ日本が始めたネスカフェ・バリスタも、この戦略で成功しています。バリスタはインスタントコーヒーメーカーであり、自宅や職場で1杯ずつ、おいしいコーヒーをつくることができます。インスタントコーヒーを小売店で販売していた従来のビジネスモデルに対し、販売チャネルは自社直販とし、売り切り型だったものをプリンターのカートリッジなどと同じ交換型に変えることで、新たなビジネスモデルを生み出しました。
さらにネスカフェ・アンバサダーの精度を採用し、オフィスに無料で機械を提供することで、業界の常識を覆しつつも事業として成功しています。
■ビジネス創造型
「新規の製品・サービスを、新規の儲けの仕組みで挑む」ビジネス創造型については、既存企業が同様のビジネス創造に乗り出しても、自社が持つ既存事業を守ることにはなりません。
もちろん既存企業にもビジネス創造型のイノベーションは重要です。しかし、既存事業を守るという文脈においては、仮に新しいビジネス創造に成功しても、既存事業の防衛にはならず、逆に既存事業を破壊する可能性があります。
よって、前回から取り上げた残りの3つの戦略をとることで、収益基盤を確保することになります。
■まずは強みを磨く
既存企業がルール・チェンジャーの前に後退を余儀なくされるのは、やはり慢心につきるように思えます。いつまでも自分たちの天下が続くと思いたいわけです。しかしながら、必ずルール・チェンジャーはやってきます。「自分が他社だったら、どう我社を攻撃するだろうか」考えておく必要があります。
そして実際にルール・チェンジャーが来ても、大抵は取るに足らないものとして片付けようとします。根底にあるのは、新参者への軽蔑です。よって、せっかく強みがあってそれで対抗すればよいのに対応が後手に回ります。
確かにこれまでの強みは、環境が変われば弱みや足かせにもなります。たとえば大勢の営業マンや張り巡らされた拠点網は、ネット時代では単に過大な固定費ともいえます。
ですが、ルール・チェンジャーへの対抗の基本は、自社の強みを活かすことです。そのためには、これまでの強みをさらに徹底的に磨き上げる必要があります。自分たちが強みと考えていたものが、実は大したことがなかったということは結構あります。単にたまたま環境がよかったからこれまで業績がよかっただけなのに、それを自分たちの努力のおかげと勘違いしているのです。この場合、放置すると致命的な事態を招くことになるでしょう。
【参考】
『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2014年4月号デコンストラクション3.0』ダイヤモンド社