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ルール・チェンジャーの戦略⑤(既存企業のルール・チェンジャーへの対抗策2)

既存企業のルール・チェンジャーへの対抗策の続きです。


既存企業のルール・チェンジャーへの対抗策 

■秩序破壊型への対抗策

 

「既存の仕組みを無力化する」秩序破壊型への対抗策としては、自分のビジネスモデルを否定して新しい儲けの仕組みを構築することが考えられます。これまでの儲け方を比定するわけですから、かなり劇薬といえます。

 

これに果敢に挑んだ例として、ブリヂストンのリトレッド事業があります。これは、使用期限の近づいたタイヤの表面のゴムだけを剥がし、そこへ溝付きのゴムを新たに貼り付けることで、あたかも新品のタイヤのように作り直した再生タイヤを販売するビジネスです。

 

新品タイヤメーカーのブリヂストンにとっては、確実に新品タイヤの売上減につながります。それでは、なぜこの事業を始めたのでしょうか。それは、ある意味、新興メーカーに対する対抗策としてです。というのも、ブリヂストンが始める前からリトレッド事業を行う企業は存在していました。したがって自社でやらなくても確実に新品タイヤの売上減は簡単に予想できました。さらにリトレッド業者が、中途半端なリトレッドを行うことでタイヤの磨耗が早まったり、バーストが起きたりすることで、オリジナルであるブリヂストンのタイヤそのものの品質が問われてしまうこともあるといいます。

 

そうであれば、ブリヂストンが自社のしっかりした技術、材料、スタッフを使ってリトレッドを事業として行ったほうが、顧客のコストパフォーマンスが良くなり、自社の販売シェアを維持できると考えたからでしょう。

 

ネスレ日本が始めたネスカフェ・バリスタも、この戦略で成功しています。バリスタはインスタントコーヒーメーカーであり、自宅や職場で1杯ずつ、おいしいコーヒーをつくることができます。インスタントコーヒーを小売店で販売していた従来のビジネスモデルに対し、販売チャネルは自社直販とし、売り切り型だったものをプリンターのカートリッジなどと同じ交換型に変えることで、新たなビジネスモデルを生み出しました。

 

さらにネスカフェ・アンバサダーの精度を採用し、オフィスに無料で機械を提供することで、業界の常識を覆しつつも事業として成功しています。

 

 

ビジネス創造型

 

「新規の製品・サービスを、新規の儲けの仕組みで挑む」ビジネス創造型については、既存企業が同様のビジネス創造に乗り出しても、自社が持つ既存事業を守ることにはなりません。

 

もちろん既存企業にもビジネス創造型のイノベーションは重要です。しかし、既存事業を守るという文脈においては、仮に新しいビジネス創造に成功しても、既存事業の防衛にはならず、逆に既存事業を破壊する可能性があります。

 

よって、前回から取り上げた残りの3つの戦略をとることで、収益基盤を確保することになります。

 

 

■まずは強みを磨く

 

既存企業がルール・チェンジャーの前に後退を余儀なくされるのは、やはり慢心につきるように思えます。いつまでも自分たちの天下が続くと思いたいわけです。しかしながら、必ずルール・チェンジャーはやってきます。「自分が他社だったら、どう我社を攻撃するだろうか」考えておく必要があります。

 

そして実際にルール・チェンジャーが来ても、大抵は取るに足らないものとして片付けようとします。根底にあるのは、新参者への軽蔑です。よって、せっかく強みがあってそれで対抗すればよいのに対応が後手に回ります。

 

確かにこれまでの強みは、環境が変われば弱みや足かせにもなります。たとえば大勢の営業マンや張り巡らされた拠点網は、ネット時代では単に過大な固定費ともいえます。

 

ですが、ルール・チェンジャーへの対抗の基本は、自社の強みを活かすことです。そのためには、これまでの強みをさらに徹底的に磨き上げる必要があります。自分たちが強みと考えていたものが、実は大したことがなかったということは結構あります。単にたまたま環境がよかったからこれまで業績がよかっただけなのに、それを自分たちの努力のおかげと勘違いしているのです。この場合、放置すると致命的な事態を招くことになるでしょう。

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3.0』ダイヤモンド社

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ルール・チェンジャーの戦略④(既存企業のルール・チェンジャーへの対抗策1)

これまで既存企業に挑むルール・チェンジャーの4つの戦略について見てきました。それでは既存企業はどう対抗すればよいのでしょうか?既存企業の守り方は、ルール・チェンジャーの4類型と基本は同じです。

 

ただし自分たちの事業領域に入ってきた新興プレイヤーと同じやり方をしても上手くいきません。なぜなら、彼らは既存のビジネスモデルを知った上で、それを壊す、あるいは逆襲できないようなやり方をしてくるからです。

 

そのため、相手の戦い方と同じボックスに入るやり方は得策ではないと考えられます。これまでの自社の強みやビジネスを尊重しながら独自の対抗策を考えることになります。


既存企業のルール・チェンジャーへの対抗策 出典:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3,0

 

■プロセス改革型への対抗策

 

バリューチェーンを再構築することで挑んでくるプロセス改革型には、自社の強みを失わず、バリューチェーンを再構築して強化する方法があります。

 

たとえば野村證券は、株式売買手数料を下げずに、ネット証券と戦っています。ネット証券のように手数料を安くしてもコストで不利を強いられるため、デイトレーダーのような低価格を求める人はネット証券に任せて、自社の優良顧客が離れていなないように工夫しました。

 

優良顧客のネットへのニーズは手数料の安さではなく、時間外(夜間・土日)でも株価を見たり、取引が出来るたりすること。そこで野村證券は、店頭あるいは営業マン対応が基本の自社顧客へ、追加的なサービスとしてネット取引を提供したのです。

 

コマツのKOMATRAXもプロセス改良型の例です。KOMATRAXとは、建設機械の情報を遠隔で確認するためのシステムで、世界中で導入されています。さらにKOMATRAXから送信される車輌情報は無償で顧客に提供しています。コマツが建機をユーザーに販売し、販売代金で儲けるという仕組みは何も変わっていないですが、新興国の価格訴求の競争相手に対して、付加価値で勝負しています。

 

ユーザーの建機使用状況をリモートで監視することで、顧客の建機の使い方、あるいは消耗部品がいまどのような状況にあるのか予測し、故障する前に整備や部品の交換を勧めます。結果として、機械の故障している時間が短くなり、顧客の建機稼働率が上がります。そのため、建機本体の価格が多少高くてもコマツの建機を使ったほうが、コストパフォーマンスがよいのです。

 

また、これまでの単品売りだと、ユーザーも競合会社の製品とコマツを混ぜて使うことが多かったですが、このシステムを導入した場合、システムなので2社以上の同様のシステムを入れることは面倒な上に二重投資になります。そのため、ユーザーがコマツ1社に切り替えるという事例も多いようです。

 

プロセス改革のフレームワークで対抗戦略を考える場合のポイントは、自社の都合ではなく、顧客視点で自社のバリューチェーンを見直すことにあります。

 

 

■市場創造型への対抗策

 

「顧客の気づいていない価値を具体化する」市場創造型への対抗策としては、自分たちの既存のビジネスモデルを活かしながらも、環境変化に対応して新しい製品やサービスを提供する方法が考えられます。あるいは、新興プレイヤーと同じ土俵で戦わないように、市場そのものをずらしてしまう方法もあります。

 

ヤマト運輸は他社に先駆けて、多くの市場を創造してきました。その代表例がクール宅急便です。従来型の宅配事業は日通、佐川急便、日本郵政などが参入し、価格競争に陥っていました。そうした中、宅急便とまったく同じビジネスモデルを使いつつも、温度を管理することで、鮮度管理が重要な食品などを送ることができるようにしました。

 

これは単に冷蔵庫で配達するだけでなく、集荷から貯蔵、配送までをすべて温度管理しなくてはならず、他社に対する参入障壁となりました。さらに産地直送を可能にしたことで、地方農家や漁協などに新しいビジネスモデルを提供することになりました。

 

現在では他社も追随していますが、ヤマト運輸は同様の方法で、「宅急便コレクト」やキヤノンと提携した「らくらく修理便」などの新サービスを打ち出すことで、業界リーダーの地位を安定的に保っています。

 

また語学教教室が、語学そのものを教えるのではなく、英語を題材にしてグローバル・ビジネスマンを育成しようというビジネス教育に乗り出すのは、戦う土俵を単なる語学からビジネス教育に移すことで、低価格競争から逃れるためと考えられます。これは土俵をずらした戦略といえます。

(つづく)

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3.0』ダイヤモンド社

 

 


ルール・チェンジャーの戦略③(秩序破壊型とビジネス創造型)

ルール・チェンジャーの4つの戦略の続きです。今回は、「儲け方の仕組みを変える」パターンです。これには秩序破壊型とビジネス創造型があります。


ルール・チェンジャーの4類型 出典:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3,0


■秩序破壊型

 

これまでとほぼ同じ製品・サービスが、異なるビジネスモデルで提供されるケースです。

 

スマホゲームはその代表です。ニンテンドーDSやプレイステーション・ポータブルで楽しんでいたのと似たゲームを、スマホ上では無料で提供されることが多いです。ゲーム機を持たずとも手軽にゲームが楽しめる上、無料です。儲けの仕組みとしては、広告モデルとアイテム課金があります。消費者にとってはいいことずくめですが、既存プレイヤーにとっては、これまでの競争のルールを壊されるだけでなく、対抗戦略をとろうとすると自分たちの儲けの仕組みを壊さなくてはならず、難しい意思決定を迫られます。

 

アルバイトの紹介サイトで知られるリブセンスも、ユーザーから見ると従来型の求人サイトと同じように見えますが、最大の特徴は求職側が採用に成功しない限り、掲載料を払わなくてよい成果報酬型にあります。一方で、従来型の仕事斡旋サイトは、サイト掲載後に実際の応募や採用に至ったかどうかは関係なく、掲載料は徴収されます。この差が、中小企業や少人数の採用しかしない企業に受けて急成長しました。

 

ATMからの手数料収入に特化したセブン銀行も秩序破壊型のケースです。

 

 

■ビジネス創造型

 

顧客に提供する製品・サービスも新しいものであるうえ、企業にとっての儲けの仕組みも新しいパターンです。

 

カカクコムは、顧客から見ると、それまで足で稼ぐしかなかった各小売店の価格を、ネット上で簡単に比較できるようにしました。さらに、そこから小売店のECサイトに移動して実際に購入することも可能です。儲けの仕組みは、小売店からの手数料、あるいはサイトへ誘導する手数料となっています。

 

またタイムズ24のカーシェアリングもビジネス創造型の事業です。ご存知のとおり、カーシェアリングは、大勢の人が車をシェアして使うというもので、レンタカーや車の販売とは異なるものです。借りる場所も自宅や勤務先付近の駐車場、あるいはちょっとしたスペースなど、歩いて数分のところにあることが多いです。また予約などもネットや携帯を通じて簡単にできる点がレンタカーとは大きく違います。

 

儲けの仕組みはレンタカーに近いですが、月会費が必要な点、あるいは時間がレンタカーの半日・1日単位に対して、15分刻みで細かい点が特徴です。結果として、料金も数百円単位で使える手頃な価格となっています。タクシー代わりで利用する人も多いそうです。

 

ビジネス創造型は、「こんなものがあったらいいな」という創業者の思いつきや熱意が原動力になることが多く、アイデア勝負の部分がかなり大きいです。そしてそれをどう利益に結びつけるかを考える必要があります。イマジネーションとイノベーションが求められます。

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3.0』ダイヤモンド社

ルール・チェンジャーの戦略②(プロセス改革型と市場創造型)

前回は、既存のビジネスのルールを変えて参入するルール・チェンジャーの4つの戦略について概観しました。今回からは、それぞれの戦略について取り上げたいと思います。まず「儲け方の仕組みは変わらない」パターンです。これにはプロセス改革型と市場創造型があります。


ルール・チェンジャーの4類型 出典:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3,0

 

■プロセス改革型

 

一見、これまでと同じ製品・サービスでも、価値を提供するプロセス(バリューチェーン)を見直すことで新たな顧客価値が生まれます。

 

アマゾンは、書籍を売って稼ぐという点では、サービスも儲けの仕組みも従来の書店と同じです。しかし、消費者がわざわざ出かける必要がない、あるいは書籍を探すのが容易であるという点で、顧客に新しい価値を提供しています。バリューチェーンの変化を顧客の購買プロセスで見ると、「書店に出かける」「売り場を探す」「棚を調べる」という行為が省力化されているととらえられます。

 

セブンカフェの例では、コーヒーショップのものとほぼ同じ味わいのコーヒーを、より安く手軽に提供しているだけです。しかし、プロセスで見ると顧客にコーヒーを作らせている点が、これまでのコーヒーショップと異なります。これによって、コストが下がり低価格を実現できるだけでなく、レジでの作業効率が大幅に改善し、顧客を待たせることもなくなっている。まさに、お店と顧客のウィン・ウィンの関係を作り上げています。

 

プロセス変革型は、製品・サービスは変わらなくても、その提供方法を変えることで、顧客に新たな価値を提供するモデルであり、具体的にはバリューチェーンを再構築しています。

 

 

■市場創造型

 

顧客に提供する製品・サービスは新しいものですが、企業にとっての儲けの仕組みは従来と変わらないケースです。

 

JINSPCメガネは、PCやスマホ、ゲーム機などが発するブルーライトから目を保護するために発売されました。それまでのメガネは、視力矯正やファッション性に価値を置いたものでしたが、JINSはメガネというあり触れた商品に、新しい用途をつけることで市場開拓に成功しました。とはいえ、儲けの仕組みはこれまでと同じ物販です。

 

東進ハイスクールも新しい市場を創造したケースです。それまでの予備校ビジネスは大都市圏に大規模校舎を構え、有名講師のライブ講義を大人数で受けるという規模型のビジネスモデルでした。そうなると地方都市に住む現役高校生はまず通えないため、おのずと主たる顧客は浪人生になります。

 

これに対し、地方都市にも校舎を多数展開し、通信衛星を使った講義を好きな時間に受講できるオンデマンド型講義で急成長したのが東進ハイスクール・東進衛星予備校です。このやり方により、高校生活で部活など重視した現役生にも、「部活も受験も」と訴えて新しい需要を開拓しました。それを可能にしたのが、一度収録してしまえば、何度でも再活用できるビデオ授業であり、通信衛星を使った配信でした。儲けの仕組みは、受講料をもらうという従来の予備校とまったく同じです。

 

市場創出のカギは、顧客が自分では気がついていないニーズを、新しい製品・サービスとして具体化することにあります。

(つづく)

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3.0』ダイヤモンド社

ルール・チェンジャーの戦略①

異業種から参入企業や新規参入のベンチャー企業は、既存企業とは異なる競争のルールを持ち込もうとします。ルールが変われば、既存企業はそれまでの強みを活かすことができませんし、対応しようにもそれまでの強みを捨てきれませんから、ただ指を加えているだけという状態に陥りがちです。今回は、こうしたビジネスのルール・チェンジャーの戦略について考えてみたいと思います。

 

■ルール・チェンジャーの4つの戦略

 

ルール・チェンジャーの戦略は、次の4つに分類されます。


ルール・チェンジャーの4類型 出典:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3.0

 

 

縦軸は「新しい儲けの仕組みを持ち込んだかどうか」です。たとえば、かつてのレコードレンタルのように、これまでは販売、すなわち売り切りが常識だったレコード業界にレンタルという売らない仕組みを導入したケース、あるいは最近のスマホゲームのように、これまでは金を払うのが当たり前だったゲーム代金を無料にした例などが挙げられます。

 

当然、新しい儲けの仕組みが導入されると、従来型のプレイヤーは自分の儲けの仕組みが否定されるか、競争上不利になるために対応が困難になります。

 

横軸は「従来の製品・サービスに比べて新しい製品やサービスを提供しているかどうか」。ただし今ある製品やサービスの見せ方や提供の仕方を変えたのではなく、まったく新しいものを対象としています。したがって、新しい需要や市場の創出につながります。

 

具体例としては、これまで世の中になかったPCや携帯電話のように、まったく新しい製品・サービス、あるいは既存の製品・サービスと似た機能・価値を異なる手段で実現した電子書籍や電気自動車などが挙げられます。

 

儲けの仕組みが変わらない場合には、既存企業でも対応することが可能ですが、既存事業が上手くいっている場合、それを否定するような新製品・新サービスだと話は簡単ではありません。

(つづく)

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20144月号デコンストラクション3.0』ダイヤモンド社


顧客アンケートで顧客満足を上げる方法

顧客アンケートをみると、大抵は「お気づきになった点は何ですか」「改善点や要望がありましたらお書きください」とあります。気づいた点で良いことを書く人はあまりいないでしょうから、「悪いこと」を前提にしていると考えられます。確かに改善をするためには、悪い点を指摘してもらうのが一番ですが、これでは顧客満足は下がってしまう可能性があります。

 

 

■最初に賛辞を求めると、顧客満足が上がる?

 

ユタ州立大学のボーンによる調査によれば、最初に心地よい体験に対する賛辞(例:こちらにお越しいただいた時に、快適だったことは何ですか)と記入を依頼してから顧客アンケートを開始すると、記入される満足度レベルが上がり、顧客が再購入するチャンス、費やす金額、長期に渡るロイヤルティが上昇する傾向があるとのことです。

 

ある小売業では、最初に心地よい体験に対する賛辞を記入してもらってから顧客アンケートを開始した場合と、そうでない場合とを比べたところ、前者のほうが翌年の購入回数で9%、支払い金額で8%上昇しました。B2Bのソフトウェア企業の場合は、実に32%もの支払い金額の上昇が見られたそうです。

 

 

■人間は「褒めたものを気に入る」

 

なぜ、人は最初に賛辞するとその企業への愛顧が高まるのでしょうか。はっきりしたことはわかりませんが、2つの理由が考えられます。

 

1つは、肯定的な経験を話すように頼めば、これらの経験の記憶がより顕著になって、その後にその記憶にアクセスしやすくなり、出来事の対する顧客の認識全体を強化する可能性があるからです。

 

先行の学習もしくは記憶が、後続の別の学習もしくは記憶に、無意識的に影響を与えることを「プライミング効果」といいます。最初によい経験をイメージさせられることで、そのイメージにプライミングされるということです。

 

もう1つは、認知的不協和の解消です。人は自分の気持ちの中に不協和が生じることを避けます。ですので、最初に良いイメージを持つと、それを否定するような悪いイメージを払拭しようとします。

 

人間は「気に入ったものを褒める」とともに「褒めたものを気に入る」のです。

 

 

■「最初に賛辞を求める」ことのリスク

 

ただし、だからといって「最初に賛辞を求める」アンケートを実施すればよいというわけではありません。

 

まず、最初に賛辞を求めて得られた顧客満足度は、水増しされた結果であり、自社への真の評価ではないからです。これでは適切な改善活動にはつながらないでしょう。

 

また、明らかに不満を感じている顧客に賛辞を求めると逆効果になる恐れもありますし、そもそもまず賛辞を求めること自体にやりすぎ感を感じるかもしれません。

 

実施するとしても、あくまで改善のためのアンケートとは別に実施するべきでしょう。

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年7月号

生存競争が企業を進化させる(レッドクイーン効果)②

■レッドクイーンによる進化は足かせにもなる

 

前回、厳しい競争環境が企業を進化させるというレッドクイーン理論を取り上げました。しかしながら、レッドクイーンによる進化はマイナスに作用することもあります。それは、「ある領域におけるレッドクイーンによる進化は、その企業が他の領域に進出した際には、むしろ足かせになる」というものです。

 

まずこの話の前提知識として、「知の探索」と「知の深化」の違いがあります。「知の探索」とは、「なるべく現在の自身の認知から離れた遠くの知を探索すること」です。「知の深化」とは、「すでに得た知を深堀りしたり、自分のごく目の前のものだけをサーチすること」です。

 

前回触れたように、同じ産業内の企業間競争では、「いかに相手を上回るか」にだけ焦点が当たり、目の前のライバル企業という限定された範囲でサーチしますから、「知の深化」にあたります。抜きつ抜かれつの競争が激しく展開されるほど、「知の深化」型の進化が進みます。

 

しかしながら、経営環境が激しく変化したり、他の領域に進出した場合、「知の深化」ではもはや対応ができません。これまでとは異なる知識の習得、すなわち「知の探索」が求められるのです。しかしながら、それまでの激しい競争によって「知の深化」を過剰に推し進めてしまった結果、認知の範囲が狭くなり、対応力が失われてしまっているのです。

 

 

■日本企業は過剰な同業者への対抗意識により衰退した?

 

これは日本のエレクトロニクス企業の衰退を説明するのに適しています。前回触れたように、日本の電機産業は激しい国内での競争により進化を遂げ、それが国際競争力につながったのですが、韓国、台湾、中国企業の台頭や、アメリカ発のIT技術の進展という激しい環境変化に対応できませんでした。またガラパゴス化といわれる過剰なまでの国内だけでの技術競争も指摘されました。その理由の1つには、レッドクイーンによる過剰なまでの国内ライバル企業同士の争いが視野狭窄に陥らせたことがあるのです。

 

レッドクイーン理論が示唆するのは、環境変化が激しいほど、同業他社に競争的になってはならず、むしろ視野を広げて変化の方向を見定めよということです。

 

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年7月号「世界標準の経営理論

生存競争が企業を進化させる(レッドクイーン効果)①

■生存競争による共進化

 

「おわかりでしょう、あなたが思いっきり走ったとしても、せいぜい同じ場所に留まるしかできません。もしあなたが本当に他の場所に行きたいのなら、あなたは今より2倍は速く走らなければならないのです!」

 

これは「不思議な国のアリス」の続編である「鏡の国のアリス」の中で、赤の女王(レッドクイーン)が発したセリフです。

 

キツネとウサギは捕食関係にあります。ウサギはキツネに食べられたくないので、やがて(種としては)キツネより速く走るようになるでしょう。一方、キツネはウサギを食べなければ生き残れないので、やがてウサギよりも速く走るようになります。そうするとウサギは・・・、といった具合に互いに進化(共進化)していきます。

 

人・生物はただ全力で走っても、競争相手も全力走っているので、相対的にそれは「現状維持」にすぎません。相手より速く走りたいのなら、「進化」しなければならないのです。しかし、それは競争相手の進化をも促します。そして、相手の進化は、さらに自分を進化させます。このように、互いに生き残りをかけて競っている限り、進化の循環は永久にとまりません。

 

生物進化学で、補色関係にある生物種同士が競い合って進化し合うこの循環を、レッドクイーン効果と呼びます。

 

 

■厳しい競争をしている企業ほど、生存しやすい

 

レッドクイーン効果は、企業の進化にも応用できます。ライバル企業が自社よりも一歩抜きん出れば、それをサーチした自社も努力してライバルより一歩先に抜きん出る。その結果を見たライバルも自社を抜き返そうとする、といった切磋琢磨が企業を進化させるというわけです。

 

このような厳しい競争環境は、一般的にはレッドオーシャンといわれ、低業績の原因とされますが、実は「長期間、厳しい競争をしている企業ほど、生存しやすい」という研究成果はいくつも発表されています。

 

考えてみれば、個人の場合でも、厳しい切磋琢磨が成長を生み、結果的には実力を高めるわけですから、何も不思議はないかもしれません。

 

たとえば日本企業の場合、世界的にみて生産性が低いと長く言われてきたのは、金融業やサービス業であったりします。護送船団方式と揶揄されるように、金融業は政策的に保護されてきましたし、サービス業も外資参入の脅威は相対的に低いです。ともに相対的に競争環境が厳しくなかったことが、企業の実力に反映している可能性があります。

 

逆に電機産業や自動車産業の企業は、厳しい国内や海外での競争環境が競争力につながったとされます。

 

厳しい競争環境が企業を進化させるという議論は、レッドクイーン理論以前にもありました。日本企業は互いに模倣し合っているだけという批判がありましたが、「実はそれは相手の長所を取り入れ、さらに相手よりも一歩進化しようとする競争(同質的競争)なのである」という主張です。確かに厳しい国内の競争環境が企業の進化につながったという面は否定できないでしょう。

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年7月号「世界標準の経営理論

『超企業・組織論―企業を超える組織のダイナミズム』高橋伸夫編 有斐閣

 

 

プロジェクトで創造的な答えが生まれない理由

プロジェクトで創造的な答えが生まれないのは、そもそも創造的なアイデアを生み出すことが難しいということもありますが、それ以外にもスケジュールに対するメンバーの考え方があります。

 

 

■情報が集まったと感じるまで答えを留保してしまう

 

解答を出すタイプのプロジェクトは、おおよそ情報収集、代替案列挙、方策決定という手順を踏みますが、メンバーには「プロジェクトには、答えを考え始めるのにしかるべきタイミングがある」という暗黙の了解があります。十分な情報が集まらなければ、答えを考え出せないというわけです。情報が十分集まったとなんとなくみなが感じたタイミングでようやく答えの検討に入ります。

 

しかしながら、答えの検討に入るタイミングは、単になんとなく決まるだけで、何も根拠があるわけではありません。そのタイミングを感じるまでは単に情報収集に徹しているだけです。

 

このスタイルのまずいのは、最終的な答えに無関係な情報がいたずらに集められるというムダがあること、さらに適切なタイミングが来たとみなが感じない限り答えの検討が行われないので、結果的に答えの検討に十分な時間が割けなくなるということです。

 

 

■ぎりぎりまで答えの検討を伸ばしてしまう

 

プロジェクトには必ず期限があります。よってメンバーは、期限から逆算して答えを出すタイミングを設定します。このタイミングも単に期限から逆算しているだけなので、何も合理的な根拠はありません。別にそのタイミングまで答えの検討を待つ必要はないのです。

 

答えを出すタイミングはほとんどの場合、ぎりぎりです。さらになまじっか情報量だけはあり、とうてい整理しきれるものではありません。よって、手軽な(自分がよく知っている)フレームワークで安易に解答を出そうとします。当然、集めた情報の多くは無視されます。

 

かくしてプロジェクトで創造的な答えは出てこないのです。

 

 

■プロジェクトの最初から答えを出すという姿勢

 

プロジェクトで創造的な答えが生まれない理由が、「情報が集まったと感じるまで答えを留保してしまう」「ぎりぎりまで答えの検討を伸ばしてしまう」ことで「答えを十分に検討するだけの期間をとれない」ことにあるのだとしたら、どのような対処が求められるでしょうか。

 

それは「プロジェクトの最初の段階から答えを出す」という姿勢です。イノベーティブな答えは、意外とプロジェクトの最初の段階に集中的に生み出されていたりします。それは、手元にある情報がシンプルでハンドリングしやすい、本質的な情報のみなので核心をつきやすい、情報が少ない分創造的になりやすいといったことが理由として考えられます。

 

最初から答えを出すという姿勢は、仮説検証アプローチにも合致します。まず仮説をたて、それを裏付ける情報を収集して妥当性を検証するほうがはるかに効率的です。仮説検証のサイクルを早めれば、たとえ最初の仮説が不適切であったとしても、他の仮説を検証する時間的な余裕は十分確保できます。

 

まずは、十分な情報がなければ決められないという思い込みをなくすことが大事です。

 

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年9月号「SHIFT

チャレンジ目標は有効なのか?(ストレッチ目標の条件)③

これまで、業績がよくて余剰資源が豊富な企業ほどストレッチ目標(かなり背伸びしなければ達成困難な目標)が有効に機能することについて述べました。それでは、業績あるいは余剰のいずれかに欠ける企業はどうすればよいでしょうか?

 

 

■小さな現実的な成功を積み上げる

 

こうした企業はストレッチ目標にはそもそも適していませんから、それを追い求めるのではなく、「小さな現実的な成功を積み上げる」ことが基本です。小さな成功を積み上げるうちに、組織内で勢いや活力が生まれ、経営資源が蓄積され、学習が促されます。そうなれば、やがて大胆なストレッチ目標に取り組むことができるでしょう。

 

 

意識的に余剰資源を積み上げる

 

とにかく余剰資源がなければ話になりません。業績不振がつづく企業に変革ができないのは余剰資源がないからです。ただし余剰資源があれば業績不振企業でも変革(ストレッチ目標)を実行できる余地が生まれます。

 

たとえば金融機関からの債務減免、新たな追加融資や、第三者割当増資によって、資金面で余裕が生まれれば、大胆な目標にトライする余地が生まれます。90年代に深刻な経営不振に陥った日産や、日本航空の例なのが挙げられるでしょう。

 

また意識的にノウハウや技術を積み上げるために、短期的な業績を無視して、組織的な学習を促すことも有効です(ただしそれには業績が深刻なまでに悪くないことが条件になりますが)。

 

企業でありがちな誤りは、短期的な成功を追い求めてしまうということです。すぐに成果がでるほどうまい話はそうないのは明らかです。「多くは失敗するだろうが、1つ2つうまくいくものがあれば、長期的な成長の種になる」くらいの考えが大事です。もちろん、何も得ることがないのであれば迅速にやめることです。

 

 

■業績が悪く余剰資源もない場合

 

最後に業績が悪く余剰資源もない企業について、触れてきます。基本的には対応は上で述べたとおりです。ただし気をつけなければならないのは、業績が悪く余剰資源もない企業ほど大胆な(無謀な)挑戦をしがちだということです。

 

2017年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらによる研究では、失敗続きの意思決定者ほど大胆な方策を選択しがちであるといいます。組織行動論の研究でも、リスキーシフトとして、この結果を裏付けています。

 

業績が悪く余剰資源もない企業が大胆なストレッチ目標を掲げがちですが、これまでくり返し述べたように、これほど馬鹿げた話はなく、かえって死期を早めるだけです。まずは現状を認識し、現実的な対応をとることが最重要です。

 

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年9月号「ストレッチ目標で成功する企業 失敗する企業」

チャレンジ目標は有効なのか?(ストレッチ目標の条件)②

前回、ストレッチ目標(かなり背伸びしなければ達成困難な目標)が有効に機能する条件として、「業績の善し悪し」「余剰資源の有無」の2つを取り上げました。今回は、これに沿って、企業が置かれている状況に応じた処方箋を示したいと思います。


ストレッチ目標 

■業績好調で余剰資源がある企業

 

これまで述べてきたように、こうした企業はストレッチ目標を設定するのに最適です。しかしながら、こうした企業はえてして現状に甘んじがちであり、ストレッチ目標に取り組もうとはしません。順風満帆なのだがら、あえて大胆な変化は必要ないというわけです。

 

個人的にも経験がありますが、たまたま状況がよくて業績がよいだけなのに、過信して何も新しい取り組みをしようとしない企業や部門は多くあります、しかしながら、何もしないでいつまでもよい状態が続くわけがありません。ライバル企業や新規参入企業、さらに代替品の脅威は常にあります。

 

 

■現状肯定を打破するには

 

ではこのような現状肯定の姿勢をどうすれば打破できるのでしょうか。やはり、それには「相手の立場に立って考える」ことが一番有効でしょう。すなわち自分が他社の立場なら、どうやって自社の売り上げを奪おうとするか考えるのです。経営幹部を2つのグループに分けて、「どうすれば我が社を倒産に追い込めるか」を考えさせ、他社の行動の可能性を検討させているケースもあります。

 

自分も8年ほど前に自分の所属する事業についてやってみましたが、案外すぐにいくつも浮かんだりします。少なくとも「自分たちの事業をどうやって伸ばすか」を考えるよりはるかに楽です。おそらく当事者意識から逃れて自由に発想できるからでしょう。

(つづく)

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年9月号「ストレッチ目標で成功する企業 失敗する企業」

チャレンジ目標は有効なのか?(ストレッチ目標の条件)①

「簡単な目標よりも、現状よりかなり背伸びをしないと実現できないような高い目標(ストレッチ目標)を掲げた方が、企業も人材も成長できる」このことはマネジメントの常識となっています。史上、もっとも売れた経営書「ビジョナリー・カンパニー」でも「社運を賭けた大胆な目標」は、時代を超えて成長する企業の条件の1つに挙げられています。

 

しかしながら、チャレンジングな目標というと、私たちは東芝不正会計問題を思い出さざるをえません。実現困難な目標を現場に強いたことが、不正会計(粉飾会計)を導いたとされます。

 

 

ストレッチ目標

 

ストレッチ目標は、極めて達成が困難であり、そのために実現するには、これまでと異なる方法が求められます。これが社員の挑戦意欲を引き出して新たなブレークスルーを生むというわけです。

 

たとえばサウスウエスト航空では、ターンアラウンドタイム(空港に着いてから発進するまでの時間)を通常の1時間から10分にするという目標を掲げ、そのためにスタッフの仕事を全面的に見直し、旅客の行動を考え直しました。

 

しかしながら、その一方で、多くの企業でストレッチ目標は失敗し、その結果、社員は自信を喪失し、業績のさらなる低下を招いています。

 

ストレッチ目標を掲げることが悪いわけではありません。ストレッチ目標が有効であるためには、2つの条件があるのです。

 

 

■近年の業績がよいか?

 

1つめは、近年の企業業績です。自社が重要な経営目標を最近突破したばかりであれば、ストレッチ目標に取り組む絶好のチャンスです。成功体験が社員の行動や態度に好影響を及ぼしているからです。極めて難しい課題に直面しても、成功を経験したばかりの社員であれば好機を見出し、体系立って情報を探して処理し、楽観的姿勢を示し、柔軟性をもって行動するでしょう。

 

一方、業績が低迷していれば、社員は自信を失っており、自らの創意工夫よりも安易な解決策に飛びつき、やがて自滅することになります。

 

 

■余剰資源があるか?

 

2つめは、組織内でどれくらい使える資源があるかです。先に述べたようにストレッチ目標の実現にあたっては、現状のやり方の否定が求められ、様々なアイデアの試行錯誤が必要で、極めてリスクが高いです。よって、それを許容できるだけの余裕が必要になります。余裕があれば、失敗しても再起する気持ちにもなります。

 

一方、余剰資源がなければ、失敗の許容は許されず、無難ながら往々にして安易な解決策に飛びつくことになり、とてもストレッチ目標の達成には至らないでしょう。

 

余剰資源(余裕資源)があることは、組織変革やイノベーションの絶対条件となっています。業績不振企業になるほど安易な解決策にすがろうとする理由は、余剰資源がないからといえます。

 

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年9月号「ストレッチ目標で成功する企業 失敗する企業」

バーニーの戦略3類型②

前回、産業構造と将来に対する予見可能性(どれくらい将来を予見できるか)に応じたバーニーの戦略3類型を取り上げました。今回はその続きです。


バーニーの3類型 

■シュンペーター型

 

IO型やチェンバレン型は、ある程度、将来が予見できることを前提にしています。たとえば「多額の広告出費をしてブランド化を果たせば、新規参入を牽制できる」「有効な内部業務システムを構築すれば同業他社は追随できない」といったわけです。

 

しかしながら、技術的、制度的、経済的な理由などで、不確実性が非常に高い業界もあります。技術的な進展が極めて早く、かつその推移が予測困難なハイテクや情報技術分野が典型例でしょう。

 

この場合、求められるのが、事前に練られた精緻な戦略よりも、様々な試行錯誤をして、いろいろなアイデアを試し、環境の変化に柔軟に対応するという企業の姿勢です。

 

環境の変化に対応して既存の資産、資源、知識などを再構成し、相互に組み合わせて持続的な競争優位をつくり上げる能力をダイナミック・ケイパビリティといいますが、これはシュンペーター型の典型的な考え方です。また、本ブログでも取り上げたリーンスタートアップの考え方も該当します。

 

ちなみにシュンペーター(1883- 1950年)は、イノベーションの重要性を唱えた経済学者です。

 

 

■現在、自社の置かれている状況を把握して戦略を変える

 

さて、ここまでIO型、チェンバレン型、シュンペーター型の3つの戦略類型を見ていきましたが、大事なことは自社が直面する状況を見極めることです。また注意しなければならないのは、状況は変化するため、求められる戦略パターンも変化するということです。

 

たとえばかつての日本の家電や半導体は、典型的なチェンバレン型でしたが、台湾や中国、韓国などの企業の勃興により、普及品に関してはIO型に移行していますし、逆にハイエンド商品はシュンペーター型といえます。日本メーカーの衰退要因の1つに、チェンバレン型のオペレーションエクセレンスにいつまでも固執したことを挙げることができるかもしれません。

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20151月号「世界標準の経営理論

バーニーの戦略3類型①

新年、明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

経営戦略の考え方には実に多くのものがあり、それぞれ妥当性がありますが、どのような場合(どのような企業)でも普遍的に有効なものはありません。私も中小企業診断士という資格試験対策を通じて、もう15年ほど経営戦略を教える立場にいますが、これほど教えにくいものはないでしょう。ポーターに代表されるように外部環境へのフィットを重視するものもあれば、バーニーのように内部資源や企業の取り組みを重視する考え方もあります。

 

■バーニーの戦略3類型

 

経営戦略の考え方には代表的なものだけでもなんと80以上あるといわれています。バーニーによれば、産業構造と将来に対する予見可能性(どれくらい将来を予見できるか)によって、戦略は3つに分類されます。


バーニーの3類型 出典:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20151月号「世界標準の経営理論

 

それぞれ順に見ていきましょう。

 

 

IO

 

差別化されていない製品を無数の企業が生産し販売している市場のことを経済学では完全競争市場といいます。完全競争市場では各企業は儲からないので、なるべく独占に近い状態を目指すことになります。経済学の産業組織論(Industrial Organization)の知見をベースにしています。

 

そのために有効なのは、環境の構造(産業構造など)そのものを変えることで、参入障壁(産業への新規参入を阻止するための障壁)や移動障壁(産業内の有利なポジションを保持するための障壁)を高めることになります。具体的には新規参入者や同業他社よりも圧倒的な差別化やコスト優位を築くことです。

 

飲料産業や装置産業(化学品メーカー、石油精製、ガス、電気など)が該当します。

 

 

■チェンバレン型

 

各企業が少しずつ差別化された製品やサービスを生産・販売している市場を、経済学では独占的競争市場といいます。この市場の代表的な研究者にチェンバレンがいます。

 

自社製品はある程度差別化されているので、ある程度の価格決定権があります(完全競争市場では各製品はまったく同じなので各企業は自分の意思で価格を決めることはできず、ただ市場での相場の価格、すなわち均衡価格で販売するしかありません)。

 

このような業界では、参入は自由で、差別化競争が激しく展開されますので、独占市場よりも利潤は低くなります。また、差別化を実現するには、企業の持つ技術、知識、人材、ブランドなどの経営資源が重要視されます。

 

ちなみに多くの方が誤解していますが、ほとんどの業界は完全競争市場ではなく、独占的競争市場です。日本の自動車産業の競争は、チェンバレン型になります。

(つづく)

 

【参考】

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー20151月号「世界標準の経営理論

 

 

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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