■時間をかけて相手の情報を集める
前回、最初に条件を提示すると有利になる場合と不利になる場合とがあることについて触れました。整理すると、取引や取引するものについて、自分が情報を十分に仕入れていれば、先に条件を出したほうがよく、相手の方がより多くの情報を持っていれば後に回ったほうがよいということです。
どちらか決めかねる場合には、まず相手とじっくりコミュニケーションを取って情報を仕入れた後で、相手より先に条件を提示するとよいでしょう。
前回の例で考えてみます。あなたが知人から仕事である作業をやってほしいと頼まれたとし、これから話し合いで報酬を決めるとします。
こちらから最低限の条件の料金を提示してしまうと、必要以上に安く請負ってしまうことになりかねないし、あるいは強気に高い料金を提示すると相手にとっては法外で話自体がおじゃんになる可能性があります。どちらの場合も情報不足が原因です。
よって、いくつか質問することで、相手(あるいは取引)の情報を仕入れることになります。たとえば、「なぜ自分に仕事を依頼するのか?」「あなたにとってこの仕事の重要性は?」と質問することで、相手がこの仕事にどれくらいの価値を置いているのかが分かったりします。そうすれば、自分から先に料金を提示して自分に有利な基準値を決めることができます。
このように時間をかけることで、情報不足を補って相手より有利な立場で交渉できるようになります。
■時間をかけて互いに得する取引にする
さらに時間をかけることには、もう1つのメリットがあります。それは、条件を提示する前にコミュニケーションを取ることで、双方のニーズを満たすより建設的な取引をすることができるということです。
以前も触れましたが、交渉の基本パターンとしては、大きく3つあります。
(1)分配型交渉
限られたパイをめぐって、相互が自分の取り分(利益)の最大化を図るために行う交渉のことです。
自分がより得をすれば相手は必ずより損をするし、相手がより得をすれば自分は必ずより損をするというパターンです。価格交渉が典型的でしょう。
(2)利益交換型交渉
パイは限られていますが、自分が重要でない部分は譲り、その代わり自分にとっては重要だが相手にとっては重要でないものを引き出すというものです。
法人取引で、売り手は代金をその場で現金で欲しいというニーズがあり、買い手はできるだけ安く買いたいというニーズがあったとします。この場合、売り手側が多少価格を安くする代わりに、買い手側からその場での現金支払いを求めるという交渉が成り立ちます。
(3)創造的問題解決型交渉
交渉当事者が協力し合ってパイを拡大するというものです。パイを拡大すれば、互いの取り分は大きくなります。
当然ながら双方がトクをする利益交換型交渉や創造的問題解決型交渉が望ましく、そのための情報を時間をかけて整備するのです。
【参考】
『競争と協調のレッスン』アダム・ガリンスキー、モーリス・シュヴァイツァー著 TAC出版