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日本は内需国なのに、なぜ輸出の影響を受けるのか?①

7月29日までに201946月期決算を発表した日本の上場企業のうち、製造業は3社に2社が最終減益となったとの報道があり、日本メーカーの不調が報じられています。

これはリーマンショックの影響が残っていた2009年以来の広範な落ち込みだそうです。米国との貿易摩擦も重なって中国景気が減速し、電機、機械、自動車などの輸出が悪化しているとの見方がされています。

今年は、ハードブレクジットなど海外リスク要因があり、これを受けてGDP成長率も減速が予想されています。

 

■内需大国「日本」

 

ご存知のとおり、先進国の中で、日本は米国についで輸出依存度が低い内需国です。各国の「名目GDP成長率に占める財・サービスの名目輸出の割合」は次のとおりです(2016年)

 

スイス 63

ドイツ 47

韓国 46

スペイン 33

イタリア 30

フランス 30

イギリス 27

中国 21

インド 20%

日本 18

アメリカ 13

 

 

■輸出の影響を過度に受ける日本

 

一方で、1995年以降の「実質輸出の伸び率と、実質GDP成長率との相関」は0.87と極めて高い値を示しています。

 

ドイツ 0.91

フランス 0.90

日本 0.87

イタリア 0,86

スイス 0.75

イギリス 0,69

アメリカ 0.65

ノルウェー 0,61

韓国 0,61

スペイン 0.50

 

つまり、日本は、割合の小さい輸出の影響を過度に受けやすいということです。

 

 

【参考】

『アベノミクスの真価』原田泰、増島稔編 中央経済社

 

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雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断8月号」が発売されました。


8月号_


今回のテーマは、「平成経済史を振り返る②――失われた30年はなぜ起きたのか?(2000年代編)」です。

 

7月号では,バブル経済を取り上げ,必要がなかった日本銀行(日銀)の金融引き締め政策(金利引き上げ)が,その後の景気低迷を招いた可能性を指摘しました。今回は,金融機関を軸に,2000年代の日本経済について振り返ります。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。

 


消費者をイノベーションに巻き込む方法⑥(UD法とリードユーザー法の比較)

今回は、UD法とリードユーザー法の比較をしてみます。

 

UD

インターネット上の掲示板で消費者の企画アイデアを募り、その中から実現可能なものを他の消費者に公開し、購入希望者を募って、商品化の必要最小購入者数を上回れば商品化に踏み切る。

 

●リードユーザー法

リードユーザー(先端的なニーズを持ったユーザー)を製品開発過程に積極的に取り込むことで高い製品開発成果を目指す。

 リードユーザー法とUD法


■開発に関する起点

 

まずリードユーザー法では、開発に関する起点は常にメーカーにあります。この開発手法ではあくまでメーカーが最初にユーザーに対して働きかけを行うことを前提としています。

 

それに対してUD法は、開発の起点をユーザー側に設定しています。つまり開発の進行がユーザー側からの働きかけを起点に行われることを前提に設計されているのです。

 

 

■調査対象範囲

 

リードユーザー法では、個々のユーザーを対象として調査を行います。そこではユーザーをコミュニティとして見るという視点は弱いです。

 

それに対し、UD法では、何らかのユーザー集団(コミュニティ)を単位として想定します。ここでは消費者は、ある一定の集団として活動してはじめてイノベーションを実現することができると想定されています。最初のアイデアを提示するのは1人の消費者であったとしても、それに対して他ユーザーが修正案や追加案、洗練案を提示したり、投票により意見分布や需要分布の顕在化に貢献することがこの手法では重要な役割を演じることになります。

 

 

■需要顕在化のタイミング

 

リードユーザー法では、当該イノベーションに対する需要は、あくまで開発が終了し、生産が終了した後、明らかになります。つまりリードユーザー法では、当該イノベーションに関する市場規模をあらかじめ推定することが必要になります。

 

それに対してUD法では、消費者による投票活動(発注)が事前に行われるため、部分的にではあるが需要が開発、生産に先立って顕在化することになります。

 

 

■インターネット利用の必要性

 

UD法では、「製品案の提示」と「選好・購入意思に関する投票」においてユーザーとの対話メディアとしてインターネット使用が不可欠です。開発過程であらかじめ対象ユーザーを設定せず、不特定ユーザーからの働きかけを前提とするUD法では、インターネット利用は必須です。ユーザーとのコミュニケーション費用が削減できるからです。

 

他方で、リードユーザー法では、ユーザーとの開発主体との接点としてインターネットを使用する必要は必ずしもありません。

 

 

■ユーザー特定の容易さ

 

UD法は、製品アイデア提供者となる消費者の特定がリードユーザー法と比較して容易です。

 

リードユーザー法では、今後支配的となる市場トレンドを特定し、そうした将来トレンドに現時点で直面しているリードユーザーを特定し、接触し、協力を得ることが必要となります。しかし、それを実現することは容易ではありません。

 

他方で、UD法では、製品開発案を持つユーザーが自らインターネット掲示板を通じて自身の存在を告知してくれます。また提示されたアイデアがどれほど他のユーザーの支持を得られるものかもインターネットの掲示板を通じて製品化に先立って知ることができます。

 

以上より、UD法では市場トレンドの探索、特定や製品案を持つユーザーの探索、特定、協力関係の構築が、リードユーザー法よりも容易であることになります。

 

【参考】

『競争的共創論』小川進著 白桃書房

 

 

消費者をイノベーションに巻き込む方法⑤(リードユーザー法)

■ユーザーイノベーション

 

従来は、イノベーションは、企業の研究所や一部の発明家などによって生み出されているとされていましたが、むしろ使い手であるユーザーが、目的を達成するためにイノベーションを起こすことが多く報告されています。

 

たとえば、Shah(2000)によれば、スノーボード、スケートボード、ウィンドサーフィンといったスポーツ分野では、スポーツ器具の第1バージョンがいつもユーザーによって考案され、実現されたことが明らかになっています。そして、器具の主要な改良の58%がユーザーとユーザーメーカー(自分自身がユーザーであると同時に他のユーザーに器具を販売するもの)であったことを発見しました。このようなユーザーの手によるイノベーションは消費財・産業財を問わず確認されています。

 

 

■リードユーザー

.

ユーザーがイノベーションを行っているといってもすべてのユーザーが行っているのではなく、リードユーザーと呼ばれる一部のユーザーが実行者です。

 

リードユーザーとは、「先端的なニーズを持ったユーザー」です。「当該市場の大多数のユーザーがやがて直面することになる新しいニーズに時間的に先行してすでに直面していること」「そうしたニーズに対して解決手段を提供するイノベーションを実現することで大きな便益を得られえること」という特徴があります。

 

先のスポーツ分野におけるイノベーションもリードユーザーによるものです。

 

ただし、ユーザーイノベーションの多くは1人のユーザーではなく、集団で互いに支援し合いながらイノベーションを行っていることが確認されています。企業側としては、このようなリードユーザーを開発過程に巻き込みながら開発を進めることが求められます。

 

 

■リードユーザー法

 

リードユーザー法とは、リードユーザーを製品開発過程に積極的に取り込むことで高い製品開発成果を目指す取り組みです。

 

伝統的な製品開発手法では、当該製品のターゲットとなる平均的ユーザーを対象に市場調査を行い、その結果から製品案の創出や市場規模の推定を行います。それに対し、リードユーザー法では、メーカーがリードユーザーの特徴を持つユーザーを探し出し、そのユーザーが直面する問題やそれへの解決法を参考に製品開発を行います。

 

たとえばリードユーザー法では、住宅メーカーが高齢化社会で求められる家を開発するにあたって、同じ家に同居する親が90歳を超える家族を探し出します。そして、彼(彼女)らが直面している問題とそこで生み出されている解決策を参考に新しい家の開発を行います。

 

3Mやプロクター・アンド・ギャンブといった企業での取り組みが有名ですが、マサチューセッツ工科大学のエリック・フォン・ヒッペル教授の3Mに対する調査では、リードユーザー法によって開発される製品は従来型の市場調査を使った場合と比較して新規性と独自性が高く、従来型の開発製品と比べて2倍以上の販売実績を達成していました。

 

【参考】

『競争的共創論』小川進著 白桃書房

 

消費者をイノベーションに巻き込む方法④(UD法が有効な場面)

UD法(インターネット上の掲示板で消費者の企画アイデアを募り、その中から実現可能なものを他の消費者に公開し、購入希望者を募って、商品化の必要最小購入者数を上回れば商品化に踏み切る)が有効な場面・条件は4つあります。

 

 

■多様な製品使用状況が考えられる

 

製品の多様な使用法が潜在的に存在するものの、製品使用現場の密室性などの理由により、メーカーでは発見困難な場合は、製品使用上の問題を消費者のほうが発見しやすいでしょう。そこに消費者がメーカーよりも市場魅力度の高い製品案を創出する可能性が生まれることになります。

 

 

■消費者の当該製品(ブランド)に関する使用経験が豊富

 

消費者の当該製品(ブランド)に関する使用経験が豊富で、製品入手時の状態を消費者が想像することが容易な場合は、UD法の有効性が高まります。

 

消費者は製品入手時の完成品について想像できてはじめて、安心して製品の事前予約をできます。その結果、消費者が製品の完成状態をイメージしやすい場合のほうが、そうでない場合よりも予約数が多くなり、製品化の可能性が高まることになります。

 

このことは、とりわけ消費者にとって馴染みのないメーカーや流通業者が製品化を手がける場合、重要となります。

 

 

■すでに当該ブランドに対する大規模なブランドコミュニティが存在している場合

 

当該メーカー(あるいは流通業者)が提供するブランドに対して、少なくとも一部の消費者(コミュニティ)が売り手側とは異なる世界観を創造し、実践している場合、UD法の有効性が高まります。

 

たとえば玩具メーカーのレゴでは、ある消費者コミュニティがメーカーとは独自にレゴの世界観を創出し、その世界に基づいて新たな部品(ピース)の創造や構成物の創出を行っています。

 

こうしたメーカーとは異なる世界観が、消費者による当該メーカーへの新規性の高い製品案の提示を可能とします。

 

 

■開発・生産にあたっての固定費の割合が小さい

 

製品化にあたって巨額の技術開発や金型開発が必な場合、早期に大量販売を実現することが求められ、UD法で開発された製品ではリスクが大きくなります。よって、UD法は、開発・生産にあたっての固定費の割合が小さい場合に採用されます。

 

UD法はあくまで多様な消費者の声に着目して開発を行う、言い換えれば細分化された市場セグメントの一部に対応するものであり、事前投票などである程度の需要を確認できるとしても、それがマジョリティな需要なのか判断するのは容易なことではありません。

 

      

【参考】

『競争的共創論』小川進著 白桃書房

 

消費者をイノベーションに巻き込む方法③(無印良品の例2)

前回、無印良品のUD法(インターネット上の掲示板で消費者の企画アイデアを募り、その中から実現可能なものを他の消費者に公開し、購入希望者を募って、商品化の必要最小購入者数を上回れば商品化に踏み切る)について、取り上げましたが。その際に良品企画が注意した点についてご紹介します。

 

■会員登録

 

無印良品のUD法のシステムでは、消費者は会員登録します。それは、「会員登録させることで、消費者の真剣な参加を引き出すため」「必要なときにその消費者に連絡を取る手段を確保するため」「顧客属性の分析を行って製品開発と需要予測に生かすため」です。

 

 

■閲覧者の積極的な意欲を引き出す

 

実は商品アイデアを投稿する人で実際に商品を購入する人はわずかです。開発された商品を購入するのは意見を書き込んだ人よりもむしろその内容を閲覧だけしている人だということが同社の調べで分かっていました。よって投票制度により、閲覧者の積極的参加を促しました。

 

 

■商品開発過程の開示

 

UD法では、消費者の積極的な参加があってはじめて商品開発を推進することができます。開発過程を開示しなければ開発側と消費者側でペースを合わせることができず、また消費者側が具体的な商品イメージを持つことができません。そこで同社は、開発過程の積極的開示をシステム上で行いました。

 

 

■実店舗での販売を意識した開発

 

同社は店舗展開を行っていますから、店頭での大量販売を意識した機能、価格設定、商品化最小予約ロットを行いました。社内データから、少なく見積もってもネットの販売数の10倍以上が実店舗で購入されることを把握していたので、初回生産ロットの10%をネットで仮受注することを製品化の判断基準としました。

 

 

■開発の計画性

 

月当たり1テーマずつ開発する、投票期間は告知後約2週間にする、予約開始後3ヶ月までに最小予約ロットに達成しない場合にはプロジェクトを中止するといったように、スケジュールを明示的に管理しました。

       

【参考】

『競争的共創論』小川進著 白桃書房

消費者をイノベーションに巻き込む方法②(無印良品の例1)

前回、「インターネット上の掲示板で消費者の企画アイデアを募り、その中から実現可能なものを他の消費者に公開し、購入希望者を募って、商品化の必要最小購入者数を上回れば商品化に踏み切る」というUD法(use-driven method:ユーザー起動法)を紹介しました。

 

UD法の例として、やや古い事例ですが無印良品(良品計画)の「みんなの声カらモノづくり家具・家電」プロジェクトを取り上げたいと思います。このプロジェクトは、消費者起点のアイデアをもとに商品開発を行うというもので、月当たり1テーマずつ合計12テーマを、1年間の期限付きで行うというものでした。その中でもっとも高い売上をあげた開発テーマ「すわる生活」、最終商品名「体にフィットするソファ」を例にしたいと思います。

 

  プロジェクトに参加するにあたっては消費者は、会員登録(無料)する。登録した消費者がインターネット上の掲示板に書き込みを行うことから以下のプロセスは開始する。

  消費者からの書き込みから抽出した商品開発テーマを発表する。

例)「すわる生活」

③ 示されたテーマに対して消費者が商品アイデアを投稿する。

  例)「すわる生活」をテーマにした場合

  体を預ける大型クッション、背もたれしっかりのフロアソファー、寝転びながらリラックスできるクッションマット、リラックス座椅子

  良品計画側で消費者から出たアイデアを整理、集約化した複数のアイデアに対して消費者が自分が気に入ったものを投票する。

例)体を預ける大型クッション  90票

背もたれしっかりのフロアソファー  47票

寝転びながらリラックスできるクッションマット 34票

リラックス座椅子  31票

脚付き座椅子・あぐら座椅子  25票

  ④で一番投票数が多かったアイデアに対して、いくつかのデザイン案を良品計画側が作成し、それに対して消費者が自分が気に入ったものを投票する。

例)「体を預ける大型クッション」の場合

   素材・ファブリックタイプ  177票

   ユニットタイプ  97票

   リラックスサポートタイプ  57票

   中空タイプ  19票

  ⑤で一番投票数が多かったものに対して商品化を検討し、仕様の詳細、製造メーカー、商品化最小ロット、予定販売価格を確定していく、

例)商品名:体にフィットするソファ

   商品仕様:素材

       カバー ストレッチ素材(ナイロン74%、ポリウレタン26%、綿100%)

       本体:0.5mmの微粒子ビーズ約6kg

       サイズ:幅65×奥行65×高さ43(cm)

       最小ロット:50

       販売価格:19,000

  確定された商品案に対して購入予約を募り、その数が商品化最小ロットを超えた場合、商品化を決定する。ただし、予約受付3ヶ月を過ぎても予約が最小ロットに達しない場合は、商品化を中止する。

  購入予約者への販売完了後、ネットに加えて、実在店舗での販売を開始する。

  販売後も購入者からのコメントを受付け、その情報を商品の新規開発、修正に継続的に反映させていく。

 

       

【参考】

『競争的共創論』小川進著 白桃書房

消費者をイノベーションに巻き込む方法①(UD法)

■まず消費者に聞いてから開発する

 

企業の商品開発には大きなリスクが伴います。企業の開発者がある程度マーケティングリサーチをして商品開発をしても、結局、あまり売れなかったということが日常茶飯事です。「実際に販売してみなければ売れるかどうかはわからない」ということが実態かと思います。

 

そこで「実際に開発する前に消費者に聞いてみて反応がよければ開発し販売する」という発想がでてきます。ユビキタス社会の進展により、各消費者は自分の欲求と同じものをどれだけ多くの他の消費者が持っているのかをネットを通じて知ることができます。あるいは互いが影響を及ぼし合うことでより洗練された欲望を創出できるようになります。

 

そして、そうした欲望がある一定数の消費者によって支持されていることをメーカーがネットで知り、当該欲求を開拓するために資源を投入する可能性が開かれます。

 

 

UD法(ユーザー起動法)

 

このような商品開発の手法として、神戸大学大学院の小川進教授によるUD法(use-driven method:ユーザー起動法)というものがあります。UD法は以下のプロセスを経て商品開発を行います。

 

  消費者自身がUD法を採用する企業のインターネット上の掲示板に自分がほしいと思う商品のアイデアを書き込みます。

 

  追加的意見の提示、投票、購入予約といった形で、書き込まれたアイデアに対する他の消費者からの反応や評価が寄せられます。

 

  UD法を採用する企業は、そうした企業からの反応を基礎に商品化の可能性を探ります。そして商品化が可能だと判断する企画については、それを実現するために必要な最小購買者数(ロット数)と販売価格を決定し、それらを商品サンプル(DCADで作成される場合が多い)とともにインターネット上に公開し、購入希望者を募集します。

 

  その結果、当該商品案に対する購入希望者数が最小必要ロット数をクリアすると商品化が決定され、販売が行われます。

 

 

【参考】

『競争的共創論』小川進著 白桃書房

バリューチェーンのデコンストラクション④

■パーソナルエージェント

 

伝統的なビジネスモデルが基本的にはサプライヤー、すなわち製品やサービスの提供者の視点で組まれているのに対し、消費者の側からビジネスモデルを組み立てるのがパーソナルエージェント(個人の代理人)です。パーソナルエージェントは消費者のニーズを中心にして、消費者が情報を収集し、商品を選択し、購買するのを手伝う代理人となります。

パーソナルエージェント1


 このような形態はたとえば金融商品におけるフィナンシャルプランナー、保険代理店、百貨店の外商部など古くからありますが、インターネット技術の発展で様々なものが生まれています。たとえばアマゾンはレコメンデーション機能により膨大な書籍(商品)の中から自分にあったものを提案してきますが、これもパーソナルエージェントといえるでしょう。

 

 

【参考】

『グロービスMBA事業戦略』相葉宏二、グロービス経営大学院著 ダイヤモンド社

 





バリューチェーンのデコンストラクション③

■マーケットメーカー

 

マーケットメーカーとは、市場を作って取引を仲介するプレイヤーです。既存のバリューチェーンの間に割って入り、売り手と買い手の間に新しい市場をつくりだします。従来の取引が非効率であれば、効率的な仲介プレイヤーに置き換えるか、みずからが仲介プレイヤーとなって、ムダを排し、満たされないニーズに応えるものです。


マーケットメーカー


マーケットメーカーが成立するためには、取引に参加するプレイヤーが多数必要です。具体的には、製品やサービスの提供者が多いため仲介することに価値がある場合や、顧客が地理的に分散していてそれをつなぐ価値が高い場合に成り立ちます。ある地域に限定されてきた取引を全国的につなぐなど、分散型の市場を広域化し、規模の効果、範囲の経済性を生かせる場合にも価値があります。

 

マーケットメーカーは、本ブログでもご紹介した媒介型プラットフォーム(ユーザー感の仲介、コミュニケーションや取引の媒介などの機能を持つもの)とほぼ同じものと考えてよいでしょう。ネットオークション、SNS、動画投稿サイト、ホテル予約などのネットサービス、クレジットカードなどは媒介型プラットフォームです。

 

 

【参考】

『グロービスMBA事業戦略』相葉宏二、グロービス経営大学院著 ダイヤモンド社

『プラットフォームの教科書』根来龍之著 日経BP



バリューチェーンのデコンストラクション②

■オーケストレーター

 

オーケストレーター(外部機能活用型企業)とは、ある活動要素で強力なプレイヤーが、それ以外も含めたバリューチェーン全体をコントロールし、顧客にトータルな価値を提供するパターンです。

 

インテグレーター(垂直統合型)と異なるのは、垂直統合で全体をまとめるのではなく、コアとなる機能は自社で持ちますが、それ以外については外部資源をうまく活用することです。

オーケストレーター

現在は中国系企業等におされがちですが、かつてこのパターンを採用して成功したのがデルコンピューターです。

 

パソコンのデルが自社で持つのは、マーケティング機能、受発注機能、アセンブリ機能、サービス機能など、BTO(受注生産)のコアとなる部分だけで、部品の調達・製造や配送では外部資源を活用しています。

 

デル・システムの強みは、「直販による流通コストの削減(卸や小売の中抜き)」「顧客のニーズに応じたオーダーメイドの提供(顧客は必要な性能だけを選んで購入)」「製品在庫を持たず在庫コストを低減させる」ですが、受注生産である以上は、納入までのリードタイムが発生することが弱みでした。

 

そこで、顧客をできるだけ待たせないように、必要な部品がジャストインタイムで入る仕組みをつくるとともに、受注すると即座に組立て、発送するサプライチェーンマネジメントを実施しました。

 

外部機能を活用して顧客に高いコストパフォーマンスを与えるためには、ビジネスモデルをうまく設計して運用するオーケストラの指揮者のような役割が必要です。その結果、それまで48111日の流通過程を、9日程度まで短縮しました。

 

 

【参考】

『グロービスMBA事業戦略』相葉宏二、グロービス経営大学院著 ダイヤモンド社

 

バリューチェーンのデコンストラクション①

■バリューチェーンのデコンストラクション

 

製品が顧客に供給されるまでには、原材料や部品の調達活動、商品製造や商品加工、出荷配送、マーケティング、顧客への販売、アフターサービスといった付加価値活動一連の流れを経ます。これをバリューチェーンといいます。

 バリューチェーン

以前はこの一連の流れを同じ資本(あるいは系列)下でコントロールすることで、最適化することができました。たとえば、家電製品であれば、親会社が調達・製造を担い、子会社が流通やメンテナンスを担い、系列販売店が小売販売を担うといった形でした。

 

しかしながら、事業環境が変化すると、このような垂直統合型のバリューチェーン(インテグレーター)を見直して、再構築する(デコンストラクション)必要に迫られます。再構築の流れは大きく、レイヤーマスター、オーケストレーター、マーケットメーカー、パーソナル。エージェントに分かれます。

 

 

■レイヤーマスター


レイヤーマスター(専門特化型企業)とは、バリューチェーンの1つのレイヤー(層)に特化して、その付加価値部分で圧倒的な地位を確立するプレイヤーです。業界のバリューチェーンが分解する条件であれば、そのうちの1つの活動要素に特化することで強い力を獲得できます。

レイヤーマスター

たとえばパソコン業界におけるマイクロソフトやインテルなどの企業が典型例です。特定のレイヤーに経営資源を集中し、圧倒的な技術力で世界を対象に販売します。日本企業では、キーエンス、ローム、ヒロセ電機、マブチモーターなどが特化型企業の例です。

 

まだ製品技術そのものが明確でない場合には、垂直統合型でバリューチェーン全体を1つの企業が各機能を擦りあわせてコントロールし最適化することが重要ですが、技術が進歩して必要な性能が容易に満たせるようになると、垂直統合型のすり合わせのメリットはなくなります。安い外部から部品を調達してくれば事足りるからです。よって、水平分業化が進み、レイヤーマスターが生まれることになります。

 

あるいは技術そのものの変化や不確実性が高い場合も、1つの企業(資本)ですべての機能を賄うのは不可能ですから、水平分業化が進みます。

 

こうして考えると、水平分業化の流れは宿命的であるといえます。

 

 

【参考】

『グロービスMBA事業戦略』相葉宏二、グロービス経営大学院著 ダイヤモンド社

 

雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断7月号」が発売されました。


7月号_


今回のテーマは、「平成経済史を振り返る①――失われた30年はなぜ起きたのか?(バブル景気編)」です。

 

5月の令和への改元からはや2ヶ月が経とうとしています。平成が良い時代だったかどうかは人それぞれでしょうが、マクロ経済的にいえば「失われた30年」という混迷の時代だったというほかありません。

 

診断士試験の経済学の講義を担当してきた者としては,単なる試験対策として学習するのではなく,いささか厚かましいですが,「自分はどのような時代を生きてきたのか」,そして「どのような時代を生きていくのか」考える力を養ってほしいという思いがあります。

 

そこで,今月号と次月号の2回に渡り,平成時代を経済的な観点から振り返りたいと思います。今回はバブル景気の発生と崩壊までを取り上げました。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。

課金のしかたのシフト⑤

引き続き「顧客への課金(料金請求)のしかた」について取り上げます。

 

■逓増価格

 

家電製品など初めは高価格で徐々に低価格になるケースは多く見られますが、逓増価格は、初めは低価格で徐々に価格が上がるというものです。

 

進研ゼミなどのように小学生対象コースは安く、中学・高校・大学になるにつれて高く値段を設定する、自動車のようにエントリーカーは安いモデルを、ユーザーの所得の増加に応じて高いモデルをラインナップする、初心者用に安いモデルを、中級者・上級者には高いモデルを用意するなどの例があります。

 

 

■マークアップ式

 

小売業などで一般的に見られる値段の付け方です。仕入れに対して一定のマージン率をのせて売価を設定するというやりかたです。製造業でコストに対して一定の利益率をのせて売価を設定する場合はコストアップ法とよばれます。

 

 

■逓減価格

 

時間が経つにつれて、機械的に値段が下がる仕組みです。

 

たとえばブックオフでは売れ残った本の値段が定期的に書き換えられ、やがては100円コーナーに移ります。また売れ残ったものをバーゲン品にするということは一般的によく見られます。

 

もう少し柔軟に価格を下げることで、売り手と買い手の双方に利益が生まれるやりかたをしているのが、古着店のドンドンダウンオンウェンズデイです。

 

この店の古着には、値札の代わりに、リンゴやブドウ、イチゴなどの果物が描かれたタグがつけられており、これが値段を表しています。店内に100円から7000円まで10段階の料金表が掲げられていて、「ブドウ5000円」というように、それぞれのイラストがいくらをあらわすのか書かれています。

 

ユニークなのは、毎週水曜になると、1段階価格が下がることです。たとえば、今週ブドウが5000円だったら、翌週は4000円、翌々週は3000円と下がっていきます。安くなるまで待ちたいところですが、古着は1点ものなので、待っていたら誰かに買われてしまう可能性があります。そうした駆け引きが楽しめます。

 

店から見ると、だいたい適正な価格で売れていくので、値付けがわからない品は最高値の7000円をつけておけば、大きな間違いはありません。つまり店員の目利きがいらないシステムというわけです。

 

【参考】

「カール教授のビジネス集中講義 ビジネスモデル構築」平野敦士カール著 朝日新聞出版

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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