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差別化しすぎると失敗する④

カナダのヨーク大学のノーズウォーティーらは、「ビタミン入りコーヒー」という、一般的なスキーマと完全に不一致な製品に対するイネーブラーの効果を検証しました。このとき、彼らがイネーブラーとして用いたのが「色」でした。ビタミンは野菜と意味的に強い結びつきがあるため、彼らは野菜の「色」をイネーブラーとして使ったのです。

 

実験では、ビタミン入りコーヒーとして、緑、赤、黒のコーヒーを用意し、それぞれの製品の評価(受容度)を測定することにより、イネーブラーとしての「色」が不一致度を和らげるかを検証したのです。

 

その結果、黒いビタミン入りコーヒーは、通常のコーヒーと比べて評価が有意に低かったのですが、緑や赤のコーヒーではビタミン入りコーヒーのほうが、通常のコーヒーよりも評価が高くなりました。つまり、ビタミンと意味付いた色である緑や赤をイネーブラーとして提示することによって、コーヒーにビタミンも「あり」だと理解が促進されたのです。

 

革新的な新製品が既存カテゴリーと「極端な不一致」をもたらす可能性のある場合、消費者の理解、受容を高めるために企業には2つの選択肢があります。

 

1つは、これまで説明したように、適切なイネーブラーを提示することです。Crystal Pepsi」が天然水から作られていれば、消費者は受け入れていたかもしれません。イネーブラーは、製品コンセプトの説明や広告に含めるメッセージ、製品そのものに関する材料・素材、色や形状などのデザインなど、様々な形態をとりえます。

 

もう1つは、そもそも「極端な不一致」を生み出さない他のカテゴリーや新しいカテゴリーの製品として売り出すことです。たとえば「Crystal Pepsi」の商品名を変えて、Cokeではなく7upやスプライトと直接競合させることです。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

 

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差別化しすぎると失敗する③

消費者は革新的な新製品の機能・特徴を、既存の製品カテゴリーと「極端に不一致」とみなすため、製品コンセプトを理解する努力(情報処理)をしなくなり、購入をためらってしまいます。

 

一般的に革新的な製品は漸進的な製品(改良型製品)に比べて約4分の1の確率でしか選択されないといわれます。もし、この「極端に不一致」を「適度な不一致」に変えることができれば、消費者の情報処理量が増えるので、革新的な新製品に対する消費者の理解が進み、製品評価や受容可能性を高めることができるでしょう。その変化の鍵をにぎっているのが、革新的な機能・特徴に対する意味づけです。

 

ペプシが失敗した、カフェインフリーの無色透明なコーラ「CRYSTAL PEPSI」を例にしてみます。

 

「コーラは黒くて刺激的なソフトドリンク」というスキーマに「透明な飲料」という要素が入ってくると、スキーマとの「極端な不一致」を引き起こします。そこで、「透明」と結び付きの強い言葉、たとえば「天然水」で意味付をしてやると、それが「適度な不一致」に変わって、「透明なコーラもありだよね」と消費者が感じるようになるのです。

 

このような意味付けのことを心理学ではイネーブラーと呼びます。イネーブラー(今回は「天然水」)は、革新的な機能・特徴(今回は「透明」)の存在を意味的に肯定することによって、「天然水ならばコーラでも透明である」というカテゴリー一貫性をもたらします。

 

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

 

差別化しすぎると失敗する②

新製品のコンセプトを消費者が受容できるかを理解するうえで有用なのが、スキーマ一致効果です。

 

スキーマとは、ある対象や出来事に関して記憶されている情報や知識で、頭の中に意味的ネットワークを形成しています。新たな刺激が外から入ってきたとき、それがスキーマとどのくらい整合性があるか(一致度)によって脳の活動量が変わってきます。

スキーマ一致効果

不一致であればあるほど驚きをもたらすために、注意のレベルは高くなりますが、理解しようとする努力(情報処理)の量は適度な不一致のときに最大となる逆U字型となります。

 

「ほぼ一致」の場合は予想通りなので認知度力の必要が少なく、逆に「極端な不一致」の場合はあまりの違いから理解する努力を諦めてしまうのです。

 

つまり、消費者は革新的な新製品の機能・特徴を、既存の製品カテゴリーと「極端に不一致」とみなすため、製品コンセプトを理解する努力(情報処理)をしなくなり、購入をためらってしまいます。Crystal Pepsi」が売れなかった背景にはこのような事情がありました。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

差別化しすぎると失敗する①

■ペプシコーラの失敗

 

アメリカ市場では、いつもコカ・コーラと熾烈なシェア争いをしているペプシ・コーラですが、1992年にカフェインフリーの無色透明なコーラ「CRYSTAL PEPSI」を販売したのですが、評判が悪く、わずか1年で販売中止に追い込まれてしましました。

 

消費者には、刺激的な黒い炭酸飲料であるコーラと、純粋なイメージを持つ透明とのミスマッチが受け入れられなかったのです。

 

CRYSTAL PEPSI」は、Cokeに新しいフレーバーを混ぜた「Cherry Coke」や、砂糖の代わりに人工甘味料を使った「diet coke」のような改良製品ではなく、既存の常識やイメージとかけ離れたまさに差別的な商品、イノベーションといえましたが、なぜ失敗したのでしょうか?

 

 

■2つの消費者の連想

 

「他の製品との差別化が大事だ」とは、よく言われます。しかし、あまりにも違いすぎると、消費者は理解することができず、その製品を受け入れることができません。

 

差別化にあたっては、次の2つの消費者の連想を意識する必要があります。

 

〇類似点連想:他ブランドと共通の特徴に関する連想のこと

〇相違点連想:他ブランドとは異なる、ブランド特有の特徴に関する連想のこと

 

CRYSTAL PEPSI」は、「黒い炭酸飲料」というCokeの類似点連想を消費者に抱かせなかったので失敗したといえます。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

おとり戦略②

前回の続きです。

 

Q:ある寿司屋では、2種類の盛り合わせ、高価格・高品質の「竹」と、低価格・低品質の「梅」を提供していて、現状、これらの注文は半々です。

売上アップのために店主は「梅」より「竹」の注文を増やしたいのですが、どうすればよいでしょうか?

おとり戦略②

A1:「竹プラス」を出す

⇒劣った属性(価格)の範囲を広げることで、それほど悪くないと感じさせる(妥協効果あるいはレンジ効果)

 

A2:「梅プラス」を出す

⇒優った属性(品質)に関して、より劣ったおとりが加わることで、一層魅力的に感じる(魅力効果あるいはフリークエンシー効果)

 

 

■妥協効果と魅力効果のどちらが強い?

 

それでは、妥協効果と魅力効果のどちらがより効果が強いでしょうか?一般に、人は利得増加よりも損失回避を重視します。「梅」に対する「竹」の弱みは損失、「梅」に対する「竹」の強みは利得と解釈できるため、弱み(高価格)を和らげる妥協効果は強み(高品質)を増強させる魅力効果より強くなります。


■両方の属性を操作しない

 

妥協効果と魅力効果の相乗効果をねらって、下図のような「竹」より高価格かつ低品質なあからさまなおとり商品を販売したら、「梅」に対する「竹」の販売比率をもっと増やせるのではと考えるかもしれません。 おとり戦略③

実は、両方の属性(品質と価格)の値を同時に操作したおとり商品だと、人は品質の違いと価格の違いとをトレードオフにかけて、頭の中でさまざまな計算をするため、妥協効果や魅力効果が弱まってしまいます。

 

どちらか片方の属性値のみを変えることによって、商品間の優劣がより明確となり、妥協効果あるいは魅力効果が強く出ることが実験で確認されています。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

おとり戦略①

Q:ある寿司屋では、2種類の盛り合わせ、高価格・高品質の「竹」と、低価格・低品質の「梅」を提供していて、現状、これらの注文は半々です。

売上アップのために店主は「梅」より「竹」の注文を増やしたいのですが、どうすればよいでしょうか?

おとり効果①

2つの対策が考えられます。

 おとり戦略②

(1)「竹プラス」を出す

たとえば器を高級にしたり期間限定と銘打ったりすることで、現在の「竹」と品質は同じで価格が高いおとりの「竹プラス」を出します。「竹」プラスは、賢明な消費者には選ばれないため、無関係な選択肢、つまりおとり商品になります。

 

「竹」の「梅」に対する弱みは高価格なことですが、「竹」と同品質でさらに弱みの大きい「竹プラス」が存在することで、「竹」の弱みが和らぐ効果があります。

 

劣った属性(価格)の範囲を広げることで、それほど悪くないと感じさせることから、妥協効果あるいはレンジ効果と呼ばれます。

 

(2)「梅プラス」を出す

「梅プラス」は、「梅」と品質は同じですが、「竹」と同じ価格になっています。「梅プラス」は賢明な消費者には選ばれないため、無関係な選択肢、つまりおとり商品となります。

 

「竹」の「梅」に対する強みは高品質なことですが、「竹」と同価格なのに品質が低い「梅プラス」が存在することで、「竹」の強みが引き立つ効果があります。

 

優った属性(品質)に関して、より劣ったおとりが加わることで、一層魅力的に感じることから、魅力効果あるいはフリークエンシー効果と呼ばれます。

 

(3)超高品質、超高価格な「松」を出す

 

超高品質、超高価格な「松」を出すと、人は3つある中で真ん中のものを選ぶ傾向があるので、「竹」を選ぶことになります。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

ポスト安倍政権の経済学④

これまで述べてきたように、経済政策の観点で言えば、菅官房長官がもっとも信頼できます。菅政権誕生で杞憂にすぎなかったわけですが、もし岸田・石破両氏が総理になっていたらどうなっていただろうかと肝を冷やします。これは両氏の発言を経済学の知見に純粋に照らし合わせた上での必然です。今回の総裁選で、岸田・石破漁師の惨敗で、次の総裁選の芽もほとんどなくなったかもしれませんが、現在、将来の総裁候補といわれる人たちも大方は増税派であるのが何とも救いようがないところです。

 

菅次期総理はテレビ番組で「将来的には消費税を引き上げる必要がある」と発言しつつ、その翌日に「消費税は今後10年上げる必要がない」という安倍総理の発言を踏襲しています。

 

菅政権誕生で、今後の1年はアベノミクスを継承し、早期に解散を打つ公算が高いでしょう。その際に大規模な財政出動(場合によっては消費減税)を公約にかかげ、選挙での勝利を目指すかもしれません。総選挙に勝てば、次の総裁選にもまず菅氏の続投が決まります。その後に菅氏の最大の政治的関心である規制改革に乗り出すでしょう。

そこでマスメディアや野党、霞ヶ関との対立が先鋭化するのではないでしょうか。ここでもし退陣という事態になれば、かつての民主党への政権交代前の悪夢が再現される可能性があります(もっとも今の野党の体たらくからすれば政権交代はまずないとは思いますが)。

 

ポスト菅総理に当たる人物が消費増税を断行し、さらに日銀総裁をかつてのように緊縮派の日銀プロパー(現副総裁の雨宮氏)に変えた場合、日本はデフレに逆戻りします。よって早期の退陣に追い込まれるはずです。自民党内でも消費減税派は若手を中心に100名弱程度おり、党執行部に反旗を翻す可能性もあり、政治的には混迷します。これが最悪のシナリオです。

 

まずは菅政権誕生後のはじめての総選挙の結果が日本の将来を決めることになるでしょう。

 

ポスト安倍政権の経済学③(石破茂元地方創生大臣)

個人的には、石破氏がなぜ自民党にいるのか不思議です。国民的人気が高いといわれていますが、最近の調査では、菅氏の後塵を拝しています。自民党員から人気があったのは、おそらく自民党が野党時代の国会での質疑の舌鋒の鋭さや、憲法改正推進派というイメージからかと思います。

 

確かにこの方は、主張するときの圧の強さを感じますが、ほとんど具体策がありません。スローガンは「納得と共感」ということですが、何か道徳のようで、具体的な政策が見えてきません。

 

TVワイドスクランブル上での杉村太蔵氏とのやりとりが話題になっています。

杉村氏:「石破さんの支持が上がらないのはマクロ経済政策。ブログ見たけどどっかの夕刊コラムみたい。全然政策の事書いてない。マクロ経済政策の無い政権は支持できない。ひと言、経済政策、理念聞きたい」

石破氏:「グローバル経済脱却。東京一極集中是正」以下、持説に主張が続く

 

主張を聞いているとコロナの問題とは関係なく、どうも「グローバル経済=新保守主義=弱肉強食」というイメージがあるようですが、それ以前に、「グローバル経済脱却。東京一極集中是正」はミクロ経済学の範疇であることは、経済学部1年生レベルでもわかる話です。つまり何も分かっていないのです。

 

どうせ何も分かっていないのなら、とりあえず「アベノミクスを当面続ける」とか言っておけばよいのに、下手に違いを出そうとするのですぐに馬脚が現れてしまいます。この方はどうもポジション取りが下手に思います。安倍政権でも協力的な姿勢に徹していれば、もしかしたら有力な候補でいられたでしょうに、反政権的な立場をとり、野党や朝日新聞から待望されるも、党内で顰蹙を買ってしまったといったところかと思います。

 

最近では消費減税も容認するかのような発言をしており、これ自体はよいのですが、もともとは消費増税派です。世論や野党の動きに沿っただけとも思えてしまいます。また「金融政策は正常化しなければならない」という主張であり、岸田氏同様、緊縮派です

 

また石破氏はミクロ経済政策でいえば、守旧派(規制派)です。以前にも取り上げましたが、石破4条件なるもので獣医学部の規制緩和を阻止したのが石破茂氏といわれています。「学部の新設条件は大変苦慮しましたが、練りに練って、誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にしました」と語ったといいます。

 

ちなみに憲法改正についての姿勢も私は懐疑的に思っています。石破氏は「共産党も納得するような形でなければ憲法改正の論議はしない」といっていますが、共産党が憲法改正に賛成するはずがないので、事実上、憲法改正はしないといっているようなものでしょう。

 

まとめると、石破氏の経済政策観は、立憲民主党とほとんど同じであり、極めて低い水準であるといえます。

ポスト安倍政権の経済学②(岸田政調会長)

総裁候補の2人目、岸田政調会長の経済政策について見てみます。

 

現下の状況に鑑み、金融政策は維持し財政政策も必要に応じて行うとしていますが、マクロ経済政策についての理解度は疑問符が付きます。「数年先は金融政策の正常化(出口戦略)を考える」と主張していることから、もともとアベノミクスについて同意も理解もしていないということがはっきりしています。

 

財政政策については今年3月以降の持続化給付金のとりまとめでも「減収世帯に30万円」とし、支給総額に抑制的でした。もともと消費増税派で、減税についても、「苦労してあげたのだから今更下げられない」(二階氏も同様)という立場です。今後の景気回復の状況次第で消費税引き上げを主張するのはほぼ明らかです。

 

この方の記者会見を聞いていると、聞こえの良いスローガンばかりが目立って中身がないように感じます。「分断から協調へ」がビジョンのようですが、何か野党の主張を聞いているようです。

 

マズイのは格差是正(中間層への配慮)に関する点です。アベノミクスの金融緩和政策で就業者が大幅に増加し、その恩恵は中~下流層が受けているのですが、この方は、野党と同様、「アベノミクスは富裕層優遇策」と考えているのではないでしょうか。

 

さらに「最低賃金の引き上げ」を主張していることが経済学的知識ゼロをうかがわせます。「最低賃金の引き上げ」は左派政権の定番メニューですが、不況下でこれを行うと、企業側が人を雇わなくなるので、失業率が上がるだけという結果に終わります。これは経済学の入門書レベルの話です。安倍政権下で最低賃金が引き上げることができたのは、労働市場が好転したからです。

 

総じて言えば、今はタイミング的に脱アベノミクスは言えないが、もともと財政規律至上主義で、経済学的知識はなく、経済政策的には立憲民主党と同じレベルであるといえます。

 

安倍政権との違いを打ち出すために、上滑りしている印象があります。

ポスト安倍政権の経済学①(菅官房長官)

安倍首相辞任にともなう総裁選も菅官房長官の勝利でほぼ決まりのようですが、ここで3候補の経済政策について見てみます。今回は、菅官房長官について取り上げます。

 

アベノミクスの継承を訴える菅官房長官は出馬表明でも金融政策の重要性を強調しており、3候補の中ではもっともアベノミクス(マクロ経済政策)の理解度は高いでしょう。また必要に応じて財政政策を行うとしています。

 

安倍首相やリフレ派経済学者とも近いことから、消費税引き上げについてはもともと懐疑的とも思われますが、現時点では消費減税については否定しています。立憲民主党・国民民主党が消費税引き下げに転じたことから、選挙次第で消費減税に転じる可能性はあります。

 

次にミクロ政策については、もともと総務大臣時代に、ふるさと納税を導入し、また電波オークション導入にも積極的であること、出馬表明でも携帯電話料金の引き下げや省庁の縦割り打破を強調していることからも、規制緩和が真骨頂といえます。竹中平蔵氏や岸博幸氏(慶應大学教授)らに近いとされています。

 

菅官房長官は調整型といわれますが、実際にはかなりの辣腕家のようです。今後は党内の族議員、マスコミ業界、関係省庁との軋轢が生じるでしょうが、辣腕をどこまで振るえるかが注目されます。

 

加計問題などでもわかるように、規制緩和についてはメディアや官僚の抵抗が激しく、安倍政権支持者の保守派の中でも反発が予想されます。モリカケの時のようなとんでもない捏造報道が起き、政治が空転する事態が懸念されます。

さようなら安倍政権⑤

さてマスメディア批判が続きましたが、同じことは学会でもいえます。官僚に沿った意見をいえば、気に入られて審議委員などのポストが与えられます。国内の学会はそうした先生が多いですから、異論をいうと何かと不都合でしょう。

 

話は変わりますが、日本の経済学、法学、人文学といった文系学会はかなりガラパゴス化しているのではないでしょうか。理系の場合、合理的な論証や客観性がすべてですから、どんなに経歴がある学者でも客観的な根拠を示すことができなければその主張が受け入れられることはありません。

 

しかし社会科学の分野では、実験による再現性が困難であること、さらにそもそも原因と結果の関係が複雑であることから、理系分野に比べて、主張の客観的根拠の明示が困難であるという事情があります。よって「らしい」主張であればそれが通ってしまう可能性は高いように思われます。さらに、それぞれの国の事情が異なることから、それぞれの国で独自の理論が生まれる可能性があります。その結果、クローズな学会が国内で形成されるのではないでしょうか。

 

本来、学者の評価は、国際的なジャーナル誌での評価で決まるはずですが、先に述べたように、官僚主導の理論形成、クローズドな学会での人間関係から、国際的には通用しないような学会が力を持ってしまっているのが日本の経済学会のように思えてしまうのです。

 

安倍総理も同様の認識を持っていたようです。20144月の消費増税の決断の前に開催された有識者会議では、国内の経済学者の7割超が増税に賛成し、経済への影響はないとの意見でした。結果は、大幅な消費減に終わり、アベノミクスはここで頓挫してしまったのです。安倍総理は「みんな間違っていたね」と周囲に漏らしていたといいます。ちなみに有識者会議の人選は財務省主導で行われます。

 

安倍総理の国内経済学者への不信感は、2016年から2017年にかけて、アメリカからノーベル経済学者のポール・クルーグマン教授、ジョゼフ・スティグリッツ教授、クリストファー・シムズ教授らを招聘し、意見を聞いたことに顕著です。次の消費税引き上げについて意見を聞いたところ、当然ながら消費税引き上げには反対でした。もともと消費税引き上げに懐疑的であった安部総理は2回の延期に踏み切ります。

さようなら安倍政権④

マスメディアは日頃権力ウォッチャーを自認していますが、果たしてどうでしょうか?官僚に対してはむしろ追随者でしょう。なぜかといえば、「ネタ元の悪口は書けない」からです。担当官庁について批判的なことを書けば、記者クラブから排除されることはありますし、ネタももらえません。スクープと呼ばれるものはほとんどは官僚からのリークであるので、機嫌を損ねると情報をもらえません。下手をすると、特落ち(自社だけ情報がもらえず記事化できない)ことにもなりかねません。この構図は反権力を自称する朝日・毎日・東京(近年では共同も)などの左派メディアも同じでしょう。

 

加えて担当記者は政治部所属でしょうから、経済学的知識はほとんどないといってよいと思います。したがって、財務省や日銀がレクチャーしてもらえなければ記事が書けない(その結果、レクチャーどおりの記事になる)ことになります。財務省が財政再建・消費増税をいえば、そのとおり記事になりますし、白川総裁時代の日銀が金融緩和の弊害をいえば、そのとおりに報道します。

 

いつ変わるかわからない政権や政治家のことは好き勝手に書けますが、官僚については従うしかないのです。

 

加計騒動の場合も同様で、獣医学部について認可はおろか、申請すら拒否し続けていた文科省の異常さは報道されず、元事務次官の前川氏の「行政が歪められた」という規制派の主張ばかりが取り上げられ、繰り返し報道されました。

 

さようなら安倍政権③

「第2次安倍政権は長期政権だったがレガシーがない」とよく言われます。確かに教科書に載るレベルのレガシーはないかもしれません。しかし民主党政権時代に毀損された日米同盟を強化し、日・米・豪・印のセキュリティ・ダイヤモンド構想を掲げ推進したことは、現在の中国の拡張主義を考えればまったく理にかなったことです。セキュリティ・ダイヤモンド構想はその後、トランプ政権の方針として採用されています。

 

日本の首相がこれほどまでにスポットライトを浴び、国際的にイニシアチブをとったケースはかつてなかったでしょうし、おそらく今後もしばらくもないでしょう。日本人としてこれほど誇らしいことはありません。

        

次にアベノミクスに関する評価ですが、コロナウイルスの影響を除外しても、残念ながら道半ばではあります。デフレ脱却には成功したとは言え、物価上昇率目標である2%、名目GDPも目標の600億円には遠く及びませんでした。

 

しかしながら、雇用環境の改善は目を見張るものがあり、完全失業率は4.3%(201212月)から、最高で2.2%(2019年11・12月)にまで低下しました。これは、バブル期の1989年からバブル崩壊直後の1992年頃の水準に匹敵する水準です。就業者数は6263万人から6765万人(201912月)へ増加し、500万の雇用が創出されました。

 

かえすがえすも20144月と201910月の消費増税が悔やまれます。消費増税さえなければ、おそらく2014年終から2015年には物価上昇率目標は達成し、今頃名目GDP600兆円を優に超えていたでしょう。

 

アベノミクスが始まった頃、大手メディアが何を言っていたのか思い出して見てください。

「異例の金融緩和でハイパーインフレになる」「禁じ手の財政ファイナンスで国債が無制限に増える」「金持ち優遇だ」「財政破綻する」などが典型的な主張だったかと思います。すべてハズレです。所詮、そんなレベルなのです。

 

ちなみに昨日、菅官房長官の出馬会見を見ていたら、日本経済新聞の記者が「早いかもしれないがいつ出口戦略をやる(金融緩和を辞める)のか」と質問していました。戦後最大の経済ショック時に何とも間抜けな話です。アメリカでもFRBが緩和を強化すると宣言したばかりなのに、この記者は大丈夫なのでしょうか?


不況時に中央銀行が大胆に国債の買いオペを行うのは、当たり前の話であって、リーマンショック後にやらなかったのは日本くらいです。新たに就業したのは、30歳代以降の女性、高齢者、そして学生ですから、金持ちだけが得したわけではありません。ちなみにプライマリーバランス(基礎的財政収支)も大きく改善しました。これには消費増税もありますが、就業者が増えたことで所得税が増加したことが大きな要因です。

 

アベノミクスがなければ働きたくても働けなかった人々が働けるようになったことは、大いにレガシーといってよいと思います。

 

さようなら安倍政権②

共同通信と、日経新聞・テレビ東京が週末に行った世論調査で、安倍内閣の支持率は55%となり、先月の調査より12%ポイントの大幅な上昇となりました。相変わらず多くの新聞やテレビでは報道していないようで、反安倍のスタンスを最後まで貫き通すようです。

 

反安倍の立場の人はこの支持率上昇を「理解不能」「同情票ではないか」と言っています。同情票もある意味では支持率といえますが、世論調査の結果を「理解不能」で片付けるのはどうでしょうか。単に理解したくない、受け止めたくないだけだと思います。

 

タレントの東国原英夫氏は「内閣支持率が上がったのは、そういった観点でみると辞めてくれてありがとう、ということにもとれるんですよ」といいます。ここまでくるとそれこそ東国原氏の分析力の乏しさに同情したくなります。そんなに不人気なら、歴代の不人気内閣もさぞや退陣の際に支持率があがったのであろうと、歴代内閣の支持率の推移を下記サイトで確認してみました。

http://honkawa2.sakura.ne.jp/5236a.html

 

近年では、麻生・管内閣、記憶の範囲では竹下内閣や森内閣が浮かびますが、辞任時にまったく支持率は上がっていません。彼は人を馬鹿にしているのか、それとも悔しくて仕方がないのでしょう。

 

第2次安倍政権の7年8ヶ月は左派メディアの誹謗中傷との戦いであったと言えるでしょう。森友・加計問題が典型的です。ただ首相と関係者が知人であったからというだけで、まったくの憶測(というより捏造)の報道を繰り返し、さらにそれに野党議員が乗っかって国会を空転させた罪は大きいでしょう。

 

森友学園でいえば、籠池氏のご長男がどのようにして左翼活動家や野党議員が自分たちに近づいてきたかを告発されてきましたし、その後、籠池夫妻もあれは野党に乗せられたものであると告白されています。

 

加計学園はさらにひどく、何もないところに無理やり疑惑をでっちあげ、政権攻撃を目論む野党とメディア、獣医学部新設をこれ以上認めたくない文科省および族議員の共謀とさえいえます。これについては以前にもこのブログでも書きましたのでご参照ください。http://bgeducation.blog.fc2.com/blog-entry-370.html

 

国会参考人質疑でも、規制緩和に反対の前川元文科事務次官の発言ばかりが報道され、当事者である元加戸守行元愛媛県知事、特区WG座長代理の原英史氏の発言時間および首相の関与は全くないという発言は意図的ともいえるほど小さく扱われました。

 

私はこの一連の過程で規制緩和への抵抗がここまで強いのかと驚愕しました。考えてみればマスコミが規制緩和に反対するのは、彼ら自体ががちがちの規制業種ですから当たり前なのかもしれません。また、何かと既得権益を批判する左派野党こそが規制緩和に反対なのだということも明らかになったと思います。

 

昨年からは原英史氏に矛先を向けたようで、毎日新聞や国民民主党の森ゆうこ議員らが「特区提案者からお金を受けてコンサル業務をしていた」などと一面連載ならびに事実無根の国会質疑を行い、原氏から訴訟を起こされています。結局のところ彼らには事実関係などどうでもよく、所詮人権派でもなんでもないのでしょう。ちなみに毎日新聞は連載をしておきながら、「金銭収受の事実を報道したつもりはない」と主張しているようです。

 

ちなみに石破4条件なるもので規制緩和を阻止したのが石破茂氏といわれています。「学部の新設条件は大変苦慮しましたが、練りに練って、誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にしました」と語ったといいます。石破茂氏の人気が高いようですが、支持する方は一体それをご存知なのでしょうか?

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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