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公共投資の意思決定―川辺川ダム中止は正しかったのか?②

前回、公共投資を含む投資案件の評価では、正味現在価値法を使うことを説明しました。その手順の基本は,次のとおりです。

 

①各期のキャッシュインフロー(現金ベースの儲け)を求める。

②①の現在価値(現時点での価値)を求める。

③「②-投資額」で正味の現在価値を求め,値がプラスであれば投資するし,マイナスであれば投資しないという意思決定をする。

正味現在価値

■公共投資の場合は国債の金利を使う

 

公共投資の場合は割引率を社会的割引率といい,国債の金利を適用します。国土交通省によれば,社会的割引率は,これまでの長期国債の実質金利(名目金利-物価上昇率)を参考に4%に定めているといいます。

 

ちなみに,割引率が高ければキャッシュインフローの現在価値は小さくなるため,投資案が採択される可能性は低くなります。マイナス金利の時代に「社会的割引率が4%とは,いかにも高いのではないか?その結果,公共投資の採択が低く抑えられているのではないか?」との指摘があり,国交省も見直しを検討しているといいます。

 

 

■川辺川ダム事業中止に経済合理性は?

 

以上を踏まえ,ダム事業の投資判断を考えてみます。便益は,河川氾濫による被害(物的・人的被害)の軽減額や,都市用水供給から得られる収入です。

 

川辺川ダム事業の場合,おおよそ便益は5,200億円,投資額は4,000億円(うち1,200億円は実施済み)とのことです。よって,B/C各期の基準は満たします。キャッシュインフローおよびその現在価値までは確認できていませんが,1,200億円は埋没コスト(回収不能費用)として無視すると,まず正味現在価値もプラスと考えてよいでしょう。

 

遊水池,放水路,河川幅拡大,堤防嵩上といったダム以外の手段では時間がかかりすぎるし(45200年),そもそもB/C基準を満たしません。よって,ダム事業中止の判断に少なくとも経済的合理性はまったくないといってよいです。

 

ダム以外にも,築地市場移転問題や新型コロナウイルス感染拡大などで,「安全より安心」という印象論で政策が語られていることが多いと感じます。経済的価値がすべてとは言いませんが,少なくともそれがなければ,意思決定の俎上に上げようがないことは強調しておきたいところです。

 

【参考】

・国土交通省『公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針(共通編)』

・高橋洋一著『日本の大問題が面白いほど解ける本―シンプル・ロジカルに考える』光文社新書

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公共投資の意思決定―川辺川ダム中止は正しかったのか?①

少し前になりますが、7月,九州の記録的な豪雨により球磨川が氾濫し,甚大な被害が生じました。これを受け,旧民主党政権下で事業中止が決定した川辺川ダムについて,「ダムがあれば河川の氾濫を防げていたのではないか」といった議論が出ました。

財政再建という掛け声のもと,何かと公共投資は槍玉に挙がっている。これに旧民主党時代の「コンクリートから人へ」というスローガンが加わり,脱ダムに拍車がかかりました。はたして,公共投資は悪なのでしょうか?

 

■基本はコストベネフィット分析

 

投資の意思決定の基本は「投資額(コスト)を上回るだけの収益があがれば投資する」という実にシンプルなものです。公共投資では,これを「コストベネフィット分析」(B/C分析)といいます

 

コストは初期投資額やその後の費用であり,ベネフィットはそこから得られる便益です。公共投資の便益には,収入やその公共投資によって節約できた費用,抑えられた損失の額が該当します。

 

たとえば,高速道路であれば,「一般道と比べてどれくらい移動時間が短縮され,その結果,どれくらい利益が増えるのか」(≒短縮時間×時間当たり付加価値額×移動人数)で積算可能です。

 

B/Cの割合が1を上回る投資案であれば,すべて採択されるのが合理的な意思決定です。そこに財源論は存在しません。借金して資金調達してもそれを上回るリターンがあり,回収できるからです。

 

 

■より精度が高いNPV法で考える

 

より精度が高い意思決定をするには,さらに現在価値を考慮します。正味現在価値法(NPVNet Present Value)について簡単に説明します。

 

まず,現在価値とは,将来に発生する値を現時点での値に割り引いて換算したものです。たとえば,金利が年5%の場合,現時点での100万円は,貯金しておけば1年後に105万円となります。言い換えると,1年後の105万円の現在価値は100万円になります〔105万円÷(1+割引率)〕。割引率には資金の調達金利を用います。

 

正味現在価値法の基本は,次のとおりです。

正味現在価値

①各期のキャッシュインフロー(現金ベースの儲け)を求める。

②①の現在価値(現時点での価値)を求める。

③「②-投資額」で正味の現在価値を求め,値がプラスであれば投資するし,マイナスであれば投資しないという意思決定をする。

 

【参考】

・国土交通省『公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針(共通編)』

・高橋洋一著『日本の大問題が面白いほど解ける本―シンプル・ロジカルに考える』光文社新書

「マクロとミクロの視点を使い分ける~経営学と経済学の間を往来する」②

■木も森も見る

 

確かに個々の企業の頑張りは重要なことですが、一企業レベルでできることには限界があります。たとえばリーマンショック後、1ドル115円程度であった為替は、1ドル80円を割る水準にまで円高が進みましたが、これでは日本の輸出企業は韓国・台湾・中国などの企業と戦いようがありません。20122月に会社更生法を申請し、製造業として戦後最大の負債総額4480億円で経営破綻した半導体製造業エルピーダメモリの坂本幸雄社長(当時)が、記者会見の中で「為替については、リーマンショック前と今とを比べると、韓国のウォンとは70%もの差がある。円高は一企業の努力でカバーできない」と発言したのは偽らざる本音でしょう。逆にアベノミクス以降の円安で、過去最高益の企業が続出したことは記憶に新しいです。

 

ミクロ偏重の発想は、経営者、経営学者、経営コンサルタントに顕著に見られます。極端な例では、「日本経済がイマイチなのは、みんなが頑張らないからだ」という主張さえあります。私に言わせると、これはただの精神論に過ぎません。

 

ここで大事なことは、経営学(ミクロ)の視点も、経済学(マクロ)の視点も両方大事だということです。私自身も、経営コンサルタントの立場では、(日銀の金融政策が悪い、規制緩和がイマイチなどと言っていても始まらないので)経営学の観点で思考します。一方、経済全体を論評するときは、もちろん経済学の観点で発想するようにし、完全に思考のフレームを使い分けています。

 

経済学の視点がないと、正しい状況認識ができなくなります。みなさんにも、「木も見て、森も見る」、実務的な意思決定の場面では経営学的な発想を、国の政策判断(あるいは選挙の際の政党・候補者の選択)の際には経済学的な発想を心がけて頂ければと思います。

「マクロとミクロの視点を使い分ける~経営学と経済学の間を往来する」①

私は経営に関するコンサルタントや、講義・セミナー・研修の講師をしている一方で、経済に関する講義や執筆活動もしています。つまり経営学と経済学の間を行ったり来たりするという立場で、経営コンサルタント(あるいは中小企業診断士)としてはいささか珍しい立場です。今回は、経営学と経済学の使い分けについて述べたいと思います。

 

■経営学と経済学では目的が異なる

 

多くの方は、「経済学と経営学を同じもの」、あるいは「経営学は経済学の1つのジャンル」と捉えているかもしれません。確かに経営学は経済学をベースに誕生したという経緯がありますが、両者はまったくテーマ(目的)が異なります。

 

経営学は突き詰めれば「単一の企業の利益の最大化(ミクロの観点)」をテーマにするのに対し、経済学は「国全体の利益の最大化(マクロの観点)」をテーマにします。

 

ここでよくある誤解が、「ミクロの合計がマクロになる」、言い換えれば、「1つ1つの企業が利益の最大化のために望ましい行動をすれば、国全体の利益(GDP)が最大化する」というものです。この考え方は誤りです。

 

一企業が利益を最大化するためには、同業者との競争を脱し、独占に近い形を目指すことになり、経営学でもそのように教えます。しかしながら、一企業が市場を独占すると、価格が不当に上がり、消費者は損をするので、企業(売り手)と消費者(買い手)からなる経済全体では利益が阻害されることになります。よって、経済学ではできるだけ、市場を完全な競争状態に近い状態にすることを求めます。独占禁止法はその趣旨に沿ったものです。

 

またイノベーションの成功事例を数多く起こすことが国全体としての課題ですが、そのアプローチについても大きく異なります。経営学では1つ1つのイノベーションの成功確率を高めることに力点が置かれます。一方、経済学ではイノベーションはそもそも成功確率が低いものなので(ハイリスク・ハイリターン)、個々の質はともかくできるだけ多くのイノベーションを発生させるための環境整備に力点を置きます。要は「数打ちゃ当たる」という発想です。具体的には規制緩和や研究開発投資を促す仕組み(税制や資金調達市場など)の整備です。

ビジネス書は役にたつのか?~賢い経営学との接し方②

■経営者の格言も思い込みにすぎない?

 

一方、叩き上げで一代で企業を成長させた経営者の方から、「経営理論など現場を知らない学者の机上の空論にすぎない」という意見を聞くことがあります。しかしながら、これには同調しかねます。彼らにもなにがしかの成功法則がありますが、それも経営書の成功法則と同様、単なる偶然の可能性が高いからです。

 

経営学者の理論は、多くの実証データを集めて導き出されたものです。さらに専門家(他の経営学者)による厳格な審査を経て学術誌に掲載されます。そのような理論ですら真偽が怪しいのですから、経営者個人の考えなど推して知るべしでしょう。実際にメディア等で持ち上げられていた経営者が成功法の書籍を出版したものの、その後、急速に業績を悪化させたケースは枚挙に暇がありません(よく中古本屋の100円コーナーで見かけます)。

 

 

■では、ビジネス書をどう利用するべきか?

 

企業の業績には、国内外のマクロ経済環境、他社の動向、政府の政策、買い手の嗜好変化など、様々な要因がからみ、その中から普遍的な成長法則を見出すことはほとんど不可能と言ってよいでしょう。極端なことをやって「たまたま」成功する企業もあれば、妥当なことをやっていても運悪く衰退する企業もあります。

 

こうした偶然性が支配する環境下で、ビジネス理論を学ぶ意義は、「必ず成功する」法則を知ることではなく、せいぜい「生存の確率を高める」法則を知ることくらいかもしれません。では、どうすればその確率を高めることができるのでしょうか?

 

それは、1つの考え方に固執するのではなく、できるだけ多くの考え方を知ることに尽きると思います。それまでの考え方が有効ではなかったら、考え方を改め、違う考え方を試してみるしかありません。みなさんには、是非たくさんの考え方を知っていただきたいと思います。

ビジネス書は役にたつのか?~賢い経営学との接し方①

ビジネス教育というものに携わって、かれこれ15年以上が経ち、その間、数多くの経営書を読んできました。経営書の目的は、「高い業績の企業を取り上げ、その共通点(法則)を抽出し、世に紹介する」というものです。読者の欲求も、「成功企業の法則を知りたい」に尽きるでしょう。

 

■ビジネス書のジンクス

 

さて、唐突ではありますが、「スポーツ・イラストレイテッドのカバー・ジンクス」というものをご存知でしょうか。「スポーツ・イラストレイテッド」は、アメリカの著名スポーツ週刊誌で、その表紙を飾った選手はその後、スランプに陥るというものです(現在はきわどい水着女性の写真がカバー表紙のようですが)。

 

なぜか?カバーを飾るのは、直近で大活躍した選手です。しかしスポーツの世界で絶好調は長続きしません。つまり、偶然(たまたま)の出来事です。よってカバーを飾ったときには、すでに絶好調の時期は終わり、平均的なパフォーマンスに回帰してしまうからです。

 

実はビジネス書を飾るスター企業たちにも同じことがいえます。かつて世界的にベストセラーとなった経営書の例を2つご紹介します。

 

1980年代初頭に発売された「エクセレント・カンパニー」(トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン)では、超優良企業として、43社が取り上げられました。しかしながら、同書が出版されたわずか2年後、少なくとも14社が深刻な経営不振に陥ってしまったのです。さらに、フィル・ローゼンツワイグ(IMD教授)が、業績が公表されている35社について1980年からの5年間の株主利益率の成長率を調査したところ、市場平均を上回ったのはわずか12社だけ、つまり過半数は超優良どころか平均にも及ばなかったのです。

 

また1994年に出版された「ビジョナリー・カンパニー」も同様で、「長期に渡り高い業績を上げ続けた企業」として取り上げられた企業のうち、株式公開している17社の1995年時点での自己資本利益率を見ると、市場平均を上回ったのは半分以下の8社に過ぎませんでした。近年では、「ブルーオーシャン戦略」なども槍玉に挙がっています。

 

激しい環境変化の中で、長い間、高い業績を上げ続ける企業は例外的な存在です。その例外に何らかの普遍性を見出そうとする経営書に対して、次のような批判があります。

「網の上に無数の小石が敷き詰められていたとする。何度が揺さぶっているうちに、小石は網の目からこぼれ落ち、最後には1つになるだろう。網にたまたま最後まで引っかかっていた小石を取り出して分析しても何の意味があるのか?」

アサエルの購買行動類型

消費者の関与(商品に対する関心・興味)と知識レベルが、ブランド選択に与える影響を、情報処理過程の違いから類型化したものが、アサエルの購買行動類型です。


アサエル

<複雑な情報処理を伴う購買行動>

まず、知識が豊富な消費者はブランド間の差異を認識します。さらに関与が高い場合は、ブランド間の違いを様々な観点で分析・評価して、それらのバランスから購買ブランドを決めるような、複雑な情報処理を行います。

 

商品知識が豊富で関与が高い人は中心的ルート(ブランド間の違いを論理的に比較し、購買ブランドを選択する)で決定し、そうでない人は周辺的ルート(イメージや評判、外観など商品の周辺部分で購買ブランドを選択する)で決定します。複雑な情報処理を伴う購買行動は、「中心的ルート」での決定といえます。

 

<認知的不協和の低減>

「あっちにしておけばよかった」など消費者は購買後に何らかの後悔を感じるといわれます(認知的不協和)。関与が高くてもブランド間の違いを認識していない(知識レベルが低い)場合は、どのブランドを買えばよいか分からないので、あとで選択を後悔しても言い訳ができるように、とりあえず人気の一番高いものを買う傾向があります。

 

<慣性型購買行動>

関与が低い場合はカテゴリー自体に無関心です。そのため、どの商品も同じようだと感じている場合には、習慣的「いつもの」ブランドを選びます(日常的反応行動)。

 

<バラエティー・シーキング>

商品に対する知識があり、商品間に違いがあることを認識している場合には、いろいろなブランドを試しに買いまわる行動(バラエティー・シーキング)が見られます。

 

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

 

人は確率が高いことを過小評価し、確率が低いことを過大評価する

家電製品を買ったときに、店員にすすめられて有料の延長保証を申し込んでしまった経験がある方は多いでしょう。最近の家電製品は滅多に壊れませんが、「壊れたら困るな」という心理でつい申し込んでしまうのです。

 

延長保証は、人は一般的に確率が低い事象を実際以上に高い確率で起きると見積もり、確率が高い事象は、実際より低い確率でしか起きないと見積もる傾向を利用したものです。

 

これをモデル化したものが、トベルスキーとカーネマンのプロスペクト理論があります。

確率過重関数

横軸は実際の確率(客観的確率)、縦軸は知覚される確率(主観確率)なので、2つの確率が等しい場合が45度直線で表されます。

 

これを見ればわかるように、低い確率は過大評価され、高い確率は過小評価されます。そして実際の確率が約35%のとき、主観的確率と一致することが、様々な研究からわかっています。客観的確率が0%と100%に近い場合、つまりほぼ不可能なときとほぼ確実なときに、主観的確率の乖離が大きくなっています。

 

ほとんど起きない家電製品の故障を心配して有料の延長保証に申し込んでしまったり、ほとんどあたり見込みのない宝くじを買ってしまう心理にはこのようなことがあるのです。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

ネガティブ情報も示すことで信頼性が高まる

■ポジティブ情報だけでなくネガティブ情報も示すことで信頼性が高まる

 

メーカーのウェブサイトで評価の高いレビューばかりだと、「どうせ、評価の悪いレビューは削除しているんだろう」と考えて、信憑性を疑われる可能性があります。いくつかの消費者行動研究でも、ポジティブ要因とネガティブ要因の両方を提示する両面提示広告では、ネガティブ情報が許容できるレベルであれば、むしろ情報の信頼性を高めるため、説得の効果が高いことが示されています。

 

古典的な例では、フォルクスワーゲンのビートルが「1970年型のビートルは、その醜さを他社より長く保ちます」と、スタイルの醜さを逆手にとって、耐久性のよさをアピールした広告があります。

 

 

■どちらを先に示すかはケースバイケース

 

さらに両面提示の場合、ポジティブ要因とネガティブ要因のどちらを先に提示するべきかという順序効果の研究では、受け手がどれだけ広告を詳細に吟味して理解しようとするかによって違いことが確認されました。

 

情報処理の動機が高い場合は初期メッセージに(初頭効果)、逆に動機が低い場合は最終メッセージに(親近性効果)、より強く影響されるのです。

 

したがって、関心の高い商品・内容の場合は最初にポジティブ情報を、関心の低い商品・内容では最初にネガティブ情報を提示する方が、最終的な評価が高まることが示唆されます。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

ツァイガルニク効果

雑誌の目次に次のような見出しがあったとき、あなたならどちらの方がより記事を読みたくなるでしょうか。

 

  1ヶ月で10キロもやせられた理由は、毎日、食事前に〇〇を食べたからです。

  1ヶ月で10キロもやせられた理由は、実は食事の前に、ある簡単なことを毎日続けたからでした。

 

②の見出しの方が多くの人の興味をそそるのではないでしょうか。人は自身が達成した事柄より、達成できなかった事柄や中断している事柄の方が記憶に残りやすいことを、その現象を発見した心理学者の名前をとってツァイガルニク効果といいます。

 

1927年に行われた心理学者ツァイガルニクによる実験では、被験者に約20の小タスク(パズルを解く、ビーズに糸を通すなど)をやってもらい、そのうちいくらかのタスクを途中で中断させました。

 

その後、どのタスクのことを覚えているか聞いたところ、中断させられたタスクは完了したタスクと比べて約2倍、被験者の記憶に残っていました。

 

1972年には、アメリカの心理学者ヘイムバッハらがツァイガルニク効果を広告に拡張させて実験において、メッセージの初めを聞くと最後まで聞きたくなり、結果そのメッセージは記憶に残りやすかったことを確認しました。

 

「続きはCMのあとで!」「詳しくはウェブで!」などは、「続きが気になる」心理を巧みに利用したものです。中途半端なところで切り上げることにより物事が気になる状況が生み出されて、記憶に残りやすくなるのです。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

価値観数(複数の利得は分離する)②

前回に続き、価値関数の話です。これは、金銭や財の水準によって、満足度(効用)がどのように変わるかを表したものです。

価値関数

次にある基準(参照点)から所得が下がる場合を考えます。現在から所得が下がった場合も満足度の下がり方は低減していきます(苦痛の増え方が減っていく)。たとえば損失が100なら苦痛(マイナスの満足度)が20、損失が200なら35、損失が300なら40、損失が400なら43といった具合です。

 

苦痛の増加分を見ると、201553といったように減少していきます。さらに損失が400500と増えていっても、苦痛はあまり増えません。つまり損失が増え続けると、損失に対し感覚が麻痺してしまうということです。

 

利益が生じる場合の価値関数より損失が生じる場合の価値関数のほうが傾きが大きいので、総じて人は利益が出ることの喜びよりも損失が出た場合の苦痛の方が大きいということを示しています。

 

このことから複数の損失はまとめてしまったほうがよいということになります。

  損失が200で苦痛35

  損失が100で苦痛が20、さらに損失が100出ると苦痛が20

 

苦痛の合計は①が35で、②が40ですから、②のほうが苦痛は小さくなります。

 

金銭的支出はまとめて支払うことで痛みが減ります。自家用車のカーナビやメンテナンスパック、戸建て住宅の照明、エアコン、カーテンなど、高額商品に付随するオプションが購入されやすい理由の1つは、あとから単体で支払うより気分的に楽だということがあります。旅行や保険のパックなども同様です。

 

逆に余計な買い物を防ぐためには、クレジットカードで月末に一括で支払うのではなく、あえて痛みが伴うよう買い物11回で現金払いにするのもよいかもしれません。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

 

価値観数①(複数の利得は分離する)

価値関数は、金銭や財の水準によって、満足度(効用)がどのように変わるかを表したものです。価値関数

これによれば、人はある基準(参照点)から所得が増加するにつれ満足度が逓減することになります。たとえば所得が現在から100あがったときの満足度が10だとしたら、200のときは(20ではなく)15、300のときは(30ではなく)18といった具合です。

 

次のケースを考えてみましょう。

  宝くじで1万5000円が当たった時の満足度

  宝くじで1万円が当たった時の満足度+その後にさらに5000円当たった時の満足度

 

仮に5000円の満足度が101万円の満足度が15、1万5000円の満足度が18だとしましょう。そうすると①の場合は満足度が18で、②の場合は25になりますから、②のほうが人は嬉しいということになります。

 

欧米では「プレゼントは分けて小出しにする」という言葉があります。テレビショッピングなどでも、最初からすべての商品パッケージを提示しないで、付属品、オプション、おまけ、送料無料など次から次へと加えることで魅力を高めています。

 

ジャパネットたかたのCMは価値関数に見事に沿った内容といえます。

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

 

デノミネーション効果

年額ではなく月額にするなど、商品の値段を小さな単位に分割することで、値打ち感を出す効果を、デノミネーション効果といいます。デノミネーション(デノミ)とは、もともと通貨の切り下げを意味する言葉です。

 

例としては、携帯電話の月額○○円があります。デアゴスティーニの週刊「バックトゥザフューチャー:デロリアン」の定期購読は、初回が499円、次回以降1790円ですが、完成させるまでに全130巻、合計23万円以上かかります。

 

他にも、雑誌の年間購読では1冊あたり、エステやジムの年間契約は1月あたり、サプリメントは一錠あたりや1日にあたり、インスタント味噌汁は1食あたりで価格を提示することによって、購買のハードルを下げています。

 

「1日コーヒー1杯分」という謳い文句は、確かにお値打ちのように思えますが、積もりに積もった額が果たして妥当なのか慎重に考える必要があります。

 

 

 

【参考】

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』阿部誠著 KADOKAWA

雑誌連載記事のご案内

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断10月号」が発売されました。今回のテーマは、「コロナショックにおける各国の財政政策――最悪は最悪でも経済対策で減少幅は異なる」です。

10月号企業診断

8月17日に2020年4月~6月のGDP1次速報値が発表されました。実質でマイナス7.8%,名目でマイナス7.4%,年率換算でマイナス27.8%(実質)となり,戦後最悪の水準となりました。予想されていたこととはいえ,衝撃的です。

8月に入り各国の4月~6月期のGDP速報が発表となり,コロナ禍の経済ショックの実態が浮き彫りになりつつあります。甚大な影響であることは各国共通ですが,対応の差によってその度合いには差がみられます。今回は主要各国のコロナの経済的影響について概観してみました。

 

機会がありましたら是非お読みいただければ幸いです。

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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