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雑誌記事のご紹介

「世相を読み解く 診断士の眼」というコラムの連載をさせていただいています月刊誌「企業診断2月号」が発売されました。今回は連載をお休みし、「企業経営理論の解法~60点を超えるノウハウのすべて」を掲載しています。

2月_

企業経営理論は中小企業診断士試験の1次試験の科目の1つで、その試験対策の内容になります。

中小企業診断士を目指す人であれば、この科目は最も関心が高い科目だと思います。ただし、テキストの学習は楽しいですが、実際に過去問を解くとなかなか正解ができず、「この科目だけはどうしても6割をクリアできない」と悩む受験生は多いです。

 

私は2004年から診断士試験対策の講師・教材作成に携わり、2011年までは企業経営理論の科目担当として、過去問解説、テキスト執筆、答練作成に従事した経験があります(それ以降は講義のみ)。

 

よくある上辺だけの傾向・対策とは異なる内容になったと自負しています。診断士試験を目指す方には是非お読みいただければと思います。よろしくお願いいたします。

 

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企業は非連続な技術変化に対応できるのか?②

技術が非連続に変化する中では、企業は新しい分野にも積極的に進出する必要があります。しかしながら、既存事業とはまったく関係のない分野に進出することは成功確率はほとんどなく、現実的でもないでしょう。

 

一橋大学の名和高司客員教授は、著書の中で、「飛び地に一気に向かうのではなくずらす」ことを提唱しています。

 

すなわち、事業を市場と製品という2つの軸でとらえ、どちらかの軸を1つ動かすことで、新市場あるいは新製品の開発が可能となるというものです。

 

・既存の技術を使って新市場に進出する

例)富士フィルムが既存技術を使って、フィルム部材、刷版、印刷システム、医薬品、医療機器、化粧品、健康食品や高機能化学品を展開する。

・既存の市場に対して新技術を開発する

例)アナログ製品ではなくデジタル製品を開発するエレクトロニクスメーカー。

 

例として、名和教授は日東電工の三新活動を挙げています。

・既存事業から市場あるいは製品の軸をずらして一新・二新を実現する。

・それらをさらに1つずつずらして新しい需要を創造する(三新)。

 

たとえば祖業の工業用テープを医療用に展開し、さらには薬剤塗布技術を加えて経皮吸収薬を開発することに成功しています。

 

 

【参考・引用】

『経営改革大全』名和高司著 日本経済新聞出版

 

 

企業は非連続な技術変化に対応できるのか?①

■技術のS字カーブ

 

技術の進歩は次のようにS字型のカーブを描くと言われています。

・開発努力に比べて最初は遅々として技術的パフォーマンスが上がらない。

・やがて周辺知識が整備され、技術知識が体系化されることで加速的にパフォーマンスが上がる。

・やがて限界を迎え技術パフォーマンスの成長は鈍化する。

 技術のS字カーブ

■技術の非連続性

 

既存技術に対し、それを代替するような次世代技術を破壊的技術といいます。破壊的技術は既存技術の延長にはないので、その関係は非連続になります。

 技術の非連続性

■イノベーション・ジレンマ

 

図の〇印の技術の世代交代期において、既存技術の下でのリーダー企業が凋落し、業界の順位が大きく入れ替わることがあります。ハーバード大学のクリステンセン教授によるイノベーション・ジレンマです。たとえば銀塩カメラでリーダーであったミノルタがデジカメでは一気に凋落したことなどが挙げられます。その要因としては次のようなことがあります。

 

・破壊的技術は当初、持続的技術と比べて技術的パフォーマンスが大きく劣るため、市場(顧客)からの改良の要望(ニーズ)がない。

・よって、既存技術のリーダー企業はニーズのある既存技術の改良に邁進する。

・しかしながら、破壊的技術がニッチな分野で力をつけてやがて既存技術のパフォーマンスを上回るようになると、顧客は一気にそちらにシフトする。

・よって、既存技術に邁進していたリーダー企業は後手に廻り、破壊的技術の下では凋落する。

 

 

【参考】

『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン著 翔泳社

 



電波オークションの経済学②

前回の続きです。

 

■電波エリアのオークションの特徴

 

オークションの対象が補完関係にある複数個の商品である場合には、事態が複雑化します。

 

電波の場合,複数のエリアごとに異なる帯域があります。電波オークションの場合,特定のエリアの特定の帯域だけを売りのであれば単一の商品オークションです。しかし,通信事業者や放送事業者は,複数エリアにまたがる連続した帯域を欲しがります(例:下の図表456)。特定の帯域を1つずつオークションにかけると,複数エリアで連続した帯域を落札できるかは不確実です。よって,たとえば図表で帯域4を落札した事業者は,無理にでも56の帯域を落札しようとするでしょう。その結果,高値掴みになる恐れを警戒するようになります。

オークション図1

■今回の受賞理由

 

今回の受賞理由は,「効率的な電波帯の割り当てを実現しつつ,当局(納税者)に最大限の利益をもたらすオークションをどのように設計するか」という問いに対し,両氏が「同時複数ラウンド(競り上げ)オークション」を発明したことによります。

 

より事業者に高い価格で入札してもらうためには,できるだけ電波帯の真の経済的価値を事業者に分からせることです。真の経済的価値が分からないと,事業者が疑心暗鬼になり,安全のため実際の価値よりも安い価格でしか入札しなくなるので,その結果,落札額が低くなってしまいます。

 

また,事業者間で情報の充実度が異なると,貧弱な情報しかない事業者は一層高値掴みを警戒して低い価格でしか入札しなくなり,十分な情報を持った事業者はより安い価格で落札できます(より落札価格は低くなります)。

 

よって,当局はできるだけ売りに出す電波帯の情報を提示するとともに,事業者側に十分な私的情報を共有させることがポイントとなります。

 

競り上げ式であると,競売側の提示価格が段階的に引き上げられる過程で,徐々に他の買い手が考える電波帯の価値(私的情報)が明らかになって共有化されることで,高値掴みするかもしれないという買い手の不安が解消されます。

 

一方,競り下げ式は,ある買い手が応札してしまうと,そこで終了してしまうオークション方式です。つまり,買い手たちが十分な情報を入手する機会が少ないオークションであり,高値掴みするかもしれないと疑心暗鬼になります。

オークション図2


さらに,異なるエリアの異なる電波帯を同時にオークションにかけ,すべてのオークションが終わるまでどのオークションも終わらないというルールを課しました。これにより,事業者はある帯域のオークションの価格が高くなれば,他の帯域のオークションに自由に移動でき,似たような帯域には似たような価格がつきます。よって,事業者が高値掴みをする可能性は低くなるのです。

 

 

■日本では?

 

1994年から導入されたこのオークション方式により,2014年までにアメリカ連邦通信委員会は予想の12倍の1200憶ドルの収益を上げたといいます

 

残念ながら日本はOECD加盟国で唯一電波オークションを導入していません。規制改革を標榜する菅政権が今後も続けば電波オークションの話は出てくるのではないでしょうか。

 

電波オークションの経済学①

2020年度のノーベル経済学賞が昨年1012日に公表され,スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン名誉教授の2名が選ばれました。オークション理論の基本的な内容と,両氏が設計にかかわった電波オークションの仕組みについて取り上げてみます。

 

 

■電波オークションの目的は納税者の利益

 

電波帯のような公共財の場合,以前は,当局による指定事業者への割り当てが行われていました。これは適切な経済的評価ができない当局側が,信頼できると考えた事業者にその電波帯を割り当てるので,競争原理が働かず,不当に安い価格で払い下げられることになります。これでは納税者に最大の利益をもたらすことができません。

 

オークションは,適切に設計すれば,商品に対する適切な経済的評価が可能となり,最適な資源配分が実現するマーケットシステムです。

 

オークションというと,まずサザビーズなどの美術品のオークションやネットオークションを思い浮かべるかもしれません。「それぞれの商品にもっとも高値で入札した人が落札する」というものです。しかしこれはオークションの1つの形態に過ぎません。

 

 

■オークションの様々な形態

 

オークションには様々な形態があり,取扱う商品にも違いがありますが,代表例を示します。

 

〇イギリス式とオランダ式

前者は,「競り上げ式」で,競売人は低価格から始め,段階的に価格を引き上げるというものです。最高額で入札した人が落札します。我々のイメージするオークションにもっとも近いものでしょう。

後者は「競り下げ式」で,競売人は最初に非常に高い価格を提示し,落札されるまで徐々に価格を引き下げるというものです。

オークション図2

 〇私的価値と共通価値

その商品の価値が個人的な主観によって異なる場合と,ほぼ同じ場合の違いです。オバマ元米大統領との昼食会の権利は,民主党支持者にとっては価値が高いでしょうが,共和党支持者にとっては低いでしょう(私的価値)。また,千円札の価値は誰にとっても等しいでしょう(共通価値)。

さらに買い手側はそれぞれ異なる私的情報を持っている(商品価値に対する情報の正確性に差がある)という複雑さがあります。よって,多くの商品は私的価値と共通価値の両面の性格を持ちます(電波帯も同様)。

 

〇単一の商品と複数個の商品

オークションの対象が1つなのか、補完関係にある複数まとめてなのかの違いです。後者は、1つだけでは意味があまりなく複数のものがセットとなることで大きな価値を生む場合です。

 

ウェバーフェフナー効果②

人は変化率の方を敏感に察知するということでいうと、昨年7~9月期のGDP速報を思い起こしてしまいます。

 

2020年1~3月期 実質GDP成長率-8.3% 名目GDP成長率-7・9%

2020年4~6月期 実質GDP成長率-8.3% 名目GDP成長率-7・9%

2020年7~9月期 実質GDP成長率%5.3% 名目GDP成長率5.5%

 

4月から6月期に大幅に落ち込んだGDPが急回復したように思います。実際、新聞等での急回復という見出しが見られました。

 

しかしながら、4半期別のGDPを年率換算した実額の推移は次のとおりです。

 

2020年1~3月期(実額) 実質GDP545.7兆円 名目GDP554.8兆円

2020年4~6月期(実額) 実質GDP500.6兆円 名目GDP5110兆円

2020年7~9月期(実額) 実質GDP527.1兆円 名目GDP539.0兆円

 

コロナ前の2019年10~12月期のGDPは実質で548.7兆円、名目で557.4兆円ですから、実額で見ると、コロナ前の水準をまだまだ下回っていることがわかります。

 

実態は変化率ではなく実額であるわけですから、変化率に惑わされないように気をつけたいところです。

ウェバーフェフナー効果①

ウェバーフェフナー効果とは、変化量よりも変化率の方を敏感に察知する傾向のことです。

 

たとえば、リュックサックに追加の重量を加えたときにそれを察知できるかというシーンです。仮にいま背負っているリュックサックの重量が10Kgだとしたら、そこに350g(350nl)のビール缶を1つ載せたとしても気がつかないという人は多いでしょう。350mlの缶ビールは決して軽くはないのですが、10Kgが10.35kgになっても、その比はわずかであり、気がつかない人もいるわけです。

 

ところが仮にリュックに何も入っておらず、そのリュックの重さが500kg程度だったとしたら、そこに350gの缶ビールを入れて気がつかない人はいないでしょう。加えられた重量は同じ350gでも今回は重量が一気に1.7倍にもなってしまったからです。人は量より比率の変化にこそ敏感なのです。

 

ビジネスでもこの効果は生じます。たとえば毎日定時に帰っている人の30分の残業を支持すれば、「かなりの残業を指示された」と感じるでしょう。それに対し、すでに5時間残業している人に対し、「もう30分だけ残業して」と言っても、今さらたいして差を感じないでしょう。

 

マーケティングやセールスにおける応用も可能です。たとえば高額のスーツの購入を決めたお客に、追加でシャツやネクタイを薦めるといったケースです。スーツ代に比べれば、シャツやネクタイの値段の比はわずかに感じられ、購入してしまうというパターンです。

 

 

【参考】

MBA 心理戦術101』グロービス著 文藝春秋

 

フロリダ効果

フロリダ効果とは、先行情報に引っ張られて行動が変わってしまう傾向のことをいいます

 

フロリダ効果はもともとアメリカで行われた心理実験から名付けられたものです。この実験で、被験者たちは、様々な単語を用いて作文することを指示されました。そして、あるグループには「フロリダ、忘れっぽい、皺、シミ、ハゲ頭」といった言葉が与えられたのです。

 

フロリダ州は温暖な土地であることから、引退した高齢者が多く住む州と言われており、実際に高齢者比率が高いことでも知られています。当然、被験者たちは、他の単語も使い、高齢者に関する文章を作りました。

 

ただ、研究者の狙いは別のところにありました。彼らは作文の内容ではなく、彼らがどのような行動をとるかに着目したのです。結果として、その被験者のグループが別室に移る際、まるで老人のように歩くスピードが遅くなっていったのです。逆に若者をイメージする言葉を与えられたグループは歩くスピードも速くなっていきました。つまり、言葉の与えられ方により、人々の行動が変わったのです。フロリダ効果は、プライミング効果が直接的に行動に影響を与えるものと見なすこともできます。

 

他にも実験があります。暑い部屋で「暑い、暑い、暑い」と何度も言う人(サクラ役)がいるグループは、そのような人がいないグループに比べて、実際に暑く感じ、体温分布にも影響が出たそうです。

 

これは、「疲れた、疲れた」というマネージャーの口癖が、部下の疲労度を増す可能性などを示唆します。独り言をよくつぶやく管理職もいますが、その何気ない独り言が、部下の働き方や感覚に影響を与える可能性もあるのです。

 

 

【参考】

MBA 心理戦術101』グロービス著 文藝春秋

 

メラビアンの法則

メラビアンの法則とは、矛盾した言語的・非言語的メッセージが発せられた時に、人が何に影響されるかを示す法則です。

 

実験では、まず、「好意的」「中立的」「嫌悪的」なニュアンスを持つ言葉を選び、それらを「好意的」「中立的」「嫌悪的」な声のトーンでテープレコーダーに録音し、さらに「好意的」「中立的」「嫌悪的」な表情の顔写真を用意しました。その上で、これらを同時に被験者に示したときに、どの要素が最も効くかを調べたのです。

 

たとえば、中立的な言葉を否定的な声のトーンで、かつ肯定的な写真を見せながら被験者に印象を聞くと、彼らは見た目に最も影響されました。

 

ちなみに影響を受けた要因の順番は次のとおりです。

 

ビジュアル 55%

ボーカル 38%

言葉 7%

 

ちなみに、よく「メラビアンの法則=最も人に影響を与えるのは中身より見た目」という紹介がされますが、これは正しくありません。あくまで判断がしにくい場合には見た目が大事ということであって、別に中身が重要ではないということを示したものではありません。

 

しかしながら、見た目が重要というのは然りです。美談美女が得をするというのが世の習いですが、自信を持った態度や振る舞いは誰でも取り入れやすいでしょう。

 

 

【参考】

MBA 心理戦術101』グロービス著 文藝春秋

ベイズ確率②

ベイズ確率の有名なエピソードにモンティ・ホール問題というのがあります。

これはアメリカのあるクイズ番組を題材にしたものです。

 

<問題>

・プレイヤーの前に閉じられたABC3つのドアが用意されている。

・そのうちの1つの後ろには景品(当たり)が、残りの2つの後ろにはヤギ(外れ)がいる

・まずプレイヤーが当たりだと思うドアを選択する(この時点ではドアはまだ開けない)

・事前にどのドアが当たりかを知っている司会者が、残った2つのドアのうち外れのドアを開ける

・司会者はプレイヤーに最初の選択を変えてもいいと伝える

 

Qこのとき、プレイヤーは「最初に選んだドア」か「残ったドア」のどちらを選択するべきか?(どちらが正解する確率が高いか?)

 

「3つのドアのうち、後ろに当たりがある確率は、3分の1であり、それは司会者が外れのドアを1つ開けても変わらない」というのが自然な結論かもしれません。実際多くの数学者がそのように考えました。ところが、あるIQの高いコラムニストが「選択を変えたほうが当たる確率は2倍になる」と主張し、論争になりました。

 

 

<答え>

仮にプレイヤーがAのドアを選択したとします。Aが当たりの確率は当然ながら3分の1で、残りのB.Cのいずれかが当たる確率はあわせて3分の2です。

 

その後、司会者がCのドアを開けてハズレであることをオープンにしたとしましょう。すると、Aの当たる確率は3分の1のままですから、残ったBが当たりの確率は、Cが確率ゼロと分かったので、3分の2になります。つまり、初めにAを選んだプレイヤーは、Bに変えたほうが当たる確率が2倍になるのです。

 

このように、事後の情報で確率が変わるということは、現在進行している事態の変化によって確率もまた変化するということです。この変化に対応して確率を修正することを、ベイズ更新といいます。

ベイズ確率①

コイントスで裏と表が出る確率は、裏と表が物理的に何も変わらなければ2分の1ずつです。5回連続で表が出ると、そろそろ裏が出るだろうと思うかもしれません。それでも、6回目に裏(あるいは表)が出る確率は2分の1で変わりません。

 

1回目で表が出ても2回目で裏が出る確率は2分の1だと普通は考えるでしょう。2回連続して表が出ても同様かもしれません。しかしながら、5回も連続で表が出ると、人は「何か怪しい。投げ方に癖があるのでは?」と考え、純粋に裏が出る確率は2分の1と分かっていてもそれより高い確率を予想するものです。

 

あながちそのように考えることは間違っていません。これを扱ったものにベイス確率があります。

 

 

ベイズ確率とは、実際の出来事や観察結果に従い、その確率(確率に関する見込み)がどんどん変化することを扱った確率の考え方です。本来、確率は客観的なものですが、主観的な確率を扱っている点が特徴です。

 

たとえば、新規事業を始める前では、主観的な成功確率が50%であったのが、初めて見ると事後的に情報が追加され、成功確率が75%(あるいは25%)に変わるということがありますが、これもベイズ確率の考え方によったものです。

 

このようにベイズ確率は、ある事象が起こるという条件のもとで、別のある事象が起こる確率(条件付き確率)を求めます。

 

通常、ビジネスでは追加情報が入ったほうが成功確率は高まるでしょう。そこで、リアルオプションという考え方でビジネスの評価を行います。

 

例えば、新製品をいきなり大々的に市場導入するよりも、テストマーケティングの結果次第で本格的に展開するか止めるかを決めることができる場合とでは、後者の方がビジネスの価値が上がります。

 

よって、不確実性のある将来において、プロジェクトの柔軟性を確保し、価値を高めることができます。リアルオプションはベイズ確率の考え方を簡易的に応用したものといえます。

 

フロー

■フローとは?

 

みなさんが無我夢中になれることは何でしょうか?スポーツや趣味に没頭しているときはそれこそ時間を忘れるといったことがあるかと思います。

 

このように何かに集中・没頭しており、そこから幸福感を得ているような状態のことを、フローといいます。スポーツの世界ではゾーンに入ったと言われますが、おおよそ同じ意味です。

 

フローは心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念で、学習論の世界でも「集中して勉強や仕事に取り組めるようにするには、どのような条件が求められるか?」といった文脈で語られます。

 

 

■フローの状態になるための4つの条件

 

フローの状態になるためには、次の4つの条件があります。

 

  自分の能力に対して課題が適度に難しい

  対象を自分でコントロールできる

  結果に対して直接的なフィードバックがある

  集中を妨げるものがない

 

何かに集中・没頭して時間を忘れるような経験があれば、それはフローの状態であり、自分が向いていることかもしれません。

 

フロー状態で仕事に取り組むことが望ましいでしょう。しかしながら、ビジネスパーソンとしては複数の仕事を抱えていることが一般的であり、4つめの「集中を妨げるものがない」を満たすことが難しいでしょう。せいぜい雑務的なことはまとめて片付けてしまい、集中する環境を作ることぐらいでしょうか。

 

【参考】

『フロー体験 喜びの現象学』M. チクセントミハイ著 世界思想社

『ビジネスでいちばん大事な「心理学の教養」』酒井穣著 中央公論新社

 

起業家の条件⑨

次回に引き続き、起業する方に知っておいていただきたい顧客獲得の考え方について取り上げます。

 

 

■顧客の分類

 

顧客は「顧客満足度が高いか低いか」「スイッチング性向(他社に乗り換える可能性)が高いか低いか」で4つに分類することができます。

 顧客の分類


<伝道者>

顧客満足度が高くスイッチング性向が低い顧客は「伝道者」です。よいクチコミを拡げてくれて自社に顧客をもたらしてくれます。

 

<傭兵>

顧客満足度は高いですが、他社に乗り換える可能性が高い顧客は「傭兵」です。もともと1社に固執する気がない顧客ともいえます。

 

<人質>

顧客満足度が低いが、他社に乗り換える可能性が低い顧客は「人質」です。地元に他に選択肢がないので仕方がなく自社を使っている顧客が典型例ですが、いまさら他社にスイッチするのが億劫な人、入会金等相応の投資をすでにしてしまい他社に乗り換えることができない人なども該当します。要は囲い込まれている顧客です。

 

<テロリスト>

顧客満足度が低く、さらにスイッチング性向が高い顧客は「テロリスト」です。悪いクチコミをばらまく可能性があります。

 

4つの顧客層のうち、サービス業でとりわけ重要なのは「伝道者」と「テロリスト」のマネジメントです。

 

「伝道者」はよいクチコミを拡げ顧客をもたらしてくれますから、引き続き満足度を維持する必要があり、また他の顧客を「伝道者」に引き上げる努力をする必要があります。一方、「テロリスト」は悪いクチコミを拡げる恐れがありますから、なんとか中立化させる必要があります。

 

売り手側はすべての顧客の満足度を上げようと考えがちですが、満足度が低い顧客を満足度が高い顧客に引き上げることは至難の技です。

 

 

■ホッケースティック。ロイヤルティ

 

顧客のリピート率は、満足度と直線的な比例関係を示すのではなく、最高度の満足に達したときに突然リピート率が高まる傾向があり、これをホッケースティック・ロイヤルティといいます。

 




ホッケースティック・ロイヤルティ

たとえば5段階の顧客満足度調査で、満足度を3から4にするのと、4から5にするのとでは、その効果はまったく異なります。そこそこの満足度(満足度3や4)では、リピートやクチコミにはまったく繋がらないのです。

 

 

NPS(ネット・プロモーター・スコア:推奨者の正味比率)

 

NPSとは、製品やサービス、ブランド、企業に対するロイヤルティの指標を測るためのものです。究極の質問である「あなたはそれを友人や同僚に薦めたいと思いますか?」という問いに対する答えを、0から1011段階で調査します。10から9をプロモーター(推奨者)、8から7をニュートラル(中立者)、6以下をデトラクター(非難者)に分類します。推奨者であるプロモーターが占める比率から非難者であるデトラクターが占める比率を差し引いた数値がNPSとなります。

 

したがってNPSの数値は、推奨者が非難者より多ければプラスになり、非難者の方が多ければマイナスになります。たとえばプロモーターが30%、デトラクターが15%の場合、NPSは15%となります。

 

顧客アンケートを実施する際に、「あなたはそれを友人や同僚に薦めたいと思いますか?」という問いを用意し、あなたのビジネスへの忠誠心が上がっているか確認してみるとよいでしょう。

起業家の条件⑧

今回は起業する方に知っておいていただきたい顧客獲得の考え方について取り上げます。

特に起業したばかりであると新規顧客の獲得に目が行きがちです。これは仕方がないことですが、最終的にビジネスの決め手になるのが既存顧客の維持です。既存顧客の満足度が上がれば口コミも生まれ新たな顧客の獲得にもつながります。

 

なぜ顧客を維持すると利益がもたらされるのでしょうか。次の理由が考えられます。

  購買・残高増利益

その製品やサービスに満足している顧客は、1年目よりも2年目、2年目よりも3年目により多額の購入する傾向があるといわれています。これが最も大きな効果です。

  営業費削減利益

既存顧客の維持にかかる費用は、新規顧客の開拓のコストよりもはるかに安いです。1対5の法則というものがあります。これは、「新規顧客の開拓コストは、既存顧客の維持コストの5倍かかる」というものです。

特にユーザー側で、使い方を覚えなければならないといった学習のためのコストが生じる場合、営業費削減利益は大きくなります。新規顧客と違って、既存顧客には教育のコストがあまりかからないからです。

  紹介利益

いわゆるクチコミ効果です。特に、新規性が高く、無形で、高額な製品・サービスほど、クチコミの影響は大きくなります。既存顧客の満足度を高めてクチコミにどう繋げるかは大きな課題です。

  価格プレミアム効果

これは値下げ圧力の低下です。満足度の高い顧客は、あまり値下げ要求をしませんし、原材料価格の高騰によるコストアップの価格への転嫁も、比較的受け入れやすいです。

 

 

■80対20の法則

 

売上の80%は20%の優良顧客によってもたらされるというものです。先の「顧客の分類」で触れたように、まずは優良顧客を確保してその満足度を維持することが大事です。

 

 

1:5の法則

 

1:5の法則は、新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかるという法則です。

 

 

■5:25の法則

 

企業は新規顧客の開拓には熱心ですが、ともすれば既存顧客対応がおざなりになりがちです。マーケティングでは、5:25の法則というものがあります。これは、既存顧客の離脱率を5%改善すると、利益が25%上昇するというものです。

 

これに従えば、現在の顧客離反率が20%(毎年、20%の顧客が流出するイメージ)だとすると、これを16%に改善するだけで、現状の利益を維持することができるのです。

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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