スキーバス転落事故から考える市場経済①
15日、長野県軽井沢町でスキーバス転落事故が起き、連日報道が繰り返されています。バスの整備不良説も濃厚ですが、これまでの大方の見方は、バス会社の杜撰な管理体制にツアー会社のチェックの甘さ、そしてその原因はバス事業の規制緩和による競争の激化、バスドライバーの人手不足によるものであるとするのが多いようです。
■貸し切りバス事業の規制緩和
貸し切りバス事業は、各地域での需給調整のため以前は免許制でしたが、規制緩和で2000年からは条件を満たせば営業できる許可制となり、新規参入が進みました。1999年度に2294社であった民間事業者数は、2013年度に4486社とほぼ倍増しています。
こうした競争の加熱に加え、近年では外国人旅行者の急増を受けてバスのドライバーが不足しており、今回のように不慣れなドライバーであっても採用せざるを得ないといった事情があったことは事実でしょう。
■規制緩和は失敗だった!?
こうなると必ず出てくるのは、「規制緩和したから貸し切りバスの事故が増える」という「規制緩和が諸悪の根源論」です。
では規制緩和によって本当に貸し切りバスの事故率は増加しているのでしょうか。国交省の資料を見ると、「億キロメートル当たり事故件数」は、規制緩和後も8~9件程度で推移しており、実はほとんど変わっていません。このことはほとんど報道されていないようです。
そもそも規制緩和は、自由な市場参入を促し、競争によってサービスの質の向上や低料金化を図ることで消費者の便益(余剰)を高めるというものです。端的に言えば「市場の自由化」です。その過程において、既存の事業者に不利益が生じたり、何らかの事故・不祥事が生じたりするので、必ず規制緩和に反対する声が生じることになります。
■市場経済の前提
経済学では、「完全競争市場において社会的総余剰(売り手・買い手を含めた社会全体の便益)が最大化する」としています。完全競争市場とは次の4つを満たす市場のことを言います。
<完全競争市場の条件>
① 売り手、買い手ともに多数存在(その1つ1つは市場全体で言えば極めて小さい存在であり、その行動は他にまったく影響を与えない)
② 商品は同質であり代替可能(企業の価格支配力なし)
③ 市場への参入・退出は自由
④ 情報の完全性が成立(売り手、買い手とも価格・品質情報などをよく知っている)
上の4つの条件を満たさない場合は市場は上手くワークしないことになります。
■市場条件をバス事業に当てはめてみると…
では貸し切りバス事業は完全競争市場と言えるのでしょうか。①~③の条件は満たすと考えてよいでしょう。
しかしながら④については、とても満たしているとは言えません。バスの乗客(場合によっては発注する旅行会社)はバス事業者についてほとんど何も知らないでしょう。
市場の失敗(市場経済が上手く機能しない)のケースとしては、独占や寡占、格差拡大などが挙げられますが、私自身は「情報の完全性を満たしていないこと」が最もケースとしては多いのではないかと考えています。
情報の完全性を満たしていないと売り手側は質の悪いものであってもよく見せよう(場合によっては高く吹っかけよう)とするし、買い手側は騙されたり、場合によっては不安から購入を控えようとしたりするかもしれません。
(つづく)
【参考】
高橋洋一「ニュースの深層」スキーバス転落事故はどうすれば防げたのか?http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47417
■貸し切りバス事業の規制緩和
貸し切りバス事業は、各地域での需給調整のため以前は免許制でしたが、規制緩和で2000年からは条件を満たせば営業できる許可制となり、新規参入が進みました。1999年度に2294社であった民間事業者数は、2013年度に4486社とほぼ倍増しています。
こうした競争の加熱に加え、近年では外国人旅行者の急増を受けてバスのドライバーが不足しており、今回のように不慣れなドライバーであっても採用せざるを得ないといった事情があったことは事実でしょう。
■規制緩和は失敗だった!?
こうなると必ず出てくるのは、「規制緩和したから貸し切りバスの事故が増える」という「規制緩和が諸悪の根源論」です。
では規制緩和によって本当に貸し切りバスの事故率は増加しているのでしょうか。国交省の資料を見ると、「億キロメートル当たり事故件数」は、規制緩和後も8~9件程度で推移しており、実はほとんど変わっていません。このことはほとんど報道されていないようです。
そもそも規制緩和は、自由な市場参入を促し、競争によってサービスの質の向上や低料金化を図ることで消費者の便益(余剰)を高めるというものです。端的に言えば「市場の自由化」です。その過程において、既存の事業者に不利益が生じたり、何らかの事故・不祥事が生じたりするので、必ず規制緩和に反対する声が生じることになります。
■市場経済の前提
経済学では、「完全競争市場において社会的総余剰(売り手・買い手を含めた社会全体の便益)が最大化する」としています。完全競争市場とは次の4つを満たす市場のことを言います。
<完全競争市場の条件>
① 売り手、買い手ともに多数存在(その1つ1つは市場全体で言えば極めて小さい存在であり、その行動は他にまったく影響を与えない)
② 商品は同質であり代替可能(企業の価格支配力なし)
③ 市場への参入・退出は自由
④ 情報の完全性が成立(売り手、買い手とも価格・品質情報などをよく知っている)
上の4つの条件を満たさない場合は市場は上手くワークしないことになります。
■市場条件をバス事業に当てはめてみると…
では貸し切りバス事業は完全競争市場と言えるのでしょうか。①~③の条件は満たすと考えてよいでしょう。
しかしながら④については、とても満たしているとは言えません。バスの乗客(場合によっては発注する旅行会社)はバス事業者についてほとんど何も知らないでしょう。
市場の失敗(市場経済が上手く機能しない)のケースとしては、独占や寡占、格差拡大などが挙げられますが、私自身は「情報の完全性を満たしていないこと」が最もケースとしては多いのではないかと考えています。
情報の完全性を満たしていないと売り手側は質の悪いものであってもよく見せよう(場合によっては高く吹っかけよう)とするし、買い手側は騙されたり、場合によっては不安から購入を控えようとしたりするかもしれません。
(つづく)
【参考】
高橋洋一「ニュースの深層」スキーバス転落事故はどうすれば防げたのか?http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47417
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