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スキーバス転落事故から考える市場経済②

前回「スキーバス転落事故から考える市場経済①」では、貸し切りバス事業では情報の完全性が満たされておらず、完全競争市場とは言えないことを取り上げました。

ではどのようにすれば情報の不完全性をなくすことができるのでしょうか。経済学では、このような情報の不完全性の問題について様々な知見を得てきました。


■政府の規制

法律や規制などでバス事業者を縛るというものです。今回のバス事故を踏まえ、国交省ではバス会社への抜き打ち検査を実施するとしています。しかしながら、現在、国交省の監査官365人で4千5百社のバス会社と12万のタクシー・トラック会社をチェックしているというのが実態で、完全なバス事業者への監視が可能なのか大いに疑問です。
よって法律や行政指導で縛っても監視できない以上は違反を繰り返す事業者は絶えないでしょう。


■第三者の介入

格付機関や情報誌などでバス事業者の評価をし、悪質な業者を公表するというものです。ただし場合によってはバス事業者との係争が生じる可能性があります。格付機関や情報誌の能力的な信頼性の問題もあるでしょう。

そうなるとやはり政府の役割が重要になります。国交省は事故以前に今回のバス会社を行政処分としており公表しています(国交省の「国土交通省ネガティブ情報等検索サイト」で行政処分が公表されているバス事業者を使った旅行会社の責任は重いでしょう)が、それをもう少しバス利用者の目にも止まりやすいものとする余地はあるかもしれません。

たとえばバスを手配する旅行会社側にバス会社名をパンフレットなどに目立つ形で記載させる(行政処分を受けているようならその旨を記載する)といったことです。

日本バス協会の加盟事業者であれば「貸切バス事業者安全性評価認定制度」というものがあり、星マークで安全性がランクづけされるという制度があります。しかし事故を起こしたバス会社は加盟事業者ではありませんでしたし、たとえ加盟事業者であっても注意してランクを確認するバス利用者はあまり多くはないでしょう。

事業者の評価ということでは、アマゾンの星マークのカスタマーレビューのように、ネット上で利用者の評価を募るということもありますが、如何せんバスの事故は滅多に起きませんから適用することは難しいでしょう。


■シグナリング

もしかしたら規制や第三者の介入がなくても市場は上手く機能するようになるかもしれません。その理由は市場参加者のシグナリング機能が働くからというものです。

シグナリングとは、「情報を持っている主体が、持っていない主体に対し、自ら情報を伝えようとすること」です。

たとえば就活において、求職者(売り手)側が企業側(買い手)に対し、自らの経歴や保有資格、学歴などを開示することによってアピールすることが挙げられます。

今回の事故で利用者側の関心は高まるでしょうから、問題のない旅行会社やバス事業者は、自発的に運営内容を公表するようになるでしょう。そうなると安全性をアピールした差別化が可能となり、低価格競争から脱出することができるかもしれません(本来、安全性は最低条件であるので皮肉なことではありますが)。

しっかりと安全面の費用をかけた事業者はそれだけ料金は割高になりますが、「料金割高=安全面問題なし」「料金割安=安全面で問題あり」という価格の品質バロメーター機能が働いて、悪質な事業者は淘汰されることになるかもしれません。もちろん自発的に運営内容を公表しない旅行会社やバス事業者は淘汰されることが予想されます。


■いずれにせよ経済学の知見を活かすべき
 
今回のような衝撃的な事故が起きると、どうしても「規制緩和が悪い」「市場経済が悪い」といった浅薄な議論になりがちですが、たいていの場合は「市場が悪い」のではなく「市場が上手く機能していないことが悪い」のです。「バス会社をもっと厳しく監査すべきだ」などというほとんど精神論に近い対策を主張するよりも、本来の市場経済の持つ力が十分に発揮できるような環境を整備することが重要でしょう。

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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