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アメリカと日本の戦略パターンの違い(対話としての競争)

日本企業には戦略がないと言われて久しいです。一般に戦略とは市場での独占的な地位の確保を目指すものといったニュアンスでしょう。確かにそういった面では日本メーカーにはあまり戦略がなかったかもしれません。しかしながら、そもそも日本企業の戦略スキーマ(戦略観や戦略パターン)は、アメリカ企業などのそれとは異なるものだったとも言えます。


■一般的な戦略のイメージ

通常、競争戦略(事業戦略)の要諦は、マイケル・ポーターの競争戦略論に求められます。ポーターの競争戦略は、差別化戦略(市場全体を対象に、高機能化・ブランド化などコスト以外の独自性を打ち出す)、コストリーダーシップ戦略(市場全体を対象に、徹底した低コスト化を実現する)、集中戦略(市場の一部分を対象に、差別化あるいはコストリーダーシップを実現する)の3つのいずれかにより、業界内で独自のポジションを確保するというものです。

1990年代末以降、さらにビジネスモデル(儲け方の仕組み)についても大きな関心を集めています。

ポーターの競争戦略論にせよ、ビジネスモデルにせよ、目的は市場の中で独占的な地位を確立することにねらいがあります。当然ながら、他社が模倣できないような独占的な地位を確立してしまえば、ガチンコの競争を避けられ、高い収益を上げることが可能になります。


■電卓に見る日本企業の競争パターン

一方、日本企業に見られる戦略パターンは、どのようなものであったでしょうか。少し古い例ですが、電卓産業におけるカシオとシャープを例にしてみます。

1970年代前半、参入と退出が相次ぐ中、カシオは「多機能化」シャープは「薄型化」に焦点を当て、激しい競争を勝ち抜きました。しかしながら、1970年代後半以降、2社の寡占化が確立する中で、こうした2項対立的な競争軸は薄まっていきます。

たとえばカシオが多機能製品を販売すると(それを予期・準備していたかのごとく)僅かの遅れをもってシャープが同様の製品を販売する、逆にシャープが薄型製品を販売すると僅かの遅れをもってカシオが同様の製品を販売するといったような競争が繰り返されたといった具合です。ただし最後までカシオは「多機能化」シャープは「薄型化」に優位性があり、その点においては単なる模倣合戦とは異なりました。


■対話としての競争

このような競争は、次のように総括できます。両社はあたかも市場で対話するかのように、互いの製品を観察し、模倣し、その経験をもとに新たな要素を加えることによって自らの戦略スキーマに磨きをかけていきました。

自社の戦略スキーマからでは導き出せないような製品展開を行っている企業の戦略を長期的に模倣し、しかも模倣対象企業よりも先行しようという努力プロセスは、他社の持つ技術やノウハウを自社の戦略展開に活用可能にするための学習プロセスとも捉えることができます。


このような市場を通しての企業間の「発見⇒模倣⇒戦略の再構成」の学習プロセスを、対話としての競争といいます。


■切磋琢磨による効果

以上のように、日本企業の戦略パターンは、独占的な地位の確立ではなく、相互の切磋琢磨にあったといえます。一度独占的な地位を確保してしまうと、技術変化に鈍感になってしまったり、製品改良に消極的になってしまったりといったことはあるでしょう。

アメリカでは独占的な立場にあったリーダー企業が、技術の世代交代期においてその重要性に気づかず没落していったのに対し、日本企業は比較的上手く立ち回ることができてきました。それはこのような相互観察による戦略スキーマの彫琢によってもたらされたとも考えられるのではないでしょうか。

また国内での激しい企業間での競争によって技術力が高められ、その結果、海外での競争にも打ち勝つことができたというプラスの面もあったといえるでしょう。


【参考】
『超企業・組織論』高橋伸夫編 有斐閣
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No title

模倣について 先生のような論理的分析とは異なり雑談的なはなしをいくつか失礼します。 世にはばかる中小企業を対象とする経営コンサルで 結構な
著作や 多くの講演、コンサルで人気んの某 ○山 ○氏は
歯に衣きせず 「どんどん他社のよいところはパクりなさい。早く他社のよいところはパクって実行することだ。それが成功の秘訣だ。経営に良い悪いはない。経営戦略の良しあしよりも決断のスピードと実行力が決め手だ。」といって
自身も ある実業を何十年社長としてパクり経営で成功させ コンサル先も そのアドバイスのせいかどうかうまくいっているところが多いと聞いています。プライドを捨て そのような経営パターンをとっているところもあるのでしょうね。

一方ある大手家電メーカーのH製作所ですが あそこは先に商品をだすのでなく(家電分野)ほかがでたら 常に
二番手ででる戦略で手堅い とずいぶん前にきいたことがありますが。今はどうでしょうね。
一方 私がある業界の商品開発責任者だったころ 新商品をだすことについて社内外からプレッシャーが強く国内の競合の商品で模倣できそうなものがないか調べつくしましたが、当時業界が閉鎖的で魅力のあるものがなく アメリカの同業界の企業の
商品開発責任者のところを1か月ほどまわりあるいて
その情報をもとに日本に帰って 新商品を開発しマーケットの
注目をあびたことがあります。その後他社が その情報を
とりにきて 似た商品がどんどん他社からでたということがあります。このように企業は常に他社の経営動向をチェックし虎視眈々と良いところをとりいれようと躍起ですね。  と脈絡のないコメントでした。脈絡ないついでに 日本の近隣の国のなんでもコピー問題も いつも気になる問題ですね。今や日本の大手家電メーカーのOBがどんどん
その国の企業にも流れ込みあっという間に 技術が移転されつつあるようですね。  ・・・・・・

No title

コメント有難うございます。
もともと無から創造するなどということはないでしょうからね。
まあ松下幸之助さんも「マネせい」仰っているので。
それとファーストムーバー(一番乗り)はまず失敗するというのがパターンで、いつかまとめてみたいと思います。
このあたりについては「コピーキャット」「模倣の経営学」という書籍が面白く読めます。
いかに「模倣プラスα」が作り出せるかだと思います。
プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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