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日銀の量的・質的金融緩和政策⑤(マイナス金利のねらい:後編)

■日銀の声明を見ると?

日銀から公表された「マイナス金利付き量的・質的金融緩和の概要」には、「日本銀行当座預金金利をマイナス化することでイールドカーブ(債券の償還までの期間と金利との関係を見たもの)の起点を引き下げ、大規模な長期国債買入れとあわせて、金利全般により強い下押し圧力を加えていく」とあります。つまり短期から長期に至る金利の引き下げがねらいであることが示されています


■実質利子率への影響は?

実質金利は「名目金利-期待インフレ率」で求められます。日本の場合、国債の名目金利はほぼゼロ水準ですから、原則的にはそれ以下には下げられませんでした。

また「日銀の量的・質的金融緩和政策③(黒田日銀の政策を振り返る)」http://bgeducation.blog.fc2.com/blog-entry-126.htmlで触れたように、銀行同士の資金の貸し借りの利率(コールレート)は付利を下限に形成されます。

よって付利を下げる(マイナス化する)ことによってコールレートの水準を下げ銀行同士の資金の融通性を高め、ひいてはその先の民間企業への貸出の利率を低下させる(名目金利の低下)ことが可能になります。

さらに銀行が追加で日銀当座預金口座に預けようと思っていた資金は、債券市場にも廻り、その結果、国債価格が上昇し国債の名目金利は低下することになります(注1)。世の中の金利は最もリスクが低い国債の名目金利を下限に形成されるので、国債金利の低下は貸出等の名目金利の下げ圧力になります(注2)。

また今後の金利の引き下げの可能性を示唆し量的緩和の継続と合わせ目標インフレ率達成への決意を示すことで、期待インフレ率を高める(その結果、実質利子率を低下させる)効果も考えられます。

以上のように名目金利を低下させ期待インフレ率を高めることで実質金利を下げようというねらいがあるわけです。


実際にゼロ金利導入発表以来、日銀の思惑通り、コールレート、国債金利は低下(場合によってはマイナス化)しています。


■今後の追加緩和に対する土壌作りというねらいが実は大きい?
 
さて昨年12月以降の日銀の政策を見ると、こうした強制的な貸出の増加よりも、さらなる金融緩和(QQE3)に向けた土壌整備という面が見えてきます。

日銀の買いオペは新規分80兆円、償還分40兆円の約120兆円で、これは政府の年度ベースの市中発行額にほぼ相当します(短期国債を除く)。つまり国債は日銀が買い尽くして2016年度に新規に市中に出回る国債は事実上ほとんどなく、国債は品薄状態ということになります(この点から見てもすぐに追加緩和を行えない状態であったともいえます)。

よって、まずは昨年12月の補完措置で日銀が購入する国債の残存期間(償還までの期間)の対象を広げる(中短期債から長期債までに拡大)ことで買いオペの余地を確保し、そして今後の追加緩和の効果(マネーストックの伸び拡大)の効果を高めるためにマイナス金利を導入したと考えることができます。

今回のマイナス金利は、今後、民間銀行が日銀に預けるものに対してであり、今後、日銀が追加の買いオペを行って銀行に資金を提供しても、日銀当座預金口座へのブタ積みではなく、マネーストックとして廻るように仕向けるものであり、今のうちに実質金利を下げておくことで、さらなる量的緩和の効果を高めるための環境を整備しておくというねらいがあると考えられます。


今回のマイナス金利が黒田バズーカ第3弾という捉える報道もありますが、以上を踏まえれば正しくはないと言えます。これは、日銀が今回の措置をマイナス金利付き量的・質的金融緩和と称していることからも確認できます。

アメリカでの量的金融緩和は2008年から2012年にかけて3回実施しています。日銀としても今度の追加緩和が正念場であると認識して、そのための準備を着々と進めているように思われます。


注1:
債券価格と金利との関係は、回を改めて取り上げたいと思います。
注2:
原則的に各企業への貸出金利や各企業の発行する社債金利・株式配当は、安全資産である国債の金利にそれぞれの企業のリスクに応じたプレミアム(リスク・プレミアム)が加算される形で決まります。

【参考】
日本銀行/(2016 年 1 月 28、29 日開催分「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の概要・(参考)本日の決定のポイント・金融政策決定会合における主な意見
現代ビジネス/株価大暴落!日銀「マイナス金利」導入は裏目に出たのか?/安達誠司
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No title

金利についての先生のコメントを読んでいると昔々
シンガポールで2年ほどマネーディーラーをやっていたことを
思い出します。当時は アメリカの30年債トレジャリーボンドの
売買取引、シンガポール取引所の金利取引、ロンドン、
アメリカの金利取引と 円金利、円とドルのスワップ取引などなど24時間目が回るように、金利に関連する
画面をロイターやテレレートの画面をいくつかみながら
買ったり売ったり大損したり得したりするアウトライトの
トレーディング(ギャンブルに近いです)や裁定取引で
一回の取引で数億もうけたり損したりなど やくざなことをやっていたことを思い出します。先生のようなしっかりした理論をもたず
日銀の介入、FRBの動き 大手投資家の動き、経済指標の発表など 聞きながら瞬時の個人判断で ポジションを
つくって銀行の収益拡大に日々身をけずっていたことを思い出します。このように市場にはいろいろな関係者が存在しており
その動きの総和としてマーケットが動きます といっても
マーケットはあまりに大きいので その動きを
マクロ、ミクロでみながら いろいろな関係者が利害関係取引をしているのでしょうね。金利の動きの裏にはそうした
金利を対象とした投機者、裁定者がいることも
知っておいていただきたいと思いました。
と どうでもよいミクロレベルのコメントでした。

No title

おはようございます。

あるテレビ番組で「エコノミストで金持ちはいない」といっているコメンテイターがいました。

この人みたいに証券アナリスト(あるいはトレーダー)とエコノミストはごっちゃになっているところがありますが、両者はまったく別のタイプの人種だと思うんですよね。
エコノミストは政策的な提言が商売ですから、資産価格の短期的な動き、たとえば年初からの株価の低迷や円高傾向は上手く説明できず、「たまたま確率的に低いことが起きた」というような捉え方をする傾向があると思います。

それと、あとから見て政策的な評価をする立場と日々トレードする立場では見方が違うというところでしょうか。
結局、根っこはアメリカの利上げだとか。

それにしても原田さんはいろいろなご経験をなさっていますね。
当時のお話もお聞かせ頂ければ幸いです。
プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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