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交渉の前のひと呼吸

ここしばらくシャープと鴻海(ホンハイ)精密工業および産業革新機構との買収交渉が報道されています。シャープはどちらに買収されるべきかの議論が多いようですが、交渉術という点ではホンハイはなかなかの交渉巧者という感があります。
今回から数回にかけて久しぶりに交渉術について取り上げます。
最初に交渉の必要性を感じたら、次のことを考えてみましょう。


■交渉するべきか

場合によっては、交渉をしないほうがよい場合もあります。

たとえば相手と交渉することで、人間関係を損なってしまう場合です。たとえば、かねてから欲しいと思っていたアンティーク・カーを、叔父さんが格安で譲ってくれるというオファーがあったとします。値切ろうとすれば、相手の心証を損ない、せっかくの申し出がおじゃんになるかもしれません。

また交渉で不本意な結果になると、自分の評判が著しく損なうといった場合もあるでしょう。


■タイミングは今か

しばらく時間をおいたほうが自分にとって交渉を有利にできる場合があります。

昨年の春頃にAIIB(アジアインフラ投資銀行)に日本が参加すべきかどうかということが話題になりました。

AIIBは中国が50%以上を出資し、融資案件の議決権を握ることになるので、ガバナンスに問題があるとの指摘がある一方で、イギリスやドイツなどが参加を表明したことから「日本もバスに乗り遅れるな」との論調が多く見られました。

しかしながら日米が出資を見合わせたことから、AIIBの発行する債券は無格付けという事態になり、さらに資金の調達金利(中国の国債に準じて決まると予想される)もアジア開発銀行(ADB)よりも割高になることが予想されます。

今のところAIIBへの参加を見合わせたことで、日本は今後の(調達金利を下げるためにどうしても日米に参加して欲しい)中国(あるいはAIIB)との交渉に対して力を得たと考えることができます。


■どの程度の力を入れるか

自らにとって是が非でもまとめたい案件とそうでもない案件があり、前者についてはできる限りのオファーをすべきでしょうが、場合によっては後者についても交渉の過程において冷静さを失い予期せぬ出費をしてしまうことがあります。

これは勝者の呪い(競売において、落札額が商品の評価額以上に吊り上がってしまい、結果的に落札者が損をすること)と呼ばれます。たとえばある企業の買収を2社で争っているとします。買収提案を応酬しているうちに買収金額が跳ね上がってしまい、買収に成功してもとても採算が合わないという結果になってしまうことが多く見られます。

交渉に没入してしまい妥結に急いで当初の予定を超える犠牲を払ってしまうことがあります。それを避けるためには、事前にどこまでのオファーをするかを決めておき、交渉中も立ち返る冷静さが求められます。「最初にこの価格(条件)が提示されたなら受けるだろうか?」を考えてみるとよいでしょう。


【参考】
『交渉は創造である』マイケル ウィーラー著 文藝春秋
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No title

またまた楽しみなテーマですね。
いろいろな交渉で感じますが
間が重要なケースが多いかもしれませんね
話の間がこわくてこちらからしゃべってしまうと
先方に有利な情報を提供してしまったりしますね。
間をおそれず だまっていると先方から当方が
活用できる交渉ポイントのヒントをしゃべりだすと
いうことが多くありますね。交渉で当方にとって
一番強いのはこの取引が成約しなくても
ほかに選択肢がある場合ですね。選択肢が
ない場合は 交渉の展開 苦労することが多いですね。
ポーカーフェースというのも大切ですね。(私には
できませんが)

あまり関係ありませんが、昔 米国の大手インベストメントバンクと 共同出資のl資産運用会社を日本でつくる交渉を半年くらい
したことがありますが、先方のトップは 本当に
交渉上手で ある交渉の場面で先方に不利な判断をせまられたとき、突然バカンスを1週間とって
行方をくらましたり などなどあらゆる交渉テクニックを
使っていました。また 本件と関係ありませんが
新会社設立の内容についての交渉はもちろん
どんな場合にどんな条件になったら提携関係を解消するかという 解消の内容を深く交渉対象としており
(当方は設立に関心はありましたが将来あるかないかわからない解消の条件には関心がないなか) めでたく設立後の何年かあとに当方側の都合の変化(銀行の合併)がおこり結果その 解消事由に
相当し 先方に交渉できめていた多額の違約金をはらって
解消したのも 先方の短期のみならず中長期をにらんだ
戦略および交渉術だと 反省させられたのを思い出します。と
いつものように脈絡のない雑談でした。

No title

こんばんは。
いつもながら実地に基づくご経験をお聞かせいただき、所詮本からパクっている(ゆえに一般教養なわけですが)私ごときでは望むべくもない深いご洞察に感じ入ります。

交渉術の基本は「とにかく相手にしゃべらせろ」ということになっていますね。
それと「取引が成約しなかった場合の代替案」にはBATNAという名称が付いてまして、何回か後に取り上げるつもりです。
ご指摘のとおりで、これがあるかないかでほぼ決まりかと。

交渉術のテキストでは、「WIN-WINを目指せ」ということなのですが、まあ、これはある意味理想論で、心理戦を用いたパワーゲームの面は否定できないですねえ。

ホンハイとシャープもそんな感じですし、少し広げて外交という面でみても自国の利益優先が鉄則ですしね。
そう見るとなかなか安倍政権は上手に感じます。

論理+心理戦(権力)+ゲーム理論の要素が絡んでいるところが交渉術の面白いところだと感じています。




プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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