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交渉と公平感①

前回の「シャープの買収交渉を考える」をブログで上げたのが24日でしたが、翌25日、大筋合意がなされたとのシャープの発表がありました。さかんに報道されていますので多くの方はご存知かと思いますが、まずはその内容から見ていきたいと思います。


■シャープの買収交渉が大筋合意に

シャープの発表によれば、合意内容は、鴻海(ホンハイ)精密工業からの出資額を当初の4890億円より1000億円減らす、シャープの主力銀行は、3月末に期限を迎える融資枠5100億円について、借り換えに応じる、鴻海がシャープに支払う保証金1000億円は予定通り拠出するというものです。

出資額だけ着目すると、偶発債務の存在を問題視した鴻海は最大2000億円規模の減額を要求して話し合いが難航していたようですが、最終的には半分の1000億円程度の減額で折り合った形になります。

前回触れたように交渉全体の過程で見ると、シャープはあまり上手な交渉をしているとは思えませんが、ここ1ヶ月に期間を絞って考えると、シャープ、鴻海とも担当者はまずまず公平な妥結と考えているのかもしれません。

今回は交渉と公平感について考えていきたいと思います。公平感については興味深い実験があります。


■もし「千円くれる」と言われたらどうする?

話が変わりますが、みなさんは、人から「千円くれる」と言われたらどうしますか。もし何か裏がなければ、普通は喜んでもらうと思います。

ただし場合によっては自らもらわないことを選択するケースもあります。次のお金の分配案を考えてみましょう。

ある人物Xがいて、AとBの2人を前に1万円を提供しようと提案したとします。ただし条件があり、最初にAがその分配額を提示し、Bはそれを受け入れればAとBの双方にそれぞれ分配金が渡されます。たとえばAが「Aに6千円、Bには4千円」という分配案を提示して、Bが受け入れれば、Aは6千円、Bは4千円を得るということです。しかしながら、Bがそれを受け入れなければAもBも何ももらえません。


■相手にいくらを提示するか?

ではあなたがAであったら、いくらの額をBに提示するでしょうか。もしAが合理的であったら、「Aには9千円、Bには1千円」といったAにとってかなり有利な案を提示するはずです。なぜなら不公平でもBは1千円でももらったほうが、その案を受け入れずに何ももらえないよりはマシであり、受け入れるはずだからです。「Aには9千9百円、Bには百円」という案でもBは受け入れるほうが合理的です。

一方、あなたがBであったら、Aのこの案を受け入れるでしょうか。たぶん受け入れないでしょう。何せAが多くもらう理由はどこにもないのですから。したがって結果的に2人とも何ももらえない公算が大になります。

では、交渉をまとめてお互いがお金を手にするには、いくらの額を提示するとよいでしょうか。おそらく多くの人は半々の提案をするのではないでしょうか。これについては米国の大学などで30名程度の学生を対象に数多くの実験がされてきましたが、相手への提示額は全体の5割が最も多く、提示額が2割未満であると半分の確率で相手が拒絶するようです。

このケースでは、交渉は1回だけとしましたが、通常、交渉は話し合いを重ねます。よって、Bが分配案を拒絶したらAは交渉を打ち切る以外に再提案ができるとします。

この場合、2回目以降の提案ではBは有利な立場になります。先ほど1回だけの再提案がない場合にAが考えたように、Bは「交渉決裂で何も得られないより妥協してでも何か得たほうがマシだとAは考えるはず」と推察するからです。その結果、AはBが合意するまで妥協を繰り返し、Bがほとんどを得るような分配案を提示するようになるかもしれません。

しかしながらBが不公平な提案を受け入れなかったように今度はAもBに利益が大幅に偏る案には納得しないでしょう。そうなるとAが再提案できても結局落ち着くのは半々という公平な分配案になります。

かなり回りくどくなりましたが、ここひと月間のシャープと鴻海の交渉も、出資額については「決裂して互いに何も得ないか」「それとも妥協して何かを得るか」という点ではこのお金の分配案と同じ構造と言えるでしょう。
(つづく)

【参考】
『戦略的思考をどう実践するか エール大学式ゲーム理論の活用法』A・ディキシット、B・ネイルバフ著 阪急コミュニケーションズ
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今回の実例を使い交渉のさまざまな側面を色々解説いただき大変勉強になりました
全くことなる観点ですが
交渉にかかわる人数 意志決定に関わる
人数 意志決定までのスピード
一枚岩
などの観点で台湾側は意志決定者なトップがすべてしきつているようにみえそな点で利害関係人の多いシャープ 銀行 など
相手の思うまま仕切られてしまつたようにもみえますね 法務の授業が終わり電車の中よりいつもの雑談でした

No title

講義お疲れ様でした。

コメントありがとうございます。

確かにご指摘のとおりの印象を私も持っています。
ホンハイの提案を信じるわけでないものの、いろいろ錯綜する利害の中での苦渋の決断といったところなのでしょう。

少なくともありがちな「経営者が保身を図ったから(まあそういう幹部もいたかもしれませんが)」という単純な理由ではないことは明らかでしょうね。

さりとてホンハイがまともに条件を履行するようにも思えないのですが・・・。
プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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