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勝者の呪い①

「まずまずの企業をすばらしい価格で買うより、すばらしい企業をまずまずの価格で買うほうがはるかに良い。」ウォーレン・バフェット(投資家)

本ブログの「シャープの買収交渉を考える」で触れたように、交渉では動学的分析(「ある行動の結果、次にはどうなるか」といったように先々の影響を見越した分析)を行う必要があります。これについては、ゲーム理論の知見を活かすことができます。

※交渉術をトレーニングするためには合わせてゲーム理論の基本書を読んでおいたほうがよいです。

今回は頭の体操を兼ねて、「どうすれば適正な買収価格を提示できるか(過剰な買収額を提示せず済むか)について考えてみましょう。

<ケース>

現在、あなたは電機メーカーS社の買収を検討している。あなたは1代で町工場から世界的な大企業まで育て上げたカリスマ経営者であり、あなたの力量をもってすれば、S社の企業価値を1.5倍に高められる。

しかしながら現在のS社の企業価値は分からず、ファイナンシャル・アドバイザーによれば200億円から1200億円(平均700億円)の間であると報告を受けている。一方、S社側は内部者として自身の企業価値を正しく把握している。

S社はあなたに買収金額を提示させ、その額が自分たちの想定する企業価値よりも上であれば買収に応じるが、下であれば拒否する。ただし、あなたの買収金額の提示は1回だけで、まとまらなければこの話はおしまいになる。

では、平均して収支がトントン(損はしない)となる最高の買収金額はいくらになるか?


<不適切な買収金額>

S社の企業価値は平均して700億円だから、買収すればその1.5倍の1050億円の企業価値になる。よって、1050億円の買収金額を提示すれば、収支はトントンになる。

この買収金額が不適切なのは、S社が買収金額を受け入れた場合を想定すると分かりやすいです。あなたが1050億円を提示してS社がそれに応じたとします。これは、あなたにとって、ある意味では不幸な知らせです。なぜなら、S社が応じたということは、S社の企業価値は、1050億円より上ではなく、200億円から1050億円(平均625億円)の間であることがはっきりしたからです。

よって、買収によって1.5倍の937.5億円(625億円×1.5)に企業価値を引き上げても、1050億円には及びません。1050億円は高すぎる買収金額です。


<正しい買収金額>

仮に買収金額をX(百億円)とします。もし買収金額が受け入れられたとすると、S社の企業価値は「2~X(百億円)」の間になり、平均すると「0.5×(2+X)」になります。買収によって、企業価値はその1.5倍の、1.5×「0.5×(2+X)」になります。よって、「収支がトントンの買収金額X」は「買収後の企業価値」とイコールとなり、次式のXを解くと「X=6」になります。

  X=1.5×[0.5×(2+X)]
  ∴X=6(百億円)

600億円の提示をS社が拒絶しても、それはそれであなたは少なくとも損はしません。一方、600億円より高い買収金額は、<不適切な買収金額>で行った計算を行うと、必ず割高(買収金額>将来の企業価値)になります。


【参考】
『戦略的思考をどう実践するか エール大学式ゲーム理論の活用法』A・ディキシット、B・ネイルバフ著 阪急コミュニケーションズ

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
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