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ヤバい交渉テクニック②(フット・イン・ザ・ドア)

前回のニブリング(おねだり)戦術とセットで用いられることがあるのがフット・イン・ザ・ドア戦術です。これはセールスの現場でよく見られる戦術です。

業者:こんにちは。簡単ですから、無料で軒先の雨どいを直させてもらっています。
あなた:ああ、そうですか。それではよろしくお願いします。
業者:あと、壁面のヒビが気になりますね。この程度なら1~2万円で直すことができますが、いかがですか?
あなた:じゃあ、お願いします。
業者:それから床下も念の為に調べてみたほうがいいと思いますけど、無料ですからこの際、ぜひ調べさせてください。
あなた:そうですか、それではお願いしようかな。
業者:どうも床下の湿気が多くて柱のカビがひどいですね。このままだと地震で倒壊する危険がありますね。そこで湿気取りの換気扇を付けてみてはどうかと思うんですが…。



■フット・イン・ザ・ドアとは?

フット・イン・ザ・ドア戦術とは、「最初に相手が取るに足らないと思えるような要求を意識的に提示し、小さなイエスを引き出す。その上で、徐々に大きな要求にエスカレートさせる」というものです。

訪問セールスマンがまず足をドアの内側に突っ込み、その後じわじわと中に入っていく様が語源です。

受け手からすると、最初の要求が小さいので思わず受け入れてしまい、その後、徐々に、そして次から次に、大きい要求を受けても、最初にイエスと言ってしまっているので、途中から断りにくくなるのです。

これは心理学で言うところの「コミットメントと一貫性の原則」を利用したものです。人は自身の行動、発言、態度、信念などに対して一貫したものとしたい(あるいは一貫していると見られたい)という心理が働きます。一度、「YES」と言ってしまったら、「YES」を通したいと思ってしまうものです。

フット・イン・ザ・ドア戦術はみなさんにもお馴染みだと思います。たとえば最初に環境問題へのアンケートに答えてもらい、承諾を得たあとに寄付を求めるといったケースです。アンケートで「環境問題は重要だ」とか「関心がある」などと答えてしまうと、後に寄付を求められても断りにくくなってしまいます。

無料お試しや試着は、フット・イン・ザ・ドア戦術の一種と考えてよいと思います。


■ローボーリング

フット・イン・ザ・ドア戦術と同じ手口としてローボーリング戦術というものがあります。これは最終的なコストよりも見かけ上は低い価格を提示することです。

たとえば本体価格は安いが消耗品や無くてはならない付属品の価格が高いといったケースで、マーケティングでは「キャプティヴ(虜)価格戦略」と呼ばれます。

また、ひどいケースになると、喜んで買うという決定を誘い出すための有利な条件を提示し、決定がなされてから契約が完了するまでの間に、もともとあった有利な購買条件を巧みに取り除いてしまうといったこともあります。

たとえば中古車ショップで相場が300万円の車が破格の250万円で売られていたとします。お客が喜んで買う旨をスタッフに伝えたところ、いざ支払いの段になって上司が出てきて「手違いで50万円安く表示してしまい大変申し訳ない。このままでは赤字なのでお売りできない」などと言い、「他の店と同じ価格なのだから300万円でどうか」と薦めます。買い手としては、一度買う気になってしまっているし、そんな安いわけないなと納得してしまい、結局、相場で買ってしまうというわけです。

ここまで悪質ではなくても、お目当ての商品が売り切れてしまって、ついそれほど欲しくなかった類似品を安くもないのに店のスタッフに薦められるがまま買ってしまうというのも同じ心理でしょう。


■フット・イン・ザ・ドアの対処法

さてフット・イン・ザ・ドア戦術に話を戻し、その対処法を考えてみましょう。これについてはもはや言うまでもないかもしれません。

まずは相手の出方を見て、フット・イン・ザ・ドア戦術ではないかと疑ってみることです。警戒感があれば、まずは引っかからないでしょう。後からよりも最初のほうが断りやすくなります。

頻繁に出くわす戦術ですから、いろいろ手立ては考えられると思います。たとえば「試してみませんか」と申し出があったら、最初に「手持ちのお金がないので今日は買わないけどよいか」などと言っておけばよいでしょう。

また途中で引っかかったことに気がついたとしたら、相手の要求を個別に冷静に評価することが求められますが、そのためには時間を改める(「あとで電話しますよ」)といった手立てを講じるのがよいと思います。「時間を遡って最初の時点でこのオファーがあったら乗るだろうか」考えてみましょう。

【参考】
『影響力の武器 第二版』ロバート・B・チャルディーニ著 誠信書房
『ハーバード×慶應流 交渉学入門』田村次朗著 中央公論新社
『ビジネス交渉と意思決定』印南一路著 日本経済新聞社
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今日は 次々と矢のように鋭いブログ
大変興味深く拝読しております
今回のテーマはビジネスのいろいろなシーンで無意識に展開されている交渉のテクニックをロジカルに解説整理しており大変勉強になります
正直が最高のポリシーたはいうもののはなしはそんな単純ではないですね
ブログの叡智をあたまにいれ日常な交渉にあたりたいと思います

No title

おはようございます。
コメントありがとうございます。

このあたりの交渉テクニックは相手が露骨にしかけてくれば分かりやすいので引っかかることも少ないですが、相手側が悪意なくやっているケースもあり、その場合ですと、ポケッとしていると乗せられてしまうことがありますね。

さて講義も中小が終わりひと段落な時期だと思います。
直前期にむけての鋭気を養って頂ければと思います。
プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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