ヤバい交渉テクニック③(グッドコップ・バッドコップ)
交渉相手のX社から、A氏とB氏の2人がやってきた。あなたが見積書を提示すると、突然A氏が怒り出した。
A氏:そんな金額払えるわけがないだろう!論外だよ、論外。この半額にしてくれ
ないととても発注はできないね!
あなたは驚いて二の句が継げなくなってしまった。しばらくの沈黙のあと、B氏が仲を取り持つように口を開いた。
B氏:Aさん、まあまあそう言わずに。彼にもお立場があるでしょうから。ただね、
価格が少しね。ここはこちらのほうも立ててもらって3割くらい安くしてもら
えると、上手く話がまとまるんですけどね。
■グッドコップ・バッドコップ戦術とは
これはグッドコップ・バッドコップ(良い警官・悪い警官)戦術と言われるものです。取調室で容疑者に対し、まずは鬼刑事が恫喝し、その後に人情派の刑事が宥めるように出てきて自白させるというシーンはドラマでもお馴染みですが、それを交渉に応用したものです。
複数の相手(A氏とB氏)の提案は事前に役割分担が決まった上での演技です。まず悪玉役が相手の提案を批判することで不安に陥れ、「自分のほうが悪いのでは」と思わせます。次に善玉役が相手に同情しつつ助け舟を出すようにして譲歩案を出します。相手は渡りに船とばかりにその譲歩案を受け入れることを真剣に検討するというわけです。
■グッドコップ・バッドコップ戦術への対処法
私も営業マン時代に何度かやられたことがあり、何も準備をしていないと結構対応するのが難しいです。グッドコップ・バッドコップ戦術の場合、通常は善玉に決定権があり、対処としては次のようなものが考えられるでしょう。
・善玉の提案が良く見えても、所詮は悪玉と組んだ演技であることを見抜く。
・悪玉の提案は無視し、善玉の提案が相手の真意であることを認識して客観的に評
価する。
・論理的に自分たちの提案が合理的であることを主張する姿勢を維持する。
・(可能であれば)相手の戦術の正当性に疑問を投げかける(「もしかしてお2人で
役割分担していないでしょうね?」)。見破られたと分かれば、演技の効果はなく
なる。
・心理的に追い詰められたら、中座したり持ち帰ったりすることで冷静になる機会
を持つ。
・2対1で不利な状況であれば、次回の交渉時にこちらも上司などを同席させ、対等な状況を作る。
さてグッドコップ・バッドコップ戦術は、通常は「複数の相手側は事前に役割分担が決まっている」ことを前提にしますが、そうではなく、その場の雰囲気で役割分担してしまっているということも十分ありえます。相方が強行ならもう一方は自然と穏健に振舞ってしまうことはよくあるでしょう。
この場合、当事者としては善玉・悪玉のどちらに決定権があるのかを見極める必要があり、決定権があるほうの主張だけに耳を傾け、説得に努めることになります。
■交渉は2人以上で臨む
このグッドコップ・バッドコップ戦術から得られる教訓としては、交渉や大きな買い物の場合は、1人ではなく、2人以上で臨んだほうがよいということです。片方が相手のペースに乗せられても、もう片方は冷静に対処できるでしょう。たとえば3人で交渉に臨んだ場合、1人が積極的に話し、1人が相手の聴取と観察に集中し、1人が計算を受け持つといったように役割分担をしておけば、相手の駆け引きテクニックに乗せられずに済み、かつ柔軟な交渉が可能になります。
【参考】
『ハーバード×慶應流 交渉学入門』田村次朗著 中央公論新社
『論理的思考と交渉のスキル』高杉尚孝著 光文社
『ビジネス交渉と意思決定』印南一路著 日本経済新聞社
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