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金融緩和と失業率との関係(フィリップス・カーブ)①

4月末に開かれた日銀金融政策決定会合で、大方の予想に反し追加の金融緩和が見送られました。これを受けて、本ブログでも「マイナス金利なのになぜ異常な円高が進むのか?②」で取り上げたように、円高・株安が進んでいます。

日本銀行の黒田総裁の会見を見ると、追加緩和を見送ったのは、2月以降のマイナス金利導入の効果を見極めるためとありますが、それ以外にもサミット前に海外からの円安誘導との批判を避けるため、失業率の見通しを見誤ったためとも言われています。

今回は金融緩和と失業率との關係について、フィリップス・カーブという図を使って確認したいと思います。


■フィリップス・カーブとは

フィリップス・カーブとは、縦軸に物価上昇率(インフレ率)と横軸に失業率を取ってその関係を見たものです。両者の関係をグラフにプロットし傾向線を引くと、下図のように右下がりになることが昔から知られていました。
フィリップス(基本)

基本的にインフレ率が高いのは需要が加熱している時で(好景気)失業率は低くなり(左上)、インフレ率が下がるのは需要不足の時で(不景気)失業率は高くなります(右下)。よって、その境目(図の中央)あたりが、景気の善し悪しの分岐点ということもできます。

もっとも1970年代のアメリカなどではインフレ率が高いにもかかわらず、不景気で失業率が高い状態(スタグフレーション)が続いたことがありましたが、日本の場合はほぼフィリップス・カーブどおりの傾向が見られます。


■フィリップス・カーブが右下がりになるのは?

フィリップス・カーブが右下がりになるのは、物価が上昇すれば実質賃金(名目賃金÷物価)が低下して労働力が割安になり、雇用が拡大するからであると一般的な経済学のテキストでは説明されます。

一方、物価は、1国全体でのモノの量と貨幣の量で決まります。モノの増加に対し貨幣量の増加が見合わなければ、相対的に多いモノの価格は下がりデフレになり、モノに対して相対的に貨幣量が多くなればインフレになります。そして貨幣の量を決めるのが中央銀行です。さらに貨幣量は為替にも影響を与えます。

以上を踏まえ、日本の状況に即してフィリップス・カーブが右下がりになる理由を考えると次のようになります。

・(世の中のお金の量が増えて)物価が上昇すれば実質金利(名目金利-期待インフレ率)が低下するとともに円安になる(注)。

・円安になれば輸出の拡大を見越して株価を押し上げる。

・株高によって消費が増加するとともに、今後の景気拡大を見越して設備投資が増加する(総需要の増加)。

・企業業績が好転し、雇用が拡大(失業率は低下)する。


逆にインフレ率がゼロを下回ってさらに下がり続けると(マイナスのインフレ率、つまりデフレ)、先と論理が逆になり雇用が縮小(失業率は拡大)します。

要は「中央銀行の金融緩和などでお金の量が増えると(物価の上昇を通じて)失業率が下がる」というわけです。


■完全雇用が実現していても失業は生じる

完全雇用とは、経済学では「現在の賃金水準の下で働きたい人たちが働けている状態のこと」を指します。

完全雇用と言っても全員が働けているわけではなく、どのような場合であっても失業者は存在します。

具体的には産業構造の変化により生じる構造的失業、地域間・産業間における労働力移動がスムースに行われないことで一時的に生じる摩擦的失業などの不可避的な失業が該当します。構造的失業や摩擦的失業は景気循環にかかわらず不可避的に存在しますから、その割合をまとめて構造失業率(完全雇用時の失業率)と言います。


■構造失業率が意味するもの

構造失業率は、完全雇用時の失業率ですから、いわば失業率の底になります(政策的に構造失業率以下の失業率にすることは難しい)。

構造失業率に達したということは完全雇用が実現したということですから、人手不足感が顕著になり始めることになります。よって実質賃金が上昇し、さらに雇用環境の改善により国内消費が増えることで物価が急激に上昇することになります。

急激に物価が上昇するといっても20%とか30%といったことではなく、2%から4%という程度の好況期にはごく普通に見られる水準の上昇が始まるということです。

いわば構造失業率に達するかが景気浮揚ための転換点になるわけです。
(つづく)


注)円ドルで考えた場合、日銀の量的緩和で円が増えれば「相対的に量が少ないものは価格が上がり、多いものは価格が下がる」という原則から、円安ドル高になります。

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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