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金融緩和と失業率との関係(フィリップス・カーブ)②

前回見たように、量的金融緩和政策を行って物価が上昇すると失業率が下がるという関係(フィリップス・カーブ)が成立します。
フィリップス日本


■日銀の金融緩和は失業率を下げたのか?

日銀の量的・質的金融緩和以降、完全失業率は4.0%(2013年)、3.6%(2014年)、3.4%(2015年)と改善しており、就業者数は3月時点で6339万人、16か月連続の増加で、民主党政権末期より136万人増加しています。

実際に日銀の金融緩和は、雇用環境においては効果があったことが確認できます。



■日本の構造失業率は何%なのか?

前回触れたように構造失業率(完全雇用時の失業率でいわば失業率の底)は、それに達すると実質賃金や物価が上昇し消費が拡大するため、景気浮揚のための転換点になります。

では構造失業率とは具体的には何%なのでしょうか。国によって構造失業率は異なりますし、景気状況によっても変化することから識者によって分析が分かれます。

日銀の展望リポートでは、「構造失業率(完全雇用時の失業率)は3%台前半となる」と書かれています。また前回の日銀の金融政策決定会合後の「経済・物価情勢の展望」を見ると「労働需給の引き締まりは続いており」「失業率は構造失業率近傍である3%台前半で推移している」とあり、日銀では現在の完全失業率3.2%(3月)付近を日本の自然失業率(失業率の底)と考えているようです。

一方、経済学者の高橋洋一氏(嘉悦大学教授、元内閣参事官)は2.7%、エコノミストの片岡剛士氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)は2.8%と推計しており、日銀の認識と異なっています。

現在、あまり物価や実質賃金が上昇していないことを見ると、失業率の底は日銀の想定よりも低いと考えたほうが妥当と思えます。


■日銀は失業率の底を見誤ったのか?!

繰り返しになりますが、失業率の底に達すると、人手不足感が出ますから労働者の実質賃金が上がります。そうなると、その分消費が増えるので、景気にはプラスに作用し物価も上昇傾向が強くなります。

本当は失業率がもっと下がるはずなのに日銀が既に失業率は限界まで下がったと考え、これ以上の金融緩和を見送ったならば、大きなミスをしたかもしれません。実質賃金も消費も物価も上昇しなくなるからです。もちろん日銀のインフレ率目標の2%も実現から遠のいてしまいます。

前述の片岡氏は2%のインフレ率を達成するためには、失業率を2.5%程度にする必要があると推計しており、そのためには追加の金融緩和によってまずは真の構造失業率に達する必要があります。



■「金融緩和しても実質賃金が上がらない」は見当違い

少し前まで、よくマスコミや野党から「金融緩和しても実質賃金が上がっていないではないか?」と批判の声が上がっていましたが、フィリップス・カーブを理解していればまったくの見当違いであることが分かります。

これまで見てきたように構造失業率に近づくまではなかなか実質賃金は上がらないからです。また雇用拡大期にまず初めに雇用されるのは新卒者や非正規社員といった相対的に賃金が低い層です。就業者全体に占める相対的に賃金が低い労働者の割合が増えれば、平均の実質賃金水準は低下します。

一方、正規雇用の賃金は春闘など限られた機会にしか上がりませんから、物価の上昇に対してなかなか名目賃金が上がらない(よって名目賃金を物価水準で割った値である実質賃金も上がらない)ことは初めから予想ができました。

ちなみに実質賃金が上昇するのが遅れたのは、アベノミクスの効果でこれまで求職活動をしていなかった層が予期した以上に多く労働市場に流れ込んだからという面もあります。労働供給が増加すれば実質賃金は上がりにくくなります。

しかしながら実際に失業率が構造失業率に近づいた今年の2月になると、実質賃金は上昇に転じています。


■本来、金融緩和は左派政権の基本ポリシー

ヨーロッパの左派政権では、金融政策が雇用環境の改善に極めて効果があることから、金融緩和が基本ポリシーとなっています。またアメリカの中央銀行に当たるFRBの現在のジャネット・イエレン議長が労働経済学の専門家であることはなにも偶然ではありません。

翻って日本の左派政党が日本銀行の金融緩和におしなべて否定的であることは世界標準からしても奇異であり、安倍政権のほうが遥かに左派的な政策を採っていると言われてもしかたがありません。


【参考】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング/片岡剛士レポート/回復ペースは強まるか? 2015年後半の日本経済http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/kataoka_column/kataoka150810.pdf
ダイヤモンドオンライン/高橋洋一の俗論を撃つ/賃金が上昇するのはGDPギャップ解消の半年後(2015年3月5日) http://diamond.jp/articles/-/67856
SYNODOS/2015年の日本経済と経済政策を振り返る/片岡剛士/計量経済学(2015.12.30)http://synodos.jp/economy/15846
総務省統計局 労働力調査(基本集計) 平成28年(2016年)3月分
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/
日本銀行/金融政策決定会合/「経済・物価情勢の展望」(2016年4月28日)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1604b.pdf


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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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