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政党の経済政策への理解度をみるには(金融政策と労働市場)①

7月10日の参院選挙に向けて、与野党間の論戦が激しくなっています。党首討論や政見放送を見ると、アベノミクスの成果についての議論が中心になっているようです。

与党側としては旧民主党時代と比べて就業者数が110万人増加(旧民主党時代は30万人減少)、有効求人倍率は1.25倍で1992年1月以来、23年ぶりの高水準(旧民主党政権末期は0.82)と実績をアピールしています。

一方、野党側(民進党・共産党・社民党・生活の党)は実質賃金が上がっていないこと、就業者数の増加は正規雇用ではなく非正規雇用が中心であることを非難しています。


ちなみに実質賃金は2015年度まで4年連続で低下し、今年の2月から上昇に転じていますが、旧民主党政権下のほうが確かに高いです。正規雇用者数の推移を見ると、第二次安倍政権以降減少に転じ、その後、上昇が見られたものの、2016年度1~3月期での比較では2万人程度減少をしています。

野党側の主張は「非正規雇用が増えているだけで実態を伴っていない」「実質賃金がほとんど伸びていない」ことを理由に「アベノミクスは失敗」と主張していますが、これは妥当な見解でしょうか?


■就業者数を伸ばすためにはまずは金融緩和

まず「金融緩和と失業率との関係(フィリップス・カーブ)①」で見たように、インフレ率と失業率(就業者数)との間には負の相関があり、物価が上昇するほど失業率は低下(就業者数は増加)します。そして物価上昇に影響を与えるのが金融政策です。

ご存知のとおり2013年度4月以降、黒田日銀は量的・質的金融緩和を実施していますから、失業率が下がることは自然なことです。一方、旧民主党政権下ではほとんど金融緩和は行われていませんから、就業者数の伸びは期待できませんでした。


■原因は景気の先行きへの不安

実質賃金が伸びないことと正規雇用が拡大しないことは表裏一体です。

金融緩和を行っても企業側が今後の景気に楽観的でなければ正規雇用は増やそうとはしません。アベノミクスによって2013年度のように多少景気が良くなっても、それが続くと予想しなければ、固定費の上昇につながる正規雇用の増加は避け、まずは非正規雇用で代替しようと考えるでしょう。

相対的に賃金水準が低い非正規雇用が増えれば、労働者全体の平均賃金水準は下がるのが当然です。そもそも正規雇用の基本給が上がるタイミングは年に1回、春闘の時期しかありませんから、正規雇用の賃金はあがりにくいという背景もあります。

雇用条件の良い正規雇用が拡大したり賃金が上がったりするのは、人手不足感が強まったときです。「金融緩和と失業率との関係(フィリップス・カーブ)②」で見たように、確かに失業率は改善しているものの、いまだ構造失業率(これ以上は低下しない失業率)には達しておらず、まだ人手不足感はそれほど出ていないと考えられ、その結果、正規雇用が拡大せず賃金が上昇しにくくなっていると言えます。

このことと関係しますが、GDPギャップ(潜在総供給力と実際の総需要の差)が生じている場合、つまり超過供給(需要不足)の場合は、人手不足感がありませんから、賃金は上昇しにくくなります。
日本の場合、現在、10兆円程度のGDPギャップが存在しますから、賃金はいまだ上がりにくい状況と言えます。

逆に企業が今後の景気に楽観的になったり、GDPギャップが縮小したりすれば、どの企業も採用を拡大し人手不足感が出てきます。そうなると企業側は雇用条件を良くしなければ人材を確保できなくなりますから、より条件の良い正規雇用を拡大させたり実質賃金が上がったりするようになるでしょう。


■旧民主党時代にも完全失業率は低下している!?

第二次安倍政権下で「完全失業率が4.3%から3.2%に低下している(1.1%の改善)」との指摘に対し、「旧民主党政権でも失業率が同程度改善している(5.4%から4.3%に低下)ではないか」との批判があります。結論から言うと、旧民主党政権で失業率が改善したのは、ある種の数字のマジックです。内閣府などで公表されている完全失業率の要因分解からこのような批判について検証してみましょう。

完全失業率は「完全失業者数÷労働力人口(%)」で求められます。完全失業者とは簡単に言えば求職活動をしているがいまだ職を得ていない人です。労働力人口とは、15歳以上で、労働する能力と意思をもつ人のことです。

旧民主党政権時には、景気悪化により就業者数が減少し失業者が増えましたが、その失業者が一定期間を経て労働市場から退出し非労働力人口(働く意思がない人)が増加しました。ざっくり言うと完全失業率の分子の完全失業者数(求職者)が減少したことで、完全失業率が上昇したと考えられます。

一方、第二次安倍政権下での完全失業率は景気の改善が進むことで職を求める人々が新たに労働市場に参入し、さらに就業者数が増えたことで生じています。


就職を諦めた人が増えた結果、失業率が下がるのと、就業者が増えた結果、失業率が下がるのとでは、どっちが良いかは明らかでしょう。

ちなみにこのような就職を諦めた人たちの労働市場への参加は日銀でも想定外であったのが、構造失業率を高めに見誤った理由とも考えられます。
(つづく)

【参考】
総務省統計局/労働力調査(詳細集計)/平成28年(2016年)1~3月期平均(速報)
内閣府HP/地域の経済2013/完全失業率の要因分解
SYNODOS/ 2015.12.30 Wed/2015年の日本経済と経済政策を振り返る/片岡剛士

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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